説明

難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維及びその製造方法

【課題】難燃性と耐熱性とが優れるだけでなく、色相が鮮明であり、自然な光沢を有するポリエステル系難燃性人工毛髪繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂100重量部に、高分子型臭素系難燃剤15〜40重量部を添加し、少量の酸化アンチモンとつや消し剤とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維及びその製造方法に関するものである。より具体的に、本発明は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂、高分子型臭素(臭素)系難燃剤、酸化アンチモン及びつや消し剤を含んでなる難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かつら用繊維として主に用いられる人造毛髪は鮮明な色相、自然な光沢、軽さ、耐熱性、柔らかい触感、柔軟性、カール形成性、カール保持性及び難燃性が必須的に要求される。ここで難燃性とは、自己消火性と溶融ポリマーの耐ドリップ性とで説明される。耐熱性とは、ヘアアイロンでカール形態を形成させることができる温度で収縮変形または熱融着による繊維形態の変形無しに耐えることができる温度である。耐熱性と難燃性とは、人毛機能を代替する人工毛髪繊維が備えるべきの最も重要な特性である。従来にはかつら用繊維としてPVC繊維とモダクリル繊維が用いられてきた。しかしながら、これら繊維は難燃性は非常に優れているが軟化温度が低くて耐熱性が不足するという短所があり、耐熱性が要求される用途としては使用が制限されるという問題がある。
【0003】
前記の短所を解決するため、熱変形温度が比較的高い樹脂を主成分とするポリエステル系人工毛髪が開発されたことがある。前記ポリエステル系人工毛髪としてPET、PBT、PPTなどの樹脂が用いられるが、これらポリエステル樹脂は、耐熱性は比較的優れるが、易燃焼性樹脂なので人工毛髪として用いるためには難燃性を付与すべきである。これらポリエステル樹脂を難燃化して人工毛髪として用いる公知技術は多数公開されている。
【0004】
本発明者らは、すでに大韓民国特許第71482号及び第577584号(特許文献1、2)で、PET樹脂と高分子型臭素難燃剤とからなる難燃人工毛髪製造技術に関して公開したことがある。
【0005】
また、国際公開第WO2005/010247号(特許文献3)には、PET、PBT、PPT樹脂100重量部に対して分子量20,000ないし80,000の臭素難燃剤5〜30重量%からなる人工毛髪に関する内容が開示されている。
【0006】
【特許文献1】大韓民国特許第71482号明細書
【特許文献2】大韓民国特許第577584号明細書
【特許文献3】国際公開第WO2005/010247号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記公開された難燃人工毛髪の場合、樹脂自体の溶融温度が220〜260℃で、難燃剤の軟化温度が190℃前後なので、前記難燃剤を配合してなされるポリエステル人工毛髪の耐熱温度が人毛の耐熱温度より低いという問題があるのである。即ち、このような人工毛髪を、カールを伸ばしたりカールを作るヘアアイロンという機器で加工する場合、繊維変形または融着を発生させ、人工毛髪の外見が酷く損傷されるという問題があるのである。また、美容室で用いられるストーブ形ヘアアイロンを用いる場合、その装置の加熱温度が230℃前後なので、最大200℃まで耐えることのできる従来の人工毛髪を用いると、カール形成の際に繊維収縮変形または融着による問題が発生して、かつら製品としては使用が制限される。
【0008】
そこで、本発明者は前記のような問題を解決するため、基礎樹脂としてポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂を用い、これに高分子型臭素系難燃剤、酸化アンチモン及びつや消し剤を特定含量で適用することにより、鮮明な色相、カール形成性、カール保持性及びカール弾力性が優れ、軽く、絡まりの発生が少なく、人毛に近い物性などかつら糸として要求される基本的な特性はもちろん、人毛水準の難燃性と耐熱性とを備えた難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維及びその製造方法を開発することに至る。
【0009】
本発明の目的は、耐熱性が優れるポリエステル系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、難燃剤を少量用いるながらも優れる難燃性及び耐ドリップ性を有するポリエステル系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0011】
