説明

難水溶性薬物の溶出性を改善した製剤

【課題】難水溶性薬物、特に(+)−(6R,7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩またはその水和物の溶出性を改善した製剤の提供。
【解決手段】少なくとも1)難水溶性薬物、2)セルロース類、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルファ化デンプン、およびポリビニル類から選択される1または2以上の崩壊剤、および3)キシリト−ル、D−マンニトール、エリスリトール、トレハロース、およびラクチトールからなる群から選択される1または2以上の糖アルコールを、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.2倍〜5倍となるように配合して製剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難水溶性薬物の溶出性を改善した製剤、詳しくは少なくとも難水溶性薬物、崩壊剤および糖アルコールを含有する経口投与製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経口投与製剤は、服用回数が多い場合、コンプライアンスは低下することが示されている(非特許文献1)。そこで、1日1回の服用ですむOAD(Once a day)製剤が開発されている。OAD製剤とするには、薬効を持続させるために、薬物の溶出性を抑制した徐放性製剤とすることが必須である。
【0003】
1日の服用回数が数回におよぶ薬物として、例えば抗生物質である(+)−(6R,7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩・1水和物(以下、塩酸セフカペンピボキシルという)が挙げられる。塩酸セフカペンピボキシルは、グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペクトラムを有する。特許文献1には塩酸セフカペンピボキシルを含む化合物が記載されている。また、特許文献1には、塩酸セフカペンピボキシルを含有する徐放性製剤が記載されている。
【0004】
しかしながら、塩酸セフカペンピボキシルのような難水溶性薬物をOAD製剤とするために、単に通常の手段で徐放性製剤を調製しても、製剤中から薬物がほとんど溶出しない可能性がある。このために、薬物が体内でほとんど吸収されず、バイオアベイラビリティーが低下する恐れもある。特に、製剤中に高含量の難水溶性薬物を配合した場合、その傾向が強い。これを改良するために、徐放性基剤を被覆する前の製剤(以下、素製剤という)からの薬物の溶出性を高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−89号公報
【特許文献2】特開平4−300821号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】月刊薬事、41巻、29頁、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塩酸セフカペンピボキシルの場合、上記いずれの文献にも溶出性を高めた素製剤の記載はない。したがって、難水溶性薬物の溶出性を高めた素製剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明者らは素製剤中に崩壊剤および糖アルコールを配合し、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合を最適化することによって、難水溶性薬物の溶出性が改善されることを見出し、以下に示す本発明を完成した。
【0009】
(1)少なくとも以下の成分
1)難水溶性薬物として(+)−(6R,7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩またはその水和物、
2)セルロース類、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルファ化デンプン、およびポリビニル類から選択される1または2以上の崩壊剤、および
3)キシリト−ル、D−マンニトール、エリスリトール、トレハロース、およびラクチトールからなる群から選択される1または2以上の糖アルコール
を含有し、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.2倍〜5倍であることを特徴とする難水溶性薬物の溶出性を改善した製剤。
【0010】
(2)崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルファ化デンプンおよびポリビニルピロリドンから選択される1または2以上の崩壊剤である(1)に記載の製剤。
【0011】
(3)崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.3倍〜1.2倍であることを特徴とする(1)または(2)に記載の製剤。
(4)糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.8倍〜4倍である(1)または(2)に記載の製剤。
(5)崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.8倍〜1.2倍であることを特徴とする(1)または(2)に記載の製剤。
