説明

難燃性カーペット

【課題】チタニウムやジルコニウムを使用することなく国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される難燃性能を有する羊毛繊維を主材とする航空機、船舶、列車、自動車等の交通機関用カーペットを得る。
【解決手段】目付け150〜300g/m2 のベース地に羊毛繊維を主材とするパイル糸による目付け500〜650g/m2 のパイル層を植設する。パイル糸には、羊毛繊維85〜50質量%に対して15〜50質量%を占め、2−2’−オキシビス[5−5−ジメチル−1−3−2−ジオキサホスホリネート]2−2’ジスルフィルドを含有するLOI値が28以上の半合成再生セルロース繊維を混用する。カーペットの裏面には、水酸化アルミニウムが50P.H.R.以上配合されている樹脂エマルジョンを固形分に換算して450〜550g/m2 塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、船舶、列車、自動車等の交通機関用の動物繊維を主材とする難燃性内装材、特に、羊毛繊維を主材とする航空機用難燃性カーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
布帛製品の難燃性能の評価は、その布帛製品の用途に応じた種々の試験法によってなされている。
例えば、衣類の難燃性能については、JIS−L−1091(A−4)に従って垂直に吊るした布帛の下端にブンゼンバーナーで12秒間接炎した時の炭化長と、炎を離した時に残炎時間と残燼(じん)時間が測定される(例えば、特許文献1参照)。
JIS−L−1091には、建築工事用メッシュシートの難燃性能についても規定されている(例えば、特許文献2参照)。
網戸や間仕切りに使用されるネットの難燃性能については、消防法施行規則に規定される45°ミクロバーナー法と45°コイル法において残炎時間と残燼(じん)時間と炭化面積と接炎回数が測定される(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
鉄道車両内装布帛の難燃性能については、運輸省鉄道車両用材料燃焼試験「A−A」基準に従って、45°傾斜保持した内装布帛の下側斜面の垂直下方25.4mmに設定した容器に注がれたアルコールの着火炎に触れて燃焼した内装布帛の着火と着炎と残炎と残燼(じん)の有無と炭化長が測定される(例えば、特許文献4、5参照)。
【0004】
ニューヨーク地下鉄車両用規格には、エラストマー部品の難燃性に関してはASTM−C542による火勢が100mm以内であるべきことが規定され、エラストマー部品の発煙量に関してはASTM−E662によるフレーミング法でDs (1.5)≦100でありDs (4.0)≦200であるべきことが規定され、有毒ガスはボーイング社規格支援標準BSS−7239の試験法において、一酸化炭素(CO)が3500ppm以下であり、フッ化水素(HF)が200ppm以下であり、二酸化窒素(NO2 )が100ppm以下であり、塩化水素(HCl)が500ppm以下であり、シアン化水素(HCN)が150ppm以下であり、二酸化硫黄(SO2 )が100ppm以下であるべきことが規定されている(例えば、特許文献6参照)。
このニューヨーク地下鉄車両用規格に規定されているASTM−E662による発煙量の規格は、航空機用内装材の発生ガス量評価にも適用されている(例えば、特許文献7参照)。
航空機シート用布帛の難燃性能については、連邦航空局基準FAAケロシンバーナテストFAR25853Cにも規定されている(例えば、特許文献8、9参照)。
【0005】
パイル布帛の難燃性能は、国土交通省航空局耐空性審査要領第3部垂直試験法において、燃焼時間が15秒以下であり、燃焼長が20cm以下であれば合格(難燃性能あり)と評価される(例えば、特許文献10、11参照)。
【0006】
自動車内装布帛の難燃性能は、米国連邦自動車安全規格MVSS−302に規定されている(例えば、特許文献12、13、14参照)。
【0007】
繊維壁紙の難燃性能については、JIS−A−1321に準拠していたが、2000年(平成12年)6月1日(制定日)以降は、建築基準法第2条第9号と第68条の2第1項に準拠する試験法(建築基準法燃焼試験法)において測定される総発熱量と亀裂等の変形有無と最高発熱速度とマウス行動停止時間(ガス有害性試験)によって評価されることになった(例えば、特許文献15参照)。
【0008】
このように布帛製品の難燃性能が用途に応じて規定される種々の試験法によって評価されるのは、その用途における布帛の使用の仕方、火災発生初期の着火・発煙の仕方、燃焼の仕方が異なるためである。このことは、布帛製品がある試験法において難燃性能を有する(合格)と評価されても、その同じ布帛製品が他の試験法において合格と評価されるとは限らない、と言うことを意味する。
それ故、難燃性布帛の新規性と進歩性の評価においては、その試験法と難燃性能も難燃性布帛の技術的構成要件として評価の対象とされる(例えば、特許文献3、15、16、17、18参照)。
