説明

難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物

【課題】 難燃性、耐磨耗性、柔軟性、低温特性、引張強度や引張破断伸びなどの機械的特性、耐熱性に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(a)100質量部に対して無機系難燃剤(b)を50〜400質量部含有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物であって、ポリオレフィン系樹脂(a)が、ポリプロピレン系樹脂(a−1)30〜94質量%、末端ビニル基の個数が炭素原子1000個当たり0.2個以上である低密度ポリエチレン(a−2)1〜30質量%、カルボン酸基または酸無水物基を0.4質量%以上有する変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)5〜40質量%を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有するポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は一般に安価であり、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、成形加工性およびリサイクル性に優れることから、各種工業材料、自動車部品、家電製品、包装材料等の幅広い分野に使用されている。ポリオレフィン系樹脂は易燃性であるため、これを難燃化する方法が従来から種々提案され、近年では、環境問題に対する意識の高まりから、燃焼時にハロゲン系ガス等の有害ガスを発生しない難燃化方法が考案されている。例えば、ポリプロピレンやポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂や熱可塑性エラストマーに非ハロゲン系難燃剤である金属水和物を配合した難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が提案されている。しかしながら、従来のハロゲン系難燃材料と同等な難燃性を得るためには、金属水和物を多量に配合させる必要があった。その結果、得られる難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、柔軟性、耐磨耗性、低温特性、引張強度や引張破断伸び等の機械的強度が損なわれていた。よって、充分な難燃性と上記の機械的強度とを兼ね備えることが求められている。
【0003】
そこで、上記問題を解決すべく、例えば、特許文献1には、低結晶性で柔軟なα−オレフィン単独重合体または共重合体と水酸化マグネシウムとからなる難燃性オレフィン系樹脂組成物が提案されている。この難燃性オレフィン系樹脂組成物は、水酸化マグネシウムが高充填されて高い難燃性が付与されているとともに柔軟で低温特性および加工性に優れる。
特許文献2には、α−オレフィン(共)重合体、エチレン(共)重合体またはゴム、無機系難燃剤およびカルボン酸基等を有する重合体からなる耐磨耗性難燃組成物が提案されている。
特許文献3には、プロピレン系樹脂および変性スチレン系熱可塑性エラストマーならびに金属水和物を含有する難燃性樹脂組成物が提案されている。
【特許文献1】特開昭62−167339号公報
【特許文献2】特開平5−239281号公報
【特許文献3】特開2002−179857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の樹脂組成物においては、耐磨耗性や耐熱性が充分ではなく、実用性においてなお問題があった。また、特許文献2に記載の難燃組成物は、エチレン(共)重合体またはゴムを必須成分とするために、難燃性と柔軟性に優れるが耐熱性や耐磨耗性が不充分であった。さらに、特許文献3に記載の樹脂組成物は、耐磨耗性が不充分であり、改良が必要であった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来のハロゲン系難燃材料に匹敵する難燃性を得るために無機系難燃剤がポリオレフィン系樹脂中に多量に含まれているにもかかわらず、耐磨耗性、柔軟性、低温特性(低温屈曲性)、引張強度や引張破断伸びなどの機械的特性、耐熱性に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的に、無機材料を充填したポリオレフィン系樹脂組成物では、無機材料とポリオレフィン系樹脂との界面での剥離が白化の原因となり、これが引張強度、引張破断伸びや耐磨耗性を低下させる。また、難燃性を高めるために無機材料を多量に含有させた場合には樹脂組成物の柔軟性が損なわれる。ところが、本発明者らは、特定のポリオレフィン系樹脂を用いれば無機系難燃剤との剥離を抑制できることを見出した。そして、その知見に基づいて鋭意研究を重ねた結果、以下の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を発明した。
【0006】
