説明

難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる光拡散板

【課題】優れた難燃性を有し、高度な光学的性能を備えた光拡散板を提供。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、平均粒径が1〜10μmである光拡散剤(B)0.1〜6重量部、平均粒径が1〜20μmである蓄光剤(C)0.03〜1重量部および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.01〜1.5重量部、ならびに所望によってはポリカプロラクトン(E)0.1〜1.2重量部からなることを特徴とする難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物、およびそれからなる光拡散板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散剤、蓄光剤および所望によってはポリカプロラクトンを添加した光拡散性ポリカーボネート樹脂に、特定構造のシリコーン化合物を配合することにより、光拡散性、輝度を損なうことなく、かつ、塩素や臭素を含有せずに、難燃性を付与した光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物、ならびにそれからなる光拡散板に関する。詳しくは、光源を覆う部材、例えば液晶テレビの直下型バックライトユニットおよびエッジライト型ユニットの光拡散板、照明器具のグローブボックス、各種デバイスのスイッチ類および光拡散性を必要とする用途に好適に用いられる、難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物、およびそれを成形してなる光拡散板を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明でかつ光透過性を有することから電気・電子・OA、自動車などの分野において、広範に使用されている。
特に、液晶テレビの直下型およびエッジライト型ユニット、照明器具カバーおよび各種デバイスのスイッチ類などの用途では、透明なポリカーボネート樹脂を使用すると光を透過するため光源が透けて見えてしまうことから、樹脂成形品の背後にある光源(ランプ)の形状を認識させることなく、また光源の輝度をできるだけ損なわないような光拡散性を付与した材料が望まれている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂などの透明な熱可塑性樹脂に光拡散性を付与する目的で、従来技術では連続相を形成する熱可塑性樹脂に、それとは屈折率が異なる高分子系や無機系の粒子を分散相として配合する方法が採用されている。また、当該分散相と連続相の屈折率の差の範囲や分散相の該粒子の大きさを調整して所望の光拡散性を発現する方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−184559号公報
【特許文献2】特開平3−143950号公報
【0005】
一方、蓄光剤としては、紫外線などの光学的励起を行った後、照射を終えると、長時間に渡り発光することから、避難誘導標識や表示灯など夜間表示用途に用いられている。
【0006】
【特許文献3】特開平7−240187号公報
【特許文献4】特開2000−156107号公報
【0007】
さらに、ポリカーボネート樹脂などの透明な熱可塑性樹脂に光拡散剤と蓄光剤とを併用することにより、より一層高度な光学的性能を有する拡散板を得ることも可能になった。
【特許文献5】特願2005−165178号公報
【0008】
また、ポリカーボネート樹脂は、自己消化性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、光拡散板を含む電気・電子・OAの分野では安全上の要求を満たすため、より一層高い難燃性が求められている。
【0009】
ポリカーボネート樹脂の難燃性を向上する方法としては、従来より臭素化ビスフェノールAのカーボネート誘導体のオリゴマーあるいはポリマーを多量に配合する方法が採用されてきた。
【0010】
しかしながら、臭素を含む多量のハロゲン化化合物を配合すると、燃焼時に当該ハロゲンを含むガスが発生する懸念もあり、環境面でも塩素、臭素等を含有しない難燃剤の使用が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、光拡散剤と輝度を損なうことなく、かつ、塩素や臭素を含有せずに、難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形してなる光拡散板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる問題点に鑑み鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に光拡散剤と蓄光剤、および特定構造のシリコーン化合物ならびに所望によってはポリカプロラクトンを配合することにより、高度な光学的性能を有し難燃性をも具備した拡散板を得ることができるポリカーボネート樹脂組成物を見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の第1の態様は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、平均粒径が1〜10μmである光拡散剤(B)0.1〜6重量部、平均粒径が1〜20μmである蓄光剤(C)0.03〜1重量部および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.01〜1.5重量部からなることを特徴とする難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物、ならびにそれを成形してなる光拡散板を提供するものである。