本発明のまた他の目的は、光沢性、鮮明な色相、カール形成性、カール保持性、カール弾力性が優れ、軽く、絡まりの発生が少なく、人毛に近い物性などかつら糸として要求される基本的は特性が優れるポリエステル系人工毛髪繊維を提供することにある。
【0012】
本発明のまた他の目的は、既存の人工毛髪に比べて耐熱性が10℃以上高くて、人毛と混合して用いる時に人毛の最高こて温度まで耐えることができるかつらを提供することにある。
【0013】
本発明のまた他の目的は、紡糸時に糸切現象が発生しないポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の上記及びその他の目的は、下記で説明される本発明によって全て達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維を提供する。前記難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は、(A)ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂100重量部;(B)高分子型臭素系難燃剤15ないし40重量部;(C)酸化アンチモン0.05ないし1重量部;及び(D)つや消し剤0.05ないし2重量部を含んでなる。
【0016】
ある具体例では、前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂(A)は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、またはシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンイソフタレートとが共重合されたポリマーである。また、前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂(A)は常温で0.7〜1.1dl/gの固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)を有する。
【0017】
前記高分子型臭素系難燃剤(B)は、10,000〜60,000の範囲の数平均分子量を有する。
【0018】
本発明の好ましい具体例では、前記酸化アンチモン(C)は、三酸化アンチモンである。前記三酸化アンチモンは0.1〜1.0μmの平均粒径を有する。
【0019】
また、前記つや消し剤(D)は、二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物が用いることができる。前記つや消し剤(D)は、0.01〜1.0μmの範囲の平均粒径を有するのが好ましい。
【0020】
更に、本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は、熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃補助剤及び無機充填剤などの通常の添加剤を含んでも良い。
【0021】
本発明のある具体例では、前記難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は繊度が30〜100デニールである。
【0022】
本発明は、前記難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維を用いたかつらを提供する。
【0023】
本発明は、難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法を提供する。
【0024】
前記製造方法は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂、高分子型臭素系難燃剤、酸化アンチモン、及びつや消し剤を混合した組成物を押出してペレット状に製造し;該ペレットを水分率500ppm以下になるように乾燥させ;及び前記乾燥されたペレットを溶融紡糸する;段階を含んでなる。
【0025】
具体例では、前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂100重量部に、高分子型臭素系難燃剤15〜40重量部、酸化アンチモン0.05〜1重量部、及びつや消し剤0.05〜2重量部で用いられる。
【0026】
更に、前記混合した組成物を押出してペレット状に製造する前に、乾燥する段階を含んでも良い。
【0027】
ある具体例において、更に、本発明の製造方法は前記溶融紡糸した後、2〜5倍の延伸比で延伸する段階を含んでも良い。
【0028】
また、更に、前記延伸された延伸糸を150〜280℃の範囲に加熱された熱処理装置で熱処理する段階を含んでも良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、鮮明な色相、カール形成性、カール保持性、及びカール弾力性が優れ、軽く、絡まりの発生が少なく、人毛に近い物性などかつら糸として要求される基本的な特性はもちろん、人毛水準の難燃性と耐熱性とを備えるポリエステル系人工毛髪繊維を提供し、また既存の人工毛髪に比べて耐熱性が10℃以上高くて、人毛と混合して使用する場合に人毛の最高こて温度まで耐えることができるかつらを提供する。また、本発明は、紡糸時に糸切現象が発生しないポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法を提供する発明の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
