説明

難吸収性薬物含有複合粒子

【課題】 種々形態で投与可能であり、難吸収性薬物の吸収性改善を可能とする微細粒子製剤を提供する。
【解決手段】 平均粒子径が0.01〜2.0μmの難吸収性薬物、および水溶性賦形剤を含有する平均粒子径が0.5〜50μmである複合粒子。本発明の複合粒子は、付着凝集性等の問題を有する難吸収性薬物をナノ粒子の状態で投与できるため、難吸収性薬物の吸収改善を図ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難吸収性薬物および水溶性賦形剤を含有してなる複合粒子に関する。さらに詳しく言えば、本発明は難溶性かつ難吸収性薬物を極めて微細なナノ粒子の状態で含有することにより、種々の投与形態での吸収性改善を可能とする微細複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年新たに開発される薬物は、難溶性や難吸収性の化合物が多い。そのため、難溶性薬物の溶解性および吸収性の改善が重要な課題となっている。
薬物の溶解速度は表面積の影響を受ける。難溶性薬物の溶解性を改善する方法としては、機械的力で薬物粒子を粉砕して微細化し、溶解に有効な表面積を増大させる方法が一般的に用いられる。
【0003】
平均粒子径が1000nm未満のナノサイズの微細粉末、すなわちナノ粒子は従来のミクロンサイズの微細粉末と比較して、比表面積が著しく大きく、表面活性も極めて高いため、薬物の溶解速度の向上が可能である。そのため、ナノ粒子化によって難溶性薬物の吸収性を増大させることができる。
【0004】
例えば、特開平4−295420号公報(特許文献1)には、粉砕媒体の存在下で湿式粉砕して、表面変性剤を難溶性薬物に吸着させて平均粒子サイズを400nm未満の微粒子にすることにより、溶解性を改善する方法が開示されている。また、特開平9−221502号公報(特許文献2)には、難溶性薬物、親水性高分子および溶解性改善助剤の三成分を水性溶媒の存在下粉砕する方法について述べられている。特開2004−99442号公報(特許文献3)には、難溶性薬物、水溶性高分子のポリビニルピロリドンおよび界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウムを機械的混合粉砕する方法により、水に分散したときに平均粒子径が数百nmの薬物粒子が形成されると述べられている。
【0005】
しかしながら、湿式粉砕のような機械的微粉砕した場合は、製造物が溶媒を含むペースト状や半練り状であるうえ、機械と粉体、機械部分同士の衝突による金属クズの混入が問題となることが多く、主に経口投与に限られる。さらに、ナノ粒子は表面積が大きいために凝集し易く、凝集を防ぐために界面活性剤などの添加が必要である。しかし、この粉砕したものを乾燥した場合、あるいは製剤中で乾燥した場合、この凝集を回避して分散させることは極めて困難である。
【0006】
特開2004−292398号公報(特許文献4)には、難水溶性物を含む液体と良水溶性物を含む液体とをそれぞれ液状微粒子の状態で噴霧して複合微粒子を生成後、溶媒を除去することにより、難水溶性物と良水溶性物の複合微細粉末を製造する方法が記載されているが、該微細粉末が実際にどのような作用を有するかについては、なんら記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平4−295420号公報
【特許文献2】特開平9−221502号公報
【特許文献3】特開2004−99442号公報
【特許文献4】特開2004−292398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、種々形態で投与可能であり、難吸収性薬物の吸収性改善を可能とする微細粒子製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行なった結果、驚くべきことに、4流体ノズル噴霧乾燥装置等を用いて、難吸収性薬物のナノ粒子を水溶性の賦形剤中に分散させた固体の複合粒子を調製することにより、難吸収性薬物の吸収性を改善できることを見出した。さらに、複合粒子における難吸収性薬物と水溶性賦形剤の質量比、複合粒子の平均粒子径および複合粒子内における難吸収性薬物の平均粒子径を適宜組み合わせることにより、さらなる吸収改善が可能であることも見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は
1. 平均粒子径が0.01〜2.0μmの難吸収性薬物、および水溶性賦形剤を含有する平均粒子径が0.5〜50μmである複合粒子、
2. 難吸収性薬物の平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmである前項1記載の複合粒子、
3. 難吸収性薬物と水溶性賦形剤の組成比が、難吸収性薬物1質量部に対して水溶性賦形剤2〜50質量部である前項1記載の複合粒子、
4. 水溶性賦形剤を含有しない対照組成物より少なくとも1.5倍高い吸収改善をもたらす前項1記載の複合粒子、
5. 噴霧乾燥物である前項1記載の複合粒子、
6. 4流体ノズル噴霧乾燥装置で製造される前項5記載の複合粒子、
7. 難吸収性薬物が難微粒子化薬物である前項1記載の複合粒子、
8. 水溶性賦形剤が糖アルコールである前項1記載の複合粒子、
9. 糖アルコールがマンニトール、キシリトール、ソルビトールおよびエリスリトールから選択される一種以上である前項8記載の複合粒子、
10. 難吸収性薬物がフルルビプロフェンであり、水溶性賦形剤がマンニトールである前項1記載の複合粒子、
11. フルルビプロフェンの平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmである前項10記載の複合粒子、
12. フルルビプロフェンとマンニトールの組成比が、フルルビプロフェン1質量部に対してマンニトール2〜12質量部である前項10記載の複合粒子、
13. 難吸収性薬物がプランルカスト水和物であり、水溶性賦形剤がマンニトールである前項1記載の複合粒子、
