説明

難燃性ポリオレフィン樹脂組成物

【課題】 薄肉材料においても優れた難燃性を有する難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)と成分(B)との合計量に対し、成分(A)を10〜90重量%、成分(B)を90〜10重量%の割合で含有することを特徴とする難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
成分(A):エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
成分(B):プロピレン系樹脂
成分(C):一般式(1)で特定される(ポリ)リン酸塩化合物
成分(D):一般式(3)で特定される(ポリ)リン酸塩化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に関する。詳細には、本発明は、薄肉材料においても優れた難燃性を有するポリオレフィン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂及びその樹脂組成物は電気絶縁性に優れ、且つ自消性の難燃特性を持つことから、電線被覆、チューブ、テープ、建材、自動車部品、家電部品などに広く使用されている。しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂は分子構造中に塩素を含んでいるため、燃焼時に腐食性ガスである塩化水素ガスを発生し、また、燃焼条件によってはダイオキシン類などの有毒ガスを発生する恐れがある。このため、最近の環境問題への対策の一環として、燃焼時におけるこれら有毒ガス発生の可能性が殆どない、ハロゲンを含有しない材料(以下、「ハロゲン不含材料」という場合がある。)が使用される傾向がある。
【0003】
ハロゲン不含材料としては、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン樹脂およびスチレン系樹脂が挙げられる。ところが、これらの樹脂は易燃焼性であるため、用途によっては難燃化する必要がある。その対策としてハロゲン系難燃剤を添加する手法が古くより行われてきたが、ハロゲン系難燃剤も燃焼時に有毒ガスを発生するという問題があり、最近では非ハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムといった金属水酸化物を配合する手法が採られている。
これら水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等を含む難燃性樹脂組成物は、燃焼時のハロゲン系ガスの発生を防止し得るが、要求される難燃性能を得るためには大量の難燃剤を充填する必要があり、その影響で樹脂組成物の物理特性が劣る、成形加工特性が劣るなどの問題があった。
【0004】
一方でハロゲンを含まない難燃剤として、トリフェニルフォスフェート(TPP)等のリン酸エステル系難燃剤が利用されているが、これらは揮発性が高く、樹脂に配合して押出成形する際に金型を汚染したり、成形品表面に染み出して外観を損なう等の問題がある。そこで揮発性の低い縮合リン酸エステルの使用が提案されているが、これらの難燃化効果は未だ不十分である。
そこで近年、前記の要求に応えるために特定のリン酸塩を主成分とする難燃剤として、燃焼時に表面膨張層を形成し、分解生成物の拡散や伝熱を抑制することによって難燃性を発揮させる、イントメッセント系難燃剤が提案されている(特許文献1)。イントメッセント系難燃剤は優れた難燃性を有するものの、二次凝集による樹脂への分散不良や、加水分解による吸湿性の悪化等の問題があったが、特定の分子構造を有するリン酸エステルやシリコーンオイル、ポリカルボジイミド等の化合物を共添加することにより改良がなされている(特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−26935号公報
【特許文献2】特開2004−238568号公報
【特許文献3】特開2009−120717号公報
【特許文献4】特開2009−292965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の背景技術の通り、ポリオレフィン樹脂にイントメッセント系難燃剤を添加するこ
とにより、良好な難燃性、耐熱性、耐水性を有する難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を得ることが可能となった。しかし上記の特許文献では、何れもUL94V燃焼試験において厚さ1.6mmの試験片を用いた試験を行なっており、厚みの薄い試験片を用いた場合の評価はなされていない。
一方、電線分野においては、より薄い成形品での難燃性能を要求されることが多い。そのため、本発明者らが前記の特許文献について確認した結果、厚さ0.5〜1.0mm程度の試験片では燃え広がりが速く、高い難燃性を保持することが困難であることに加え、ドリッピングも起き易いことが判明した。
【0007】
このことから、UL94V等の燃焼試験において厚さ0.5〜1.0mm程度の薄い試験片を用いた場合においても良好な難燃性を有する材料が期待されているが、如何にすればこれを達成し得るかは従来明らかでなかった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は薄肉材料においても優れた難燃性を有する難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、ポリオレフィン樹脂として特定の樹脂を組合わせて配合し、かつ、特定のリン系難燃剤を組合わせて配合することにより上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[7]を要旨とする。
[1] 下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)と成分(B)との合計量に対し、成分(A)を10〜90重量%、成分(B)を90〜10重量%の割合で含有することを特徴とする難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
成分(A):エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
成分(B):プロピレン系樹脂
成分(C):下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
成分(D):下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
[2] [1]において、成分(A)及び成分(B)の合計量中の酢酸ビニル含有量が1〜45重量%である難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
[3] [1]において、成分(A)及び成分(B)の合計量中の(メタ)アクリル酸エステル含有量が1〜45重量%である難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
[4] [1]〜[3]の何れかにおいて、成分(C)及び成分(D)の合計含有量が、樹脂組成物中の15〜60重量%である難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
