説明

難溶性物質の感作性代替試験方法

【課題】難水溶性物質の感作性インビトロ評価方法、及び感作性物質を活性化又は抑制する難水溶性物質の評価方法。
【解決手段】ゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地に難水溶性被験物質が浸潤することにより、該被験物質が培地中のヒト単核球細胞を暴露させることを特徴とする、難水溶性物質の感作性インビトロ評価方法、及び温度感応性ハイドロゲル培地に難水溶性感作性試料と難水溶性被験物質を一緒に適用し、これらがゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地内に浸潤することにより培地中のヒト単核球細胞を暴露させることを特徴とする、該難水溶性被験物質が該難水溶性感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤であるか否かを評価する方法を供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度感応性ハイドロゲルを使用する難水溶性物質の感作性インビトロ評価方法及び感作性物質を活性化又は抑制する難水溶性物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体においてアレルギー等を誘発する物質(感作性物質)を評価する方法としては、実験動物に被験物質を適用し、そして該実験動物の皮膚などに生ずる反応を視察する方法が行われている。しかしながら、この方法は動物愛護等の見地から見直しがせまられている。
【0003】
外来物質によりアレルギー反応が惹起される最初の段階では、抗原提示細胞が感作性物質に暴露されると、抗原は該細胞により従属リンパ節に運ばれる。そこで、該細胞は、その細胞表面に抗原を担持したMHCクラスIIタンパク質や、CD86分子などを発現し、T細胞に抗原提示を行う。これにより、抗原特異的な獲得性免疫応答が成立する。この一連の過程では、該細胞は多くのサイトカイン(IL−1β、IL−6、IL−12など)やケモカイン(MIP−1αやMIP−1β、RANTESなど)を産生することで、活性化し、従属リンパ節への遊走が可能になる。このような抗原提示細胞としては樹状細胞やヒト単核球細胞株が知られている。しかしながら、樹状細胞の性質には個人差があり、また再現性に問題があり、一定の特性を有する樹状細胞を安定的に入手することが困難である。また、樹状細胞はその調製に困難さが伴う。
【0004】
他方、ヒト単核球細胞株は細胞の取扱いは、比較的容易であり、現時点ではヒト単核球細胞株に感作性物質を作用させた場合、該細胞表面に感作性物質の量や特性を反映してCD86分子が発現されることが明らかとなっている。特開2001−221796号公報はCD86の発現を指標とする感作性物質のインビトロ評価方法を開示する。また、金属ニッケルやコバルトのように、ヒト単核球細胞株に作用させてもCD86の発現を亢進させない場合については、特開2005−278628号公報において、刺激を受けた白血球や他の組織細胞、腫瘍細胞で生産されるペプチドであり、CCケモカインの一つであるMIP−1の発現を指標とする評価方法が開示されている。更に、特開2006−136215号公報においては、ケモカインレセプターの一つであるCCR7、樹状細胞などで発現しているサイトカインの一種であるIL−23、及び多くの細胞でUVなどのストレスに応答して発現する転写因子であるATF−3を指標とする評価方法が開示されている。しかしながら、これらの試験方法においては、被験物質を培養水溶液中で適用することから、被験物質が難水溶性物質である場合にはその適用が困難であるという問題があり、その改良が強く望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2001−221796号公報
【特許文献2】特開2005−278628号公報
【特許文献3】特開2006−136215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、温度感応性ハイドロゲルを使用する難水溶性物質の感作性インビトロ評価方法及び感作性物質を活性化又は抑制する難水溶性物質の評価方法を供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明者は、ハイドロゲル培地中でヒト単核球細胞を三次元培養し、かかる培養ゲルにおいて難水溶性物質を適用すると、該難水溶性物質がゲル中に浸潤することにより、ゲル内の細胞を暴露させることを見出した。しかしながら、難水溶性物質の感作性を評価するためには、細胞の回収が容易であり、且つ高い細胞生存率を得る必要がある。かかる課題を解決するために、培地として環境変化(温度変化及びpH変化)によりゾル−ゲル化が生じるハイドロゲルを使用することを試みた。本発明者は、ヒト単核球細胞がpH変化よりも温度変化に対して抵抗性を有し、更にpH感応性ハイドロゲルよりも、温度感応性ハイドロゲルを使用した場合のほうが、回収が容易であることを見出し、かかる温度感応性ハイドロゲル培地を利用することにより、再現性及びコストパフォーマンスに優れ、かつ簡単に行うことができる難水溶性物質の感作性の評価を可能にした。尚、ハイドロゲル培地とは、ハイドロゲルと細胞培養培地を混合して得られる細胞支持体(scaffold)を意味する。
