説明

難溶性化合物の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置

【課題】難溶性有機化合物もしくは水不溶性色材の微粒子の一次粒子を極めて微細なナノメートルサイズのものとし、所定の形状の柱状粒子とし含有させた分散体及びその製造方法を提供する。また、分散安定性及び保存安定性が非常に高く、所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵することができる上記柱状微粒子を含有する分散体、及びこれを効率良く得る製造方法を提供する。
【解決手段】アスペクト比3以上、かつ長軸長さが50nm〜300nmの柱状粒子であり、かつ0.5質量%液の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下である難溶性有機化合物の微粒子を含有する難溶性有機化合物分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難溶性有機化合物の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
難溶性有機化合物や、これに類する水不溶性色材の分散体を得る手法としては、それらを単独あるいは併用して水性溶媒または有機溶媒に添加し、サンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法が採用されている(特許文献1、2参照)。また、着色力や耐候性の向上を考慮し顔料を固溶体化することが提案されている(特許文献3参照)。
その他、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させ顔料分散液を調製する方法(以下、前記方法をビルドアップ法と記述する。)、またそこに用いられる所定の高分子化合物等の検討がなされている(特許文献4〜7参照)。しかしこれら手法により作製された顔料分散液は、保存時に一次もしくは二次粒子径の増大がおきやすく、十分な保存安定性があるとは言えず、さらなる保存安定性の改良が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開2006−57044号公報
【特許文献2】特開2006−328262号公報
【特許文献3】特開昭60−35055号公報
【特許文献4】特開2003−26972号公報
【特許文献5】特開2004−43776号公報
【特許文献6】特開2006−342316号公報
【特許文献7】特開2007−119586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、難溶性有機化合物もしくは水不溶性色材の微粒子の一次粒子を極めて微細なナノメートルサイズのものとし、さらに所定の形状の柱状粒子とし含有させた分散体及びその製造方法の提供を目的とする。また、本発明は、分散安定性及び保存安定性が非常に高く、所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵することができる上記柱状微粒子を含有する分散体、及びこれを効率良く得る製造方法の提供を目的とする。また、上記の優れた特性を有する分散体、特にはその水不溶性色材の水性分散体を用いた記録液、インクセット、画像形成方法、及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)アスペクト比3以上、かつ長軸長さが50nm〜300nmの柱状粒子であり、かつ0.5質量%液の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下である難溶性有機化合物の微粒子を含有することを特徴とする難溶性有機化合物分散体。
(2)前記難溶性有機化合物が、水不溶性色材であることを特徴とする(1)に記載の分散体。
(3)前記分散体中に含まれる微粒子が、共存する高分子化合物により分散された水不溶性色材であることを特徴とする(1)又は(2)記載の分散体。
(4)分散体の分散媒が、水性媒体であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の分散体。
(5)前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の酸基を持つ酸基含有高分子化合物であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の分散体。
(6)前記難容性有機化合物が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の分散体。
(7)前記粒子径、アスペクト比、及び長軸長さを有する難溶性化合物の微粒子の数が、分散体中の難溶性有機化合物の全一次微粒子の80個数%以上である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の分散体。
(8)(1)有機溶剤に、有機もしくは無機の塩基または有機もしくは無機の酸を用いて難溶性有機化合物と高分子化合物とを共溶解させる工程
(2)(1)で得られた溶解液を水性媒体と混合し、難溶性有機化合物の微粒子を生成させ分散させる工程
(3)(2)で得られた難溶性有機化合物分散体に対し、所定の温度をかけ加熱することで一次粒子を成長させ、全一次粒子の少なくとも80%以上が、アスペクト比3以上かつ長軸長さが50nm〜300nmの柱状粒子であり、かつ0.5質量%液の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下である分散体を形成する工程、
を含むことを特徴とする、難溶性有機化合物の水性分散体製造方法。
(9)前記難溶性有機化合物が、水不溶性色材であることを特徴とする(8)に記載の水性分散体製造方法。
(10)前記水不溶性色材と高分子化合物とを共溶解させる工程(1)において、使用する前記塩基が、下記一般式(I)または(II)で表されることを特徴とする、(8)又は(9)に記載の水性分散体製造方法。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜3の無置換の直鎖もしくは分枝のアルキルであり、nは1〜4の整数である。)
(11)前記難溶性有機化合物が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(8)〜(10)いずれか1項に記載の水不溶性色材の水性分散体製造方法。
(12)(8)〜(11)のいずれか1項に記載の製造方法で得た分散体。
(13)(1)〜(7)及び(12)のいずれか1項に記載の分散体中の難溶性有機化合物の微粒子を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
(14)前記記録液がインクジェット用記録液である(13)に記載の記録液。
(15)(13)又は(14)に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
