説明

難容性薬物含有水中油型乳化組成物及びその製造方法

【課題】難溶性薬物を高濃度に含有すると共に、良好な安定性で且つ注射剤として好適な水中油型乳化組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水への溶解度が1mg/mL未満であり、かつ分子量が500以上の難溶性薬物と、80質量%を超える量で中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有し、且つ組成物の全質量に対して6質量%を超える量の油成分と、50質量%以上の量でリン脂質を含有する界面活性剤成分と、を含み、乳化粒子の平均粒子径が500nm未満である難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性薬物含有水中油型乳化組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品分野において創製される薬剤は分子量が大きく、化学構造も複雑化する傾向がある。このような、水にも油にもほとんど溶解しない薬物、いわゆる難溶性薬物を非経口投与可能な製剤とすることは、極めて重要な課題となっている。
【0003】
このような難溶性薬物としては、たとえば癌化学療法において広範に使用されているタキサン系薬物が挙げられる。タキサン系薬物は溶液を注射または点滴により投与する場合、ポリソルベートやポリオキシエチル化ひまし油のような非イオン系界面活性剤、およびエタノールを用いて可溶化している。しかしながら、これらの可溶化剤の使用には、過敏症などの副作用が懸念されている。
このため、タキサン系薬物、ならびにその他の難溶性薬物を、可溶化剤を使用することなく、安全に非経口投与するため、多くの技術が提案されている。特に、費用効率が高く、且つ、投与が容易な乳化製剤が、難水溶性薬物を非経口投与可能とする製剤形態として注目されている。
【0004】
一般に、医薬用、特に注射用乳化製剤に用いる油としてはトリグリセリド類に由来する鹸化可能な油、例えば、ダイズ油、ゴマ油、綿実油、ベニバナ油などがよく利用される。しかしながら、これらの油が利用される注射用乳化製剤は、主として、脂溶性が高い薬物であるか、あるいは低分子量の薬物に適用されており、近年増加している水にも油にもほとんど溶解しない薬物、いわゆる難溶性薬物には適用できていないのが実情である。
【0005】
上記問題点の解決のため、特許文献1では、パクリタキセルの溶解油として大豆油を使用せず、サフラワー油を使用し、界面活性剤として卵黄レシチンとコレステロールを用いた乳化製剤が開示されている。
【0006】
特許文献2では、少なくとも5種の成分:治療薬、ビタミンE、薬剤およびビタミンEが溶解される油、安定剤(リン脂質、レシチンまたはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体であるポロキサマーのいずれか)および水を含む脂質薬剤送達組成物を開示している。ビタミンEがパクリタキセルに対して良好な溶解性を持つ事を利用し、ダイズ油とビタミンEを等量併用し、さらに界面活性剤としてプルロニックP105を使用した例が開示されている。
【0007】
特許文献3では、パクリタキセルの溶解油としてトリブチリンを使用し、界面活性剤としてジパルミトイルフォスファチジルグリセロール、ジオレ油ホスファチジルコリン、およびコレステロールを使用した油コア組成物が例示されている。また、この油コア組成物の粒子サイズは16.3μmと記載されている。
【0008】
特許文献4では、パクリタキセルの溶解油として中鎖脂肪酸トリグリセリドと大豆油を併用し、界面活性剤として卵黄レシチンを使用した乳化製剤が開示されている。しかしながら、乳化製剤中における油成分の割合が10質量%を上回るとクリーム状となると記載されており、このため、タキサン系薬物を内包する油成分の濃度は、最大でも6質量%以下に限定されている。
【0009】
このように種々の乳化製剤が提案されているが、パクリタキセルのような難溶性薬物を溶解するために、サフラワー油では溶解性が充分とは言えず、トリブチリンは注射用添加剤として適しているとは言えない。また、難溶性薬物を溶解するためにビタミンEを多量に使用することは、乳化組成物の安定性が損なわれることがある。
また、注射剤として使用するには、薬剤を高濃度に含有させると共に乳化粒子の粒子径が充分に小さいことが必要であり、一方で、クリーム状では注射剤として使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表平10−502921号公報
【特許文献2】特表平11−509545号公報
【特許文献3】特表2003−501376号公報
【特許文献4】特表2008−514720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、難溶性薬物を高濃度に含有すると共に、良好な安定性で且つ注射剤として好適な水中油型乳化組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下のとおりである。