【0009】
繊維製品の難燃化機構に関し、ハロゲン系難燃剤を付与した繊維製品については燃焼時に発生する不燃性ハロゲン系ガスによる酸素の稀釈が考えられ、結晶水を有する鉱物系難燃剤を付与した繊維製品については燃焼時に結晶水が分解して発生する水分の気化熱による冷却が考えられている。
【0010】
羊毛繊維をチタニウムやジルコニウムの金属錯塩で処理して難燃化することは、ザプロ加工(以下、本発明ではTG加工と言う)として周知であるが(例えば、特許文献19、20参照)、その場合の難燃機構は、燃焼部位の酸素の稀釈化でも気化熱による冷却化でもなく、金属錯塩による羊毛繊維の炭化促進作用によるものと考えられている。
TG加工におけるチタニウムやジルコニウムの使用量を低減する方法として、燃焼時に炭化し易いフェノール樹脂繊維や芳香族ポリアミド繊維を羊毛繊維と混用することは公知である(例えば、特許文献21参照)。
【0011】
セルロースを原料とするレーヨンの紡糸原料であるビスコースや、キュプラの紡糸原料であるリンタ、或いは、アセテートの紡糸原料である酢酸セルロース等にモンモリロナイト等の粘土質鉱物やリン化合物を添加して難燃性半合成セルロース繊維や再生セルロース繊維(以下、本発明では半合成セルロース繊維と再生セルロース繊維を併せて半合成再生セルロース繊維と総称する。)を紡糸することは公知である(例えば、特許文献22、23、24参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−31618号公報
【特許文献2】特開平11−172806号公報(特許第3249940号)
【特許文献3】特開2005−29906号公報(特許第4204914号)
【特許文献4】特開2007−90546号公報
【特許文献5】特開平09−250052号公報(特許第3089418号)
【特許文献6】特開2000−26659号公報
【特許文献7】特開2006−77342号公報
【特許文献8】特開昭62−90349号公報(特公平03−45130)
【特許文献9】特開昭62−90350号公報(特公平03−45131)
【特許文献10】特開2005−240240号公報
【特許文献11】特開2005−205157号公報
【特許文献12】特開平07−3658号公報(特許第3251388号)
【特許文献13】実公平03−14347号公報
【特許文献14】特公平05−29705号公報
【特許文献15】特開2006−144173号公報(特許第4395877号)
【特許文献16】特開2002−235284号公報(特許第3484162号)
【特許文献17】特開昭51−55464号公報(特公昭57−17991)
【特許文献18】特開2003−276113号公報(特許第4186488号)
【特許文献19】特公昭49−30879号公報
【特許文献20】特公昭50−17596号公報
【特許文献21】特公平03−45130号公報
【特許文献22】特公昭48−2693号公報
【特許文献23】特許第4094052号公報
【特許文献24】特表2009−506137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
TG加工は、羊毛繊維の難燃化には有効であるが、その金属錯塩による処理過程で排出される廃液に含まれるフッ化ジルコニウムやフッ化チタニウムによる公害問題が指摘される。そこで、前記特許文献3に指摘されるように、チタニウムやジルコニウムの使用量を少なくするために難燃性半合成再生セルロース繊維を混用して羊毛繊維の使用量を少なくする実験過程において、TG未加工羊毛繊維に難燃性半合成再生セルロース繊維を混用しても、TG加工羊毛繊維に混用した場合と同程度の難燃性能を有する羊毛繊維を主材とする内装材が得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る難燃性カーペットは、(a) 目付け150〜300g/m2 のベース地に目付け500〜650g/m2 のパイル層を植設して成り、(b) パイル層の85〜50質量%を占める動物繊維とパイル層の15〜50質量%を占めるLOI値が28以上の半合成再生セルロース繊維によってパイル層が構成されており、(c) その半合成再生セルロース繊維が2−2’−オキシビス[5−5−ジメチル−1−3−2−ジオキサホスホリナン]2−2’ジスルフィドを含有していることを第1の特徴とする。
【0015】
本発明に係る難燃性カーペットの第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(d) 裏面に樹脂エマルジョンを主材とするバッキング剤を塗布して仕上げられており、そのバッキング剤の固形分の乾燥塗布量が450〜550g/m2 であり、(e) そのバッキング剤の樹脂成分100重量部に対する配合量が50重量部以上となる水酸化アルミニウムが難燃剤としてバッキング剤に配合されている点にある。
【0016】
