説明

難燃性シート材及びこれを用いた絶縁紙

【課題】絶縁性、機械的強度及び寸法安定性を、いずれも効果的かつバランス良く発揮する難燃性シート材及びこれを用いた絶縁紙の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、主原料として天然繊維を含有する紙素材を備える難燃性シート材であって、この紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有することを特徴とする。上記メラミン樹脂が、それを構成するモノマー又はオリゴマーを含有する組成物を含浸後硬化させることで形成されるとよい。上記ポリホウ酸塩のメラミン樹脂に対する質量比としては3/97以上20/80以下が好ましい。上記紙素材に対するメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の合計含有量としては25質量%以上100質量%以下が好ましい。上記紙素材が、副原料として熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維を含有するとよい。当該難燃性シート材は絶縁紙として好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性シート材及びこれを用いた絶縁紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するために用いるシート材には、絶縁性、機械的強度、寸法安定性等が要求される。そのため、絶縁性や機械的強度等を有するシート材の素材として、従来からバルカナイズドファイバーが広く使用されている。このバルカナイズドファイバーは、木材パルプやリンターパルプ等を原料とするものであり、絶縁性及び機械的強度を発揮する素材である。
【0003】
しかしながら、上記従来のバルカナイズドファイバーを素材とするシート材は、吸湿時における寸法安定性が十分ではなく、例えば、高温高湿下で変形し、反り、歪み、波打ち等が発生するという不都合を有する。
【0004】
一方、近年において、このようなシート材には、上述の絶縁性、機械的強度、寸法安定性に加えて、難燃性も要求されている。かかるシート材に難燃性を付与する方策として、従来はシート材に対して塩素系やアンチモン系の難燃剤を含有させる手段が広く使用されていたが、塩素系やアンチモン系の難燃剤は発ガン性物質であり、さらに、かかる難燃剤を含有させたシート材を焼却するとダイオキシンが発生するという不都合がある。
【0005】
そこで、人体や環境への影響を考慮し、塩素系やアンチモン系以外の難燃剤を含有させたシート材が多く提供されている。かかるシート材としては、例えば、木材パルプを主体とする紙基材に対し、ポリリン酸メラミン粒子、リン酸メラミン粒子及び硫酸メラミン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の難燃剤を10質量%〜50重量%含有させた難燃絶縁紙が挙げられる(特開2001−155547号公報等)。しかしながら、これら難燃剤を組み合わせて使用しても十分な難燃性及び絶縁性を得ることができなかった。またこの難燃絶縁紙における難燃剤は粒子状であり、このような粒子状の難燃剤は木材パルプ(セルロース)などの天然繊維に対して効率よく結合することができないことから、この難燃絶縁紙は、十分な絶縁性を発揮することができないという不都合を有する。
【0006】
また、かかるシート材としては、例えば、難燃処理されたペーパーハニカムコアが挙げられる(特開平8−103979号公報等)。このペーパーハニカムコアは、セルロース繊維を主体とする有機分25質量%〜35質量%からなる無機質紙に対し、リン酸グアニジン系難燃剤、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂及びホウ酸ナトリウムを含有する水溶液を含浸処理させたものである。しかしながら、このホウ酸ナトリウムは水に溶けにくく、上記無機質紙に対してホウ酸ナトリウムを含浸させることが困難であることから、このペーパーハニカムコアは、十分な難燃性を発揮することができないという不都合を有する。
【0007】
つまり、絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性を効果的かつバランス良く発揮するシート材は、未だ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−155547号公報
【特許文献2】特開平8−103979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、絶縁性、機械的強度及び寸法安定性を、いずれも効果的かつバランス良く発揮する難燃性シート材及びこれを用いた絶縁紙の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、
主原料として天然繊維を含有する紙素材を備える難燃性シート材であって、
この紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有することを特徴とするものである。
【0011】
当該難燃性シート材は、紙素材にメラミン樹脂を含有することで、良好な難燃性、機械的強度、寸法安定性に加え、特に高い絶縁性を発揮することができる。また、当該難燃性シート材は、上記メラミン樹脂に加え、紙素材にポリホウ酸塩を含有することで、メラミン樹脂が発揮する絶縁性に影響を及ぼすことなく、特に高い難燃性を発揮することができる。つまり、当該難燃性シート材は、紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を共に含有することで、絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性を、いずれも効果的かつバランス良く発揮することができる。
【0012】
上記メラミン樹脂は、それを構成するモノマー又はオリゴマーを含有する組成物を含浸後硬化させることで形成されるとよい。このように、上記メラミン樹脂が、それを構成するモノマー又はオリゴマーを含有する組成物を含浸後硬化させて形成されることで、天然繊維を主原料とする所謂紙素材中に均一かつ確実にメラミン樹脂を含有させることができる。
【0013】