14. プランルカスト水和物の平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmである前項13記載の複合粒子、
15. プランルカストとマンニトールの組成比が、プランルカスト1質量部に対してマンニトール2〜12質量部である前項13記載の複合粒子、
16. 難吸収性薬物がリファンピシンであり、水溶性賦形剤がマンニトールである前項1記載の複合粒子、
17. リファンピシンの平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.5〜20μmである前項16記載の複合粒子、
18. リファンピシンとマンニトールの組成比が、リファンピシン1質量部に対してマンニトール2〜22質量部である前項16記載の複合粒子、
19. 前項1記載の複合粒子を含有する経口投与用製剤、経鼻投与用製剤、経肺投与用製剤または注射用製剤、
20. 平均粒子径が0.1〜0.8μmのフルルビプロフェン1質量部に対して、マンニトール2〜12質量部を含有することを特徴とする平均粒子径が1.0〜10μmである噴霧乾燥複合粒子、
21. 平均粒子径が0.1〜0.8μmのプランルカスト水和物1質量部に対してマンニトール2〜12質量部を含有することを特徴とする平均粒子径が1.8〜10μmである噴霧乾燥複合粒子、
22. 平均粒子径が0.1〜0.8μmのリファンピシン1質量部に対してマンニトール2〜22質量部を含有することを特徴とする平均粒子径が1.5〜10μmである噴霧乾燥複合粒子に関する。
【発明の効果】
【0011】
難吸収性薬物のナノ粒子を水溶性の賦形剤中に分散させた固体の複合粒子を調製することにより、難吸収性薬物の吸収性改善が可能となった。さらに、複合粒子における難吸収性薬物と水溶性賦形剤の質量比、複合粒子の平均粒子径および複合粒子内における難吸収性薬物の平均粒子径を適宜組み合わせることにより、さらなる吸収改善も可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いられる難吸収性薬物とは、例えば難溶性薬物や難微粒子化薬物等が挙げられる。
【0013】
本発明において難溶性薬物とは、例えば溶媒を水とした場合に第14改正日本薬局方通則の性状の項の溶解性において、「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」、「ほとんど溶けない」に相当する薬物をいう。すなわち固形の粉末1gを水中に入れ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶かすのに必要な水の量が100mL以上のものをいう。
【0014】
本発明において難微粒子化薬物とは、例えば付着凝集性が非常に強いため、微細化することが困難な薬物のことをいう。
難溶性薬物や難微粒子化薬物としては、特に限定はされないが、解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、鎮静薬、抗精神薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、偏頭痛治療薬、筋弛緩薬、抗アレルギー薬、強心薬、降圧薬、利尿薬、抗喘息薬、抗消化潰瘍薬、糖尿病治療薬、ホルモン薬、高脂血症・動脈硬化治療薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、免疫抑制薬、ざ瘡治療薬などが挙げられる。
【0015】
上記の解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬としては、エテンザミド、アセトアミノフェン、インドメタシン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプリフェン、ナプロキセン、セレコキシブなどが挙げられ、鎮静薬、抗精神薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、偏頭痛治療薬としては、ロラゼパム、ジアゼパム、グロマゼパム、フルニトラゼパム、ロフラゼプ酸エチル、ハロペリドール、ペルフェナジン、レセルピン、スルピリド、カルバマゼピン、フェニトイン、プリミドン、フェノバルビタール、オランザピン、セルトラリン、パロキセチン、エリトリプタンなどが挙げられ、筋弛緩薬としては、バクロフェン、フェンプロバメートなどが挙げられ、抗アレルギー薬としては、テルフェナジン、プランルカスト水和物などが挙げられ、強心薬としては、ジギトキシン、ジゴキシン、メチルジゴキシン、ラナトシドC、デスラノシド、プロシタラジン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ユビデカレノンなどが挙げられ、降圧薬としては、メチルドパ、レシナミンなどが挙げられ、利尿薬としては、フロセミド、アゾセミド、トラセミド、スピロノラクトン、トリアムテレン、アセタゾラミドなどが挙げられ、抗喘息薬としては、ツロブテロール、テオフィリン、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、プランルカスト水和物、ロラチジンなどが挙げられ、抗消化潰瘍薬としては、スクラルファート、シメチジン、ファモチジン、ニザチジンなどが挙げられ、糖尿病治療薬としては、トルブタミド、クロルプロパミド、アセトヘキサミド、トラザミド、グリベンクラミド、トログリタゾン、ピオグリタゾンなどが挙げられ、ホルモン剤としては、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロゲステロン、ジドロゲステロン、ノルエチステロン、メチルテストステロン、フルオキシメステロンなどが挙げられ、高脂血症・動脈硬化治療薬としては、アドルバスタチン、シンバスタチン、クロピドグレルなどが挙げられ、抗生物質としては、セフロキサジン、セフタジジム、セフィキシム、セフジニル、セフチブテン、セフジトレンピボキシル、アズトレオナム、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、キタサマイシン、ロキタマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、リファンピシン、イトラコナゾールなどが挙げられ、抗ウイルス薬としては、リトナビル、アムプレナビルなどが挙げられ、抗腫瘍薬としては、メルファラン、ブスルファン、メトトレキサート、メルカプトプリン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、ドキソルビシンなどが挙げられ、免疫抑制薬としては、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムスなどが挙げられ、ざ瘡治療薬としては、イソトレチノインなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。