すなわち、本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(a)100質量部に対して無機系難燃剤(b)を50〜400質量部含有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物であって、
ポリオレフィン系樹脂(a)が、ポリプロピレン系樹脂(a−1)30〜94質量%、末端ビニル基の個数が炭素原子1000個当たり0.2個以上である低密度ポリエチレン(a−2)1〜30質量%、カルボン酸基または酸無水物基を0.4質量%以上有する変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)5〜40質量%を含むことを特徴とする。
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物においては、無機系難燃剤(b)が、平均粒径20μm以下の水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを実質含有量98質量%以上で含むものであることが好ましい。
また、本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物においては、ポリプロピレン系樹脂(a−1)が、多段重合法によって製造され、キシレン可溶分を40〜80質量%含有するプロピレン−αオレフィン共重合体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、無機系難燃剤を多量に含有してハロゲン系難燃材料に匹敵する難燃性を有しているにもかかわらず、耐磨耗性、柔軟性、低温特性、引張強度および引張破断伸び、耐熱性に優れている。そして、このような難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、難燃性、柔軟性、耐熱性が特に求められる電線、壁紙、床材および建材フィルムの用途に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物(以下、樹脂組成物と略す)は、ポリオレフィン系樹脂(a)と無機系難燃剤(b)と含有し、ポリオレフィン系樹脂(a)が、ポリプロピレン系樹脂(a−1)と低密度ポリエチレン(a−2)と変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)とを含むものである。
【0009】
<ポリオレフィン系樹脂(a)>
[ポリプロピレン系樹脂(a−1)]
ポリオレフィン系樹脂(a)に含まれるポリプロピレン系樹脂(a−1)成分とは、プロピレンの単独重合体、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとα−オレフィンとのブロック共重合体から選ばれる1種または2種以上の樹脂成分である。ここでいうα−オレフィンとは、プロピレン以外の炭素数2〜12のα−オレフィンであって、例えば、エチレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などが挙げられる。
【0010】
また、ポリプロピレン系樹脂(a−1)としては上述したものであれば特に限定されないが、例えば特開平6−25367号公報に示されるような多段重合法によって製造され、キシレン可溶分を含むプロピレン−αオレフィン共重合体が好ましい。ここでいう多段重合法とは、2段階以上の重合ステップで製造する方法であり、第一段階にてプロピレンの単独重合体やプロピレンと5質量%以下のプロピレン以外のα−オレフィンとの結晶性ランダム共重合体(結晶性プロピレン樹脂)を製造し、それ以降で、エチレンと1種類以上の炭素数3以上のα−オレフィンとのランダム共重合体エラストマーを製造する方法である。この重合法では、各段階で生成する樹脂成分が重合時のリアクター中でブレンドされることになる。そのため、各樹脂成分を機械的にブレンドする方法に比べて、結晶性プロピレン樹脂中にエチレン−αオレフィンランダム共重合体エラストマー成分を微細に分散させることができる。
このような多段重合法により得たプロピレン−αオレフィン共重合体において、エチレン−αオレフィンランダム共重合体エラストマー成分の平均粒径は5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。このように微分散することで、明確な海島分散構造を持たずに相互貫入網目構造を持つことができ、無機系難燃剤の分散性、低温特性、耐磨耗性をより高めることができる。
【0011】
上記多段重合法により製造されたプロピレン−αオレフィン共重合体中の結晶性プロピレン樹脂は、耐熱性、耐磨耗性の面からプロピレン単独重合体が好ましい。
プロピレン−αオレフィン共重合体に含まれるエラストマー成分としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体あるいはエチレン−ブテンランダム共重合体が好ましい。さらに、これら共重合体においては、エラストマー粒径を小さくできることから、エチレン−プロピレンランダム共重合体中のエチレン含有量あるいはエチレン−ブテンランダム共重合体中のブテン含有量が約15〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%がより好ましい。これに対し、その含有量が15質量%未満または50質量%を超えるとエラストマー粒径が大きくなる。