上記ポリホウ酸塩のメラミン樹脂に対する質量比としては、3/97以上20/80以下が好ましい。このように、上記ポリホウ酸塩のメラミン樹脂に対する質量比を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、上述した絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性のそれぞれの効果を、互いに相殺や低減等させることなく、効果的かつバランス良く発揮することができる。
【0014】
上記紙素材に対するメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の合計含有量としては、25質量%以上100質量%以下が好ましい。このように、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の合計含有量を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、上述した絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性の効果的かつバランス良い発揮を、確実なものとすることができる。
【0015】
当該紙素材は、副原料として熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維を含有するとよい。このように、当該紙素材が副原料として熱可塑性合成繊維を含有することで、当該難燃性シート材は、高い機械的強度及び寸法安定性を発揮しつつ、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の紙素材に対する良好な浸透性を発揮することができる。また、当該難燃性シート材が副原料として非熱可塑性化学繊維を含有することで、当該難燃性シート材は、高い機械的強度及び寸法安定性を発揮しつつ、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の紙素材に対する良好な浸透性を発揮し、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の紙素材に対する上記範囲の合計含有量を容易かつ確実に実現することができる。さらに、当該難燃性シート材が副原料として熱可塑性合成繊維及び非熱可塑性化学繊維を共に含有することにより、当該難燃性シート材は、上述した高い機械的強度及び寸法安定性を相乗効果的に向上することができると共に、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の紙素材に対する良好な浸透性や上記範囲の合計含有量の容易かつ確実な実現を達成することができる。
【0016】
また、当該難燃性シート材は、絶縁紙として好適に使用される。かかる絶縁紙は、絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性を効果的かつバランス良く発揮するものであり、特に、電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するために好適に使用される。また、かかる絶縁紙は、塩素系やアンチモン系等の如く人体や環境に影響を及ぼす難燃剤を使用しないことから、環境問題にも十分対応することができる。
【0017】
ここで、「ポリホウ酸塩」とは、ホウ酸を脱水縮合したポリホウ酸の塩、ホウ酸塩を脱水縮合したもの、又はホウ酸及びホウ酸塩を脱水縮合したものを意味する。「非熱可塑性化学繊維」とは、熱可塑性合成繊維に似た特性を有するが、融点が熱分解温度以下の温度で存在しない化学繊維を意味する。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の難燃性シート材は、紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有することから、従来の課題とされていた絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性をバランス良く促進することができる。その結果、当該難燃性シート材は、電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するための絶縁紙等に好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0020】
当該難燃性シート材は、紙素材を備えており、この紙素材中にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩(以下、「難燃剤」ともいう。)を含有する。かかる紙素材は、天然繊維を主原料とするものであり、副原料として熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維を含有させることができる。以下、当該難燃性シート材の構成要素を順に詳説する。なお、「紙素材」とは、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有しない状態を意味する。
【0021】
<紙素材>
(天然繊維)
天然繊維は、当該難燃性シート材を構成する紙素材の主原料となる骨格素材である。かかる天然繊維を紙素材の主原料とすることにより、当該難燃性シート材は、高い軽量性及び良好な柔軟性を発揮し、加工等の取扱いの容易性を向上することができる。また、かかる天然繊維は、製造過程での取り扱いが容易かつ安全であり、さらには焼却が容易であるため、サーマルリサイクルの効率を向上することができ、産業廃棄物の大幅な削減を実現できることから、環境問題にも十分対応することができる。
【0022】
上記天然繊維の種類としては、特に限定されず、例えば古紙パルプ、化学パルプ、機械パルプ等が挙げられ、また、サイザル麻、マニラ麻、サトウキビ、コットン、シルク、ケナフ、竹等を原料とするパルプが挙げられる。中でも、高い剛性を発揮する竹、繊維強度が高いケナフやマニラ麻を使用することが好ましい。また、入手及び加工が容易で比較的紙力が大きく、当該難燃性シート材に良好な機械的強度及び寸法安定性を付与できる後述の針葉樹クラフトパルプ(針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ)を使用することがより好ましい。
