説明

難燃性ポリエステル、その製造方法および難燃性ポリエステルフィルム

【課題】難燃性に優れるとともに優れた耐加水分解性および耐熱性を備えた、難燃性ポリエステルの提供。
【解決手段】ポリエステルの全ジカルボン酸成分を基準として、特定のホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分を1〜25モル%含み、チタン化合物をチタン原子量で、得られるポリエステルの質量を基準として、50ppm〜400ppm含有し、触媒活性指標[CA:加熱窒素流通下、温度205℃で24時間処理したときの固有粘度の上昇率]が10%以下であり、固有粘度が0.60〜1.50dl/gである難燃性ポリエステル及びそれを用いたポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フィルムなどの成形品にしたとき優れた難燃性を有し、さらに優れた耐加水分解性および耐熱性を有する難燃性ポリエステルおよびそれを用いたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートは、その機械的、物理的、化学的性能が優れているため繊維、フィルム、その他の成形物に広く利用されている。近年、製造物責任法の施行に伴い、火災に対する安全性を確保するために樹脂の難燃化の要望が高まっている。
【0003】
従来用いられているハロゲン系難燃剤を含有するポリエステル樹脂は、燃焼時にハロゲン化水素などのガスを発生する等の理由で、ハロゲンを含まない環境に配慮した難燃剤が望まれている。
このため、リン酸エステル系難燃剤などのノンハロゲン系難燃剤が提案されており、成形時に難燃剤を添加するブレンド法が知られている。しかし、これらの難燃剤は十分な難燃性を発揮させるためには、その添加量を多くする必要があり、得られる成形品の機械的特性の低下を招いたり、ポリエステル樹脂中から難燃剤がブリードアウトしたりする。
【0004】
一方、ポリエステル樹脂に化学的に結合させる反応型難燃剤も種々提案されており、特にリン化合物の共重合が知られている(特許文献1、特許文献2)。しかし、これらの化合物は難燃性は向上するものの、共重合されたポリエステルは耐加水分解性が著しく低下することが問題となっている。そこで特許文献3には水酸基を両末端に有するホスフィンオキサイド化合物などが種々例示されており、そこでは難燃性に優れ、耐加水分解性の向上が記載されている。
しかし、上記化合物の反応性、耐熱性に問題があり、難燃および耐加水分解効果だけでなく、よりポリエステル本来の諸特性を維持した実用性の高い樹脂が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−56488号公報
【特許文献2】特開2000−319368号公報
【特許文献3】特開平10−25338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、難燃性に優れるとともに優れた耐加水分解性および耐熱性を備えた、難燃性ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、水酸基を両末端に有するホスフィンオキサイド化合物を共重合したポリエステルを製造する際に、重合終了後に系の温度条件を特定の範囲にし、触媒として使用しているチタン化合物の活性を抑制することにより、優れた難燃性、耐加水分解性、耐熱性を得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明の目的は、芳香族ジカルボン酸またはその低級エステルとエチレングリコールとを、下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜12の1価の飽和炭化水素または1価の芳香族炭化水素のいずれか1つを表し、RとRはそれぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を表す)で表されるホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分の存在下で、チタン化合物を重縮合反応触媒として反応させる難燃性ポリエステルの製造方法であって、
上記ホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分の割合が、得られるポリエステルの全酸成分のモル数を基準として、1〜25モル%の範囲であること、チタン化合物の割合が、得られるポリエステルの質量を基準として、チタン原子量で50〜400ppmの範囲であること、そして、ポリエステルの固有粘度が少なくとも0.55dl/gに到達するまで反応温度265℃以下で重縮合反応を行い、分子量を上げる工程と、該分子量を上げる工程の後に温度265℃を超える温度で10分以上熱処理する工程とを有する難燃性ポリエステルの製造方法によって達成される。
【0009】
また、もうひとつの本発明として、ポリエステルの全ジカルボン酸成分を基準として、前記式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分を1〜25モル%含み、チタン化合物をチタン原子量で、得られるポリエステルの質量を基準として、50ppm〜400ppm含有し、触媒活性指標[CA:加熱窒素流通下、温度205℃で24時間処理したときの固有粘度の上昇率]が10%以下であり、固有粘度が0.60〜1.50dl/gである難燃性ポリエステルおよびそれから製膜されたフィルムも提供される。