【0012】
さらに、プロピレン−αオレフィン共重合体中のキシレン可溶分が40〜80質量%であることが好ましく、50〜65質量%であることがより好ましい。キシレン可溶分が40質量%を下回ると、得られる樹脂組成物において無機系難燃剤の分散性、柔軟性、低温特性が不足する傾向にあり、80質量%を超えると樹脂組成物の機械的強度が低下する傾向がある上に、樹脂組成物の粉体性状が悪化して樹脂組成物をコンパウンドする際にハンドリング不良になる傾向にある。ここで、キシレン可溶分はエラストマー成分である。
なお、キシレン可溶分は以下のように測定する。まず、プロピレン−αオレフィン共重合体2.5gを攪拌しながら、135℃のキシレン250ml中に溶解する。20分後、溶液を攪拌しながら25℃まで冷却し、ついで30分間沈降させた後、沈殿をろ過し、ろ液を窒素流下で蒸発させ、恒量に達するまで80℃で残渣を真空乾燥する。そして、乾燥した残渣を秤量して、25℃におけるキシレン可溶分の質量%を求める。
【0013】
また、ポリプロピレン系樹脂(a−1)成分は、上述の多段重合法により製造されたプロピレン−αオレフィン共重合体と通常市販されているプロピレン単独重合体とが併用されていることが好ましい。多段重合法により製造されたプロピレン−αオレフィン共重合体とプロピレン単独重合体とが併用されていれば、耐熱性と柔軟性とのバランスが良くなる。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂(a)中のポリプロピレン系樹脂(a−1)の含有量は30〜94質量%である。ポリプロピレン系樹脂(a−1)の含有量が30質量%未満であると、引張強度や耐熱性が低くなり、94質量%を超えると柔軟性や低温特性が低くなる。
【0015】
[低密度ポリエチレン(a−2)]
低密度ポリエチレン(a−2)成分とは、高圧ラジカル重合法によって製造され、密度が0.91g/cm以上0.94g/cm未満のものである。
低密度ポリエチレン(a−2)においては、MFRが0.05〜10.0g/10分であることが好ましく、0.1〜7.0g/10分であることがより好ましく、0.2〜5.0g/10分であることが特に好ましい。MFRが0.05g/10分以下では成形性が低くなることがあり、10.0g/10分を超えると樹脂組成物の耐磨耗性が不足することがある。
【0016】
また、低密度ポリエチレン(a−2)は、末端ビニル基の個数が炭素原子1000個当たり0.2個以上、好ましくは0.22個以上、より好ましくは0.25個以上のものである。末端ビニル基の存在によって低密度ポリエチレンの極性が向上するので、末端ビニル基の個数が炭素原子1000個当たり0.2個以上であることで、無機系難燃剤との相溶性および界面の反応性が向上して耐磨耗性が高くなる。
【0017】
ここで、末端ビニル基の個数は、赤外吸収分光法の測定により求めた値である。赤外吸収分光法としては、分散型分光光度計とフーリエ変換型分光光度計の2種類に大別されるが、波数精度の高いフーリエ変換型で測定することが好ましい。
具体的な末端ビニル基の測定方法について説明する。測定サンプルはプレス成形法によって作製された0.5±0.1mm厚みのフィルムを使用し、5000〜400cm−1、吸収量(ABS)=0〜2の範囲で測定する。そして、得られたスペクトルチャートの4650〜3550cm−1付近でベースラインを引き、4250cm−1におけるベースラインからのピーク高さA(cm)を求める。また、950〜860cm−1付近でベースラインを引き、908cm−1におけるベースラインからのピーク高さB(cm)を求める。そして、次式より炭素原子1000個当たりの末端ビニル基の個数を求める。
(炭素原子1000個当たりの末端ビニル基の個数)=3.31×B/A
【0018】
低密度ポリエチレン(a−2)を製造する方法としては特に限定されず、例えば、チューブラータイプの重合装置を用いる方法、重合時に分子量制御のために連鎖移動剤としてプロピレンを少量添加する方法などが挙げられる。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂(a)中の低密度ポリエチレン(a−2)の含有量は1〜30質量%である。低密度ポリエチレン(a−2)の含有量は1質量%未満であると耐磨耗性が低下し、30質量%を超えると引張破断伸び、耐熱性が低下する。
【0020】
[変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)]
変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)は、ポリスチレン相を末端に持ち、中間相にポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ブチレン−プロピレン共重合体を有するブロック共重合物であり、さらに、カルボン酸基および/または酸無水物基を有するものである。
ここでカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。また、酸無水物としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸の無水物が挙げられる。これらカルボン酸または酸無水物は1種類で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。上述した中でも、特にマレイン酸、フマル酸またはその酸無水物が好適に使用される。
【0021】
変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)中のカルボン酸基および/または酸無水物基の量は0.4質量%以上であり、耐磨耗性をより高めるためには、0.7質量%以上であることが好ましい。カルボン酸または酸無水物基の量が0.4質量%未満であると、無機系難燃剤を充填したときに耐磨耗性や引張強度や伸び等の機械的強度が不足する。
【0022】
変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)の中でも、無水マレイン酸がグラフト変性付加されたスチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が最も好ましい。この無水マレイン酸変性SEBSにおけるスチレン比率は20〜40質量%が好ましく、25〜35質量%であることがより好ましい。スチレン比率が20質量%未満では耐磨耗性が低くなる傾向にあり、40質量%を超えるとスチレン系熱可塑性エラストマーの分散性が低下し、機械的特性が充分に高くならない傾向にある。
【0023】
カルボン酸基および/または酸無水物基を有する変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーにカルボン酸基および/または酸無水物基を反応させることで得られる。その方法としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマーにカルボン酸および/または酸無水物と有機過酸化物等の反応開始剤とを混合した後、溶融混練する方法や、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの有機溶媒中で、スチレン系熱可塑性エラストマーにカルボン酸および/または酸無水物と有機過酸化物とを混合し、加熱溶融し反応させる方法などが挙げられる。ここでいう有機過酸化物は、例えば、ペンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイドなどのラジカル発生剤である。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂(a)中の変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)の含有量は5〜40質量%であり、好ましくは6〜30質量%、より好ましくは8〜20質量%である。このような範囲であることで、耐磨耗性と柔軟性、引張強度や伸び等の機械的強度と流動性とが両立する。これに対し、変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)の含有量が5質量%未満では耐磨耗性や引張強度や引張破断伸び等の機械的強度が不充分であり、40質量%を超えると流動性が著しく低下し、成形性が低くなる。
【0025】
<無機系難燃剤(b)>
無機系難燃剤(b)としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、カリウム、亜鉛、珪素などの各種金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物単独、またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、難燃効果が高く、経済性に優れることから、平均粒径20μm以下の水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルニウムが好ましい。また、平均粒径は10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、無機系難燃剤(b)は、凝集防止あるいは分散性向上を目的として、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの脂肪酸またはその金属塩、ワックス、有機チタネート、有機シランなどの表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。その場合、表面処理剤の量が多すぎると、樹脂組成物の難燃性が低くなる傾向にあり、また、変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)成分のカップリング効果が低下するため、樹脂組成物の引張特性や耐磨耗性が低下することがある。そのため、無機系難燃剤の実質含有量は好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。
