説明

難燃性セルロース繊維生地及びその製造方法

【課題】良好な風合いを有しつつ耐洗濯性が高い難燃性セルロース繊維生地及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の難燃性セルロース繊維生地は、電子線加工により難燃加工した難燃性セルロース繊維生地であって、前記難燃性セルロース繊維生地において、セルロース繊維1にはリン酸エステル2が0.1重量%以上、かつビニルホスフェート化合物3が1重量%以上共有結合されており、さらにポリアミン4が架橋剤によりセルロース繊維表面に固着されており、前記難燃性セルロース繊維生地は50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線加工を用いた難燃性セルロース繊維生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品が火災に接したとき、着火するかどうか、また火がつくのが速いか遅いかなどは、火災時の危険性に大きく影響する。とくに木綿は着炎時間1.67秒、燃焼速度140.0cm/分、酸素指数(OI)18.0であり(非特許文献1)、一度着火すると空気中で容易に燃焼を続けることから、難燃性が必要である。
【0003】
従来、木綿に代表されるセルロース繊維の防炎加工方法としては、プロバン加工(オルトブライト&ウイルソン社が開発したテトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩を用いたアンモニアキュアリング法)、チバ・ガイギー社が開発したピロパテックスCP加工(N-メチロールジメチルホスノプロピオンアミド加工)が有名である。
【0004】
また、難燃加工方法としては、繊維素材に難燃剤を付与する前及び/又は後に放射線を照射する方法が報告されている(特許文献1〜4)。難燃剤としては、ビニルホスホネートオリゴマー、ビニルホスホネート、ホスファイト化合物などが使用される。本発明者らは特許文献5において、予め繊維素材に対して放射線を照射した後、ラジカル重合性を有する難燃剤及び放射線架橋可能な水溶性高分子を含有する難燃加工剤を水溶液形態で付与する提案をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−20268号公報
【特許文献2】特開平5−163673号公報
【特許文献3】特開2001−254272号公報
【特許文献4】特開2006−183166号公報
【特許文献5】特開2009−30188号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】繊維学会編「第2版繊維便覧」、丸善、平成6年3月25日、634〜636頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記従来技術の難燃加工では、難燃性生地の風合いと耐洗濯性の両立が不十分であった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、良好な風合いを有しつつ耐洗濯性が高い難燃性セルロース繊維生地及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の難燃性セルロース繊維生地は、電子線加工により難燃加工した難燃性セルロース繊維生地であって、前記難燃性セルロース繊維生地において、セルロース繊維にはリン酸エステルが0.1重量%以上、かつビニルホスフェート化合物が1重量%以上共有結合されており、さらにポリアミンが架橋剤によりセルロース繊維表面に固着されており、前記難燃性セルロース繊維生地は50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の難燃性セルロース繊維生地の製造方法は、電子線加工により難燃加工した難燃性セルロース繊維生地の製造方法であって、下記A〜D工程を含み、A)セルロース繊維生地にリン酸と尿素を含む水溶液を接触させ、セルロース繊維にリン酸エステルを共有結合させる工程;B)セルロース繊維生地に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させる、及び/又は、セルロース繊維生地にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をすることにより、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース繊維に共有結合させる工程;C)前記A工程とB工程後のセルロース繊維にポリアミンを反応させる工程;及びD)架橋剤を反応させる工程を含み、本発明の難燃性セルロース繊維生地を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、セルロース繊維にリン酸エステルが0.1重量%以上、かつビニルホスフェート化合物が1重量%以上共有結合したことにより、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性を有し、耐洗濯性の高く、かつ風合いに優れる難燃性セルロース繊維生地を提供できる。すなわち、リン酸エステルもビニルホスフェート化合物もそれ自体は難燃性に効果があるが、両者を組み合わせ、さらにポリアミンを反応させて架橋剤を反応させることにより、耐洗濯性が相乗的に向上する。また本発明の製造方法は、前記A〜D工程を含むことにより、効率よく合理的に耐洗濯性の高く、かつ風合いに優れる難燃性セルロース繊維生地を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施例における難燃性セルロース繊維の模式的説明図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例における難燃性セルロース繊維生地の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、セルロース繊維は、木綿、麻(亜麻、ラミー、ジュート、ケナフ、大麻、マニラ麻、サイザル麻、ニージーランド麻を含む)、カポック、バナナ、ヤシなどの天然繊維のほか、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどの再生繊維も含む。また、本発明において、生地は、いかなる組織の織物又は編物であってもよい。
