説明

難燃性フィルムおよびフレキシブルディスプレイ

【課題】高熱伝導率性、高ガスバリア性、機械強度、難燃性に優れた難燃性フィルム及びそれを使用したフレキシブルディスプレイを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂100質量部に対し、熱伝導率が1.5W/m・K以上、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上でかつアスペクト比が10〜5000である無機水酸化物を50〜200質量部含有する熱可塑性樹脂組成物AからなるA1層とA2層とが両表面に配置され、A1層とA2層との間に熱可塑性樹脂100質量部に対し、無機水酸化物を0〜5質量部含有する熱可塑性樹脂組成物BからなるB層が配置された3層からなる難燃性フィルムであって、A1層とA2層との厚みの合計が、難燃性フィルムの総厚みの5〜70%であり、かつA1層とA2層のそれぞれの厚みが、0.05μm〜10μmである難燃性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高熱伝導率性、高ガスバリア性、機械強度、難燃性に優れた難燃性フィルム及びそれを使用したフレキシブルディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるエレクトロニクス技術の発達によって電気電子機器の高性能化、多機能化、小型化、軽量化が進むことにともない、それらの材料も金属材料からプラスチック材料への転換が進んでいる。プラスチック材料のなかでも、軽量でありフレキシブル性能をもつプラスチックフィルムへの転換が顕著に進んでいる。
【0003】
同時に電気電子機器用の部品、例えば発光体、半導体、抵抗体、コンデンサなどの発熱部品も高性能化、小型化が進み、それら部品の使用電力と発生される発熱量も増加の一途であるため、それら部品が接続されている電子基板の放熱対策と電気絶縁対策が問題となっている。
【0004】
放熱対策に関して、従来は、発熱部品の電気電子機器内での適正配置で対応するか、それだけで対応しきれないときは小型ファンモータ等の放熱器を利用することが一般的であった。しかしながら、ノート型パソコン、携帯電話機など、薄型軽量化(小型化)が特に追求されるような電気電子機器では、熱設計は難しくなるばかりで上記対策のみでは放熱しきれなくなってきている。そこで、発熱部品が接続されている電子基板に放熱性の高い金属放熱板を背面に密着されることが一般的に行われている。
【0005】
電子基板用プラスチックフィルムにも電気電子機器内部の発熱に対する耐熱性とともに、優れた放熱性(熱伝導率性)を求められているが、プラスチックフィルムは一般的に熱伝導率の低い材料であるため、そのフィルムに金属や熱伝導性の良好な無機充填材を添加して高熱伝導率とする方法が種々検討されている(特許文献1〜3)。
【0006】
しかし、この対策では添加した無機充填材のために、電気絶縁性が添加する前より低下してしまうため金属放熱板やその他電気電子部品などとの電気絶縁性が維持できなくなる問題がある。
【0007】
一方、発熱部品の基板には、発熱部品が発火したとしても、燃焼が広がらないような難燃性も求められている。プラスチックフィルムの中には熱によって軟化あるいは溶融し、かつ燃焼しやすいものがある。それらの特徴のあるプラスチックフィルムには難燃性を向上させるために、臭素系やリン系などの難燃材を練り込む方法などが提案されている(特許文献4)。
【0008】
しかし、この方法では繰り返し炎にさらされた場合には燃焼が拡大するなどの問題があり難燃性能が不十分であったことと、混入させている難燃材が燃焼条件によってはダイオキシン等を発生させることが懸念されている。
【0009】
また、近年、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、フィールドエミッション、電気泳動等を利用した薄型ディスプレイが注目されている。その中でも、ディスプレイ自体が折り曲げ可能であるディスプレイはフレキシブルディスプレイと呼ばれている。フレキシブルディスプレイは、曲面追従性を有するために新しい広告媒体、携帯機器、照明器具等への応用が期待されている。
フレキシブルディスプレイの実現に大きな障害となっているのは封止技術である。フレキシブルディスプレイには基板として、従来のガラス基板ではなく折り曲げ可能なプラスチックフィルムが使用される。しかし、プラスチックフィルムには、ガラス基板と比較すると、酸素や水蒸気等の気体を透過させ、液晶等の電子デバイスの劣化を招く問題があった。食品用途等に要求されるガスバリア性と比較すると、これらの表示装置に要求されるガスバリア性は非常に高く、通常、このような電子デバイスの封止では、電子デバイス上に直接、バリア層と表面保護等の機能を有するポリマー層を設ける方法が主流であった(特許文献5)。