本発明に係る難燃性カーペットの第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加えて、(f) パイル層が、ニードルゲージ1/8〜1/16本/(25.4mm)、ステッチゲージ7.5〜10.0本/(10cm)をもってパイル糸をベース地に差し込んで形成されており、(g) パイル層のパイル長が3〜5mmであり、(h) ベース地が、単繊維繊度3〜6dtex・総繊度750〜900dtexのポリエステル・マルチフイラメント糸を経糸に使用し、単繊維繊度3〜6dtex・総繊度900〜1300dtexのポリエステル・マルチフイラメント糸と単繊維繊度1〜2dtex・総繊度200〜4000dtexの熱融着性ポリエステル繊維紡績糸(熱融着性ポリエステル繊維の融点110℃)との合撚糸を緯糸に使用し、経糸密度と緯糸密度をそれぞれ22〜30本/25.4mmとして織成され、その緯糸に合撚されている熱融着性ポリエステル繊維の熱融着物を介して緯糸が経糸に接着している点にある。
【0017】
本発明に係る難燃性カーペットの第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加えて、(i) パイル層の動物繊維がチタニウム成分とジルコニウム成分を保有していない点にある。
【0018】
本発明に係る難燃性カーペットの第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、(j) パイル層の77〜60質量%を動物繊維が占め、パイル層の23〜40質量%をLOI値が28以上の半合成再生セルロース繊維が占めており、(k) 国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される垂直試験(燃焼性試験)において、燃焼長が20cm以下であり、残炎時間が15秒以下であり、燃焼性試験試料からの滴下物が落下後に平均時間5秒を超えて燃え続けておらず、その燃焼性試験において合格と判定される難燃性能を有する点にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、内装材の大半を占めるパイル層の羊毛繊維は、公害問題となるチタニウムやジルコニウムを主材とする難燃剤によって処理されていない。
そのため、内装材の製造過程でチタニウムやジルコニウムによる公害問題を惹起することなく、国土交通省の耐空性審査要領に定められた難燃性内装材を得ることが出来る。
【0020】
パイル層は、経糸と緯糸によってベース地を織成する製織過程において、ベース地にパイル糸を織り込んで形成することも出来るが、効率的にパイル層を形成する方法としてベース地にパイル糸を差し込んで形成する所謂タフティング方法が周知であり、そのタフティング方法においてはベース地としてポリプロピレンやポリエステル等のプラスチックのテープヤーンを経糸と緯糸に使用したテープヤーン織物が広く使用されている。
そのテープヤーンの断面は扁平でフイルムのように薄く、テープヤーン織物は隙間なく織成されているので、パイル糸を差し込むニードルはテープヤーン(経糸と緯糸)に確実に突き刺さり、そのときテープヤーンに生じる裂け目に挟み込まれ、パイルはベース地に確り係止される。
しかし、ニードルが突き刺さって裂け目が確実に生じる程度に薄く扁平になっているテープヤーンに特徴があるが故に、テープヤーン織物の引張強度は低い。
ベース地には、ポリエステル・マルチフイラメント糸を経糸と緯糸に使用した織物もあり、テープヤーン織物に比べて引張強度に優れ、又、経糸と緯糸が無数のフイラメントによって構成されているので、テープヤーン織物に比べて可撓性に富んでいる。
ところが、可撓性に富むが故に、タフティング時にマルチフイラメント・ベース地を支えるフインガーとフインガーの間にニードルによって押し込まれ、マルチフイラメント・ベース地に縦皺が発生し易くなる。
加えて、ファインゲージ・タフテッド機によってタフティングする場合、マルチフイラメント・ベース地には横皺も発生し易くなる。
【0021】
しかし、本発明では、ベース地が、単繊維繊度3〜6dtex・総繊度750〜900dtexのポリエステル・マルチフイラメント糸を経糸に使用し、単繊維繊度3〜6dtex・総繊度900〜1300dtexのポリエステル・マルチフイラメント糸と単繊維繊度1〜2dtex・総繊度200〜4000dtexの熱融着性ポリエステル繊維紡績糸(熱融着性ポリエステル繊維の融点110℃)との合撚糸を緯糸に使用し、経糸密度と緯糸密度をそれぞれ22〜30本/25.4mmとして織成され、その緯糸に合撚されている熱融着性ポリエステル繊維の熱融着物を介して緯糸が経糸に接着し、熱融着性ポリエステル繊維の熱融着物によって緯糸が補強されて強靱になり、ベース地の可撓性が抑えられて縦皺や横皺が発生せず、ニードルによってベース地がルーパー側へと押し下げられることがなく、パイル長にバラツキが生じない。
そして、熱融着性ポリエステル繊維の熱融着物による経糸と緯糸の接着が剥離し易い点接着となり、ニードルに触れる緯糸は経糸から剥離してズレ移動するので、タフティング時のベース地からの反力によってニードルがダメージを受けることもない。
