説明

難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法

【課題】トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートによる白化が抑制された難燃性ポリエステル系繊維、繊維製品の製造方法の提供。
【解決手段】有機ポリイソシアネート化合物、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール、並びにカルボキシル基を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマと、水溶性ポリアミン、水溶性ヒドラジン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤とを水中で反応させてポリウレタン樹脂の分散液を得る。次にトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの水分散液を得る。前記ポリウレタン樹脂の分散液、及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させ難燃性ポリエステル系繊維製品を得る製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系繊維の難燃加工方法としては、代表的なハロゲン系難燃性化合物であるヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDと略す)を繊維に付与し、これに熱を与えることにより前記HBCDをポリエステル系繊維に浸透・定着させる加工方法が主流であった。しかしながら、前記HBCDは難分解性且つ高蓄積性の物質であるとして、第一種監視化学物質に指定されたため、自動車業界は2010年12月末迄に、繊維業界は2014年3月末迄に、前記HBCDの使用を全廃する方針を打ち出している。
【0003】
そこで、近年では、前記HBCDに代わる難燃成分として、ポリエステル系繊維への付着性(吸尽性)と難燃効果に優れたトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維の難燃加工に用いることが期待されている。しかしながら、この化合物をパディング処理やコーティング処理等の連続処理でポリエステル系繊維に付与した場合には、得られる繊維製品において、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが経時的にその表面にブリードアウトし、白化が生じるという問題があった。
【0004】
また、特開2007−284830号公報(特許文献1)においては、前記白化を抑制することを目的とした難燃性付与剤として、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートとビスフェノール系臭素化合物とを含有せしめたポリエステル布帛用難燃性付与剤が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載されている難燃性付与剤を用いる方法においては、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートに加えて、前記ビスフェノール系臭素化合物のような特定の難燃剤をさらに併用することが必要であるという問題を有しており、さらに、得られるポリエステル系繊維製品における耐白化性は未だ不十分であった。また、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートのポリエステル繊維への付着量を向上させることを目的としてアクリル系樹脂等のバインダー樹脂を用いると、摩擦堅牢度が低下するという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−284830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を製造する方法であって、高い摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができ、且つ、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートによる繊維製品表面の白化を十分に抑制することができる難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を製造する際、特定のイソシアネート基末端プレポリマーと特定の鎖延長剤とから得られるポリウレタン樹脂の分散液を、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液と併用して前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させることにより、高い摩擦堅牢度を有する難燃性のポリエステル系繊維製品を得ることができ、さらに、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートによる繊維製品表面の白化が十分に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法は、
有機ポリイソシアネート化合物(a)、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、並びに、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマー、及び/又は
有機ポリイソシアネート化合物(a)、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)、並びに、鎖伸長剤(d)を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、
水溶性ポリアミン、水溶性ヒドラジン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤(e)とを水中で反応させてポリウレタン樹脂の分散液を得る工程、
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを水に分散させてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を得る工程、及び
前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を得る難燃加工工程、
を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法においては、前記ポリウレタン樹脂において、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)に由来するカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.5〜2質量%であることが好ましい。
【0010】
前記難燃加工工程においては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを前記ポリエステル系繊維に付着させた後に、前記ポリウレタン樹脂の分散液を用いて前記ポリウレタン樹脂を前記ポリエステル系繊維に付着させるか、或いは、前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を含有する処理液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させることが好ましい。また、前記処理液としては、水分散性ポリカルボジイミド化合物、水分散性オキサゾリン化合物及び水分散性ポリイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有することがより好ましい。
【0011】
なお、本発明によって前記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の製造方法においては、特定のイソシアネート基末端プレポリマーと特定の鎖延長剤とから得られるポリウレタン樹脂の分散液を、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液と併用することにより、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが効率よく付着してポリエステル系繊維に優れた難燃性が付与されると共に、ポリエステル系繊維表面にポリウレタン樹脂の被膜が形成され、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが繊維表面にブリードアウトして白化が生じることが抑制されるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を製造する方法であって、高い摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができ、且つ、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートによる繊維製品表面の白化を十分に抑制することができる難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法は、イソシアネート基末端プレポリマーを得てポリウレタン樹脂の分散液を得る工程、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を得る工程、及び、前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させる難燃加工工程を含むことを特徴とするものである。
【0015】
(イソシアネート基末端プレポリマーを得る工程)
本発明に係るイソシアネート基末端プレポリマーは、
有機ポリイソシアネート化合物(a)、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、並びに、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマー、及び/又は
有機ポリイソシアネート化合物(a)、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)、並びに、鎖伸長剤(d)を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマーである。
【0016】
前記有機ポリイソシアネート化合物(a)としては、2個以上のイソシアネート基を有する有機化合物であればよく、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物及び芳香族ジイソシアネート化合物、及びこれらの化合物のイソシアネート基をブロック化剤で封鎖したブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0017】