しかし、この方法では、積層の際に熱がかかるため、電子デバイス部を傷める可能性があり、製品歩留まりが低下する問題があった。また、目的とするガスバリア性を発現するためには少なくとも5回以上の積層を繰り返す必要があり、製造プロセス的にも複雑であった。プラスチックフィルムに目的とするガスバリア性能を付与することができれば、電子デバイスの封止工程においてロールトゥロールによる連続封止も実現可能になり、生産性の向上が期待できる。
プラスチックフィルムに高度なガスバリア性を発現させる技術の一つに、アスペクト比の高い無機粒子を用いるものがある。アスペクト比の高い粒子とは縦横方向の長さに比較して厚みが小さい粒子のことを表し、主に地球上に広く分布する粘土由来の物質はこれに該当する。無機粒子の中でも無機水酸化物は、優れた耐熱性、ガスバリア性、難燃性を有し、天然に広く産出される材料に由来している。無機水酸化物自体には気体透過能が全くなく、これまでもプラスチックフィルム等に混合/分散することでガスバリア性が改善されることが報告されている(特許文献6)。そのガスバリアメカニズムは、平面的には水蒸気の透過面積が小さくなること、また厚み方向では無機水酸化物が層表面に対して平行に配列して積層するため、気体はこの無機水酸化物を迂回しながら透過することから、水蒸気の透過距離が長くなり、結果として大幅にガスバリア性能が向上するものである。この効果は曲路効果と呼ばれる。
プラスチックフィルム中の無機水酸化物の比率を増加していくと、ガスバリア性は向上し電子デバイスの封止にも使用可能なレベルに達するものの、上述のように添加した無機充填材のために、電気絶縁性が添加する前より低下してしまうため金属放熱板やその他電気電子部品などとの電気絶縁性は両立し難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−57005号公報
【特許文献2】特開2008−169265号公報
【特許文献3】特開2007−23182号公報
【特許文献4】特開平10−278206号公報
【特許文献5】特表2003−532260号公報
【特許文献6】特開昭61−179716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、このような従来技術の問題を踏まえ、高熱伝導率性、高ガスバリア性、機械強度、難燃性に優れた難燃性フィルム及びそれを使用したフレキシブルディスプレイを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の難燃性フィルムは以下の構成を有する。すなわち、
熱可塑性樹脂100質量部に対し、
熱伝導率が1.5W/m・K以上、
体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上でかつ
アスペクト比が10〜5000である
無機水酸化物を50〜200質量部含有する熱可塑性樹脂組成物Aからなる、
A1層とA2層とが両表面に配置され、
A1層とA2層との間に
熱可塑性樹脂100質量部に対し、
無機水酸化物を0〜5質量部含有する、
熱可塑性樹脂組成物BからなるB層が配置された
3層からなる難燃性フィルムであって、
A1層とA2層との厚みの合計が、難燃性フィルムの総厚みの 5〜70%であり、かつ
A1層とA2層のそれぞれの厚みが、0.05μm〜10μmである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃性フィルムは、高熱伝導率性、高ガスバリア性、高電気絶縁性、難燃性に優れたフィルムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の難燃性フィルムは、熱可塑性樹脂100質量部に対し、熱伝導率が1.5W/m・K以上、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上で、かつ、アスペクト比が10〜5000である無機水酸化物を50〜200質量部含有する熱可塑性樹脂組成物AからなるA1層とA2層とが両表面に配置され、A1層とA2層との間に、熱可塑性樹脂100質量部に対し無機水酸化物を0〜5質量部含有する熱可塑性樹脂組成物BからなるB層が配置された3層からなる難燃性フィルムであって、A1層とA2層との厚みの合計が、難燃性フィルムの総厚みの 5〜70%であり、かつ、A1層とA2層のそれぞれの厚みが、0.05μm〜10μmである。