【0010】
さらにまた、本発明の好ましい態様として、チタン化合物が、下記式(2)
Ti(OR ・・・(2)
(上記式中、Rはアルキル基および/またはフェニル基を示す)で表されるチタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物である上記本発明の難燃性ポリエステルの製造方法ならびに難燃性ポリエステルおよびそれを用いたフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって提供される難燃性ポリエステルは、難燃性に優れるとともに、優れた耐加水分解性および耐熱性を有しており、フィルムなどの成形体として好適に利用することができ、難燃性が求められる種々の用途、例えばフレキシブルプリント回路基板のような電気電子用途などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<難燃性ポリエステル>
本発明の難燃性ポリエステルについて、まず詳述する。
本発明の難燃性ポリエステルは、ポリエステルの全酸成分を基準として、前記式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物から誘導される成分(以下、リン含有共重合単位と称することがある)を1〜25モル%の範囲で有する。
式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物からなる単位のうち、RとRで表されるメチレン鎖数は好ましくは1〜4であり、さらに好ましくは2〜3である。
また、式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物からなる単位のうち、Rで表される置換基の中でも、炭素数1〜6の飽和炭化水素、フェニル基が好ましく例示される。
【0013】
本発明において、難燃性付与成分としてホスフィンオキシド化合物を用いることが必要であり、かつホスフィンオキシド化合物の中でも上記式(1)の構造で示されるモノマーの状態でジオールの化合物またはその誘導体を用いることが必要である。ポリエステル主鎖中に上記ホスフィンオキシド化合物以外の化合物に由来するリン含有共重合単位、例えばホスフィン酸あるいはホスホン酸エステル由来のリン化合物重合単位が存在すると、ポリエステル組成物の耐熱性、耐加水分解性が低下しやすい。また、ホスフィンオキシド化合物の中でも、ジカルボン酸の化合物またはその誘導体をモノマー成分として用いた場合、本発明で用いるジオールタイプのホスフィンオキシド化合物ほどの耐加水分解性が得られない。
【0014】
また、本発明の難燃性ポリエステルにおける該リン含有共重合単位の含有量は、ポリエステルの全ジオール成分を基準として1モル%以上25モル%以下の範囲であり、その下限値は好ましくは3モル%、さらに好ましくは5モル%であり、その上限値は好ましくは15モル%、さらに好ましくは10モル%である。該リン含有共重合単位の含有量が下限値に満たないと本発明の目的とする難燃性を得ることができない。また、該リン含有共重合単位の含有量が上限値を超えると重合反応性に問題が生じ、フィルムなどの成形体としたときの十分な機械的特性を得ることできない。
【0015】
上記ホスフィンオキシド化合物からなるジオール成分を共重合させることによる難燃性ポリエステル中のリン原子濃度は、ポリエステル樹脂の質量を基準として、0.5質量%以上3.0質量%以下であることが、本発明の目的とする難燃性を得るために好ましい。好ましい下限値は1.0質量%、好ましい上限値は2.0質量%、さらに1.5質量%である。
【0016】
本発明の難燃性ポリエステルの主たる繰り返し単位は、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分と、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどのジオール成分からなることが好ましい。ここで「主たる」とは、全繰り返し単位の50モル%以上であることをいい、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは85モル%以上である。これらの中でも、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなることが好ましい。
【0017】
本発明の難燃性ポリエステルは、得られる特性を大きく変化させない範囲でその他の共重合成分を含むことができる。その他の共重合成分としては特に限定されないが、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4‘−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸成分から主たる成分以外の成分、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸成分、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分など、ジオール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコールなどの脂肪族ジオール成分から主たる成分以外の成分、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどの脂環族ジオール成分、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール成分、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのエーテル縮合型ジオール成分などが挙げられる。また、前述の好ましいジカルボン酸およびジオール成分以外の成分として、p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の成分が挙げられる。