【0008】
温度感応性ハイドロゲルには、例えば、メビオールジェル(登録商標)があり、これはポリマー素材を使用した温度に反応する細胞・組織培養用マトリックス、寒天ゲルやゼラチンゲルとは逆に、低温(15℃以下)で水溶液、高温(25℃以上)で透明なゲル状になり、立体的な培養が可能で、温度を下げることにより融解する温度感応性ハイドロゲル培地であり、細胞の回収が容易な培地として知られている(例えば、H. N. MadhavanらのA study on the growth of continuous culture cell lines embedded in Mebiol gelを参照のこと)。かかる温度感応性ハイドロゲル培地を培地として利用することにより、ゲル化状態において難水溶性物質に細胞を暴露させ、そして温度を低下させてゾル化(液状化)させることにより高い生存率において細胞の回収を可能にした。
【0009】
従って、本発明の第一の観点において、ヒト単核球細胞上で発現される分子を指標として難水溶性物質の感作性をインビトロ評価する方法において、ゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地に難水溶性被験物質を浸潤させることにより、該被験物質により培地中のヒト単核球細胞を暴露させ、ヒト単核球細胞上で発現される分子を検出する前に、温度を下げることにより温度感応性ハイドロゲル培地をゾル化させてヒト単核球細胞を回収し、そして通常培地で培養することを特徴とする方法、を供する。
【0010】
本発明の第二の観点において、ヒト単核球細胞上で発現される分子を指標として難水溶性物質の感作性をインビトロ評価する方法であって、ゾル状の温度感応性ハイドロゲル培地にヒト単核球細胞を混合し、昇温することにより該ハイドロゲル培地をゲル化させて該細胞を培養する工程、該細胞を含むゲル状の培地に難水溶性被験物質を適用する工程、そして該細胞上で発現される分子を検出する工程、を含んで成る方法、を供する。
【0011】
本発明の第三の観点において、ヒト単核球細胞上で発現される分子を指標として難水溶性被験物質が難水溶性感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤であるか否かを評価する方法であって、温度感応性ハイドロゲル培地に難水溶性感作性試料と難水溶性被験物質を一緒に適用し、これらをゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地内に浸潤させることにより培地中のヒト単核球細胞を暴露させることを特徴とする方法、を供する。
【0012】
本発明の第一から第三の観点の好適な態様において、前記ヒト単核球細胞上で発現される分子が、CD86分子、CD54分子、MIP−1α、MIP−1β、CCR7、IL−23、ATF−3、又はこれらの組み合わせであることを特徴とする。
【0013】
本発明の第一から第三の観点の更に好適な態様において、ゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地におけるヒト単核球細胞の培養時間が約2時間である。
【0014】
本発明の第一から第三の観点の更に好適な態様において、通常培地中の培養時間が約22時間である。
【0015】
本発明の第一から第三の観点の更に好適な態様において、ヒト単核球細胞がTHP−1細胞である。
【0016】
本発明の第一から第三の観点の更に好適な態様において、温度感応性ハイドロゲルがメビオールジェル(登録商標)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、難水溶性物質の感作性をインビトロにおいて評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において用いる細胞としては、感作性物質の特性を反映して、CD86分子、CD54分子、MIP−1分子、即ち、MIP−1α及び/又はMIP−1β、CCR7、IL−23、及び/又はATF−3を放出するものであれば特に限定されず、哺乳動物の単核球細胞、特にヒト単核球細胞等であってよく、具体例としてTHP−1細胞が挙げられる。THP−1細胞は樹立された培養細胞であって、当業界の研究者により広く用いられており、容易に入手することができる。具体的には、THP−1細胞は公的な細胞バンクまたは民間企業より入手することができる。
【0019】
CD86分子及びCD54分子は、ヒト単核球細胞に感作性物質を作用させた場合に、該細胞の表面に、感作性物質の量や特性を反映して発現される単鎖膜貫通型タンパクであり、感作性の指標と使用することができる。
【0020】
MIP−1(マクロファージ由来炎症性タンパク質1)(MIP−1α及びMIP−1β)は、ヒト単核球細胞に感作性物質を作用させた場合に、感作性物質の量や特性を反映して放出される、白血球や他の組織細胞、腫瘍細胞で生産されるペプチドであり、これはCCケモカインの1つであり、感作性の指標と使用することができる。