【0015】
本発明において前記熱可塑性樹脂組成物AからなるA1層とA2層とは熱可塑性樹脂組成物BからなるB層の両面に積層されている。ここでA1層とA2層とを形成する樹脂組成物Aは、A1層とA2層とで共通の組成でも良いし、上記範囲内で異なる組成を採用しても良い。なお、異なる組成を採る場合、それぞれを区別する場合は、樹脂組成物A1、樹脂組成物A2と記し、樹脂組成物A1と樹脂組成物A2とを総称する場合は樹脂組成物Aと記すものとする。上記組成範囲の熱可塑性樹脂組成物AをB層の両面に積層することにより、難燃性が発現できる。また熱可塑性樹脂組成物Aのみで難燃性フィルムを形成した場合には、含有されている無機水酸化物の影響で難燃性フィルムの電気絶縁性が不十分となり、一方、熱可塑性樹脂組成物Bのみで難燃性フィルムを形成した場合には、難燃性、熱伝導性、ガスバリア性の何れも不十分となる。
【0016】
熱可塑性樹脂組成物Aのみで難燃性フィルムを形成した場合に、難燃性フィルムの電気絶縁性が不十分となるメカニズムについて詳細は不明であるが、以下のように推測している。すなわち、電圧を印加した際に含有された無機水酸化物とその周辺の熱可塑性樹脂との電気抵抗の違いから、無機水酸化物などの電気抵抗の低い物質に電界集中が発生し、絶縁破壊されやすくなると推測している。
【0017】
本発明の構成で難燃性が発現するメカニズムについて詳細は不明であるが、以下のように推測している。すなわち、本発明の難燃性フィルムの両面に配置される熱可塑性樹脂組成物Aには熱可塑性樹脂組成物Bより無機水酸化物が高濃度に含まれるので、本発明の難燃性フィルムが炎にさらされた場合に、無機水酸化物が分解して発生した非可燃性ガスが、熱可塑性樹脂組成物A及びBに含まれる熱可塑性樹脂から発生した可燃性ガスを希釈する効果と、可燃性ガスが抜けた後に残存した熱可塑性樹脂組成物Aの難燃性の炭化層が、熱可塑性樹脂組成物Bの両面から全体を被覆するように融着する効果が組み合わされることにより、高い難燃性が発現するものと推測している。ここでの非可燃性ガスとは、水蒸気である。
【0018】
本発明の構成で熱可塑性樹脂組成物Aにアスペクト比が10〜5000である気体透過性能がない平板粒子を含有させるとガスバリア性を向上させることができる。そのガスバリアメカニズムは平板粒子が表面に積層されることで、難燃フィルムの表面的にガス透過面積が小さくなることと、厚み方向には平板粒子がA1層、A2層に並列に配向して存在するため、気体が熱可塑性樹脂組成物Aの中層を透過使用とする際にはこの平板粒子を迂回しながら透過せざるを得ないことから、透過に際し移動する必要のある距離が長くなり、結果としてガスバリア性が向上するものである。
【0019】
本発明におけるアスペクト比は、N−メチル−2−ピロリドンで1mol/l(リットル)に希釈した無機水酸化物10ml(ミリリットル)を、超音波分散処理を30秒行ったあと、フロー式粒度分布計(例えば、BECKMAN COULTER製、商品名、RapidVUE)を使用し粒子形状の測定から縦横比(アスペクト比)を算出する。本発明における無機水酸化物のアスペクト比は10〜5000であり、50〜5000が好ましく、500〜5000がさらに好ましい。無機水酸化物のアスペクト比が10未満の場合、透過(迂回)距離が短くなるためガスバリア性が低下し、また、熱伝導率も低下する。一方、アスペクト比が大きい方は大きければ好ましいが、5000より大きい無機水酸化物を作成することは技術的に非常に困難であることから、5000を上限としているが、よりアスペクト比が高い無機水酸化物が得られる場合には、好ましく適用できる。
本発明の難燃性フィルムは、高熱伝導率と高ガスバリア性と高電気絶縁性と難燃性を同時に満たすことができる。すなわち、本発明の難燃性フィルムを用いると、熱伝導率が0.3W/m・K以上であり、かつ絶縁破壊電圧が140kV/mm以上であり、かつ酸素透過率が1g/m/日以下であり、かつ難燃性能はUL94のVTM−0またはV−0規格を満たすことができ、高熱伝導率性、高ガスバリア性、高耐電圧性、難燃性に優れた難燃性フィルムを提供することができる。
【0020】
難燃性フィルムの熱伝導率が0.3W/m・K以上であると電気電子機器用の部品に使用した際、放熱が十分にできるため、その他電気電子機器用の部品の故障を低減することができる。同様に、絶縁破壊電圧が140kV/mm以上であると電気電子機器の部品に電圧が印加された際に、難燃性フィルムが導通してしまうということが防止でき、電気電子機器の部品の故障が抑制できる。さらに、酸素透過率が1g/m/日以下であると、外気(得に水蒸気)等に触れることによって性能や耐久性が落ちる電子デバイス部品の封止部材として使用でき、電気電子機器自身の薄型化や軽量化が可能になる。また、難燃性能がUL94のVTM−0またはV−0規格を満たしていると、電気電子機器の部品がなにかしらの原因で発火したとしても、難燃性フィルムに引火し炎上を広げることを防止することができる。