[1] 水への溶解度が1mg/mL未満であり、かつ分子量が500以上の難溶性薬物と、80質量%を超える量で中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有し、且つ組成物の全質量に対して6質量%を超える量の油成分と、50質量%以上の量でリン脂質を含有する界面活性剤成分と、を含み、乳化粒子の平均粒子径が500nm未満である難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[2] 前記中鎖脂肪酸トリグリセリドにおける構成脂肪酸の平均炭素数が9.9以下である[1]に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[3] 前記油成分の全質量に対する界面活性剤成分の割合が80質量%以下である[1]又は[2]に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[4] 前記難溶性薬物が、タキサン系抗ガン剤から選択される[1]〜[3]のいずれかに記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[5] 前記難溶性薬物が、パクリタキセル、ドセタキセルおよびそれらの類縁体から選択される薬物である[4]記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[6] 前記難溶性薬物がタクロリムス、シクロスポリンおよびそれらの類縁体から選択される薬物である[1]〜[3]のいずれかに記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[7] 前記リン脂質がレシチンである[1]〜[6]のいずれかに記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[8] 前記乳化粒子の平均粒子径が1nm以上200nm以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
[9] 前記難溶性薬物、前記油成分及び前記リン脂質を含有する界面活性剤成分を、これらを共通して溶解可能な有機溶媒に溶解して油相を調製すること、前記有機溶媒を前記油相の質量に対して10質量%未満まで脱溶媒すること、前記油相と水相とを混合することを含む[1]〜[8]のいずれかに記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物の製造方法。
[10] 前記混合が、脱溶媒後の油相と水相とを混合するものである[9]に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物の製造方法。
[11] 前記有機溶媒が、水溶性有機溶媒である[9]又は[10]に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、難溶性薬物を高濃度に含有すると共に、良好な安定性で且つ注射剤として好適な水中油型乳化組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物は、水への溶解度が1mg/mL未満であり、かつ分子量が500以上の難溶性薬物と、80質量%を超える量で中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有し、且つ組成物の全質量に対して6質量%を超える量の油成分と、50質量%以上の量でリン脂質を含有する界面活性剤成分と、を含み、乳化粒子の平均粒子径が500nm未満である難溶性薬物含有水中油型乳化組成物である。
本発明によれば、油成分として中鎖脂肪酸トリグリセリドを80質量%超で含む油成分を用いることによって、難溶性薬物を油成分に高濃度で溶解させて内包させ、また、このような油成分を6質量%を超える量で含み、界面活性剤成分の50質量%以上をリン脂質とし、乳化粒子の平均粒子径が500nm未満の水中油型乳化組成物とすることによって、高濃度の薬物を含有すると共に注射剤に適した粘度且つ良好な安定性を維持することができる。この結果、難溶性薬物を高濃度に含有すると共に、良好な安定性で且つ注射剤として好適剤型の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物とすることができる。
なお、本明細書において難溶性薬物含有水中油型乳化組成物を単に「乳化組成物」又は「組成物」ということがある。
【0015】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0016】
[難溶性薬物]
本発明における難溶性薬物とは、水への溶解度が1mg/mL未満であり、かつ分子量が500以上の難溶性薬物である。水への溶解度が1mg/mL未満であって、後述するように所定の有機溶媒に溶解する薬物であればよい。好ましくは、水にも油にも溶解しない難溶性薬物である。油にも溶解しないとは、例えば、大豆油に対する25℃での溶解度が15mg/mL未満の薬物を意味する。また、難溶性薬物の分子量は、分子量が500以上であればよく、より好ましくは分子量が800以上である。
また、本発明における油成分中での安定性の観点より、難溶性薬物の水/オクタノール分配係数(以下LogPと略す)は、8.0以下であることが好ましく、更に好ましくは2.0以上6未満である。LogPが8.0以下であれば、本発明の効果を充分に発揮することができる。また、LogPが2.0以上であれば、油相中での安定性を充分に維持することができる。
このような難溶性薬物としては、特にタキサン系抗ガン剤及び、タクロリムス又はシクロスポリンなどを挙げることができる。
【0017】