上記薬物は公知の方法で製造することができる。例えばプランルカスト水和物(4−オキソ−8−[4−(4−フェニルブトキシ)ベンゾイルアミノ]−2−(テトラゾール−5−イル)−4H−1−ベンゾピラン 1/2水和物)は特開昭61−050977号公報記載の方法に準じて製造することができる。
【0016】
本発明で用いられる水溶性賦形剤としては、生体の粘膜へ適用あるいは注射可能な医薬品添加剤であれば何でもよく、特に限定されないが、例えば、糖あるいは糖アルコール類等が挙げられ、具体的はグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどが、水溶性の多糖類としては、デンプン、デキストラン、シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0017】
本発明において、「対照組成物より少なくとも1.5倍高い吸収改善をもたらす」とは、例えば1)対照組成物の血漿中濃度下面積(AUC)より少なくとも1.5倍高いAUCをもたらす、2)対照組成物の生物学的利用能(BA)より少なくとも1.5倍高いBAをもたらす、または3)対照組成物の最高血中濃度(Cmax)より少なくとも1.5倍高いCmaxをもたらす等を意味する。本発明においては、上記1)〜3)のうち、少なくとも1つの条件を満たす複合粒子が好ましい。
【0018】
対照組成物とは、上記1)〜3)の試験に供する試験組成物(例えば、本発明の複合粒子、あるいは該複合粒子および他の製剤基剤を含有する製剤組成物)から水溶性賦形剤を除いたもの(水溶性賦形剤を含まない難吸収性薬物を含有してなる組成物、あるいは水溶性賦形剤を含まない難吸収性薬物および他の賦形剤からなる製剤組成物)を意味する。例えば、試験組成物が複合粒子の場合には、対照組成物は難吸収性薬物の原末を意味する。また、試験組成物が複合粒子および他の製剤基剤を含有する製剤組成物の場合には、対照組成物は難吸収性薬物および他の賦形剤からなる組成物を意味することとなる。対照組成物および試験組成物における各成分は当然同量含有されるものとする。なお、対照組成物に含まれる薬物は通常の製剤技術で可能な限り微粉化されているものが好ましい。
【0019】
本発明において、本発明の複合粒子を含有する経口投与用製剤、経鼻投与用製剤、経肺投与用製剤または注射用製剤には、本発明の効果を妨げないか、または本発明の効果が最小限に得られる限り、固形製剤を製造する際に一般的に使用される製剤基剤をさらに含んでいてもよい。例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、香料、着色剤、抗酸化剤、隠蔽剤、静電気防止剤、流動化剤、湿潤剤、溶出補助剤等を1種または2種以上適宜配合して用いることができる。
【0020】
賦形剤としては、例えば、糖類(例えば、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、還元乳糖、蔗糖、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、パラチノース、トレハロース、ソルビトール、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コムギデンプン、コメデンプン等)、結晶セルロース、無水ケイ酸、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、部分α化デンプン、α化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末、ゼラチン等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ、トウモロコシデンプン等が挙げられる。矯味剤としては、例えば、白糖、D−ソルビトール、キシリトール、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、グルタミン酸ナトリウム、5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。香料としては、例えば、レモン油、オレンジ油、メントール、はっか油等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、蔗糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール等が挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、食用黄色5号、食用青色2号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、L−システイン、亜硫酸ナトリウム、ビタミンE等が挙げられる。隠蔽剤としては、例えば、酸化チタン等が挙げられる。静電気防止剤としては、例えば、タルク、酸化チタン等が挙げられる。流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素等が挙げられる。湿潤剤としては、例えば、ポリソルベート80、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等が挙げられる。溶出補助剤としては、例えば、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等が挙げられる。