前記脂肪族ジイソシアネート化合物の具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネートが挙げられる。
【0018】
前記脂環式ジイソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0019】
前記芳香族ジイソシアネート化合物の具体例としては、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0020】
前記ブロック化ポリイソシアネート化合物としては、前記脂肪族ジイソシアネート化合物、前記脂環式ジイソシアネート化合物及び前記芳香族ジイソシアネート化合物のイソシアネート基をフェノール、アルコール、マロン酸エチル、アセト酢酸エチル等のブロック化剤で封鎖したブロック化ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0021】
前記有機ポリイソシアネート化合物(a)としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの有機ポリイソシアネート化合物(a)の中でも、水との反応が遅いために分散液が得やすく、紫外線や酸化窒素ガスによる変色が少ないという観点から、脂環式ジイソシアネート化合物を用いることが好ましく、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0022】
前記数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)とは、2個以上の水酸基を有し、数平均分子量が400〜5000である化合物である。なお、下記のカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)は含まれない。数平均分子量が前記下限未満の場合には、ポリエステル系繊維製品の白化を十分に抑制することが困難になり、他方、前記上限を超える場合には、ポリウレタン樹脂の粘度が高くなるために取り扱いが困難となる。また、前記数平均分子量としては、白化抑制効果や取り扱い容易性がより向上するという観点から、1000〜4000であることが特に好ましい。なお、前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定され、数平均分子量が既知の標準物質のGPCによる測定結果から得られた検量線を用いて換算することにより求められる。
【0023】
このような数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)としては、例えば、数平均分子量が400〜5000(好ましくは1000〜4000)のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びダイマージオールが挙げられれる。
【0024】
前記ポリエステルジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリジエチレンアジペートジオール、ポリエチレンテレフタレートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクタムジオール、ポリエチレンイソフタレートジオール及びポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)のような脂肪族系ポリエステルジオールや、ポリヘキサメチレンイソフタレートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンイソフタレートジオール及び3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオールのような芳香族系ポリエステルジオールが挙げられる。
【0025】
前記ポリエーテルジオールの具体例としては、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレン・プロピレングリコールが挙げられる。
【0026】
前記ポリカーボネートジオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンカーボネートジオール及びポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0027】
前記ダイマージオールの具体例としては、重合脂肪酸を還元して得られるジオールを主成分とするものが挙げられる。このような重合脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸;乾性油脂肪酸;半乾性油脂肪酸;及びこれらの化合物の低級モノアルコールエステルをディールスアルダー反応により重合せしめて得られる反応生成物が挙げられる。前記重合脂肪酸としては、種々のタイプのものが市販されているが、例えば、代表的なものとしては、炭素数18のモノカルボン酸が0〜5質量%であり、炭素数36のダイマー酸が70〜98質量%であり、炭素数54のトリマー酸が0〜30質量%である重合脂肪酸が挙げられる。
【0028】
前記数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)の中でも、得られるポリウレタン樹脂の耐加水分解性、耐光性、耐熱性が優れるという観点から、ポリカーボネートジオール、芳香族系ポリエステルジオールを用いることが好ましい。
【0029】
前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)は、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有し、さらに、前記カルボキシル基及び/又は前記カルボキシレート基とは別に、少なくとも2個の活性水素を有する化合物である。また、前記化合物(c)がカルボキシレート基(c)を有する場合には、前記カルボキシレート基はカルボン酸塩を形成することができる。本発明においては、このような化合物(c)を本発明に係るポリウレタン樹脂の原料に用いることにより、前記ポリウレタン樹脂に親水性のカルボキシル基を導入することができるため、安定した水分散性を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。なお、水分散性のポリウレタン樹脂はポリウレタン樹脂にスルホン基を導入することによっても得ることができるが、スルホン基を導入したポリウレタン樹脂は水に対する親和性が強いため、カルボキシル基を導入した本発明のポリウレタン樹脂に比べて耐洗濯性に劣る傾向にある。
【0030】
前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)の具体例としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、又はアルカリ金属塩が挙げられる。前記有機アミン塩を構成する有機アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルジエタノールアミン及びN,N−ジエチルエタノールアミンが挙げられ、前記アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。このようなカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前記鎖伸長剤(d)としては、イソシアネート基と反応する活性水素を2個有する化合物を用いることができる。なお、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)は含まれない。このような鎖伸長剤(d)としては、炭素数10以下の低分子量ポリオール、炭素数10以下の低分子量ポリアミンを用いることが好ましい。前記炭素数10以下の低分子量ポリオールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトールが挙げられる。前記炭素数10以下の低分子量ポリアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミンが挙げられる。このような鎖伸長剤(d)としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、これらの鎖伸長剤(d)の中でも、イソシアネート基に対する反応性が穏やかであるという観点から、炭素数10以下の低分子量ポリオールを用いることが特に好ましい。
【0032】
本発明に係るイソシアネート基末端プレポリマーは、前記有機ポリイソシアネート化合物(a)、前記数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、並びに、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)、及び/又は、前記有機ポリイソシアネート化合物(a)、前記数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)、並びに、前記鎖伸長剤(d)を混合して、イソシアネート基とそれに反応する活性水素とを重付加反応せしめることにより得られる。
【0033】
前記重付加反応の方法としては、従来公知の方法を適宜採用することができ、一段式のワンショット法であっても、多段式の方法であってもよい。このような重付加反応の温度としては、40〜150℃であることが好ましく、反応時間としては、90〜120分間であることが好ましい。温度及び反応時間が前記下限未満である場合にはポリエステル系繊維製品の白化を十分に抑制することが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリウレタン樹脂の粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にある。また、前記重付加反応においては、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒;リン酸、リン酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0034】
さらに、前記重付加反応においては、反応時又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶媒を添加してもよい。このような有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが挙げられる。これらの有機溶媒の中でも、減圧下での加熱による除去が容易であるという観点から、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0035】
また、前記重付加反応において、反応組成物中における各原料の混合比としては、前記有機ポリイソシアネート化合物(a)に由来するイソシアネート基と、前記数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)、及び鎖伸長剤(d)に由来する活性水素とのモル比(イソシアネート基のモル数/活性水素のモル数)が1.1/1.0〜1.7/1.0となるように調整することが好ましく、1.2/1.0〜1.5/1.0となるように調整することがより好ましい。モル比が前記下限未満である場合には、本発明に係るイソシアネート基末端プレポリマーを得ることが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリウレタン樹脂の粘度が高くなるために取り扱いが困難となる傾向にある。