【0014】
本発明の難燃性セルロース繊維生地において、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性に優れるすなわち耐洗濯性の高いという観点から、セルロース繊維に共有結合されている、リン酸エステルは2〜8重量%であることが好ましく、5〜8重量%であることがより好ましく、ビニルホスフェート化合物は1〜15重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明の難燃性セルロース繊維生地において、防炎性及び風合いの観点から、ポリアミンの固着量は、セルロース繊維に対して、5〜20重量%であることが好ましく、架橋剤の固着量は、0.5〜1.5重量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の難燃性セルロース繊維生地は、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性すなわち防炎性を有しており、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において、タテ及びヨコいずれの方向においても30mm以下の炭化長を有することが好ましい。
【0017】
以下、本発明の難燃性セルロース繊維生地の製造方法について説明する。なお、本発明の難燃性セルロース繊維生地の製造方法において、A工程とB工程の順番は問わず、また、A工程とB工程とは同浴で実施してもよい。本発明において、A工程とB工程とを同浴で実施するとは、セルロース繊維生地にリン酸、尿素及びビニルホスフェート化合物を含む水溶液を接触させ、パディング処理と電子線照射処理とを順番を問わずに実施し、その後熱処理によりリン酸エステル化を行うことをいう。
【0018】
(1)A工程について
A工程においては、セルロース繊維生地にリン酸と尿素を含む水溶液を接触させ、例えばリン酸と尿素を含む水溶液(以下、単にリン酸処理液とも記す。)にセルロース繊維生地をパディングし、セルロース繊維にリン酸エステルを共有結合させる。リン酸処理液は、例えばリン酸処理液を100重量%としたとき、85重量%リン酸を10重量%、尿素を30重量%、残りは水とする。このときpHは2.1程度である。別の例のリン酸処理液としては、例えばリン酸処理液を100重量%としたとき、85重量%リン酸を10重量%、尿素を30重量%、28重量%アンモニア水を8重量%、残りは水とする。このときpHは6.5程度である。アンモニア水はpH調整に使用する。任意の量を使用してpH調整できる。処理条件は、温度100〜180℃で、処理時間0.5〜5分が好ましい。この処理により、セルロース繊維にリン酸エステルを0.1重量%以上、好ましくは2〜8重量%、特に好ましくは5〜8重量%共有結合できる。
【0019】
セルロース分子は下記一般式(化1)で示され(但し、nは1以上の整数)、反応性に富む水酸基をグルコース残基のC−2、C−3、C−6の位置に持ち、この部分にリン酸がエステル結合する。例えばグルコース残基のC−2の位置にリン酸がエステル結合した例を下記(化2)に示す。下記(化2)において、「Cell」はセルロースを示し、リン酸がエステル結合している−CH2−基はセルロース鎖内の炭化水素基である。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
(2)B工程について
B工程においては、セルロース繊維生地に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させるか、又はセルロース繊維生地にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をするか、又はセルロース繊維生地に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させ再度電子線照射をする。本発明において、B工程は「EB」又は「EB加工」ともいう。EB加工はリン酸エステル系モノマーをグラフトさせることを目的に行う。言い換えると、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース繊維に共有結合させる。ビニルホスフェート化合物は、電子線照射によりセルロース繊維にラジカル重合する。ビニルホスフェート化合物としては、リン原子を含有し、かつラジカル重合性基を含有する構造を有するものであればよく、不飽和有機リン酸エステル、メタクリル酸エステルなどが挙げられ、例えば、下記一般式(1)で表されるビニルホスフェート化合物(以下、ビニルホスフェート化合物(1)と記す。)が好ましく使用される。
【0023】
【化3】

【0024】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、好ましくはR1はメチル基であり、R2は水素原子である。R3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を表し、好ましくは水素原子である。nは1又は2である。mは1〜6の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは1である。