【0021】
4流体ノズル噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)とは、図1に4流体ノズル噴霧乾燥装置のノズルの模式図を示すように、ノズル(1)に2つの液体流路(2a,2b)と2つの気体流路(3a,3b)を有し、気体流路から出る圧縮空気(4)によってスプレー液(5)を流体流動面(6)で薄く引き伸ばし、4流体ノズルのエッジ先端の焦点(7)で生じる強い衝撃波によって微小ミスト(8)を生成させるスプレードライヤーである。
難吸収性薬物および水溶性の賦形剤中をそれぞれ溶媒に溶解し、4流体ノズルスプレードライヤーの2つの液体流路から別々に送液して2成分以上の複合粒子を調製する。
【0022】
スプレー液に用いられる溶媒は特に限定しないが、沸点がそれほど高くなく通常工業的に噴霧乾燥(スプレードライ)に用いられるものであり、目的の物質を溶解するものであればよく、例えば、水、アセトン、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、酢酸エチル、クロロホルム、ジオキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタンなどが用いられる。異なる流路からのスプレーには、同一の溶媒でも、異なる溶媒でも、互いに混じり合う溶媒でも、混じり合わない溶媒でもいいが、さらに微細なナノ粒子を得るには互いに混和する溶媒を用いる方が好ましい。その溶媒の組み合わせは、特に限定はされないが、例えば水とエタノール、水とアセトン、水とメタノール、水とメタノール・アセトン混液、エタノールとアセトン、エタノールとメタノール、メタノールとアセトン、メタノールと酢酸エチル、メタノールとジクロロメタンなどが好ましい。
【0023】
本発明の複合粒子を上記4流体ノズル噴霧乾燥装置で調製する場合、例えば1)液体流路および気体流路の入り口温度および出口温度、2)液体流路の送液速度、3)液体流路のスプレー空気流速およびスプレー圧、4)気体流路の乾燥空気流速、5)スプレー液に用いられる溶媒等を適宜調整して組み合わせることにより、本発明の複合粒子に含まれる難吸収性薬物の平均粒子径や複合粒子の平均粒子径等を調整することが可能である。
【0024】
本発明の複合粒子は、例えば次の特徴を有する。
難吸収性薬物の吸収性が改善された、難吸収性薬物および水溶性賦形剤を含有してなる複合粒子が得られ、難吸収性薬物および水溶性賦形剤の組成比(質量比)を変えることにより、難吸収性薬物をナノ粒子として分散した水溶性賦形剤(例えば、糖アルコール類)マイクロ粒子を調製することができる。
【0025】
ナノ粒子の薬物は表面付着性が極めて高く、これはナノ粒子同士の付着凝集を誘発する。この凝集により、一次粒子がナノサイズでも凝集によって実際上の溶解速度の向上が見られないことがある。難溶性薬物の溶解性を向上させることができても製剤化工程中か薬物を投与する際に、問題が生じることが考えられる。また、ナノ粒子は流動性が悪く、取り扱い性が非常に悪い。しかし、難溶性薬物のナノ粒子を水溶性賦形剤中に分散させたマイクロサイズの粒子を調製することで、微粒子の取り扱いが容易となる。
【0026】
本発明における複合粒子は、難溶性薬物をナノ粒子化することによって、経口投与時の難溶性薬物の消化管での溶解速度の増大による吸収速度、吸収率の向上が得られる。
【0027】
また、本発明の複合粒子の経肺投与においては、薬物のナノ粒子化によって吸収部位への薬物送達性や肺上皮細胞からの透過性を向上でき、吸収性を改善できる。また、経肺投与の場合、直接循環血液に薬物が吸収されるので、初回通過効果を回避できる。さらに、喘息治療薬等を経肺投与すれば、患部である気管支、細気管支へ直接薬物を送達可能であり、投与量の大幅な減少ができる。さらに他の臓器への薬物の移行性を抑えることができるため、副作用を低減できる。
【0028】
一方、本発明の複合粒子はナノ粒子化することによって用時分散して薬物を可溶化することなく皮下、筋肉内あるいは静脈投与が可能となり、注射用製剤としても適している。
【0029】
本発明において、1)複合粒子に含まれる難吸収性薬物の平均粒子径、2)複合粒子の平均粒子径、3)複合粒子における難吸収性薬物と水溶性賦形剤の組成比(質量比)、4)難吸収性薬物、5)水溶性賦形剤およびそれらの組み合わせは本発明の目的が達成される限りいかなるものも好ましい。より具体的には以下のものが挙げられる。
【0030】
複合粒子に含まれる難吸収性薬物の平均粒子径として好ましくは、0.01〜2.0μmであり、より好ましくは0.05〜1.0μmである。
複合粒子の平均粒子径として好ましくは、0.5〜50μmであり、より好ましくは1.0〜20μmである。
複合粒子における難吸収性薬物と水溶性賦形剤の組成比(質量比)として好ましくは、難吸収性薬物の質量を1とした場合の水溶性賦形剤の質量が2〜50であり、より好ましくは2〜30である。
【0031】
難吸収性薬物としては、好ましくはフルルビプロフェン、プランルカスト水和物、またはリファンピシンが挙げられる。
水溶性賦形剤として好ましくは、糖アルコールであり、より好ましくはマンニトール、キシリトール、ソルビトールまたはエリスリトールであり、さらに好ましくはマンニトールである。
【0032】
好ましい組み合わせとしては例えば以下のものが挙げられる。
難吸収性薬物がフルルビプロフェンであり、水溶性賦形剤がマンニトールであり、複合粒子に含まれるフルルビプロフェンの平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmであり、フルルビプロフェンの質量を1とした場合のマンニトールの質量が2〜20である組み合わせが好ましく、より好ましくは複合粒子に含まれるフルルビプロフェンの平均粒子径が0.1〜0.8μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜10μmであり、フルルビプロフェンの質量を1とした場合のマンニトールの質量が2〜12である組み合わせが挙げられる。
【0033】