【0036】
本発明にかかるイソシアネート基末端プレポリマーとしては、前記重付加反応終了時において、イソシアネート基末端プレポリマー全量に対する遊離イソシアネート基の含有量が0.8〜5.0質量%であることが好ましい。前記遊離イソシアネート基の含有量が前記下限未満の場合には、反応時の粘度が著しく上昇するため、多量の有機溶剤を用いて低粘度化することが必要になる傾向にあり、また、ポリウレタン樹脂を乳化分散させることが困難になる傾向にある。他方、含有量が前記上限を超える場合には、得られる難燃性ポリウレタン樹脂の分散液の経時安定性が低下する傾向にある。
【0037】
また、前記重付加反応においてはさらに、このようにして得られたイソシアネート基末端プレポリマーを含有する反応生成物において残存する前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)のカルボキシル基を、アンモニウム、有機アミン、アルカリ金属塩等を用いて中和することが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法においては、このようにして得られたイソシアネート基末端プレポリマーを含有する反応生成物を水に乳化分散させてイソシアネート基末端プレポリマーの分散液を得て、この分散液を用いて本発明に係るポリウレタン樹脂を得ることが好ましい。前記乳化分散の方法としては、前記イソシアネート基末端プレポリマーを含有する反応生成物に水を添加してホモミキサーやホモジナイザー等の機器により攪拌する方法が挙げられ、このような方法においては、必要に応じて乳化剤をさらに添加してもよい。
【0039】
前記乳化剤としては、従来公知のものを適宜採用することができ、非イオン界面活性剤やアニオン界面活性剤が挙げられる。前記非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びこれらの脂肪酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル;ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のポリオキシアルキレングリコール類及びこれらの脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルエーテル等の芳香族系ポリオキシアルキレンエーテル誘導体及びこれらの脂肪酸エステル等が挙げられ、前記アニオン界面活性剤としては、例えば、前記非イオン界面活性剤の硫酸エステル及びその塩、リン酸エステル及びその塩、芳香族スルホン酸類等が挙げられる。このような乳化剤を用いる場合、その添加量は、前記イソシアネート基末端プレポリマーに対して5質量%以下であることが好ましい。乳化剤の使用量が前記上限を超える場合には、難燃性ポリエステル系繊維製品の難燃性及び摩擦堅牢度が低下する傾向にある。このような方法により、水中にイソシアネート基末端プレポリマーが乳化分散したイソシアネート基末端プレポリマーの分散液を得ることができる。
【0040】
(ポリウレタン樹脂の分散液を得る工程)
本発明に係るポリウレタン樹脂の分散液は、前記イソシアネート基末端プレポリマーと鎖延長剤(e)とを、水中で反応させることにより得ることができる。本発明に係る鎖延長剤(e)は、水溶性ポリアミン、水溶性ヒドラジン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0041】
前記水溶性ポリアミンとしては、1分子中に2個以上のアミノ基を有する水溶性の化合物であればよく、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン等の前記鎖伸長剤(d)として例示した化合物や、ヒドラジン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ノルボルナンジアミンが挙げられる。前記水溶性ポリアミンの誘導体としては、前記鎖延長反応溶液中において加水分解反応等により前記水溶性ポリアミンとなるものであればよく、第1級アミンを2個有する化合物とモノカルボン酸とを反応させて得られるアミドアミン、第1級アミンを2個有する化合物のモノケチミン化物が挙げられる。
【0042】
前記水溶性ヒドラジンとしては、例えば、2個以上のヒドラジノ基を有しており、炭素数2〜4の脂肪族化合物である1,1’−エチレンジヒドラジン、1,1’−トリメチレンジヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジンが挙げられ、前記水溶性ヒドラジンの誘導体としては、前記鎖延長反応溶液中において加水分解反応等により前記水溶性ヒドラジンとなるものであればよく、炭素数2〜10のジカルボン酸のジヒドラジド化合物であるシュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が挙げられる。本発明に係る鎖延長剤(e)としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明における水溶性とは、目視で水に完全に溶解している状態を確認できればよく、その程度は制限されないが、通常は、純水に1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは30質量%以上溶解することをいう。
【0043】
前記反応は、前記イソシアネート基末端プレポリマーの分散液と、前記鎖延長剤(e)と、必要に応じてさらに水とを混合して、前記分散液中のイソシアネート基末端プレポリマーと前記鎖延長剤(e)とを鎖延長反応させることが好ましい。前記鎖延長反応は、例えば、20〜50℃の温度において30〜120分間反応させることにより完結することができる。前記イソシアネート基末端プレポリマーの分散液と、前記鎖延長剤(e)との混合比としては、前記イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基に対する前記鎖延長剤(e)におけるアミノ基及びヒドラジノ基の化学当量が0.9〜1.1当量となる混合比であることが好ましい。化学当量が前記下限未満である場合には、ポリエステル系繊維製品の白化を十分に抑制することが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリウレタン樹脂の粘度が高くなるために取り扱いが困難になる傾向にある。
【0044】
前記鎖延長反応において、得られる分散液中のポリウレタン樹脂の濃度(分散液中のポリウレタン樹脂の不揮発分の濃度)としては、特に制限されないが、取り扱い性がより向上するという観点から、1〜50質量%程度であることが好ましい。また、前記鎖延長反応においては、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のイソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。このような反応を抑える方法としては、具体的には、前記イソシアネート基末端プレポリマーと鎖延長剤(e)との反応温度を40℃以下とする方法や、前記イソシアネート基末端プレポリマーの分散液及び前記鎖延長剤(e)にさらにリン酸、リン酸水素ナトリウム等の反応抑制剤を添加することにより抑える方法が挙げられる。
【0045】
このような方法により、水中にポリウレタン樹脂が分散したポリウレタン樹脂の分散液を得ることができる。前記本発明に係るポリウレタン樹脂としては、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)に由来するカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.5〜2質量%であることが好ましい。含有量が前記下限未満の場合には、ポリウレタン樹脂を水に分散せしめることが困難になり、安定な水分散液とすることができない傾向にある。他方、含有量が前記上限を超える場合には、ポリウレタン樹脂の親水性が強まるため、得られる難燃性ポリエステル系繊維製品の摩擦堅牢度が低下したり、ポリウレタン樹脂の分散液の粘度が高くなって取扱いが困難になる傾向にある。このような前記カルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量は、前記化合物(c)の種類や、その含有量を適宜選択することにより調整することができる。また、このような前記カルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量は、前記ポリウレタン樹脂の分散液をN,N−ジメチルホルムアミド等で希釈し、分散液中のポリウレタン樹脂の不揮発分の全質量当たりの酸価を測定することにより求めることができる。
【0046】
(トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を得る工程)
本発明の製造方法においては、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを水に分散させてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を得る。
【0047】
前記分散の方法としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートに水及び分散剤を添加した混合液をビーズミルやホモジナイザー等により湿式分散させる方法等が挙げられる。前記分散剤としては、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0048】
前記非イオン界面活性剤としては、特に制限されず、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテル等が挙げられる。
【0049】
前記アニオン界面活性剤としては、特に制限されず、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテル硫酸エステル塩、アルコール硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩類;ポリオキシアルキレンエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテルリン酸エステル、アルコールリン酸エステル等のリン酸エステル及びそれらの塩等が挙げられる。前記硫酸エステル化物及び前記リン酸エステル化物の塩としては、アルカリ金属塩又はアミン塩等が挙げられ、前記アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、前記アミン塩を構成するアミンとしては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン等の第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン等の第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、難燃阻害が少なくなるという観点から、前記硫酸エステル化物の塩及び前記リン酸エステル化物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0050】