(16)(13)又は(14)に記載の記録液、又は(15)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
(17)(13)又は(14)に記載の記録液、又は(15)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
(18)(13)又は(14)に記載の記録液、又は(15)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の分散体は、難溶性有機化合物もしくは水不溶性化合物をナノメートルサイズという極めて微細でありしかも柱状にした微粒子として含有するため、従来の球形ないし不定形の微粒子ではなしえない特有の性質をその分散体ないしこれを用いた記録液等に付与することができる。また、本発明の難溶性有機化合物もしくは水不溶性化合物の上記柱状微粒子を含有する分散体は分散安定性及び保存安定性が非常に高く、所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵することができるという優れた作用効果を奏する。
さらにまた、本発明の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する分散体を効率的に製造することができ、これを用いた記録液は高い透明性と良好な吐出性を有し、高性能のインクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の分散体について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。まず、本発明で使用する難溶性有機化合物について説明する。
【0008】
本発明における難溶性有機化合物としては、強い水素結合性と強固な結晶構造により不溶性を示すキチン・キトサンや、綿花などの主成分であるセルロース等の難溶性多糖類とその誘導体、水素結合性に加え、強いπ-π共役相互作用により難溶性を示す有機顔料、医薬品として使用されうる難溶性化合物等を示し、例えば難溶性医薬品としては抗真菌剤(イトラコナゾールなど)、ジヒドロピリジン系の降圧剤(ニフェジピン、ニルバジピン、塩酸ニカルジピン、塩酸ベニジピン、塩酸マニジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、塩酸バルニジピン、ベシル酸アムロジピン、塩酸エホニジピン、フェロジピンなど)、フィブラート系高脂血症剤(フェノフィブラートなど)等が挙げられる。本発明において好適に使用される難溶性有機化合物は水不溶性色材であり、有機顔料がより好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
本発明の分散体において好適に用いられる有機顔料としては、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0010】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0011】
なかでも本発明においては、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料であることが好ましい。
【0012】
本発明の分散体は、後述する難溶性有機化合物の柱状微粒子が、共存する高分子化合物によって分散されたものであることが望ましく、さらに望ましくはカルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群れより選ばれる一種類以上を親水性部位として有する高分子化合物により分散されるのが好ましい。具体的にはスチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルホスホン酸、ビニルピロリドン、アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つはカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基のいずれかになる官能基を有する単量体)から構成されるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの変性物、及びこれらの塩等が挙げられる。
酸基としてより好ましくはカルボン酸、又はスルホン酸であり、さらに好ましくはカルボン酸である。また、この高分子化合物は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。さらに、これら酸基含有ポリマーが持つ酸価のより好ましい範囲は100mgKOH/g〜300mgKOH/gであり、さらに好ましくは140mgKOH/g〜240mgKOH/gである。
【0013】
更に詳しく説明すると、本発明における高分子化合物は親水性基部位と疎水性部位とから構成されていることが好ましく、親水性モノマー成分と疎水性モノマー成分とを共重合させた共重合体を用いることが好ましい。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。
【0014】
例えば、疎水性モノマー成分としては、炭素数8以上の長鎖アルキル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはスチレンやステアリルメタクリルアミド等を疎水性モノマーとしての繰り返し単位に有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0015】
また、親水性モノマー成分としては、アルキレンオキサイド基を有するアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール等が挙がられるが、本発明の親水性モノマー成分はこれに限定されるものではない。
【0016】
本発明においては、酸基をもち重合したのちに親水性部位(親水性基をもつ繰り返し単位)をなす重合性化合物(重合性化合物[i])を用いることもまた好ましい。具体的には、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、ビニルホスホン酸、フェノール及びその誘導体等が挙げられる。ただし本発明における酸基はこれに限定されるものではなく、一般的に強塩基として使用される水酸化ナトリウムや水酸化カリウムにより水中でプロトン脱離し、イオン化しうる官能基全般を酸基として使用してもよい。
酸基としてより好ましくはカルボン酸基、スルホン酸基であり、さらに好ましくはカルボン酸基である。さらに、本発明の上記ヘテロ環構造を持つ酸基含有高分子化合物が持つ酸価のより好ましい範囲は100mgKOH/g〜300mgKOH/gであり、さらに好ましくは140mgKOH/g〜240mgKOH/gである。
【0017】
本発明の分散体に含まれる上記特定の高分子化合物の量は特に限定されないが、難溶性有機化合物もしくは水不溶性色材100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。