【0031】
但し、本発明の単純な変形ないし変更は、この分野の通常の知識を有する者により容易に実施でき、このような変形や変更はすべて本発明の範囲に含まれる。
【0032】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は、(A)ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂、(B)高分子型臭素系難燃剤、(C)酸化アンチモン及び(D)つや消し剤を含んでなる。
【0033】
(A)ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂
従来にはポリエステル系人工毛髪に用いられる基礎樹脂としてPET、PBT、PPTなどの樹脂が用いられてきた。しかしながら、これら樹脂は耐熱性が劣るという問題点があった。したがって、本発明ではPCT系樹脂を基礎樹脂として用いる。本発明のPCT系樹脂は既存のPET、PBT、PPT樹脂とは異なりに、分子構造内にシクロヘキサン環が存在するため、通常のポリエステルより高融点を表す。
【0034】
本発明のポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂は、シクロアリファチックジオール(cycloaliphatic diol)と芳香族ジアシド(aromatic diacid)化合物から誘導されたものである。具体例では、テレフタル酸及び/またはその誘導体と1,4−シクロヘキサンジメタノールとを直接エステル化反応またはエステル交換反応をして縮重合した重合体を用いることができる。また他の具体例では、ジオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノールを用い、ジアシド成分として、テレフタル酸及び/またはその誘導体を80〜99%、イソフタル酸及び/またはその誘導体を1〜20%用いた共重合体を用いることができる。前記テレフタル酸誘導体としてはジメチルテレフタレートを用いることができる。前記イソフタル酸誘導体としてはジメチルイソフタレートを用いることができる。
【0035】
本発明のポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂は、好ましくは、o−クロロフェノール溶液中で常温(25℃)で測定する時、固有粘度[η]が約0.7ないし1.1dl/g、より好ましくは約0.75ないし1.0dl/gである。固有粘度が0.7dl/g未満または1.1dl/gを超える場合、難燃剤との均一な混合が難しく、これにより紡糸、延伸工程における糸切発生が増加することになる。
【0036】
本発明の他の具体例では、前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートを、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトル、4−ヒドロキシベンゾ酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、低分子量脂肪族ポリエステルまたは脂肪族ポリアミドなどの共重合成分と共重合して用いることができる。
【0037】
本発明のまた他の具体例では、前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートを価格的側面を考慮して、通常のポリエステル樹脂のPET、PBT、PPT樹脂などとブレンドしたり、または共重合して用いることができる。
【0038】
(B)高分子型臭素系難燃剤
前記臭素系難燃剤は、本発明のポリエステル系人工毛髪繊維において難燃剤として用いられる。一般に、臭素系難燃剤としては、ポリブロモスチレン系難燃剤、ポリジブロモスチレン共重合体難燃剤、フェノキシ末端カーボネートオリゴマー難燃剤、デカブロモジフェニルエタン難燃剤、デカブロモジフェニルオキサイド難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤などがある。
【0039】
本発明では高分子型臭素系難燃剤が好ましく適用されることができ、より好ましくは臭素化エポキシ系難燃剤または臭素化フェノキシ系難燃剤が適用できる。前記臭素化エポキシ系難燃剤は下記化1の反復単位を有する:
【0040】
【化1】

【0041】
前記構造式において、nは重合度として17〜100の範囲である。