前記分散剤としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、前記非イオン界面活性剤と前記アニオン界面活性剤とを同時に用いてもよい。このような分散剤の添加量としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートに対して20質量%以下であることが好ましい。また、前記水の添加量としては、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液の取り扱い性がより向上するという観点から、得られるトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液中のトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの濃度が10〜50質量%となる量であることが好ましい。
【0051】
また、本発明の製造方法においては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液に、さらに、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン等の保護コロイド剤を添加してもよい。このような保護コロイド剤を用いることにより、水に分散したトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散性を安定化させることができる。また、本発明の製造方法においては、より分散状態を安定化させることを目的として、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液に、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等の有機溶剤をさらに添加してもよい。
【0052】
本発明に係るトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液において、前記分散液中に分散している前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの粒子径としては、積算体積粒度分布において積算体積が小径側から50%となるメジアン径(d50)が1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。前記メジアン径(d50)が前記上限を超える場合には、分散状態の安定性が低下する傾向にある。また、積算体積粒度分布において積算体積が小径側から90%となる90%粒径(d90)が1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.8μm以下であることが特に好ましい。前記90%粒径(d90)が前記上限以下であると、分散状態はさらに安定なものとなる傾向にある。なお、前記分散液中の前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの粒子の積算体積粒度分布は、例えば、動的光散乱法により測定することができる。
【0053】
(難燃加工工程)
本発明に係る難燃加工工程においては、前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を得る。前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートは別々に前記ポリエステル系繊維に付着させてもよく、同時に付着させてもよい。
【0054】
前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを別々にポリエステル系繊維に付着させる方法としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を含有する第1の処理液を用いて前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを前記ポリエステル系繊維に付着させる工程と、その工程の前又は後に、前記ポリウレタン樹脂の分散液を含有する第2の処理液を用いて前記ポリウレタン樹脂を前記ポリエステル系繊維に付着させる工程を含む方法が挙げられる。
【0055】
本発明に係る難燃加工工程としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートによる難燃効果をより発揮させることができるという観点から、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを前記ポリエステル系繊維に付着させた後に、前記ポリウレタン樹脂の分散液を用いて前記ポリウレタン樹脂を前記ポリエステル系繊維に付着させることが好ましく、前記第1の処理液をポリエステル系繊維に付着させ、前記第1の処理液を乾燥させる工程の後に、前記第2の処理液を前記ポリエステル系繊維に付着させ、前記第2の処理液を乾燥させる工程を含むことがより好ましい。
【0056】
さらに、本発明に係る難燃加工工程としては、より高い摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができる傾向にあるという観点から、前記第1の処理液をポリエステル系繊維に付着させて乾燥させる工程の後、且つ、前記第2の処理液を前記ポリエステル系繊維に付着させて乾燥させる工程の前に、前記第1の処理液を乾燥させたポリエステル系繊維を還元洗浄してソーピング処理する工程を含有することが好ましい。このようなソーピング処理としては、エスクードFRN、エスクードFZ(日華化学(株)製)等のソーピング剤を含有する浴に入れて、80〜90℃において10〜20分間加熱したポリエステル系繊維を湯洗及び水洗した後、160〜190℃において3〜5分間乾燥(セット)させる方法が挙げられる。
【0057】
前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを同時にポリエステル系繊維に付着させる方法としては、前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を含有する処理液(第3の処理液)を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させ、前記第3の処理液を乾燥させる方法が挙げられる。
【0058】
本発明の製造方法において、前記ポリウレタン樹脂の前記ポリエステル系繊維への付着量としては特に制限されないが、前記ポリエステル系繊維100質量部に対して0.2〜10質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがより好ましい。付着量が前記下限未満の場合には、ポリエステル系繊維製品の白化を十分に抑制することが困難になる傾向にあり、前記上限を超える場合にはポリエステル系繊維製品の難燃性が低下する傾向にある。また、前記第2の処理液及び前記第3の処理液における前記ポリウレタン樹脂の濃度としては特に制限されないが、1〜30質量%程度であることが好ましい。濃度が前記下限未満の場合にはポリエステル系繊維製品の白化を十分に抑制することが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリエステル系繊維製品の難燃性が低下する傾向にある。
【0059】
本発明の製造方法において、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの前記ポリエステル系繊維への付着量としては特に制限されないが、前記ポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、0.3〜10質量部であることがより好ましい。付着量が前記下限未満の場合には、十分な難燃効果が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリエステル系繊維製品の風合いが硬化する傾向にある。また、前記第1の処理液及び前記第3の処理液における前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの濃度としては特に制限されないが、10〜50質量%程度であることが好ましい。濃度が前記下限未満である場合には、ポリエステル系繊維製品の難燃性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散液の安定性を得るために用いる分散剤(界面活性剤)の量が多くなり、ポリエステル系繊維製品の難燃性が阻害される傾向にある。
【0060】
なお、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを同時にポリエステル系繊維に付着させる場合には、前記第3の処理液における前記ポリウレタン樹脂と前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートとの質量比は、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート100質量部に対して前記ポリウレタン樹脂が0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましい。前記ポリウレタン樹脂の含有量が前記下限未満の場合には、ポリエステル系繊維製品の白化を十分に抑制することが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリエステル系繊維製品の難燃性が低下する傾向にある。
【0061】
本発明の製造方法においては、前記第2の処理液及び前記第3の処理液がそれぞれ、水分散性ポリカルボジイミド化合物、水分散性オキサゾリン化合物及び水分散性ポリイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有していることが好ましい。これらの化合物を含有させることにより、ポリウレタン樹脂が架橋されてウレタン被膜が強化されるため、より優れた耐白化性及び摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができる傾向にある。
【0062】