[5] [1]〜[4]の何れかにおいて、更に成分(E):無機充填材を樹脂組成物中に1〜25重量%含有する難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
[6] [1]〜[5]の何れかの難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を成形してなる成形体。
[7] [1]〜[5]の何れかの難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を被覆してなる電線。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薄肉材料においても高い難燃性を保持することのできる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)と成分(B)との合計量に対し、成分(A)を10〜90重量%、成分(B)を90〜10重量%の割合で含有する。
成分(A):エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸
エステル共重合体
成分(B):プロピレン系樹脂
成分(C):下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
成分(D):下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
以下に、本発明に用いる各原料について説明する。
<成分(A)>
本発明において成分(A)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。
[エチレン−酢酸ビニル共重合体]
本発明における成分(A)として用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体とは、エチレンに由来する重合体単位と酢酸ビニルに由来する重合体単位とを少なくとも有する共重合体を意味する。なお本発明では、原料としてエチレン及び酢酸ビニルを用いなくとも、重合
後の共重合体が同一の化学構造を形成するものは、本発明におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体に包含するものとする。
【0020】
エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル含有量は限定されないが、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、一方、好ましくは55重量%以下、より好ましくは45重量%以下である。
酢酸ビニル含有量が上記範囲であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を、後述する成分(B)とともに併用することにより、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性及び耐熱性が良好となる。成分(A)の酢酸ビニル含有量が上記の下限値未満の場合は、得られる樹脂組成物の難燃性が不十分となる傾向にある。一方、成分(A)の酢酸ビニル含有量が上記の上限値を超える場合は、成分(B)との親和性が低下し、得られる樹脂組成物の引張破壊応力が悪化する傾向にある。
【0021】
ここで、酢酸ビニル含有量とは、エチレン−酢酸ビニル共重合体を構成する全単量体単位のうち、酢酸ビニル由来の単量体の重量割合を意味する。なお、本発明において酢酸ビニル含有量の測定は、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、JIS K7192(1999)に順じて測定した値を意味する。
【0022】
成分(A)のエチレン−酢酸ビニル共重合体には、エチレン及び酢酸ビニル以外に、他の共重合成分を含有していてもよい。共重合可能な成分は限定されないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数3〜20程度のα−オレフィンや、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等との共重合体等が挙げられる。なお、他の共重合成分として(メタ)アクリル酸エステルを含有する場合は、酢酸ビニル含有量以下の含有量とする。
【0023】
成分(A)のエチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、JIS K7210(1999)に従い、190℃、21.2N荷重で測定した値が、通常0.2〜60g/10分、好ましくは1〜35g/10分、さらに好ましくは、2〜30g/10分の範囲のものが好適である。MFRが上記の上限値を超える場合は、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の押出成形性が低下する傾向がある。MFRが上記の下限値未満では流動性が不足するため、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の成形性が低下する傾向がある。
本発明においてエチレン−酢酸ビニル共重合体は、1種を単独で用いても、異なる共重合比率や異なるMFR等をもつ2種以上を併用してもよい。なお、2種以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用する場合における前記酢酸ビニル含有量は平均値を意味する。すなわち該平均値が前記数値範囲であればよいが、特にそれぞれのエチレン−酢酸ビニル共重合体が前記数値範囲であることが好ましい。
【0024】
成分(A)のエチレン−酢酸ビニル共重合体の製造方法は限定されないが、通常、溶液重合やラテックス重合、高圧法ラジカル重合等の公知の製造方法が挙げられる。特に成分(A)として酢酸ビニル含有量が45重量%以下の範囲のエチレン−酢酸ビニル共重合体を製造する場合は、高圧法ラジカル重合により製造することが好ましい。また、成分(A)として酢酸ビニル含有量が40重量%以上の範囲のエチレン−酢酸ビニル共重合体を製造する場合は、溶液重合により製造することが好ましい。
【0025】
成分(A)のエチレン−酢酸ビニル共重合体を高圧法ラジカル重合で製造する際の具体的な条件は限定されないが、通常、エチレンと酢酸ビニルとを必須の原料とし、有機過酸化物又はアゾ化合物等のラジカル開始剤を用い、150〜350℃の温度で、100〜300MPaの圧力下に行われる。
【0026】
成分(A)のエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶液重合で製造する際の具体的な条件は限定されないが、通常、エチレンと酢酸ビニルとを必須の原料とし、tert−ブタノール等を溶媒とし、有機過酸化物又はアゾ化合物等のラジカル開始剤を用い、50〜150℃、好ましくは55〜70℃の温度で、10〜70MPa(100〜700バール)、好ましくは30〜40MPa(300〜400バール)の圧力下に行われる。
このような製造方法は、例えば、特開平1−101304号公報、特開平7−33829号公報、欧州特許出願公開第A0341499号明細書、欧州特許出願公開第A0510478号明細書等に記載されている。
【0027】
