説明

難燃性エアフィルタ

【課題】従来から要求される濾過性能や難燃性を保持しながら、環境に大きな負荷をかけることのない、洗濯による再生使用性やリサイクル使用性能に優れた、除塵フィルタを提供する。
【解決手段】難燃剤として、ヒンダードアミン化合物を1〜10重量%含有するポリオレフィン短繊維(a)からなり、熱で溶融させて繊維間結合したサーマルボンド不織布(A)から構成されるプレフィルタであって、該サーマルボンド不織布(A)は、平均繊度が5〜50デシテックス、目付重量が50〜500g/m、厚みが3〜30mmであり、且つJACA難燃試験法(No.11A−2003)においてクラス3に合格することを特徴とする除塵フィルタなど。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性エアフィルタに関し、より詳しくは、ビルや建物、工場内に取り入れる空気中の塵埃を除塵し、清浄化するために使用される、不織布からなる難燃性エアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布からなる難燃性フィルタには、塩素、臭素といったハロゲン系物質やリン系物質が難燃剤として、また、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物が難燃助剤として、難燃効果を高めるために使用されている。しかし、ハロゲン系物質では、使用後に焼却して廃棄処分するとダイオキシンなどの有害物の発生の可能性があり、火災時にハロゲン化水素などの有害物や煤が発生し、危険で問題視されている。
また、最近では、リサイクル性などが強く要求されているが、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルの場合、製造、廃棄、リサイクルにかかるエネルギーが大きく、環境に悪影響を及ぼすため、ポリエチレンテレフタレート(PET)より、リサイクルが容易なポリオレフィン樹脂で上記難燃性フィルタを作ることが求められているが、ポリオレフィン樹脂は、ラジカル重合で作られているため、難燃化が困難であり、前述の様にハロゲン化合物などの難燃剤が用いられてきた。
【0003】
そのため、難燃剤としてハロゲン化合物などのハロゲン系物質を用いない、すなわち、ハロゲン化水素などの有害物や煤を発生しない、ポリオレフィンおよびスチレン性ポリマーなどのポリマー性基材の難燃化方法、難燃剤組成物などが検討され、種々の技術が開示されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
具体的には、上記特許文献1では、難燃剤としてNOR(N−アルコキシ:アルコキシイミノ基)型の立体障害アミン化合物を、ポリオレフィン樹脂やスチレン性ポリマーなどのポリマー性基材に添加した難燃剤組成物や難燃化方法が提案されている。
また、特許文献2では、ポリオレフィン樹脂に、難燃効果剤としてNOR型の高分子量ヒンダードアミン系安定剤を0.1〜10重量%添加し、オレフィン樹脂に難燃性を付与することで難燃化した繊維及びその組成物が開示されている。
また、特許文献3では、ポリオレフィン樹脂に、NOR型ヒンダードアミン系安定剤を0.5〜3.0重量%と、リン酸エステル系難燃剤を0.5〜3.0重量%とを含有することを特徴とする難燃性ポリプロピレン繊維が開示されている。
さらに、特許文献4では、ポリオレフィン樹脂に、難燃効果剤としてNOR型の高分子量ヒンダードアミン系安定剤と、加工熱安定剤としてリン系酸化防止剤のアリールフォスファイトとを、それぞれ特定量添加されてなる単一繊維および/または複合繊維からなる繊維が開示されている。
またさらに、特許文献5では、ポリオレフィン樹脂に、難燃効果剤(a)としてトリアジン骨格とその近傍に位置する複数のピペリジン基のイミノ基(>N−H)の一部または全部がN−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)に置換されているヒンダードアミン誘導体と、熱安定剤(b)としてリン系酸化防止剤のアリールフォスファイトと、トリアジン骨格とその近傍に位置する複数のピペリジン基を有する分子量が2000以上である高分子量ヒンダードアミン(c)とを、それぞれ特定量含む難燃性ポリオレフィン樹脂成形物や、その成形物を含む積層体、その積層体からなる難燃性エアフィルタが開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の従来技術には、上記の難燃性ポリプロピレン繊維などを、ビル空調用のエアフィルタに適用する場合、繊維の風合いが柔らかいため、塵埃の捕集容量を持つためのカサ高さを維持するとともに、洗濯によって再生使用の可能な堅牢性を有することができなかった。