【0021】
CCR7は、ケモカインレセプターの一つであり、活性化した樹状細胞表面に発現しているタンパク質であり、樹状細胞の所属リンパ節への遊走に関与している。IL−23は、樹状細胞などで発現しているサイトカインの一種であり、メモリーT細胞やナイーブT細胞の増殖に関与している。ATF−3は、多くの細胞でUVなどのストレスに応答して発現する転写因子である。ヒト単核球細胞株に感作性物質を作用させた場合、感作性物質の量や特性に反映してこれらの分子が発現され、感作性の指標と使用することができる。
【0022】
本発明において用いる温度感応性ハイドロゲルは、温度変化によりゲル−ゾル化するハイドロゲルであり、好ましくはメビオールジェル(登録商標)である。メビオールジェル(登録商標)は(株)池田理研から購入することができ、細胞や組織の培養試薬であり、低温(15℃以下)下においてゾル上のメビオールジェル(登録商標)を含有する培地中に細胞を混合し、昇温(25℃以上)することによりゲル化させることができ、細胞を三次元培養することが可能である。温度を下げることによりメビオールジェル(登録商標)培地は再びゾル化するために容易に回収することができ、細胞へのストレスを抑えることが可能である。
【0023】
メビオールジェル(登録商標)培地は、クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)を含むフラスコに10mLのRPMI1640を加え、15℃以下で3時間以上静置し、その後振盪してメビオールジェル(登録商標)を培地中に完全に溶解させ、泡消するまで低温下で静置することにより調製する。
【0024】
本明細書でいう、通常培地とは、細胞を培養するために一般的に用いられる培地を意味し、上述のメビオールジェル(登録商標)培地の調製に使用される培地も含む。例えば具体例としてRPMI1640培地、DMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地等が挙げられる。これらの培地にはおよそ10%程度のウシ胎児血清が添加されていてよい。
【0025】
低温下、好ましくは15℃以下において、THP−1細胞数が1×106細胞/500μL/ウェル、2×106細胞/500μL/ウェル、又は4×106細胞/500μL/ウェルとなるように上述のメビオールジェル(登録商標)培地と混合し、該混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種し、好ましくは25℃以上に昇温することにより、該混合液をゲル化させる。一方難水溶性の被験物質を適当な溶媒、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた後、適当な担体、好ましくは、流動パラフィンを用いて被験物質溶液を調製し、該調製液を500μL/ウェルにおいて上記のゲル状培地に適用し、37℃でインキュベーションする。かかるインキュベーション(培養)時間は、好ましくは2時間である。その後培養プレートを氷冷することでゾル化させた細胞混合液をエッペンドルフチューブに回収して、遠心分離を行う。その後1mLのRPMI培地で洗浄し、上清を除去した後、1mLのRPMI培地を加え、24ウェルプレートに移す。通常培地、好ましくはRPMI培地にて、22時間培養後、感作性物質に起因するTHP−1細胞由来の発現物質を検出又は測定する。感作性物質に起因して指標とされるTHP−1細胞由来の発現物質は、好ましくはCD86分子、CD54分子、MIP−1分子、例えば、MIP−1α若しくはMIP−1β、CCR7、IL−23、及び/又はATF−3であり、より好ましくはCD86分子、及び/又はCD54分子であり、最も好ましくはCD86分子である。
【0026】
細胞の表面に発現されたCD86分子又はCD54分子の検出又は測定方法は特に限定されないが、抗ヒトCD86抗体又は抗ヒトCD54抗体を用いた免疫測定が好ましく、フローサイトメトリー法が特に好ましい。抗ヒトCD86/CD54抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、CD86又はCD54を表面に発現している細胞を免疫原として用いた常法に従って調製することができる。フローサイトメトリー法も常法に従って行うことができる(特開2001−221796号公報を参照のこと)。
【0027】
MIP−1の検出又は測定方法は、細胞における遺伝発現を検出する定量的又は定性的RT−PCR法、マイクロアレイ、ノーザンブロッティング等の方法やMIP−1に対する抗体との反応性に基づくエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウスタンブロッティング等の方法を用いることができる。いずれの方法によってもMIP−1の測定が可能であるが、操作の簡便性、感度、設備等の点からヒト単核球細胞から培地中に放出されたMIP−1分子をエンザイムイムノアッセイ(ELISA法)で測定するのが好ましい(特開2005−278628号公報を参照のこと)。
【0028】