本発明の高分子型臭素系難燃剤は、好ましくは、10,000〜60,000の範囲の数平均分子量を有する。もし、数平均分子量が10,000未満である場合、耐ドリップ性が不良になり、数平均分子量が60,000を超える場合、PCT系樹脂との均一な混合がなされなくなり、紡糸および延伸中に糸切が発生し、繊度が不均一になる傾向がある。よって、前記高分子型臭素系難燃剤はより好ましくは20,000〜60,000である。
【0042】
他の具体例では、前記臭素化エポキシ系難燃剤と共にまたは代替してポリブロモスチレン系難燃剤及びポリジブロモスチレン共重合体難燃剤を用いることができる。
【0043】
本発明において、前記高分子型臭素系難燃剤は、PCT系樹脂100重量部に対して15ないし40重量部、好ましくは17ないし35重量部、より好ましくは20ないし30重量部で用いることができる。15重量部未満で用いる場合、十分な難燃性を得ることができなく、燃焼時にドリップ(drip)が発生することがある。また、40重量部を超える場合、PCT系樹脂との均一な混合がなされなくなり、繊維形成が不可能になる。
【0044】
(C)酸化アンチモン
本発明の酸化アンチモンは難燃補助剤として用いられる。前記酸化アンチモンとしては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどがあり、好ましくは三酸化アンチモンである。前記三酸化アンチモンを適用する場合、難燃性と耐ドリップ性とを高めて、樹脂に配合される難燃剤の含量を下げることができる。
【0045】
本発明に好適な酸化アンチモンは、平均粒径が0.1ないし1.0μmである。酸化アンチモンの粒径が0.1μm未満であると分散性が不良になる。反面、酸化アンチモンの粒径が1.0μmを超えると繊維表面に多数の突起が形成されるため、繊維表面の滑らかさが低下するだけでなく櫛通り性も不良になる。
【0046】
一般に、難燃性の上昇効果を得るための三酸化アンチモンは、通常樹脂100重量部に対して5ないし20重量部程度に用いられることが知られている。しかしながら、前記のように、かつら用原糸に三酸化アンチモンを大量に添加する場合、かつら用原糸から要求される鮮明な色相を得ることができない。本発明では、酸化アンチモンをPCT系樹脂100重量部に対して0.05ないし1重量部で用いる。酸化アンチモンの量が0.05重量部未満であると難燃効果が不足であり、1重量部を超えると鮮明な色相の人工毛髪を得ることができない。好ましくは0.1ないし0.9重量部、より好ましくは0.2ないし0.7重量部で適用される。
【0047】
(D)つや消し剤
本発明では、PCT糸の光沢を人毛の光沢の水準に低下させるためにつや消し剤を添加する。一般に、つや消し剤としては、二酸化珪素、タルク、二酸化チタン、カオリンなどが用いられ、好ましくは二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物が用いることができる。より好ましくは、つや消し効果が卓越で鮮明な色相を得ることのできる二酸化珪素である。
【0048】
前記つや消し剤は、0.01〜1.0μmの範囲の平均粒径を有するのが好適である。粒径が0.01μm未満の場合、コンパウンディング工程において凝集を起こして、紡糸、延伸工程で糸切の発生が増加する。これに対し、粒径が1.0μmを超える場合、繊維表面に多数の突起が形成されるため、人工毛髪に適用するには好適ではない。
【0049】
前記つや消し剤は、PCT樹脂100重量部に対して0.05ないし2重量部で適用される。もしつや消し剤を0.05重量部未満で用いる場合、つや消し効果が不足であり、2重量部を超える場合、着色された人工毛髪の色相を濁らせて鮮明で美しい色相の糸を得ることができない。また、紡糸、延伸過程において断糸発生が増加して表面に突起が発生し、くしけずりの際に絡まり現象が増加して人造毛髪用繊維として不適合となる。前記つや消し剤は、PCT樹脂100重量部に対して好ましくは0.05ないし1重量部、より好ましくは0.07ないし0.6重量部である。
【0050】
本発明では、更に、前記構成要素の以外にも必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃補助剤、無機充填剤などの通常の添加剤を含ませても良い。前記添加剤は、単独で適用したり2種以上混合して適用することができる。前記難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤などを用いることができる。
【0051】
本発明は、前記難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法を提供する。前記製造方法は、前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂、高分子型臭素系難燃剤、酸化アンチモン、及びつや消し剤を混合した組成物を押出してペレット状に製造し、該ペレットを溶融紡糸する段階を含んでなる。
【0052】