そのため、ビル空調や一般オフィスなどの空調に用いられるエアフィルタにおいて、上記の問題点を解消した不織布からなる難燃性エアフィルタが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−507238号公報
【特許文献2】特開2001−254225号公報
【特許文献3】特開2001−348724号公報
【特許文献4】特開2002−115118号公報
【特許文献5】特開2003−292688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、従来から要求される濾過性能や難燃性を保持しながら、環境に大きな負荷をかけることのない、洗濯による再生使用性やリサイクル使用性能に優れた、除塵フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、繊維基材として、比重(密度)が軽いポリオレフィン基材に注目し、同一の目付重量では、繊維数を増やすことができ、または、繊維数を一定にすると、繊維径を太くすることができ、その結果、フィルタの剛性や洗濯耐久性に優れることを、見出し、さらに、難燃剤として、ヒンダードアミン系安定剤を含有するポリオレフィン短繊維からなり、熱で溶融させて繊維間結合したサーマルボンド不織布から構成される除塵フィルタとすると、濾過性能や難燃性を保持しながら、洗濯による再生使用性やリサイクル使用性能に優れることを見出し、これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、難燃剤として、ヒンダードアミン化合物を1〜10重量%含有するポリオレフィン短繊維(a)からなり、熱で溶融させて繊維間結合したサーマルボンド不織布(A)から構成されるプレフィルタであって、
該サーマルボンド不織布(A)は、平均繊度が5〜50デシテックス、目付重量が50〜500g/m、厚みが3〜30mmであり、且つJACA難燃試験法(No.11A−2003)においてクラス3に合格することを特徴とする除塵フィルタが提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、フィルタは、JIS B9908 形式3(重量法)での捕集効率が45〜85%であり、且つ洗濯時の寸法変化率が2%以下であることを特徴とする除塵フィルタが提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記サーマルボンド不織布(A)は、帯電加工が施されてなることを特徴とする除塵フィルタが提供される。
【0010】
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記サーマルボンド不織布(A)に、さらに、他の不織布、ネット又は織物から選ばれる基材(B)を接合してなることを特徴とする除塵フィルタが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の除塵フィルタは、濾過性能や難燃性を保持しながら、環境に大きな負荷をかけることのない、洗濯による再生使用性やリサイクル使用性能に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の除塵フィルタを製造する工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の除塵フィルタは、難燃剤として、ヒンダードアミン化合物を1〜10%重量含有するポリオレフィン短繊維(a)からなり、熱で溶融させて繊維間結合したサーマルボンド不織布(A)から構成されるプレフィルタであって、
該サーマルボンド不織布(A)は、平均繊度が5〜50デシテックス、目付重量が50〜500g/m、厚みが3〜30mmであり、且つJACA難燃試験法(No.11A−2003)においてクラス3に合格することを特徴とする。
以下、除塵フィルタなどについて、項目毎に、説明する。
【0014】
1.サーマルボンド不織布(A)
本発明に係るサーマルボンド不織布(A)は、平均繊度が5〜50デシテックス、目付重量が50〜500g/m、厚みが3〜30mmであり、且つJACA難燃試験法においてクラス3に合格するものであり、難燃剤として、ヒンダードアミン化合物を1〜10重量%含有するポリオレフィン短繊維(a)からなる。
【0015】
(1)ポリオレフィン短繊維(a)
本発明に係るポリオレフィン短繊維(a)は、ポリオレフィン短繊維に、難燃剤として、ヒンダードアミン化合物を1〜10%重量含有するものである。