CCR7、IL−23及び/又はATF−3の検出又は測定方法は、CCR7、IL−23及び/又はATF−3分子を発現する細胞における遺伝発現を検出する定量的又は定性的RT−PCR法、マイクロアレイ、ノーザンブロッティング等の方法を用いることができる。また、CCR7については、CCR7に対する抗体との反応性に基づくフローサイトメトリー法等の方法を用いることができ、IL−23については、IL−23に対する抗体との反応性に基づくエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロッティング等の方法を用いることができる。測定については、操作の簡便性、感度、設備等の点からCCR7、IL−23、ATF−3を発現する細胞から発現されるCCR7、IL−23、ATF−3をコードする遺伝子、例えば、対応のmRNAをRT−PCR法で測定するのが好ましい(特開2006−136215号公報を参照のこと)。
【0029】
感作性物質の評価においては、好ましくは、被験物質を加えないで、上記の同様の培養を行い対照とする。
【0030】
また難水溶性感作性物質を阻害又は活性化する難水溶性物質の評価においては、ゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地、例えば、メビオールジェル(登録商標)培地中のヒト単核球細胞、好ましくはTHP−1を、既知の難水溶性感作性物質とともに難水溶性被験物質に暴露し、好ましくは2時間後、好ましくは通常培地中で22時間培養を行い、そして上述の難水溶性物質の感作性インビトロ評価方法と同様にヒト単核球細胞由来の発現物質、好ましくはCD86分子、CD54分子、MIP−1分子、例えば、MIP−1α若しくはMIP−1β、CCR7、IL−23、及び/又はATF−3、より好ましくはCD86分子、及び/又はCD54分子を検出又は測定する。この場合も、好ましくは被験物質を加えないで上記と同様の培養を行い、対象とする。
【実施例】
【0031】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0032】
実験1:メビオールジェル(登録商標)(温度感応性ハイドロゲル)及びBD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲル(pH感応性ハイドロゲル)の比較
本発明における培養担体として温度感応性のメビオールジェル(登録商標)とpH感応性ハイドロゲルのBD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルのどちらが適しているかを、細胞生存率及び細胞の回収方法について以下のとおり比較検討を行った。
【0033】
材料
細胞:THP−1(3374053)
培地:RPMI1640
試薬:メビオールジェル(登録商標)((株)池田理研、型番:PMW20−1005)、BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲル(BD bioscience、商品番号354250)、10%ショ糖溶液(和光社)
【0034】
方法
(1)メビオールジェルを用いた細胞培養
メビオールジェル(登録商標)培地の準備
クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)入りのフラスコに上記培地10mLを加え、低温下(15℃以下)で3時間以上静置し、その後、振盪してメビオールジェル(登録商標)に完全に溶解させた。完全に溶解したら消泡するまで低温下で数時間〜数日間、静置し保存した。
【0035】
メビオールジェル(登録商標)培地と細胞の混合
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、2×106細胞/500μL/ウェルになるように、低温下においてあるメビオールジェル(登録商標)で調整した。
【0036】
播種及び培養
調整したTHP−1細胞・メビオールジェル(登録商標)培地混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種した。その後、培地を500μL/ウェルずつ加え、37℃のインキュベーターで培養した。
【0037】
(2)BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルを用いた細胞培養
BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルの準備
BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルを30分間ソニケーションする。
【0038】
細胞の準備
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、10%ショ糖溶液で洗浄後、2×106細胞/500μL/ウェルになるように、10%ショ糖溶液に懸濁した。
【0039】
BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルと細胞の混合
BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルと細胞/ショ糖混合液を等量ずつとり混合した。これを24ウェルプレートに500μL/ウェルずつ加えた。5〜10分後、培地を交換した。30分以内に該培地交換を2回行った後、37℃のインキュベーターで培養した。
【0040】
(3)細胞の回収
メビオールジェル(登録商標)
培養終了後、培地を500μL/ウェルずつ加え、プレートごと5分間氷冷した。完全にゾル状になったらエッペンドルフチューブに回収し、遠心を行った。上清を除去し、新しい培地を1mL加えた。
【0041】
BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲル
ピペッティングを行いゲルを破壊した。滑らかになったらエッペンドルフチューブに回収し、遠心を行った。上清を除去し、新しい培地1mLを加えた。
【0042】
(4)トリパンブルー染色
細胞溶解液と0.4%トリパンブルー(GIBCO社)を(1:1)で混合し、計算盤で生細胞数を計測した。
【0043】
その結果を表1に示す。
【表1】

【0044】
BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲル及びメビオールジェル(登録商標)のいずれにおいても、80%以上の生存率が得られた。しかしながら、細胞の回収において、BD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルは何度洗浄を行っても、ゲルと完全には分離しなかった。
【0045】
考察
培養後にインビトロ皮膚感作性試験法を用いて感作性を評価することを考えると、細胞の回収が容易なメビオールジェル(登録商標)が培養担体として適している可能性が示唆された。
【0046】
結論
インビトロ皮膚感作性試験法を用いた感作性評価試験においては、培養担体としてメビオールジェル(登録商標)の方がBD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲルより適している。
【0047】
実験2:播種細胞数・培養時間の検討
メビオールジェル(登録商標)を培養担体としたときの播種細胞数及び培養時間の最適条件を設定する。
【0048】
材料
細胞:THP−1(3374053)
培地:RPMI1640
試薬:メビオールジェル(登録商標)((株)池田理研、型番:PMW20−1005)
【0049】
方法
(1)メビオールジェル(登録商標)培地の準備
クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)入りのフラスコに上記培地10mLを加え、低温下(15℃以下)で3時間以上静置し、その後、振盪してメビオールジェル(登録商標)に完全に溶解させた。完全に溶解したら消泡するまで低温下で数時間〜数日間、静置し保存した。
【0050】
メビオールジェル(登録商標)培地と細胞の混合
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、1×106、2×106、及び4×106細胞/500μL/ウェルになるように、低温下においてあるメビオールジェル(登録商標)で調整した。
【0051】
播種及び培養
調整したTHP−1細胞・メビオールジェル(登録商標)培地混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種した。その後、培地を500μL/ウェルずつ加え、37℃のインキュベーターで培養した。
【0052】
細胞の回収と生存率測定
12、24、及び48時間経過したプレートを氷冷することにより培地をゾル化させ、細胞をエッペンドルフチューブに回収し、FACS用バッファーで洗浄した。その後ヨウ化プロピジウムで核染色し、フローサイトメトリーにて細胞の生存率を測定した。
【0053】
その結果を表2に示す。
【表2】

【0054】
播種細胞数については、0.5×106、1.0×106、及び2.0×106細胞/1mL/ウェルで播種した試料で良好な生存率が得られた。培養時間については24時間で最も生存率が良好であった。しかしながら、現行のインビトロ皮膚感作試験では無処置群で90%の生存率が得られない場合、データとして採用されないことから、培養時間については再度検討が必要であると考えられた。
【0055】
結論
播種細胞数は1.0×106細胞/1mL/ウェル、培養時間は24時間が最適であった。
【0056】
実験3:ゲル内での培養時間の検討
生存率が90%以上となる、培養時間の最適条件を検討する。
【0057】
材料
細胞:THP−1(3374053)
培地:RPMI1640
試薬:メビオールジェル(登録商標)((株)池田理研、型番:PMW20−1005)
【0058】
方法
(1)メビオールジェル(登録商標)培地の準備
クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)入りのフラスコに上記培地10mLを加え、低温下(15℃以下)で3時間以上静置し、その後、振盪してメビオールジェル(登録商標)に完全に溶解させた。完全に溶解したら消泡するまで低温下で数時間〜数日間、静置し保存した。