【0025】
一般式(1)のビニルホスフェート化合物の好ましい具体例として、例えば、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートなどが挙げられる。これらのビニルホスフェート化合物は市販品として入手可能である。例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートはシグマアルドリッチジャパン(株)、共栄社化学(株)より入手可能である。また例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートとの混合物は「ALBRITECTTM6835」(ローディア日華(株)製)として入手可能である。また例えば、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「ホスマーM」(ユニケミカル(株)製)として入手可能である。また例えば、ポリアルキレングリコール(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「SIPOMER PAM−100」(ローディア日華(株)製)として入手可能である。また例えば、ポリエチレングリコール(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートは「ホスマーPE」(ユニケミカル(株)社製)として入手可能である。
【0026】
電子線を照射する場合、通常は1〜200kGy、好ましくは5〜100kGy、より好ましくは10〜50kGyの照射量が達成されればよい。雰囲気条件は、窒素雰囲気下で照射を行うことが好ましく、また透過力があるため、繊維生地の片面に照射するだけでもよい。電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エリアビーム型電子線照射装置としてEC250/15/180L(岩崎電気(株)社製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用される。
【0027】
電子線を照射した後は通常、水洗により未反応成分を除去し、乾燥が行われる。乾燥は例えば、繊維生地を20〜85℃で0.5〜24時間保持することによって達成される。
【0028】
本発明においては、予め繊維生地に対して放射線を照射した後、上記のようにビニルホスフェート化合物を付与することが好ましく、さらにビニルホスフェート化合物を付与後に再度放射線を照射することが特に好ましい。これによって、ビニルホスフェート化合物の繊維素材への化学的結合が促進され、難燃性がより有効に発現する。上記したビニルホスフェート化合物及び難燃加工方法を用いて処理された繊維生地は、付与されたビニルホスフェート化合物を効率よく繊維表面に有している。上記したビニルホスフェート化合物及び難燃加工方法を用いて処理された繊維生地がビニルホスフェート化合物を有することは、蛍光X線分析法を採用する装置、例えば走査型蛍光X線分析装置ZSX 100e((株)リガク製)によって、ビニルホスフェート化合物に含有される特定元素の存在を確認することによって検知できる。例えば、ビニルホスフェート化合物(1)及び添加型リン化合物などの特定元素はリンである。
【0029】
前記した処理により、例えばセルロース繊維に対してラジカル重合性難燃剤としてのモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートが共有結合する場合の結合形態を下記一般式(A)及び(B)に例示する。一般式(A)及び(B)において、nは1以上の整数であり、「Cell」はセルロースを示す。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
B工程において、ビニルホスフェート化合物の水溶液にセルロース繊維生地をパディングすることが好ましい。ビニルホスフェート化合物の水溶液におけるビニルホスフェート化合物の含有量は、防炎性及び風合いという観点から5〜50重量%であることが好ましく、10〜35重量%であることがより好ましい。また、ビニルホスフェート化合物の水溶液は、特に限定されないが、生地の強力の維持という観点から、pHが3.5〜7.0であることが好ましく、5.0〜6.0であることがより好ましい。なお、pHは、アンモニア水で調整することができる。
【0033】
(3)C工程について
C工程は、前記A工程とB工程後のセルロース繊維にポリアミンを反応させる。ポリアミン処理はポリアミンによるリン酸基の保護の目的で行う。ポリアミンとしては、例えば、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ジシアンジアミド−アルキレン(ポリアミン)縮合物などのアミノ基含有ポリマーなどが挙げられる。ポリアミン処理は、0.5〜20重量%のポリアミンの水溶液を用いて行うことが好ましい。ポリアリルアミンとしては、例えば、日東紡社製商品名「PAA−03」を用いることができる。ポリアミン処理は、繊維生地をポリアミンの水溶液で接触処理した、例えばポリアミンの水溶液に繊維生地をパディングした後、洗浄、乾燥することにより行うのが好ましい。
【0034】
(4)D工程について
