説明

難燃性エポキシ樹脂粉体塗料

【課題】ハロゲン系難燃剤を使用しなくても優れた難燃性を有するとともに、機械的強度が向上された、エポキシ樹脂粉体塗料を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤、充填材、レーザー発色剤、およびリン酸エステル系難燃剤を含有するエポキシ樹脂粉体塗料であって、上記エポキシ樹脂粉体塗料のガラス転移温度以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下である、難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、従来から、電気・電子部品を絶縁外装する目的で使用されている。このようなエポキシ樹脂粉体塗料は、電気・電子部品の火災に対する安全性を確保するため、絶縁外装塗膜に高度の難燃性を有することも要求されている。このため粉体塗料の成分中には難燃性を賦与する様々な化合物が配合されている。
【0003】
難燃性を賦与する方法としては、例えば、可燃性の樹脂成分を少なくし不燃性の無機充填材、特に結晶水を含有していて燃焼時にはこれを放出することで難燃効果を発現するような、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの無機充填材を多く配合する方法、エポキシ樹脂を燃焼性の低いシリコーン樹脂やシアヌレート環含有樹脂で変性する方法など、さまざまな方法が提案、実施されているが、最も広く実施されているのは各種のハロゲン系難燃剤を配合する方法である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−57101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン系難燃剤を使用しなくても優れた難燃性を有するとともに、機械的強度が向上された、エポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、エポキシ樹脂粉体塗料の機械的強度は、エポキシ樹脂粉体塗料のガラス転移温度(Tg)以上の熱膨張係数に依存することを見出し、本発明に至った。
【0007】
上記課題を解決する本発明によれば、エポキシ樹脂、硬化剤、充填材、レーザー発色剤、およびリン酸エステル系難燃剤を含有するエポキシ樹脂粉体塗料であって、
上記エポキシ樹脂粉体塗料のTg以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下である、難燃性エポキシ樹脂粉体塗料が提供される。
【0008】
本発明の一実施形態において、上記充填材は、上記エポキシ樹脂粉体塗料の質量に対して、50質量%以上である。
【0009】
本発明の一実施形態において、上記レーザー発色剤は、銅化合物またはジルコニウム化合物を含む。
【0010】
本発明の一実施形態において、上記充填材は溶融シリカである。
【0011】
本発明の一実施形態において、上記硬化剤は酸無水物を含む。
【0012】
本発明の一実施形態において、上記エポキシ樹脂粉体塗料の曲げ弾性率は1.0×10MPa以上である。
【0013】
本発明の一実施形態において、上記エポキシ樹脂粉体塗料のガラス転移温度は100℃以下である。
【0014】
本発明の一実施形態において、上記エポキシ樹脂粉体塗料は電気・電子部品の外装塗膜に使用される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤を使用しなくても優れた難燃性を有するとともに、機械的強度が向上された、エポキシ樹脂粉体塗料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料について説明する。また、「〜」はとくに断りがなければ、以上から以下を表す。
【0017】
本発明の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料は、エポキシ樹脂、硬化剤、充填材、レーザー発色剤、およびリン酸エステル系難燃剤を含有するとともに、Tg以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下である。ここで、上記Tgは、JIS C 2161に準拠して測定される、熱機械分析(TMA)法によるガラス転移温度を表す。
【0018】
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有し、かつ、非ハロゲン化エポキシ樹脂であり、一般のエポキシ樹脂粉体塗料に適用される室温下で固形のものであれば使用することができる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、ナフタレン型、芳香族アミン型などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、これらは単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明で用いられる硬化剤は、エポキシ樹脂粉体塗料が適用される目的に応じて種々のものを単独または複数を組み合わせ使用することができる。例えば、ジアミノジフェニルメタンやアニリン樹脂などの芳香族アミン、脂肪族アミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合物、ジシアンジアミド及びその誘導体、各種イミダゾールやイミダゾリン化合物、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ピロメリット酸などのポリカルボン酸またはその酸無水物、アジピン酸やフタル酸などのジヒドラジッド、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールAなどとアルデヒドとの縮合物であるノボラック類、カルボン酸アミド、メチロール化メラミン類、ブロック型イソシアヌレート類等が挙げられる。これらの中でも、酸無水物系の硬化剤が、得られる粉体塗料の硬化特性を向上させることから好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂に対する硬化剤の割合は、使用するエポキシ樹脂及び硬化剤の種類により調整することができる。好ましくは、一般的には、硬化剤は、エポキシ樹脂に対して0.6〜1.2当量の範囲で使用される。上記範囲であると、良好な硬化特性が得られる。なお、これらの硬化剤に対して必要により3級アミン類、イミダゾール類、有機リン化合物などの硬化促進剤を使用してもよく、なかでも有機リン化合物の使用はさらに難燃性を高めるために望ましい。