成分(A)のエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、例えば、日本ポリエチレン社製「ノバテックEVA」、三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックス」、ランクセス社製「レバプレン」等から上記に該当するものを選択して使用することができる。
【0028】
[エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
本発明における成分(A)として用いるエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体とは、エチレンに由来する重合体単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する重合体単位とを少なくとも有する共重合体を意味する。ここで本発明において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。なお本発明では、原料としてエチレン及び(メタ)アクリル酸エステルを用いなくとも、重合後の共重合体が同一の化学構造を形成するものは、本発明におけるエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に包含するものとする。
【0029】
エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステルに由来する重合体単位は限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20程度の炭化水素アルコールとのエステル化物が挙げられる。具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート等のアクリル酸エステル類や、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0030】
本発明における成分(A)として用いるエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル含有量は限定されないが、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、一方、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
(メタ)アクリル酸エステル含有量が上記範囲であるエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、後述する成分(B)とともに併用することにより、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性及び耐熱性が良好となる。成分(A)の(メタ)アクリル酸エステル含有量が上記の下限値未満の場合は、得られる樹脂組成物の難燃性が不十分となる傾向にある。一方、成分(A)の(メタ)アクリル酸エステル含有量が上記の上限値を超える場合は、成分(B)との親和性が低下し、得られる樹脂組成物の引張破壊応力が悪化する傾向にある。
【0031】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル含有量とは、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する全単量体単位のうち、(メタ)アクリル酸エステル由来の単量体の重量割合を意味する。なお、本発明において(メタ)アクリル酸エステル含有量の測定は、フーリエ変換赤外分光光度計による測定など、公知の測定方法を採用することができる。
【0032】
成分(A)のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体には、エチレン及び(メ
タ)アクリル酸エステル以外に、他の共重合成分を含有していてもよい。共重合可能な成分は限定されないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数3〜20程度のα−オレフィンや、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、スチレン等との共重合体等が挙げられる。なお、他の共重合成分として酢酸ビニルを含有する場合は、(メタ)アクリル酸エステル含有量より低い含有量とする。
【0033】
成分(A)のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、JIS K7210(1999)に従い、190℃、21.2N荷重で測定した値が、通常0.2〜60g/10分、好ましくは1〜35g/10分、さらに好ましくは、2〜30g/10分の範囲のものが好適である。MFRが上記の上限値を超える場合は、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の押出成形性が低下する傾向がある。MFRが上記の下限値未満では流動性が不足するため、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の成形性が低下する傾向がある。
本発明においてエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、1種を単独で用いても、異なる共重合比率や異なるMFR等をもつ2種以上を併用してもよい。なお、2種以上のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用する場合における前記(メタ)アクリル酸エステル含有量は平均値を意味する。すなわち該平均値が前記数値範囲であればよいが、特にそれぞれのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が前記数値範囲であることが好ましい。
【0034】
成分(A)のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法は限定されないが、通常、高圧法ラジカル重合、溶液重合等の公知の製造方法が挙げられる。
成分(A)のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を高圧法ラジカル重合で製造する際の具体的な条件は限定されないが、通常、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとを必須の原料とし、有機過酸化物又はアゾ化合物等のラジカル開始剤を用い、150〜350℃の温度で、100〜300MPaの圧力下に行われる。
【0035】
成分(A)のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、日本ユニカー社製「EEA」、三井・デュポンポリケミカル社製「エルバロイAC」等から上記に該当するものを選択して使用することができる。
【0036】
<成分(B)>
本発明において成分(B)はプロピレン系樹脂を意味する。ここでプロピレン系樹脂とは、プロピレンを主成分とする樹脂であれば限定されないが、通常、プロピレン単量体単位を50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上有する重合体であることが望ましい。プロピレン系樹脂を構成するプロピレン単量体単位を前記下限値以上とする方が、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性の発現が最適化される傾向にある。なお、プロピレン単量体単位の含有量の上限は限定されず、100重量%、すなわちプロピレン単独共重合体も好適に用いることができる。