上記のポリオレフィン短繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、またはポリエチレンとポリプロピレン樹脂の複合型繊維が挙げられる。
複合型繊維の場合、複合の形態は、低融点樹脂と高融点樹脂の融点差のある二種類の樹脂からなる芯鞘型、サイドバイサイド型構造等のいかなる形態でも良い。また、本発明では、芯はポリプロピレン、鞘はポリエチレンの芯鞘構造になる円形同軸断面を有する短繊維が好ましく用いられる。これによって、比較的低温の熱風(およそ140℃)により、繊維の交点が熱融着した、いわゆるサーマルボンド不織布が形成される。
さらに、ヒンダードアミン化合物の含有方法は、ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂いずれか片方、または両方に混合することも可能である。
ここで、不織布の材質をポリオレフィン繊維のみとしたのは、他の素材が混入すると、分別することが困難なため、リサイクルに支障をきたすこと、或いはポリエチレンと他の素材との接着性が弱いため、毛羽立ちや引張強力の低下を起こすため、不織布素材は、ポリオレフィン繊維100%としたものである。
【0016】
また、使用する繊維の繊度は、1〜100デシテックスが好ましく、この範囲を外れると、フィルタ濾材としての性能が落ちる。
また、サーマルボンド不織布全体の平均繊度は、5〜50デシテックスであり、ポリオレフィン繊維の中から目的の性能に応じて、1種類または2〜3種程度の異なる繊度の繊維が選ばれ、混合使用される。ここで太い側の繊維は、カサ高く、使用中にヘタリのない剛性を有し、数度にわたる再生使用(洗濯)に耐えるための強固な繊維構成を不織布に与え、また、細い側の繊維は、塵埃の捕集効率を高める。
本発明においては、例えば、太い側のポリオレフィン繊維として、33デシテックスの繊維60重量%と、細い繊維として、13デシテックスの繊維40重量%を混合して使用する。
このように、本発明では、数種の繊度の異なるポリオレフィンを混合使用することにより、望ましい厚み(3〜30mm)で好適なフィルタ性能を有する不織布を得ることができる。
【0017】
なお、本発明に用いるポリオレフィン繊維は、カット長が30〜150mmの捲縮のかかった短繊維である。
【0018】
上記のヒンダードアミン化合物は、樹脂組成物などでは、耐光安定剤として、用いられるものであるが、本発明では、難燃剤として用いる。N−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)を有するヒンダードアミン化合物は、例えば、前述した特許文献1〜5に、具体的、かつ詳細に記載されている。例えば、以下の化学式(化1)で表される基を含む立体障害アミン化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、GおよびGは、独立して炭素原子1〜4個からなるアルキル基を表すか、または一緒になってペンタメチレン基を表し、ZおよびZは、各々メチル基を表すか、またはZとZは、一緒になって架橋部分を形成し、該架橋部分は、さらにエステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、カルボキシ基またはウレタン基によって置換されることができ、そしてEは、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数5〜12のシクロアルコキシ基、炭素原子数7〜25のアラルコキシ基、炭素原子数6〜12のアリールオキシ基を表す。]
【0021】
N−アルコキシ置換ヒンダードアミン化合物(NOR型)としては、ヒンダードアミン化合物中に含まれる窒素原子にアルコキシ基が結合している化合物であり、例えば、デカン酸二ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、過酸化処理した4−ブチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン、及びシクロヘキサン、N,N‘−エタン−1,2−ジイルビス(1,3−プロパンジアミン)との反応性生物等が挙げられる。
具体的に、N−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)を有するヒンダードアミン化合物、すなわち、「NOR型」のヒンダードアミン系光安定化剤としては、例えば、商品名、「チヌビン123」、「同494AR」、「同NOR371FF」、「フレームスタブNOR116FF」(以上、BASF社製)が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0022】
