説明

難燃性ポリエステル系樹脂組成物及びこれを用いてなる成形品

【課題】難燃性、透明性、耐熱性の全てに優れた、新たな難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)と、当該ポリエステル系樹脂(A)と完全相溶するポリエステル系樹脂(B)との混合物を含有し、該混合物中に占める(A)の割合が20質量%以上60質量%以下であり、該混合物の結晶融解熱量ΔHmが20J/g以上40J/g以下であって、かつ該混合物中に占めるリン原子の含有量が5,000ppm以上20,000ppm以下であることを特徴とする難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性、透明性、耐熱性を備えた難燃性ポリエステル系樹脂組成物、及び、これを用いてなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの汎用プラスチックは燃焼しやすいため、難燃性を付与するために主としてハロゲン系化合物を配合したハロゲン配合樹脂、特に臭素系化合物を配合した臭素配合樹脂が使用されてきた。
しかし、ハロゲン配合樹脂は、燃焼時にダイオキシン類のような有害ガスを発生する場合があり、廃棄物焼却処理やサーマルリサイクルの際の安全性に課題があった。
ハロゲン配合樹脂の代替として、リン系化合物を配合したリン配合樹脂を挙げることができるが、安全性や環境調和性の点で十分に満足できないことに加え、成形性や耐熱性等の実用面でも問題が指摘されていた。
【0003】
ポリエステル系樹脂も可燃性樹脂であるため、ハロゲン系化合物やリン系化合物をポリエステル系樹脂に配合することにより、難燃化する手法が開示されている(例えば特許文献1、2参照)。
また、リン系化合物をポリエステル系樹脂に共重合した難燃性ポリエステルが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−79846号公報
【特許文献2】特開平9−111100号公報
【特許文献3】特許第3575605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハロゲン系化合物をポリエステル系樹脂に配合した場合には、前述のように、燃焼時に有害ガスを発生するなど安全性の点で問題があり、また、リン系化合物をポリエステル系樹脂に配合した場合には、耐熱性の低下や成形品表面へのリン系化合物のブリード等の問題が指摘されていた。
他方、リン系化合物をポリエステル系樹脂に共重合する場合には、ガラス転移温度の低下や成形体表面へのブリードの問題は生じないものの、ポリエステル系樹脂の結晶性が著しく低下するため、熱変形温度等の実用的な耐熱性の低下を生じるといった課題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、難燃性、透明性、耐熱性の全てに優れた、新たな難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)と、当該ポリエステル系樹脂(A)と完全相溶するポリエステル系樹脂(B)との混合物を含有し、該混合物中に占める(A)の割合が20質量%以上60質量%以下であり、該混合物の結晶融解熱量ΔHmが20J/g以上40J/g以下であって、かつ該混合物中に占めるリン原子の含有量が5,000ppm以上20,000ppm以下であることを特徴とする難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性、透明性、耐熱性の全てに優れた難燃性ポリエステル系樹脂組成物、及び、それを用いてなる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の1つの例としての樹脂組成物について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0010】
<本樹脂組成物>
本発明の実施形態の一例に係る難燃性ポリエステル系樹脂組成物(以下「本樹脂組成物」と称する)は、リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)と、当該ポリエステル系樹脂(A)と完全相溶するポリエステル系樹脂(B)との混合物を含有する樹脂組成物である。
【0011】
<リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)>
リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)は、ポリエステル系樹脂の主鎖又は側鎖にリン化合物が共重合されてなる樹脂である。
【0012】
リン化合物としては、リンを含有する多価カルボン酸、或いは、多価アルコールを用いることができる。例えば特開昭63−168452号公報の第2頁右下欄16行〜第4頁左下欄第4行に記載されたリン化合物などを使用することができる。但し、これらに限定するものではない。
【0013】
ここで、リンを含有する多価カルボン酸以外の多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分を挙げることができる。これらの多価カルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
また、リンを含有する多価アルコール以外の多価アルコール成分としては、例えばジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などを挙げることができる。これらの多価アルコール成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
ポリエステル系樹脂(A)のジオール成分中に占めるリン化合物を含有するモノマー量は、15〜40モル%であることが好ましく、20モル%以上、或いは35モル%以下であるのがより好ましい。かかる範囲とすることにより、ポリエステル系樹脂(A)及び(B)からなる混合物中に占めるリン原子の含有量を5,000ppm以上20,000ppm以下とすることができ、難燃性と透明性を向上させることができる。
【0016】
