説明

難燃性カチオン可染ポリエステル組成物

【課題】本発明の目的は、上記の問題を解決し、カチオン染料に可染かつ難燃性を有し、さらに結晶性を向上させることによりポリマーの融着を抑制した難燃性カチオン可染ポリエステル繊維を提供することにある。
【解決手段】主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルに、特定のリン化合物および特定の有機スルホン酸金属塩が共重合された共重合ポリエステル組成物に、さらに特定のホスホン酸化合物を添加することによって得られる、結晶性が向上され、ポリマーの融着を抑制した難燃性カチオン可染ポリエステル繊維により上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性ポリエステル組成物に関する。さらに詳しくは、カチオン可染性を有するポリエステルおよびそれよりなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)はその優れた機械的特性と化学的特性のため、衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。しかし、ポリエステルは、衣料用繊維としては染色性が良好とは言えず、染色物の鮮明さが劣るという欠点を有している。
【0003】
従来、このような欠点を補うため、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などに代表されるスルホン酸塩基含有成分を共重合した塩基性染料に可染性のポリエステル(以下、カチオン可染ポリエステルと略記する。)が公知であり、そのようなポリエステルからなる繊維が衣料分野において使用されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらのカチオン可染ポリエステル繊維は、通常のポリエステル繊維よりも溶融粘度が高く、燃焼時の溶融落下が起き難いため延焼しやすいという欠点があり、難燃性が要求される分野での使用が制限されるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、特定の含リンジカルボン酸化合物とスルホン酸塩基含有成分が共重合されたポリエステル樹脂を用いてマルチフィラメントとすることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、ポリエステル樹脂段階において、スルホン酸塩基含有成分を共重合する際には、その酸触媒作用によって、重合反応過程でジエチレングリコールの生成が促進され、得られるポリエステル中のジエチレングリコール含有量が高くなる傾向にある。したがって、リン化合物が共重合されている上、ジエチレングリコール含有量が高くなることにより、従来のカチオン可染性ポリエステルよりも結晶性が大幅に低下してしまう。この結晶性の低下により、例えば成型前の乾燥工程でポリエステルチップ同士が融着し、溶融成型時にポリエステルチップの輸送ラインを閉塞させたり、融着ブロックの形成により溶融不良が発生するなど取扱性に大きな問題を生じることとなる。
【0005】
一方特許文献3には、カチオン可染性を有する難燃コポリエステル技術が開示されているが、前述のように高いジエチレングリコール濃度によるポリマー融着についての問題は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特開平07−109621号公報
【特許文献3】特開2009−074088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、カチオン染料に可染かつ難燃性を有し、さらに結晶性を向上させることによりポリエステルチップの融着を抑制した難燃性カチオン可染ポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステル中の有機スルホン酸金属塩成分および有機リン化合物成分に加え、さらに結晶化を促進するリン化合物を添加することによって上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルに、該ポリエステルに対しリン原子換算で0.3〜1.0重量%含有するように下記一般式(I)で表されるリン化合物が共重合されており、且つ下記式(II)で表される有機スルホン酸金属塩が該有機スルホン酸金属塩を除くポリエステルを構成する全酸成分に対して1.0〜5.0モル%共重合されている共重合ポリエステル組成物であって、
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基である。]
【化2】

[上記式中、R4は水素または炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウムまたはカリウムである。]
さらに該共重合ポリエステル組成物中に下記一般式(III)
【化3】