D工程は、架橋剤を反応させる。架橋剤処理はポリアミンの固着の目的で行う。架橋剤としては、多官能エポキシ基含有化合物、グリオキザール樹脂などが挙げられ、具体的にはポリグリセロールポリグリシジルエーテルなどがあり、例えば、ナガセケムテックス社製のデナコールシリーズとして入手可能である。例えば、「デナコールEX−851」、「EX−313」、「EX−314」、「EX−421」、「EX−521」、「EX−612」などが挙げられる。架橋剤処理は、0.5〜10重量%の架橋剤の水溶液で行うことが好ましい。架橋剤処理はパディング、乾燥、キュアリング、洗浄、乾燥することにより行うのが好ましい。
【0035】
本発明で得られる難燃性セルロース繊維生地は、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性を有する。この難燃性(防炎性)は財団法人日本防炎協会認定基準(衣服類)にしたがって測定する。好ましくは、30mm以下の炭化長を有する。図2は、本発明の一実施例におけるセルロース繊維生地の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験を示す説明図である。難燃性セルロース繊維生地6を上から垂らし、下からバーナー7の火炎8を当てて測定する。
【0036】
本発明で得られる難燃性セルロース繊維生地は、セルロース繊維にリン酸エステルが及びビニルホスフェート化合物が共有結合されている。リン酸エステルの共有結合量(重量%)すなわちエステル化率(owf%)及びビニルホスフェート化合物の共有結合量(重量%)すなわちグラフト率(owf%)は、下記式によって、算出できる。
【0037】
エステル化率(owf%)=[(エステル化後の生地重量−エステル化前の生地重量)/(エステル化前の生地重量)]×100
【0038】
グラフト率(owf%)=[(EB加工後の生地重量−EB加工前の生地重量)/(EB加工前の生地重量)]×100
但し、EB加工とは、電子線照射をしてビニルホスフェート化合物をセルロース繊維に共有結合させる加工のことである。
【0039】
本発明で得られる難燃性セルロース繊維生地は、ポリアミンが架橋剤によりセルロース繊維表面に固着されている。ポリアミン及び架橋剤の固着量は、下記の式により算出できる。
【0040】
ポリアミンの固着量(owf%)=[(ポリアミン処理後の生地重量−ポリアミン処理前の生地重量)/(ポリアミン処理前の生地重量)]×100
【0041】
架橋剤の固着量(owf%)=[(架橋剤処理後の生地重量−架橋剤処理前の生地重量)/(架橋剤処理前の生地重量)]×100
【0042】
図1は本発明の一実施例における難燃性セルロース繊維の模式的説明図である。この難燃性セルロース繊維5は、セルロース繊維1にリン酸基(リン酸エステル基)2が共有結合され、ビニルホスフェート化合物3がグラフト結合され、ポリアミン4が架橋剤により繊維表面に固着されている。
【実施例】
【0043】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1〜12、比較例1〜4)
Iセルロース繊維生地として、木綿100%の織物生地(目付け240g/m2)を用いた。
【0045】
II 使用薬剤
1 リン酸エステル化に使用した薬剤(以下において、単にエステル化薬剤とも記す。)
(1)85重量%リン酸(ナカライテスク社製)を10重量%水溶液に調整して使用した。
(2)尿素(ナカライテスク社製)を使用し、30重量%水溶液として使用した。
(3)pH6.5に調整する例について、28重量%アンモニア水(ナカライテスク社製)を8重量%になるように加えた。
2 電子線照射処理(EB)に使用した薬剤(以下において、単にEB薬剤とも記す。)
(1)モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート:共栄社化学社製商品名「ライトエステルP−1M」(「P1M」と略す)を表1に示す量で使用した。
(2)28重量%アンモニア水(ナカライテスク社製)を使用し、表1に示す量で使用し、pHを5.5に調整した。
3 後処理に使用した薬剤
(1)ポリアミン処理
ポリアリルアミン(日東紡社製商品名「PAA−03」、分子量3000)を10重量%の水溶液に調整して使用した。
(2)架橋剤処理
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテック製商品名「EX−313」)を3重量%の水溶液に調整して使用した。
【0046】
III 処理工程
全体の工程は、(1)リン処理工程、(2)ポリアミン処理工程、(3)架橋剤処理工程の順番で処理した。
1 リン処理工程
(1)電子線照射
生地の一方の面に対して、エリアビーム型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気(株)製)により窒素雰囲気下で電子線を40kGy照射した。
(2)処理工程の内容
EB→エステル:電子線照射加工後にリン酸エステル化をした(実施例1〜6)。
エステル→EB:リン酸エステル化の後に電子線照射(EB)加工をした(実施例7〜12)。
EB:電子線照射加工のみ(比較例1〜2)。
エステル:リン酸エステル化のみ(比較例3〜4)。
EB加工:「前照射」は、電子線照射した後、薬剤を含む水溶液に木綿織物をパディングし、35℃で12時間エージングし、洗浄し、150℃で90秒間乾燥した。「前+前」は、前照射を2回繰り返した(比較例2)。
リン酸エステル化:pH調整なし(pH2.1)とアンモニアでpH6.5に調整した2種類のエステル化薬剤で試験した。リン酸処理液に木綿織物をパディングし、150℃で90秒間乾燥し、165℃で105秒間キュアリングし、洗浄、乾燥した。
2 ポリアミン処理工程
100℃、1時間、浴比14:1の条件で接触処理し、洗浄、乾燥した。
3 架橋剤処理工程
架橋剤を含む水溶液に木綿織物をパディングし、150℃で90秒間乾燥し、165℃で105秒間キュアリングし、洗浄、乾燥した。
【0047】