前記水分散性ポリカルボジイミド化合物としては、2個以上のカルボジイミド基を有する水分散性の化合物であればよく、特に制限されず、例えば、ポリイソシアネート化合物と、イソシアネート基と反応し得る水酸基やアミノ基における水素等の活性水素を1個有する化合物とを、カルボジイミド化触媒の存在下で反応させて得られるポリカルボジイミド系樹脂が挙げられる。前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが挙げられる。前記イソシアネート基と反応し得る活性水素を1個有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのモノアルキルエーテル;ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのランダム又はブロック共重合物のモノアルキルエーテルが挙げられる。このような水分散性ポリカルボジイミド化合物としては、市販されているNKアシストCI(日華化学(株)製)等を用いてもよい。
【0063】
前記水分散性オキサゾリン化合物としては、オキサゾリニル基を2個以上有する水分散性の化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとアクリル酸エチルとメタクリル酸メチルとの共重合物、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとの共重合物、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとアクリロニトリルとの共重合物、及び2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとスチレンとアクリル酸ブチルとジビニルベンゼンとの共重合物等が挙げられる。
【0064】
前記水分散性ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物にアルキレンオキシド鎖を親水性分散鎖として導入するか、又は、ポリソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック化することにより得ることができる。前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0065】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては特に制限されず、例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートを用いることができる。前記脂肪族ポリイソシアネートとしても特に制限されず、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネートを用いることができる。前記脂環式ポリイソシアネートとしても特に制限されず、例えば、イソホロンジイソシアネート、及び水添キシリレンジイソシアネートを用いることができる。黒色等極めて濃色に染色されたポリエステル系繊維に対しては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートのいずれを用いてもよく、薄い色に染色されたポリエステル系繊維に対しては、黄変が少ないという観点から、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートを用いることが好ましい。前記芳香族ポリイソシアネート、前記脂肪族ポリイソシアネート、又は前記脂環式ポリイソシアネートの誘導体としては、2個以上のイソシアネート基を有する化合物であればよく、特に制限されず、例えば、ビウレット構造、イソシアヌレート構造、ウレタン構造、ウレトジオン構造、アロファネート構造、3量体構造等を有するポリイソシアネートや、トリメチロールプロパンの脂肪族イソシアネートのアダクト体等を用いることができる。
【0066】
前記水分散性ポリイソシアネート化合物が、前記ポリイソシアネート化合物にアルキレンオキシド鎖を親水性分散鎖として導入することにより得られた化合物である場合には、前記アルキレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシドの平均付加モル数は5〜50であることが好ましく、10〜30であることがより好ましい。アルキレンオキシドの平均付加モル数が前記下限未満の場合には、前記水分散性ポリイソシアネート化合物の自己乳化性が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には前記水分散性ポリイソシアネート化合物の結晶性が高まって固化する傾向にある。
【0067】
前記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドが挙げられる。これらはそれぞれ単独であっても2種以上の組み合わせであってもよいが、前記アルキレンオキシド鎖の70質量%以上がエチレンオキシド単位であることが好ましい。前記アルキレンオキシド鎖を導入するために用いられる化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのランダム又はブロック共重合体のモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0068】
前記ポリイソシアネート化合物に導入されるアルキレンオキシド鎖の割合としては、得られる水分散性ポリイソシアネート化合物100質量部に対して2〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。アルキレンオキシド鎖の割合が前記下限未満の場合には、アルキレンオキシド鎖が界面張力を低下させる効果が弱まるため分散性が不足する傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、前記水分散性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と水との反応性が高くなり過ぎて不安定になる傾向にある。
【0069】
前記水分散性ポリイソシアネート化合物が、ポリソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック化することにより得られた化合物(以下、場合によりブロック化ポリイソシアネート化合物と称する。)である場合には、前記ブロック化剤としては、特に制限されないが、例えば、第2級アルコール、第3級アルコール、活性メチレン化合物、フェノール化合物、オキシム化合物、ラクタム化合物、及び重亜硫酸塩を用いることができる。前記第2級アルコールとしては、例えば、sec−ブチルアルコールが挙げられ、前記第3級アルコールとしては、例えば、t−ブチルアルコールが挙げられ、前記活性メチレン化合物としては、例えば、マロン酸エチル及びアセト酢酸エチルが挙げられる。前記フェノール化合物としては、例えば、フェノール及びm−クレゾールが挙げられ、前記オキシム化合物としては、例えば、アセトオキシム、メチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム及びジイソブチルケトオキシムが挙げられ、前記ラクタム化合物としては、例えば、ε−カプロラクタムが挙げられ、前記重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸カリウムが挙げられる。このようなブロック化ポリイソシアネート化合物としては、市販されているNKアシストFU(日華化学(株)製)等を用いてもよい。
【0070】
前記ブロック化ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基の高い反応性を保持したまま、水溶液中でも長時間安定して使用することができ、また水への分散性に優れているため、ポリウレタン樹脂とともに水分散液の状態でポリエステル系繊維に付着させることができる。
【0071】
前記水分散性ポリカルボジイミド化合物、前記水分散性オキサゾリン化合物及び前記水分散性ポリイソシアネート化合物としては、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、難燃性ポリエステル系繊維製品における摩擦堅牢度がより向上するという観点から、水分散性ポリカルボジイミド化合物及び水分散性ポリイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましく、水分散性ポリカルボジイミド化合物と水分散性ポリイソシアネート化合物とを組み合わせて用いることがより好ましい。これらの化合物を含有する場合、その含有量としては、前記第2の処理液又は前記第3の処理液における前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。含有量が前記上限を超える場合にはポリエステル系繊維に定着するポリウレタン樹脂量が増加し、ポリエステル系繊維の難燃性を阻害する傾向にある。なお、本発明における水分散性とは、化合物を水中に混合したとき、化合物と水との均質な混合物が相分離することなく形成され得る該化合物の性質をいい、化合物の水分散性の安定性は、本発明の効果を損なわない範囲で、前述したような非イオン界面活性剤やアニオン界面活性剤により高めることもできる。
【0072】
また、本発明の製造方法においては、前記第1の処理液、前記第2の処理液及び前記第3の処理液(以下、場合により難燃加工処理液と総称する。)に、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート以外の難燃性化合物や、他のポリエステル系繊維用加工剤を含有させてもよい。前記繊維用加工剤としては、例えば、帯電防止剤、撥水撥油剤、防汚剤、硬仕上剤、風合調整剤、柔軟剤、抗菌剤、吸水剤、スリップ防止剤、耐光堅牢度向上剤等が挙げられる。
【0073】
前記難燃加工処理液をそれぞれ付着させる方法としては、特に制限されず、任意の方法を適宜採用でき、例えば、前記難燃加工処理液にポリエステル系繊維を浸漬する方法(パディング法)、スプレー法、コーティング法等を用いることができる。
【0074】
前記パディング法としては、前記難燃加工処理液に浸漬したポリエステル系繊維製品をマングルで絞り、ピックアップ率を調整する方法が挙げられる。前記スプレー法としては、例えば、圧搾空気により前記難燃加工処理液をポリエステル系繊維製品に霧状にして吹き付けるエアースプレー法、液圧霧化方式で吹き付けるエアースプレー法等を挙げられる。前記コーティング法としては、例えば、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファーコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター等を用いる方法や、ローラー捺染機、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機等を用いる方法が挙げられる。
【0075】
また、前記コーティング法においては、前記難燃加工処理液にそれぞれ粘度調整剤を添加して加工に適した粘度に調整してもよい。前記粘度調整剤としては特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊等が挙げられる。さらに、前記コーティング法においては、前記難燃加工処理液にアニオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤からなる起泡剤を添加して前記難燃加工処理液を泡状にして繊維に付着させる泡加工コーティング法を用いてもよい。前記泡加工コーティング法によれば、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを全量無駄なく使用することができ、乾燥に要するエネルギー及び時間を大幅に短縮できる傾向にある。なお、この場合、前記起泡剤の作用により付着率が低下するおそれがあるため、前記起泡剤の使用量を必要最低限に抑えることが重要である。