[上記式中、Rは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有するアルキル基を表す。]
で示されるホスホン酸化合物が、該共重合ポリエステル組成物に対しリン原子換算で50〜250ppm添加されている共重合ポリエステル組成物であり、これによって前記の課題が解決できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリエステル組成物の成形品の一形態であるカチオン可染性難燃性ポリエステル繊維は、ポリエステルの主鎖中に難燃性を付与するリン原子が導入されているので、紡糸や織り編みおよび染色等の製造過程ならびに消費者段階における使用や洗濯等の処理でも溶出や脱落がなく難燃性能が低下することがない。また難燃性を付与する原子がリン原子のみで、成形物が炎と接しても人体に有害なガスの発生がなく、極めて安全性が高い有用なものである。又、ポリエステル主鎖中に難燃性を有するリン原子と共に有機スルホン酸の金属塩をも含有させることにより、従来の難燃性ポリエステル等では得られなかったカチオン染色性も付与することができる。さらに結晶性が高いため、成型前の乾燥工程でポリマーが融着し、溶融成型時にポリマーの輸送ラインを閉塞させたり、融着ブロックの形成により溶融不良が発生するなどの問題を生じさせない。
【0011】
ゆえに、本発明の共重合ポリエステル組成物よりなる繊維は広範な用途に応用できる。かかる繊維製品を例示すれば、厚地織物、衣料、カーペット、カーテン、不織布などが挙げられる。特に、通常の繊維や通常の難燃繊維の間に本発明の繊維を挟んで製造される、遮光カーテン、テント地、キャンバス地や衣料素材においては、難燃性と染色性と言うこれまで両立が困難であった機能が付与でき、工業的な価値は非常に大きいものがある。
また繊維以外でもボトル、フィルム、構造部品、機械的伝導部品等に適用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳しく説明する。
本発明の共重合ポリエステル組成物とは主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、すなわちジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレートなどのテレフタル酸ジアルキルエステルもしくはテレフタル酸ジアリールエステルまたはテレフタル酸を用い、ジオール成分としてエチレングリコールを用いたポリエステルポリマーを示している。主たる繰り返し単位とはポリエステルを構成する全繰り返し単位のうち70モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを表す。より好ましくは80モル%以上である。最も好ましくは90モル%以上である。
【0013】
本発明の共重合ポリエステル組成物に使用できる他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸,4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ビス−(4−カルボキシフェニル)エーテル、ビス−(4−カルボキシフェニル)スルホン、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−スルホプロポキシイソフタル酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、p−フェニレンジ酢酸、ジフェニルオキシド−p,p’−ジカルボン酸、trans−ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸およびそれらのアルキルエステル、アリールエステル、エチレングリコールエステルなどのエステル形成性誘導体の1種以上を、共重合ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対し10モル%を限度として少量混合して使用することができる。
【0014】
一方、本発明の共重合ポリエステル組成物に使用できる他のグリコール成分としては、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレン)グリコールなどの1種以上を、共重合ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対し10モル%を上限とする少量の割合にて混合し使用することができる。
【0015】
上記のようなジカルボン酸成分および/またはグリコール成分の共重合量が共重合ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対し30モル%を超える場合、ポリエチレンテレフタレート本来の物性が劣ることがある。そのため、共重合量は、好ましくは、20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0016】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物に分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の、三官能または四官能のエステル形成能を持つ多価カルボン酸、またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの三官能または四官能のヒドロキシ基等のエステル形成能を持つアルコールを共重合してもよい。その場合にそれらは共重合ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分の1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは、0.3モル%以下である。更に、本発明の共重合ポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレート本来の物性が劣らない範囲内にて、これら共重合成分を2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0017】
また、下記式(II)で表される有機スルホン酸金属塩成分が有機スルホン酸金属塩を除くポリエステルを構成する全酸成分に対して1.0〜5.0モル%共重合されていることが必要である。有機スルホン酸金属塩成分の共重合量が1.0モル%未満であると、カチオン染料に対する十分な染色性能が得られず、カチオン染料に可染性のポリエステルとならない。一方、5.0モル%を超えると、共重合ポリエステル組成物の溶融粘度が高くなり、ポリエステル繊維の紡糸操業性の悪化やポリエステル繊維の糸強度の低下を招くため好ましくない。
【0018】
【化4】