【0014】
また、本発明の第2の態様は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、平均粒径が1〜10μmである光拡散剤(B)0.1〜6重量部、平均粒径が1〜20μmである蓄光剤(C)0.03〜1重量部および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.01〜1.5重量部およびポリカプロラクトン(E)0.1〜1.2重量部からなることを特徴とする難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物、ならびにそれを成形してなる光拡散板を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる光拡散板は、光源を覆う部材、すなわち液晶テレビの直下型バックライトユニットおよびエッジライト型ユニットの拡散板、照明器具のグローブボックス、各種デバイスのスイッチ類などの、優れた難燃性を有し、高度な光学的性能を必要とする用途全般に好適に用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0017】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0018】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜28000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0020】
本発明にて使用される光拡散剤(B)とは、高分子系および無機系など化学組成上特に制限はないが、本発明のポリカーボネート樹脂(A)に光拡散剤(B)を添加し、押出機による溶融混合など公知の方法にて分散させた際にマトリックス相と相溶しないか、あるいは相溶しにくく粒子として存在することが必要である。
【0021】
光拡散剤(B)の具体例としては、炭酸カルシウム、シリカ、シリコーン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、リン酸チタン、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウム、マイカ、ガラスフィラー、硫酸バリウム、クレー、タルク、シリコーンゴム状弾性体、ポリメチルシルセスキオキサンなどの無機系光拡散剤、アクリル系、スチレン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ナイロン系、メタクリレート−スチレン系、フッ素系、ノルボルネン系などの有機系光拡散剤などが挙げられる。
【0022】
さらに、光拡散剤(B)は、1〜10μmの平均粒子径を有することを要件とする。平均粒子径が1μm未満であると光を透過するのみで、もはや光拡散効果が得られにくくなり好ましくない。一方、10μmを超えると、十分な光拡散効果が得られず視認性に劣るため好ましくない。また、粒径分布としては特に制限はないが、0.1〜100μm程度であり、好ましくは0.1〜25μmである。さらに、平均粒子径、粒径分布および種類の異なる2種類以上の光拡散剤を併用してもよく、粒径分布が一様ではなく、2つ以上の粒径分布を有するものなどを単独または併用して使用することもできる。
【0023】
光拡散剤(B)の配合量としては、本発明のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜6重量部の範囲である。0.1重量部未満であると十分な光拡散効果が得られにくくなるため好ましくない。一方、6重量部を越えると光の透過性が損なわれ、十分な光拡散効果が得られにくくなるので好ましくない。より好ましくは、0.2〜5重量部である。
【0024】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、光拡散剤(B)と蓄光剤(C)を併用して使用することにより、従来の光拡散剤(B)単独での使用と比較して、一層優れた面発光性(輝度)を達成することができる。
【0025】
本発明にて使用される蓄光剤(C)とは、紫外線などの光を蓄え、光による照射を停止した後でも、放光という形で長時間に渡り発光し続けるものをいい、光励起終了後は、数分〜数十時間程度の残光持続性を持ち、光照射を停止した後、速やかに発光が減衰する一般の蛍光増白剤などとは区別される。
【0026】