具体例では、前記組成物は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂100重量部、高分子型臭素系難燃剤15〜40重量部、酸化アンチモン0.05〜1重量部、及びつや消し剤0.05〜2重量部を含む。
【0053】
本発明で基礎樹脂として用いられるPCT樹脂は、溶融流れ性が速いため、難燃剤と溶融混合する前及び溶融紡糸の前に、十分に乾燥して水分を除去するのが好ましい。
【0054】
好ましい具体例では、本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂、高分子型臭素系難燃剤、酸化アンチモン、及びつや消し剤を混合した組成物を押出してペレット状に製造し;該ペレットを水分率500ppm以下になるように乾燥させ;及び前記乾燥されたペレットを溶融紡糸する段階により製造される。
【0055】
更に、より好ましくは、前記混合した組成物を押出してペレット状に製造する前に乾燥する段階を含ませることができる。前記乾燥段階は、通常窒素雰囲気下で80〜180℃、好ましくは95〜150℃で3ないし10時間、好ましくは4ないし8時間乾燥する。乾燥が十分ではないと紡糸工程において糸切の発生が増加する。
【0056】
前記乾燥された混合組成物は、通常の方法で押出してペレット形態に製造する。押出機としては二軸押出機が好ましく適用される。
【0057】
前記押出されたペレットは、溶融紡糸前に乾燥する段階を更に含ませることができる。前記乾燥段階は、通常窒素雰囲気下で80〜180℃、好ましくは95〜150℃で3ないし10時間、好ましくは4ないし8時間乾燥して水分率500ppm以下、好ましくは水分率が0〜100ppmになるようにする。
【0058】
前記のように乾燥段階を経たペレットは、通常の方法で溶融紡糸することができる。ある具体例では、押出機の先端部にノズルが装着された押出機に投入して未延伸糸を製造する。紡糸口金の形態は特別な制限がなく、例えば、ピーナッツ形、星形、楕円形、中空楕円形などが用いることができる。紡糸温度は、押出機のシリンダーの温度を200〜350℃にする。
【0059】
更に、前記未延伸糸は、延伸装置で2〜5倍の延伸比で延伸する段階を含ませることができる。延伸装置は通常加熱ドラム延伸装置を用いることができるが、必ずこれに限定されるのではない。
【0060】
更に、前記延伸された延伸糸は、150〜280℃の範囲で加熱された熱処理装置で熱処理する段階を含ませることができる。前記熱処理方法及び熱処理装置は通常の方法及び装置を適用することができ、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により容易に実施することができる。
【0061】
前記のように熱処理して得られた本発明のポリエステル系人工毛髪繊維は、30〜100デニールの繊度を有する。
【0062】
本発明の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維は、120〜240℃の美容熱機構(ヘアアイロン)でも変形がほとんどなくて耐熱性が優れ、難燃性が非常に優れるだけでなく、ドリップ性もほとんどなく、人毛に近い光沢を有し、また色相が鮮明であって、かつらとして用いるに非常に好適である。
【0063】
本発明は、前記難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維を用いたかつらを提供する。
【0064】
前記かつらは、通常の方法で製造することができ、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により容易に製造することができる。
【0065】
本発明は、下記の実施例によりより一層理解することができ、下記の実施例は本発明の具体的な例示目的のためであり、添付の特許請求の範囲により限定される保護範囲を制限しようとするものではない。
【実施例】
【0066】
下記実施例及び比較例で用いられた各成分の仕様は次の通りである。
【0067】
(A)ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂0.77dl/gの固有粘度を有するイーストマンケミカル社のPCT21394製品を用いた。
【0068】
(B)高分子型臭素系難燃剤
(B1)数平均分子量が30,000の阪本薬品社のT20000製品を用いた。
【0069】
(B2)数平均分子量が40,000の東都化成社のYPB43C製品を用いた。
【0070】
(C)酸化アンチモン
日星アンチモン社で製造した三酸化アンチモンのANTIS−Pを用いた。
【0071】
(D)つや消し剤
デグサ(Degussa)社で製造した二酸化珪素のACEMATT820を用いた。
【0072】
実施例1〜4
前記各構成成分を下記表に記載したような含量で混合した。これを窒素雰囲気下で130℃で6時間乾燥した後、ツインスクリューコンパウンダーに投入してペレットを製造した。該ペレットを紡糸直前に、窒素雰囲気下で130℃で6時間乾燥して水分率を500ppm以下にし、押出機の先端部にノズルが付着された押出機に投入して160ホールのノズルを用いて溶融紡糸して、200デニールの未延伸糸を製造した。紡糸温度は、押出機のシリンダー部の温度を300℃にした。製造された未延伸糸は、加熱ドラム延伸装置で4倍延伸して延伸糸を作った。該延伸糸を250℃に加熱された熱処理装置で熱処理して30〜100デニールの人工毛髪用繊維を製造した。