上記高分子化合物の分子量は特に限定されないが質量平均分子量で5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。なお本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリエスチレン換算の平均分子量である。
【0018】
本発明の分散体における分散媒は、例えば、水又は水及び水溶性有機溶剤の水溶液(水性媒体)、2種以上が混合されていてもよい水溶性/非水溶性有機溶剤により構成される。具体的な水溶性有機溶剤としてはアセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、(モノ/ジ/トリ)エチレングリコールもしくはそのモノアルキルエーテル等が挙げられ、非水溶性有機溶剤としては、PGMEA、乳酸エチル、酢酸エチル、トルエン、t−ブチルメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、水性媒体中における水の量は99〜20質量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは95〜30質量%とすることがより好ましい。分散体中の上記の水溶性有機溶剤の量は50〜0.1質量%とすることが好ましく、は30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0019】
本発明の難溶性有機化合物分散体は、有機溶剤に無機/有機塩基または無機/有機酸の存在下で難溶性有機化合物と高分子化合物とを共溶解させ、その溶解液(以下、「難溶性有機化合物溶液」ということがある。)を水性媒体と混合し、前記難溶性有機化合物の微粒子を生成させる本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0020】
本発明の製造方法に用いられる有機溶剤としては、非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能である。ただしアルカリ存在下で水不溶性色材および高分子化合物を溶解させる有機溶剤としては、好ましくは非プロトン性有機溶剤であり、より好ましくはジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン等である。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0021】
本発明に用いられる塩基としては、無機もしくは有機塩基が挙げられる。この無機もしくは有機塩基は、溶解性/分散性の観点から相間移動型塩基であることが好ましく、具体的にはアルキルアンモニウム誘導体、アルキルスルホニウム誘導体、アルキルホスホニウム誘導体が好ましい化合物として挙げられる。相間移動型塩基としては、ClogP値が負となる構造のものが好ましく、さらには−2より負であることが好ましい。ここでClogP値とは、化合物の1−オクタノール中及び水中における化合物の平衡濃度間の比率を示す1−オクタノール/水分配係数Pの常用対数値をいう。このClogP値は、化合物の化学構造に基づくフラグメントアプローチ(A. Leo, Comprehensive Medical Chemistry, Vol.4; C. Hansch, P. G. Sammens, J. B. Taylor and C. A. Ramden, Eds., p.295, Pergramon Press, 1990)等によって決定され、デイライト・ケミカル・インフォメーション・システム社から入手し得る“CLOGP”プログラムで計算された値で定義可能である。
【0022】
上記相間移動型塩基としては、前記一般式(I)又は(II)で表されるものが好ましい。特に好ましくはコリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド等が上げられるが、本発明で使用される相間移動塩基はこれに限定されるものではない。
【0023】
本発明の製造法で好適に用いられる無機/有機酸としては硫酸、発煙硫酸、硝酸、発煙硝酸等が挙げられ、有機酸としてはメタンスルホン酸、クロロスルホン酸、多フッ化アルキルスルホン酸等が挙げられ、より好ましくは硫酸である。
【0024】
前記無機/有機塩基または無機/有機酸の使用割合は特に限定されるものではないが、難溶性有機化合物もしくは水不溶性色材とのモル比で1.0〜100モル当量であることが好ましく、1.5〜50モル当量であることがより好ましく、2.0〜20モル当量であることが特に好ましい。また、分散体中の上記特定の高分子化合物に対しては、該高分子が持つ酸基1モル当量に対し、0.5〜10モル当量であることが好ましく、0.8〜5モル当量であることがより好ましく、0.9〜1.5モル当量であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の分散体において、分散体中の難溶性有機化合物の含有量は特に限定されず、インクとしての利用を考慮したとき、例えば0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.1〜15%であることが特に好ましい。また、本発明の難溶性有機化合物の分散媒は水系溶媒であってもよく、その含有量を水の含有量としていうと、例えばインクとしての利用を考慮したとき、0.01〜30質量%であることが好ましく、1.1〜15質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明における分散体は高濃度であっても分散体を低粘度に維持することができる。例えば記録液として用いる場合、高濃度であっても低濃度であれば記録液に使用できる添加剤の種類や添加量の自由度が増すため、本発明の分散体を記録液として好適に用いることができる。
【0027】
上記有機溶剤の難溶性有機化合物溶液中の含有量は特に限定されないが、難溶性有機化合物をより良好な溶解状態とする際には、難溶性有機化合物1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法においては、難溶性有機化合物ないし水不溶性色材を上記特定の高分子化合物とともに有機溶剤に溶解するが、これに加えて、有機溶剤には結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、樹脂添加物、界面活性剤などの少なくも1種を必要に応じて添加することができる。
【0029】
結晶成長防止剤としては、当該技術分野においてよく知られているフタロシアニン誘導体やキナクリドン誘導体が挙げられ、例えばフタロシアニンのフタルイミドメチル誘導体、フタロシアニンのスルホン酸誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体、キナクリドンのフタルイミドメチル誘導体、キナクリドンのスルホン酸誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体等が挙げられる。
【0030】