【0023】
上記古紙パルプとしては、例えば段ボール古紙、茶古紙、クラフト封筒古紙、チラシ古紙、雑誌古紙、新聞古紙、オフィス古紙、上白古紙、ケント古紙、構造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。
【0024】
上記化学パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等が挙げられる。
【0025】
機械パルプとしては、例えばストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が挙げられる。
【0026】
上記天然繊維の紙素材に対する含有量は、特に限定されず、100質量%とすることができる。但し、この天然繊維の紙素材に対する含有量の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。また、かかる天然繊維の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。このように天然繊維の紙素材に対する含有量を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、高い軽量性及び柔軟性を発揮することができると共に、後述する難燃剤の吸収効果や定着効果を向上させ、絶縁性及び難燃性を効果的かつ確実に発揮することができる。なお、この天然繊維の含有量が上記上限を超え、特に100質量%にすると、難燃性及び絶縁性が低下するおそれがある。逆に、この天然繊維の含有量が上記下限未満であると、当該難燃性シート材の軽量性及び柔軟性が低下するおそれがある。
【0027】
(熱可塑性合成繊維)
当該難燃性シート材の紙素材は、副原料として熱可塑性合成繊維を含有することができる。この熱可塑性合成繊維は、後述する抄紙工程等の加熱下で融解して天然繊維の繊維間に浸透し、その後、冷却して再び凝固する。つまり、当該難燃性シート材は、紙素材の副原料として熱可塑性合成繊維を含有させることで、高い機械的強度及び寸法安定性を発揮しつつ、後述の難燃剤の紙素材に対する良好な浸透性を発揮することができる。
【0028】
上記熱可塑性合成繊維の種類としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維;ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称することがある。)、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル系繊維;ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−46、ナイロン−66、共重合ナイロンなどのポリアミド系繊維;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの生分解性繊維等が挙げられる。中でも、天然繊維との熱溶融による接着性に優れ、その結果、当該難燃性シート材の機械的強度及び寸法安定性を向上させることから、ポリエチレンテレフタレートを使用することが好ましい。
【0029】
上記熱可塑性合成繊維の紙素材に対する含有量の上限としては、15質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、この熱可塑性合成繊維の含有量の下限としては、2質量%が好ましく、4質量%がより好ましい。このように、熱可塑性合成繊維の紙素材に対する含有量を上記範囲とすることで、後述する抄紙工程の加熱下で溶融した熱可塑性合成繊維が天然繊維の繊維間へ効率よく浸透し、当該難燃性シート材の機械的強度及び寸法安定性を効果的に実現することができる。加えて、熱可塑性合成繊維の紙素材に対する含有量を上記範囲とすることで、難燃剤の紙素材に対する浸透性を向上させることができ、その結果、当該難燃性シート材の機械的強度及び寸法安定性を効果的に実現することができるだけでなく、上述の難燃性及び絶縁性をより向上することができる。なお、かかる熱可塑性合成繊維の含有量が上記上限を超えると、天然繊維の紙素材に対する含有量が相対的に低下し、当該難燃性シート材における後述のメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の浸透性がかえって低下し、難燃性及び絶縁性が低下するおそれがある。逆に、この熱可塑性合成繊維の含有量が上記下限未満であると、当該難燃性シート材の紙素材の繊維同士の接着効果が低下し、当該難燃性シート材が破断しやすくなる可能性があると共に、当該難燃性シート材における後述のメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の浸透性が低下し、難燃性及び絶縁性が低下するおそれがある。
【0030】
(非熱可塑性化学繊維)
当該難燃性シート材の紙素材は、副原料として非熱可塑性化学繊維を含有することができる。かかる非熱可塑性化学繊維は、熱可塑性合成繊維に似た特性を有するが、融点が熱分解温度以下の温度で存在しない化学繊維であり、後述する抄紙工程等における加熱下でも溶融せず、天然繊維の繊維間の水素結合を部分的に阻害するものである。つまり、当該難燃性シート材は、紙素材の副原料として非熱可塑性化学繊維を含有することで、高い機械的強度及び寸法安定性を発揮できると共に、当該難燃性シート材の紙素材の繊維間に連続した空隙を形成させ、後述する難燃剤の紙素材に対する良好な合計含有量を効果的かつ確実に実現することができる。
【0031】
上記非熱可塑性化学繊維の種類としては、特に限定されず、例えばビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維などの再生セルロース繊維等が挙げられる。中でも、繊維方向と垂直な断面の形状が略円形であるビニロン繊維が、当該難燃性シート材に対して高い機械的強度及び寸法安定性を付与することができるため好ましい。
【0032】