こうして縦皺や横皺がなく、パイル長が一定に揃い、旅客機の通路の如く人通りの激しい床面に使用して変形しない引張強度の高いハードコントラクト用難燃性カーペットが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
2−2’−オキシビス[5−5−ジメチル−1−3−2−ジオキサホスホリナン]2−2’ジスルフィドを紡糸原料に添加して紡糸されており、単繊維繊度が1.7〜8.9dtexであり、LOI値が28以上の半合成再生セルロース繊維は、オーストリア共和国所在のレンチング社より登録商標”レンチングFR”(LENZING−FR)をもって製造販売されており、本発明では、その市販されているレンチングFR繊維を羊毛繊維と混紡して使用することが出来る。
【0023】
パイル層は、レンチングFR繊維と羊毛繊維との特定の混紡率の混紡糸だけで構成してもよいが、レンチングFR繊維の混用率が異なる数種類のレンチングFR繊維と羊毛繊維との混紡単糸を用意し、その何れか数種類の混紡単糸を合撚或いは引き揃え、或いは、その何れかの混紡単糸と羊毛繊維紡績単糸と合撚或いは引き揃え、パイル層に占めるレンチングFR繊維の混用率が15〜50質量%になるようにすることも出来る。
【0024】
しかし、レンチングFR繊維を羊毛繊維に混用してカーペットに生じる難燃効果を確実にするためにはレンチングFR繊維の混用率を23質量%以上にすることが望ましい。
又、レンチングFR繊維を羊毛繊維に混用したパイル糸の紡績工程やタフティング工程での糸切れを回避する上では、レンチングFR繊維の混用率を40質量%以下にすることが望ましい。
【0025】
パイル層に占めるレンチングFR繊維の混用率が23〜40質量%になるようにするには、
(1) 羊毛繊維とレンチングFR繊維との混紡単糸の数本合撚混紡パイル糸と、
(2) 羊毛繊維紡績単糸の数本合撚羊毛繊維パイル糸と、
(3) 羊毛繊維とレンチングFR繊維との混紡単糸と羊毛繊維紡績単糸との異種合撚パイル糸とを、選択的に組み合わせを変えて配列し、それらのパイル糸による繊維素材の異なるパイルが隣り合ってパイル層を構成するようにすることも出来る。
【0026】
水酸化アルミニウムは、レンチングFR繊維を羊毛繊維に混用してカーペットに生じる難燃効果を確実にするためにバッキング剤に配合され、そのバッキング剤の樹脂成分100重量部に対する配合量(P.H.R.)は250重量部以下(250P.H.R.以下)に、概して100〜180重量部(100〜180P.H.R.)にする。
バッキング剤にはアクリル樹脂エマルジョンが好適に使用される。
【実施例】
【0027】
[燃焼性試験]
国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される垂直試験(燃焼性試験)を行う。
燃焼長が20cm以下、残炎時間が10秒以下、試料からの滴下物が落下後に平均時間5秒を超えて燃え続けていない場合、その試験試料の難燃性能は、燃焼性試験に『合格』と判定する。
【0028】
[発煙ガス量試験]
ボーイング社規格支援標準BSS−7238の試験法において、カーペットから切り出された長さと幅がそれぞれ73mmの試験試料が発煙箱内で4分間燃焼したときの発生ガス量を3回測定する。
その測定値から算定される発生ガス量の算定値の平均値が200(Ds )以下であることをもって、その試験試料の難燃性能は、発煙ガス量試験に『合格』と判定する。
【0029】
[有毒ガス試験]
ボーイング社規格支援標準BSS−7239の試験法において、フッ化水素(HF)が200ppm以下であり、塩化水素(HCl)が500ppm以下であり、シアン化水素(HCN)が150ppm以下であり、二酸化硫黄(SO2 )が100ppm以下であり、一酸化炭素(CO)が3500ppm以下であり、二酸化窒素(NO2 )が100ppm以下であることをもって、その試験試料の難燃性能は、有毒ガス量試験に『合格』と判定する。
【0030】
合撚してパイル糸とするための六種類の紡績単糸(1)〜(6)を次の通り調製する。
紡績単糸(1); 羊毛繊維だけを紡績工程に通し、5.5メートル番手、Z下撚り回数250回/mの羊毛繊維紡績単糸(1)を調製する。
混紡単糸(2); レンチングFR繊維10重量部と羊毛繊維90重量部との比率でレンチングFR繊維と羊毛繊維を混合して紡績工程に通し、5.5メートル番手、Z下撚り回数250回/mのレンチングFR・羊毛繊維混紡単糸(2)を調製する。
混紡単糸(3); レンチングFR繊維20重量部と羊毛繊維80重量部との比率でレンチングFR繊維と羊毛繊維を混合して紡績工程に通し、5.5メートル番手、Z下撚り回数250回/mのレンチングFR・羊毛繊維混紡単糸(3)を調製する。
混紡単糸(4); レンチングFR繊維30重量部と羊毛繊維70重量部との比率でレンチングFR繊維と羊毛繊維を混合して紡績工程に通し、5.5メートル番手、Z下撚り回数250回/mのレンチングFR・羊毛繊維混紡単糸(4)を調製する。