タキサン系抗ガン剤としてはタキサン類を挙げることができる。タキサン類としては、パクリタキセル(paclitaxel);ドセタキセル(docetaxel);スピカチン(spicatin);アセトンとのタキサン−2,13-ジオン,5β,9β,10β−トリヒドロキシ−環式−9,10−アセタール又はアセテート;アセトンとのタキサン−2,13−ジオン−5β,9β,10β−トリヒドロキシ−環式−9,10−アセタール;アセトンとのタキサン−2β,5β,9β,10β−テトロール−環式−9,10−アセタール;タキサン;セファロマンニン−7−キシロシド(cephalomannine-7-xyloside);7−エピ−10−デアセチルセファロマンニン(7-epi-10-deacetylcephalomannine);10−デアセチルセファロマンニン;セファロマンニン(cephalomannine);タキソールB(taxol B);13−(2’,3’−ジヒドロキシ−3’−フェニルプロピオニル)バカチンIII;ユナンキソール(yunnanxol);7−(4−アジドベンゾイル)バカチンIII;N−デベンゾイルタキソールA(N-debenzoyltaxol A);O−アセチルバカチンIV(O-acetylbaccatin IV);7−(トリエチルシリル)バカチンIII;7,10−ジ−O−〔(2,2,2−トリクロロエトキシ)カルボニル〕バカチンIII;バカチンIII 13−O−アセテート;バカチンジアセテート;バカチン(baccatin);バカチンVII;バカチンVI;バカチンIV;7−エピ−バカチンIII;バカチンV;バカチンI;バカチンIII;バカチンA;10−デアセチル−7−エピタキソール;エピタキソール(epitaxol);10−デアセチルタキソールC;7−キシロシル−10−デアセチルタキソール;10−デアセチルタキソール−7−キシロシド(10-deacetyltaxol-7-xyloside);7−エピ−10−デアセチルタキソール;10−デアセチルタキソール;および10−デアセチルタキソールBが包含される。なかでも、パクリタキセル、ドセタキセル及び上述したようなこれらの類縁体であることが好ましい。
またタクロリムスおよびタクロリムス類縁体としては、Tanaka et al.,(J.Am.Chem.Soc.,109:5031,1987)、米国特許第4,894,366号、第4,929,611号、第4,956,352号、および特表2002−519378号などに記載されたものを挙げることができ、特にタクロリムス、タクロリムス水和物、アスコマイシン、33−エピ−クロロ−33−デスオキシアスコマイシンなどのハロゲン化誘導体等のアスコマイシン誘導体を挙げることができる。
シクロスポリンおよびシクロスポリン類縁体としては、シクロスポリンA、ジヒドロシクロスポリンC、シクロスポリンDおよびジヒドロシクロスポリンDなどを挙げることができる。
これらの薬剤は、通常単独で用いられるが、2種以上を混合して用いることを排除するものではない。
【0018】
本発明の乳化組成物において難溶性薬物は、一般には、組成物の全質量に対して1μg/mL〜50mg/mLの量で存在し得る。
【0019】
[油成分]
本発明における油成分は、80質量%を超える量で中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する。80質量%を超える量で中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有することによって、難溶性薬物を高含有量で溶解し油成分中に安定して内包することができる。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの油成分中の含有量は、乳化組成物中の油成分濃度を更に高め、かつ微細化を促進し、安定性を向上させるため、90質量%以上とすることがより好ましい。
【0020】
本明細書において「油成分」は、約37℃で液体であり、および注射可能な製剤中で薬理学的に許容できる、炭化水素、炭水化物、または同様の有機化合物をしめす。このような油成分としては、各種植物油、動物性脂肪、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどのトリグリセリド類やコレステロールなどの非グリセリド類が挙げられる。
【0021】
本発明において、中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、含有するトリグリセリドを構成する脂肪酸鎖の平均炭素数が8以上12以下の油脂を意味する。中鎖脂肪酸トリグリセリドにおける脂肪酸の平均炭素数とは、中鎖脂肪酸トリグリセリドに含まれるトリグリセリドを構成する脂肪酸鎖(本明細書中では「構成脂肪酸」ということがある)の炭素数(例えば、カプリル酸であれば8、カプリン酸であれば10)を構成脂肪酸の組成比によって加重平均したものである。薬物をより高濃度に内包でき、乳化組成物の安定性、粘度及びの観点より、構成脂肪酸の平均脂肪鎖長は、9.9以下であり、より好ましくは8.8以下であり、更に好ましくは8.5以下であり、最も好ましくは8.2以下である。
【0022】