その難燃効果の作用機構としては、ポリオレフィン・ポリマーが炎にあたって熱分解するときに、多量のアルキル・ラジカル(R・)やアルキルパーオキシラジカル(RO・)を発生する。ここで、イミノ基の窒素部分が、N−アルコキシイミノ基(>NOR)であり、前記N−アルコキシイミノ基は、このラジカルを捕捉して、容易に、>NO・ラジカルとなり、ポリマーの熱分解連鎖反応を遮断し、難燃効果を発揮する。
上記のN−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)を有するヒンダードアミン化合物の中では、BASF社の商品名「キマソーブ944」(NH型で、N−O−R型でない。)(ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、分子量2000〜3100)などのように、多数のイミノ基が側鎖として存在するタイプの分子量2000以上の高分子量タイプで、トリアジン骨格とこれの近傍に位置する複数のピペリジン基のイミノ基(>N−H)がN−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)に置き換えられている高分子量ヒンダードアミンの誘導体は、ラジカル捕集によって3次元化するので、揮発物を抑制でき、最も好ましい。
【0023】
なお、具体的なNーアルコキシ・イミノ基(>N−O−R)を持つNOR型の高分子ハルス難燃効果剤は、トリアジン骨格とこれの近傍に位置する複数のピペリジン基のイミノ基(>N−H)がN−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)に置き換えられている、分子量が2000を超える高分子量ヒンダードアミン誘導体がブリードアウトの少ないなどの点からも都合良く、アルコキシ基は、シクロヘキサノールのアルコールの水素基が欠落した基が最も都合が良い。その一例は、前記のBASF社の「フレームスタブNOR116」である。その化学構造を下記式(化2)に示す。
【0024】
【化2】

【0025】
また、本発明に係るポリオレフィン短繊維(a)は、ポリオレフィン短繊維に、難燃剤として、N−アルコキシ・イミノ基(>N−O−R)を有するヒンダードアミン化合物を1〜10%重量含有するものであるが、さらに、所望により、アリールフォスファイトを0.2〜10重量%含有することが好ましい。アリールフォスファイトを添加することにより、難燃効果を高め、耐候性も良好な繊維とすることができる。
【0026】
アリールフォスファイトとしては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ビス(3−メチル−1,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイトなどを挙げることができる。蒸散性の観点から、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイトなどのジフォスファイトが好ましい。
尚、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトは、Irgafos168(商品名、BASF社)、アデカスタブ2112(商品名、(株)ADEKA)、スミライザーP−16(商品名、住友化学(株))等として、また、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイトは、アデカスタブPEP−24G(商品名、(株)ADEKA)として、さらに、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイトは、アデカスタブPEP−36(商品名、(株)ADEKA)として、市販されている。
【0027】
(2)ポリオレフィン短繊維(b)
本発明に係るポリオレフィン短繊維(b)は、上記のポリオレフィン短繊維(a)において、所望により、難燃剤を含有しないものを用いることができ、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、またはポリエチレンとポリプロピレン樹脂の複合型繊維が挙げられる。
複合型繊維の場合、複合の形態は、低融点樹脂と高融点樹脂の融点差のある二種類の樹脂からなる芯鞘型、サイドバイサイド型構造等のいかなる形態でも良い。
【0028】