(6)崩壊剤がクロスカルメロースナトリウム、糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で2.5倍〜3.5倍であることを特徴とする(1)または(2)に記載の製剤。
【0012】
(7)崩壊剤がカルボキシメチルセルロースカルシウム、糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で2.5倍〜3.5倍であることを特徴とする(1)または(2)に記載の製剤。
(8)顆粒剤である(1)から(7)のいずれかに記載の製剤。
(9)(8)記載の製剤に徐放性基剤または腸溶性基剤を被覆した徐放性製剤。
(10)1日1回服用する製剤である(9)に記載の製剤。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】崩壊剤であるクロスカルメロースナトリウムおよび糖アルコールであるキシリトールの重量比と塩酸セフカペンピボキシルの溶出試験開始60、120分後の溶出率の関係を示す。縦軸は塩酸セフカペンピボキシルの溶出率(%)、横軸は崩壊剤、糖アルコールの配合量(mg)およびその重量比を表す。
【図2】崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるD−マンニトールの重量比と溶出試験開始60、120分後における塩酸セフカペンピボキシルの溶出率の関係を示す。縦軸は塩酸セフカペンピボキシルの溶出率(%)、横軸は崩壊剤、糖アルコールの配合量(mg)およびその重量比を表す。
【図3】崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるマルチトールの重量比と溶出試験開始60、120分後における塩酸セフカペンピボキシルの溶出率の関係を示す。縦軸は塩酸セフカペンピボキシルの溶出率(%)、横軸は崩壊剤、糖アルコールの配合量(mg)およびその重量比を表す。
【図4】崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるエリスリトールの重量比と溶出試験開始60、120分後における塩酸セフカペンピボキシルの溶出率の関係を示す。縦軸は塩酸セフカペンピボキシルの溶出率(%)、横軸は崩壊剤、糖アルコールの配合量(mg)およびその重量比を表す。
【図5】崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるトレハロースの重量比と溶出試験開始60、120分後における塩酸セフカペンピボキシルの溶出率の関係を示す。縦軸は塩酸セフカペンピボキシルの溶出率(%)、横軸は崩壊剤、糖アルコールの配合量(mg)およびその重量比を表す。
【図6】崩壊剤であるカルボキシメチルセルロースカルシウムおよび糖アルコールであるキシリトールの重量比と溶出試験開始60、120分後における塩酸セフカペンピボキシルの溶出率の関係を示す。縦軸は塩酸セフカペンピボキシルの溶出率(%)、横軸は崩壊剤、糖アルコールの配合量(%)およびその重量比を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における難水溶性薬物は医薬品、医薬部外品、動物薬等、特に限定されないが、該水溶解度は37℃において、好ましくは1000μg/mL以下、より好ましくは100μg/mL以下、特に好ましくは10μg/mL以下である。具体的には、好ましくは7β−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−(1,2,3−トリアゾール−4−イルチオメチルチオ)−1−カルバ−3−セフェム−4−カルボン酸、(+)−(Z)−7−[(1R,2S,3S,4S)−3−ベンゼンスルホンアミドビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−イル]−5−ヘプテン酸カルシウム二水和物、(+)−(6R,7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸の活性エステル、特に好ましくは(+)−(6R,7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルまたはその製薬上許容される塩やそれらの水和物(例:塩酸塩・1水和物)である。
【0015】
難水溶性薬物の含量は、所望の薬理効果を得ることができ、しかも製剤を形成できる割合であればよいが、好ましくは、通常、製剤全量に対して20〜80(W/W)%、さらに好ましくは30〜60(W/W)%、特に好ましくは30〜55(W/W)%である。難水溶性薬物の含量が高すぎると経時変化を受けやすく、また溶出性も低下する恐れがある。逆に低すぎると所望の薬理効果が得られない。
【0016】
本発明で使用する崩壊剤としては、通常、水中で固形の製剤を崩壊させるものであればよく、好ましくは薬添規または食添に収載されている固形状の崩壊剤を使用でき、セルロース類、デンプン類およびポリビニル類が好ましい。具体的には、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルファ化デンプンおよびポリビニルピロリドンであり、より好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、またはカルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)である。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