上記非熱可塑性化学繊維の紙素材に対する含有量の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。一方、かかる非熱可塑性化学繊維の含有量の下限としては、2質量%が好ましく、8質量%がより好ましい。このように、非熱可塑性化学繊維の紙素材に対する含有量を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、高い機械的強度や高い寸法安定性を発揮することができる。加えて、非熱可塑性化学繊維の紙素材に対する含有量を上記範囲とすることで、かかる非熱可塑性化学繊維が溶解せずに天然繊維間に存在し、天然繊維の繊維間の水素結合を部分的に阻害し、その結果、紙素材の繊維間に連続した空隙が均一かつ確実に形成される。そのため、当該難燃性シート材は、紙素材中に難燃剤が含浸されやすくなり、上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の紙素材に対する上記合計含有量を容易かつ確実に実現することができ、その結果、高い機械的強度及び寸法安定性を発揮しつつ、難燃性及び絶縁性を格段に向上することができる。なお、この非熱可塑性化学繊維の含有量が上記上限を超えると、当該難燃性シート材の紙素材の繊維間の空隙が過多になり、機械的強度や寸法安定性の低下を招来するおそれがあり、さらにメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の定着性が低下し、難燃性及び絶縁性が低下するおそれがある。逆に、この非熱可塑性化学繊維の含有量が上記下限未満であると、上述の機械的強度及び寸法安定性の向上効果が得られないおそれがあり、加えてメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の浸透性が低下し、上述の難燃性及び絶縁性が低下するおそれがある。
【0033】
上述の通り、当該難燃性シート材の紙素材の主原料として天然繊維を用い、さらに副原料として熱可塑性合成繊維及び非熱可塑性化学繊維を用いることで、当該難燃性シート材は、上述の軽量性及び柔軟性を有しつつ、高い機械的強度及び寸法安定性を相乗効果的に向上することができると共に、後述する難燃剤の紙素材に対する良好な浸透性に基づく難燃性及び絶縁性をも相乗効果的に向上することができる。
【0034】
上記紙素材の密度の上限としては、1g/cmが好ましく、0.8g/cmがより好ましい。また、この紙素材の密度の下限としては、0.4g/cmが好ましく、0.6g/cmがより好ましい。このように紙素材の密度を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、後述の難燃剤が最も効果的かつ確実に紙素材に含浸し、高い絶縁性及び難燃性のバランス良い発揮を実現することができる。なお、かかる密度が上記上限を超えると、当該難燃性シート材の紙素材に後述の難燃剤が十分に含浸しない可能性がある。また、この密度が上記下限未満であると、当該難燃性シート材の機械的強度が低下する可能性がある。なお、この密度は、JIS−P8118(厚さ及び密度の試験方法)に準拠した値である。
【0035】
上記紙素材における天然繊維のカナダ標準フリーネスの上限としては、700ccが好ましく、680ccがより好ましい。また、上記紙素材における天然繊維のフリーネスの下限としては、600ccが好ましく、630ccがより好ましい。このように、上記紙素材における天然繊維のフリーネスを上記範囲とすることで、当該難燃性シート材における後述の難燃剤の浸透性をより一層確実にすることができる。なお、このフリーネスが上記上限を超えると、後述する難燃剤の天然繊維に対する浸透性が低下する場合がある。また、このフリーネスが上記下限未満であると、後述の難燃剤を含有させにくくなり、さらには紙素材の密度が高くなり機械的強度が低下する可能性がある。なお、このフリーネスは、JIS−P8220に準拠して標準離解機にて天然繊維を離解処理した後、JIS−P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0036】
上記紙素材の厚さとしては、0.2mm以上1.6mm以下が好ましい。このように紙素材の厚さを上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、高い機械的強度及び寸法安定性を効果的かつ確実に発揮することができる。なお、この厚さが上記上限を超えると、当該難燃性シート材の加工等の作業容易性が低下する場合がある。また、この厚さが上記上限未満であると、特に吸湿時の寸法安定性を維持することが困難となる可能性がある。なお、かかる厚さは、JIS−P8118(厚さ及び密度の試験方法)に準拠した値である。
【0037】
上記紙素材の坪量の上限としては、600g/mが好ましく、500g/mがより好ましい。また、この紙素材の坪量の下限としては、80g/mが好ましく、200g/mがより好ましい。このように、紙素材の坪量を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、良好な機械的強度の発揮を維持することができる。また、かかる紙素材の坪量は、例えば、自動車用リチウムイオン電池の保護等の用途に応じて適宜調整することができる。なお、この坪量は、JIS−P8124(坪量測定方法)に準拠した値である。
【0038】
<難燃剤>
(メラミン樹脂)
当該難燃性シート材は、メラミン樹脂を含有する。このメラミン樹脂を当該難燃性シート材に含有させることで、当該難燃性シート材は、良好な難燃性、機械的強度、寸法安定性に加え、特に高い絶縁性を発揮することができる。
【0039】
上記メラミン樹脂の種類としては、特に限定されず、例えばメラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られるメチル化メラミンなどのメラミン/ホルムアルデヒド樹脂や、メラミンの一部をかかるメラミン及びホルムアルデヒドと共縮合可能なメラミン共縮合用成分で置換することで得られるメラミン/ホルムアルデヒド系共縮合樹脂などが挙げられる。中でも、当該難燃性シート材に対して特に良好な難燃性及び絶縁性を付与するメラミン/ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
【0040】