【0027】
無機系難燃剤の実質含有量の測定例について説明する。この例は水酸化マグネシウムの測定例である。
まず、水酸化マグネシウム300mgを精密にはかり、エタノール約1mLで湿らし、1mol/L塩酸12mLを加え加熱溶解し、冷却後、水を加えて正確に200mLとする。この液10mLを正確に量り、水約80mLを加え、0.02mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和する。pH10.7のアンモニア・塩化アンモニア緩衝液2mLを加え、0.01mol/Lエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム液(EDTA)を用いて自動滴定装置にて滴定する。そして、この滴定量から実質含有量を求める。
【0028】
無機系難燃剤(b)の含有量はポリオレフィン系樹脂(a)100質量部に対して50〜400質量部、好ましくは55〜300質量部、より好ましくは55〜200質量部であり、この範囲内で最終用途の難燃性に応じて添加量を適宜選択する。これに対し、無機系難燃剤(b)の含有量が50質量部未満では難燃性が不充分であり、400質量部を超えると硬くなりすぎて実用的でなくなる。
【0029】
本発明の樹脂組成物においては、必要に応じて、各種補助成分、例えば、フェノール系、リン系、硫黄系等の各種酸化防止剤、着色剤、核剤、帯電防止剤、金属脂肪酸塩、アマイド系、シリコーン、ポリ四フッ化エチレン等の滑剤、スリップ剤、加工助剤、金属不活性剤、紫外線防止剤などを適量含有することができる。
【0030】
(製造方法)
上述した樹脂組成物は、各成分を定量フィーダーにより所定量を連続的に供給するか、あらかじめヘンシェルミキサー等の高速混合装置またはタンブラーを用いて各成分をプリブレンドした後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等公知の混練機を用いて溶融混練することで製造できる。
【0031】
以上説明した樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(a)が、ポリプロピレン系樹脂(a−1)と低密度ポリエチレン(a−2)と変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)とを特定量含むポリオレフィン系樹脂(a)100質量部に対して無機系難燃剤(b)を50〜400質量部含有するものである。このように無機系難燃剤を多量に含有する樹脂組成物は、ハロゲン系難燃材料に匹敵する難燃性を有している。また、この樹脂組成物では、ポリオレフィン系樹脂と無機系難燃剤との界面での剥離が防止されており、耐磨耗性、柔軟性、低温特性、引張強度および引張破断伸び、耐熱性に優れている。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の例において、MFRはJIS K 7210に基づき、ポリプロピレン系樹脂(a−1)および変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)は230℃、2.16kg荷重で測定し、低密度ポリエチレン(a−2)は190℃、2.16kg荷重で測定した値である。
【0033】
実施例および比較例で使用したポリオレフィン系樹脂(a)の詳細について説明する。ポリオレフィン系樹脂(a)は、ポリプロピレン系樹脂(a−1)と低密度ポリエチレン(a−2)と変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)とを含有するものである。
<ポリプロピレン系樹脂(a−1)>
(a−1−1)多段重合ポリプロピレン(PP)共重合体
[製法] 特開昭57−61012号公報に記載された方法に準じ、塩化マグネシウムとテトラエトキシシランを共粉砕した固形成分に、四塩化チタンと安息香酸エチルとの反応生成物を担持したものを固形触媒成分とした。次いで、1.5Lのステンレス製オートクレーブに上記固形触媒成分15.6mg、有機アルミニウムとしてトリエチルアルミニウムと電子供与性化合物として安息香酸エチルをプロピレン300gに対してそれぞれ300molppm、75molppmを添加し、さらに水素を0.3molppm添加した。次いで、オートクレーブを急激に70℃に昇温し、70℃で10分間保った後、オートクレーブを急激に30℃まで冷却し、エチレンをさらに16mol%添加し、50分間重合を継続した。次いで、オートクレーブ内のガスを放出して重合を終結し、真空乾燥後、粉体状の多段重合ポリプロピレン共重合体を得た。得られた多段重合ポリプロピレン共重合体の分析結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
(a−1−2)PP−1:サンアロマー社製ホモポリプロピレン(HOMO)、PS201A(MFR;0.5g/10分、キシレン可溶分;1.5質量%)
(a−1−3)PP−2:サンアロマー社製ブロックポリプロピレン(HECO)、PB170A(MFR;0.3g/10分、キシレン可溶分;17質量%)