ポリオレフィン短繊維(a)とポリオレフィン短繊維(b)の配合割合は、JACA難燃試験法においてクラス3に合格するために、ポリオレフィン短繊維(a)が100重量%であることが好ましいが、ポリオレフィン短繊維(b)を5〜20重量%程度混合することができる。
【0029】
(3)サーマルボンド不織布
本発明に係るサーマルボンド不織布は、熱で溶融させて繊維間結合されるため、低融点樹脂と高融点樹脂の融点差のある二種類の樹脂からなる芯鞘型、サイドバイサイド型構造等の熱融着性複合繊維、具体的には、ポリエチレンとポリプロピレンとの熱融着性複合繊維が50重量%以上含有していることが好ましく、100%の複合繊維のみでもよい。複合繊維の含有量が50重量%未満であると、繊維間結合力が弱く、洗濯時に毛羽立ちや寸法変化が大きくなり、除塵フィルタとして、適当でない。
【0030】
また、本発明に係るサーマルボンド不織布は、平均の繊度が5〜50デシテックス、好ましくは、10〜30デシテックスであり、目付重量が50〜500g/m、好ましくは100〜400g/mであり、厚みが3〜30mm、好ましくは、5〜25mmであり、且つJACA難燃試験法においてクラス3に合格するものである。
繊度が10デシテックス未満では、圧力損失が高くなる、厚みも確保が難しい、といった問題がある。一方、100デシテックスを超えると、捕集効率が低くなるという問題がある。
また、目付重量が50g/m未満では、満足する濾過性能を得ることができず、または満足したものができても濾過寿命が短くなるので、好ましくない。一方、目付重量が500g/mを超えると、低初期圧損を得るのが難しい。
また、厚みが3mm未満では、給塵量が少なくなり、濾過寿命が短くなる。一方、厚みが30mmを超えると、ハンドリングが悪くなり、材料コストや輸送コストが上昇するおそれがある。
【0031】
さらに、本発明に係るサーマルボンド不織布は、難燃性のために、JACA難燃試験法においてクラス3に合格するものである。日本空気清浄協会(JACA)の空気清浄装置用ろ材燃焼試験(No.11A−2003)で、クラス3基準に合格とは、以下の条件を全て満たすものであり、不合格とは、下記条件の全てを満たせないものである。
・5個の試験片のうち4個以上の残炎時間が2s以下。
・全ての試験片の残炎時間が10s以下。
・全ての試験片が、溶融滴下により、試験片が175±25mm下に置いた標識用綿を発火させない。
・全ての試験片の残じん時間が30s以下。
【0032】
また、本発明に係るサーマルボンド不織布は、捕集効率向上のため、さらに、帯電加工が施されていることが好ましい。
本発明に係るポリオレフィン不織布からなるサーマルボンド不織布に、エレクトレット(帯電)処理を施すことにより、塵埃の捕集効率を高めることが可能である。そのエレクトレット処理は、高電圧(−20〜+30KVの範囲)が負荷されて形成される静電界中を、本発明に係る不織布を通過させることによってなされる(実施例3参照。)。
本発明では、素材がポリオレフィンであるため、帯電しやすく、かつ、ポリマーに配合された、ヒンダードアミン化合物が帯電効果を助長するため、高度のエレクトレット効果を得ることができる。
【0033】
2.難燃性エアフィルタ(除塵フィルタ)
本発明の除塵フィルタは、上記のサーマルボンド不織布から構成され、サーマルボンド不織布のみで構成されてもよいが、さらに、他の不織布、ネット又は織物を複合してなるものである。
本発明では、サーマルボンド不織布に、別種の基材(不織布、ネット、織物)を積層し貼り合わせることによって、さらに、高度のフィルタ性能を付与することができる。
ここでいう別種の不織布とは、本発明に係る短繊維不織布よりも、細い繊維で構成されるサーマルボンド不織布(エンボス、熱風処理、など)、やポリプロピレン製メルトブロー不織布またはスパンボンド不織布などである。
これらの別種の不織布は、本発明に係るサーマルボンド不織布と熱ロールやホットメルト接着法により、貼り合わせられる。また、これらの別種の不織布がエレクトレット処理されている場合、高度のダスト捕集容量と捕集効率を併せ持つ除塵用フィルタを作製することができる。
また、ここでいうネットとは、合成樹脂ネットをいい、ホットメルト等の接着剤によって不織布と貼り合わせる。大きな通風量のフィルタの補強体として、ネットが使用される。
さらに、織物とは、からみ織りや寒冷紗といった比較的目の粗い織物が張り合わせた方が圧力損失の上昇が少なく望ましいが、目的に応じて、材質や目の粗さは選択される。
【実施例】
【0034】
本発明を、実施例により具体的に説明する。
【0035】
[実施例1]