[上記式中、R4は水素または炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウムまたはカリウムである。]
【0019】
上記の有機スルホン酸金属塩成分は、ポリエステルと反応する官能基を有する有機スルホン酸金属塩成分であれば特に限定されるものではないが、例としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸等が挙げられる。又はこれらのジカルボン酸化合物のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジブチルエステルまたはジフェニルエステルであっても良い。このうち、特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸は、カチオン染料による発色性と紡糸性が良好であり、好適である。
【0020】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物には、下記一般式(I)で表される有機リン化合物が、共重合ポリエステル組成物に対してリン原子換算で0.3〜1.0重量%となるよう含有していることが必要であり、好ましくは0.5〜0.9重量%となるよう共重合されている。有機リン化合物の共重合量が、リン原子の含有量として0.3重量%未満になると十分な難燃性能が得られず、1.0重量%を超えると、糸強度が不足するなどのポリエステル繊維としての基本品質が低下するため好ましくない。
【0021】
【化5】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基である。]
【0022】
上記官能基R〜Rのうち、Rは水素または炭素数2〜10のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数2〜10のヒドロキシアルキル基が好ましい。更に詳細にはRは水素、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基または6−ヒドロキシヘキシル基を好ましく挙げることができ、Rは水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基またはフェニル基を好ましく挙げることができ、Rは水素、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、プロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、ブチル基、4−ヒドロキシブチル基、ヘキシル基、6−ヒドロキシヘキシル基を好ましく挙げることができる。これらR〜Rの官能基の組合せのうち、Rは2−ヒドロキシエチル基、Rはメチル基、Rは水素の組合せとなる有機リン化合物が最も好ましい。
【0023】
上記式(I)のような有機リン化合物をポリエステルに共重合する方法としては、ポリエステルの重合段階において有機リン化合物をそのまま反応系に添加して反応させる方法が工業的に好ましいが、有機リン化合物をエチレングリコール(以下、EGと略記する。)、メタノール等と反応させてエステルの形にしてから反応系に添加してもよい。
【0024】
この有機リン化合物のポリエステル製造工程への添加は任意の段階で添加することが可能であるが、好ましくはポリエステル製造工程の中のエステル交換反応またはエステル化反応が終了してから重縮合反応工程の開始前である。この時期に添加することによってエステル交換反応、エステル化反応、重縮合反応が適切な速度で進行することができるからである。
【0025】
また本発明の共重合ポリエステル組成物は、下記一般式(III)
【化6】