本発明に使用する中鎖脂肪酸トリグリセリドは、構成脂肪酸鎖の平均炭素数が上述した範囲内であれば、構成脂肪酸に特に制限はなく、例えば炭素数が6以上12以下の脂肪酸を挙げることができ、これらの脂肪酸は飽和又は不飽和であってもよい。好ましくは、主として炭素数6以上12以下の飽和脂肪酸のトリグリセリドで構成されたものである。また、天然植物油由来のものであってもよく、合成脂肪酸のトリグリセリドであってもよい。これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用してよい。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、構成脂肪酸鎖の平均炭素数が上述した範囲内であれば、1種単独で用いられてもよく、構成脂肪酸鎖の平均炭素数が異なる2種以上の中鎖脂肪酸トリグリセリドの混合物であってもよい。2種以上の中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合する場合には、中鎖脂肪酸トリグリセリドの混合物の全体として、構成脂肪酸の平均炭素数が上述した範囲内になればよい。
【0023】
本発明では、SASOL GmbH(独国)のミグリオール812、ミグリオール810、花王のココナードMT、ココナードRKなどが中鎖脂肪酸トリグリセリドとして好適に用いられる。またこの他の低融点中鎖脂肪酸トリグリセリドも、本発明において使用することができる。
【0024】
中鎖脂肪酸トリグリセリド以外と併用可能な油成分としては、とく限定されないが、植物油が好ましい。植物油とは、植物の種子または堅果由来の油分(長鎖脂肪酸トリグリセリド)を意味し、例えば、アーモンド油、ルリヂサ油、クロフサスグリ種子油、ヒマシ油、トウモロコシ油、ベニバナ油、ダイズ油、ゴマ油、綿実油、ピーナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、ココナツ油、ヤシ油、またはカノーラ油などを含むが、これらに限定されるものではない。
また、動物性脂肪も、本発明の効果に影響しない範囲で用いることができる。動物性脂肪とは、動物給源由来の油分を意味する。これは、トリグリセリドも含むが、3種の脂肪酸鎖の長さおよび不飽和結合は、植物油と比べて変動する。室温で固形である給源由来の動物性脂肪(獣脂、ラードなど)を使用する場合には、それらを液体とするよう処理した上で、使用することが好ましい。
【0025】
本発明の乳化組成物は、少なくとも6質量%を上回る量で油成分を含有する。これにより、難溶性薬物を高含有量で含む乳化組成物とすることができる。
難溶性薬物を多量に含有し、かつ乳化組成物の安定性および粘度を両立させるという観点から、好適な油成分濃度としては、乳化組成物全質量の7〜25質量%であり、更に好ましい範囲としては、8〜15質量%である。乳化組成物中に占める油成分の割合を高くすることで、比例して乳化組成物中の薬物濃度を高めることができるため、点滴時間を短くする事ができるなどの利点がある。
【0026】
[界面活性剤成分]
本発明おける界面活性剤成分は、50質量%以上の量でリン脂質を含有する。界面活性剤成分中のリン脂質の含有量が50質量%未満では、安定性及び安全性が充分とは言えない。乳化組成物の粘度、安定性及び安全性の観点から、界面活性剤成分中のリン脂質の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%、即ち界面活性剤としてリン脂質のみを用いることが最も好ましい。
【0027】
本発明におけるリン脂質には、純粋なリン脂質または2種もしくはそれ以上のリン脂質の混合物を含む。「リン脂質」は、2個の脂肪酸および1個のリン酸イオンを伴うグリセロールのトリエステルを意味する。本発明において有用なリン脂質の例は、ホスファチジルコリン、レシチン(コリンエステルのリン酸化されたジアシルグリセリドとの混合)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、約4〜約22個の炭素原子、より一般には約10〜約18個の炭素原子を有しおよび飽和度が変動するホスファチジン酸を含むが、これらに限定されるものではない。また、上記リン脂質に対しポリエチレングリコール(PEG)が結合した、PEG−リン脂質を含んでもよい。
【0028】
本発明においては、合成のレシチンを使用することもできるが、天然起源のリン脂質が好ましい。天然のリン脂質は、ダイズレシチン、卵レシチン、水素化されたダイズレシチン、水素化された卵レシチン、スフィンゴシン、ガングリオシド、およびフィトスフィンゴシンならびにそれらの組合せを含み、安全性及び組成物の安定性の観点から、レシチンが好ましく、特に卵レシチンが好ましい。
【0029】
天然のレシチンは、一般にホスファチジルコリンと称されるリン酸のコリンエステルへ連結された、ステアリン酸、パルミチン酸およびオレイン酸のジグリセリドの混合物であり、ならびに卵およびダイズ豆のような様々な供給源から得ることができる。ダイズレシチンおよび卵レシチン(これらの化合物の水素化された形を含む)は、安全性に関する長い歴史を有し、乳化および可溶化の組合せられた特性を有し、ならびにほとんどの合成界面活性剤よりもより迅速に無害物質へ代謝される傾向がある。市販されているダイズリン脂質は、Central Soyaから市場に出され販売されているCentrophaseおよびCentrolex製品、Phospholipid GmbH(独国)からのPhospholipon、Lipoid GmbH(独国)によるLipoid、およびDegussaによるEPIKURONがある。また市販されている卵黄レシチンには、キューピーPL−100M、PC−98Nなどがある。
【0030】
水素化されたレシチンとは、レシチンを構成する脂肪鎖中の不飽和二重結合の一部、または全部が水素添加された製品である。これも本発明において使用することができる。