上記メラミン共縮合用成分の種類としては、特に限定されず、例えば、尿素、エチレン尿素、チオ尿素などの尿素類;ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、フェニルアセトグアナミン、ホルムグアナミン、CTUグアナミンなどのグアナミン類;グアニジン、ジシアンジアミド、パラトルエンスルホンアミドなどのアミノ化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、ビスフェノールAなどのフェノール類;キシレン、サッカロースなどのその他のメラミン共縮合用化合物等が挙げられる。なお、かかるメラミン共縮合用成分は、1種単独又は2種以上併用して使用することができる。
【0041】
上記メラミン共縮合用成分の置換比率としては、メラミンに対しモル比で0.2以下かつ質量比で0.2以下が好ましく、モル比で0.1以下かつ質量比で0.1以下が好ましい。このように、メラミン共縮合用成分の置換比率を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、良好な難燃性、機械的強度、寸法安定性及び高い絶縁性を効果的かつ確実に発揮することができる。なお、このメラミン共縮合用成分の置換比率が上記範囲を超えると、当該難燃性シート材の難燃性、機械的強度、寸法安定性、絶縁性が十分に発揮されない可能性がある。
【0042】
上記メラミン/ホルムアルデヒド樹脂又はメラミン/ホルムアルデヒド系共縮合樹脂において、メラミン又はメラミンと必要に応じて用いられる上記メラミン共縮合用成分との合計量1モルに対して、ホルムアルデヒドを1モル以上3モル以下で反応させることが好ましく、1.4モル以上2.5モル以下で反応させることがより好ましい。かかるホルムアルデヒドの反応量を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、良好な難燃性、機械的強度、寸法安定性及び高い絶縁性をバランス良く発揮することができる。なお、このホルムアルデヒドの反応量が上記範囲を超えると、当該難燃性シート材の難燃性、機械的強度、寸法安定性、絶縁性がバランス良く発揮されない可能性がある。
【0043】
(ポリホウ酸塩)
当該難燃性シート材は、ポリホウ酸塩を含有する。このポリホウ酸塩は、具体的には、ホウ酸を脱水縮合したポリホウ酸の塩、ホウ酸塩を脱水縮合したもの、又はホウ酸及びホウ酸塩を脱水縮合したものである。かかるポリホウ酸塩の水に対する溶解度は、例えば、16g/100g(20℃)と高い。従って、ポリホウ酸塩は水溶液の形態で当該難燃性シート材の紙素材に含有させることが容易かつ確実であるため、当該難燃性シート材の難燃性をさらに向上することができる。なお、ポリホウ酸塩の代わりに、ポリマーではないホウ酸塩、例えばホウ酸ナトリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸亜鉛等を含有させたシート材では、塩が高い導電性を有するため絶縁性が低下して、十分な絶縁性を得ることができない。また、ポリマーではないホウ酸塩は、水に対する溶解度が、例えば、4.7g/100g(20℃)とポリホウ酸塩と比較して低いことから、当該難燃性シート材の紙素材に効率よく含浸させることが困難となる。
【0044】
上記ポリホウ酸塩の種類としては、特に限定されず、例えば、ポリホウ酸ナトリウム、ポリホウ酸カルシウム、ポリホウ酸カリウム、ポリホウ酸バリウム、ポリホウ酸亜鉛等が挙げられる。中でも、水に対する特に高い溶解度を示し、当該難燃性シート材に対して高い難燃性を付与するために必要なホウ酸の容量を確実かつ効率的に含有させることができるポリホウ酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0045】
上記ポリホウ酸ナトリウムを含有させた当該難燃性シート材を接炎させると、ポリホウ酸ナトリウムが火炎により発泡して無機発泡構造を形成し、その結果、当該難燃性シート材は、表面が炭化するものの、黒煙や有害ガスを発生させず燃焼することがない。また、このポリホウ酸ナトリウムは、有害なガスを発生させることがないため、環境問題にも十分対応することができる。
【0046】
<その他の任意成分>
当該難燃性シート材の紙素材中には、本発明の目的効果を損なわない範囲で、任意成分を適宜使用することができる。かかる任意成分としては、例えばスルファミン酸塩などの上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩以外の難燃剤;軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、尿素−ホリマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子などの填料;アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などのサイズ剤;ポリビニルアルコール系高分子、ポリアクリルアミド系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物、カチオン性の定着剤などの歩留り向上剤;紙粉脱落防止剤;硫酸バンド;湿潤紙力材;紙厚向上剤;嵩高剤;カチオン化剤;着色剤;染料等を、その種類及び含有量を適宜調整して添加することができる。
【0047】
<難燃性シート材>
このように当該難燃性シート材がメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有することで、当該難燃性シート材は、高い絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性をバランス良く有している。特に、このポリホウ酸塩がポリホウ酸ナトリウムである場合、このポリホウ酸ナトリウムは、メラミン樹脂が発揮する上述の高い絶縁性に影響を及ぼすことが極めて少なく、メラミン樹脂が発揮する高い絶縁性を好適に維持することができると共に、上述の高い難燃性をも発揮することができる。つまり、当該難燃性シート材は、メラミン樹脂及びポリホウ酸ナトリウムを含有することで、上述の絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性を最も効果的かつバランス良く発揮することができる。
【0048】