[上記式中、Rは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有するアルキル基を表す。]
で示されるホスホン酸化合物が、該共重合ポリエステル組成物に対しリン原子換算で50〜250ppm添加されていることが必要であり、70〜200ppm添加されていることがさらに望ましい。なお添加量が50ppm未満であれば、共重合ポリエステル組成物の結晶性向上効果は得られない。また250ppmを超えると、重合反応を阻害するため好ましくない。具体的にはRはフェニル基、ハロゲン化フェニル基、ジハロゲン化フェニル基、モノカルボキシルフェニル基、ジカルボキシルフェニル基、トリカルボキシルフェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化エチル基、ハロゲン化プロピル基、ハロゲン化ブチル基、ハロゲン化ヘキシル基を好ましくは挙げることができる。さらに上記のホスホン酸化合物の具体例としてはフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ノルマルプロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸が例示されるが、中でもフェニルホスホン酸がもっとも好ましく用いられる。上記のリン化合物は溶媒に溶解させた状態で使用されることが望ましい。このときの溶媒としては、公知の溶媒から適切なものを選択することができるが、対象のポリエステルの原料として使用するグリコールを使用することが最も好ましい。すなわち本発明においては上記の説明から明らかなようにエチレングリコールを用いることである。該ホスホン酸化合物は、任意の段階で添加することができるが、通常第一段階のエステル化もしくはエステル交換反応が終了した時点で添加される。
【0026】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物は、DEG(ジエチレングリコール)の含有量が共重合ポリエステル組成物に対して5.0重量%以下であることが好ましい。ポリエステル中のDEG含有量が5.0重量%を超えると、耐光性が低下し、染色物が色あせするため好ましくない。DEG含有量は、有機スルホン酸金属塩成分の共重合割合が増すに従い、その酸触媒作用によって増加する傾向にある。また、有機リン化合物の共重合割合が増しても、DEG量は増える傾向にある。
【0027】
このDEG含有量は、ポリエステルの重合の際、有機スルホン酸金属塩成分や有機リン化合物の添加時期、添加後の反応条件により制御することが可能であり、5.0重量%以下とするためには、PETオリゴマー(後述)を重縮合反応缶に移送し、必要に応じてEGを添加して解重合を行った後、250℃以下の温度条件下でこれらの化合物を添加し、その後15分以内に減圧を開始して重合反応を開始することが好ましい。更に後述する方法を採用することが好ましい。即ち本発明に用いるポリエステルには、その製造工程中のジエチレングリコールの生成を更に抑制するため、必要に応じて塩基成分を加えることができる。その塩基成分としては、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウムをはじめとする有機酸アルキル金属塩、またはトリエチルアミンをはじめとするアミン化合物、水酸化テトラエチルアンモニウムをはじめとするアンモニウム系化合物を例示することができる。
【0028】
さらに本発明の共重合ポリエステル組成物においては、共重合ポリエステル組成物10mgを300℃で溶融させた後、10℃/分で冷却させた際に発生する結晶化のピークが180℃以上かつ10℃/分で冷却した際の結晶化発熱量が30J/g以上であることが好ましい。当該要件を満たすことにより共重合ポリエステル組成物の溶融成形の際、共重合ポリエステル組成物のチップの輸送ラインを用いての輸送の際にチップ同士の融着を抑制することができる。好ましくは結晶化のピークは183℃以上若しくは結晶化発熱量が32J/g以上であることである。上記の結晶化ピーク温度の要件、結晶化発熱量の要件を満たすには、上述のそれぞれの数値範囲内の有機スルホン酸金属塩および有機リン化合物を共重合しつつ更にホスホン酸化合物をリン原子換算で50〜250ppmの範囲で添加し、共重合することにより得ることができる。なお共重合ポリエステル中のDEG含有量が増えるとこれらの要件を満たさない場合があるので、ポリエステルの製造工程中に上記のような塩基性化合物(塩基成分)を添加しながら製造することが好ましい。
【0029】
本発明に用いるポリエステルには必要に応じて、各種の添加剤、例えば、熱安定剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤または耐衝撃剤等の添加剤を共重合、または混合してもよい。さらに本発明の共重合ポリエステル組成物は、乾燥機等で十分に乾燥した後射出成形、押出成形、ブロー成形などの手法により溶融成形をすることができ、各種のポリエステル成形品を製造することができる。具体的には繊維、フィルム、シート、中空成形体である。
【0030】
なお、本発明の共重合ポリエステル組成物は、例えば次のような方法により製造することができる。まず、テレフタル酸とジオールを直接エステル化させるか、テレフタル酸の低級アルキルエステルとジオールをエステル交換させることにより、ポリエステルオリゴマー(PETオリゴマーと略す。)を合成する。次いで、これに有機スルホン酸金属塩成分と有機リン化合物、さらにはホスホン酸化合物など250℃以下で添加し、その後重縮合反応を開始し、反応開始後に目標温度まで内温を上昇させる。
【0031】
重縮合反応は、通常、アンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、もしくはコバルト等の金属化合物(触媒)の存在下で、0.12〜12hPa程度の減圧下、250〜290℃の温度で、固有粘度が0.50dL/g以上となるまで行うことが好ましい。
【0032】
本発明に用いる共重合ポリエステル組成物の重合度は好ましくは、固有粘度(IV)(ポリエステルチップをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した値)は、0.30〜1.50dL/g、より好ましくは0.40〜1.00dL/g、さらに好ましくは0.45〜0.8dL/gの範囲である。
【実施例】
【0033】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0034】
(ア)固有粘度(IV):
共重合ポリエステル組成物チップをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した。
【0035】
(イ)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いて共重合ポリエステル組成物チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量(wt%)をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0036】