【0037】
プロピレンと共重合する単量体は、共重合可能な化合物であれば限定されないが、具体的には、エチレン;1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1ペンテン、3−メチル−1ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数が3〜20程度のα−オレフィン;メチル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、ビニルアルコール、無水マレイン酸等の極性モノマー;スチレン、スチレン誘導体等のスチレン系モノマー等が挙げられる。これらの単量体は、1種を用いても2種以上を併用してもよい。中でも、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、炭素数が3〜20程度のα−
オレフィンが好ましい。
【0038】
このような共重合体は限定されないが、具体的には、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレンとその他のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンと極性モノマーとの共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、プロピレン系樹脂としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体が好ましい。
【0039】
プロピレン系樹脂として共重合体を用いる場合の連鎖形式は限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等の何れであってもよい。また、重合に用いる触媒も公知のものを適宜採用することができる。
また、プロピレン系樹脂としては、これらの樹脂を無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体や不飽和シラン化合物等で変性したものであってもよい。更には、部分的に架橋構造を有していてもよい。
これらのプロピレン系樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
プロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、230℃、21.2N荷重での値として、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、更に好ましくは10g/10分以下であることが望ましい。プロピレン系樹脂のMFRが前記下限値未満では、流動性が低すぎるため成形が困難となる傾向にあり、MFRが前記上限値を超過する場合は流動性が高すぎて成形が困難となる傾向にある。
【0041】
本発明におけるプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は限定されないが、通常1500MPa以下、好ましくは700MPa以下、より好ましくは600MPa以下であることが望ましい。また、曲げ弾性率の下限は限定されないが、通常、20MPa以上、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上である。
【0042】
<成分(C)>
本発明において成分(C)はリン酸とアンモニア又はトリアジン誘導体との塩であり、下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物である。
【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
上記一般式(2)においてZ及びZで表される炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル等が挙げられ、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルコキシ基としては、これらアルキル基から誘導される基が挙げられる。
【0046】
前記トリアジン誘導体の具体例としては、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0047】
本発明において成分(C)として使用される前記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物としては、リン酸とメラミンとの塩を使用することが好ましく、その具体例としては、例えば、オルトリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、上記一般式(1)におけるnが2、pが2、Xがメラミンであるピロリン酸メラミンを使用することが特に好ましい。
【0048】
本発明で使用する、例えばピロリン酸メラミンのようなリン酸とメラミンとの塩は、ピロリン酸ナトリウムとメラミンとを任意の反応比率で混合した後、塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和して得ることができる。
このような成分(C)に該当する化合物を後述する成分(D)とともに併用することにより、良好な難燃性を発現することができる。
【0049】
<成分(D)>
本発明において成分(D)はリン酸とジアミンまたはピペラジンとの塩であり、下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物である。
【0050】
【化9】

【0051】
上記一般式(3)におけるYで表されるジアミンの具体例としては、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1、7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、ピペラジン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
【0052】
本発明においては、(D)成分として使用される上記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物として、リン酸とピペラジンとの塩を使用することが好ましく、その具体例としては、オルトリン酸ピペラジン、ピロリン酸ピペラジン、ポリリン酸ピペラジン等が挙げられる。本発明においてはこれらの中でも、上記一般式(3)におけるqが1で、Y1がピペラジンであるポリリン酸ピペラジンを使用することが好ましく、特にピロリン酸ピペラジンを使用することが好ましい。
【0053】
本発明で使用するリン酸とピペラジンの塩は、ピペラジンとピロリン酸とを水中又はメタノール水溶液中で反応させることにより、水難溶性の沈殿として容易に得ることができる。但し、ポリリン酸ピペラジンの場合には、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、その他のポリリン酸の混合物からなるポリリン酸とピペラジンとから得られた塩であっても良く、原料のポリリン酸の構成は、特に限定されることはない。