上記ポリホウ酸塩のメラミン樹脂に対する質量比の上限としては、20/80が好ましく、10/90がより好ましい。一方、かかる質量比の下限としては、3/97が好ましく、5/95がより好ましい。このように、上記ポリホウ酸塩のメラミン樹脂に対する質量比を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、上述した絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性を、互いに相殺や低減等させることなく、効果的かつバランス良く発揮させることができる。なお、この質量比が上記上限を超えると、当該難燃性シート材の絶縁性が低下する可能性がある。逆に、この質量比が上記下限未満であると、当該難燃性シート材の難燃性が十分に発揮されない可能性がある。
【0049】
上述の通り、当該難燃性シート材は、天然繊維、熱可塑性合成繊維等を含有する紙素材を備え、この紙素材に難燃剤としてメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有することで、高い難燃性及び絶縁性を発揮することができる。すなわち、天然繊維の繊維間に溶解した熱可塑性合成繊維が浸透した後、冷却して再び凝固し、かかる天然繊維及び熱可塑性合成繊維の繊維間にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩が十分に含浸されることから、当該難燃性シート材は、高い機械的強度及び寸法安定性を発揮しつつ、高い難燃性及び絶縁性を発揮することができる。
【0050】
当該難燃性シート材は、上述の構造により高い絶縁性を有している。当該難燃性シート材の体積抵抗値としては、1.0×1011Ω・cm以上が好ましく、1.0×1014Ω・cm以上がより好ましく、1.3×1014Ω・cm以上が特に好ましい。また、当該難燃性シート材の表面抵抗値としては、1.0×1011Ω/sq.以上が好ましい。このように当該難燃性シート材の体積抵抗値や表面抵抗値を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、例えば電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するための絶縁紙として好適に使用される。なお、かかる体積抵抗値及び表面抵抗値は、JIS−K6911−1995(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠した値である。
【0051】
当該難燃性シート材の縦方向(MD方向)の吸水長さ変化率としては、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。また、当該難燃性シート材の横方向(CD方向)の吸水長さ変化率としては、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。このように当該難燃性シート材の吸水長さ変化率を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、低温低湿時や常温時のみならず、高温高湿時においても高い形状安定性及び加工容易性を発揮することができる。なお、この吸水長さ変化率が上記範囲を超えると、当該難燃性シート材は、特に高温高湿下における変形を免れることができず、反り、歪み、波打ち等が発生する可能性がある。なお、この吸水長さ変化率は、JIS−A5905−6−9−2003(吸水長さ変化率試験)に準拠した値である。
【0052】
<難燃性シート材の製造方法>
当該難燃性シート材の製造方法としては、上述のように紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を略均一に含有させることができれば、特に限定されない。具体的には、当該難燃性シート材の製造方法は、抄紙により紙素材を得る抄紙工程と、紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有させる含浸工程と、含浸後の紙素材を乾燥する乾燥工程とを主に有するとよい。
【0053】
<抄紙工程>
抄紙工程としては、一般的に製紙用途で使用される方法を用いることができる。具体的には、天然繊維を主原料とする原料スラリー(好ましくは、熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維を副原料とする原料スラリー)を用い、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダーパート、リールパート等を経て紙素材を製造することができる。このドライヤーパートにおいて110℃程度で加熱処理がなされ、上述の熱可塑性合成繊維が融解する。なお、上記天然繊維は、叩解を施して繊維表面に微細な毛羽立ちを設けることで、繊維間にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩が入り込みやすくなり、メラミン樹脂及びポリホウ酸塩の天然繊維への浸透性の向上を図ることができることから、上述のフリーネスの値になるよう叩解した天然繊維を主原料とする当該難燃性シート材は、メラミン樹脂及びポリホウ酸塩が発揮する難燃性及び絶縁性の効果を最も良く発揮することができる。
【0054】
上記カレンダーパートにおけるカレンダー処理方法については、特に限定されず、オンマシンで設定されているマシンカレンダー、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、マットカレンダー、ブラッシカレンダー、ソフトカレンダー等を用いることができる。
【0055】
<含浸工程>
含浸工程は、紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有させることができれば、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。かかる含浸工程としては、例えば、メラミン樹脂を構成するモノマー又はオリゴマーとポリホウ酸塩とを含有する組成物(以下、「難燃剤含有組成物」ともいう。)を含浸させるとよい。このポリホウ酸塩は水溶性が高いが、メラミン樹脂は水溶性が高くないため、このようにメラミン樹脂を構成するモノマー又はオリゴマーを含有する組成物を紙素材に含浸させ、その後にメラミン樹脂に重合させることで、天然繊維を主原料とする紙素材中に均一かつ確実にメラミン樹脂を含有させることができる。なお、かかるメラミン樹脂を構成するモノマー又はオリゴマーとしては、(1)メラミン及びホルムアルデヒド、(2)メチル化メラミン初期縮合物等が挙げられる。なお、この組成物には、水、アルコール等の溶媒が含有される。