(比較例5)
木綿100%の織物生地(目付け240g/m2)にプロパン加工を施した市販品(トータル目付け308g/m2)を用いた。
【0048】
実施例及び比較例について、以下のような評価方法で評価を行い、その結果を下記表1に示した。
【0049】
<評価方法>
1 リン処理工程における、リン酸エステルの共有結合量(重量%)すなわちエステル化率(owf%)及びビニルホスフェート化合物の共有結合量(重量%)すなわちグラフト率(owf%)は、下記の計算式によって算出した。
エステル化率(owf%)=[(エステル化後の生地重量−エステル化前の生地重量)/(エステル化前の生地重量)]×100
グラフト率(owf%)=[(EB加工後の生地重量−EB加工前の生地重量)/(EB加工前の生地重量)]×100
2 ポリアミン処理工程における、ポリアミンの固着量(owf%)を下記の計算式によって算出した。
ポリアミンの固着量(owf%)=[(ポリアミン処理後の生地重量−ポリアミン処理前の生地重量)/(ポリアミン処理前の生地重量)]×100
3 架橋剤処理工程、架橋剤の固着量(owf%)を下記の計算式によって算出した。
架橋剤の固着量(owf%)=[(架橋剤処理後の生地重量−架橋剤処理前の生地重量)/(架橋剤処理前の生地重量)]×100
4 防炎性(難燃性)
処理された生地の難燃性について、洗濯前と50回洗濯後(以下において、単に50W後とも記す。)で評価した。洗濯は財団法人日本防炎協会認定基準に準じて実施した。難燃性評価では、財団法人日本防炎協会認定の衣服類の防炎製品における燃焼性試験方法(通称、鉛直メタンバーナー法、接炎時間3秒)に準じた試験方法により炭化長を測定した(図2)。この測定方法では炭化基準は178mm以下で合格である。測定の結果を表1にまとめた。同じ洗濯回数のときの炭化長を比較するとき、炭化長が短いほど、難燃性が高いことを示す。
5 風合い
風合いを以下の5段階に評価した。
1 非常に硬い
2 やや硬い
3 良好
4 やや柔らかい
5 柔らかい
【0050】
【表1】

【0051】
表1から本発明の実施例品は、比較例品に比較して、優れる風合いを有しつつ、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性を有し、炭化長も短く、耐洗濯性の高いセルロース繊維生地であることが確認できた。これはリン酸エステルとビニルホスフェート化合物とを組み合わせ、さらにポリアミンを反応させて架橋剤を反応させることにより、耐洗濯性が相乗的に向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0052】
1 セルロース繊維
2 リン酸基(リン酸エステル基)
3 ビニルホスフェート化合物
4 ポリアミン
5 難燃性セルロース繊維
6 難燃性セルロース繊維生地
7 バーナー
8 火炎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線加工により難燃加工した難燃性セルロース繊維生地であって、
前記難燃性セルロース繊維生地において、セルロース繊維にはリン酸エステルが0.1重量%以上、かつビニルホスフェート化合物が1重量%以上共有結合されており、さらにポリアミンが架橋剤によりセルロース繊維表面に固着されており、
前記難燃性セルロース繊維生地は、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において自己消火性を有することを特徴とする難燃性セルロース繊維生地。
【請求項2】
前記自己消化性は、50回洗濯後の鉛直メタンバーナー法による燃焼性試験において、30mm以下の炭化長を有することである請求項1に記載の難燃性セルロース繊維生地。
【請求項3】
電子線加工により難燃加工した難燃性セルロース繊維生地の製造方法であって、
下記A〜D工程を含み、
A)セルロース繊維生地にリン酸と尿素を含む水溶液を接触させ、セルロース繊維にリン酸エステルを共有結合させる工程;
B)セルロース繊維生地に電子線照射をした後にビニルホスフェート化合物を接触させる、及び/又は、セルロース繊維生地にビニルホスフェート化合物を接触させた状態で電子線照射をすることにより、前記ビニルホスフェート化合物をセルロース繊維に共有結合させる工程;
C)前記A工程とB工程後のセルロース繊維にポリアミンを反応させる工程;及び
D)架橋剤を反応させる工程を含み、
請求項1又は2に記載の難燃性セルロース繊維生地を得ることを特徴とする難燃性セルロース繊維生地の製造方法。
【請求項4】
前記A工程において、リン酸と尿素を含む水溶液にさらにアンモニア水を加えてpHを調整する請求項3に記載の難燃性セルロース繊維生地の製造方法。
【請求項5】
前記B工程で使用するビニルホスフェート化合物が、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートである請求項3又は4に記載の難燃性セルロース繊維生地の製造方法。
【請求項6】
前記C工程で使用するポリアミンがポリアリルアミンである請求項3〜5のいずれか1項に記載の難燃性セルロース繊維生地の製造方法。
【請求項7】
前記D工程で使用する架橋剤がポリグリセロールポリグリシジルエーテルである請求項3〜6のいずれか1項に記載の難燃性セルロース繊維生地の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12734(P2012−12734A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151116(P2010−151116)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】