説明

難水溶性化合物の準安定形結晶の製造方法

【課題】比較的調製が容易な化合物を用いて、水溶液から難水溶性薬物等の難水溶性化合物の準安定形結晶を製造できる方法を提供すること。
【解決手段】難水溶性化合物の準安定形結晶の製造方法。シクロデキストリン誘導体と難水溶性化合物を水、水溶性溶媒又は水と水溶性溶媒の混合溶媒に溶解して得た溶液を、冷却する、冷却及びpH調整する、又はpH調整をすることで、前記難水溶性化合物の任意の準安定形結晶を析出させる。シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入した化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のオリゴ糖であるシクロデキストリン誘導体を用いた、難水溶性化合物の準安定形結晶の製造方法および難水溶性化合物の準安定形結晶生成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
固体物質は、無機及び有機化合物に係わらず、原子や分子が3次元空間に規則的に配列した結晶とその配列が乱れた非晶質に大別される。近年、検出技術の進歩により、1つの化合物が2種あるいはそれ以上の配列の異なる結晶を形成することが明らかとなってきた。
【0003】
この同一化合物でありながら配列の異なる結晶構造を有する結晶を結晶多形と呼び、それぞれの結晶間で融点や溶解性などの物理化学的性質が異なることが知られている。これらの結晶多形のうち、融点が高く、溶解度が小さいものは安定形、それより熱力学的に不安定なものは準安定形と総称される。
【0004】
準安定形の結晶は、安定形の結晶に比べて化学ポテンシャルが高い。そのため、薬物の分野では、結晶多形の違いは、薬物(有効成分)の溶解性、安定性、打錠性を変化させ、バイオアベイラビリティに影響を与える。非特許文献1は、結晶多形における医薬品開発のプレフォーミュレーション研究について記載する。
【0005】
一方、シクロデキストリンはデンプンにシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用することにより得られる6〜8個のグルコースがα−1,4−グルコシド結合で環状に繋がった分子であり、それぞれα−,β−,γ−シクロデキストリンと呼称される。シクロデキストリンの環の外部は親水性であるが、内部は疎水性を示す空洞であり、この疎水空洞へ難水溶性化合物を取り込む包接作用により難水溶性化合物を可溶化、安定化、徐放化することが知られており、食品、化粧品、医薬品など広い分野で使用されている。
【0006】
例えば、非特許文献2には、シクロデキストリンを医薬製剤に利用する技術が記載されている。
【0007】
近年、シクロデキストリンの物性の改善やさらなる機能性の向上を企図して、シクロデキストリンの水酸基に種々の分子を化学的又は酵素的に修飾したシクロデキストリン誘導体が数多く開発、研究されている。これら誘導体の中で、ヒドロキシプロピル基を修飾したヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンの水溶解性を改善し且つ生体適合性が高いため、リナロール、シトロネロール、サンターロール、シトラールベンジルアセテートなどを可溶化し、一部口紅、ローション等の化粧品用途に使用されている(非特許文献 3参照)。さらに特許文献1によれば、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが抗真菌薬であるイトラコナゾールの可溶化剤として有用である旨の記載があり、実際に日本においても実用化されている。
【0008】
シクロデキストリンによる化合物の結晶制御法として、天然シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン又はジメチル化シクロデキストリンと薬物を粉末状態で混合又は溶液で混和した後、乾燥(スプレイドライ)することにより、薬物の非晶質体が得られることが報告されている。例えば、非特許文献4は、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが結晶性の薬物であるニフェジピンやクロラムフェニコールパルミテートなどと非晶質性複合体を形成し、難水溶性薬物の多型転移を制御可能なことを記載している。
【0009】
さらに、シクロデキストリンを用いた化合物の準安定形の製造法として、非特許文献5にはジメチル−β−シクロデキストリンとトルブタミドを溶解した水溶液からトルブタミドの準安定形が得られることが示されている。
【非特許文献1】ファルマシア Vol.39,No.3(2003)
【非特許文献2】薬剤学67.2 66-79(2007)
【非特許文献3】日本香粧品科学会誌, 17 (2), 1993
【非特許文献4】Eur. J. Pharm. Sci., 5, 23-30 (1997)
【非特許文献5】PHARM TECH JAPAN Vol.23No.1(2007)155-161
【特許文献1】特表平9−502989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献4に記載の方法は、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとニフェジピンやクロラムフェニコールパルミテートなどとの非晶質性複合体を形成して難水溶性薬物の多型転移を制御する方法である。しかし、非特許文献5に記載されているように、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを使用しても、水溶液から難水溶性薬物の準安定形結晶を作成することはできなかった。
【0011】
それに対して、非特許文献5で用いられているジメチル−β−シクロデキストリンは、水溶液から難水溶性薬物の準安定形結晶を作成することを可能にする。しかし、ジメチル−β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンに存在する21個の水酸基中の特定の14個をメチル化したシクロデキストリンであり、高度な精製が必要であることから汎用性に難がある。