【0021】
本発明において熱可塑性樹脂組成物Aを形成する樹脂成分は、高い耐熱性を有する樹脂が好ましい。例としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾールおよびポリフェニレンオキサイドから選ばれた樹脂成分が好ましい。特に、ポリイミドが、難燃性の点から、最も好ましい。本発明において用いられるポリイミドは特に限定されないが、環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーであることが好ましい。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、ポリイミドの主鎖に環状イミド以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていてもよい。
【0022】
このポリイミドは既知の方法によって製造することができる。例えば、テトラカルボン酸および/またはその酸無水物と、脂肪族一級ジアミンおよび/または芳香族一級ジアミンよりなる群から選ばれる一種もしくは二種以上の化合物とを脱水縮合することにより、ポリアミド酸を得る。次いで、加熱および/または化学閉環剤を用いてポリアミド酸を脱水閉環する。または、テトラカルボン酸無水物とジイソシアネートとを加熱して脱炭酸を行って重合する方法などを例示することができる。
【0023】
上記ポリイミドの製造方法において、ポリアミド酸を得て、次いで、加熱および/または化学閉環剤を用いて脱水閉環する方法を用いる場合には、以下の脱水剤や触媒が好適に用いられる。
【0024】
脱水剤としては、例えば無水酢酸などの脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが挙げられる。また、触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類などが挙げられる。本発明においては、これらの中でも特にヒドロキシピリジン系化合物、イミダゾール系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を触媒として用いることが好ましい。
【0025】
ヒドロキシピリジン系化合物、イミダゾール系化合物には脱水閉環反応を促進する効果があることから、これらの化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することにより低温、かつ、短時間の熱処理で脱水閉環できるので、生産効率が良くなるため好ましい。その使用量は、より好ましくはポリアミド酸の繰り返し単位に対して10モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。添加量がポリアミド酸の繰り返し単位に対してかかる好ましい範囲であると、低温、かつ、短時間においても脱水閉環させる効果を十分に維持できる。脱水閉環しないポリアミド酸繰り返し単位が残存していても良いが、ポリアミド酸が十分に脱水閉環して、ポリイミドになった割合が高くなると、樹脂層の耐溶剤性および耐湿熱性が向上するため、より好ましい。添加量の上限は特に限定されないが、原料価格を低く抑える観点から一般にポリアミド酸の繰り返し単位に対して300モル%以下であることが好ましい。
【0026】
本発明におけるA1層とA2層の厚みの合計は、難燃フィルムの総厚みの5〜70%であり、かつ、A1層とA2層のそれぞれの厚みが0.05〜10μmである。A1層とA2層の厚みの合計が難燃フィルムの総厚みの10〜50%であることが好ましい。また、A1層とA2層のそれぞれの厚みが0.1〜2.5μmであることが好ましい。A1層とA2層の厚みの合計が5%より小さい場合は難燃性の効果が薄れ、70%より大きい場合は電気絶縁性が低下してしまう。また、A1層とA2層のそれぞれの厚みが0.05μmより薄い場合は難燃性の効果が薄れ、10μmより厚い場合には、高分子フィルムと熱可塑性樹脂層との接着性が低下する。
【0027】