崩壊剤の含量は、製剤中の難水溶性薬物の含量などによっても異なるが、好ましくは、通常、製剤全量に対して5(W/W)%以上、より好ましくは5〜50(W/W)%、さらに好ましくは7.5〜45(W/W)%、特に好ましくは10〜40または20〜30(W/W)%である。崩壊剤の配合割合が高すぎると製剤がすぐに崩壊し、十分な溶出性が確保できない。逆に低すぎると製剤が崩壊せず、薬物がほとんど溶出しない。
【0018】
本発明で使用する糖アルコールとしては、通常、水に溶解する糖アルコールであればよく、好ましくは薬添規または食添に収載されている固形状の糖アルコールを使用できる。より好ましくは、水に対する溶解度が25℃で15(W/V)%以上、さらに好ましくは30(W/V)%以上、特に好ましくは50(W/V)%以上である糖アルコールであり、例えば、単糖類、二糖類の糖アルコールである。
【0019】
具体的には、キシリトール、D−マンニトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース、D−ソルビトールおよびラクチトール等が使用できる。特に、好ましくは、キシリトール、D−マンニトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロースである。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
糖アルコールの含量は、製剤中の主薬の含量などによっても異なるが、好ましくは、通常、製剤全量に対して5(W/W)%以上、より好ましくは5〜50(W/W)%、さらに好ましくは7.5〜45(W/W)%、特に好ましくは10〜40(W/W)%である。糖アルコールの配合割合が高すぎると経時変化を受けやすく、また製剤も調製できない。逆に低すぎると十分な薬物の溶出性が得られない。さらに、上記糖アルコールは、賦形剤として添加されていてもよい。
【0021】
糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合は、通常、難水溶性薬物の製剤からの溶出性が増大する割合であればよいが、好ましくは糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.2〜5倍、より好ましくは0.25〜4.5倍、特に好ましくは0.3〜4倍である。崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであるならば、好ましくは糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.2〜1.5倍、より好ましくは0.25〜1.25倍、特に好ましくは0.3〜1.2倍ある。糖アルコールがキシリトールであるならば、好ましくは糖アルコールに対する崩壊剤(好ましくはCMC−Ca)の配合割合が重量比で0.5〜5倍、より好ましくは0.6〜4.5倍、特に好ましくは0.8〜4倍、さらに好ましくは2.5〜3.5倍.である。崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、糖アルコールがキシリトールであるならば、好ましくは糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.6〜1.4倍、より好ましくは0.7〜1.3倍、特に好ましくは0.8〜1.2倍である。溶出性や製剤の加工性などを考慮し、崩壊剤と糖アルコールの組合せで好ましいものの1つは、崩壊剤がクロスカルメロースナトリウム、糖アルコールがキシリトールであり、この場合、好ましくは糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合は重量比で2〜4倍、より好ましくは2.25〜3.75倍、特に好ましくは2.5〜3.5倍、最も好ましくは約3倍である。別に好ましい形態は、崩壊剤がCMC−Ca、糖アルコールがキシリトールであり、この場合、好ましくは糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合は重量比で2〜4倍、より好ましくは2.25〜3.75倍、特に好ましくは2.5〜3.5倍、最も好ましくは約3倍である。崩壊剤の含量が多すぎると、造粒性が悪くなり、素製剤がポーラス(porous)な状態になる。その結果、コーティングに耐え得る強度が得られなくなる。
【0022】
本発明の製剤は、さらに任意に結合剤、造粒助剤、賦形剤、安定化剤など製剤学上許容される添加剤を含有しうる。
【0023】
結合剤としては、当該分野で周知なものを幅広く使用することが可能であり、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール、ゼラチン、デキストリン等が例示されるが、好ましくはヒドロキシプロピルセルロースである。結合剤の含量は、好ましくは、通常、製剤全量に対して0.5〜15(W/W)%、好ましくは1.0〜10(W/W)%、より好ましくは1.5〜5(W/W)%である。
【0024】
造粒助剤としては、当該分野で周知なものを幅広く使用することが可能であり、例えば硬化ヒマシ油、ステアリルアルコール等のワックス類、マクロゴール4000、マクロゴール6000等のポリエチレングリコール類が例示されるが、好ましくは硬化ヒマシ油である。造粒助剤の含量は、好ましくは、通常、製剤全量に対して5〜25(W/W)%、好ましくは3〜20(W/W)%、より好ましくは2〜10(W/W)%である。
【0025】