蓄光剤(C)としては、CaS:Bi、CaSrS:Bi、ZnCdS:Cuなどの硫化物系蓄光剤、ZnS:Cuなどの硫化亜鉛系蓄光剤、MAで表される化合物で、Mはカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素からなり、該化合物に賦活剤としてユウロピウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、マンガン、スズ、ビスマスから選ばれる少なくとも1つ以上の元素からなり、上記Mで表される金属元素に対して通常、10モル%以下で含有するアルミン酸系化合物などが挙げられる。好ましくは、加水分解性、残光特性の観点から、アルミン酸系化合物であり、さらに好ましくは、金属元素としてストロンチウム、賦活剤としてユウロピウム、ジスプロシウムを用いたアルミン酸ストロンチウム系化合物である。
【0027】
さらに、蓄光剤(C)は1〜20μmの平均粒子径を有することを要件とする。さらに好ましくは、2〜17μmの範囲である。1μm未満のものは製造上困難であるため、実用的でなく入手が困難なため好ましくない。一方、20μmよりも大きくなると、光拡散剤(B)との併用効果が得られにくくなるので好ましくない。また、粒径分布としては特に制限はないが、0.1〜100μm程度であり、好ましくは0.5〜80μmである。さらに、平均粒子径、粒径分布および種類の異なる2種類以上の蓄光剤を併用してもよく、粒径分布が一様ではなく、2つ以上の粒径分布を有するものなどを単独または併用して使用することもできる。
【0028】
蓄光剤(C)の配合量としては、本発明のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.03〜1重量部である。配合量が0.03重量部未満であると、光拡散剤(B)との併用効果が得られにくくなるため好ましくない。一方、1重量部を越えると、熱安定性に劣ることから好ましくない。より好ましくは、0.05〜0.5重量部であり、かかる範囲において光拡散剤(C)と併用するとより一層優れた面発光性(輝度)を得ることができる。
【0029】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(D)としては、下記一般式(1)に示されるような、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基として芳香族基を含有するか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)を含有するものである。
一般式(1)
【0030】
【化1】

【0031】
すなわち、分岐単位として T単位および/またはQ単位を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位の20mol%以上含有することが好ましい。20mol%未満であると、シリコーン化合物(D)の耐熱性が低下してその難燃性の効果が下がり、またシリコーン化合物(D)自体の粘度が低すぎてポリカーボネート樹脂(A)との混練性や成形性に悪影響を及ぼす場合がある。さらに好ましくは30mol%以上、95mol%以下である。
【0032】
また、シリコーン化合物(D)は、含有される有機官能基のうち芳香族基が20mol%以上であることが好ましい。この範囲以下であると、燃焼時に芳香族基同士の縮合が起こりにくくなり難燃効果が低下する場合がある。さらに好ましくは40mol%以上、95mol%以下である。
【0033】
この含有される芳香族基としては、フェニル、ビフェニル、ナフタレン、またはこれらの誘導体であるが、シリコーン化合物(D)の安全面からは、特にフェニル基が好ましい。本シリコーン化合物(D)中の有機官能基で、主鎖や分岐した側鎖に付いたもののうち、芳香族基以外の有機基としてはメチル基が好ましく、さらに、末端基はメチル基、フェニル基、水酸基またはアルコキシ基の内から、選ばれた1種またはこれらの2種から4種までの混合物であることが好ましい。これらの末端基の場合、反応性が低いため、ポリカーボネート樹脂(A)とシリコーン化合物(D)の混練時に、シリコーン化合物(D)のゲル化(架橋化)が起こりにくいので、シリコーン化合物(D)がポリカーボネート樹脂(A)中に均一に分散でき、その結果、一層良好な難燃効果を持つことができ、さらに成形性も向上する。特に好ましくはメチル基である。これの場合、極端に反応性が低いので、分散性が極めて良好になり、難燃性をさらに向上することができる。
【0034】
シリコーン化合物(D)の平均分子量(重量平均)は、好ましくは5000以上50万以下である。5000未満だとシリコーン化合物自体の耐熱性が低下して難燃性の効果が低下し、さらに溶融粘度が低すぎて成形時にポリカーボネート樹脂(A)の成形体表面にシリコーン化合物が浸み出して成形性を低下させる場合があり、また50万を超えると溶融粘度が増加してポリカーボネート樹脂(A)中での均一な分散が損なわれ難燃性の効果や成形性が低下する場合がある。さらに特に好ましくは10000以上27万以下である。
【0035】
シリコーン化合物(D)の配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.01〜1.5重量部である。配合量が0.01重量部未満では難燃効果が不十分であるので好ましくない。一方1重量部を超える場合においてはとヘイズがかかる為、十分な輝度が得られないので好ましくない。より好ましくは0.01〜0.8重量部、更に好ましくは0.05〜0.5重量部の範囲である。
【0036】