【0073】
比較例1
高分子型臭素系難燃剤の含量を45重量部に変更したことを除いては前記実施例1と同様に行った。
【0074】
比較例2
高分子型臭素系難燃剤の含量を10重量部に変更したことを除いては前記実施例1と同様に行った。
【0075】
*物性測定方法
(1)耐熱性:
延伸された糸160本を10本束ねて集束した後、集束された糸を手でつかんで230℃に加熱した特殊に製作した家庭用電気ヘアアイロン(Recca製品)間に挟み、10秒間加熱して収縮による繊維の変更状態、融着による変形などを肉眼で判定した。熱処理後に変形がなければ耐熱性良好と判定し、変形が発生したら不良と判定した(二重○:全然変形がない、○:軽微な収縮変形があるが外見は損傷させない水準である、△:収縮変形が発生して外見が損傷される、×:収縮変形及び融着が発生する)。
【0076】
(2)難燃性:
糸160本を15cm切った後、火炎長さを2cmに調整した火炎を5秒間接触させた。その後、火炎を除去して消火される時間を測定して判定した(二重○:消炎所要時間1秒以内、○:消炎所要時間3秒以内、△:消炎所要時間5秒以内、×:消炎所要時間6秒以上)。
【0077】
(3)ドリップ性:
繊維束に炎を接触させて引火される過程において溶融樹脂がドリップされる現象を測定した。ドリップ性は、ドリップされる溶融樹脂のドリップ個数を測定した。糸160本で集束した繊維束を垂直に垂れてから30mmを近づけて100mm焼させながらドリップ回数を測定した(二重○:ドリップ数0、○:ドリップ数1〜2、△:ドリップ数3〜4、×:ドリップ数4回超過)。
【0078】
(4)光沢:
集束された糸束80,000デニール(160ホール×50デニール×10本)の人工毛髪を10cmの長さに切って太陽光下で肉眼で光沢を評価した(二重○:人毛に近い光沢、○:人毛より強い光沢、△:人毛より少ない光沢、×:光沢が人毛より少なく濁色である)。
【0079】
(5)色相の鮮明性:
集束された糸束80,000デニール(160ホール×50デニール×10本)の人工毛髪を10cmの長さに切って太陽光下で肉眼で鮮明性を評価した。鮮明性の判定は1ないし4段階に分けて評価した(二重○:最も鮮明、○:鮮明、△:若干鮮明でない、×:濁る)。
【0080】
(6)工程性:
紡糸工程において5時間間の糸切発生回数を測定して判定した(二重○:糸切発生0回、○:糸切発生1回、△:糸切発生2〜3回、×:糸切発生4回以上)。
【0081】
【表1】

【0082】
前記表1の結果から、用いられた高分子型臭素系難燃剤の含量が多すぎる比較例1は、耐熱性、強度及び伸度が低下していることが確認できた。かつ、紡糸時に糸切現象が増加したことも分かる。また、高分子型臭素系難燃剤の含量を少なく用いた比較例2は、難燃性及び耐ドリップ性が低下していることが分かる。
【0083】
実施例5〜7:三酸化アンチモンの添加量による実験
高分子型臭素系難燃剤を30重量部用い、三酸化アンチモンの含量を変更したことを除いては前記実施例1と同様に遂行した。実験の結果は表2に表した。
【0084】
比較例3
三酸化アンチモンの含量を0.03重量部で用いたことを除いては前記実施例5と同様に行った。
【0085】
比較例4
三酸化アンチモンの含量を1.5重量部で用いたことを除いては前記実施例5と同様に行った。
【0086】
【表2】

【0087】
前記表2から、酸化アンチモンの含量を少なく用いた比較例3は、難燃性、耐ドリップ性が低下し、酸化アンチモンを多く用いた比較例4は、光沢がよくなく、鮮明性が劣り、紡糸時に糸切が増加した。
【0088】
実施例8〜10:つや消し剤の添加量による実験
高分子型臭素系難燃剤を25重量部で用い、つや消し剤の含量を変更したことを除いては前記実施例1と同様に遂行した。実験の結果は表3に表した。
【0089】
比較例5
つや消し剤の含量を0.03重量部で用いたことを除いては前記実施例8と同様に行った。
【0090】
比較例6
つや消し剤の含量を3重量部で用いたことを除いては前記実施例8と同様に行った。
【0091】
【表3】

【0092】
前記表3から、つや消し剤の含量を少なく用いた比較例5は、難燃性、耐ドリップ性及び光沢が高すぎて、つや消し剤を多く用いた比較例6は、鮮明性が劣り、強度が低下した。また、紡糸工程で糸切が増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂100重量部と、
(B)高分子型臭素系難燃剤15ないし40重量部と、
(C)酸化アンチモン0.05ないし1重量部と、及び
(D)つや消し剤0.05ないし2重量部とを
含んでなることを特徴とする、難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項2】