【0059】
メビオールジェル(登録商標)培地と細胞の混合
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、1×106、2×106、及び4×106細胞/500μL/ウェルになるように、低温下においてあるメビオールジェル(登録商標)で調整した。
【0060】
播種及び培養
調整したTHP−1細胞・メビオールジェル(登録商標)培地混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種した。その後、培地を500μL/ウェルずつ加え、37℃のインキュベーターで培養した。
【0061】
細胞の回収と生存率測定
2時間経過したプレートを氷冷することでゾル状にした細胞混合液を、エッペンドルフチューブに回収し、遠心を行った。その後RPMI培地1mLで洗浄し、上清を除去した後、RPMI培地を1mL加え、24ウェルプレートに移した。RPMI培地で22時間培養後、ヨウ化プロピジウム(PI)で核染色し、フローサイトメトリーにて細胞の生存率を測定した。
【0062】
24時間経過したプレートを氷冷することでゾル状にした細胞混合液をエッペンドルフチューブに回収し、フローサイトメトリーバッファーで洗浄した。その後ヨウ化プロピジウム(PI)で核染色し、フローサイトメトリーにて細胞の生存率を測定した。
【0063】
その結果を表3に示す。
【表3】

【0064】
ゲル内で2時間培養した後、通常の液体培地であるRPMI培地で22時間培養した場合、生存率が90%以上となることがわかった。
【0065】
考察
ゲル内で長時間(24時間)培養を行うと、剪断応力などトラップされることによる影響が細胞の生存率を低下させる可能性が示唆された。
【0066】
結論
ゲル内での培養時間は2時間とし、その後RPMI培地で22時間培養することが好ましい。
【0067】
実験4:被験物質適用条件の検討(ジニトロクロロベンゼン(DNCB))
代表的な感作性物質であるジニトロクロロベンゼン(DNCB)の適用でCD86値が上昇するかを確認する。
【0068】
材料
細胞:THP−1(3374053)
培地:RPMI1640
試薬:メビオールジェル(登録商標)((株)池田理研、型番:PMW20−1005)
【0069】
方法
(1)メビオールジェル(登録商標)培地の準備
クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)入りのフラスコに上記培地10mLを加え、低温下(15℃以下)で3時間以上静置し、その後、振盪してメビオールジェル(登録商標)に完全に溶解させた。完全に溶解したら消泡するまで低温下で数時間〜数日間、静置し保存した。
【0070】
ジニトロクロロベンゼン(DNCB)の調製
ジニトロクロロベンゼン(DNCB)(最終濃度2、2.4、2.9、3.4、4.2、5、6、及び7.2μg/mL)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた後、RPMI培地を用いて調製した。
【0071】
メビオールジェル(登録商標)培地と細胞の混合
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、1×106、2×106、及び4×106細胞/500μL/ウェルになるように、低温下においてあるメビオールジェル(登録商標)で調整した。
【0072】
播種及び培養
調整したTHP−1細胞・メビオールジェル(登録商標)培地混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種した。その後、無処理群には上記培地を、ジニトロクロロベンゼン(DNCB)処理群には上記で調製したジニトロクロロベンゼン(DNCB)調製液をそれぞれ500μL/ウェルずつ添加し、37℃のインキュベーターで培養した。
【0073】
細胞の回収と生存率測定
2時間経過したプレートを氷冷することでゾル状にした細胞混合液を、エッペンドルフチューブに回収し、遠心を行った。その後RPMI培地1mLで洗浄し、上清を除去した後、RPMI培地を1mL加え、24ウェルプレートに移した。22時間培養後、ヨウ化プロピジウム(PI)で核染色し、フローサイトメトリーにて細胞の生存率を測定した。
【0074】
CD86値及びCD54値の測定
CD86値及びCD54値の測定において、培養後の細胞をPBSで洗浄し、FITCで蛍光標識した抗ヒトCD86抗体又は抗ヒトCD54抗体を用いて氷水中で30分間染色し、そして染色した細胞をPBSで洗浄し、洗浄後の細胞を1%BSAを含むPBSに浮遊させた。その細胞浮遊液を用いてフローサイトメトリーにより生細胞の蛍光強度を測定し、被験物質無処理のコントロールを比較した。
【0075】
その結果を表4に示す。
【表4】

明らかなCD86値の上昇が認められた。
【0076】
考察
ジニトロクロロベンゼン(DNCB)の感作性を評価できる可能性が示唆された。更に二次元培養時とは異なる濃度反応性を示したことから、三次元培養にすることで二次元培養とは物質の浸透性等が異なる可能性が示唆され、三次元培養独自の濃度設定が必要であることが考えられた。