上記フルルビプロフェン含有複合粒子を4流体ノズル噴霧乾燥装置で調製する場合、例えば液体流路および気体流路の入り口温度が50〜70℃であり、液体流路および気体流路の出口温度が20〜45℃であり、液体流路の送液速度が2〜8mL/分であり、液体流路のスプレー空気流速が25〜35L/分であり、液体流路のスプレー圧が5.0〜12.0kgf/cm2であり、気体流路の乾燥空気流速が0.5〜1.2m3/分であり、フルルビプロフェンのスプレー液に使用される溶媒がアセトンおよびメタノールの混液(混液比(容積比)としては例えば1:1)であり、マンニトールのスプレー液に使用される溶媒が水(例えば蒸留水等)である組み合わせが挙げられる。
【0034】
難吸収性薬物がプランルカスト水和物であり、水溶性賦形剤がマンニトールであり、複合粒子に含まれるプランルカスト水和物の平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmであり、プランルカスト水和物の質量を1とした場合のマンニトールの質量が2〜20である組み合わせが好ましく、より好ましくは複合粒子に含まれるプランルカスト水和物の平均粒子径が0.1〜0.8μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.8〜10μmであり、プランルカスト水和物の質量を1とした場合のマンニトールの質量が2〜12である組み合わせが挙げられる。
【0035】
上記プランルカスト水和物含有複合粒子を4流体ノズル噴霧乾燥装置で調製する場合、例えば液体流路および気体流路の入り口温度が80〜100℃であり、液体流路および気体流路の出口温度が30〜55℃であり、液体流路の送液速度が2〜8mL/分であり、液体流路のスプレー空気流速が25〜35L/分であり、液体流路のスプレー圧が5.0〜12.0kgf/cm2であり、気体流路の乾燥空気流速が0.5〜1.2m3/分であり、プランルカスト水和物のスプレー液に使用される溶媒が炭酸水素ナトリウム水溶液およびエタノールの混液(混液比(容積比)としては、例えば50mM炭酸水素ナトリウム水溶液:エタノール=1:1)であり、マンニトールのスプレー液に使用される溶媒が水(例えば蒸留水等)である組み合わせが挙げられる。
【0036】
難吸収性薬物がリファンピシンであり、水溶性賦形剤がマンニトールであり、複合粒子に含まれるリファンピシンの平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmであり、リファンピシンの質量を1とした場合のマンニトールの質量が2〜30である組み合わせが好ましく、より好ましくは複合粒子に含まれるリファンピシンの平均粒子径が0.1〜0.8μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.5〜10μmであり、リファンピシンの質量を1とした場合のマンニトールの質量が2〜22である組み合わせが挙げられる。
【0037】
上記リファンピシン含有複合粒子を4流体ノズル噴霧乾燥装置で調製する場合、例えば液体流路および気体流路の入り口温度が30〜50℃であり、液体流路および気体流路の出口温度が15〜40℃であり、液体流路の送液速度が2〜8mL/分であり、液体流路のスプレー空気流速が25〜35L/分であり、液体流路のスプレー圧が5.0〜12.0kgf/cm2であり、気体流路の乾燥空気流速が0.5〜1.2m3/分であり、リファンピシンのスプレー液に使用される溶媒がアセトンおよび酢酸エチルの混液(混液比(容積比)としては、例えば1:1)であり、マンニトールのスプレー液に使用される溶媒が水(例えば蒸留水等)である組み合わせが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明をよく理解するためのものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
実施例1:フルルビプロフェン含有複合粒子の製造
難溶性薬物のフルルビプロフェン(以下、FPと略記する。)4.17gあるいは0.84gをアセトン/メタノール(1/1)混液50mLに溶解して、8.34%(w/v)および1.68%(w/v)のスプレー溶液Aとし、水溶性糖アルコールのマンニトール(以下、MANと略記する。)8.4gを蒸留水50mLに溶解して、16.8%(w/v)のスプレー溶液Bとした。これらの溶液AおよびBを4流体ノズルの異なる2つの液路から別々に送液し、入り口温度60℃、出口温度26〜35℃、送液速度5mL/分、スプレー空気流速30L/分、スプレー圧8.0kgf/cm2、乾燥空気流速0.86m3/分で4流体ノズル噴霧乾燥装置(MDL−050、藤崎電気社製)により噴霧乾燥し、FP/MAN組成比(質量比)が1/2、1/10の処方の複合粒子を調製した。収量は約80%であった。FP原末の平均粒子径は1.3μm、FP/MAN組成比が1/2、1/10の処方の複合粒子の平均粒子径はそれぞれ、4.9μm、1.2μmの球形粒子であった。いずれのFP/MAN組成比の場合もFPはほぼ結晶状態で存在していた。
【0040】
実験例1:ラット経口投与における吸収性試験
FP相当量で2mg/kgのFP原末、実施例1で製造したFP/MAN組成比が1/2および1/10の複合粒子を9号ゼラチンカプセルにそれぞれ充填し、動物用経口投与器(TORPAC社製ゼラチンカプセル投与器、エルエスジー社製)を用いてSD系雄性ラット(8週齢、250〜300g)に経口投与した。投与後直ちに1mLの水をゾンデを用いて投与した。ラットは実験を行なう1日前から絶食した。頚動脈にカニュレーションし、ヘパリン添加シリンジを用いて経時的に約300〜400μLの血液を採取した。採取した血液を遠心分離し、血漿成分を分取した。この血漿50μLにエタノール200μLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌した後、遠心分離し、その上清150μLに400μLのエタノールを加えてボルテックスミキサーで十分に撹拌した後、遠心分離して血漿タンパク質を分離した。上清を分取して、遠心濃縮器で蒸発乾固し、得られた残渣を移動相200μLに溶解してFP濃度をHPLCで測定した。