【0018】
本発明の難燃性ポリエステルは、ジカルボン酸とグリコールとのエステル化反応やジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとのエステル交換反応のどちらの方法も利用できる。エステル交換反応触媒としては、マンガン、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ナトリウム、カリウム、コバルト、チタンを含む化合物の一種または二種以上を用いることができる。
【0019】
ところで、本発明の難燃性ポリエステルは重縮合反応において、従来公知の重縮合触媒である、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるゲルマニウム化合物のみで反応させると十分に重合度が上がらないという問題が発生するために、チタン化合物を使用する。チタン化合物としては、酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンなどが挙げられ、特に好ましいのは、下記一般式(2)で表わされる化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物である。
Ti(OR ・・・(2)
(上記式中、Rはアルキル基および/またはフェニル基を示す)
【0020】
一般式(2)で表わされるテトラアルコキサイドチタンとしては、Rがアルキル基および/またはフェニル基であれば特に限定されないが、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラフェノキシチタンなどが好ましく用いられる。また、かかるチタン化合物として反応させる芳香族多価カルボン酸またはその無水物としては、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物が好ましく用いられる。上記チタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させる場合には、溶媒に芳香族多価カルボン酸またはその無水物の一部とを溶解し、これにチタン化合物を滴下し、0〜200℃の温度で30分以上反応させれば良い。この生成物を用いることにより、重縮合反応中で分解されるホスフィンオキシド化合物によるチタン触媒化合物の触媒機能失活を抑えることができる。
【0021】
上記の通り、本発明の難燃性ポリエステルは、重縮合触媒としてチタン化合物を用いており、そのチタン化合物を、チタン金属元素量で、難燃性ポリエステルの質量を基準として、50〜400ppm含有する必要がある。該チタン金属元素量が下限未満ではポリエステルの生産性が低下し、目標の分子量のポリエステルが得られない。また、該チタン金属元素量が上限を超える場合、熱安定性が低下する。好ましいチタン金属元素量の下限は、100ppm、さらに150ppmであり、好ましい上限は300ppm、さらに250ppmである。
【0022】
ところで、本発明の難燃性ポリエステルは、成形時の固有粘度の低下や成形後の耐加水分解性の低下を抑えるため、触媒活性指標[CA]が10%以下であることが必要である。ここでいう触媒活性指標[CA]とは、後述の測定方法に基づいて評価した値であり、サンプルを結晶化処理した後、窒素を温度205℃で100mL/min、24時間流通させ、結晶化処理前の固有粘度をIV0、窒素処理後の固有粘度をIV1としたとき、(IV1−IV0)/IV0×100(%)で表される固有粘度の上昇率である。すなわち、触媒活性指標[CA]が大きいほど触媒の活性が高いことを意味する。そして、この触媒活性指標[CA]を上限以下に抑えることで、成形時の固有粘度の低下や成形後の耐加水分解性の低下を抑えたものである。好ましい触媒活性指標[CA]の上限は9%、さらに7%、特に5%である。他方、触媒活性指標[CA]の下限は、低ければ低いほど好ましく、特に制限されないが、通常1%程度である。
つぎに、この触媒活性指標[CA]を10%以下にする方法の一例として、本発明の難燃ポリエステルの製造方法を以下説明する。
【0023】
<難燃性ポリエステルの製造方法>
まず、本発明の難燃性ポリエステルの製造方法は、前述のリン含有共重合単位を共重合することから重縮合反応が進行しにくく、従来公知の例えばポリエチレンテレフタレートに比べ、前述の通り、触媒活性の高いチタン化合物を選択し、かつその量も非常に多くなる。一方、前述の通り、成形時の固有粘度の低下や成形後の耐加水分解性の低下を抑えるため、触媒活性使用[CA]を上限以下に抑えなくてはならない。
【0024】
すなわち、本発明の難燃性ポリエステルの製造方法は、耐熱性と耐加水分解性に優れたポリエステルを提供するにあたって、重縮合反応の進行の点からは触媒活性を高め、、耐熱性と耐加水分解性の点からは触媒活性を抑えるという二律背反の問題も解消しなければならなかった。