本発明にて使用されるポリカプロラクトン(E)は、ε−カプロラクトンを触媒存在下で開環重合して製造されるポリマーであり、とりわけ2−オキセパノンのホモポリマーが好適に用いられる。概ポリマーは市販品として容易に入手可能で、ダウ・ケミカル社製トーンポリマー、ソルベイ社製CAPAなどが用いられる。ポリカプロラクトン(D)の粘度平均分子量としては、10000〜100000のものが好適で、さらに好ましくは40000〜90000である。
【0037】
さらに、ポリカプロラクトン(E)には、ε−カプロラクトンを開環重合させる際に、1、4−ブタンジオールなどと共存させて変性したものや分子末端をエーテルあるいはエステル基などで置換した変性ポリカプロラクトンも含まれる。
【0038】
ポリカプロラクトン(E)の配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.1〜1.2重量部である。配合量が0.1重量部未満であると、輝度の改良効果が認められない。一方、1.2重量部を超えると十分な熱安定性と難燃性が得られず好ましくない。より好ましくは、0.2〜0.9重量部の範囲である。
【0039】
本発明の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物において、実用上、光拡散性以外に要求される性能により、公知の各種添加剤、ポリマーなどを必要に応じて添加することができる。例えば、長期間、光に暴露された際の樹脂成形品の変色を抑制するために、ヒンダードアミン系の耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系およびマロネート系の紫外線吸収剤およびこれらを併用して添加してもよい。
【0040】
また、難燃性が必要とされる場合、公知の各種難燃剤、例えば、テトラブロモビスフェノールAオリゴマーなどの臭素系難燃剤、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノリン酸エステル類、ビスフェノールAジホスフェート、レゾルシンジホスフェート、テトラキシレニルレゾルシンジホスフェートなどオリゴマータイプの縮合リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウムおよび赤燐などのリン系難燃剤、各種シリコーン系難燃剤、あるいは難燃性をより高めるために、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩があげられ、好適には、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3−3′−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩等などの有機金属塩なども添加することができる。これらの難燃剤の中でも、リン系難燃剤は、難燃性を向上させるばかりでなく、流動性をも向上させることができることから好適に用いることができる。
【0041】
本発明の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外の公知の添加剤、例えばフェノール系またはリン系熱安定剤[2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(4−エチル−6−t−メチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、4,4′−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)等]、滑剤[パラフィンワックス、n−ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート等]、着色剤[例えば酸化チタン、カーボンブラック、染料]、充填剤[炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類等]、流動性改良剤、展着剤[エポキシ化大豆油、流動パラフィン等]、さらには他の熱可塑性樹脂や各種耐衝撃改良剤(ポリブタジエン、ポリアクリル酸エステル、エチレン・プロピレン系ゴム等のゴムに、メタアクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル等の化合物をグラフト重合してなるゴム強化樹脂等が例示される。)を必要に応じて添加することができる。
【0042】
本発明における各構成成分の実施の形態および順序には何ら制限はない。例えば、ポリカーボネート樹脂(A)、光拡散剤(B)、蓄光剤(C)、シリコーン化合物(D)ならびに所望によってはポリカプロラクトン(E)および各種添加剤を任意の配合量で計量し、タンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等により一括混合した後、混合物を通常の一軸またはニ軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化させる方法、あるいは、各々の成分を一部または全てを別々に計量し、複数の供給装置から押出機内へ投入し、溶融混合する方法、さらには、(B)および/または(C)および/または(D)および/または(E)および/または各種添加剤等を高濃度に配合し、一旦溶融混合してペレット化し、マスターバッチとした後、当該マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)を、所望の比率により混合することもできる。そして、これらの成分を溶融混合する際の、押出機の投入する位置、押出温度、スクリュー回転数、供給量など、状況に応じて任意の条件が選択され、ペレット化することができる。