本発明における熱可塑性樹脂組成物Aは、樹脂成分以外に前記非可燃性ガスを発生する化合物を含有する。非可燃性ガスを発生する化合物を含有させることによって、非可燃性ガスの発生率を好ましい範囲に制御しやすくなり、前記の難燃性の効果が発現しやすくなる。非可燃性ガスを発生する化合物としては、特に限定されないが、環境負荷の点や難燃性の点から、無機水酸化物が好ましい。無機水酸化物は水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、雲母から選ばれる1種または2種以上を含有するものが好ましいが、全てを含んでいても良い。アスペクト比の点で特に好ましいのは雲母であり、熱可塑性樹脂組成物Aを高温高湿下においた場合でも、樹脂層の劣化を促進することが少ないため好ましい。
【0028】
これらの無機水酸化物の平均粒子径は0.1〜50μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜25μmである。平均粒子径が小さいなるほど難燃性能が向上するが、0.1μmより小さくすると、熱可塑性樹脂組成物A中への均一分散が難しくなるうえ、分散後の熱可塑性樹脂組成物Aの粘性が増加してしまうため、熱可塑性樹脂組成物Bに熱可塑性樹脂組成物Aを積層することが難しくなる場合がある。また平均粒子径が50μmより大きくなると、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bの密着性が悪くなる場合がある。
ここでの平均粒子径は、N−メチル−2−ピロリドンで1mol/l(リットル)に希釈した無機水酸化物10ml(ミリリットル)を、超音波分散処理を30秒行ったあと、レーザー回折式粒度分布計(例えば、堀場製作所製、商品名、LA−950)を使用し測定を行い、その体積平均での平均径値を平均粒子径値とする。レーザー回折式粒度分布計で平均粒子径の測定を行う際、同時に累積頻度vol%径(10vol%、100vol%)を求めることができる。本発明において、無機水酸化物の累積頻度vol%径(10vol%)は平均粒子径の0.5倍以上であることが好ましく、累積頻度vol%径(100vol%)は平均粒子径の2倍以下であることが好ましい。無機水酸化物の累積頻度vol%径(10vol%)が平均粒子径の0.5倍より小さいと熱可塑性樹脂組成物Aへの均一分散が難しくなる場合があり、分散後の熱可塑性樹脂組成物Aの粘性が増加してしまう場合がある。また累積頻度%径(100vol%)が平均粒子径の2倍より大きいと、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bの密着性が悪くなる場合がある。
【0029】
無機水酸化物の熱可塑性樹脂組成物Aに対する含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、50〜200質量部であり、100〜150質量部であることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物A100質量部に対し、無機水酸化物が50質量部より小さくなると、非可燃性ガスの発生が小さくなり、難燃性能が低下する。一方、無機水酸化物が200質量部より大きくなると熱可塑性樹脂組成物Aが脆くなったり、熱可塑性樹脂組成物Aと熱可塑性樹脂組成物Bとの密着性が低下してしまう。
本発明の熱可塑性樹脂組成物Aに含有させる無機水酸化物は、単体での熱伝導率が1.5W/m・K以上でかつ体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上のものである。無機水酸化物の熱伝導率が1.5W/m・K未満では、難燃フィルムの熱伝導率を向上させる効果に劣る。単体での熱伝導率は、30W/m・K以上のものが好ましい。また無機水酸化物の体積固有抵抗が0.1Ω・cmより小さいと難燃フィルム全体の電気絶縁性が小さくなり、本発明の効果を発揮できなくなる。無機水酸化物の体積固有抵抗は、1×10Ω・cm以上であることが好ましく、1×1014Ω・cm以上であることが好ましい。体積抵抗率の上限には特に制限は無いが、一般的には1×1018Ω・cm以下である。
【0030】
本発明において使用する熱可塑性樹脂組成物Bはその機械特性および電気特性からポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルムが好ましく用いられ、特にポリエステルフィルムが好ましく用いられる。本発明において、ポリエステルフィルムに使用するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどがあり、これらの2種以上が混合されたものであってもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、これらに他のジカルボン酸成分やジオール成分が共重合されたものであってもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物BからなるB層の厚みは1〜200μmの範囲が好ましく、10〜150μmの範囲がより好ましい。