紫外線吸収剤としては、金属酸化物、アミノベンゾエート系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シンナメート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤およびビタミン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0031】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオアルカン酸エステル化合物、有機リン化合物、芳香族アミン等が挙げられる。
【0032】
樹脂添加物としては、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ポリエステル、ポリアリルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メラミン樹脂あるいはこれらの変性物等の合成樹脂などが挙げられる。これらの結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、樹脂添加物はいずれも1種類単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0033】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0034】
本発明の製造方法においては、難溶性有機化合物溶液もしくは水不溶性色材溶液を水性媒体と混合して水不溶性色材の微粒子を生成させるが、この際に使用される水の割合は、微粒子の分散安定性をより向上させ、かつ分散体の色濃度を更に良好なものとするという観点から、水不溶性色材溶液1質量部に対して0.5〜1000質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。
【0035】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材顔料溶液と水性媒体とを混合する際の温度を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましく、−20℃〜50℃の範囲に調節することがより好ましい。混合する際の溶液の温度は生成する水不溶性色材の微粒子のサイズに大きく影響することがあり、ナノメートルオーダー微粒子の分散体を制御して得るために液温を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましい。また、この際に液体の流動性を確保するために混合する水に、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、グリセリン等の公知の凝固点降下剤を加えておくことができる。
【0036】
さらに、生成粒子サイズの均一性を持つナノメートルオーダーの微粒子を得るには、難溶性有機化合物溶液と水性媒体との混合を可能な限り速やかに行うことが好ましく、超音波振動子やフルゾーン撹拌羽、内部循環型撹拌装置、外部循環型撹拌装置、流量およびイオン濃度制御装置等の撹拌、混合、分散、晶析に使用される装置をいずれも使用することができる。また、連続して流れる水の中に混合してもよい。難溶性有機化合物溶液の水性媒体中への添加方法としては、通常の液体注入法をいずれも利用できるが、シリンジやニードル、チューブなどのノズルからの噴射流として水中、もしくは水上から投入するのが好ましい。なお、短時間で投入するために複数のノズルから投入することもできる。さらに、難溶性有機化合物微粒子の水性分散体を安定して作成するために、難溶性有機化合物溶液と混合する水性媒体にアルカリ及び分散剤を始めとする添加剤を加えておくことができる。
【0037】
以下、本発明の分散体における柱状微粒子の特徴及びその形成について説明する。
有機溶剤に溶解した顔料等の難溶性有機化合物は、水性媒体との混合によって急速に結晶化し、アモルファス様の凝集体を形成すると考えられる。本発明においては、こうして形成されたアモルファス様の微細粒子を含有する水溶液に対し、各難溶性有機化合物に特定の温度をかけ加熱することで、単分散性が高く、微細な柱状粒子を形成させることができる。
【0038】
上記した加熱工程においてかける温度は各難溶性有機化合物により異なる。具体的には、例えば不溶性色材として汎用されるキナクリドン(PV−19)、ジメチルキナクリドン(PR−122)では、80℃〜150℃程度が好ましく、より好ましくは90℃〜130℃、さらに好ましくは100℃〜120℃である。ジクロロジケトピロロピロール(PR−254)でも同程度であるが、モノアゾイエロー系顔料における加熱適正温度は60℃〜90℃程度であり、化合物依存性は大きい。特定温度の判断法としては、上記するアモルファス様の微細粒状粒子を含有する水溶液に対し、特定温度をかけ3時間加熱した後、一次粒子形状をSEM撮像により観察し、一次粒子形状が柱状化する温度下限を探す操作が挙げられる。これにより加熱に適した特定温度を規定でき、各化合物に適した製造条件を設定できる。
【0039】
このように製造された本発明の分散体は、強熱された結果として一次粒子構造が柱状状態で安定化された微粒子を含有することが好ましく、その結果非常に高い保存安定性を示すとともに、強い異方配向性を示すものとして利用することができ好ましい。なお、本発明では上述の加熱による柱状粒子化工程を採用することが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、磁場や超音波、UV露光等の反応条件で製造できる柱状粒子化全般を含む。
【0040】
本発明の難溶性有機化合物もしくは水性水不溶性色材分散体は、そのままで、あるいは必要に応じて色材濃度を調整することによって種々の用途、例えばインクジェット用のインクに用いることができる。
水性水不溶性色材分散液について、インクジェット用のインクに適用するには、色材濃度が薄い場合がある。該分散液の分散媒の濃縮等により濃度を上昇させることはできるものの、工業的には実用的でない。これに対し、本発明の分散体は先ず難溶性有機化合物微粒子を粉末ないしペーストにして取り出したのち、水に対する分散性を付与し、この水不溶性微粒子を水性媒体に効率的に再分散させることができる。そのため、所望の色材濃度を有する水性分散体を効率よく調製することができる。
【0041】
本発明においては、前述の工程で得られた分散体を用い、さらに該分散体に含まれる難溶性有機化合物の微粒子の凝集体を形成することが好ましい。
本発明において、「難溶性有機化合物の微粒子」というとき、難溶性有機化合物のみからなる微粒のほか、難溶性有機化合物とその他の成分とがなす微粒子が含まれる。例えば、難溶性有機化合物及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して微粒子をなしていてもよい。本発明の分散体においては、なかでも、難溶性有機化合物の微粒子に上記特定の高分子化合物が被覆吸着していることが好ましい。この被覆吸着状態は、例えば、X線結晶構造解析(XRD)により確認することができる。
【0042】