【0077】
結論
該三次元培養モデルにおいてジニトロクロロベンゼン(DNCB)の適用によりCD86値の上昇が認められた。
【0078】
実験5:被験物質適用条件の検討
感作性物質であるニッケルやグルタルアルデヒドの適用でCD86値が上昇するか、また非感作性物質であるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)でCD86値が上昇しないかを確認する。
【0079】
材料
細胞:THP−1(3374053)
培地:RPMI1640
試薬:メビオールジェル(登録商標)((株)池田理研、型番:PMW20−1005)
【0080】
方法
(1)メビオールジェル(登録商標)培地の準備
クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)入りのフラスコに上記培地10mLを加え、低温下(15℃以下)で3時間以上静置し、その後、振盪してメビオールジェル(登録商標)に完全に溶解させた。完全に溶解したら消泡するまで低温下で数時間〜数日間、静置し保存した。
【0081】
被験物質の調製
ニッケル(最終濃度:72.3、86.8、104.2、125、150、180、216、及び259.2μg/mL)を生理食塩水に溶解させた後、RPMI培地を用いて調製した。
【0082】
グルタルアルデヒド(最終濃度:2.7、3.2、3.9、4.6、5.6、6.7、8、及び9.6μg/mL)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた後、RPMI培地を用いて調製した。
【0083】
ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)(最終濃度:24、29、35、42、50、60、及び72μg/mL)を生理食塩水に溶解させた後、RPMI培地を用いて調製した。
【0084】
メビオールジェル(登録商標)培地と細胞の混合
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、1×106、2×106、及び4×106細胞/500μL/ウェルになるように、低温下においてあるメビオールジェル(登録商標)で調整した。
【0085】
播種及び培養
調整したTHP−1細胞・メビオールジェル(登録商標)培地混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種した。その後、無処理群には培地を、ジニトロクロロベンゼン(DNCB)処理群には上で調製した被験物質調製液をそれぞれ500μL/ウェルずつ添加し、37℃のインキュベーターで培養した。
【0086】
細胞の回収と生存率測定
2時間経過したプレートを氷冷することでゾル状にした細胞混合液を、エッペンドルフチューブに回収し、遠心を行った。その後RPMI培地1mLで洗浄し、上清を除去した後、RPMI培地を1mL加え、24ウェルプレートに移した。22時間培養後、ヨウ化プロピジウム(PI)で核染色し、フローサイトメトリーにて細胞の生存率を測定した。
【0087】
CD86値及びCD54値の測定
CD86値及びCD54値の測定において、培養後の細胞をPBSで洗浄し、FITCで蛍光標識した抗ヒトCD86抗体又は抗ヒトCD54抗体を用いて氷水中で30分間染色し、そして染色した細胞をPBSで洗浄し、洗浄後の細胞を1%BSAを含むPBSに浮遊させた。その細胞浮遊液を用いてフローサイトメトリーにより生細胞の蛍光強度を測定し、被験物質無処理のコントロールを比較した。
【0088】
その結果を表5に示す。
【表5】

感作性物質であるニッケルやグルタルアルデヒドの適用では、明らかなCD86値の上昇が認められたのに対し、非感作性物質であるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)ではCD86値の上昇は認められなかった。
【0089】
考察
生存率から考えると、濃度をもう少し振り、用量依存性を検討する必要がある。
【0090】
実験6:被験物質適用条件の検討(難水溶性物質)
難水溶性物質の適用条件について検討を行う。
【0091】
材料
細胞:THP−1(3374053)
培地:RPMI1640
試薬:メビオールジェル(登録商標)((株)池田理研、型番:PMW20−1005)
【0092】
方法
(1)メビオールジェル(登録商標)培地の準備
クリーンベンチ内でメビオールジェル(登録商標)入りのフラスコに上記培地10mLを加え、低温下(15℃以下)で3時間以上静置し、その後、振盪してメビオールジェル(登録商標)に完全に溶解させた。完全に溶解したら消泡するまで低温下で数時間〜数日間、静置し保存した。
【0093】
被験物質の調製
ジニトロクロロベンゼン(DNCB)(最終濃度:8.6μg/mL)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた後、i)流動パラフィン、ii)ワセリン、iii )ミエルナイトクリーム、iv)RPMI培地、を用いて調製した。
【0094】