【0031】
本発明における界面活性剤成分として使用可能なその他の界面活性剤としては、プロピレングリコールモノ−およびジ−脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーおよびブロックコポリマー、脂肪族アルコール硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレン−グリコールグリセロールエーテルのエステル、油およびワックスベースの界面活性剤、グリセロールモノステアレート、グリセリンソルビタン脂肪酸エステルを含むが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の乳化組成物における界面活性剤成分は、乳化組成物の粘度を注射剤として適切な範囲にすると共に、安定性を保持し、かつ十分な油成分量を達成するために、油成分の全質量に対する界面活性剤成分の割合として80質量%以下であることが好ましく、1質量%〜80質量%であることがより好ましく、また更に好ましくは、5質量%〜50質量%であり、更により好ましくは10質量%〜25質量%である。
【0033】
本発明の乳化組成物は、場合によって、酸化剤、アルカリ剤、緩衝剤、キレート剤、複合体形成剤および可溶化剤、酸化防止剤、および抗酸化剤、抗微生物保存剤、懸濁化剤および/または粘度調節剤、等張化剤などの添加剤、ならびに他の生体適合性物質または治療的物質を含んでもよい。このような物質は一般に、乳化組成物の水相中に存在する。このような添加剤は、乳化組成物または乳化組成物中の薬物の安定性を強化し、また本発明の乳化組成物がより生体親和的になることを補助する。
【0034】
水相は一般に、約300mOsmの浸透圧を有し、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム、トレハロース、ショ糖、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アルブミン、アミノ酸およびそれらの混合物を含有することができる。少なくとも250mOsmの張度が、ソルビトールまたはショ糖などの、粘度を増大する物質により実現される。本発明の乳化組成物の浸透圧を変更するために有用な化合物は、一般に「等張化剤」または「浸透圧改善剤」と称される。
【0035】
本発明において使用される「抗酸化剤」は主に、注射可能な製品内で使用する際に安全な金属イオンキレート剤および/または還元剤が好ましい。金属イオンキレート剤は、金属イオンと結合し、これにより、薬物、油分またはリン脂質成分の酸化反応に対する金属イオンの触媒作用を低下することにより、抗酸化剤として機能する。本発明において有用な金属キレート剤は、EDTA、グリシンおよびクエン酸またはそれらの塩を含むが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の乳化組成物中の乳化粒子の平均粒径は、500nm未満である。500nm以上では、注射剤として用いるのには不向きである。組成物の安定性及び粘度、又は注射剤として取扱いの観点から、好ましくは1nm〜200nmであり、より好ましくは5nm〜200nmであり、更により好ましくは10nm〜180nmであり、もっとも好ましくは15nm〜150nmである。
【0037】
本発明における粒径範囲および測定の容易さから、本発明における乳化粒子の粒径測定では動的光散乱法が好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられるが、本発明における粒径は、粒ナノトラックUPA(日機装(株))を用いて25℃で測定した値を採用する。
即ち、粒径の測定方法は、水中油型乳化組成物の場合には純水で10倍に希釈し、粉末組成物の場合には固形分濃度が1質量%となるように純水で希釈を行い、ナノトラックUPA(日機装(株))を用いて求める。
【0038】
本発明の水中油型乳化組成物は、凍結乾燥された製剤から再構成されたものも含む。したがって、本発明の乳化組成物は、1種もしくは複数の凍結保護剤含んでもかまわない。
「凍結−乾燥助剤」または「凍結−乾燥バルク剤」としても公知である「凍結保護剤」は、凍結−乾燥プロセス時および、固形物中油型分散システムを形成するために、液滴を固形マトリックスとするための乳化組成物の水分の除去時に、乳化組成物の離散したサブミクロンの液滴を維持するために添加される構成成分を意味する。凍結保護剤の例は、ポリオール、単糖、二糖、多糖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、および親水性ポリマー、またはそれらの混合物を含む。乳化組成物の油滴を安定化するのに十分な凍結保護剤の濃度は、典型的には約5質量%〜20質量%の範囲であるが、この範囲に限定されない。
【0039】
本発明の乳化組成物は、非経口投与することができ、たとえば静脈内、動脈内、髄腔内、腹腔内、眼内、関節内、筋肉内または皮下注射することができる。
本発明の乳化組成物は、このような注射剤として使用するために適切な粘度を有する。注射剤として使用するために適切な粘度とは、25℃での振動型粘度計による測定で、1mPa・S〜200mPa・Sの範囲を意味し、安全性の観点から好ましくは100mPa・S以下であり、更に好ましくは10mPa・S以下である。
【0040】
[製造方法]