熱可塑性樹脂組成物BからなるB層の厚みが1μm未満であると、熱可塑性樹脂組成物Aに含有されている無機水酸化物の影響により電気絶縁性が低下する場合がある。また、200μmより大きくなると熱可塑性樹脂組成物Bが炎にさらされた場合に熱可塑性樹脂組成物Aから発生する非可燃性ガスによる、熱可塑性樹脂組成物Bから発生した可燃性ガスを希釈する効果が追いつかなることと、熱可塑性樹脂組成物Bが厚いため両面の熱可塑性樹脂組成物Aの層間距離が長くなり、熱可塑性樹脂組成物Aが難燃性の炭化層として残存はするが、その両面の難燃炭化層が熱可塑性樹脂組成物Bの端面も含んだ全体を被覆するように融着しにくくなり熱可塑性樹脂組成物B全体を被覆する効果が弱まり、難燃性能が低下する場合がある。
【0032】
熱可塑性樹脂組成物Bは、上記の電気絶縁性が低下が問題とならない範囲で無機水酸化物を含んでも良いが、無機水酸化物の熱可塑性樹脂組成物Bに対する含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0〜5質量部の範囲である、0〜1質量部であれば好ましい。熱可塑性樹脂組成物B100質量部に対し、無機水酸化物が5質量部より大きくなると、電気絶縁性が低下する。
【0033】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物AおよびBには、本発明の効果が阻害されない範囲内で、上述した無機水酸化物以外の各種の添加剤や樹脂組成物、架橋剤などが含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、難燃剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを配合することができる。
【0034】
本発明の難燃性フィルムは、高熱伝導性、高ガスバリア性、高電気絶縁性、難燃性に優れるものである。高熱伝導性と高電気絶縁性という二律背反する特性を本発明の構成を実施することで両立させることができ、難燃フィルム中にハロゲン含有成分、リン含有成分などの難燃材を添加しなくても、十分な難燃性を有するため、フィルム本来の機械的特性を低下させずに難燃性を持たせることができる。また、ダイオキシンや加工工程を汚染するようなガスの発生も抑制することができる。そのため本発明の難燃性フィルムは、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、フレキシブルディスプレイ、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、絶縁モーター、電子部品などの電気絶縁材料をはじめとして、磁気記録材料、コンデンサ用材料、包装材料、建築材料、各種工業材料として好適に使用できる。特にフレキシブルプリント基板、フレキシブルディスプレイに好ましく用いることができる。
【0035】
本発明の難燃性フィルムを用いたフレキシブルプリント基板、フレキシブルディスプレイは、一例を挙げれば、上記難燃性フィルムの上に導電回路を形成させた構成からなるものである。難燃性フィルムと導電回路の間にはアンカーコート層、接着剤層、粘着剤層等が設けられてもよい。導電回路は、難燃性フィルムの上に、金属箔を貼り合わせた後エッチングする、金属を蒸着する、金属をスパッタする、あるいは、導電ペーストをスクリーン印刷するなどの公知の方法で形成できる。その他、フレキシブルプリント基板の導電回路を封止するカバーフィルムやフレキシブルディスプレイの表示ラベルなどとしても好適に使用できる。本発明のフレキシブルプリント基板は、パソコン、プリンターなどの機器部品、家具、自動車等の電子部品、ノート型パソコン、携帯電話、ICカード等の携帯可能な電子、電気機器に好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。とくに、記載が無い評価方法については、評価n数は1である。
【0037】
(1)難燃性フィルムの厚み測定
難燃性フィルムから断面を切り出し、その断面を(株)日立製作所製の透過型電子顕微鏡HU−12型で観察し、A1層とA2層の厚み(t11,t12)、およびB層の厚み(t2)を測定し、t11とt12の合計厚みを(t1)とした。
【0038】
(2)難燃性
UL94(AUGUST 19、1992)のVTM−0測定(VTM−0規格のn数は5)の規格に従い、難燃性フィルムを切り出し、測定を行った。上記規格内であるサンプルを○、規格外であるサンプルを×とし、○を良好とした。