芯成分が融点165℃のポリプロピレン樹脂で、鞘成分が融点130℃のポリエチレン樹脂で、芯鞘成分のいずれにもヒンダードアミン系化合物を3%含有する芯鞘型の熱接着性繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mm、90質量%と、繊度=13デシテックス、繊維長=64mm、10質量%を混合して、カード機でウエブを成型し、そのウエブをコンベアー上に積層させ、140℃の熱風にて鞘部分を溶融させ、面密度(目付重量)が250g/m、厚みが25mmのサーマルボンド不織布を得た。
このサーマルボンド不織布を、JIS B9908 形式3による試験では、風速が2.5m/sであるときの圧力損失は63Paで、平均粒子捕集率が82.1%であり、濾過寿命は、粉じん捕集量が1100g/mであった。また、JACA法による難燃試験では、クラス3合格であった。また、この不織布を洗濯試験した場合の寸法変化率は、縦が−0.4%、横が−0.4%であり、好適な粗塵フィルターであった。
【0036】
[比較例1]
芯成分が融点165℃のポリプロピレン樹脂で、鞘成分が融点130℃のポリエチレン樹脂で、芯鞘成分のいずれにもヒンダードアミン系化合物を3%含有する芯鞘型の熱接着性繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mmを50質量%と繊度=13デシテックス、繊維長=64mmを10質量%と、ヒンダードアミン系化合物を含有しない芯鞘型の熱接着性繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mm、30質量%とを混合して、カード機でウエブを成型し、そのウエブをコンベアー上に積層させ、140℃の熱風にて鞘部分を溶融させ、面密度(目付重量)が250g/m、厚みが25mmのサーマルボンド不織布を得た。
このサーマルボンド不織布を、JIS B9908 形式3による試験では、風速が2.5m/sであるときの圧力損失は64Paで、平均粒子捕集率が82.9%であり、濾過寿命は、粉じん捕集量が1020g/mであった。また、JACA法による難燃試験では、クラス1合格であった。また、この不織布を洗濯試験した場合の寸法変化率は、縦が−0.4%、横が−0.5%であり、難燃性に不適な粗塵フィルターであった。
【0037】
[比較例2]
芯成分が融点165℃のポリプロピレン樹脂で、鞘成分が融点130℃のポリエチレン樹脂で、芯鞘成分のいずれにもヒンダードアミン系化合物を3%含有する芯鞘型の熱接着性繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mmを30質量%と繊度=13デシテックス、繊維長=64mmを10質量%と、ヒンダードアミン系化合物を3%含有するポリプロピレン樹脂のみからなる繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mmを60質量%とを混合して、カード機でウエブを成型し、そのウエブをコンベアー上に積層させ、140℃の熱風にて鞘部分を溶融させ、面密度(目付重量)が250g/m、厚みが25mmのサーマルボンド不織布を得た。
このサーマルボンド不織布を、JIS B9908 形式3による試験では、風速が2.5m/sであるときの圧力損失は68Paで、平均粒子捕集率が82.3%であり、濾過寿命は、粉じん捕集量が980g/mであった。また、JACA法による難燃試験では、クラス3合格であった。また、この不織布を洗濯試験した場合の寸法変化率は、縦が−3.4%、横が−2.7%であり、洗濯性に不適な粗塵フィルターであった。
【0038】
上記の実施例1、比較例1、2の評価結果を、表1に示す。
尚、洗濯試験は、家庭用洗濯機で各試料30cm角を、15分洗濯し、1分間脱水後、自然乾燥する操作を5回繰り返すものとする。寸法収縮率MD/CDを評価するものとした。寸法収縮率の評価方法は、JIS L1096(一般織物試験方法)のE法に準拠して行った。また、洗濯性の判定基準は、寸法収縮率が2%以下を合格:○とし、2%超を不合格:×とした。
また、フィルタ性能の判定基準は、JIS B9908 形式3で平均捕集効率82%以上、初期圧力損失80Pa以下、給塵量800g/m以上を判定基準とし、それぞれの判定基準をクリアできるのが合格:○、判定規準をクリアできないのが不合格:×とした。
さらに、難燃性の判定基準は、JACA法 クラス3を合格:○、それ以外を不合格:×とした。
【0039】
【表1】

【0040】
[実施例2]