上記難溶性有機化合物の微粒子の凝集体の形成には、有機酸/無機酸の添加による処理が好ましく用いられる。酸を用いた処理は、好ましくは、難溶性有機化合物の微粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、難溶性有機化合物微粒子を凝集させる。一般に顔料の分散液を酸で凝集物とし、その後にアルカリ処理を行っても、微粒子が再分散されにくく一次粒子径の増大が観察されることがある。これに対し、本発明の分散体によれば、顔料等の難溶性有機化合物材の微粒子の水性分散体を調製し、これを酸で凝集物とし微粒子を再分散したとき、一次粒子径の増大を大幅に低減することができる。これは前述したが、加熱により結晶構造が強化されていることに起因すると推定される。
【0043】
難溶性有機化合物の微粒子の凝集に用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっている水性分散体中の含有粒子を凝集させてスラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして、通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであることが好ましい。さらに好ましくは、難溶性有機化合物の溶解工程において用いたアルカリを溶剤と同時に分離するために、用いた相間移動塩基等のアルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は微粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた水不溶性色材の微粒子の水性分散体は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することが出できる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0044】
さらに、難溶性有機化合物凝集体を得る工程では、有機溶剤の添加によりろ過性が改善可能であり有用なプロセスである。好ましい溶媒としては非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能であり、具体的には酢酸エチル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノールエタノール、イソプロパノール等の極性溶媒が好ましい。量も特に限定されないが、水不溶性色材分散体100質量部に対し1〜100質量部が好ましく、5〜50質量部の範囲で用いるのがより好ましい。
【0045】
このようにして得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような、乾燥法により、微粉末として用いることもできる。またアセトン、テトラフドロフラン、メタノール等の有機溶剤下へ凝集体を添加しろ過することで、溶剤にさらされ更に結晶構造が成長した一次粒子を得ることも可能である。結晶構造の成長については、XRD(結晶構造解析)分析により容易に観察できる。
【0046】
本発明の分散体においては、その好ましい実施態様として、難溶性有機化合物溶液と水性媒体とを混合して得た一次分散体(水性分散体,再沈液)から凝集体を調製し、この凝集体に水性媒体、又は有機溶剤を添加し、微粒子を再分散して二次分散体(再分散液)とすることが好ましい。この再分散のとき、水性媒体ではアルカリ処理することがより好ましい。すなわち、アルカリ処理を含むこの工程では、上記凝集体を得る工程で例えば酸を用いて凝集させた水不溶性色材の微粒子をアルカリで処理し、該微粒子に吸着する等して共存する前記酸基を有する高分子化合物を中和し分散剤として機能させ、水性媒体中で難溶性有機化合物を効果的に再分散させることができる。有機溶剤下での分散では、含有される高分子化合物間の立体障害により分散工程が進むため、アルカリ添加は必要が無く、そのまま再分散される。
【0047】
本発明における上記好ましい実施態様においては、凝集体の形成工程においてすでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ない顔料等の難溶性有機化合物の微粒子分散体のコンクベースを得ることができる。水性媒体を用いる際、再分散工程で使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるものであれば、いかなるものでも使用できる。ここでの「アルカリ」とは、先に述べた「塩基」と同義である。アルカリとして、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等や、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、さらには前記の相間移動型塩基が挙げられる。より具体的には前記一般式(I)又は(II)で示されるアンモニウム化合物類が挙げられ、さらに好ましくはコリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。また、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アルカリの使用量は、凝集した粒子を水性媒体に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンター用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12になる量とすることが好ましく、7〜11の範囲になる量とすることがより好ましい。
【0048】
凝集した難溶性有機化合物粒子を水性媒体または有機溶剤に再分散させる上記工程においては、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い難溶性有機化合物のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不要となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0049】
本発明の記録液は、上記本発明の分散体を用い、例えば所定の高分子化合物、界面活性剤、水性溶剤等の各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。本発明の記録液においては、前記難溶性有機化合物を0.1〜15質量%含有することが好ましい。また、調製したインクに過剰量の高分子化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調製することができる。また本発明の記録液は単独で用いてもよいが、これとは別のインクと組み合わせて、本発明のインクセットとしてもよい。
【0050】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0051】