賦形剤としては、当該分野で周知なものを幅広く使用することが可能であり、例えば乳糖、白糖、糖アルコール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、合成ケイ酸アルミニウム等が例示されるが、好ましくは乳糖、白糖、糖アルコール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプンである。賦形剤の含量は、主薬含量、目的とする製剤の大きさ等を考慮して適宜設定すればよいが、通常、製剤全量に対して40〜90(W/W)%、好ましくは45〜85(W/W)%、より好ましくは50〜80(W/W)%である。
【0026】
安定化剤としては、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アミノ酢酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、より好ましくは酸化マグネシウム、亜硫酸水素ナトリウムが例示される。安定化剤の含量は、主薬含量、目的とする製剤の大きさ等を考慮して適宜設定すればよいが、通常、製剤全量に対して0.1〜20.0(W/W)%、好ましくは0.5〜10.0(W/W)%、である。
【0027】
本発明の製剤の形態としては、特に限定されないが、好ましくは顆粒剤、散剤、細粒剤および錠剤等の固形製剤であり、特に好ましくは顆粒剤である。
【0028】
本発明の顆粒剤を製造する場合、特に限定されないが、好ましくは以下のような方法で製造する。すなわち、難水溶性薬物、糖アルコール、崩壊剤および所望により賦形剤、安定化剤などを混合し、その混合粉末に所望により結合剤を含有した水溶液を添加し、練合する。その後、押し出し造粒機にて造粒し、粒剤を乾燥する。乾燥後、整粒、分級し顆粒剤を製造すればよい。さらに、分級後顆粒剤の形状を整えるために、マルメライザー等で顆粒剤を球形化する場合もある。また、顆粒剤を製造する方法として、転動造粒法、流動層造粒法、攪拌造粒法、攪拌流動層造粒法でも調製することが可能である。
【0029】
本発明の製剤は、顆粒剤に調製後、それらをさらに錠剤化、またはカプセル充填等することも可能である。この際、錠剤は、賦形剤、結合剤、滑沢剤など製剤学上許容される添加剤を含有しうる。また、カプセル剤の場合、硬カプセル剤や軟カプセル剤に充填しうる。
【0030】
本発明の製剤を水に添加すると、製剤中から薬物が速やかに溶出する。好ましくは第14改正日本薬局方のパドル法(パドル攪拌速度50rpm、試験温度37℃、第14改正日本薬局方第2液[pH6.8])において、37℃における溶出試験開始120分後の溶出率が好ましくは60%以上、より好ましくは溶出率が70%以上、特に好ましくは溶出率が80%以上となる。また崩壊剤にCMC−Ca、糖アルコールにキシリトールを使用した場合などには、60分後の溶出率が好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上になる。また120分後の溶出率が好ましくは90%以上になる。
【0031】
本製剤は、基本的には薬物、糖アルコールおよび崩壊剤から構成されるが、薬物と糖アルコールまたは薬物と崩壊剤が複合体を形成している場合もありうる。
【0032】
発明の顆粒剤、錠剤またはカプセル剤等は成形後、徐放性基剤や腸溶性基剤をコーティングし、徐放性あるいは腸溶性製剤にすることもできる。徐放性基剤の例としては、エチルセルロース、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS、ステアリン酸、硬化大豆油、硬化ナタネ油、硬化油、ステアリルアルコール、セタノール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、パラフィン、グリセリンモノステアレート等がある。また、腸溶性フィルム基剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、酢酸フタル酸セルロース、精製セラック等がある。
【0033】
上記の徐放性基剤や腸溶性基剤のコーティングは、所望により素顆粒に下掛層を形成した後、行ってもよい。該下掛層の成分としては、例えばHPMCやタルクなどが例示される。
【0034】
また、徐放性基剤や腸溶性基剤をコーティングする装置としては、工業的に用いられているものであればよいが、例えば、パンコーティング装置、流動層型コーティング装置、ワースター型コーティング装置、遠心流動層型コーティング装置、攪拌転動流動層型コーティング装置等が挙げられる。
【0035】
上記徐放性あるいは腸溶性製剤の服用回数は、特に限られないが好ましくは1日1〜3回、より好ましくは1日1〜2回、特に好ましくは1日1回である。
【0036】
本発明は、好ましくは、製剤中に少なくとも難水溶性薬物、崩壊剤および糖アルコールを含有し、崩壊剤および糖アルコールの配合割合を最適化して、例えば37℃における前記溶出試験開始120分後の薬物溶出率が60%以上となるようにした製剤を提供するものである。また、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.2〜5倍、好ましくは0.25〜4.5倍、さらに好ましくは0.3〜4倍であることを特徴とする難水溶性薬物の溶出性を改善する方法も提供するものである。さらに、該溶出性改善方法を包含する前記の難水溶性薬物の溶出性を改善した製剤の製造方法も提供する。
【実施例】
【0037】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
以下に示す製造方法に準じて、表1に示す組成の各顆粒剤を製造した。
【0038】