【0012】
そこで本発明は、比較的調製が容易な化合物を用いて、水溶液から難水溶性薬物等の難水溶性化合物の準安定形結晶を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は以下のとおりである。
[1]
シクロデキストリン誘導体と難水溶性化合物を水、水溶性溶媒又は水と水溶性溶媒の混合溶媒に溶解して得た溶液を、冷却する、冷却及びpH調整する、又はpH調整をすることで、前記難水溶性化合物の任意の準安定形結晶を析出させること、および前記シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入した化合物であることを特徴とする難水溶性化合物の準安定形結晶の製造方法。
[2]
前記シクロデキストリン誘導体における前記置換基の置換度は、3〜14の範囲である[1]に記載の製造方法。
[3]
前記シクロデキストリン誘導体は、β−シクロデキストリンの2位、3位及び/又は6位にヒドロキシブチルを導入したヒドロキシブチル−β−シクロデキストリンである[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
析出した準安定形結晶を溶液から回収し、回収後の分蜜液に残存するシクロデキストリン誘導体を回収又は再利用する、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記難水溶性化合物が、スルホニル尿素系糖尿病治療薬である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記難水溶性化合物が、グリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、グリメピリド(g l i m e p i r i d e)、トラザミドおよびトルブタミドより選ばれる[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記難水溶性化合物が、固形製剤に使用される医薬用化合物である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入したシクロデキストリン誘導体を含む、難水溶性化合物の準安定形結晶生成剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、化学合成または酵素的に容易に調製できるシクロデキストリン誘導体を用いて、水溶液から難水溶性薬物等の難水溶性化合物の準安定形結晶を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、難水溶性化合物の準安定形結晶の製造方法であって、
シクロデキストリン誘導体と難水溶性化合物を水、水溶性溶媒又は水と水溶性溶媒の混合溶媒に溶解して得た溶液を、冷却する、冷却及びpH調整する、又はpH調整をすることで、前記難水溶性化合物の任意の準安定形結晶を析出させること、および前記シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入した化合物であることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いるシクロデキストリン誘導体におけるシクロデキストリンは、デンプン又はデキストリンにシクロデキストリン生成酵素を作用させて調製される6〜8個のグルコースがα−1,6−グルコシド結合した天然シクロデキストリンであることができる。さらに、本発明に用いるシクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入した化合物である。エチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、またはスルホブチルを置換基として導入したシクロデキストリン誘導体は、公知の手法による化学合成で容易に調製できる。また、グルコース、マルトース、ガラクトース、またはマンノースを置換基として導入したシクロデキストリン誘導体は、枝切り酵素や転移酵素を用いる公知の酵素的方法により容易に調製できる。
【0017】
前記シクロデキストリン誘導体における前記置換基の置換度は、準安定形結晶の析出を促進できるものであれば特に制限はないが、例えば、3〜14の範囲であることができる。置換度は、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜8である。
【0018】
シクロデキストリン誘導体は、β−シクロデキストリンの2位、3位及び/又は6位にヒドロキシブチルを導入したヒドロキシブチル−β−シクロデキストリンであることが、準安定形結晶の析出促進効果という観点から特に好ましい。特に、ヒドロキシブチル化−β−シクロデキストリンは、ヒドロキシブチル基がランダムに複数個導入された誘導体であることができ、このような誘導体であれば、精製が容易である。さらに、ヒドロキシブチル基を導入した誘導体は、メチル基やエチル基を導入した誘導体に比較して皮膚への刺激性が低いことなど、製造コストや安全性などの観点から望ましい。
【0019】
難水溶性化合物とは、例えば、水に対する溶解度が1%w/v(25℃)以下の化合物である。さらに、難水溶性化合物は、準安定形結晶とすることで有用性が向上する種々の化合物であることができる。そのような化合物の例としては、固形製剤に使用される医薬用化合物を挙げることができ、固形製剤とは、日本薬局方に示されるうち、錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤、坐剤の剤形であり、投与経路は経口及び非経口を問わない。
【0020】