【0021】
エポキシ樹脂と硬化剤との合計量は、エポキシ樹脂粉体塗料の全質量に対して、好ましくは10〜80質量%であり、さらに好ましくは25〜60質量%である。これにより、粉体塗料の塗装性を良好なものとすることができる。配合量が上記下限値よりも少ないと塗膜の平滑性が低下することがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗装後の硬化工程である焼成時にタレやトガリといった外観不良を起こすことがある。
【0022】
本発明で用いられる充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶又は溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、ジルコン、チタン化合物、モリブデン化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも溶融シリカが好ましい。
【0023】
充填材の配合量は、エポキシ樹脂粉体塗料の全質量に対して、好ましくは、50質量%以上、80質量%以下であり、さらに好ましくは、50質量%以上、70質量%以下である。これにより、粉体塗料の塗装性を良好なものにすることができる。配合量が上記下限値よりも少ないと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こすことがあり、塗膜の機械的強度も十分とならないことがある。一方、上記上限値よりも多いと塗膜の平滑性が低下することがある。
【0024】
また、充填材の粒径としては特に限定されないが、通常、平均粒径として5〜30μmのものが好ましく用いられる。これにより、粉体塗料に良好な流動性が付与され塗装性がより向上し、さらには塗膜の機械的強度についても最適なものとすることができる。
【0025】
本発明で用いられるレーザー発色剤としては、金属塩化合物が用いられる。金属塩化合物としては、乳酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル、ギ酸ニッケル等のニッケル化合物;炭酸銅、シュウ酸銅等の銅化合物;ケイ酸ジルコニウム等のジルコニウム化合物;鉛化合物等が挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、鉛化合物以外の金属塩類化合物を用いることが好ましく、銅化合物またはジルコニウム化合物を用いることがより好ましい。これにより、比較的少量の添加で十分な発色性を賦与できるとともに、環境負荷の軽減を図ることができる。
【0026】
レーザー発色剤の配合量は、粉体塗料の全質量に対して、好ましくは0.5〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。配合量が上記下限値よりも少ないと発色性が充分でないことがあり、一方、上記上限値よりも多いと耐湿性の大幅な低下を招くことがある。
【0027】
本発明で用いられるリン酸エステル系難燃剤は、十分な難燃性を賦与するためにはリン含有量が高く室温において固形のものが望ましく、例えば、トリフェニルホスフェートや芳香族縮合型リン酸エステル等が挙げられる。
【0028】
リン酸エステル系難燃剤は、用いられるエポキシ樹脂の質量に対して、リン成分の含有率が1〜3質量%となるように配合することが好ましく、2〜2.5質量%となるように配合することがより好ましい。リン含有率が上記下限値を下回ると十分な難燃性が得られないことがあり、上記上限値を上回っても,それ以上は難燃性賦与の効果の改善は見られなくなることがある。また、上記範囲内のリン成分となるようにリン酸エステル系難燃剤を配合することにより、得られる粉体塗料の耐ヒートサイクル性等の機械的強度を改善することができる。
【0029】
上記の成分を含有する本発明の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料は、Tg以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下である。本発明の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料は、Tg以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下であることにより、耐ヒートサイクル性等の機械的強度が改善される。この理由は必ずしも明らかではないが、電子部品との熱膨張係数の差が小さくなるためと考えられる。
なお、本発明の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料のTg以上の熱膨張係数の下限値はとくに限定されないが、通常は8.5×10−5/℃以上であり、好ましくは5×10−5/℃以上である。
ここで、上記Tg以上の熱膨張係数は、JIS C 2161に準拠して熱機械分析(TMA)法により測定される値であり、Tg以上160℃以下の領域における熱膨張係数の平均値を表す。
【0030】
また、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、上記Tgが好ましくは100℃以下であり、より好ましくは95℃以下である。Tgが上記上限値以下であることにより、エポキシ樹脂粉体塗料の応力緩和能が向上し、その結果、エポキシ樹脂粉体塗料の耐ヒートサイクル性を向上させることができる。なお、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料のTgの下限値はとくに限定されないが、通常は60℃以上である。
【0031】
また、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、JIS K 6911に準拠して測定される曲げ弾性率が好ましくは1.0×10MPa以上である。曲げ弾性率が上記下限値以上であることにより、耐ヒートサイクル性等の機械的強度がより一層改善される。なお、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料の曲げ弾性率の上限値はとくに限定されないが、通常は1.3×10MPa以下である。
【0032】
本発明の粉体塗料は、以上に説明した成分のほか、必要に応じて、顔料、レベリング剤、カップリング剤、消泡剤などの添加剤を配合することができる。また、難燃性を高めるためにシリコーン樹脂、メラミン樹脂などのシアヌレート環骨格を有する樹脂、あるいはホウ酸亜鉛、膨張性黒鉛などの非ハロゲンの難燃性助剤を使用することもできる。
【0033】