本発明の記録液はインクジェット用記録液とすることが好ましく、これを用いたインクセットとすることが好ましい。また、本発明の記録液又はインクセットを用いて、記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物とすることが好ましく、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物とすることが好ましい。さらに上記の記録液又はインクセットは、記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有する画像形成方法に用いることが好ましい。さらに本発明においては、上記記録液又はインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有する画像形成装置とすることができる。
【0052】
上記の優れた特性を有する本発明の分散体は、インクとしたとき例えば面積比率(面積階調)により色調濃淡を表現している現行のオフセット印刷や凸版印刷等に匹敵するほどの、高濃度・高精彩な画像記録を実現しうるものである。
【0053】
本発明の難溶性有機化合物分散体においては、難溶性有機化合物ないし水不溶性色材の微粒子の平均粒径は50nm以下であり、5〜50nmであることが好ましく、10〜45nmであることがより好ましく、15〜40nmであることが特に好ましい。このように難溶性有機化合物をナノメートルサイズの微粒子とすることのより分散体の透明性、分散体中での分散安定性、及び耐光性の両立の観点から特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると、分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しい場合があり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で、大きすぎると、分散体の透明性が得られない場合がある。本発明において難溶性有機化合物の粒子は2種以上の顔料を含んでもいてもよく、顔料のみからなるものであっても、顔料以外の化合物が含まれていてもよい。このとき、2種以上の顔料の固溶体が粒子を構成していることが好ましい。ただし、粒子中に結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、顔料等及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
【0054】
本発明において、分散体の動的光散乱法による平均粒子径は難溶性有機化合物濃度が0.5質量%になるよう分散体をイオン交換水で希釈した後、堀場製作所のLB−500(商品名)動的光散乱測定器を用いて測定した値をいう。このとき、各分散体の体積平均粒径Mvの他、個数平均粒径Mnの測定も行うことができる。以下、動的光散乱測定器により測定した平均粒子径を「動的光散乱平均粒子径」という。
上記動的光散乱測定に代えて、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により平均粒径を測定し評価する際には、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX(商品名))で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出する。
【0055】
本発明の分散体は、アスペクト比3以上、かつ長軸長さが50nm〜300nmの柱状粒子であり、かつ0.5質量%溶液の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下である難溶性有機化合物の微粒子を含有する。この体積平均粒径については既に述べたとおりであり、さらにアスペクト比が4以上10以下であることが好ましく、長軸長さが70nm〜250nmであることが好ましい。
【0056】
本発明の分散体は、上記の平均粒径及び寸法条件を満たす柱状微粒子を、分散体中の全一次粒子数に対して、80個数%含有することが好ましく、90個数%以上含有することがより好ましい。本発明において、分散体の全一次粒子は上記TEM測定の条件で観察した300個の粒子を代表として評価する。すなわち、分散体試料のTEM像により観察された全粒子数300個のうち、240個以上(80個数%以上)の一次粒子のアスペクト比が3以上、かつ長軸長さが50〜300nmであり、0.5質量%溶液の動的光散乱の結果が50nm以下を示す分散体であることが好ましい。なお、上記アスペクト比及び長軸長さは撮像中の個々の粒子の2次元像により計測することができ、長軸長さは前記粒子の二次元像の最も長い部分(長径)の長さであり、アスペクト比は該長軸長さと直交する方向の長さ(短軸長さ、短径)との比率(長軸長さ/短軸長さ)として算出される。上記針状ないし柱状微粒子を直円柱としていえば、長軸長さが母線長さにあたり、短軸長さが上底もしくは下底をなす円の直径にあたる。
【0057】
本発明の分散体は、ナノメートルサイズの微細な柱状微粒子を含有し、分散安定性及び保存安定性が非常に高く、所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵することができる、例えばインクジェットインク用の色材等として好適に利用することができる。
また、本発明の分散体は、大きさの揃った微細な柱状粒子を含有するものとして調製されることが好ましく、この特有の粒子特性を利用して、例えば磁場、又は電場印加に対する異方配向性を有し、偏向カラーフィルター作製の需要に応える材料として用いることができる。この偏向カラーフィルターは、従来フルカラー液晶表示法において多く採用されてきたカラーフィルターと偏向板とからなる二層フィルム構成に対し、機能を統一することでより薄くすることができ、かつ透過率損失の少ないものを作製する技術として、その実用化に期待が大いに期待されている。
【実施例】
【0058】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。
(実施例1・比較例1)
(実施例1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、スチレン/メタクリル酸共重合体(酸価200mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)(clogP:−4.586)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体(分散剤A、酸価200mgKOH/g、Mw=18000)とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0059】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)が得られた。この顔料分散液の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は35.4nm(TEM平均粒径:28.3nm)であり、凝集状態の進行を抑え、微細な顔料微粒子を含有する分散液を得ることが可能であった。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。さらに、これは速度論的に形成された緩い凝集状態であり、超音波ホモジナイザーもしくは一ヶ月の時間経時により、体積平均粒子径31.2nmまで微細化可能であった。