(a−1−4)EPR:三井化学社製タフマー、P−0280(MFR;2.9g/10分、キシレン可溶分;99質量%)
【0036】
[キシレン可溶分の測定方法]
まず、樹脂2.5gを攪拌しながら、135℃のキシレン250ml中に溶解した。20分後、溶液を攪拌しながら25℃まで冷却し、ついで30分間沈降させた後、沈殿をろ過し、ろ液を窒素流下で蒸発させ、恒量に達するまで80℃で残渣を真空乾燥した。そして、乾燥した残渣を秤量して、25℃におけるキシレン可溶分の質量%を求めた。
【0037】
<低密度ポリエチレン(a−2)>
(a−2−1)LDPE−1:三井化学社製ミラソン3530(MFR;0.23g/10分、密度;0.924g/cm、末端ビニル基;0.29個/炭素原子1000個)
(a−2−2)LDPE−2:日本ポリオレフィン社製JK121A(MFR;0.25g/10分、密度;0.922g/cm、末端ビニル基;0.16個/炭素原子1000個)
[末端ビニル基の個数]
炭素原子1000個当たりの末端ビニル基の個数はJASCO社製フーリエ変換赤外分光装置VALOR−3を使用し、上述した測定方法で測定した。
【0038】
<変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)>
[製造法]スチレン比率28質量%のSEBSに所定量の無水マレイン酸、有機過酸化物をあらかじめブレンドした後、単軸押出機で溶融混練して製造した。
(a−3−1)酸変性SEBS−1:無水マレイン酸含有量;1.0質量%、スチレン比率;28質量%
(a−3−2)酸変性SEBS−2:無水マレイン酸含有量;0.3質量%、スチレン比率;28質量%
また、比較例用としてカルボン酸基または酸無水物基を含まないスチレン系熱可塑性エラストマーおよび無水マレイン酸を1.0質量%含むポリプロピレン系熱可塑性エラストマーを用意した。
(a−3−3)SEBS:未変性、スチレン比率;29質量%
(a−3−4)酸変性PP:無水マレイン酸含有量;1.0質量%、MFR;80g/10分
【0039】
<無機系難燃剤(b)>
(b−1)水酸化マグネシウム(Mg(OH))−1:協和化学工業社製キスマ5A低表面処理品(Mg(OH)量;99.3質量%)
(b−2)水酸化マグネシウム−2:協和化学工業社製キスマ5Pシランカップリング剤表面処理品(Mg(OH)量;99.5質量%)
(b−3)水酸化マグネシウム−3:協和化学工業社製キスマ5A通常品(Mg(OH)量:97.5質量%)
なお、(b−1)〜(b−3)のいずれも平均粒径は0.8μmである。
【0040】
<樹脂組成物の製造方法>
上記成分を表2(実施例)または表3,表4(比較例)のように配合し、これを容量20リットルのヘンシェルミキサーで混合した後、ダイス温度200℃に設定したφ40mm同方向二軸押出機を使用し、溶融混練してペレットを作製した。その後、先端に100mm幅のT−ダイが取り付けられたφ30mmの押出機を用いて成形温度230℃、2.0m/分の引取り速度で0.2mm厚みのシートを作製した。また、別途加圧プレスにより3.0mm厚みのシートを作製して酸素指数測定用サンプルとした。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
<試験方法>
得られたシートについて引張試験、耐磨耗性、LOIの各種物性試験を行った。各物性の測定法を以下に示す。
[引張試験]
0.2mm厚みのシートからJIS K 6251の3号ダンベルをシート流れ方向に沿って打ち抜いて試験片とした。そして、常温で引張速度;200mm/分、チャック間距離;60mm、標線間距離L;20mmで引張試験をし、試験片破断時の強度を最小断面積で割ったものを引張強度とした。また、破断時の標線間距離をLとし(L−L)/L×100の式から、引張破断伸びを求めた。
また、引張試験における荷重−変位曲線(図1参照)の初めの立ち上がり部分に接線を引き、△σ/△ε(△σ:接線上の任意の2点間での応力(荷重/平均断面積)の差、△ε:同じ2点間での歪みの差)でヤング率Eを求めた。なお、ヤング率が低い程、柔軟性が高いことを示している。
【0045】
[耐磨耗性]
JASO D611−12−(2)に示すブレード往復法に基づき、荷重3N、ブレードとしてφ0.45mmのピアノ線を使用して磨耗試験を行った。具体的には、試験片として0.2mm厚のシートを用い、これを、固定されたφ1.4mmの金属棒上に巻き付けしっかりと固定した。次いで、ブレードを試験片に接触させた後に往復動させて、試験片を磨耗させた、そして、ブレードが金属棒に接触するまでの往復回数を、1サンプルにつき20点以上測定し、各シート厚みと磨耗回数を片対数グラフにプロットし(図2参照)、最小自乗法により0.2mm厚での耐磨耗性を求め、その値を耐磨耗性とした。
[LOI(限界酸素指数)]
樹脂組成物のペレットを230℃でプレス成形して(予熱3分、加圧1分)で3mm厚みのシートを作製し、JIS K 7201に指定のA−1号サンプルを切り出し、JIS K 7201に準拠して測定した。このLOIが大きいほど難燃性が高い。
【0046】