ポリエステル系樹脂(A)の固有粘度は、0.65dl/g〜1.6dl/gであるのが好ましく、0.7dl/g以上、或いは1.4dl/g以下であるのがより好ましく、0.8dl/g以上、或いは1.2dl/g以下であるのがさらに好ましい。固有粘度が0.65dl/g以上であれば、前記ポリエステル系樹脂(B)の機械強度、耐熱性を低下させることなく難燃性を付与することができる。一方、固有粘度が1.6dl/g以下であれば、溶融時の粘度が高過ぎることなく、製造、生産性向上の観点において好ましい。
【0017】
ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、ポリエステル系樹脂(B)との混合物における耐熱性、延伸性の点で、60〜85℃であるのが好ましく、中でも65℃以上或いは80℃以下、その中でも70℃以上或いは75℃以下であるのが特に好ましい。
【0018】
ポリエステル系樹脂(A)の結晶融解熱量ΔHmは、ポリエステル系樹脂(B)との混合物における耐熱性の点で、1〜20J/gであるのが好ましく、中でも2J/g以上或いは15J/g以下、その中でも3J/g以上或いは10J/g以下であるのが特に好ましい。
【0019】
以上の条件を満足するポリエステル系樹脂(A)の具体例としては、例えば東洋紡績社製バイロンGH215B、GH230B等を挙げることができる。
【0020】
<ポリエステル系樹脂(B)>
ポリエステル系樹脂(B)としては、ポリエステル系樹脂(A)と完全相溶する樹脂であることが重要である。
リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)は、リンがポリマー全体に均一に共重合されるため、ポリマー全体の結晶性が低下して耐熱性が劣ることになってしまう。これに対し、ポリエステル系樹脂(A)にポリエステル系樹脂(B)をブレンドすることで、結晶性の低い部分と高い部分とがポリマー中に存在することになり、ポリエステル系樹脂(A)単独の場合に比べて耐熱性を顕著に高くすることができる。
【0021】
ここで、「完全相溶する」とは、ポリエステル系樹脂(A)及び(B)の混合樹脂のガラス転移温度が単一であることを意味し、ガラス転移温度が単一であるとは、混合樹脂をJIS K−7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量系を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示すピークが一つだけ現れるという意味である。別の観点から見れば、前記混合樹脂を、歪み0.1%、周波数10Hzにて動的粘弾性測定(JIS K−7198 A法の動的粘弾性測定)により測定した際に、損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するという意味である。
また、ガラス転移温度(或いは損失正接の極大値)が単一であるということは、ポリエステル系樹脂(A)及び(B)が分子レベルで相溶し、海島構造をとらないことを意味している。
【0022】
仮にポリエステル系樹脂(A)及び(B)が非相溶である場合には、海島構造となり、リンが海、若しくは島に偏在するために難燃性が低下してしまう。これに対し、本樹脂組成物の場合には海島構造をとらないため、高い難燃性を得ることができる。
例えばポリエステル系樹脂(A)のベース樹脂がポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートであれば、ポリエステル系樹脂(B)はポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートであるのが好ましい。但し、同じ樹脂に限定するものではない。
【0023】
ポリエステル系樹脂(B)として使用可能なポリエステル系樹脂としては、多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られる脂肪族ポリエステル系樹脂、或いは、芳香族ポリエステル系樹脂を挙げることができる。
【0024】
この際、上記の多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分を挙げることができる。これらの多価カルボン酸成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
他方、上記の多価アルコール成分としては、例えばジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などを挙げることができる。これらの多価アルコール成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
前記多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とにより構成されるポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート共重合体等を挙げることができる。
【0027】
ポリエステル系樹脂(B)の固有粘度は、0.65dl/g〜1.6dl/gであることが好ましく、0.7dl/g以上、或いは1.4dl/g以下であることがより好ましく、0.8dl/g以上、或いは1.2dl/g以下であることがさらに好ましい。固有粘度が0.65dl/g以上であれば、樹脂組成物の機械強度や耐熱性の不足を生じることがない。一方、固有粘度が1.6dl/g以下であれば、溶融時の粘度が過剰に高過ぎることがなく、製造、生産性向上の観点において好ましい。
【0028】
ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上、好ましくは55℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上であり、結晶融解熱量ΔHmは、40J/g以上、好ましくは45J/g以上である。