【0060】
次いでこの顔料分散液を3Lフラスコに入れ、液温90℃に加熱し3時間攪拌し、微粒子の柱状化を行った。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/スチレン/メタクリル酸共重合体の凝集粉末体を得た。
【0061】
得られた凝集粉末体10重量部に対し、アセトン100重量部を添加し、室温で一時間攪拌した。これを、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、アセトンで洗浄、乾燥することで、再分散用の凝集粉末体8重量部を得た。
【0062】
次に、この粉末体質量部にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散塩基〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液の動的光散乱法による体積平均粒径は39.6nmであり、非常に単分散性の高い顔料微粒子を含有する高濃度分散液が得られた。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。またTEM(日本電子製1200EX(商品名))により分散液を撮像し、図1のTEM撮像を得た。その後、全一次粒子に対し、アスペクト比と長軸長さを算出し、本発明の規定条件を満たす分散液であることを確認した。
【0063】
(比較例1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、スチレン/メタクリル酸共重合体(酸価200mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体(分散剤A、酸価200mgKOH/g、Mw=18000)とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0064】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)が得られた。この顔料分散液の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は35.4nm(TEM平均粒径:28.3nm)であり、凝集状態の進行を抑え、微細な顔料微粒子を含有する分散液を得ることが可能であった。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。さらに、これは速度論的に形成された緩い凝集状態であり、超音波ホモジナイザーもしくは一ヶ月の時間経時により、体積平均粒子径31.2nmまで微細化可能であった。
【0065】
次いでこの顔料分散液を3Lフラスコに入れ、微粒子の柱状化のための加熱は行わずに、室温(約28℃)で3時間攪拌した。その後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/スチレン/メタクリル酸共重合体の凝集粉末体を得た。
【0066】
得られた凝集粉末体10重量部に対し、アセトン100重量部を添加し、室温で一時間攪拌した。これを、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、アセトンで洗浄、乾燥することで、再分散用の凝集粉末体8重量部を得た。
【0067】
次に、この粉末体質量部にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散塩基〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液の動的光散乱法による体積平均粒径は41.6nmである高濃度分散液が得られた。上記実施例1と同様にしてTEMにより分散液を撮像し、図2に示したTEM撮像を得た。
これは結晶構造が柱状化、成長しておらず、2週間経過後に動的光散乱による粒子径増大を示し、保存安定性が十分でないことが確認された。
【0068】
[表1]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
柱状化加熱 平均粒径 柱状粒子存在率 アスペクト比 長軸長さ
温度(℃) (nm) (個数%) (nm)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例1 90 35.4 85% 8 150
比較例1 室温 41.6 1%以下 1.1 20
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0069】
表中の各語は以下の意味である。
・平均粒径:分散体を0.5質量%になるようイオン交換水で希釈した後、堀場製作所のLB−500(商品名)動的光散乱測定器を用いて測定した動的光散乱法による体積平均粒径(Mv)
・柱状微粒子率:TEM像解析による300個の標本粒子のうち、柱状微粒子と認められたものの比率(個数%)
・アスペクト比:TEM像解析による300個の標本粒子のうち、柱状微粒子と認められたもの500個のアスペクト比の平均値
・長軸長さ:TEM像解析による300個の標本粒子のうち、柱状微粒子と認められたもの500個の長軸長さの平均値
【0070】
(実施例2・比較例2)
(インク組成物の調整)
次に上記実施例1・比較例1で得た顔料分散液(再分散液)をそれぞれ50質量部用い、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物をそれぞれ得た。
【0071】
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物について、まず作成当日の動的光散乱平均粒子径(初期粒径)を測定した。次に、該インク組成物を60℃下加熱下、一週間強制経時した後、再度動的光散乱による平均粒子径(加熱経時後の粒径)を測定した。このときの粒子径変動率を表に示す。この粒子径変動率が低ければ、保存安定性の高いインク組成物といえる。なお、上記平均粒径は、いずれも分散体を0.5質量%になるようイオン交換水で希釈した後、堀場製作所のLB−500(商品名)動的光散乱測定器を用いて測定した動的光散乱法による体積平均粒径(Mv)である。
【0072】
[表2]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク液/保存安定性評価
初期粒径 加熱経時後の粒径 粒径変動率(%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例2 39.7nm 40.3nm 1.5
比較例2 42.9nm 58.9nm 37.3
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0073】
表1及び2の結果が示すように、比較例の分散液はそこに含まれる顔料微粒子が凝集しやすく、保存安定性の低いものであった。このように比較例の分散液は、インクとしたときの実用上の要求レベルを満足しえないことが分かる。