混紡単糸(5); レンチングFR繊維40重量部と羊毛繊維60重量部との比率でレンチングFR繊維と羊毛繊維を混合して紡績工程に通し、5.5メートル番手、Z下撚り回数250回/mのレンチングFR・羊毛繊維混紡単糸(5)を調製する。
混紡単糸(6); レンチングFR繊維50重量部と羊毛繊維50重量部との比率でレンチングFR繊維と羊毛繊維を混合して紡績工程に通し、5.5メートル番手、Z下撚り回数250回/mのレンチングFR・羊毛繊維混紡単糸(6)を調製する。
【0031】
前記六種類の紡績単糸(1)〜(6)を次の通り組み合わせて合撚し、十四種類のパイル糸(A)〜(N)を調製する。
パイル糸(A); 3本の紡績単糸(1)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混紡率0%の合撚羊毛繊維パイル糸を塩酸(10%o.w.w.)水溶液に浸漬して7分後にクエン酸(5%o.w.w.)を追加して15分後に弗化ジルコニウムカリウム(10%o.w.w.)を追加して後、25分間加熱して80℃に昇温して40分間処理し、排液し、パイル糸のP.H.を調整してザプロ加工パイル糸(A)を得る。
パイル糸(B); 3本の混紡単糸(2)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率10質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(B)を得る。
パイル糸(C); 2本の混紡単糸(2)と1本の混紡単糸(3)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率13.3質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(C)を得る。
パイル糸(D); 1本の混紡単糸(2)と2本の混紡単糸(3)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率16.6質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(D)を得る。
パイル糸(E); 3本の混紡単糸(3)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率20質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(E)を得る。
パイル糸(F); 2本の混紡単糸(4)と1本の混紡単糸(2)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率23.3質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(F)を得る。
パイル糸(G); 2本の混紡単糸(4)と1本の混紡単糸(3)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率26.6質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(G)を得る。
パイル糸(H); 3本の混紡単糸(4)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率30質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(H)を得る。
パイル糸(I); 2本の混紡単糸(5)と1本の混紡単糸(3)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率33.3質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(I)を得る。
パイル糸(J); 2本の混紡単糸(5)と1本の混紡単糸(4)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率36.6質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(J)を得る。
パイル糸(K); 3本の混紡単糸(5)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率40質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(K)を得る。
パイル糸(L); 2本の混紡単糸(6)と1本の混紡単糸(4)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率43.3質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(L)を得る。
パイル糸(M); 2本の混紡単糸(6)と1本の混紡単糸(5)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率46.6質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(M)を得る。