前記ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度が50℃以上、かつ、結晶融解熱量ΔHmが40J/g以上であれば、リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)を混合した際にも、ポリエステル系樹脂(B)の結晶性が維持され、十分な耐熱性、機械特性を有する樹脂組成物を提供することができる。
なお、ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度の上限値、及び結晶融解熱量ΔHmの上限値は特に限定されるものではないが、ガラス転移温度が140℃以下であり、結晶融解熱量ΔHmが90J/g以下であれば、十分な二次加工性を備えた樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
<本樹脂組成物>
ポリエステル系樹脂(B)と、ポリエステル系樹脂(A)との混合物中に占める(B)の割合は、40〜80質量%であることが重要であり、より好ましくは45質量%以上、或いは75質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上、或いは80質量%以下、言い換えれば、ポリエステル系樹脂(B)が50質量%以上を占める主成分である場合が特に好ましい。
このように、ポリエステル系樹脂(B)の割合が高くなれば、耐熱性を高めることができるため、耐熱性が要求される用途においては、ポリエステル系樹脂(B)の混合割合が50質量%以上であるのが好ましい。
【0030】
また、前記混合物中に占めるリン原子の含有量は、5,000ppm〜20,000ppmであることが重要であり、より好ましくは7,000ppm以上、或いは18,000ppm以下であり、さらに好ましくは10,000ppm以上、或いは15,000ppm以下である。
【0031】
さらに、前記混合物の結晶融解熱量ΔHmは20〜40J/gであることが重要であり、より好ましくは25J/g以上、或いは40J/g以下であり、さらに好ましくは30J/g以上、或いは40J/g以下である。
【0032】
さらに、前記混合物の固有粘度は0.65〜1.6dl/gであることが好ましく、0.7dl/g以上、或いは1.4dl/g以下であることがより好ましく、0.8dl/g以上、或いは1.2dl/g以下であることがさらに好ましい。固有粘度が0.65dl/g以上であれば、樹脂組成物の機械強度や耐熱性の不足を生じることがない。一方、固有粘度が1.6dl/g以下であれば、溶融時の粘度が過剰に高過ぎることがなく、製造、生産性向上の観点において好ましい。
【0033】
前記混合物中に占めるリン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)の配合量、前記混合物中に占めるリン原子の含有量、前記混合物の結晶融解熱量ΔHm、及び、前記混合物の固有粘度をかかる範囲内とすることにより、本樹脂組成物に優れた難燃性、耐熱性を発現することができる。また、リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)は、ポリエステル系樹脂(B)との相溶性が良好であるため、透明性にも優れた樹脂組成物を提供することができる。
【0034】
また、本樹脂組成物の効果が阻害されない範囲内で、各種の添加剤やその他の樹脂、架橋剤などが含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、難燃剤、アクリル樹脂、その他のポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを用いることができる。
【0035】
<樹脂組成物の用途>
本樹脂組成物は、フィルム、プレート、または、射出成形品等に成形することができる。この中でも特に少なくとも1方向に延伸してなる延伸フィルムに成形して用いることが耐熱性や各種機械特性の点から好ましい。
具体的な成形方法としては、リン化合物を共重合してなるポリエステル系樹脂(A)及び、ポリエステル系樹脂(B)、必要に応じてその他の樹脂や添加剤等の原料を直接混合し、押出機或いは射出成型機に投入して成形するか、または、前記原料を二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作成した後、このペレットを押出機或いは射出成型機に投入して成形する方法を挙げることができる。いずれの方法においても、ポリエステル系樹脂の加水分解による分子量の低下を考慮する必要があり、均一に混合させるためには後者を選択するのが好ましい。そこで、以下後者の製造方法について説明する。
【0036】
リン化合物を共重合してなるポリエステル系樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B)及び、必要に応じてその他の樹脂や添加剤を十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作成する。この際、各原料の組成比や配合割合によって粘度が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。具体的には、成形温度は250℃以上、300℃以下が好ましく、260℃以上、290℃以下がより好ましく、260℃以上、280℃がさらに好ましい。
【0037】
前記方法にて作製したペレットは、十分に乾燥させて水分を除去した後、以下の方法でフィルム、プレート、または、射出成形品の成形を行うことができる。
【0038】
キャストフィルム、延伸フィルムの成形方法としては、前記方法にて作製したペレットを単軸、あるいは、二軸押出機を用いて250℃〜300℃の押出温度で溶融混練し、Tダイのスリット状の吐出口から押し出し、冷却ロールに密着固化させてキャストフィルム(未延伸状態)を形成する。
【0039】
次いで、得られたキャストフィルムを少なくとも1方向に延伸することで延伸フィルムを得る。延伸する際の延伸温度は、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)程度から(Tg+50℃)の範囲内の温度であることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合には80℃以上、120℃以下であることが好ましい。延伸温度がこの範囲であれば、延伸時の破断や、延伸不足による耐熱性、機械特性の低下を生じることがない。また、延伸は面積倍率で2倍以上に行うことが好ましく、9倍以上に延伸することが更に好ましい。面積倍率で2倍以上に延伸することにより、優れた耐熱性、機械特性を付与することができる。なお、耐熱性、機械特性に異方性を生じないためには二軸延伸を行うことが特に好ましい。
