説明

難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物

【課題】 非ハロゲン系であり、かつ、高度な難燃性を有し、押出加工性に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 熱可塑性ポリオレフィン系樹脂に対して、下記一般式(1)で示される
【化6】


(式中、nは2〜20の整数を示す)で表される有機リン系難燃剤および窒素化合物を特定割合で含有させることにより、高度な難燃性を有し、押出加工性に優れた難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭素、塩素系難燃剤およびアンチモン化合物を含有せず、難燃性に優れた、難燃性ポリオレフィン系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、その優れた成形加工性から、電気および電子部品、自動車部品などに広く使用されている。近年、特に家電、電気およびOA関連部品では、火災に対する安全性を確保するため、高度な難燃性が要求される例が多く、このため、種々の難燃剤の配合が検討されている。
【0003】
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂に難燃性を付与する場合、一般的に、難燃剤としてハロゲン系難燃剤を使用し、必要に応じて、三酸化アンチモン等の難燃助剤を併用することにより、高度な難燃効果有する樹脂組成物が得られていた。しかしながら、今般、海外向け製品を中心として、ハロゲン系難燃剤に対する規制が発令されつつあり、難燃剤の非ハロゲン化が検討されている。
【0004】
本願と同じ構造を有する有機リン系難燃剤および熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物に関する技術(特許文献1)は開示されているが、該特許では熱可塑性樹脂に本願と同じ有機リン系難燃剤を添加することにより、厚さ3.2mmの圧縮成形品において、UL94基準にてV−1ないしV−0の難燃性が実現できることが開示されている。
【0005】
しかしながら、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂に対しては、該特許では全く難燃性の効果を示すことができておらず、現状では満足するものは得られていない。
【特許文献1】特公昭53−128195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような現状を鑑み、1/16インチ成形品においてもUL94基準にてV−2を実現することができる、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂(A)に対し、特定構造を有する有機リン系難燃剤(B)および窒素化合物(C)を特定割合で含有することにより、優れた難燃性を特徴とする、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、下記一般式(1)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、nは2〜20の整数を示す)で表される有機リン系難燃剤20〜100重量部および窒素化合物10〜100重量部を含有することを特徴とする、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【0011】
好ましい実施形態については、1/16インチ厚みの成形体において、UL94基準にてV−2であることを特徴とする、難燃性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0012】
より好ましい実施形態については、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂であることを特徴とする、前記記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【0013】
さらに好ましい実施形態については、前記難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物に、さらに無機化合物を含有することを特徴とする、前記記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【0014】
本発明の第二は、前記いずれかに記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物から、全部あるいは一部が形成される樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、UL94基準にてV−2を実現し、家電、電気、OA部品等の成形材料として好適に使用でき、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で使用される熱可塑性ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチル−ペンテン−1などの単独重合体およびエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体、プロピレン−4−メチルペンテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体があげられる。これらのうちでは、加工性、機械的特性、耐薬品性などのバランスに優れるという点から、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂が好ましく、特に、成形体の寸法安定特性の点から、ポリプロピレン樹脂が好ましい。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本発明で使用される熱可塑性ポリオレフィン樹脂(A)の230℃および2.16kg荷重の条件下でのメルトインデックス(メルトフローレート)は、1〜50g/10分が好ましく、加工性の点から、5〜30g/10分がより好ましい。なお、本明細書におけるポリプロピレン系樹脂のメルトインデックスは、JIS K7210に従い、測定される。
【0018】
本発明で使用される有機リン系難燃剤(B)とは、下記一般式(1)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、nは2〜20の整数を示す)で表されるものであり、分子中にリン原子を含み、nの繰り返し単位の下限値はn=2であり、好ましくは、n=3、特に好ましくはn=5である。nの繰り返し単位の上限値の規定は特にないが、過度に分子量を高めると分散性等に悪影響を及ぼす傾向にある。そのため、nの繰り返し単位の上限値は、n=20であり、好ましくは、n=15、特に好ましくはn=13である。n=2未満であると、機械的強度が低下する傾向がある。
【0021】
本発明に用いられる有機リン系難燃剤(B)の製造方法は、特に限定されず、一般的な重縮合反応によって得られるものであり、例えば、以下の方法で得られる。
【0022】
すなわち、下記一般式(2)
【0023】
【化4】