メビオールジェル(登録商標)培地と細胞の混合
計算盤を用いてTHP−1の細胞数を計測し、1×106、2×106、及び4×106細胞/500μL/ウェルになるように、低温下においてあるメビオールジェル(登録商標)で調整した。
【0095】
播種及び培養
調整したTHP−1細胞・メビオールジェル(登録商標)培地混合液を24ウェルプレートに500μL/ウェルで播種した。その後、無処理群には培地を、ジニトロクロロベンゼン(DNCB)処理群には上で調製した被験物質調製液をそれぞれ500μL/ウェルずつ添加し、37℃のインキュベーターで培養した。
【0096】
細胞の回収と生存率測定
2時間経過したプレートを氷冷することでゾル状にした細胞混合液を、エッペンドルフチューブに回収し、遠心を行った。その後RPMI培地1mLで洗浄し、上清を除去した後、RPMI培地を1mL加え、24ウェルプレートに移した。22時間培養後、ヨウ化プロピジウム(PI)で核染色し、フローサイトメトリーにて細胞の生存率を測定した。
【0097】
CD86値及びCD54値の測定
CD86値及びCD54値の測定において、培養後の細胞をPBSで洗浄し、FITCで蛍光標識した抗ヒトCD86抗体又は抗ヒトCD54抗体を用いて氷水中で30分間染色し、そして染色した細胞をPBSで洗浄し、洗浄後の細胞を1%BSAを含むPBSに浮遊させた。その細胞浮遊液を用いてフローサイトメトリーにより生細胞の蛍光強度を測定し、被験物質無処理のコントロールを比較した。
【0098】
その結果を表6に示す。
【表6】

【0099】
RPMI培地及び流動パラフィンにジニトロクロロベンゼン(DNCB)を混合した試料においてCD86値の上昇が認められた。
【0100】
考察
生存率を見ると、ワセリン及びクリームではゲルにジニトロクロロベンゼン(DNCB)が移行していないことがわかる。今後、媒体の移行性等、更なる検討が必要であるが、難水溶性物質を直接適用できる可能性も示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】メビオールジェル(登録商標)培地及びBD PuraMatrix(登録商標)ペプチドハイドロゲル培地における、トリパンブルー染色による細胞生存率の比較を示す。
【図2】播種細胞数及び培養時間における細胞生存率の比較を示す。
【図3】ゲル状のメビオールジェル(登録商標)培地中で24時間培養した場合と、ゲル状のメビオールジェル(登録商標)培地中で2時間、その後RPMI培地中で22時間培養した場合の細胞生存率の比較を示す。
【図4】感作性物質ジニトロクロロベンゼン(DNCB)の濃度に対する、CD86値及びCD54値、並びに細胞生存率を示す。
【図5】グルタルアルデヒド、ニッケル、又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を適用した場合のCD86値及びCD54値、並びに細胞生存率を示す。
【図6】被験物質をそれぞれ、流動パラフィン、ワセリン、ミエルナイトクリーム、RPMI培地を用いて調製した場合のCD86値及びCD54値、並びに細胞生存率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト単核球細胞上で発現される分子を指標として難水溶性物質の感作性をインビトロ評価する方法において、ゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地に難水溶性被験物質を浸潤させることにより、該被験物質により培地中のヒト単核球細胞を暴露させ、ヒト単核球細胞上で発現される分子を検出する前に、温度を下げることにより温度感応性ハイドロゲル培地をゾル化させてヒト単核球細胞を回収し、そして通常培地で培養することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ヒト単核球細胞上で発現される分子が、CD86分子、CD54分子、MIP−1α、MIP−1β、CCR7、IL−23、ATF−3、又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ゲル状の温度感応性ハイドロゲル培地におけるヒト単核球細胞の培養時間が約2時間である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
通常培地中の培養時間が約22時間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヒト単核球細胞がTHP−1細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
温度感応性ハイドロゲルがメビオールジェル(登録商標)である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−125453(P2008−125453A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314819(P2006−314819)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】