このような成分(D)に該当する化合物を前記の成分(C)とともに併用することにより、良好な難燃性を発現することができる。
なお、成分(C)及び成分(D)を含有する難燃剤としては、例えば、株式会社ADEKA製、商品名:アデカスタブFP2200が挙げられる(特開2009−185214号公報には、当該製品が成分(C)及び成分(D)を含有する難燃剤であることが記載されている)。
【0054】
<成分(E)>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、成分(E)として無機充填材を含有することができる。成分(E)として用いる無機充填材は限定されないが、具体的には、タルク、クレイ、ウィスカ、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、シリカ、アルミナ、ホウ酸亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、金属繊維、チタン酸カリウム、
窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、成分(E)としてはアスペクト比が2以上の無機化合物が好適であり、具体的には、タルク、クレイ、ウィスカ、ウォラストナイト、炭素繊維、ガラス繊維等が例示され、特にタルクが好適である。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に成分(E)を含有することにより、樹脂組成物の難燃性及び耐熱性が良好となる傾向にある。これは、成分(E)を含有することにより燃焼時のドリップ発生が抑制されるためと考えられ、その効果は成分(C)及び成分(D)と併用することによって相乗的に効果を発現することができる。
【0056】
<その他の成分>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分(A)〜(E)以外の添加剤や樹脂等を、「その他の成分」として必要に応じて用いてもよい。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用しても良い。
【0057】
その他の成分として用いる樹脂としては、成分(A)及び成分(B)以外の樹脂であれば限定されないが、具体的には、例えば、成分(A)及び成分(B)以外のポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂や各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、成分(A)及び成分(B)以外のポリオレフィン樹脂を用いると、引張破壊伸度が向上する場合がある。
【0058】
成分(A)及び成分(B)以外のポリオレフィン樹脂は限定されないが、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等(分岐状又は直鎖状)のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物を含む)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系樹脂;1−ブテン単独重合体、1−ブテン−エチレン共重合体、1−ブテン−プロピレン共重合体等の1−ブテン系樹脂;ノルボルネンの開環メタセシス重合体やノルボルネン誘導体−エチレン共重合体等の所謂環状ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体や不飽和シラン化合物等で変性したものであってもよい。更には、部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0059】
ここでエチレン系樹脂とは、原料モノマーとしてエチレンを主要成分とし、好ましくはエチレンを50重量%以上含有する重合体を意味する。また、1−ブテン系樹脂とは、原料モノマーとして1−ブテンを主要成分とし、好ましくは1−ブテンを50重量%以上含有する重合体を意味する。
これらのポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、成分(A)及び成分(B)以外のポリオレフィン樹脂として共重合体を用いる場合の連鎖形式は限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体等の何れであってもよいが、ブロック共重合体又はランダム共重合体が好適である。
【0060】
成分(A)及び成分(B)以外のポリオレフィン樹脂は、190℃、21.2N荷重にて測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上であり、好まし
くは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、更に好ましくは10g/10分以下であることが望ましい。ポリオレフィン樹脂のMFRが前記下限値未満では、流動性が低すぎるため成形が困難となる傾向にあり、MFRが前記上限値を超過する場合は流動性が高すぎて押出成形が困難となる傾向にある。
【0061】
その他の成分として用いる添加剤としては、成分(C)、(D)及び(E)以外であれば限定されないが、具体的には、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、造核剤、可塑剤、衝撃改良剤、相溶化剤、消泡剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、滑剤、離型剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、有機充填剤、着色剤等が挙げられる。
【0062】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物には、その他の成分として、成分(C)及び成分(D)以外の難燃剤を併用してもよい。難燃剤はハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が好ましい。成分(C)及び成分(D)以外の非ハロゲン系難燃剤としては、成分(C)及び成分(D)以外のリン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム、硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0063】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
成分(E)以外の充填剤としては有機充填剤が挙げられ、具体的には、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。
【0064】
<難燃性ポリオレフィン樹脂組成物>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物における成分(A)と成分(B)との含有割合は、成分(A)と成分(B)との合計量に対し、成分(A):10〜90重量%、成分(B):90〜10重量%である。成分(A)の含有量が上記の下限値未満である場合は、得られる樹脂組成物の難燃性が悪化する。一方、成分(A)の含有量が上記の上限値を超える場合は、得られる樹脂組成物の難燃性及び耐熱性が悪化する。