さらに、難水溶性化合物とは、例えば、スルホニル尿素系糖尿病治療薬であることができる。スルホニル尿素系糖尿病治療薬とは、2型糖尿病の代表的な治療薬であり、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞に存在するスルホニル尿素受容体に結合する。これによってβ細胞のK+チャネルを閉じさせ、Ca2+チャネル開口によりインスリンを分泌させるよう働きかけ、その分泌を促進したり、血糖値をあげるホルモンの分泌を抑制したりする効果がある。
【0021】
さらに、具体的には、難水溶性化合物としては、例えば、クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、グリメピリド(g l i m e p i r i d e)、トラザミドおよびトルブタミドを挙げることができる。
【0022】
クロルプロパミド
1−(p−クロロフェニルスルホニル)−3−プロピル尿素
溶解度 < 0.1 g/100 mL at 14 ℃
【0023】
グリベンクラミド
5−クロロ−N−[2−[4−[(3−シクロヘキシルウレイド)スルホニル]フェニル]エチル]−2−メトキシベンズアミド
【0024】
グリピジド
N−[2−[4‐[[[(シクロヘキシルアミノ)カルボニル]アミノ]スルホニル]フェニル]エチル]−5−メチルピラジンカルボアミド
【0025】
グリクラジド
1−(3,3a,4,5,6,6a−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル)−3−トシル尿素
【0026】
グリメピリド
体系名 1−[[4−[2−[(3−エチル−4−メチル−2−オキソ−3−ピロリン−1−イルカルボニル)アミノ]エチル]フェニル]スルホニル]−3−(4α−メチルシクロヘキサン−1β−イル)尿素
【0027】
トラザミド
N−[[(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)アミノ]カルボニル]−4−メチルベンゼンスルホンアミド
【0028】
トルブタミド(Tolbutamide)
N−[(ブチルアミノ)カルボニル]−4−メチルベンゼンスルホンアミド
溶解度 < 0.1 g/100 mL at 16 ℃
【0029】
準安定形結晶とは、ある分子が、溶液から析出する段階で分子の配列の仕方によりエネルギー状態の異なった状態で結晶化するために生じる同一分子の結晶の中で、不安定な結晶のことであり、安定な結晶と比較して高い溶解性や低い融点等の特性を有する結晶のことである。また、準安定な結晶は、エネルギー的に不安定であるために、安定な結晶へ転移することができる。
【0030】
本発明における準安定形結晶の製造は、シクロデキストリン誘導体及び難水溶性化合物を水、水溶性溶媒又は水と水溶性溶媒の混合溶媒に溶解した溶解液を、冷却する、冷却及びpH調整する、又はpH調整をすることで、結晶を析出させる過程を含む。上記溶解液を調製しさらに、冷却、pH調整する条件は、シクロデキストリン誘導体及び難水溶性化合物が安定である条件から適宜選択することができる。
シクロデキストリン誘導体と難水溶性化合物を溶解させる水溶性溶媒としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール類やアセトニトリル、アセトンが例示される。水と水溶性溶媒の混合溶媒は、難水溶性化合物の溶解性を考慮して適宜決定できる。
また、製造pHは特に指定されないが2.5−10.0 の範囲が適当であり、pH調整のために水及び/又は水溶性溶媒に緩衝剤を添加することができる。緩衝剤としてはクエン酸、リン酸、酢酸、グリシン及びそれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが例示できる。
【0031】
前記シクロデキストリン誘導体及び難水溶性化合物を含む溶解液中のシクロデキストリン誘導体の含有量は、特に限定されないが、0.01−40%(w/v)の範囲が望ましく、さらに好ましくは0.01−10%(w/v) の範囲が望ましい。
【0032】
また、難水溶性化合物の濃度は、シクロデキストリン誘導体1質量部に対して0.1−100質量部の範囲で任意に選択することが出来る。シクロデキストリン誘導体及び難水溶性化合物の溶解方法は特定されないが、必要に応じて加熱、撹拌又は超音波処理を行うことが望ましい。
【0033】
シクロデキストリン誘導体及び難水溶性化合物を含む溶解液は、溶解後直ちに冷却又はpHを調整した後に冷却又は放冷することが望ましく、冷却温度としては0〜37℃ が好ましい。冷却後、溶液を静置又は撹拌等の製造上許容できる刺激を与え結晶を析出させることが出来る。
【0034】
析出した結晶の回収方法に制限は無く、フィルター又は膜を用いたろ過あるいは遠心分離等の回収法を用いることが出来る。結晶を回収した後の残液は、そのまま又は難水溶性化合物を再結晶化、抽出又はイオン交換あるいは吸着カラムを用いて分離除去後に再利用することが出来る。
【0035】
本発明の製造方法においては、析出した準安定形結晶を溶液から回収し、回収後の分蜜液に残存するシクロデキストリン誘導体を回収又は再利用することができる。析出した結晶中にシクロデキストリン誘導体は含まれないため、結晶を取り除いた残液中には、シクロデキストリン誘導体及び難水溶性化合物が残存している。この溶液にさらに難水溶性化合物を追加することにより、シクロデキストリン誘導体を追添加することなく再利用することが出来る。また、難水溶性化合物を抽出又はイオン交換あるいは吸着カラムを用いて分離除去することにより、シクロデキストリン誘導体を回収することが出来る。
【0036】
本発明は、難水溶性化合物の準安定形結晶生成剤も包含する。本発明の準安定形結晶生成剤は、シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入したシクロデキストリン誘導体を含む。このシクロデキストリン誘導体は、上記製造方法で説明したものと同様である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0038】
実施例1
(トルブタミド)