そこで、本発明者らは、上記二律背反の問題を解消しようと鋭意研究した結果、重縮合反応を特定の温度で行い、重縮合反応終了後に系の温度条件を特定の範囲にすることで、重縮合反応中は触媒として使用しているチタン化合物の活性を最大限に活用しつつ、重縮合反応後にはその活性を抑制できることを見出したのである。
【0025】
まず、本発明の難燃性ポリエステルの製造方法は、前述の芳香族ジカルボン酸またはその低級エステルとアルキレングリコールとを、前記式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分の存在下で、チタン化合物を重縮合反応触媒として反応させる。
この際、上記ホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分の割合は、前述の難燃性ポリエステルで説明したとおり、得られるポリエステルの全酸成分のモル数を基準として、1〜25モル%の範囲であることが必要である。また、チタン化合物の割合も、前述の難燃性ポリエステルで説明したとおり、得られるポリエステルの質量を基準として、チタン原子量で50〜400ppmの範囲であることが必要である。
【0026】
そして、本発明の難燃性ポリエステルの製造方法は、ポリエステルの固有粘度が少なくとも0.55dl/gに到達するまで反応温度265℃以下で重縮合反応を行う分子量を上げる工程(重縮合工程)と、該分子量を上げる工程の後に265℃を超える温度で10分以上熱処理する工程(熱処理工程)とを有することで、過度に重縮合触媒量を少なくしたり、反応終了後に別途新たな工程を加えて、触媒を失活させる処理することなく、本発明の難燃ポリエステルを製造することができる。
【0027】
重縮合工程の到達すべき固有粘度の下限は、前述の通り、0.55dl/gであるが、さらに最終的な難燃性ポリエステルの目的とする固有粘度に対して、97%以上であることが好ましい。なお、上記重縮合工程の到達すべき固有粘度は、重縮合反応の反応容器内でのポリエステルの固有粘度であり、直接測定することができないが、撹拌電力によって測定することができる。すなわち、重縮合反応を行い、各温度条件での撹拌電力を測定し、そのときのポリエステルを取り出して、固有粘度(重量比4/6のP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒を用いて温度35℃で測定)を測定することで確認できる。
【0028】
ところで、本発明の難燃性ポリエステルは、上記重縮合反応後に後述の265℃を超える温度での処理を行う。この処理後の固有粘度(重量比4/6のP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒を用いて温度35℃で測定)は0.60dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましく、さらに0.65dl/g以上1.0dl/g以下であることが好ましい。難燃性ポリエステル樹脂の固有粘度が下限値に満たないと、成形品の機械的特性を満足しなくなる。一方、上限値を超える難燃性ポリエステル樹脂は、溶融粘度が高いため、成形時の溶融押出が困難となる。そのため、重縮合工程の到達すべき固有粘度の上限は特に制限されないが、1.5dl/g、さらに1.0dl/gであることが成形時の溶融押出などの点から好ましい。
【0029】
また、重縮合工程における温度は265℃以下が必要である。265℃以上で重縮合反応を継続した場合、途中で重縮合反応が停止し、十分は重合度を達成することができない。なお、重縮合工程における温度の上限は、好ましくは263℃以下、さらに261℃以下である。一方、重縮合工程における最高到達温度の下限は、特に制限はされないが、重縮合反応の進行を過度に遅くしない観点から、240℃、さらに250℃が好ましい。
【0030】
そして、目標の重合度に達した後、重縮合工程を終了し、熱処理工程に移る。この熱処理工程における温度は265℃を超えることが、重縮合触媒を失活させる上で必要である。好ましい温度の下限は267℃、さらに269℃であり、好ましい温度の上限は設備が対応でき、難燃性ポリエステルが劣化しなければ特に制限されず、例えば300℃以下、さらに290℃以下、特に280℃以下が好ましい。また、熱処理工程は、減圧下で行うことが重合度を上げる点から好ましい。このときの減圧としては、1kPa以下、さらに200Pa以下であることが好ましい。また、この処理は、窒素還流下で行うことも可能である。熱処理工程で保持する時間は10分以上であることが必要である。上限は特に制限されないが、生産性などの点から120分が好ましい。好ましい熱処理工程で保持する時間の下限は、20分、さらに25分であり、好ましい上限は100分、さらに80分である。
【0031】
このような重縮合工程と熱処理工程を行い、重縮合反応中は重縮合触媒を失活させず、重縮合反応後に重縮合触媒を失活させることができる。なお、熱処理工程における温度を高くしたり、保持時間を長くすることで、より重縮合触媒を失活できる。
このようにして得られる本発明の難燃性ポリエステルは、本発明の目的を阻害しない範囲内で、従来公知の各種添加剤を含有していてもよく、例えば有機または無機の滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを挙げることができる。