成分(A)と成分(B)との含有割合の好ましい範囲は上記と同様の理由により、成分(A)と成分(B)との合計量に対し、成分(A):20〜80重量%、成分(B):80〜20重量%であり、より好ましい範囲は、成分(A):30〜70重量%、成分(B):70〜30重量%である。
【0065】
本発明において成分(A)と成分(B)を上記の組成範囲で併用することにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が良好な難燃性及び耐熱性を発現することが可能となる。成分(B)単独で成分(C)及び成分(D)を含有させたとしても、得られる樹脂組成物の難燃性は十分には確保されない。一方、成分(A)単独で成分(C)及び成分(D)を含有させたとしても、得られる樹脂組成物は難燃性及び耐熱性が不十分となり、特に燃焼時の耐ドリップ性が悪化する。成分(A)と成分(B)を併用することの効果は、薄肉の成形品における難燃性を付与する際に顕著な効果となって発現される。
【0066】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計量中の酢酸ビニル含有量は限定されないが、通常1〜45重量%、好ましくは8〜30重量%であることが望ましい。前記の酢酸ビニル含有量を前記範囲内とすることにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性の発現が最適化される傾向にある。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計量中の(メタ)アクリル酸エステル含有量は限定されないが、通常1〜45重量%、好ま
しくは8〜30重量%であることが望ましい。前記の(メタ)アクリル酸エステル含有量を前記範囲内とすることにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性の発現が最適化される傾向にある。
【0067】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中における酢酸ビニル含有量は限定されないが、通常1〜45重量%、好ましくは2〜30重量%であることが望ましい。前記の酢酸ビニル含有量を前記範囲内とすることにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性の発現が最適化される傾向にある。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中における(メタ)アクリル酸エステル含有量は限定されないが、通常1〜45重量%、好ましくは2〜30重量%であることが望ましい。前記の(メタ)アクリル酸エステル含有量を前記範囲内とすることにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性の発現が最適化される傾向にある。
ここで、酢酸ビニル含有量および(メタ)アクリル酸エステル含有量とは、それぞれ、酢酸ビニル単量体由来の含有量、および(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の含有量を意味する。
【0068】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中における成分(A)の含有量は限定されないが、通常3〜75重量%、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。樹脂組成物中の成分(A)の含有量を前記範囲内とすることにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性が良好となる傾向がある。
なお、本発明において成分(A)としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用してもよい。成分(A)としてこれらを併用する場合における樹脂組成物中の含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の合計量を意味する。
成分(A)としてエチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用する場合の配合比率は任意であるが、成分(A)中の酢酸ビニル含有量または成分(A)中の(メタ)アクリル酸エステル含有量のうち少なくとも何れかが前記の数値範囲となるように調整されることが望ましい。
【0069】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中における成分(B)の含有量は限定されないが、通常3〜75重量%、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。樹脂組成物中の成分(B)の含有量を前記範囲内とすることにより、得られる難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性及び耐熱性、特に燃焼時の耐ドリップ性が良好となる傾向がある。
【0070】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中において、成分(C)及び成分(D)の合計含有量は限定されないが、通常15〜60重量%、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%である。樹脂組成物中の成分(C)及び成分(D)の合計含有量を前記範囲内とすることにより、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性及び引張破壊応力が良好となる傾向がある。
本発明において成分(C)と成分(D)との含有割合は限定されないが、成分(C):1〜99重量%、成分(D):99〜1重量%(但し、成分(C)と成分(D)との合計量を100重量部とする。以下、同様。)である。成分(C)と成分(D)との含有割合の好ましい範囲は、成分(C):20〜80重量%、成分(D):80〜20重量%であり、より好ましい範囲は、成分(C):30〜70重量%、成分(D):70〜30重量%である。
【0071】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中において、成分(E)を用いる場合の含有量は限定されないが、通常0.5〜40重量%、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%である。樹脂組成物中の成分(E)の含有量を前記範囲内とすること
により、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性が良好となる傾向がある。