【0041】
HPLCの分析条件は以下の通り;
機器:Hitachi製 L-7100 ポンプ、L-7400 UV検出器、D-7500 インテグレーター、L7300 カラムオーブン、
カラム:Mightysil RP-18 5μm、4.6×150mm、
移動相:アセトニトリル/水/酢酸(9/10/1)、
流速:1.0mL/分、
検出器:分光光度計、
波長:254nm、
カラム温度:40℃、
分析用試料:50μL。
【0042】
結果を図2および表1に示す。
図2はFP原末、およびFP/MAN組成比が1/2および1/10のFP/MAN複合粒子を経口投与した場合の、FPの血漿中濃度曲線である。FP原末と比較してFP/MAN複合粒子を投与した場合の方が、FPの吸収性が顕著に高いことが認められた。また、FP/MANの組成比が1/10の複合粒子が1/2のものに比して吸収性が高いことが認められた。表1に投与後8時間までの血漿中濃度下面積(以下、AUCと略記する。)(時間・μg/mL)を表す。FP/MAN組成比が1/10の複合粒子のAUCはFP原末の約4.6倍の値を示した。
以上のことから、FP/MANマイクロ複合粒子とすることで、FPの経口投与後の消化管吸収性が著しく改善できることが示された。
【表1】

【0043】
実施例2:プランルカスト水和物含有複合粒子の製造
難溶性薬物のプランルカスト水和物(以下、PLHと略記する。)0.42gを50mM炭酸水素ナトリウム水溶液/エタノール(1/1)混液50mLに溶解して、0.84%(w/v)のスプレー溶液Aとし、MAN1.68gあるいは4.20gをそれぞれ蒸留水50mLに溶解して、3.36%(w/v)および8.4%(w/v)のスプレー溶液Bとした。これらの溶液AおよびBを4流体ノズルの異なる2つの液路から別々に送液し、入り口温度90℃、出口温度40〜45℃、送液速度5mL/分、スプレー空気流速30L/分、スプレー圧8.0kgf/cm2、乾燥空気流速0.86m3/分で4流体噴霧乾燥装置(MDL−050、藤崎電気(株)製)により噴霧乾燥し、PLH/MAN組成比が1/4、1/10の処方の複合粒子を調製した。収量は約80%であった。調製した粒子は球形粒子であった(図3参照)。
PLHの原末の平均粒子径は、1.2μm、PLH/MAN組成比が1/4、1/10の処方の複合粒子の平均粒子径はそれぞれ、2.0μm、2.8μmであった。
超純水でPLHの飽和溶液を調製し、その中へPLH/MAN複合粒子を投入してMANを溶解させ、粒子中に分散するPLH粒子の粒子径を動的光散乱法で測定した結果、PLH/MAN組成比が1/4、1/10の処方の複合粒子中に分散するPLH粒子の平均粒子径はそれぞれ203nm、267nmであった。
【0044】
実験例2:ラット経口投与における吸収性試験
0.5w/v%カルボキシメチルセルロース水溶液にPLH原末、実施例2で製造したPLH/MAN組成比が1/4の複合粒子を懸濁させた。この懸濁液(PLH相当量150mg/kg)を、ゾンデを用いてSD系雄性ラット(8週齢、250〜300g)に経口投与した。ラットは実験を行なう1日前から絶食した。頚動脈にカニュレーションし、ヘパリン添加シリンジを用いて経時的に約300〜400μLの血液を採取した。採取した血液を遠心分離し、血漿成分を分取した。この血漿50μLにエタノール200μmLを加え、ボルテックスミキサーで十分に撹拌し、その上清150μLに400μLのエタノールを加えてボルテックスミキサーで十分に撹拌した後、遠心分離して血漿タンパク質を分離した。上清を分取して、遠心濃縮器で蒸発乾固し、得られた残渣を移動相200μLに溶解してPLH濃度をHPLCで測定した。
【0045】
HPLCの分析条件は以下の通り;
機器:Hitachi製 L-7100 ポンプ、L-7400 UV検出器、D-7500 インテグレーター、L7300 カラムオーブン、
カラム:Mightysil RP-18 5μm、4.6×150mm、
移動相:アセトニトリル/メタノール/0.02Mリン酸二水素カリウム(5/1/5)、
流速:1.0mL/分、
検出器:分光光度計、
波長:260nm、
カラム温度:25℃、
分析用試料:50μL。
【0046】
結果を図4および表2に示す。
図4はPLH原末、およびPLH/MAN組成比が1/4のPLH/MAN複合粒子を経口投与した場合のPLHの血漿中濃度曲線である。PLH原末と比較してPLH/MANの組成比が1/4の複合粒子を投与した場合の方が、PLHの吸収性が著しく高いことが認められた。PLH/MAN複合粒子では、投与後、2時間後も吸収が持続し、さらに吸収量が増大した。表2は投与後6時間までのAUC(時間・ng/mL)を表す。PLH/MAN複合粒子のAUCはPLH原末の約6倍の値を示した。
以上のことから、PLHナノ粒子が分散したPLH/MAN複合粒子とすることで、PLHの経口投与後の消化管吸収性が改善できることが示された。
【表2】

【0047】
実験例3:ラット経肺投与における吸収性試験
SD系雄性ラット(8週齢、250〜300g)に実験例2と同様に頚動脈に採血のためにカニュレーションした。気管にポリエチレンチューブを挿入し、動物用粉末吸入剤投与器(Model DP-4 insufflator、Penn Century社製)を用い、このチューブを介してPLH/MAN組成比が1/4および1/10の複合粒子を肺に投与した(PLH相当量約2.5mg/kg)。経時的に採血し、実験例2と同様の方法でPLHの血漿中濃度を定量した。
【0048】
結果を図5および表3に示す。
図5はPLH/MAN組成比が1/4および1/10のPLH/MAN複合粒子を経肺投与した場合の、PLHの血漿中濃度曲線である。PLH/MAN組成比が1/4および1/10のいずれの複合粒子の場合も速やかな吸収を示し、投与後8時間後も吸収が持続した。
表3に投与後6時間までの経肺投与時のAUC、およびPLH原末を経口投与した場合のPLH単位投与量(PLH1mg/ラット)当りのAUCに対するPLH/MAN組成比が1/4および1/10の複合粒子の経肺投与時のPLH単位投与量当りのAUCの比を示す。
【表3】