芯成分が融点165℃のポリプロピレン樹脂で、鞘成分が融点130℃のポリエチレン樹脂で、芯鞘成分のいずれにもヒンダードアミン系化合物を3%含有する芯鞘型の熱接着性繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mmを100質量%で、目付重量が300g/m、厚みが20mmのサーマルボンド不織布を作製した。
このサーマルボンド不織布を、帯電付加装置によって、高圧電源より直流電圧を印加して電荷を与え、市販されているフィルタ試験機TSI8130を用い、ダストとして平均粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集率を測定した。
その測定条件は、開口面積100cmの導風路に測定試料を設置し、32L/分のNaClダストを含む空気を通過させて、試料通過前後のダスト捕集量の計測値をもとに捕集率(%)が計測される。なお、この時の通風速度は、5.3cm/secに相当する。その結果、帯電前16.5%であった捕集率が、帯電直後には、49.3%となり、6時間後には37.6%となったが、8日後でも36.1%の捕集率を維持していた。
評価結果を、表2に示す。
【0041】
[比較例3]
芯成分が融点260℃のポリエステル樹脂で、鞘成分が融点110℃の低融点ポリエステル樹脂の芯鞘型の熱接着性繊維、繊度=22デシテックス、繊維長=76mmを100質量%で、目付重量が300g/m、厚みが20mmのサーマルボンド不織布を作製した。
このサーマルボンド不織布を、実施例2と同様に、帯電付加装置によって、高圧電源より直流電圧を印加して電荷を与え、フィルタ試験機TSI8130を用い、ダストとして平均粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集率を測定した。その結果、帯電前15.2%であった捕集率が、帯電直後には、32.0%となったが、6時間後には15.6%と帯電前の状態に戻った。
評価結果を、表2に示す。
【0042】
[比較例4]
レギュラーポリエステル繊維300g/mとSBR樹脂、難燃剤等からなるバインダー成分300g/mからなるケミカルボンドタイプのフィルタ材に、実施例2と同様に、帯電付加装置によって、高圧電源より直流電圧を印加して電荷を与え、フィルタ試験機TSI8130を用い、ダストとして平均粒子径0.3μmのNaCl粒子の捕集率を測定した。帯電前18.3%であった捕集率が、帯電直後には、40.1%となったが、6時間後には、17.4%と帯電前の状態に戻った。
評価結果を、表2に示す。
【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の除塵フィルタは、難燃性であるため、塵埃を嫌う各種工業用クリーンルームの換気の際のプレフィルタとし、また、ビル空調などの除塵に用いるエアフィルタとして、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
1 短繊維ウエブ
2 サーマルボンド短繊維不織布
10 カーディング紡出機
11 ニードリング機
12 加熱炉
13 巻き取り製品(ロール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤として、ヒンダードアミン化合物を1〜10重量%含有するポリオレフィン短繊維(a)からなり、熱で溶融させて繊維間結合したサーマルボンド不織布(A)から構成されるプレフィルタであって、
該サーマルボンド不織布(A)は、平均繊度が5〜50デシテックス、目付重量が50〜500g/m、厚みが3〜30mmであり、且つJACA難燃試験法(No.11A−2003)においてクラス3に合格することを特徴とする除塵フィルタ。
【請求項2】
フィルタは、JIS B9908 形式3(重量法)での捕集効率が45〜85%であり、且つ洗濯時の寸法変化率が2%以下であることを特徴とする請求項1に記載の除塵フィルタ。
【請求項3】
前記サーマルボンド不織布(A)は、帯電加工が施されてなることを特徴とする請求項1に記載の除塵フィルタ。
【請求項4】
前記サーマルボンド不織布(A)に、さらに、他の不織布、ネット又は織物から選ばれる基材(B)を接合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の除塵フィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−39517(P2013−39517A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177258(P2011−177258)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】