【0040】
二軸延伸を行う場合の延伸順序は特に制限されることはなく、例えば、同時二軸延伸でも逐次延伸でも構わない。延伸設備を用いて、溶融製膜した後、ロール延伸によってMDに延伸した後、テンター延伸によってTDに延伸してもよいし、チューブラー延伸等によって二軸延伸を行ってもよい。
【0041】
また、延伸フィルムに耐熱性、寸法安定性を付与するために、延伸後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は、例えばポリエチレンテレフタレートの場合、150℃以上230℃以下であることが好ましい。また、熱処理に要する時間は、1秒以上5分以下であることが好ましい。延伸設備等については特に限定はないが、延伸後に熱固定処理を行うことができるテンター延伸を行うことが好ましい。
【0042】
プレートの成形にはプレス法等の一般的な方法を用いることができ、射出成形体の成形には一般的な射出成形法、ガスアシスト成形法及び射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。その他目的に合わせて、前記の方法以外でインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法等を採用することもできる。
【0043】
本樹脂組成物から得られたフィルム、プレート、または、射出成形品は、難燃性、透明性、耐熱性に優れるため、用途は特に制限されるものではないが、例えば、建材、内装部品、透明基板、絶縁フィルム、樹脂被覆金属板用フィルム、成形(真空・圧空成形、熱プレス成形など)用フィルム、着色プレート、透明プレート、シュリンクチューブや、自動車内装材、家電製品筐体、各種部品、OA機器部品等の射出成形品等に使用できる。
【0044】
(用語の説明)
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0045】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
なお、本明細書中に表示される原料及び試験片についての種々の測定値及び評価は次の方法で行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向をMD、その直交方向をTDと呼ぶ。
【0047】
(1)固有粘度
試験サンプル1gをフェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量%)の割合で混合した溶媒100ml中に溶解させ、ウベローデ型粘度計にて30℃で測定を行った。
【0048】
(2)リン原子含有量
島津製作所社製XRF−1500を用いて、蛍光X線法によってリン原子含有量の測定を行った。
【0049】
(3)結晶融解熱量(ΔHm)
試験サンプルを5mmφの10mg程度の鱗片状に削り出し、パーキンエルマー製DSC−7を用い、JIS−K7121に基づいて、試験片を30℃から280℃まで10℃/分の速度にて昇温測定を行った。得られたサーモグラムより結晶融解熱量(ΔHm)を算出した。
【0050】
(4)難燃性(UL94VTM)
長さ200mm×幅50mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプルを用いて、Underwriters Laboratories社の安全標準UL94薄手材料垂直燃焼試験の手順に基づき、試験回数5回にて燃焼試験を実施し、燃焼の様子(特に燃焼中における滴下物の有無)を観察すると共に燃焼時間(試験回数5回の合計燃焼時間)を測定した。
UL94垂直燃焼試験UL94VTMの判定基準に基づき、VTM−0、1、2の規格を満たすか否か判例し、VTM−2を満たさないものは規格外と評価し、VTM−0を満たすものを合格とした。
【0051】
(5)透明性(ヘーズ)
JIS K7105に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を測定し、ヘーズを以下の式で算出した。厚み0.1mmでのヘーズが5%以下であるものを合格とした。
[ヘーズ]=[拡散透過率]/[全光線透過率]×100
【0052】
(6)耐熱性(TMA軟化温度)
長さ5mm×幅5mm×厚み0.1mmの評価用サンプルを用いて、JIS K7196に基づき、TMAによる軟化温度の測定を行った。雰囲気温度23℃、相対湿度50%、圧子への圧力0.5N、昇温速度5℃/分にてTMA曲線を測定し、圧子が侵入を始めるよりも低温側に認められる直線部分を高温側に延長し、侵入速度が最大となる部分の接線の低温側への延長との交点を針侵入温度とし、この値から軟化温度を算出した。TMA軟化温度は100℃以上を合格とした。
【0053】
[リン化合物を共重合してなるポリエステル系樹脂(A)]
(A)−1:バイロンGH230B(リン化合物共重合ポリエチレンテレフタレート、リン含有率30,000ppm、ジオール成分中に占めるリン化合物を含有するモノマー量37モル%、固有粘度=0.71dl/g、Tg:74℃、ΔHm:4.3J/g、二価金属は非含有)
(A)−2:バイロンGH215B(リン化合物共重合ポリエチレンテレフタレート、リン含有率15,000ppm、ジオール成分中に占めるリン化合物を含有するモノマー量19モル%、固有粘度=0.68dl/g、Tg:74℃、ΔHm:13.1J/g、二価金属は非含有)
【0054】
[ポリエステル系樹脂(B)]
(B)−1:三菱化学社製ノバペックスBK2180(ポリエチレンテレフタレート、固有粘度=0.83dl/g、Tg:76℃、ΔHm:46J/g)
【0055】
(実施例1)