【0076】
前記難燃加工処理液を乾燥させる条件としては、特に制限されないが、それぞれ、120〜150℃において3〜5分間乾燥(ドライ)し、次いで、160〜190℃において30〜90秒間熱処理(キュア)することが好ましい。前記キュアとしては、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。このように乾燥させ、熱処理することにより、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に対してより定着させることができる傾向にある。
【0077】
さらに、本発明に係る難燃加工工程としては、より高い摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができる傾向にあるという観点から、前記第2の処理液をポリエステル系繊維に付着させて乾燥させる工程の後及び前記第3の処理液を前記ポリエステル系繊維に付着させて乾燥させる工程の後に、それぞれ、得られたポリエステル系繊維に前述のソーピング処理を施すことが好ましい。
【0078】
本発明に係るポリエステル系繊維としては、特に制限されず、例えば、レギュラーポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維等のポリエステル繊維;前記ポリエステル繊維のうちの2種以上からなる繊維;前記ポリエステル繊維と綿、麻、絹羊毛等の天然繊維とからなる繊維;前記ポリエステル繊維とレーヨン、アセテート等の半合成繊維とからなる繊維;前記ポリエステル繊維とナイロン、アクリル、ポリアミド等の合成繊維とからなる繊維が挙げられる。また、本発明に係るポリエステル系繊維の形状としては、トウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布、ロープ等が挙げられ、これらは、前記ポリエステル系繊維と、炭素、ガラス、セラミックス、アスベスト、金属等の無機繊維との混紡により得られるトウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布、ロープ等であってもよい。
【0079】
本発明の製造方法において、前記ポリエステル系繊維としては、染色物であっても無染色物であってもよい。前記ポリエステル系繊維が染色物である場合、本発明の製造方法としては、前記難燃加工工程の前に、前記ポリエステル系繊維を予め還元洗浄によりソーピングする工程を含有することが好ましい。一般に、ポリエステル系繊維の染色物の摩擦堅牢度はそのままでは不十分であり、還元洗浄することにより向上されるため、本発明に係る難燃加工工程の前に、ポリエステル系繊維に対して前述のソーピング処理を施すことにより、より高い摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができる傾向にある。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(1)ポリウレタン樹脂の分散液の調製
(合成例1)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(数平均分子量2000)247.4g、2,2−ジメチロールブタン酸12.2g、ジブチル錫ジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン142gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート72.0gをさらに加えて80℃において240分間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.7質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン8.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下において水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液にイソホロンジアミン8.8g、ジエチレントリアミン1.0g及び水30gからなる混合溶液を添加し、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。得られた分散液中のポリウレタン樹脂において、カルボキシル基の含有量は1.47質量%であった。
【0082】
(合成例2)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール(数平均分子量2000)250.6g、2,2−ジメチロールブタン酸13.7g、トリメチロールプロパン1.2g、ジブチル錫ジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン143gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、イソホロンジイソシアネート68.7gをさらに加えて80℃において180分間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.9質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン9.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下において水662gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液にピペラジン6水和物14.7g及び水30gからなる混合溶液を添加し、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。得られた分散液中のポリウレタン樹脂において、カルボキシル基の含有量は1.65質量%であった。
【0083】
(合成例3)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール(数平均分子量2000)113.8g、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(数平均分子量3000)142.2g、2,2−ジメチロールブタン酸12.6g、ジブチル錫ジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン145gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート37.3g及びイソホロンジイソシアネート31.6gをさらに加えて80℃において200分間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.8質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン8.6gで中和してから別容器に移し、30℃以下において水680gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液に水加ヒドラジン2.7g、ジエチレントリアミン1.1g及び水20gからなる混合溶液を添加し、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。得られた分散液中のポリウレタン樹脂において、カルボキシル基の含有量は1.52質量%であった。
【0084】
(合成例4)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(数平均分子量2000)200.0g、2,2−ジメチロールブタン酸12.2g、ジブチル錫ジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン142gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート72.0gをさらに加えて80℃において120分間撹拌した後、さらにエチレングリコール1.5gを添加して80℃において120分間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.7質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液をトリエチルアミン8.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下において水670gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液にイソホロンジアミン8.8g、ジエチレントリアミン1.0g及び水30gからなる混合溶液を添加し、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で50℃に加熱することによりメチルエチルケトンを除去して、ポリウレタン樹脂の分散液(不揮発分35.0質量%)を得た。得られた分散液中のポリウレタン樹脂において、カルボキシル基の含有量は1.70質量%であった。
【0085】
(2)供試布の調製
先ず、分散染料(Dianix Black HF−B、ダイスタージャパン(株)製)を8%o.w.f.(%o.w.f.:繊維の質量に対する染料の質量の割合)、分散均染剤(ニッカサンソルト(登録商標)RM−340E、日華化学(株)製)を0.5g/L、酢酸を0.2cc/L含有する染色処理液をミニカラー染色機(テクサム技研社製)のポットに入れ、130℃において60分間の条件でポリエステル系繊維(目付360g/m、ポリエステル100質量%)のジャージニットを黒色に染色した(ポリエステル系繊維と染色処理液との浴比1:15)。次いで、ソーピング剤(サンモール(登録商標)RC−700E、日華化学(株)製)を1g/L、ハイドロサルファイトを2g/L、苛性ソーダを1g/L含有するソーピング処理液に前記染色後のジャージニットを入れて80℃において20分間加熱することにより還元洗浄を行った。還元洗浄後のジャージーニットを湯洗した後に水洗し、水洗後のジャージーニットを140℃において3分間乾燥させてポリエステルジャージニットの染色処理布である供試布を得た。
【0086】
(3)難燃性ポリエステル系繊維製品の作製
(実施例1)