本発明の乳化組成物は、前記難溶性薬物、前記油成分及び前記リン脂質を含有する界面活性剤を、これらを共通して溶解可能な有機溶媒に溶解して油相を調製すること(以下、油相調製工程という)、前記有機溶媒を前記油相の質量に対して10質量%未満まで脱溶媒すること(以下、脱溶媒工程という)、前記油相と水相とを混合すること(以下、乳化工程という)、を含む製造方法で得ることができる。
【0041】
油相調製工程では、(i)難溶性薬物、(ii)油成分(例えば中鎖脂肪酸トリグリセリド)、及び(iii)リン脂質を適量含有する混合物(油相)を、これらを共通して溶解可能な有機溶媒に溶解する。
ここで用いられる有機溶媒としては、(i)〜(iii)の各油相成分が、25℃において、0.1質量%以上溶解する有機溶媒であれば、いかなる物質でも構わない。このような有機溶媒としては、水溶性有機溶媒であることが好ましい。
【0042】
本発明において水溶性有機溶媒は、水に対する25℃での溶解度が10質量%以上の有機溶媒を指す。水に対する溶解度はできあがった乳化物の安定性の観点から30質量%以上が好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
水溶性有機溶媒は、単独で用いてもよく、複数の水溶性有機溶媒の混合溶媒でもよい。また、水との混合物として用いてもよい。水との混合物を用いる場合には、上記水溶性有機溶媒は、少なくとも50容量%以上含まれていることが好ましく、70容量%以上であることがより好ましい。
【0043】
このような水溶性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド、エチレングリコール、1,3ブタンジオール、1,4ブタンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等及びそれらの混合物を挙げられる。これらの中でも、食品への用途に限定した場合、エタノール、プロピレングリコール、又はアセトンが好ましく、エタノール、又はエタノールと水との混合液が特に好ましい。
【0044】
脱溶媒工程では、油相中の有機溶媒を油相の質量に対して10質量%未満、乳化組成物の安定性の観点から好ましくは5質量%未満まで脱溶媒する。10質量%以上では、安全性の観点から注射剤としての適用に不向きである。脱溶媒、即ち、溶媒を除去する方法としては、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーター、超音波アトマイザー等を用いた蒸発法、限外濾過膜、逆浸透膜等の膜分離法が知られているが、いずれであってもよい。これらは公知の装置をそのまま適用すればよい。
【0045】
乳化工程では、油相と水相とを混合(乳化)する。乳化方法としては、一般に用いられるいずれの方法であってもよい。
汎用的に用いられる乳化法として、機械力を用いた方法、すなわち外部から強い剪断力を与えることで油滴を分裂させる方法が適用されている。機械力として最も一般的なものは、高速、高剪断攪拌機である。このような攪拌機としては、ホモミキサー、ディスパーミキサーおよびウルトラミキサーと呼ばれるものが市販されている。
また、微細化に有用な別な機械的な乳化装置として高圧ホモジナイザーがあり、種々の装置が市販されている。高圧ホモジナイザーは、攪拌方式と比べて大きな剪断力を与えることができるために、乳化剤の量を比較的少なくても微細化が可能である。
【0046】
前記高圧ホモジナイザーとしては、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するチャンバー型高圧ホモジナイザー及び均質バルブを有する均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられる。これらの中でも、均質バルブ型高圧ホモジナイザーは、処理液の流路の幅を容易に調節でき、操作時の圧力及び流量を任意に設定できるため、その操作範囲が広く、特に本発明にかかるエマルション組成物の製造方法にとって好ましい。
また、操作の自由度は低いが、圧力を高める機構が作りやすいため、超高圧を必要とする場合、チャンバー型高圧ホモジナイザーも好適に用いることができる。
【0047】
前記チャンバー型高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等が挙げられる。
前記均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0048】
本発明において、前記高圧ホモジナイザーの圧力は、乳化粒子の微細化及び組成物の安定性の観点から、好ましくは50MPa以上、より好ましくは50〜250MPa、更に好ましくは100〜250MPaで処理することが好ましい。
また、乳化分散された組成物である乳化液はチャンバー通過直後30秒以内、好ましくは3秒以内に何らかの冷却器を通して冷却することが、乳化粒子の粒子径保持の観点から好ましい。
【0049】
本発明の乳化組成物を製造する際に、脱溶媒工程と乳化工程とはいずれを先に行ってもよいが、乳化組成物の安定性の観点から、脱溶媒工程を先に行うことが好ましい。この場合の水相と油相との混合、即ち乳化工程では、脱溶媒後の油相と、水相とを混合する。
【0050】
本製造方法では、上述した油相調製工程、脱溶媒工程及び乳化工程の他に、(A)乳化組成物のpHを望ましい範囲に調節する工程、(B)乳化組成物を0.2μmフィルターを用い濾過する、または加熱殺菌することにより滅菌する工程;の一つまたは複数を含んでもよい。