パイル糸(N); 3本の混紡単糸(6)をS上撚り130回/mで合撚してレンチングFR混用率50質量%の合撚羊毛繊維パイル糸(N)を得る。
【0032】
ニードルゲージが25.4×(1/8)mm(=1/8吋)のタフテッド機において、ステッチゲージを8ステッチ/100mmとし、経糸には総繊度825dtex/192フイラメントのポリエステル・マルチフイラメント糸を使用し、緯糸には1100dtex/250フイラメントのポリエステル・マルチフイラメント糸と単繊維繊度1.65dtex・総繊度275dtex(総本数167本)の熱融着性ポリエステル繊維紡績糸(熱融着性ポリエステル繊維の融点110℃)との合撚糸を使用し、経糸密度を26本/25.4mmとし、緯糸密度を25本/25.4mmとして織成し、180℃にて加熱し、更に、225℃にて加熱してセット処理して熱融着性ポリエステル繊維が緯糸のフイラメントとフイラメントを部分的に接着し、且つ、緯糸と経糸を接着した目付け180g/m2 のベース地に前記十四種類のパイル糸(A〜N)をタフティングしたパイル長が3.5mm、パイル層目付けが600g/m2 の十四種類のタフテッドパイル布帛(A〜N)を製造し、それらのタフテッドパイル布帛(A〜N)の裏面に架橋剤2P.H.R.とブリスター防止剤4P.H.R.と安定剤4P.H.R.と分散剤0.3P.H.R.と水酸化アルミニウム(難燃剤)150P.H.R.と浸透剤2P.H.R.と導電剤4P.H.R.と増粘剤3.4P.H.R.と防腐剤1g/Kgと消泡剤2g/Kgを配合したアクリル系樹脂エマルジョンを主材とするバッキング剤を固形分に換算して500g/m2 塗布して仕上げた十四種類のタフテッドカーペット(A〜N)の難燃性能を国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される垂直試験(燃焼性試験)に従って調べると共に、ザプロ加工パイル糸(A)を使用したタフテッドカーペット(A)とレンチングFR混紡率23.3質量%のパイル糸(F)を使用したタフテッドカーペット(F)とレンチングFR混紡率50質量%のパイル糸(N)を使用したタフテッドカーペット(N)についてはボーイング社規格支援標準BSS−7238の試験法に基づく発煙ガス量試験とボーイング社規格支援標準BSS−7239の試験法に基づく有毒ガス試験を行ない、次の[表1]に示す結果を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
[表1]に示す通り、レンチングFR繊維を羊毛繊維と混用したパイル糸を使用したタフテッドカーペット(FとN)のボーイング社規格支援標準BSS−7239の試験法における一酸化炭素(CO)、フッ化水素(HF)、二酸化窒素(NO2 )、塩化水素(HCl)、シアン化水素(HCN)および二酸化硫黄(SO2 )の発生量は、TG加工(ザプロ加工)した従来のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(A)の有毒ガスの発生量に比して大差なく、TG加工(ザプロ加工)した従来のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(A)と同様にレンチングFR繊維を羊毛繊維と混用したパイル糸を使用したタフテッドカーペット(FとN)は、有毒ガス量試験において『合格』と判定される。
又、レンチングFR繊維を羊毛繊維と混用したパイル糸を使用したタフテッドカーペット(FとN)のボーイング社規格支援標準BSS−7238の試験法における発生ガス量も、TG加工(ザプロ加工)した従来のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(A)の発生ガス量に比して大差なく、TG加工(ザプロ加工)した従来のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(A)と同様にレンチングFR繊維を羊毛繊維と混用したパイル糸を使用したタフテッドカーペット(FとN)は、発煙ガス量試験において『合格』と判定される。
このように、本発明によると、レンチングFR繊維を動物繊維に対して15〜50質量%パイルに混用することにより、チタニウムやジルコニウムを使用することなく国土交通省の耐空性審査要領に定められた難燃性能を有するカーペットを得ることが出来、そのようにチタニウムやジルコニウムを必要としないので、カーペットの難燃化に伴って公害問題を惹起する虞れがなくなる。
そして、レンチングFR繊維の混用率が20質量%未満のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(B〜C)には、国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される燃焼性試験において、[表1]に「■印」を付して示すように残炎時間が20秒を超えるものも見られるが、レンチングFR繊維の混用率が23.3質量%を超えるパイル糸を使用したタフテッドカーペット(F〜N)には、残炎時間が10秒を超えるものは認められない。