さらに、該マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)とを、所望の比率により配合した後、射出成形装置やシート押出機装置に直接投入し、成形品とすることも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、実施例中の「%」、「部」はそれぞれ重量基準に基づく。
【0044】
尚、使用された各種配合成分は以下のものである。
ポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製カリバー200−3
(粘度平均分子量:28000、以下PCと略記)
光拡散剤:
日興リカ社製MSP−S020:平均粒径 2μm
(ポリメチルシルセスキオキサン系拡散剤、以下LD−1と略記)
ロームアンドハース社製EXL−5136:平均粒径 5μm
(アクリル系拡散剤、以下LD−2と略記)
蓄光剤:
根本特殊化学社製G−300FF
(平均粒径4.3μm、アルミン酸ストロンチウム系蓄光剤、以下PP−1と略記)
【0045】
シリコーン化合物:
シリコーン化合物は、一般的な製造方法に従って製造した。すなわち、適量のジオルガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシランおよびテトラクロロシラン、あるいはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解して、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、さらにトリオルガノクロロシランを添加して反応させることによって重合を終了させ、その後、溶媒を蒸留等で分離した。上記方法で合成したシリコーン化合物の構造特性は、以下のとおり:
・主鎖構造のD/T/Q単位の比率:40/60/0(モル比)
・全有機官能基中のフェニル基の比率(*):60モル%
・末端基:メチル基のみ
・重量平均分子量(**):15000
*:フェニル基は、T単位を含むシリコーン中ではT単位にまず含まれ、残った場合がD単位に含まれる。D単位にフェニル基が付く場合、1個付くものが優先し、さらにフェニル基が残余する場合に2個付く。末端基を除き、有機官能基は、フェニル基以外は全てメチル基である。
**:重量平均分子量は、有効数字2桁
(以下、Si難燃剤と略記)
【0046】
ポリカプロラクトン:
ソルベイ社製CAPA6800
(粘度平均分子量:80000、以下PCLと略記)
【0047】
以下の表2〜表4に示す配合比率にて、ポリカーボネート樹脂、光拡散剤、蓄光剤、シリコーン化合物およびポリカプロラクトン(PCL)をハンドブレンドにより乾式混合後、ついで、二軸押出機(神戸製鋼所社製KTX−37(軸直径=37mmφ、L/D=30)により250〜290℃の温度条件下で溶融混練を行い、各種ペレットを得た。得られたペレットを以下の各種評価に評した。
【0048】
本発明における各種評価項目の測定方法について説明する。
(輝度の評価)
射出成形機(日本製鋼所社製J100E2P)によりシリンダー設定温度300℃、金型温度80℃の条件下で作製した平板試験片(90mm×50mm×2mmの厚み)の裏側に2本の冷陰極管を配置し、発光面上のランプ間の輝度を輝度計(トプコン社製BM−7)により、測定距離35cm、視野角1°の条件で、ランプ間の垂直方向にある試験片表面上の輝度を測定した。尚、輝度とは、ある方向に向かう光度の、その方向に垂直な面における単位面積当たりの割合のことをいい、一般に、発光面の明るさの程度を表す[単位:(cd/m)]。また、評価の基準としては、ランプ間輝度の測定値が4350cd/m以上であるものを合格(○)、4350cd/m未満であるものを不合格(×)とした。また、測定方法の概略を図1に示す。
【0049】
(熱安定性の評価)
得られた各種ペレットを、100℃で4時間以上乾燥した後に、射出成形機(日本製鋼所社製J100E2P)により、シリンダー設定温度300℃、金型温度80℃の条件下で15分間滞留し、平板試験片(90mm×50mm×2mmの厚み)を作製した。評価の基準としては、得られた試験片の外観を目視により確認し、変色が少ないものを合格(○)、変色が著しいものを不合格(×)とした。
【0050】
(難燃性の評価)
下記のUL94V垂直燃焼試験法に準拠して燃焼性を評価した。得られた各種ペレットを100℃で4時間以上乾燥した後に、射出成形機(日本製鋼所社製J100E2P)により、シリンダー設定温度300℃、金型温度80℃の条件下で作製した難燃性評価用の試験片(125×13×3mmの厚み)を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、以下のクラスに分けられる。以下のクラスに適合しない場合は不適合と評価される。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示す残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。評価の基準としては、V−2以上を合格(○)とし、表1に示すクラスに適合しない場合を不適合(NR)とした。