【0072】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に、その他の成分として樹脂を含有する場合の含有量は限定されないが、通常、樹脂組成物中に10〜65重量%、好ましくは15〜35重量%である。樹脂の含有量が前記上限値を超える場合は、得られる樹脂組成物の難燃性が不十分となる場合がある。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に、その他の成分として添加剤を含有する場合の含有量は限定されないが、通常、樹脂組成物中に0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。添加剤の含有量が前記上限値を超える場合は、得られる樹脂組成物の難燃性が低下する場合がある。なおこれらのその他の成分は、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物をマスターバッチとして用いる場合には、前記した含有量の2〜50倍、好ましくは3〜30倍の濃度で含有させることもできる。
【0073】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、JIS K7210(1999)に従い、230℃、21.2N荷重で測定した値が、通常0.2〜60g/10分、好ましくは0.5〜30g/10分、さらに好ましくは、1〜20g/10分の範囲のものが好適である。MFRが上記の上限値を超える場合は、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の押出成形性が低下する傾向がある。MFRが上記の下限値未満では流動性が不足するため、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の成形性が低下する傾向がある。
【0074】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は難燃性が良好であるため、UL−94VのV−0レベルの難燃性が望まれる用途において好適な成形品として使用することができる。特に厚みの薄い成形品とした場合においても良好な難燃性能を発揮するため、厚さが1.0mmの試験片においてもV−0レベルの難燃性を有することができ、更には厚さが0.7mm、特には厚さが0.5mmの試験片においてもV−0レベルの難燃性を有することができる。
【0075】
このように本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性が良好である要因としては、樹脂組成物またはこれより得られる成形品が火源に接触した場合において、燃焼性が抑制されるとともに、燃焼時のドリップ現象も顕著に抑制されるためである。本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、火源と接触した際、初期に樹脂の発泡が生じるが、発泡した樹脂が適度に炭化されて内部への熱の伝導を遮断するため、厚みの薄い成形品とした場合においても良好な燃焼性を発揮し得るものと考えられる。この効果は、樹脂成分として成分(A)及び成分(B)を必須として併用するとともに、難燃剤として成分(C)及び成分(D)を必須として併用することの相乗効果であると考えられる。
【0076】
<難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。混合の方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した樹脂組成物を得ることができる。
より均一な混合・分散のためには、所定量の上記原料成分を溶融混合することが好ましく、例えば、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合しても良いし、目的とする成形品を製造する際の成形時に各原料を適宜配合(ドライブレンド)して溶融混合してもよい。
【0077】
混合方法や混合条件は、各原料成分等が均一に混合されれば特に制限は無いが、生産性の点からは、例えばタンブラーブレンダー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェ
ルミキサー等を用いて原料を混合し、単軸押出機や2軸押出機のような連続混練機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機で溶融混練する方法が好ましい。これらの方法で樹脂組成物を製造する際の製造条件は限定されず、周知の条件で適宜設定することができる。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行う。
【0078】
<成形品および用途>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物から得られる成形品には限定は無く、種々の押出成形品や射出成形品等とすることができる。従って、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を成形する方法も、押出成形、圧縮成形、射出成形など特に限定するものではない。成形温度は樹脂組成物の溶融温度より高温であれば限定されないが、150℃〜220℃が望ましい。成形温度が前記下限より高ければ溶融した樹脂組成物の流動性が高く、目的の形状の成形体を得やすい。また成形温度が前記上限より低ければ難燃剤の変質による成形不良が起こりにくい。特に、樹脂組成物の溶融状態での流動性の観点から押出成形が望ましい。
【0079】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を用いて得られる成形体の用途は特に限定するものではないが、優れた難燃性、機械的特性、耐熱性を併せ持ち、外観に優れることから、絶縁体、シースとして電線・ケーブルに好適に用いることができる。更には、複数の樹脂被覆電線を束ねるチューブのほか、各種絶縁フィルム、絶縁パイプ、電源ボックス等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0081】
<成分(A)>
A−1: エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名:エバフレックスEV40LX、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製、酢酸ビニル含有量41重量%、MFR(190℃、21.2N)2.0g/10分)。
A−2: エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名:エバフレックスEV180、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製、酢酸ビニル含有量33重量%、MFR(190℃、21.2N)0.2g/10分)。
A−3: エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名:エバフレックスEV360、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製、酢酸ビニル含有量25重量%、MFR(190℃、21.2N)2.0g/10分)。
A−4: エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名:エバフレックスEV560、三井・デュポン ポリケミカル株式会社製、酢酸ビニル含有量14重量%、MFR(190℃、21.2N)3.5g/10分)。
A−5: エチレン・アクリル酸エチル共重合体(商品名:ユニカーNUC−6510、日本ユニカー株式会社製、アクリル酸エチル含有量23重量%、MFR(190℃、21.2N)0.5g/10分)。