前記ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂(A)は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、またはシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンイソフタレートとが共重合されたポリマーであり、常温で0.7〜1.1dl/gの固有粘度(IV)を有することを特徴とする、請求項1に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項3】
前記高分子型臭素系難燃剤(B)は、下記化1の反復単位を有し、10,000〜60,000の範囲の数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維:
【化1】

前記構造式において、nは重合度として17〜100の範囲である。
【請求項4】
前記酸化アンチモン(C)は、三酸化アンチモンであることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項5】
前記三酸化アンチモンは、0.1〜1.0μmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項4に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項6】
前記つや消し剤(D)は、二酸化珪素、タルクまたはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項7】
前記つや消し剤(D)は、0.01〜1.0μmの範囲の平均粒径を有することを特徴とする、請求項6に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項8】
更に、熱安定剤、光安定剤、紫外線安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃補助剤及び無機充填剤よりなる群から選択された一つ以上の添加剤を含むことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項9】
繊度が30〜100デニールであることを特徴とする、請求項8に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維。
【請求項10】
請求項9に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維を用いたかつら。
【請求項11】
ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系(PCT)樹脂、高分子型臭素系難燃剤、酸化アンチモン、及びつや消し剤を混合した組成物を押出してペレット状に製造し、前記ペレットを水分率500ppm以下になるように乾燥させ、及び前記乾燥されたペレットを溶融紡糸する段階を含んでなることを特徴とする、難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項12】
前記組成物は、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート系樹脂100重量部、高分子型臭素系難燃剤15〜40重量部、酸化アンチモン0.05〜1重量部、及びつや消し剤0.05〜2重量部を含むことを特徴とする、請求項11に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項13】
更に、前記混合した組成物を押出してペレット状に製造する前に乾燥する段階を含むことを特徴とする、請求項11に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項14】
更に、前記溶融紡糸した後、2〜5倍の延伸比で延伸する段階を含むことを特徴とする、請求項11に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法。
【請求項15】
更に、前記延伸された延伸糸を150〜280℃の範囲に加熱された熱処理装置で熱処理する段階を含むことを特徴とする、請求項14に記載の難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−197379(P2009−197379A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148312(P2008−148312)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(508169432)ウノ アンド カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】UNO & COMPANY LTD.
【Fターム(参考)】