評価結果を表2〜表4に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】


【0056】
表2に示すとおり、本発明の構成を満足する場合(実施例1〜5)には、全ての評価項目において十分な性能を有していた。また、表4の実施例6および実施例7に示すように、更にポリカプロラクトンを規定量配合した場合は、ランプ間輝度の向上が認められた。
【0057】
一方、表3に示すとおり、本発明の構成を満足しない場合には、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1および比較例2は、光拡散剤の配合量が規定量よりもそれぞれ多い、または少ない場合で、いずれも熱安定性および難燃性は合格するものの、ランプ間輝度が劣っていた。
比較例3は、蓄光剤の配合量が規定量よりも多い場合で、輝度および難燃性は合格するものの、熱安定性が劣っていた。
比較例4は、Si難燃剤の配合量が規定量よりも少ない場合で、ランプ間輝度および熱安定性は合格するものの、難燃性が劣っていた。
比較例5は、Si難燃剤の配合量が規定量よりも多い場合で、熱安定性および難燃性は合格するものの、ヘイズが高くなるためにランプ間輝度が劣っていた。
比較例6は、ポリカプロラクトンの配合量が規定量よりも多い場合で、ランプ間輝度は合格するものの、熱安定性と難燃性が劣っていた。

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のランプ間輝度の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
A:輝度計
B:冷陰極管
C:輝度測定部位
D:ポリカーボネート樹脂製光拡散板
E:光反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、平均粒径が1〜10μmである光拡散剤(B)0.1〜6重量部、平均粒径が1〜20μmである蓄光剤(C)0.03〜1重量部および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.01〜1.5重量部からなることを特徴とする難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、平均粒径が1〜10μmである光拡散剤(B)0.1〜6重量部、平均粒径が1〜20μmである蓄光剤(C)0.03〜1重量部および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.01〜1.5重量部およびポリカプロラクトン(E)0.1〜1.2重量部からなることを特徴とする難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
光拡散剤(B)の配合量が、0.2〜5重量部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
蓄光剤(C)の配合量が、0.05〜0.5重量部であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
蓄光剤(C)が、アルミン酸ストロンチウム系化合物であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)が、式RSiO1.5の単位(T単位)および/または式SiO2.0の単位(Q単位)を全体のシロキサン単位(R3〜0SiO2〜0.5)に対して20mol%以上含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。(Rは有機官能基を表わす。)
【請求項7】
主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)が、含有される有機官能基のうち芳香族基が20mol%以上であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)が、含有される有機官能基のうち芳香族基がフェニル基であり、残りがメチル基であり、また末端基がメチル基、フェニル基、水酸基またはアルコキシ基の内から、選ばれた1種、またはこれらの2種から4種までの混合物であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(C)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.05〜0.5重量部であることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の難燃性に優れた光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物を成形されてなる光拡散板。
【請求項11】
液晶ディスプレイ用である請求項10に記載の光拡散板。
【請求項12】
液晶ディスプレイの直下型バックライト用である請求項10に記載の光拡散板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−74952(P2008−74952A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255430(P2006−255430)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】