【0024】
で表される9,10−ジヒドロー9−オキサー10−フォスファフェナントレンー10−オキシドに対し、等モル量のイタコン酸およびイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコールを混合し、窒素ガス雰囲気下、120〜200℃の間で加熱し、攪拌することにより、リン系難燃剤溶液を得る。得られたリン系難燃剤溶液に、三酸化アンチモンおよび酢酸亜鉛を加え、1Torr以下の真空減圧下にて、さらに温度を220℃として維持し、エチレングリコールを留出しながら重縮合反応させる。約5時間後エチレングリコールの留出量が極端に減少した時点で、反応終了とみなした。得られた有機リン系難燃剤(B)は、分子量4000〜12000の固体であり、リン含有量が8.3%である。
【0025】
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物における有機リン系難燃剤(B)含有量は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、下限値としては20重量部が好ましく、40重量部がより好ましく、60重量部がさらに好ましい。有機リン系難燃剤(B)含有量の下限値が20重量部以下では、難燃性が低下する傾向がある。有機リン系難燃剤(B)含有量の上限値としては100重量部が好ましい。有機リン系難燃剤(B)含有量の上限値が100重量部を超えると、機械的強度が低下し、成形性も悪化する傾向がある。
【0026】
本発明では、難燃性をさらに高める為、窒素化合物(C)を加えることを特徴とする。本発明における窒素化合物(C)としては、例えば、メラミン・シアヌル酸付加物、メラミン 、シアヌル酸 等のトリアジン系化合物やテトラゾール化合物等が挙げられる。あるいはメラミン の2量体及び/または3量体であるメラム及び/またはメレムが挙げられる。これらのうちでは、機械的強度面の点から、メラミン・シアヌル酸付加物が好ましい。
【0027】
本発明におけるメラミン・シアヌル酸付加物とは、メラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)とシアヌル酸(2,4,6-トリヒドロキシ-1,3,5-トリアジン)および/またはその互変異体が形成する化合物である。
【0028】
メラミン・シアヌル酸付加物は、メラミンの溶液とシアヌル酸の溶液を混合して塩を形成させる方法や一方の溶液に他方を加えて溶解させながら塩を形成させる方法等によって得ることができる。メラミンとシアヌル酸の混合比には特に限定はないが、得られる付加物が熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の熱安定性を損ないにくい点から、等モルに近い方がよく、特に等モルであることが好ましい。
【0029】
本発明におけるメラミン・シアヌル酸付加物の平均粒子径は、特に限定されないが、得られる組成物の強度特性、成形加工性を損なわない点から、0.01〜250μmが好ましく、0.5〜200μmが特に好ましい。
【0030】
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物における窒素化合物(C)含有量は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、下限値としては、10重量部が好ましく、30重量部がより好ましく、50重量部がさらに好ましい。窒素化合物(C)含有量の下限値が10重量部未満では、難燃性、耐トラッキング性が低下する傾向がある。窒素化合物(C)含有量の上限値としては、100重量部が好ましく、80重量部がより好ましい。窒素化合物(C)含有量の上限値が100重量部を超えると、押出加工性が悪化する、または、ウエルド部の強度、機械的強度が低下する傾向がある。
【0031】
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、1/16インチ厚でのUL94基準において、V−2であることが好ましい。
【0032】
本発明では、長期の難燃性を付与するために、また、機械強度や耐熱性を高めるために、無機化合物を加えることを特徴とする。
【0033】
本発明で用いられる無機化合物は特に限定されないが、例えば、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、スメクタイト、タルク、カオリン等のケイ酸塩、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩、チタン酸カリウム等のチタン酸塩、タングステン酸ナトリウム等のタングステン酸塩、ウラン酸ナトリウム等のウラン酸塩、バナジン酸カリウム等のバナジン酸塩、モリブデン酸マグネシウム等のモリブデン酸塩、ニオブ酸カリウム等のニオブ酸塩、黒鉛層状化合物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、酸化ケイ素や酸化チタン、アルミナ等の酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化合物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、硫化亜鉛、リン酸カルシウムがあげられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0034】
本発明で用いられる無機化合物の好ましい構造は、リン系難燃剤のブリードアウトを抑えて長期難燃性を向上させる観点から、無機化合物のアスペクト比が大きく、また、樹脂中に均一に微分散するものである。上記の観点から、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、タルク、カオリン、スメクタイトなどの層状ケイ酸塩が好ましく用いられる。
【0035】
上記無機化合物は、樹脂中に均一に微分散させるために、表面処理することができる。表面処理の方法としては特に限定されないが、シラン系化合物、チタン系化合物、アルミナ系化合物、ポリエーテル系化合物、アミン系化合物などが用いられ得る。入手の容易さ、取り扱い性、ポリエステル樹脂への熱劣化の影響の観点から、シラン系化合物、ポリエーテル系化合物が好ましい。
【0036】
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物には、必要に応じて、ガラス繊維、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤等の添加剤を添加することができる。
【0037】
本発明の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂(A)、有機リン系難燃剤(B)および窒素化合物(C)を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法をあげることができる。混練機の例としては、一軸押出機、二軸押出機などが挙げられ、特に、混練効率の高い二軸押出機が好ましい。
【0038】
本発明で得られる難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、高度な成形性と難燃性を有し、特に、形状が複雑な家電、OA機器等の電気・電子部品、ハウジング等に好適に使用される。
【実施例】
【0039】
次に、具体例をあげて本発明の組成物を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0040】
以下に、実施例および比較例において使用した樹脂および原料類を示す。
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂(A):
・ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製、ノーブレンAZ864、メルトインデックス30g/10分、JIS K7210)
・ポリエチレン樹脂(三井化学(株)製、ハイゼックス2100J、メルトインデックス6g/10分、JIS K7210)
有機リン系難燃剤(B):(製造例1)にて作製したもの
窒素化合物(C):メラミンシアヌレート(日産化学(株)製、MC440)
安定剤:
・ビスフェノールAジグリシジルエーテル,ブチルグリシジルエーテル(旭電化工業(株)製、EP−22)、
・ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジーt−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティーケミカルズ社製、IRGANOX1010)
【0041】
(製造例1)
蒸留管、精留管、窒素導入管および攪拌機を有する縦型重合機に、下記一般式(2)
【0042】
【化5】