【0032】
<難燃性ポリエステルフィルム>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、前述の難燃性ポリエステルを溶融製膜して、シート状に押出すことで得られる。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、優れた寸法安定性を発現するため、フィルム面方向における少なくとも一方向に延伸された配向ポリエステルフィルムであることが好ましく、さらに製膜方向と幅方向の両方向に延伸された二軸配向ポリエステルフィルムであることがさらに好ましい。
【0033】
ところで、本発明のポリエステルフィルムは、前述の本発明のポリエステルから製膜されたフィルムであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤(粒子やワックスなど)、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してポリエステル樹脂組成物としても良い。他種熱可塑性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0034】
つぎに、本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、前述の通り、製膜方向または幅方向に延伸して、その方向の分子配向を高めた配向ポリエステルフィルムであることが好ましく、例えば以下のような方法で製造することが、製膜性を維持しつつ、ヤング率を向上させやすいことから好ましい。
【0035】
まず、上述の本発明の難燃性ポリエステルを乾燥後、該ポリエステル樹脂の融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。この押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを延伸する。なお、二軸延伸の場合、その延伸方法は、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
【0036】
ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸は共重合芳香族ポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜10倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒、さらに1〜15秒熱固定処理するのが好ましい。
【0037】
なお、本発明のポリエステルフィルムの厚みは、用いる用途に応じて適宜選定すればよい。前述の説明は逐次二軸延伸について説明したが、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも製造でき、例えば先で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、単層フィルムに限られず、積層フィルムであってもよく、その場合は、少なくとも一つのフィルム層が本発明のポリエステルフィルムであれば良い。具体的な作り方としては、例えば2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出し、好ましくはそれぞれのポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出すか、2種以上の溶融ポリエステルをダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとし、ついで前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うとよい。
【0039】
このようにして得られる本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、難燃性に優れるとともに、優れた耐加水分解性および耐熱性を有しており、難燃性が求められる種々の用途、例えばフレキシブルプリント回路基板のような電気電子用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0041】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0042】
(2)ホスフィンオキシドから誘導される成分の共重合量
試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解した。イソプロピルアミンを加えて、十分に混合した後にH−NMR(日本電子製 JEOL A600)にて80℃で測定した。
【0043】
(3)チタン原子、リン原子の含有量
ポリマーサンプルを加熱溶融して、円形ディスクを作成し、リガク製蛍光X線装置3270型を用いて測定し、定量を行った。
【0044】
(4)触媒活性指標[CA]
120℃で4時間、続き180℃で4時間結晶化処理したサンプル30gを容量100mLのなす型フラスコに入れる。なす型フラスコには口から加熱窒素が通る管を下部に伸ばし、下部より加熱窒素が出るようにしてあり、また上部から排気口を設けている。サンプルを入れたなす型フラスコは、205℃で保温した装置内にセットする。窒素温度205℃で100mL/min、24時間流通させ、固有粘度の上昇率を求める。