【0082】
<成分(B)>
B−1: プロピレンを主成分とするプロピレン・エチレン共重合体(商品名:ノバテックEG8、日本ポリプロ株式会社製、密度0.90g/cm、MFR(230℃、21.2N)0.8g/10分)。
<成分(C)及び(D)>
CD−1: リン酸塩系難燃剤(商品名:アデカスタブFP2200、株式会社ADEKA製、pH 3.0〜4.0(25℃、水に10重量%懸濁にて測定)、密度1.78
g/cm)。前記一般式(1)及び一般式(2)に相当する(ポリ)リン酸塩化合物の混合物。(特開2009−185214号公報には、当該製品が成分(C)及び成分(D)を含有する難燃剤であることが記載されている)
【0083】
<成分(E)>
E−1: タルク(富士タルク工業株式会社製、商品名:PKP−53S)。
E−2: タルク(富士タルク工業株式会社製、商品名:TP−A20)。
<その他樹脂>
F−1: エチレン・1−ブテン共重合体(商品名:エンゲージENR7256、ダウケミカル日本株式会社製、密度0.885g/cm)。
F−2: 水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合物(商品名:ハイブラー7311、株式会社クラレ製、密度0.89g/cm)。
<酸化防止剤>
G−1: ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製、商品名:IRGANOX1010)。
【0084】
<実施例1>
表−1に示す原料配合にて全ての原料をドライブレンドし、東洋精機製作所社製ラボプラストミルにて、160℃、60rpmにて10分間溶融混練することにより、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を作製した。
得られた難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、180℃の電気プレスを用いて厚さ0.5mmのシートに成形した。
成形したシートを用い、後述する方法でUL−94Vに準拠した燃焼試験を行った結果について、表−1に示す。
【0085】
<実施例2、比較例1>
原料配合を表−1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を作製した。得られた難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を実施例1と同様にしてシートに成形し、厚さ0.5mmのシートを得た。成形したシートを用い、後述する方法でUL−94Vに準拠した燃焼試験を行った結果について、表−1に示す。
【0086】
<実施例3〜6、比較例2、3>
原料配合を表−2に示す通りとした以外は実施例1と同様にして難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を作製した。得られた難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、厚さ0.7mmとする以外は実施例1と同様にしてシートを得た。成形したシートを用い、後述する方法でUL−94Vに準拠した燃焼試験を行った結果について、表−2に示す。
【0087】
<実施例7〜9、比較例4〜7>
原料配合を表−3に示す通りとした以外は実施例1と同様にして難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を作製した。得られた難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、厚さ1.0mmとする以外は実施例1と同様にしてシートを得た。成形したシートを用い、後述する方法でUL−94Vに準拠した燃焼試験を行った結果について、表−3に示す。
【0088】
<UL−94V燃焼試験>
電気プレスで得られた試験片(長さ:127mm、幅:12.7mm。厚さは0.5mm、0.7mm、又は1.0mmの何れか。)を垂直に保ち、下端にバーナの火を10秒間接炎させた後に炎を取り除き、試験片に着火した火が消える時間を測定した。次いで火が消えると同時に2回目の接炎を10秒間行ない、1回目と同様にして着火した火が消え
る時間を測定した。更に、落下する火種によって試験片の下に設置した綿が着火するか否かについても評価した。
1回目と2回目の燃焼時間、綿着火の有無の結果から、UL−94V規格に従って燃焼性を評価した。燃焼性能はV−0、V−1、V−2の順に良好であり、V−2よりも劣るものは「×」とした。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
表−1〜表−3の結果から、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は試験片の厚さが0.5mm、0.7mm、1.0mmの何れの場合であっても、UL94V燃焼試験においてV−0レベルの難燃性を有することが確認された。これに対し、成分(A)または成分(B)を含有しない比較例の組成物においては、成分(C)及び成分(D)を含有していてもV−0の難燃性は達成しなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)と成分(B)との合計量に対し、成分(A)を10〜90重量%、成分(B)を90〜10重量%の割合で含有することを特徴とする難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
成分(A):エチレン−酢酸ビニル共重合体及び/又はエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
成分(B):プロピレン系樹脂
成分(C):下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
成分(D):下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
成分(A)及び成分(B)の合計量中の酢酸ビニル含有量が1〜45重量%である請求項1に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)及び成分(B)の合計量中の(メタ)アクリル酸エステル含有量が1〜45重量%である請求項1に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項4】
成分(C)及び成分(D)の合計含有量が、樹脂組成物中の15〜60重量%である請求項1〜3の何れか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項5】
更に成分(E):無機充填材を樹脂組成物中に1〜25重量%含有する請求項1〜4の何れか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を被覆してなる電線。


【公開番号】特開2013−43938(P2013−43938A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182759(P2011−182759)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】