表2に示すように、本願請求項1の範囲を満たす実施例1〜5は、耐磨耗性、引張強度、引張破断伸び、柔軟性、難燃性のいずれもが優れ、さらに、低温特性、耐熱性にも優れていた。
これに対し、表3または表4に示すように、比較例1〜12は、耐磨耗性、引張強度、引張破断伸び、柔軟性、難燃性、流動性のいずれかが低かった。以下、実施例と比較して具体的に説明する。
【0047】
実施例2より酸変性SEBS−1(a−3−1)の量を減らし、その分だけ多段重合PP共重合体(a−1−1)量を増やした比較例1では、実施例2に比べて耐磨耗性が低かった。また、実施例2より酸変性SEBS−2(a−3−2)の量を増やし、その分だけ多段重合PP共重合体量(a−1−1)を減らした比較例2では、大幅に粘度が上昇して流動性が低くなり、成形できなかった。
実施例2における酸変性SEBS−1(a−3−1)を、変性量が少ない酸変性SEBS−2(a−3−2)に置き換えた比較例3、酸変性していないSEBS(a−3−3)に置き換えた比較例4では、実施例2に比べて耐磨耗性が低かった。
実施例2における酸変性SEBS(a−3−1)を、酸変性PP(a−3−3)に置き換えた比較例5では、実施例2に比べて耐磨耗性が優れるもののヤング率が非常に大きく柔軟性が低かった。
難燃性をより重視して水酸化マグネシウム(b−1)充填量を増やした実施例5における酸変性SEBS−1(a−3−1)を、酸変性PP(a−3−3)に置き換えた比較例6では、実施例5と比較してヤング率が非常に大きく、柔軟性が低かった。
【0048】
実施例2または実施例4におけるLDPE−1(a−2−1)をなくし、その分だけ多段重合PP共重合体(a−1−1)量を増やした比較例7または比較例8は、実施例2または実施例4と比較して耐磨耗性が低かった。よって、LDPE−1(a−2−1)を含むことにより、耐磨耗性が向上することがわかる。
実施例2におけるLDPE−1(a−2−1)を、末端ビニル基量の少ないLDPE−2(a−2−2)に置き換えた比較例9は、耐磨耗性が低かった。よって、LDPEの末端ビニル基量が少なすぎると耐磨耗性を充分に向上させることができないことがわかる。
実施例2におけるLDPE−1(a−2−1)を40質量%に増やした比較例10は、耐磨耗性が低いとともに引張破断伸びが極端に低かった。
実施例2における水酸化マグネシウム−1(b−1)または実施例4における水酸化マグネシウム−2(b−2)を、表面処理量の多い水酸化マグネシウム−3(b−3)に置き換えた比較例11では、引張破断伸びが優れるものの、実施例2または実施例4と比較して耐磨耗性が低かった。
実施例2における多段重合PP共重合体(a−1−1)とホモPP(a−1−2)とを、ブロックPP(a−1−3)とEPR(a−1−4)とに置き換えた(総ゴム成分量は同じ)比較例12では、実施例2と比較して耐磨耗性および引張破断伸びが低かった。よって、多段重合PP共重合体が耐磨耗性および引張破断伸びの向上に寄与していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】引張試験により測定された荷重−変位曲線の一例である。
【図2】耐磨耗性試験におけるシート厚みに対する磨耗回数をプロットした片対数グラフの一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂(a)100質量部に対して無機系難燃剤(b)を50〜400質量部含有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物であって、
ポリオレフィン系樹脂(a)が、ポリプロピレン系樹脂(a−1)30〜94質量%、末端ビニル基の個数が炭素原子1000個当たり0.2個以上である低密度ポリエチレン(a−2)1〜30質量%、カルボン酸基および/または酸無水物基を0.4質量%以上有する変性スチレン系熱可塑性エラストマー(a−3)5〜40質量%を含むことを特徴とする難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
無機系難燃剤(b)が、平均粒径20μm以下の水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを実質含有量98質量%以上で含むものであることを特徴とする請求項1記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂(a−1)が、多段重合法によって製造され、キシレン可溶分を40〜80質量%含有するプロピレン−αオレフィン共重合体を含むことを特徴とする請求項1または2記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52287(P2006−52287A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234210(P2004−234210)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(597021842)サンアロマー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】