上昇率 =(IV1−IV0)/IV0 ×100(%)
ここで、IV0は結晶化処理前のサンプルの固有粘度、IV1は加熱窒素による処理後の固有粘度を意味する。
【0045】
(5)燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長20mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0、VTM−1、VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0046】
(6)耐加水分解性評価
150mm長×10mm幅の短冊状のフィルムを、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内にステンレス製クリップで吊り下げる。10時間経過後にフィルムを取り出し、評価に供した。なお、フィルムサンプルを切り出すにあたり、フィルムの主配向方向が長さ方向となるように切り出した。
そして、ORIENTEC社製テンシロンUTM−4−100型を用いてチャック間距離10cm、引張速度10mm/secで引張応力を測定し、下記式に従ってそれぞれの処理後の引張破断伸度保持率を算出した。
破断伸度保持率(%)=(100時間経過時の引張破断伸度/初期の引張破断伸度)×100
なお、かかる破断伸度保持率はフィルムの主配向方向を測定方向としたときの値である。また、測定はそれぞれ5回ずつ行い、その平均値をもとに算出した。
【0047】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル(DMT)31Kg(160モル)、エチレングリコール(EG) 16.2Kg(261モル)、リン化合物として、n−ブチル−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド(日本化学工業社 PO−4500)2.45Kg(11モル)を、攪拌機、精留塔、冷却器を供えたの反応槽に仕込み、そこに触媒として、酢酸マンガン4水和物を30ミリモル%(全酸性分に対して)加え、エステル交換反応を行った。続いて、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)70ミリモル%(全酸性分に対して)を加えて、260℃にて真空下重縮合反応を行った。その後目的とする固有粘度(0.630dl/g)付近に達したことを撹拌電力より確認し、真空下のまま昇温し、275℃で45分間保持した。そして固有粘度0.650dl/gのポリエステルを得た。
得られたポリエステルを170℃ドライヤーで3時間乾燥後、280℃でダイより表面温度20℃に維持した回転ドラム上に溶融押出して、厚み630μmの未延伸フィルムを製膜した。この未延伸フィルムを75℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本にて加熱しながら製膜方向(MD方向)に4.1倍延伸し、さらに縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながら100℃で加熱された雰囲気中で製膜方向に垂直な方向(TD方向)に4.2倍延伸し、さらに横方向に固定したまま全幅の3%の弛緩を与えながら220℃で熱処理し、厚み50μmのフィルムを得た。
得られたポリエステル、およびそれからなるフィルムサンプルの特性を表1に示す。
【0048】
[実施例2〜5]
実施例1において,リン化合物の添加量、チタン化合物の種類、添加量、後処理時間を変えたこと以外は実施例1と同様に行った。得られたポリエステル、およびそれからなるフィルムサンプルの特性を表1に示す。特性を表1に示す。
【0049】
[実施例6]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(NDC)35Kg(143モル)、エチレングリコール(EG)17.1Kg(276モル)、ビス(3−ヒドロキシトリメチレン)n−ブチルホスフィンオキシド(日本化学工業社 PO−4500)2.19Kg(9.9モル)を、攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、そこに触媒として、酢酸マンガン4水和物を30ミリモル%(全酸性分に対して)加え、エステル交換反応を行った。続いて、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)70ミリモル%(全酸性分に対して)を加えて、265℃にて真空下重縮合反応を行った。その後、表1に示す目的とする粘度に達したことを撹拌電力より確認し、真空下のまま昇温し、275℃で30分間保持した。そして固有粘度0.650dl/gのポリエステルを得た。
得られたポリエステルを、MD方向延伸における予熱温度を120℃に、TD方向延伸における温度を140℃にした以外は、実施例1と同様の方法によってフィルムサンプルを得た。
得られたポリエステル、およびそれからなるフィルムサンプルの特性を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