リン酸緩衝液 (pH 8) にトルブタミドを溶解した後、ヒドロキシブチル化−β−シクロデキストリン(ヒドロキシブチル置換度:5.5)(HB-β-CyD)を終濃度 5mM になるように溶解した。溶解後、0.5M HClでpH 5.0に調整し、溶液中の塵等を除くために0.45μmのフィルターを用いてろ過した。ろ液を4℃で1日静置することで結晶が析出し、ろ過することにより結晶を得た。得られた結晶を、粉末法X線回折測定に供した(図1参照)。10.6°、18.9°、27.1°に準安定形であるFormIV に特徴的なピークが確認された。一方、安定形であるFormIに特徴的な8.7°、12.1°、12.9°のピークは観察されず、準安定形であるFormIV が特異的に析出することで準安定形を得ることが出来た。(収率70%(27mg/20mL仕込み))
【0039】
比較のために、トルブタミド(原料、Intact TB)、トルブタミドのみを上記と同様の条件で結晶化させて得られた結晶(alone)及びヒドロキシブチル化−β−シクロデキストリンに代えてジメチル−β−シクロデキストリン(DM-β-CyD)を用いて上記と同様の条件で結晶化させて得られたトルブタミド結晶(DM-β-CyD)の粉末法X線回折試験結果も図1に示す。
【0040】
実施例2
(クロルプロパミド)
リン酸緩衝液(pH 8)にクロルプロパミドを溶解した後、ヒドロキシブチル化−β−シクロデキストリン(ヒドロキシブチル置換度:5.5)(HB-β-CyD)を終濃度5mMになるように溶解した。溶解後、0.5M HClでpH 5.0に調整し、溶液中の塵等を除くために0.45μmのフィルターを用いてろ過した。ろ液を4℃で1日静置することで結晶が析出し、ろ過することにより結晶を得た。得られた結晶を、粉末法X線回折測定に供した(図2参照)。9.2°、10.9°、18.4°に準安定形であるFormIIに特徴的なピークが確認された。一方、安定形であるFormAに特徴的な6.6°、11.7°のピークは観察されず、準安定形であるFormIIが特異的に析出することで準安定形を得ることが出来た。(収率 60% (55mg/20mL仕込み))
【0041】
比較のために、クロルプロパミドのみを上記と同様の条件で結晶化させて得られた結晶(alone)及びヒドロキシブチル化−β−シクロデキストリンに代えてジメチル−β−シクロデキストリン(DM-β-CyD)を用いて上記と同様の条件で結晶化させて得られたクロルプロパミド結晶(DM-β-CyD)の粉末法X線回折試験結果も図2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、スルホニル尿素系糖尿病治療薬などの難水溶性化合物の準安定形結晶製造分野等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1で得た粉末法X線回折図。
【図2】実施例2で得た粉末法X線回折図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン誘導体と難水溶性化合物を水、水溶性溶媒又は水と水溶性溶媒の混合溶媒に溶解して得た溶液を、冷却する、冷却及びpH調整する、又はpH調整をすることで、前記難水溶性化合物の任意の準安定形結晶を析出させること、および前記シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入した化合物であることを特徴とする難水溶性化合物の準安定形結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シクロデキストリン誘導体における前記置換基の置換度は、3〜14の範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記シクロデキストリン誘導体は、β−シクロデキストリンの2位、3位及び/又は6位にヒドロキシブチルを導入したヒドロキシブチル−β−シクロデキストリンである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
析出した準安定形結晶を溶液から回収し、回収後の分蜜液に残存するシクロデキストリン誘導体を回収又は再利用する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記難水溶性化合物が、スルホニル尿素系糖尿病治療薬である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記難水溶性化合物が、グリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、グリメピリド(g l i m e p i r i d e)、トラザミドおよびトルブタミドより選ばれる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記難水溶性化合物が、固形製剤に使用される医薬用化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
シクロデキストリンのグルコース分子中の2位、3位及び/又は6位にエチル、プロピル、ブチル、アセチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル、カルボキシメチル、アミノ、トルエンスルホニル、スルホブチル、グルコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースから成る群から選ばれる少なくとも1種の置換基を導入したシクロデキストリン誘導体を含む、難水溶性化合物の準安定形結晶生成剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263323(P2009−263323A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118457(P2008−118457)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】