先ず、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート40質量部を、トリスチレン化フェノールのエチレンオキシド20モル付加物3質量部、トリスチレン化フェノールのエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルアンモニウム塩(50質量%水溶液)2質量部及び水55質量部にホモミキサーを用いて分散せしめ、水に分散したトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(1))を調製した。この分散液についてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(商品名:LA−920、HORIBA社製)により測定した積算体積粒度分布から求めたメジアン径(d50)は0.5μm、90%粒径(d90)は0.7μmであった。次いで、この分散液に水を添加して第1の処理液(トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート:15質量%)とし、これに供試布を浸漬してピックアップ率が60質量%となるようにパディング処理した。このパディング処理された供試布を130℃で3分間乾燥させ、さらに180℃で90秒間加熱した。次いで、この供試布にソーピング処理を施して第1の処理液を付着させた供試布を得た。ソーピング処理は、先ず、ソーピング剤(エスクードFRN、日華化学(株)製)2g/L、苛性ソーダ1g/Lを含有するソーピング処理液に供試布を入れて80℃で20分間加熱することにより還元洗浄を行い、次いで、還元洗浄後の供試布を湯洗した後に水洗し、170℃において1分間乾燥させることにより行った。
【0087】
次いで、合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液に水を添加して第2の処理液(ポリウレタン樹脂:5質量%)を得た。この第2の処理液に前記第1の処理液を付着させた供試布を浸漬してピックアップ率が60質量%となるようにパディング処理した。この供試布を150℃で5分間乾燥させ、難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0088】
(実施例2)
トリスチレン化フェノールのエチレンオキシド20モル付加物を用いず、トリスチレン化フェノールのエチレンオキシド10モル付加物の硫酸エステルアンモニウム塩(50質量%水溶液)を5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(2)を調製した。この分散液について実施例1と同様にして求めたメジアン径(d50)は0.5μm、90%粒径(d90)は0.7μmであった。次いで、ソーピング処理における水洗後の乾燥温度を170℃に代えて180℃としたこと以外は実施例1と同様にして、難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0089】
(実施例3)
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液に代えて合成例2で得られたポリウレタン樹脂の分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0090】
(実施例4)
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液に代えて合成例4で得られたポリウレタン樹脂の分散液を用いたこと以外は実施例1と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0091】
(実施例5)
実施例2と同様にして得られたトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(2)及び合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液に水を添加して第3の処理液(トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート:15質量%、ポリウレタン樹脂:5質量%)を調製した。これに供試布を浸漬してピックアップ率が60質量%となるようにパディング処理した。このパディング処理された供試布を130℃で3分間乾燥させ、さらに180℃で90秒間熱処理して難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0092】
(実施例6)
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液に代えて合成例3で得られたポリウレタン樹脂の分散液を用いたこと以外は実施例5と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0093】
(実施例7)
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(2)に代えて実施例1と同様にして得られたトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(1)を用い、第3の処理液の組成が、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート15質量%、ポリウレタン樹脂5質量%、及び水分散性ポリカルボジイミド化合物(NKアシストCI、日華化学(株)製)0.4質量%となるようにしたこと以外は実施例5と同様にしてパディング処理された供試布を得た。この供試布を150℃で5分間乾燥させて難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0094】
(実施例8)
第3の処理液の組成が、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート15質量%、ポリウレタン樹脂5質量%、及びブロック化ポリイソシアネート化合物(NKアシストFU、日華化学(株)製)0.3質量%となるようにしたこと以外は実施例7と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0095】
(実施例9)
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(2)に代えて実施例1と同様にして得られたトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(1)を用いたこと以外は実施例5と同様にして第3の処理液を調製した。これにポリエステル系繊維(目付220g/m、横糸原着レギュラーポリエステル100質量%)の未染色布を浸漬してピックアップ率が60質量%となるようにパディング処理した。このパディング処理された布を3分割し、処理布1〜処理布3とした。
【0096】
先ず、処理布1については、140℃で4分間乾燥させた後にソーピング処理液における苛性ソーダを2g/Lとしたこと以外は実施例1と同様にしてソーピング処理を施して難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。次いで、処理布2については、140℃で4分間乾燥させ、さらに170℃で90秒間熱処理した後に、前記処理布1と同様にしてソーピング処理を施して難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。次いで、処理布3については、140℃で4分間乾燥させ、さらに190℃で90秒間熱処理した後に、前記処理布1と同様にしてソーピング処理を施して各処理布から難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0097】
(実施例10)
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液に代えて合成例2で得られたポリウレタン樹脂の分散液を用いたこと以外は実施例9と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0098】
(実施例11)
実施例7と同様にして得られた第3の処理液を用いたこと以外は実施例9と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0099】
(比較例1)
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の分散液を用いなかったこと以外は実施例5と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0100】
(比較例2)
第3の処理液の組成が、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート15質量%、ポリアクリル酸エステル乳化分散物(カセゾール(登録商標)ARS−2、日華化学(株)製)3質量%、水分散性ポリカルボジイミド化合物(NKアシストCI、日華化学(株)製)が0.2質量%、ブロック化ポリイソシアネート化合物(NKアシストFU、日華化学(株)製)が0.2質量%となるようにしたこと以外は実施例5と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0101】
(比較例3)
第3の処理液の組成が、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート15質量%、ポリエステル樹脂乳化分散物(カセゾール(登録商標)ES−9、日華化学(株)製)10質量%となるようにしたこと以外は実施例5と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0102】
(比較例4)
供試布をそのままポリエステル系繊維製品とした。
【0103】
(比較例5)
比較例2と同様にして得られた第3の処理液を用いたこと以外は実施例9と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0104】
(比較例6)
比較例3と同様にして得られた第3の処理液を用いたこと以外は実施例9と同様にして難燃性ポリエステル系繊維製品を得た。
【0105】
(4)難燃性評価
実施例1〜8、比較例1〜3で得られた難燃性ポリエステル系繊維製品及び比較例4で得られたポリエステル系繊維製品を試料として、下記の方法で難燃性を測定した。各測定において、水洗い洗濯前の試料は得られた繊維製品をそのまま用いたものであり、水洗い洗濯後の試料は得られた繊維製品をJIS L 1091:1999に記載された方法で5回水洗い洗濯したものであり、ドライクリーニング後の試料は得られた繊維製品をJIS L 1018:1999に記載された方法で5回ドライクリーニングしたものである。
(i)45゜ミクロバーナー法
JIS L 1091:1999に記載のA−1法により、残炎時間と燃焼面積を測定した。
(ii)コイル法(接炎試験)
JIS L 1091:1999に記載のD法により、接炎回数を測定した。
得られた結果をそれぞれ表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法により、耐洗濯性、耐ドライクリーニング性に優れた難燃性ポリエステル系繊維製品が得られることが確認された。
【0108】
(5)難燃成分付着量の測定及び難燃成分付着率の算出