テレフタル酸ジメチル(DMT)31Kg(160モル)、エチレングリコール(EG)19.8Kg(320モル)、を、攪拌機、精留塔、冷却器を備えた反応槽に仕込み、そこに触媒として、酢酸マンガン4水和物を30ミリモル%(全酸性分に対して)加え、エステル交換反応を行った。続いて、チタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物をモル比1:2で175℃、4時間反応させた反応物(トリメリット酸チタン)10ミリモル%(全酸性分に対して)を加えて、275℃にて真空下重縮合反応を行った。そして固有粘度0.650dl/gのポリエステルを得た。
その後は実施例1と同様におこなった。得られたポリエステル、およびそれからなるフィルムサンプルの特性を表1に示す。
【0051】
[比較例2〜7]
リン化合物の種類、添加量、重縮合反応温度、後処理反応温度、時間を変えたこと以外は、実施例1と同様におこなった。得られたポリエステル、およびそれからなるフィルムサンプルの特性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1中の、Aはn−ブチル−ビス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド(日本化学工業社 PO−4500)、Bは3−メチルホスフィニコプロピオン酸のエチレングリコールのエステル化合物、aはチタンテトラブトキシドとトリメリット酸無水物の反応物、bはチタンテトラブトキシド、固有粘度1は重縮合反応後の撹拌電力から導いた固有粘度で、固有粘度2は265℃を超える温度での処理を行ったポリエステルを混合溶媒に溶解して測定した固有粘度で、固有粘度3はフィルムに製膜した後の混合溶媒に溶解して測定した固有粘度である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の難燃性ポリエステル組成物は、難燃性に優れるとともに、優れた耐加水分解性および耐熱性を有しており、フィルムなどの成形体として好適に利用することができ、難燃性が求められる種々の用途、例えばフレキシブルプリント回路基板のような電気電子用途などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸またはその低級エステルとエチレングリコールとを、下記式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分の存在下で、チタン化合物を重縮合反応触媒として反応させる難燃性ポリエステルの製造方法であって、
上記ホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分の割合が、得られるポリエステルの全酸成分のモル数を基準として、1〜25モル%の範囲であること、チタン化合物の割合が、得られるポリエステルの質量を基準として、チタン原子量で50〜400ppmの範囲であること、そして、ポリエステルの固有粘度が少なくとも0.55dl/gに到達するまで反応温度265℃以下で重縮合反応を行い、分子量を上げる工程と、該分子量を上げる工程の後に温度265℃を超える温度で10分以上熱処理する工程とを有する難燃性ポリエステルの製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜12の1価の飽和炭化水素または1価の芳香族炭化水素のいずれか1つを表し、RとRはそれぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を表す)
【請求項2】
チタン化合物が、下記式(2)で表されるチタン化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物である請求項1記載の難燃性ポリエステルの製造方法。
Ti(OR ・・・(2)
(上記式中、Rはアルキル基および/またはフェニル基を示す)
【請求項3】
ポリエステルの全ジカルボン酸成分を基準として、下記式(1)で表されるホスフィンオキシド化合物から誘導されるジオール成分を1〜25モル%含み、チタン化合物をチタン原子量で、得られるポリエステルの質量を基準として、50ppm〜400ppm含有し、触媒活性指標[CA:加熱窒素流通下、温度205℃で24時間処理したときの固有粘度の上昇率]が10%以下であり、固有粘度が0.60〜1.50dl/gである難燃性ポリエステル。
【化2】

(式中、Rは水素、炭素数1〜12の1価の飽和炭化水素または1価の芳香族炭化水素のいずれか1つを表し、RとRはそれぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を表す)
【請求項4】
含有するチタン化合物が、下記一般式(2)で表わされる化合物と芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させた生成物である請求項3記載の難燃性ポリエステル。
Ti(OR ・・・(2)
(上記式中、Rはアルキル基および/またはフェニル基を示す)
【請求項5】
請求項3または4のいずれかに記載の難燃性ポリエステルから製膜された難燃性ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2013−87263(P2013−87263A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231832(P2011−231832)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】