【0035】
[表1]のレンチングFR繊維の混用率が33.3質量%のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(I)とレンチングFR繊維の混用率が36.6質量%のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(J)の国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される燃焼性試験における残炎時間が、レンチングFR繊維の混用率が43.3質量%を超えるパイル糸を使用したタフテッドカーペット(L〜N)の残炎時間に比して総じて短いことからして、レンチングFR繊維の混用率を23〜40質量%にすることによって、TG加工(ザプロ加工)した従来のパイル糸を使用したタフテッドカーペット(A)と同等の難燃性カーペットを経済的に得ることが出来る。
尚、[表1]の国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される垂直試験(燃焼性試験)の試料からの滴下物の燃焼時間に関するデータ記載欄において、「無」とあるのは、試料からの滴下物がなく、従って、滴下物の燃焼時間は『ゼロ』であることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、カーペットに限らず、モケットその他のパイル布帛や織編布帛など、羊毛繊維を使用した航空機、船舶、列車、自動車等の交通機関用の難燃性内装材にも適用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 目付け150g/m2 〜300g/m2 のベース地に目付け500g/m2 〜650g/m2 のパイル層を植設して成り、
(b) パイル層の85質量%〜50質量%を占める動物繊維とパイル層の15質量%〜50質量%を占めるLOI値が28以上の半合成再生セルロース繊維によってパイル層が構成されており、
(c) その半合成再生セルロース繊維が2−2’−オキシビス[5−5−ジメチル−1−3−2−ジオキサホスホリナン]2−2’ジスルフィドを含有している難燃性カーペット。
【請求項2】
(d) 裏面に樹脂エマルジョンを主材とするバッキング剤を塗布して仕上げられており、そのバッキング剤の固形分の乾燥塗布量が450g/m2 〜550g/m2 であり、
(e) そのバッキング剤の樹脂成分100重量部に対する配合量が50重量部以上となる水酸化アルミニウムが難燃剤としてバッキング剤に配合されている請求項1に記載の難燃性カーペット。
【請求項3】
(f) パイル層が、ニードルゲージ1/8本/25.4mm〜1/16本/25.4mm、ステッチゲージ7.5本/10cm〜10.0本/10cmをもってベース地にパイル糸を差し込んで形成されており、
(g) パイル層のパイル長が3mm〜5mmであり、
(h) ベース地が、単繊維繊度3dtex〜6dtex・総繊度750dtex〜900dtexのポリエステル・マルチフイラメント糸を経糸に使用し、単繊維繊度3dtex〜6dtex・総繊度900dtex〜1300dtexのポリエステル・マルチフイラメント糸と単繊維繊度1dtex〜2dtex・総繊度200dtex〜4000dtexの熱融着性ポリエステル繊維紡績糸との合撚糸を緯糸に使用し、経糸密度と緯糸密度をそれぞれ22本/25.4mm〜30本/25.4mmとして織成され、その緯糸に合撚されている熱融着性ポリエステル繊維の熱融着物を介して緯糸が経糸に接着している請求項1と2の何れかに記載の難燃性カーペット。
【請求項4】
(i) パイル層の動物繊維がチタニウム成分とジルコニウム成分を保有していない請求項1と2と3の何れかに記載の難燃性カーペット。
【請求項5】
(j) パイル層の77質量%〜60質量%を動物繊維が占め、パイル層の23質量%〜40質量%をLOI値が28以上の半合成再生セルロース繊維が占めており、
(k) 国土交通省航空局技術部航空機安全課監修の耐空性審査要領第3部附録F4−10−2に規定される垂直試験において、燃焼長が20cm以下であり、残炎時間が15秒以下であり、燃焼性試験試料からの滴下物が落下後に平均時間5秒を超えて燃え続けておらず、その燃焼性試験において合格と判定される難燃性能を有する請求項1と2と3と4の何れかに記載の難燃性カーペット。

【公開番号】特開2012−207331(P2012−207331A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72986(P2011−72986)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(510045438)TBカワシマ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】