【0051】
本発明における難溶性薬物含有水中油型乳化組成物は、安定性が良好で高濃度に難溶性薬物を含有し、注射剤として好適であるため、このような難溶性薬物含有水中油型乳化組成物を使用する方法も、本発明は提供する。
例えば、本発明は、本明細書に説明された難溶性薬物含有乳化組成物を、それが必要な患者へ投与することで、難溶性薬物の用途に応じた治療方法を提供する。即ち、難溶性薬物としてタキサン系抗ガン剤を用いた乳化組成物の場合には、ガンの治療方法であり、また難溶性薬物として免疫抑制剤(たとえば、シクロスポリンまたはタクロリムス)を含有する乳化組成物の倍には、臓器移植等にともなう拒絶反応を抑制したり、またあるいはリュウマチ等の免疫性疾患を治療する方法を提供する。投与は、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、眼内、皮下、関節内および腹腔内であってよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0053】
[試験例]
(脂肪酸組成の測定)
中鎖脂肪酸トリグリセリドであるココナードRK、ココナードML(以上、花王社)、ミグリオール810(Sasol社)につき、下記の方法で脂肪酸組成を測定した。
試料を0.030g採取し、0.5mol/Lの水酸化ナトリウムのメタノール溶液1.5mLを添加し、100℃で9分間加熱してけん化を行った。三ふっ化ホウ素メタノール錯体メタノール溶液2.0mLを添加して100℃で7分間加熱し、メチルエステル化を行った。
【0054】
ヘキサン3mLおよび飽和食塩水5mLを添加し、ヘキサン層を採取し、ガスクロマトグラフ法[機種:GC−1700(島津製作所社、検出器:FID、カラム:DB−23(J&W SCIENTIFIC社)φ0.25mm×30mm、膜厚0.25μm、温度:試料注入口 250℃、検出器 250℃、カラム 50℃(1分保持)→10℃/分昇温→170℃→1.2℃/分昇温→210℃、試料導入系:スプリットレス、ガス流量:ヘリウム(キャリヤーガス)1.5mL/分、ヘリウム(メイクアップガス)80kPa、ガス圧力:水素60kPa、空気50kPa)にて測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(パクリタキセルの溶解度の測定)
油成分中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量とパクリタキセル(PTX)、ドセタキセル(DTX)の溶解性との関係を明らかにするために、中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王ココナードRK)と長鎖脂肪酸トリグリセリドとして知られている大豆油を様々な比率で混合し、その油成分に対する各薬剤の溶解度を測定した。
各薬剤と該油成分とを十分量のエタノールに添加しかつ攪拌混合することで、各薬剤を溶解させた。これを、遠心エバポレータ(genevac社 EZ-2)を用いて、減圧下でエタノール含量が油成分中2質量%以下となるまで脱溶媒し、4℃で放置し、不溶物の析出の有無により溶解度(mg/mL)を判定した。結果を表2に示す。
表2に示されるように、油成分中の中鎖脂肪酸トリグリセリド含有量が高いほど各薬剤の溶解度は高く、特に中鎖脂肪酸トリグリセリド含有量を80質量%以上とすることにより溶解度が著しく上昇した。
これにより、油成分中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量を高くすることによって、難溶性薬物を高濃度に油成分に内包できることがわかった。
【0057】
【表2】

【0058】
平均炭素数の高い中鎖脂肪酸トリグリセリドと比べて優れた溶解性を明らかにするために、平均炭素数の異なる中鎖脂肪酸トリグリセリドを用い、その油成分に対するパクリタキセルの溶解度を、上記のパクリタキセルの溶解度の測定と同様に測定した。結果を表3に示す。
構成脂肪酸の平均炭素数が低い中鎖脂肪酸トリグリセリドほど高いパクリタキセル溶解性を示した。評価した油脂の中で最も平均炭素数の小さいココナードRKに対するパクリタキセルの溶解度は60mg/mLであった。
これにより、中鎖脂肪酸トリグリセリド中の平均炭素数が低い程、パクリタキセルを高濃度に内包できることがわかった。
【0059】
【表3】

【0060】
[実施例1]
(パクリタキセル含有水中油型乳化組成物の作製)
表4に示される最終濃度となるように、パクリタキセル、ココナードRK及び精製卵黄レシチンを、十分量のエタノール中に添加しかつ混合することにより、透明な黄色溶液を調製した。この溶液を、遠心エバポレータ(genevac社 EZ-2)を用い、減圧下で乾燥し、粘稠な黄色液体を得た。この液体は、油成分の質量に対する残留エタノール含量が2質量%であった。
表4に示される最終濃度となるように、適量のグリセリンを秤量し、適量の水で溶解し、水相を調製した。水相を油相へ添加し、小型超音波ホモジナイザー(US-150T、日本精機製作所社)で48秒、さらに大型超音波ホモジナイザー(US-600T、日本精機製作所社)で1分間超音波照射し、粗乳化液を得た。これを高圧乳化機(スターバースト ミニラボ機、スギノマシン社)を用いて245MPaの条件で通過させ、水中油型乳化組成物を作製した。
【0061】
【表4】

【0062】