(実施例1製剤の製造方法)
薬物は特開昭62−89号に記載の前記塩酸セフカペンピボキシルを粉砕して用いた。崩壊剤は低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(以下、L−HPC)、糖アルコールはキシリトールを、造粒助剤は硬化ヒマシ油を、結合剤はヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPC−L)を用いた。
【0039】
塩酸セフカペンピボキシル、L−HPC、キシリトールおよび硬化ヒマシ油を乳鉢中で混合した後、3(W/V)%のHPC−L水溶液を加え、練合した。練合した混合物を押し出し造粒機[メッシュφ0.6mm、機械名ドームグラン(不二パウダル製)]にて造粒し、50℃、30分間乾燥した。その後、14メッシュの篩にて整粒、20〜42メッシュの篩にて分級し、顆粒剤を調製した。
【0040】
【表1】

【0041】
(溶出試験)
上記製剤について、第14改正日本薬局方に規定の方法に従って溶出試験を行った。溶出試験の条件の詳細は次の通りである。なお、試験液中への製剤投入量は、約270mg(塩酸セフカペンピボキシル100mg力価量)であった。
[溶出試験条件]
試験法:日局 第2法(パドル法)攪拌速度50rpm
試験液:第2液(pH約6.8)900mL、水温37±0.5℃
試験液採取時間:5、15、30、45、60、90、120(分)
試験液採取量:2mL
溶出試験法:本品の表示量に対応する顆粒を精密に量り、これを試料として試験液に37℃に保った局方崩壊試験液第2液900mLを用い、溶出試験第2法により,毎分50回転で試験を行う。溶出試験開始後、経時的にカートリッジ式綿栓を取り付けたホールピペットで溶出液2mLを吸引採取し、この液に試験液8mLを加えて試料溶液とする。溶出液採取後は同量の試験液を試験ビーカー内に補充する。別に、塩酸セフカペンピボキシル標準品約0.015gを精密に量り、少量のメタノールを加えて溶かし、試験液を加えて正確に100mLとする。この液10mLを正確に量り、試験液を加えて正確に50mLとし、標準溶液とする。波長245nmと380nmの吸光度差を吸光度とし、試料溶液及び標準溶液について吸光度A及びAを求める。
【0042】
【数1】

【0043】
その結果、実施例2の糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が1.0倍の場合、最も溶出性が増大し、溶出試験開始60分後の溶出率は80%以上であった。
【0044】
(実施例4〜6、比較例3〜4)
前記実施例と同様の方法により、崩壊剤であるクロスカルメロースナトリウムおよび糖アルコールであるキシリトールの含量が異なる塩酸セフカペンピボキシル含有顆粒剤を製造した。その組成を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
溶出試験開始60分後、120分後の溶出率と崩壊剤、糖アルコールの配合割合の関係を図1に示す。その結果、実施例6の糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が3.0倍の場合、最も溶出性が増大し、溶出試験開始60分後の溶出率は80%以上であった。
【0047】
(実施例7〜9、比較例5〜6)
前記実施例と同様の方法により、崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるD−マンニトールの含量が異なる塩酸セフカペンピボキシル含有顆粒剤を製造した。その組成を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
溶出試験開始60分後、120分後の溶出率と崩壊剤、糖アルコールの配合割合の関係を図2に示す。その結果、実施例7の糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が0.33倍の場合、最も溶出性が増大し、溶出試験開始120分後の溶出率は60%以上であった。
【0050】
(実施例10〜12、比較例7〜8)
前記実施例と同様の方法により、崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるマルチトールの含量が異なる塩酸セフカペンピボキシル含有顆粒剤を製造した。その組成を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
溶出試験開始60分後、120分後の溶出率と崩壊剤、糖アルコールの配合割合の関係を図3に示す。その結果、実施例11の糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が1.0倍の場合、最も溶出性が増大し、溶出試験開始60分後の溶出率は80%以上であった。
【0053】
(実施例13〜15、比較例9〜10)
前記実施例と同様の方法により、崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるエリスリトールの含量が異なる塩酸セフカペンピボキシル含有顆粒剤を製造した。その組成を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
溶出試験開始60分後、120分後の溶出率と崩壊剤、糖アルコールの配合割合の関係を図4に示す。その結果、実施例13の糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が0.33倍の場合、最も溶出性が増大し、溶出試験開始120分後の溶出率は70%以上であった。