PLH/MAN複合粒子はPLH/MAN組成比が1/4および1/10のいずれの粒子の場合も、PLH単位投与量当りのAUCの比はPLH原末の経口投与に比べて100倍以上を示し、本発明のPLH/MAN複合粒子を経肺投与することにより、極めて高い吸収性を示すことが明らかとなった。
【0049】
実施例3:リファンピシン含有複合粒子の製造
難溶性薬物であり、抗結核薬のリファンピシン(以下RFPと略記する。)0.42gをアセトン/酢酸エチル(1/1)混液50mLに溶解して、0.84%(w/v)のスプレー溶液Aとし、MAN8.4gを蒸留水50mLに溶解して、16.8%(w/v)のスプレー溶液Bとした。これらの溶液AおよびBを4流体ノズルの異なる2つの液路から別々に送液し、入り口温度40℃、出口温度22〜30℃、送液速度5mL/分、スプレー空気流速30L/分、スプレー圧8.0kgf/cm2、乾燥空気流速0.86m3/分で4流体ノズル噴霧乾燥装置(MDL−050、藤崎電気(株)製)により噴霧乾燥し、RFP/MAN組成比が1/5、1/10、1/20の処方の複合粒子を調製した。収量は約80%であった。PLH/MAN組成比が1/5、1/10、1/20の処方の複合粒子の平均粒子径はそれぞれ、3.9μm、2.2μm、1.7μmであった。また、RFP原末の平均粒子径は1.6μmであった。
【0050】
実験例4(1):カスケードインパクター試験
インビトロにおける吸入特性をカスケードインパクター(Andersen社製、AN−200)によって評価した。吸入デバイスにはJethalerデュアルタイプ((株)日立製作所製)を用いた。カスケードインパクターはスロート(Throat)、プレセパレーター(Pre-separator)、0〜7までの8つのステージ(stage)からなり、各ステージには粒子を捕集する捕集板がある。この2〜7ステージに送達された薬物が人体では肺に送達される。RFP原末、および実施例3で製造したRFP/MAN組成比が1/5、1/10、1/20の処方の複合粒子を試料として用い、試料をヒドロキシプロピルセルロースカプセル(カプセル番号2、シオノギクオリカプス(株)製)に充填し、吸入デバイスに装填した。真空ポンプで空気流量28.3L/分で10秒間吸引し、カスケードインパクター内への吸入実験を行なった。吸入後、装置の各部分に送達された試料を蒸留水で採取し、分光光度計(Hitachi製 U−3210)を用いて波長254および333nmにおける吸光度を測定し、RFPを定量した。その結果を図6に示す。RFP原末は2〜7ステージへの薬物送達率は10%以下であった。RFP/MAN複合粒子はいずれの組成比の場合も著しく高い2〜7ステージへの薬物送達率を示し、RFP/MANの組成比が1/20の複合粒子では43%となった。
【0051】
実験例4(2):ラット経肺投与における吸収性試験
SD系雄性ラット(8週齢、250〜300g)に実験例1と同様に頚動脈に採血のためにカニュレーションした。気管にポリエチレンチューブを挿入し、動物用粉末吸入剤投与器(Model DP-4 insufflator、Penn Century社製)を用い、このチューブを介してRFP/MAN組成比が1/20の複合粒子を肺に投与した(RFP相当量約2.5mg/kg)。経時的に採血し、実験例1と同様の方法でRFPの血漿中濃度を定量した。
HPLCの分析条件は以下の通り;
機器:Hitachi製 L-7100 ポンプ、L-7400 UV検出器、D-7500 インテグレーター、L7300 カラムオーブン、
カラム:YMC-Oack C8 A-201 5μm、4.6×100mm、
移動相:キャリア原液/アセトニトリル(58/42)、
キャリア原液:KH2PO4 2.72g、H3PO4 0.125mL、
クエン酸 3.23g、
過塩素酸ナトリウム 1.08g/1000mL水、
流速:1.0mL/分、
検出器:分光光度計、
波長:260nm、
カラム温度:40℃、
分析用試料:50μL。
結果を図7に示す。
図7はRFP/MAN組成比が1/20のRFP/MAN複合粒子を経肺投与した場合の、PLHの血漿中濃度曲線である。
【0052】
上記実験例4(1)および4(2)の結果から明らかなように、肺からのRFPの吸収は非常に速やかであり、投与後15分で血漿中薬物濃度が最高値となり、1時間30分後には消失していた。本発明で得られた複合粒子はそのまま吸入剤として肺に高い効率(43%)で送達することができ、速やかな吸収性が得られ、結核治療用の経肺投与用複合粒子として有用であると考えられる。
【0053】
実験例5:PLH含有複合微粒子の静脈内投与試験
実施例2で調製したPLH/MAN組成比が1/10の複合粒子を静脈内投与し、PLHの吸収挙動について、PLH溶液を静脈内投与した場合と比較検討した。PLH溶液はPLH原末をpH8.0トリス緩衝液(0.1% Tween80水溶液)にPLH1mg/mLの濃度で溶解した。PLH/MAN複合粒子の静脈内投与はPLH/MAN複合粒子を投与直前に超純水にPLH1mg/mLの量でMANを溶解し、浸透圧を調製するためにMANを加えてPLHナノ粒子の懸濁液を調製した。すなわち用時調製型の注射用粒子として用いた。これらをPLH相当量で1mg/kgの溶液あるいは懸濁液をラットの大腿静脈から投与し、実験例1と同様の方法で血漿中PLH量を測定した。
その結果を図8に示す。
図8はPLH溶液投与群とPLH/MAN複合粒子懸濁液投与群を静脈内投与した場合のPLHの血漿中濃度曲線である。
PLH溶液投与群およびPLH/MAN複合粒子懸濁液投与群のいずれの場合も、血漿中からPLHは速やかに消失し、投与後1時間後には認められなかった。PLH溶液投与群より懸濁液投与群の方が明らかに初期の消失が速やかであったため、複合粒子内のPLHが約270nmのナノ粒子ではPLHは肝臓、脾臓など細網内皮系に捕獲されたものと推察された。これは、肝臓や脾臓への粒子ターゲッティングの可能性を示唆するものである。いずれにしろ、PLH/MAN複合粒子は除菌フィルターを用いて滅菌することができ、用時調製型の静脈内注射用粒子としても利用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の複合粒子を用いることにより、難吸収性薬物の吸収性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】4流体噴霧乾燥装置のノズルの模式図である。
