説明

難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及び薄肉成形体

【課題】耐衝撃性及び耐薬品性に優れ、高度な難燃性を有するポリカーボネート系樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】粘度平均分子量18000〜25000のポリカーボネート系樹脂(A)、固有粘度0.6〜0.9のポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)、衝撃改良剤(C)、重量平均分子量3000〜30000のハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)、アンチモン化合物(E)及びエステル交換防止剤(F)を含む樹脂組成物において、前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)との割合(重量比)を、前者/後者=70/30〜90/10とし、前記ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、衝撃改良剤(C)3〜9重量部、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)10〜20重量部、アンチモン化合物(E)2〜10重量部、エステル交換防止剤(F)0.01〜0.5重量部を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性、耐衝撃性、成形性(流動性)、難燃性に優れ、FA(ファクトリーオートメーション)機器などの薄肉成形品に適する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性に優れるが、耐溶剤性が低い。さらに、溶融粘度が高く、流動性が低いため、成形性が低く、成形時の残留応力が生じ易いことが原因となり、実際に工場などのFA機器部品への適用は困難であった。これらの問題を解決するためにポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を溶融混合する方法が試みられており、得られる組成物は、ポリカーボネート樹脂単独に比べて、溶融粘度が低下し、耐薬品性が向上するとともに、薄肉成形品に適している。しかし、この組成物に難燃剤を添加した場合、耐衝撃性が大幅に低下し、実用上の問題を有している。
【0003】
例えば、特開昭58−185645号公報(特許文献1)には、熱可塑性ポリエステル及び熱可塑性ポリカーボネートの混合物100重量部当り、充填剤0〜200重量部、有機ハロゲン化合物をハロゲン元素量として0.1〜30重量部、及びアルコキシシランで処理された三酸化アンチモンをアンチモン元素量として0.1〜20重量部を配合してなる樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかし、この樹脂組成物でも、三酸化アンチモンをアルコキシシランで表面処理することにより、三酸化アンチモンによるポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂の分解を抑制する必要があるとともに、難燃剤の添加により、耐衝撃性が低下する。
【0005】
また、特開平6−239965号公報(特許文献2)には、芳香族ポリカーボネート樹脂50〜90重量%、芳香族ポリエステル樹脂2〜45重量%及びハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂3〜25重量%からなるポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対し、有機リン酸エステル0.005〜1重量部を配合してなる難燃性樹脂組成物が開示されている。この文献には、アンチモンがポリカーボネートとポリエステルとの間のエステル交換反応を促進することが記載され、アンチモンの代わりにエステル交換触媒を失活させるために、前記有機リン酸エステルが配合されている。また、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂の重合度は、21〜50(好ましくは30〜50)と記載され、実施例では、重合度41で分子量3万の臭素化エポキシ樹脂が使用されている。また、耐衝撃性を改良するために、MBSなどのゴム成分を配合することも記載されている。さらに、実施例では、無機充填剤として、0.05重量%のタルクが配合されている。
【0006】
しかし、この樹脂組成物では、難燃助剤を含まず、ハロゲン系難燃剤単独で構成されているため、難燃性が充分でない。さらに、ハロゲン系難燃剤の分子量が大きいため、流動性が低く、薄肉成形などの成形性が低い。
【0007】
さらに、特開2007−314664号公報(特許文献3)には、結晶性と難燃性とを両立させる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系難燃剤、難燃助剤、エステル交換防止剤を配合してなるポリエステル樹脂組成物であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂が0.01〜1μmの構造周期を有する両相連続構造、または分散径が0.01〜1μmの海島構造を形成しているポリエステル樹脂組成物が開示されている。この文献では、エステル交換反応の促進による樹脂組成物の結晶性低下を防止する点から、難燃助剤の配合量は樹脂成分100重量部に対して10重量部以下(好ましくは0.02〜2重量部)である。さらに、主成分の樹脂であるポリブチレンテレフタレートの結晶性を向上させるために、タルクなどの結晶核剤を樹脂成分100重量部に対して、0.01〜2重量部配合している。ハロゲン系難燃剤としては、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリエポキシポリマーが好ましいと記載されている。
【0008】
しかし、ポリブチレンテレフタレート系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物では、少量のアンチモン化合物でもエステル交換反応が促進され、樹脂の結晶性が低下するため、難燃助剤及び難燃剤の割合を少量に抑える必要があり、難燃性を向上できない。さらに、耐衝撃性と耐薬品性と耐熱性とを両立できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−185645号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−239965号公報(請求項1及び2、段落[0014][0017][0018]、実施例)
【特許文献3】特開2007−314664号公報(特許請求の範囲、段落[0017][0032][0033]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、耐衝撃性及び耐薬品性に優れ、高度な難燃性を有するポリカーボネート系樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、成形性(流動性)が高く、薄肉成形品を容易に製造できるポリカーボネート系樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、耐熱性に優れ、薄肉に成形しても均一で耐衝撃性及び難燃性の高いポリカーボネート系樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ベース樹脂としてのポリカーボネート系樹脂に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、衝撃改良剤、ハロゲン化ポリマー系難燃剤、アンチモン化合物及びエステル交換防止剤を特定の割合で配合することにより、高い耐衝撃性及び耐薬品性に加えて、高い難燃性を発現できるとともに、薄肉成形体を容易に成形できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ベース樹脂としてのポリカーボネート系樹脂(A)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)、衝撃改良剤(C)、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)、アンチモン化合物(E)及びエステル交換防止剤(F)を含む樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)の粘度平均分子量が18000〜25000であり、
前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の固有粘度が0.6〜1.0であり、
前記ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)の重量平均分子量が3000〜50000であるとともに、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)との割合(重量比)が、前者/後者=70/30〜90/10であり、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、衝撃改良剤(C)3〜9重量部、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)10〜20重量部、アンチモン化合物(E)2〜10重量部、エステル交換防止剤(F)0.01〜0.5重量部を含む。