(A)−1及び(B)−1を混合質量比20:80の割合で混合し、φ40mm同方向二軸押出機にて、Tダイ口金より270℃で押出した後、約75℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。
次に、MDに90℃の温度で3.0倍のロール延伸、TDに90℃の温度で3.0倍のテンター延伸を行い、さらに、テンターの熱処理ゾーンにて180℃の温度で熱処理して厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)を作製した。
得られた延伸フィルムに関して、結晶融解熱量、難燃性、透明性、耐熱性の評価を行った結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
(A)−1及び(B)−1を混合質量比40:60の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法で厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)の作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
(A)−1及び(B)−1を混合質量比60:40の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法で厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)の作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
(A)−1及び(B)−1を混合質量比10:90の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法で厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)の作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
(A)−1を単独で用い、実施例1と同様の方法で厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)の作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
(A)−2を単独で用い、実施例1と同様の方法で厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)の作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例4)
リン化合物を共重合してなるポリエステル系樹脂(A)の代わりに、リン系難燃剤として大八化学工業社PX−200(縮合リン酸エステル)を用い、(B)−1及びPX−200を混合質量比90:10の割合で混合した以外は実施例1と同様の方法で厚み0.05mmの延伸フィルム(サンプル)の作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)を単独で用いた場合には(比較例2及び3)、耐熱性が顕著に低いのに対し、これと相溶するポリエステル系樹脂(B)をブレンドすることで、耐熱性を顕著に高くすることができることが分かった。これは、 リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)に、これと相溶するポリエステル系樹脂(B)をブレンドすることで、結晶性の低い部分と高い部分とがポリマー中に存在することになり、耐熱性を顕著に高くすることができるものと考えることができる。
また、ポリエステル系樹脂(A)及び(B)が完全相溶するため、非相溶のように海島構造とならず、リンが海若しくは島に偏在することがないため、高い難燃性を得ることができることも分かった。
【0064】
実施例1−3の中で比べると、ポリエステル系樹脂(B)の割合が高くなれば、耐熱性をより一層高めることができ、耐熱性の観点からは、ポリエステル系樹脂(B)の混合割合が50質量%以上であるのが好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物が共重合されてなるポリエステル系樹脂(A)と、当該ポリエステル系樹脂(A)と完全相溶するポリエステル系樹脂(B)との混合物を含有し、該混合物中に占める(B)の割合が40質量%以上80質量%以下であり、該混合物の結晶融解熱量ΔHmが20J/g以上40J/g以下であって、かつ該混合物中に占めるリン原子の含有量が5,000ppm以上20,000ppm以下であることを特徴とする難燃性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
難燃性ポリエステル系樹脂組成物のUL94に基づく難燃性が、VTM−0又はV−0規格を満足することを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)からなる混合物中に占める(B)の割合が、50質量%以上、80質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
リン化合物を含有するポリエステル系樹脂(A)のジオール成分中に占めるリン化合物を含有するモノマー量が15モル%以上、40モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の難燃性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の難燃性ポリエステル系樹脂組成物を成形してなるフィルムであって、少なくとも1方向に延伸されていることを特徴とする延伸フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の難燃性ポリエステル系樹脂組成物を用いて成る成形体。


【公開番号】特開2012−31243(P2012−31243A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170082(P2010−170082)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】