【図2】本発明の複合粒子(FP原末、FP/MAN組成比 1/2、FP/MAN組成比 1/10)をラットに経口投与した場合のフルルビプロフェン(FP)の血漿中濃度下曲線を示す図である(平均値±S.E.、n=4〜5)。
【図3】プランルカスト水和物(PLH)/MAN組成比が1/4および1/10の複合粒子の電子顕微鏡写真(2000倍)。
【図4】本発明の複合粒子(PLH原末、PLH/MAN組成比 1/4)をラットに経口投与した場合のPLHの血漿中濃度下曲線を示す図である(平均値±S.E.、n=3)。
【図5】本発明の複合粒子(PLH/MAN組成比 1/4、PLH/MAN組成比 1/10)をラットに経肺投与した場合のPLHの血漿中濃度下曲線を示す図である(平均値±S.E.、n=3)。
【図6】カスケードインパクターを用いて評価したリファンピシン(RFP)原末、RFP/MAN組成比が1/5の複合粒子、RFP/MAN組成比が1/10の複合粒子およびRFP/MAN組成比が1/20の複合粒子の薬物送達性を示す図である(平均値±S.D.、n=3)。
【図7】RFP/MAN組成比が1/20の複合粒子をラットに経肺投与した場合のRFPの血漿中濃度下曲線を示す図である(平均値±S.E.、n=3)。
【図8】PLH溶液およびPLH/MAN組成比が1/10の複合粒子を水に溶解・分散したPLH懸濁液を静脈内投与した場合のPLHの血漿中濃度下曲線を示す図である(平均値±S.E.、n=3)。
【符号の説明】
【0056】
1 ノズル
2a,2b 液体流路
3a,3b 気体流路
4 空気
5 スプレー液
6 流体流動面
7 エッジ先端の焦点
8 微小ミスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.01〜2.0μmの難吸収性薬物、および水溶性賦形剤を含有する平均粒子径が0.5〜50μmである複合粒子。
【請求項2】
難吸収性薬物の平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmである請求項1記載の複合粒子。
【請求項3】
難吸収性薬物と水溶性賦形剤の組成比が、難吸収性薬物1質量部に対して水溶性賦形剤2〜50質量部である請求項1記載の複合粒子。
【請求項4】
水溶性賦形剤を含有しない対照組成物より少なくとも1.5倍高い吸収改善をもたらす請求項1記載の複合粒子。
【請求項5】
噴霧乾燥物である請求項1記載の複合粒子。
【請求項6】
4流体ノズル噴霧乾燥装置で製造される請求項5記載の複合粒子。
【請求項7】
難吸収性薬物が難微粒子化薬物である請求項1記載の複合粒子。
【請求項8】
水溶性賦形剤が糖アルコールである請求項1記載の複合粒子。
【請求項9】
糖アルコールがマンニトール、キシリトール、ソルビトールおよびエリスリトールから選択される一種以上である請求項8記載の複合粒子。
【請求項10】
難吸収性薬物がフルルビプロフェンであり、水溶性賦形剤がマンニトールである請求項1記載の複合粒子。
【請求項11】
フルルビプロフェンの平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmである請求項10記載の複合粒子。
【請求項12】
フルルビプロフェンとマンニトールの組成比が、フルルビプロフェン1質量部に対してマンニトール2〜12質量部である請求項10記載の複合粒子。
【請求項13】
難吸収性薬物がプランルカスト水和物であり、水溶性賦形剤がマンニトールである請求項1記載の複合粒子。
【請求項14】
プランルカスト水和物の平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.0〜20μmである請求項13記載の複合粒子。
【請求項15】
プランルカストとマンニトールの組成比が、プランルカスト1質量部に対してマンニトール2〜12質量部である請求項13記載の複合粒子。
【請求項16】
難吸収性薬物がリファンピシンであり、水溶性賦形剤がマンニトールである請求項1記載の複合粒子。
【請求項17】
リファンピシンの平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、複合粒子の平均粒子径が1.5〜20μmである請求項16記載の複合粒子。
【請求項18】
リファンピシンとマンニトールの組成比が、リファンピシン1質量部に対してマンニトール2〜22質量部である請求項16記載の複合粒子。
【請求項19】
請求項1記載の複合粒子を含有する経口投与用製剤、経鼻投与用製剤、経肺投与用製剤または注射用製剤。
【請求項20】
平均粒子径が0.1〜0.8μmのフルルビプロフェン1質量部に対して、マンニトール2〜12質量部を含有することを特徴とする平均粒子径が1.0〜10μmである噴霧乾燥複合粒子。
【請求項21】
平均粒子径が0.1〜0.8μmのプランルカスト水和物1質量部に対してマンニトール2〜12質量部を含有することを特徴とする平均粒子径が1.8〜10μmである噴霧乾燥複合粒子。
【請求項22】
平均粒子径が0.1〜0.8μmのリファンピシン1質量部に対してマンニトール2〜22質量部を含有することを特徴とする平均粒子径が1.5〜10μmである噴霧乾燥複合粒子。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−63230(P2007−63230A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254564(P2005−254564)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本薬剤学会創立20周年記念大会、日本薬剤学会主催、2005年3月25〜27日開催(講演要旨集発行:2005年3月5日)。
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】