作製した乳化組成物は、乳化粒子(油滴粒子)の平均粒子径140nmの水中油型乳化組成物であり、4℃2ヶ月間は乳化物の凝集・析出が観察されず安定であった。なお、油滴粒子径は動的光散乱式 粒子径・粒度分布測定装置(UPA UT−151、日機装社)を用いて計測した。
【0063】
[実施例2、比較例1及び比較例2]
表5に示される最終濃度となるように、実施例2、比較例1及び比較例2の各乳化組成物を、実施例1と同様にして調製した。
【0064】
【表5】

【0065】
実施例2の処方で作製した乳化組成物は、2週間は乳化物の凝集・析出が観察されず安定であった。一方で比較例1および2の処方で作製した乳化組成物は、翌日には析出が発生する不安定な乳化組成物であった。
【0066】
[実施例3]
(ドセタキセル含有乳化組成物の作製)
ドセタキセル含有乳化組成物(表6)を、実施例1に説明されたものと同様の調製法を用いて調製した。作製した乳化組成物は、乳化粒子(油滴粒子)の平均粒子径が110nmで、4℃、2ヶ月間は乳化物の凝集や析出が観察されず、安定であった。
【0067】
【表6】

【0068】
[実施例4]
(タクロリムス含有乳化組成物の作製)
ドセタキセル含有乳化組成物(表7)を、実施例1に説明されたものと同様の調製法を用いて調製した。作製した乳化組成物は、乳化粒子(油滴粒子)の平均粒子径が140nmで、4℃、2ヶ月間は乳化物の凝集や析出が観察されず、安定であった。
【0069】
【表7】

【0070】
[実施例5]
表8に示される最終濃度となるように、実施例5の乳化組成物を実施例1と同様にして調製した。
【0071】
【表8】

【0072】
実施例5の処方で作製した乳化物の粘度は14.7[mPa・s]であった。この粘度は、注射剤として使用可能な範囲の粘度であった。
一方で実施例1の処方で作製した乳化物についても、同様に粘度を測定した結果、実施例1の乳化物の粘度は3.86[mPa・s]であった。これらの結果は、実施例1の乳化物が、実施例5の処方と比較して粘度が低く、注射剤としては実施例1がより好ましいことを示している。
【0073】
このように、本発明によれば、高濃度に難溶性薬物を含有すると共に、安定性が良好で注射剤として好適な難溶性薬物含有水中油型乳化組成物を提供できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水への溶解度が1mg/mL未満であり、かつ分子量が500以上の難溶性薬物と、
80質量%を超える量で中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有し、且つ組成物の全質量に対して6質量%を超える量の油成分と、
50質量%以上の量でリン脂質を含有する界面活性剤成分と、
を含み、乳化粒子の平均粒子径が500nm未満である難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項2】
前記中鎖脂肪酸トリグリセリドにおける構成脂肪酸の平均炭素数が9.9以下である請求項1に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項3】
前記油成分の全質量に対する界面活性剤成分の割合が80質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項4】
前記難溶性薬物が、タキサン系抗ガン剤から選択される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項5】
前記難溶性薬物が、パクリタキセル、ドセタキセルおよびそれらの類縁体から選択される薬物である請求項4に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項6】
前記難溶性薬物がタクロリムス、シクロスポリンおよびそれらの類縁体から選択される薬物である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項7】
前記リン脂質がレシチンである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項8】
前記乳化粒子の平均粒子径が1nm以上200nm以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物。
【請求項9】
前記難溶性薬物、前記油成分及び前記リン脂質を含有する界面活性剤成分を、これらを共通して溶解可能な有機溶媒に溶解して油相を調製すること、
前記有機溶媒を前記油相の質量に対して10質量%未満まで脱溶媒すること、
前記油相と水相とを混合すること、
を含む、請求項1から8のいずれかに記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項10】
前記混合が、脱溶媒後の油相と水相とを混合するものである請求項9記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒が、水溶性有機溶媒である請求項9又は請求項10記載の難溶性薬物含有水中油型乳化組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−51823(P2012−51823A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194296(P2010−194296)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】