【0056】
(実施例16〜18、比較例11〜12)
前記実施例と同様の方法により、崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび糖アルコールであるトレハロースの含量が異なる塩酸セフカペンピボキシル含有顆粒剤を製造した。その組成を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
溶出試験開始60分後、120分後の溶出率と崩壊剤、糖アルコールの配合割合の関係を図5に示す。その結果、実施例13の糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が0.33倍の場合、最も溶出性が増大し、溶出試験開始120分後の溶出率は80%以上であった。
【0059】
(実施例19)
以下の成分からなる徐放性顆粒剤を製造した。まず実施例1の方法に準じて素顆粒を調製した後、下掛層を形成し、次に腸溶層を被覆した。
【0060】
【表7】

【0061】
また溶出試験(pH6.8)開始60分後、120分後の溶出率と崩壊剤(CMC Ca)、糖アルコール(キシリトール)の配合割合の関係を図6に示す。その結果、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が0.33倍以上で80%以上の溶出率を示し、1〜3倍でほぼ90%以上の溶出率を示した。また本製剤はpH1.2の酸性条件下では、試験開始後2時間を経過しても薬物の溶出はほとんどみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、難水溶性薬物の溶出性を改善した製剤を提供する。本製剤を含有する徐放性製剤は、薬効が持続して薬物の服用回数が低減し、患者のコンプライアンスが向上する。さらに、本発明製剤中に配合した薬物の経時安定性は高く、長期保存も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の成分
1)難水溶性薬物として(+)−(6R,7R)−7−[(Z)−2−(2−アミノ−4−チアゾリル)−2−ペンテンアミド]−3−カルバモイルオキシメチル−8−オキソ−5−チア−1−アザビシクロ[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル塩酸塩またはその水和物、
2)セルロース類、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルファ化デンプン、およびポリビニル類から選択される1または2以上の崩壊剤、および
3)キシリト−ル、D−マンニトール、エリスリトール、トレハロース、およびラクチトールからなる群から選択される1または2以上の糖アルコール
を含有し、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.2倍〜5倍であることを特徴とする難水溶性薬物の溶出性を改善した製剤。
【請求項2】
崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルファ化デンプンおよびポリビニルピロリドンから選択される1または2以上の崩壊剤である請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.3倍〜1.2倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.8倍〜4倍である請求項1または2に記載の製剤。
【請求項5】
崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で0.8倍〜1.2倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の製剤。
【請求項6】
崩壊剤がクロスカルメロースナトリウム、糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で2.5倍〜3.5倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の製剤。
【請求項7】
崩壊剤がカルボキシメチルセルロースカルシウム、糖アルコールがキシリトールであり、糖アルコールに対する崩壊剤の配合割合が重量比で2.5倍〜3.5倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の製剤。
【請求項8】
顆粒剤である請求項1から7のいずれかに記載の製剤。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製剤に徐放性基剤または腸溶性基剤を被覆した徐放性製剤。
【請求項10】
1日1回服用する製剤である請求項9に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90175(P2010−90175A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13649(P2010−13649)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【分割の表示】特願2004−505098(P2004−505098)の分割
【原出願日】平成15年5月21日(2003.5.21)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】