【0039】
(3)A1層及びA2層とB層の密着性
A1層とA2層に、B層を貫通しないように1mmのクロスカットを100個入れ、ニチバン(株)製セロハンテープを、クロスカットを入れた面上に貼り付け、ゴムローラーを用いて、荷重19.6Nで3往復させ、押し付けた後、90度方向に剥離した。残存した熱可塑性樹脂層の個数により2段階評価(○:100、×:0〜99)した。○を接着性良好とした。
【0040】
(4)熱伝導率測定
難燃性フィルムを100mm×100mmの正方形状に切り出した資料を、京都電子工学株式会社製 熱伝導率計 QTM−500 および ボックス式プローブ PD−11 を用い耐火煉瓦の熱伝導率測定法である熱線法(JIS R2618 1995年)を改良したQTMプローブ法にて測定した。
【0041】
測定は、熱伝導率0.036(W/m・K)の発泡ポリエチレン、0.24のシリコン、1.42の石英ガラスを標準サンプルとしてボックス式プローブPD−11 をキャリブレーションした後、京都電子工業株式会社製 薄膜測定用ソフトウエアを使用して試験サンプルの熱伝導率を求めた。
【0042】
(5)絶縁破壊電圧測定
陰極に厚み100μm、10cm角アルミ箔電極、陽極に真鍮製25mmφ、500gの電極を用い、この間にフィルムを挟み、春日製高電圧直流電源を用いて100V/secの昇圧速度で昇圧し、10mA以上の電流が流れた場合を絶縁破壊したものとし、これを5回繰り返しその平均値の電圧値を測定した。
【0043】
(6)ガスバリア性測定
難燃性フィルムを100mm×100mmに切り出し、アルミマスクフォイル(測定面積は50mm×50mm)に挟み込み、酸素透過率測定装置(MOCON社製 OXTRAN−2/21)を使用し、条件23℃90%RHで測定を行った。
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。まず、使用した塗布液等について記載する。
【0044】
<熱可塑性樹脂層形成用の塗布液>
(1)塗布液A
ポリイミド溶液(東レ(株)製“トレニース(登録商標)”#3000)をN−メチル−2−ピロリドンで固形分濃度が10質量%になるように希釈した溶液と、雲母粒子(メルク(株)製“iriodin(登録商標)”、平均粒子径7.5μm、アスペクト比700、熱伝導率150W/m・K、体積固有抵抗1×1014Ω・cm)を固形分濃度が10質量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンに分散させた分散液とを、固形分質量比でポリアミド酸/雲母=50/50 となるように混合した。さらに塗布前に2−メチルイミダゾールをポリアミド酸の繰り返し単位に対して100モル%添加し、これを塗布液Aとした。
(2)塗布液B
雲母粒子の代わりに水酸化アルミニウム粒子(昭和電工(株)製“ハイジライト(登録商標)”H−42M、平均粒子径1.1μm、アスペクト比20、熱伝導率50W/m・K、体積固有抵抗1×10Ω・cm)を用いた以外は塗布液Aと同様にして塗布液Bを調製した。
(3)塗布液C、D
ポリアミド酸/雲母の混合比を固形分質量比で60/40(塗布液C)、40/60(塗布液D)とした以外は塗布液Aと同様にして塗布液を調整した。
(4)塗布液E
雲母粒子の代わりに窒化アルミニウム粒子((株)トクヤマ製“グレードH”、平均粒子径1.13μm、熱伝導率200W/m・K、体積固有抵抗1×1014Ω・cm、アスペクト比500)を用いた以外は塗布液Aと同様にして塗布液Eを調製した。
(5)塗布液F
窒化ホウ素粒子の代わりにコロイダルシリカ粒子(コルコート(株)製“コルコート”N−103X、平均粒子径1.0μm、熱伝導率1.0W/m・K、体積固有抵抗1×10Ω・cm、アスペクト比1)を用いた以外は塗布液Aと同様にして塗布液Fを調製した。
(7)塗布液G、H、I
ポリアミド酸/雲母の混合比を固形分質量比で100/0(塗布液G)、ポリアミド酸/雲母の混合比を固形分質量比で90/10(塗布液H)、20/80(塗布液I)とした以外は塗布液Aと同様にして塗布液を調整した。
〔実施例1〕