本発明の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料は、上述した各成分を適切に選択し、各成分の配合量を適切に調整することにより得ることができる。
【0034】
本発明において粉体塗料を製造する方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法を用いることができる。一例としては、所定の組成比に配合した原料成分をミキサーによって十分に均一混合した後、エクストルーダーや二軸混練機などで溶融混合し、ついで粉砕機により適当な粒度に粉砕、分級して得ることができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は特に限定されないが、例えば、セラミックコンデンサーなどの電気・電子部品の外装塗膜に好適に使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
表1で示す配合量(質量部)の原料成分を、ミキサーにより混合し、溶融混練した後、粉砕機により粉砕して、平均粒度が40〜60μmのエポキシ樹脂粉体塗料を得た。得られた粉体塗料を、下記項目について評価した。結果を以下の表に示す。
1.エポキシ樹脂
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:三菱化学社製・「エピコート1003」(エポキシ当量720)
・臭素化エポキシ樹脂:新日鐵化学社製、・「エポトートYDB−400」(エポキシ当量400)
2.硬化剤
・BTDA:ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物
・TMA:無水トリメリット酸
3.硬化促進剤
・TPP:トリフェニルホスフィン
4.充填材
・溶融シリカ:龍森社製・「RD−8」(平均粒径15μm)
5.顔料
・白顔料(酸化チタン):石原産業社製・「TTO−55」
・青顔料(シアニンブルー):住友化学社製・「シアニンブルーGH」
6.添加剤
・シランカップリング剤:ジーイー東芝シリコン製・「A−187」
・レベリング剤:サーフェス・スペシャリティーズ社製・モダフローパウダー
7.難燃剤
・リン酸エステル:大八化学社製・「PX−200」(リン含有率8.9質量%)
・三酸化アンチモン
8.レーザー発色剤
・次亜リン酸ニッケル
・銅化合物
・ジルコニウム化合物
9.イオン捕捉剤
・ハイドロタルサイト類:協和化学工業社製・「DHT−4A」
【0038】
(試験方法)
1.ゲル化時間:JIS C 2161に準拠して、165℃の熱盤で測定した。
2.難燃性試験:試験板厚みを0.8mmとし、UL94法に準拠して測定した。
3.ガラス転移温度(Tg):JIS C 2161に準拠して、TMA法で測定した。
4.熱膨張係数(Tg以下、/℃):JIS C 2161に準拠して、TMA法で測定し、30℃以上Tg以下の領域における熱膨張係数の平均値を算出した。
5.熱膨張係数(Tg以上、/℃):JIS C 2161に準拠して、TMA法で測定し、Tg以上160℃以下の領域における熱膨張係数の平均値を算出した。
6.曲げ強度(MPa):JIS K 6911に準拠して、曲げ強さで測定した。
7.耐ヒートサイクル性(−40℃/30分⇔125℃/30分):膜厚0.75mm以上で粉体塗装した電子部品を用いて、クラックの有無を確認した。
8.耐ヒートサイクル性(−40℃/30分⇔85℃/30分):膜厚0.75mm以上で粉体塗装した電子部品を用いて、クラックの有無を確認した。
9.曲げ弾性率(MPa):JIS K 6911に準拠して、曲げ弾性率を測定した。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例のエポキシ樹脂粉体塗料はいずれも、Tg以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下であった。このようなエポキシ樹脂粉体塗料は、−40℃/30分⇔125℃/30分のヒートサイクル試験において、2500以上の耐ヒートサイクル性を備え、−40℃/30分⇔85℃/30分のヒートサイクル試験において1500以上の耐ヒートサイクル性を備えるとともに、110MPa以上の曲げ強度および1.0×10MPa以上の曲げ弾性率を備えていた。
一方、臭素化エポキシ樹脂を含む比較例の粉体塗料は、−40℃/30分⇔125℃/30分のヒートサイクル試験において、500以下の耐ヒートサイクル性であり、−40℃/30分⇔85℃/30分のヒートサイクル試験において500以下の耐ヒートサイクル性であった。また、比較例の粉体塗料は、110MPa未満の曲げ強度および1.0×10MPa未満の曲げ弾性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、充填材、レーザー発色剤、およびリン酸エステル系難燃剤を含有するエポキシ樹脂粉体塗料であって、
前記エポキシ樹脂粉体塗料のガラス転移温度以上の熱膨張係数が10×10−5/℃以下である、難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記充填材が、前記エポキシ樹脂粉体塗料の質量に対して、50質量%以上である、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記レーザー発色剤が、銅化合物またはジルコニウム化合物を含む、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項4】
前記充填材が溶融シリカである、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項5】
前記硬化剤が、酸無水物を含む、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂粉体塗料の曲げ弾性率が1.0×10MPa以上である、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂粉体塗料のガラス転移温度が100℃以下である、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂粉体塗料は、電気・電子部品の外装塗膜に使用される、請求項1に記載の難燃性エポキシ樹脂粉体塗料。

【公開番号】特開2012−255139(P2012−255139A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106744(P2012−106744)
【出願日】平成24年5月8日(2012.5.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】