先ず、実施例1と同様にして得られたトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液(1)に水を添加してトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの含有量が6質量%である分散液を得た。この分散液にポリエステル系繊維(目付220g/m、横糸原着レギュラーポリエステル100質量%)の未染色布を浸漬してピックアップ率が60質量%となるようにパディング処理した後、130℃で2分間乾燥させ、さらに170℃で1分間加熱して基準となる処理布を得た。この処理布において、ポリエステル系繊維の質量に対する付着トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの質量の割合(MFR)は3.6%o.w.f.であった。
【0109】
次いで、得られた処理布に付着したトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート中のBrに起因する蛍光X線強度Iを、蛍光X線分析装置(SPECTRO Analytical instrument社製)を用いて測定した。さらに、実施例9〜11及び比較例5〜6で得られた難燃性ポリエステル系繊維製品についても同様に、Brに起因する蛍光X線強度Iを測定し、各試料におけるポリエステル系繊維の質量に対する付着トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの質量の割合(MFR(%o.w.f.))を下記式(i):
MFR(%o.w.f.)=MFR(%o.w.f.)×I/I ・・・(i)
により求めた。
【0110】
次いで、処理液中のトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが全量付着した場合の、ポリエステル系繊維の質量に対する付着トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの質量の割合をMFR100(単位:%.o.w.f.)として、難燃成分の付着率を下記式(ii):
難燃成分の付着率(%)=MFR/MFR100×100 ・・・(ii)
により求めた。得られた結果をそれぞれ表2に示す。表2において、水洗い洗濯前の試料は得られた繊維製品をそのまま用いたものであり、水洗い洗濯後の試料は得られた繊維製品をJIS L 1091:1999に記載された方法で5回水洗い洗濯したものであり、ドライクリーニング後の試料は得られた繊維製品をJIS L 1018:1999に記載された方法で5回ドライクリーニングしたものである。
【0111】
【表2】

【0112】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた難燃性ポリエステル系繊維製品においては、ポリアクリル酸エステル樹脂(比較例5)やポリエステル樹脂(比較例6)を併用したものと比較して難燃成分の付着率が高いことが確認された。さらに、本発明の製造方法により得られた難燃性ポリエステル系繊維製品においては特に水洗い洗濯後においても難燃成分の付着率が高く、耐洗濯性に優れることが確認された。
【0113】
(6)白化(発粉)抑制性評価
実施例1〜8、比較例1〜3において、各実施例及び比較例における乾燥条件を統一して難燃性ポリエステル系繊維製品を得て、これを試料として評価を行った。乾燥条件は、実施例1〜4における第2の処理液を乾燥する条件、並びに、実施例5〜8及び比較例1〜3における第3の処理液を乾燥する条件を、それぞれ以下の条件:
条件1:140℃において4分間乾燥させ、さらに170℃において90秒間熱処理した後に、ソーピング処理液における苛性ソーダを2g/Lとしたこと以外は実施例1と同様にしてソーピング処理を施した
条件2:140℃において4分間乾燥させた後にさらに170℃において90秒間熱処理した
条件3:140℃において4分間乾燥させた
とした。
【0114】
白化(発粉)抑制性の評価は、先ず、各実施例及び比較例において得られた試料を1/2に切断し、一方を大判濾紙に挟み、恒温恒湿器(ジャングルテスター、ESPEC社製、温度:70℃、相対湿度:90%R.H.)内の高温高湿条件下に4週間静置した。また、残りの1/2は大判濾紙に挟み、恒温恒湿室((株)奥野技術研究所製、温度:20℃、相対湿度65%R.H.)内で4週間静置した。次いで、4週間静置後の各試料の表面の白化(発粉)状態を観察し、以下の基準:
1:著しい白化が認められる。
2:かなりの白化が認められる。
3:白化が認められる。
4:僅かに白化が認められる。
5:白化が認められない。
に従って白化(発粉)抑制性の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0115】
【表3】

【0116】
表3に示した結果から明らかなように、いずれの試料においても通常条件下(温度:20℃、相対湿度65%R.H.、4週間)では試料表面に白化が発生しなかったものの、加速試験として実施した高温高湿条件下(温度:70℃、相対湿度:90%R.H.、4週間)では比較例1〜3で得られた試料において著しい白化又はかなりの白化が発生し、白化を抑制する効果が劣ることが確認された。他方、本発明の製造方法により得られた試料においてはいずれも白化が認められず、白化を抑制する効果において著しく優れていることが確認された。
【0117】
(7)摩擦堅牢度
各実施例及び比較例により得られたポリエステル系繊維製品について、JIS L 0849:2004に準じ、摩擦試験機(大栄化学精機製作所製、荷重:9N、摩擦条件:綿金巾により100回摩擦)を用いて試験を行った。試験は、乾式試験及び湿式試験のそれぞれの条件で行い、摩擦後の綿金巾の汚染度を以下の評価基準:
5級:汚染が認められない。
4級:汚染がわずかに認められる
3級:汚染が明瞭に認められる
2級:汚染がやや著しく認められる
1級:汚染が著しく認められる
に従って評価した。得られた結果を表4に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
表4に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた難燃性ポリエステル系繊維製品(実施例1〜8)の摩擦堅牢度は、乾式、湿式共に優れていることが確認された。特に、水分散性ポリカルボジイミド化合物やブロック化ポリイソシアネート化合物を併用した場合(実施例7〜8)においては、摩擦堅牢度がさらに向上することが確認された。他方、ポリアクリル酸エステル樹脂(比較例2)やポリエステル樹脂(比較例3)を併用したものでは、摩擦堅牢度が著しく低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上説明したように、本発明のトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を製造する方法によれば、高い摩擦堅牢度を有する難燃性ポリエステル系繊維製品を得ることができ、且つ、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートによる繊維製品表面の白化を十分に抑制することができる難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法を提供すること
が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリイソシアネート化合物(a)、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、並びに、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマー、及び/又は
有機ポリイソシアネート化合物(a)、数平均分子量が400〜5000の高分子量ポリオール(b)、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)、並びに、鎖伸長剤(d)を反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、
水溶性ポリアミン、水溶性ヒドラジン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤(e)とを水中で反応させてポリウレタン樹脂の分散液を得る工程、
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを水に分散させてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を得る工程、及び
前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させて難燃性ポリエステル系繊維製品を得る難燃加工工程、
を含むことを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂において、前記カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物(c)に由来するカルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が0.5〜2質量%であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
【請求項3】
前記難燃加工工程において、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を用いて前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを前記ポリエステル系繊維に付着させた後に、前記ポリウレタン樹脂の分散液を用いて前記ポリウレタン樹脂を前記ポリエステル系繊維に付着させることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
【請求項4】
前記難燃加工工程において、前記ポリウレタン樹脂の分散液及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートの分散液を含有する処理液を用いて、前記ポリウレタン樹脂及び前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートをポリエステル系繊維に付着させることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。
【請求項5】
前記処理液が、水分散性ポリカルボジイミド化合物、水分散性オキサゾリン化合物及び水分散性ポリイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有することを特徴とする請求項4に記載の難燃性ポリエステル系繊維製品の製造方法。

【公開番号】特開2012−241299(P2012−241299A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113756(P2011−113756)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】