平均粒径0.4μmのコロイダルシリカを0.015質量%、平均粒径1.5μmのコロイダルシリカを0.005質量%含有するポリエチレンテレフタレート樹脂ペレット(以降、PETペレットと記載することがある)を十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化し、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.3倍延伸し、一軸延伸フィルム(以降、基材PETフィルムと呼ぶ)とした。この基材PETフィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材PETフィルムの濡れ張力を55mN/mとした。ついで、基材PETフィルムをクリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、90℃で乾燥後、引き続き連続的に105℃の加熱ゾーンで幅方向に3.5倍延伸し、さらに、220℃の加熱ゾーンで熱処理を施し、結晶配向の完了したPETフィルムを得た。さらにこのPETフィルムの両面に、塗布液Aを塗布し、130℃で乾燥後、200℃で熱処理して難燃性フィルムを得た。このフィルムは、全体の厚みが100μm、熱可塑性樹脂層の厚みが片面当たり5μmであった。結果をまとめて表1に示す。
〔実施例2〜4〕
塗布液Aの代わりに、PETフィルムの両面に、それぞれ塗布液B(実施例2)、塗布液C(実施例3)、塗布液D(実施例4)、を塗布した以外は実施例1と同様にして難燃性フィルムを得た。
〔実施例5〕
ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに水酸化アルミニウム粒子(昭和電工(株)製“ハイジライト(登録商標)”H−42M、平均粒子径1.1μm、アスペクト比20、熱伝導率50W/m・K、体積固有抵抗1×10Ω・cm)を3質量%含有する以外は実施例1と同様にして難燃性フィルムを得た。
〔比較例1〜5〕
塗布液Aの代わりに、PETフィルムの両面に、それぞれ塗布液E(比較例1)、塗布液F(比較例2)、塗布液G(比較例3)、塗布液H(比較例4)、塗布液I(比較例5)、を塗布した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
〔比較例6〕
熱可塑性樹脂層の片面当たりの厚みを0.01μmとし、全体の厚みを100μmとした以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。
〔比較例7〕
熱可塑性樹脂層の片面当たりの厚みを30μmとし、全体の厚みを100μmとした以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。
〔比較例8〕
ポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに水酸化アルミニウム粒子(昭和電工(株)製“ハイジライト(登録商標)”H−42M、平均粒子径1.1μm、アスペクト比20、熱伝導率50W/m・K、体積固有抵抗1×10Ω・cm)を10質量%含有する以外は実施例1と同様にして難燃性フィルムを得た。
実施例1〜5、比較例1〜8の特性評価の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の難燃性フィルムは、電気絶縁材料をはじめとして、磁気記録材料、コンデンサ用材料、包装材料、建築材料、各種工業材料として好適に使用でき、特に、フレキシブルディスプレイには、好適に使用できるが、用途はこれらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部に対し、
熱伝導率が1.5W/m・K以上、
体積固有抵抗が0.1Ω・cm以上でかつ
アスペクト比が10〜5000である
無機水酸化物を50〜200質量部含有する熱可塑性樹脂組成物Aからなる、
A1層とA2層とが両表面に配置され、
A1層とA2層との間に
熱可塑性樹脂100質量部に対し、
無機水酸化物を0〜5質量部含有する、
熱可塑性樹脂組成物BからなるB層が配置された
3層からなる難燃性フィルムであって、
A1層とA2層との厚みの合計が、難燃性フィルムの総厚みの 5〜70%であり、かつ
A1層とA2層のそれぞれの厚みが、0.05μm〜10μmである
難燃性フィルム。
【請求項2】
前記B層がポリエステルフィルムである請求項1に記載の難燃性フィルム。
【請求項3】
前記無機水酸化物の平均粒子径が0.1〜50μmである請求項1または2に記載の難燃性フィルム。
【請求項4】
前記無機水酸化物が雲母である請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性フィルムを用いてなるフレキシブルディスプレイ。

【公開番号】特開2013−71278(P2013−71278A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210343(P2011−210343)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】