(ウ)示差走査熱量計:
TAインスツルメンツ社製Q10型示差走査熱量計を用い、共重合ポリエステル組成物サンプル10mgを窒素気流下、20℃/分の昇温条件にて300℃まで昇温した。2分間保持後、10℃/分で冷却し、現れる発熱ピークを観測し、発熱ピークの頂点の温度を結晶化温度Tc(℃)、ピーク面積を結晶化発熱量(J/g)とした。
【0037】
(エ)リン原子含有量/イオウ原子含有量:
リガク社製蛍光X線分光分析装置ZSX100e型を用いて、蛍光X線法により共重合ポリエステル組成物中のリン原子とイオウ原子の含有量を定量した。イオウ原子含有量から有機スルホン酸金属塩の共重合量を計算した。
なおリン原子は共重合されている有機リン化合物とホスホン酸化合物のそれぞれの含有量を算出する為に、共重合ポリエステル組成物中の良溶媒にサンプルを溶解し、再沈殿操作を行った。その後に得た固形成分と溶液中の溶解成分を用いて有機リン化合物とホスホン酸化合物のそれぞれについて含有量を算出した。
【0038】
(オ)共重合等成分の分析:
共重合ポリエステル組成物サンプルをトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、各プロトンのケミカルシフト値等により共重合成分の化学構造を特定した。
【0039】
(カ)難燃性:
JIS K 7201に準拠してLOI値(限界酸素指数)を測定し、27以上を合格とした。
【0040】
(キ)カチオン染色性:
共重合ポリエステル組成物を5時間適正な温度下にて乾燥し、通常行われる溶融紡糸操作、延伸操作によりポリエステルフィラメントヤーンを得た。
得たポリエステルフィラメントヤーンを筒編みし、60℃で20分の精練を行った後、下記の条件下で130℃で60分染色して風乾した。次に小型ピンテンターを用いて150℃で1分の熱セットを行った後、8枚重ねのサンプル片を作成し、そのサンプル片の色調L値をマクベス社製色彩色差計で測定し、染色性の指標とした。L値が低いほど繊維が濃色に染色されていることを示し、40以下を合格とした。
染料 AIZEN COLOUR CATION BLUE 0.2g/L
均染剤 酢酸 0.3g/L
硫酸ナトリウム 3.0g/L
【0041】
[実施例1]
ジメチルテレフタレート100質量部とエチレングリコール50質量部との混合物に上記式(II)中、Rが水素、Mがナトリウムである化合物2.3質量部、酢酸カルシウム0.063質量部、酢酸ナトリウム0.17質量部を、撹拌機、精留塔およびメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、前記式(I)中、Rが2−ヒドロキシエチル基、Rがメチル基であり、Rが水素である化合物(以下難燃剤Aと称する。)3.0質量部をエステル交換反応後期に添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物にフェニルホスホン酸0.068重量部(リン原子換算で134ppm)、三酸化二アンチモン0.018質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口および蒸留装置を備えた反応容器に移し、280℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、固有粘度0.58dL/g、ジエチレングリコール含有量が2.5重量%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表1に示した。
【0042】
[実施例2〜7、比較例1〜6]
有機スルホン酸金属塩成分、難燃剤である有機リン化合物(難燃剤A)、ホスホン酸化合物の量を表1記載の通り変更した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0043】
[比較例7〜8]
ホスホン酸化合物をトリメチルホスフェート(TMP)に変更した以外は、実施例1、2と同様に行った。結果を表1に示した。
【0044】
[比較例9]
ホスホン酸化合物をトリメチルホスフェート(TMP)に変更し、さらに有機スルホン酸金属塩を添加しなかった以外は、実施例4と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0045】
[比較例10]
ホスホン酸化合物をトリメチルホスフェート(TMP)に変更し、さらに難燃剤である有機リン化合物(難燃剤A)を添加しなかった以外は、実施例2と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のようにして得られる共重合ポリエステル組成物によって、カチオン染料に可染かつ難燃性を有し、さらに結晶性を向上させることによりポリマーの融着を抑制した難燃性カチオン可染ポリエステル繊維を提供することが可能となり、本発明の共重合ポリエステル組成物よりなる繊維は、例えば、厚地織物、衣料、カーペット、カーテン、不織布など、さまざまな難燃性が要求される素材への適用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルに、該ポリエステルに対しリン原子換算で0.3〜1.0重量%含有するように下記一般式(I)で表されるリン化合物が共重合されており、且つ下記式(II)で表される有機スルホン酸金属塩が該有機スルホン酸金属塩を除くポリエステルを構成する全酸成分に対して1.0〜5.0モル%共重合されている共重合ポリエステル組成物であって、
【化1】

[上記式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基である。]
【化2】

[上記式中、R4は水素または炭素数1〜10のアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウムまたはカリウムである。]
さらに該共重合ポリエステル組成物中に下記一般式(III)
【化3】

[上記式中、Rは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有するアルキル基を表す。]
で示されるホスホン酸化合物が、該共重合ポリエステル組成物に対しリン原子換算で50〜250ppm添加されている共重合ポリエステル組成物。
【請求項2】
示差走査熱量計にて、窒素雰囲気下で該共重合ポリエステル組成物10mgを300℃で溶融させた後、10℃/分で冷却させた際に発生する結晶化のピークが180℃以上かつ10℃/分で冷却した際の結晶化発熱量が30J/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の共重合ポリエステル組成物を溶融成形することによって得られるポリエステル成形品。

【公開番号】特開2011−144317(P2011−144317A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8163(P2010−8163)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】