【0056】
このように、紙素材に対し、メラミン樹脂を構成するモノマー又はオリゴマーとポリホウ酸塩とを含有する組成物を含浸させることで、メチル化メラミン初期縮合物が当該難燃性シート材の紙素材における天然繊維のセルロースに対し水素結合を介して結合しやすくなると共に、メチル化メラミン初期縮合物から構成されるメラミン樹脂及びポリホウ酸塩が天然繊維の繊維表面を均一かつ広範囲に被覆することとなる。その結果、当該難燃性シート材は、上述した良好な難燃性、機械的強度、寸法安定性及び特に高い絶縁性を均一かつ確実に発現することができる。
【0057】
なお、含浸工程において、紙素材に対し、メラミン樹脂を構成するモノマー又はオリゴマーを含有する組成物とポリホウ酸塩の組成物とを別々に含浸させてもよく、上記と同様に当該難燃性シート材の難燃性及び絶縁性を高めることができる。また、上記メラミン樹脂を粒子状とし、この粒子状のメラミン樹脂を上記抄紙工程において内添又は外添させることもできるが、この粒子状のメラミン樹脂では紙素材中に均一に存在させることが困難であり、天然繊維の繊維表面を被覆できないため、当該難燃性シート材に良好な難燃性及び絶縁性を発揮することができない。さらに、ポリマーではないホウ酸又はホウ酸塩を含有する組成物を紙素材に含浸させても、上述のごとく導電性の高い塩により当該難燃性シート材の絶縁性が低下する。
【0058】
また、上記難燃剤含有組成物の紙素材に対する浸透性を向上させるため、当該難燃剤含有組成物にはさらに浸透剤を含有させることができる。この浸透剤の種類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオール;グリセリンなどのトリオール;炭素数3〜11のアルジトールなどのポリオール;ポリフェノール類;界面張力を低下させる作用を有する界面活性剤等が挙げられる。
【0059】
上記難燃剤含有組成物を紙素材に含浸させる手段としては、特に限定されず、例えば浸漬、スプレー、キスロール、アプリケーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、リバースロールコーター、フローコーター、刷毛による塗布、ディッピング−スクイズ法等が挙げられる。
【0060】
<乾燥工程>
乾燥工程において、上記難燃剤含有組成物を含浸させた紙素材を加熱により乾燥させることで、組成物中の溶媒を揮発させ、かつ、メラミン樹脂を構成するモノマー又はオリゴマーを重合硬化させてメラミン樹脂を形成させる。なお、上記乾燥工程における乾燥の手段としては、特に限定されず、例えばドライヤーを用い、約180℃の温度で乾燥することができる。
【0061】
当該難燃性シート材において、上記紙素材に対するメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の合計含有量の上限としては100質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。また、かかる合計含有量の下限としては、25質量%が好ましく、35質量%がより好ましい。このように、紙素材に対するメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の合計含有量を上記範囲とすることで、当該難燃性シート材は、上述の高い絶縁性、難燃性、機械的強度及び寸法安定性を効果的かつバランス良く発揮することができる。なお、この合計含有量が上記上限を超えると、当該難燃性シート材の寸法安定性が低下する可能性がある。また、この合計含有量が上記下限未満であると、天然繊維を構成するセルロースの燃焼を抑制することが困難となり、当該難燃性シート材の難燃性及び絶縁性が低下するおそれがある。なお、この合計含有量(質量%)は、組成物含浸前の紙素材の質量をX0とし、上記難燃性組成物を含浸かつ乾燥後の難燃性シート材の質量をX1とすると、下記数式(1)で算出される値である。
X=[(X1−X0)/X0]*100 ・・・(1)
【0062】
このように、当該難燃性シート材の紙素材の主原料として天然繊維を用いると共に副原料として熱可塑性合成繊維及び非熱可塑性化学繊維を用い、さらに上記メラミン樹脂及びポリホウ酸塩を紙素材に対して上記合計含有量で含浸させることにより、当該難燃性シート材は、上述の軽量性及び柔軟性を有しつつ、高い機械的強度、寸法安定性に加え、難燃剤の紙素材に対する良好な浸透性に基づく難燃性及び絶縁性を相乗効果的に向上することができる。
【0063】
なお、本発明の難燃性シート材は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の難燃性シート材は、紙素材における天然繊維の種類や含有量等を調整することにより、絶縁紙として好適に使用される。かかる絶縁紙は、例えば電気機器の絶縁シートとして用いることで、従来の電気機器の絶縁シートが有する難燃性、絶縁性、機械的強度に加えて、吸湿時における良好な寸法安定性をも発揮することができる。その結果、かかる絶縁紙は、特に高温高湿下における反り、歪み、波打ち等の変形を確実に防止又は低減することができる。
【0064】
また、本発明の難燃性シート材は、製造方法において、難燃剤含有組成物の含浸後の紙素材を乾燥した後、さらに加熱プレスを行うことができる。このように、含浸後の紙素材を乾燥した後、さらに加熱プレスを行うことにより、紙素材中のメラミン樹脂が完全に硬化し、本発明の難燃性シート材の機械的強度及び寸法安定性をより一層向上させることができる。
【0065】
さらに、本発明の難燃性シート材における紙素材は、単層でも可能であり、多層抄き等により多層構造とすることもできる。このように、本発明の難燃性シート材における紙素材を多層構造とすることで、本発明の難燃性シート材の機械的強度及び寸法安定性をより一層向上させることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0067】
[実施例1〜22]
(紙素材の製造)