【0043】
で表される9,10−ジヒドロー9−オキサー10−フォスファフェナントレンー10−オキシド100重量部に対し、等モル量のイタコン酸60重量部およびイタコン酸に対し2倍モル以上のエチレングリコール160重量部を投入し、窒素ガス雰囲気下、120〜200℃まで徐々に昇温加熱し、約10時間攪拌することによってリン系難燃剤溶液を得た。得られたリン系難燃剤溶液に対し、三酸化アンチモン0.1重量部および酢酸亜鉛0.1重量部を加え、1Torr以下の真空減圧下にて、さらに温度を220℃として維持し、エチレングリコールを留出しながら重縮合反応させる。約5時間後、エチレングリコールの留出量が極端に減少したことで、反応終了とみなした。得られた有機リン系難燃剤(B)の分子量7000の固体であり、リン含有量は8.3%であった。
【0044】
なお、本明細書における評価方法は、以下に示すとおりである。
【0045】
<難燃性>
UL94基準試験に準拠し、得られた厚さ1/16インチのバー形状試験片を用いて、難燃性を評価した。
【0046】
<押出加工性>
押出加工工程において、
○ :発泡、ストランド切れ、カッティング不良も無く、良好なペレットが得られる。
×:ダイスからの発泡、ストランド切れ、カッティング時の砕けが発生する。
【0047】
(実施例1〜8)
原料(A)〜(C)を、表1に示した配合組成(単位:重量部)に従い、予めドライブレンドした。ベント式44mmφ同方向2軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)を用い、前記混合物をホッパー孔から供給し、シリンダー設定温度150〜210℃にて溶融混練を行い、ペレットを得た。
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形機(型締め圧:35トン)を用い、シリンダー温度180℃〜220℃および金型温度40℃の条件にて射出成形を行い、127mm×12.7mm×厚み1/16インチバー成形品を得た。得られた試験片を用い、上記基準に従って燃焼性評価を行った。
実施例1〜8における評価結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
(比較例1〜6)
原料(A)〜(C)を、表2に示した配合組成(単位:重量部)に従い、実施例と同様に、ペレット化および射出成形を行い、試験片を得、同様の評価方法にて実験を行った。
比較例8〜14における評価結果を、表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例および比較例の比較から、本発明における熱可塑性ポリオレフィン系樹脂(A)に対する有機リン系難燃剤(B)および窒素化合物(C)の配合比率の規定により、厚み1/16インチのバー成形品の燃焼性に優れることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明で得られる難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物は、非常に複雑な成形品においても、高度な難燃性を有し、特に、家電、OA機器等の電気・電子部品、ハウジング等に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、下記一般式(1)
【化1】

(式中、nは2〜20の整数を示す)で表される有機リン系難燃剤20〜100重量部および窒素化合物10〜100重量部を含有することを特徴とする、難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
1/16インチ厚みでの難燃性がUL94基準にてV−2であることを特徴とする、請求項1記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂であることを特徴とする、請求項1〜2記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物に、さらに、無機化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜3記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物から、全部あるいは一部が形成される樹脂成形体。

【公開番号】特開2007−126538(P2007−126538A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319787(P2005−319787)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】