これに対し、本発明の分散体(実施例)は所定のアスペクト比及びナノメートルサイズの平均粒径を有する柱状の微粒子を含有し、再分散液/インク液の両方において微細な顔料微粒子を含有する分散液を与え、またインク化後の保存安定性も高く、二次凝集の抑制に顕著な効果があることが分かった。
【0074】
〔吐出性の評価〕
上記作製したインク組成物をインクジェットプリンター(PX−G930(商品名)、エプソン(株)社製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>(商品名)エプソン(株)社製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0075】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表3に示す。
【0076】
〔透明性の評価〕
上記のインク組成物をそれぞれ厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、透明性を目視で評価した。
2:良好
1:不良
【0077】
[表3]
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インク組成物 吐出性 透明性
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実施例2 3 2
比較例2 2 1
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* インク組成物の調製に用いた顔料分散液を作製した実施例・比較例の番号で示した。
【0078】
上記表3から分かるように、実施例の顔料分散液を用いて作製したインク組成物は吐出性に優れることがわかる。また、本発明のインク組成物を用いた印画物は高濃度であっても透明性に優れ、インク組成物として有用である。
【0079】
上記の結果より、本発明の柱状微粒子を含有する分散体においては、そこに含まれる顔料微粒子を過度に二次凝集させることなく、長期間にわたり微細なまま維持することができることが分かる。このため、インク化した際において吐出安定性が高く、高濃度領域でも高い透明性を持ち、色再現性の高いインク組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1で調製した分散体試料のTEM撮像である。
【図2】実施例2で調製した分散体試料のTEM撮像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比3以上、かつ長軸長さが50nm〜300nmの柱状粒子であり、かつ0.5質量%液の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下である難溶性有機化合物の微粒子を含有することを特徴とする難溶性有機化合物分散体。
【請求項2】
前記難溶性有機化合物が、水不溶性色材であることを特徴とする請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記分散体中に含まれる微粒子が、共存する高分子化合物により分散された水不溶性色材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分散体。
【請求項4】
分散体の分散媒が、水性媒体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項5】
前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の酸基を持つ酸基含有高分子化合物であることを特徴とする請求項3又は4に記載の分散体。
【請求項6】
前記難容性有機化合物が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項7】
前記粒子径、アスペクト比、及び長軸長さを有する難溶性化合物の微粒子の数が、分散体中の難溶性有機化合物の全一次微粒子の80個数%以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散体。
【請求項8】
(1)有機溶剤に、有機もしくは無機の塩基または有機もしくは無機の酸を用いて難溶性有機化合物と高分子化合物とを共溶解させる工程
(2)(1)で得られた溶解液を水性媒体と混合し、難溶性有機化合物の微粒子を生成させ分散させる工程
(3)(2)で得られた難溶性有機化合物分散体に対し、所定の温度をかけ加熱することで一次粒子を成長させ、全一次粒子の少なくとも80%以上が、アスペクト比3以上かつ長軸長さが50nm〜300nmの柱状粒子であり、かつ0.5質量%液の動的光散乱測定による体積平均粒子径が50nm以下である分散体を形成する工程、
を含むことを特徴とする、難溶性有機化合物の水性分散体製造方法。
【請求項9】
前記難溶性有機化合物が、水不溶性色材であることを特徴とする請求項8に記載の水性分散体製造方法。
【請求項10】
前記水不溶性色材と高分子化合物とを共溶解させる工程(1)において、使用する前記塩基が、下記一般式(I)または(II)で表されることを特徴とする、請求項8又は9に記載の水性分散体製造方法。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜3の無置換の直鎖もしくは分枝のアルキルであり、nは1〜4の整数である。)
【請求項11】
前記難溶性有機化合物が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の水不溶性色材の水性分散体製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の製造方法で得た分散体。
【請求項13】
請求項1〜7及び12のいずれか1項に記載の分散体中の難溶性有機化合物の微粒子を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項14】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項13に記載の記録液。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
【請求項16】
請求項13又は14に記載の記録液、又は請求項15に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
【請求項17】
請求項13又は14に記載の記録液、又は請求項15に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項18】
請求項13又は14に記載の記録液、又は請求項15に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−83925(P2010−83925A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251774(P2008−251774)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】