紙素材を構成する繊維素材として、天然繊維である針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、熱可塑性合成繊維であるポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(ユニチカ社の「4080」)、非熱可塑性化学繊維であるビニロン(クラレ社の「VPB303」)を表1に示す含有量により調整し、原料スラリーを得た。なお、かかる原料スラリーには、任意成分として、繊維素材に対し、それぞれ固形分換算で、硫酸バンド(1.5質量%)、湿潤紙力剤(星光PMC社の「WS−4024」、0.4質量%)、ポリエチレンオキサイド(明星化学工業社の「A−ASR」、0.5質量%)を別途含有した。
【0068】
次いで、上記原料スラリーをワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダーパートを経て抄紙し、紙素材を得た。このドライヤーパートにおける乾燥温度は、110℃に調整した。なお、ワイヤーパートではギャップフォーマを、プレスパートではオープンドローのないストレートスルー型を、ドライヤーパートではシングルデッキドライヤーを用いて抄紙した。カレンダーパートでは、マルチニップカレンダーを用いて平坦化処理を行った。
【0069】
(難燃剤含有組成物の調整)
メチル化メラミン初期縮合物(日本カーバイド工業社の「HW−30HM」)をポリホウ酸ナトリウム水溶液(トラストライフ社の「ファイアレスB」)に混合及び溶解することで難燃剤含有組成物を得た。この難燃剤含有組成物において、ポリホウ酸ナトリウムのメラミン樹脂に対する質量比が表1に示す値となるよう調整した。
【0070】
(難燃性シート材の製造)
上記難燃剤含有組成物を紙素材に含浸させ、次いで常圧下及び180℃の乾燥機中で乾燥させることで難燃性シート材を得た。この際、難燃剤の合計含有量が表1に示す値となるよう難燃剤含有組成物の含浸量を調整した。なお、この難燃剤含有組成物の含浸は、ディッピング−スクイズ法により行った。
【0071】
[実施例23]
天然繊維を竹とした以外は、実施例1〜22と同様である。
【0072】
[実施例24]
天然繊維をマニラ麻とした以外は、実施例1〜22と同様である。
【0073】
[実施例25]
熱可塑性合成繊維をポリエステル(ユニチカ社の「キャスベン」)とした以外は、実施例1〜22と同様である。
【0074】
[実施例26]
熱可塑性合成繊維をアクリル(東洋紡社の「ビィパル」)とした以外は、実施例1〜22と同様である。
【0075】
[比較例1]
紙素材に対して天然繊維を含有させなかった以外は、実施例1〜22と同様である。
【0076】
[比較例2〜3]
ポリホウ酸ナトリウムのメラミン樹脂に対する質量比を表1に示す通り調整した以外は実施例1〜22と同様である。
【0077】
[比較例4]
難燃剤含有組成物の調製において、メチル化メラミン初期縮合物(日本カーバイド工業社の「HW−30HM」)をホウ酸ナトリウム(三栄化工社の「四ホウ素酸ナトリウム・十水和物」)水溶液に混合及び溶解させ、ホウ酸ナトリウムのメラミン樹脂に対する質量比を表1に示す値となるよう調整した以外は、実施例1〜22と同様である。
【0078】
[比較例5]
バルカナイズドファイバーを原料とするシート材(東洋ファイバー社の「NF−77」)を用意した。なお、かかる比較例5については、メラミン樹脂及びポリホウ酸ナトリウムを含有させなかった。
【0079】
(難燃性の測定)
難燃性は、UL94V垂直燃焼試験(IEC60695−11−10B法)に準拠して測定し、以下の評価項目に基づき評価した。かかる結果を表1に示した。
○:V−0相当の基準を満たし、難燃性が認められる。
△:V−1相当の基準を満たし、難燃性がやや認められる。
×:V−0相当及びV−1相当の基準を満たさず、難燃性が認められない。
【0080】
(絶縁性の測定)
上述の通り、JIS−K6911−1995(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠し、二重リング測定法により体積抵抗値を測定した。かかる結果を表1に示した。
【0081】
(吸水長さ変化率の測定)
上述の通り、JIS−A5905−6−9−2003(吸水長さ変化率試験)に準拠して測定した。かかる結果を表1に示した。
【0082】
【表1】

【0083】
(評価)
表1に示す通り、実施例1〜26は良好な難燃性及び絶縁性を発揮しつつ、特に比較例5と比較して、高い寸法安定性を示すことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明の難燃性シート材は、例えば、電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するための絶縁紙として好適に使用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料として天然繊維を含有する紙素材を備える難燃性シート材であって、
この紙素材にメラミン樹脂及びポリホウ酸塩を含有することを特徴とする難燃性シート材。
【請求項2】
上記メラミン樹脂が、それを構成するモノマー又はオリゴマーを含有する組成物を含浸後硬化させることで形成される請求項1に記載の難燃性シート材。
【請求項3】
上記ポリホウ酸塩のメラミン樹脂に対する質量比が3/97以上20/80以下である請求項1又は請求項2に記載の難燃性シート材。
【請求項4】
上記紙素材に対するメラミン樹脂及びポリホウ酸塩の合計含有量が25質量%以上100質量%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の難燃性シート材。
【請求項5】
上記紙素材が、副原料として熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維を含有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の難燃性シート材。
【請求項6】
絶縁紙として用いられる請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の難燃性シート材。


【公開番号】特開2011−214200(P2011−214200A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84567(P2010−84567)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】