【0015】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物において、前記アンチモン化合物(E)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して5〜10重量部程度であり、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)100重量部に対して10〜100重量部程度であってもよい。前記エステル交換防止剤(F)は、有機リン酸エステルであってもよく、前記エステル交換防止剤(F)の割合は、アンチモン化合物(E)100重量部に対して、0.3〜2重量部程度であってもよい。
【0016】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、さらに、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、フッ素樹脂(G)を0.01〜1重量部含んでいてもよい。前記ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)は、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂であってもよい。前記衝撃改良剤(C)は、ゴム含有ビニル系重合体であってもよい。さらに、前記アンチモン化合物(E)は、表面処理されていない三酸化アンチモンであってもよい。
【0017】
本発明には、前記ポリカーボネート系樹脂組成物で構成された薄肉成形体も含まれる。さらに、本発明には、前記ポリカーボネート系樹脂組成物を用いて成形することにより、薄肉成形体の難燃性と耐衝撃性と耐薬品性とを改善する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ポリカーボネート系樹脂に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、衝撃改良剤、ハロゲン系難燃剤、アンチモン化合物及びエステル交換防止剤を特定の割合で配合することにより、高い耐衝撃性及び耐薬品性に加えて、高い難燃性を発現できる。また、ポリカーボネートを主成分にするにも拘わらず、成形性(流動性)に優れ、薄肉成形体を容易に成形できる。さらに、耐熱性に優れ、薄肉に成形しても均一で難燃性及び耐衝撃性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ポリカーボネート系樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)、衝撃改良剤(C)、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)、アンチモン化合物(E)及びエステル交換防止剤(F)を必須成分として含有する。
【0020】
(A)ポリカーボネート系樹脂
本発明では、ポリカーボネートをベース樹脂として用いる。そのため、難燃性を向上できる。ポリカーボネート系樹脂(A)は、慣用の方法(例えば、ホスゲン法、エステル交換法など)により得ることができる。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート系樹脂(芳香族ジヒドロキシ化合物を重合成分とするポリカーボネート系樹脂)、特に、ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノール類を重合成分とするポリカーボネート系樹脂)が好ましい。
【0022】
ビスフェノール類としては、例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−6アルカンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C4−10シクロアルカンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドなど]などが例示できる。これらのビスフェノール類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
また、難燃性を向上させる観点から、ビスフェノール類は、臭素などによりハロゲン化されていてもよい。
【0024】
これらのビスフェノール類のうち、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカンなどが好ましい。
【0025】
塩化メチレンを用い20℃で測定したとき、ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量は、例えば、18000〜25000、好ましくは19000〜24000、さらに好ましくは20000〜23000(特に20500〜22500)程度である。分子量が低すぎると、耐衝撃性が低下し、高すぎると、流動性(成形性)が低下し、薄肉成形が困難となる。
【0026】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110〜160℃、好ましくは115〜155℃、さらに好ましくは120〜150℃程度であってもよい。
【0027】
(B)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂は、通常、テレフタル酸又はそのエステルを含むジカルボン酸成分と、ブタンジオールを含むジオール成分との重縮合反応によって得られる。
【0028】
ジカルボン酸としては、テレフタル酸を主成分(例えば、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上)として含んでいればよい。他のジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの炭素数8〜14程度の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの炭素数2〜14程度の飽和脂肪族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸、アコニット酸などの不飽和脂肪族トリカルボン酸など)、脂環族ジカルボン酸(例えば、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、テトラヒドロテレフタル酸など)、又はこれらのエステル(例えば、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステルなど)などが挙げられる。他のジカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。他のジカルボン酸のうち、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0029】
ジオール成分としては、1,4−ブタンジオールなどのブタンジオールを主成分(例えば、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上)として含んでいればよい。他のジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの炭素数2〜12程度の飽和脂肪族グリコールや、1,4−ブテンジオールなどの不飽和脂肪族グリコールなど)、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオールや1,4−シクロヘキサンジメタノールなど)などが挙げられる。他のジオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。他のジオール成分のうち、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2−4アルカンジオールなどが好ましい。
【0030】
PBT系樹脂(B)は、非結晶性であっても結晶性であってもよいが、成形加工性、機械的特性などの点から結晶性であるのが好ましい。このような結晶性ポリブチレンテレフタレート系樹脂には、ブチレンテレフタレート単位を少なくとも60モル%以上(好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上)含有するPBT系樹脂であってもよい。
【0031】
PBT系樹脂(B)の固有粘度(IV)は、例えば、0.6〜1.0dl/g(例えば、0.6〜0.9dl/g)、好ましくは0.65〜0.95dl/g、さらに好ましくは0.65〜0.9dl/g程度である。固有粘度が低すぎると、機械的特性や耐薬品性が低下し、高すぎると、流動性(成形性)が低下し、薄肉成形体の製造が困難となる。なお、固有粘度は35℃でo−クロルフェノールを溶媒として測定した値である。
【0032】
ポリカーボネート系樹脂(A)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)との割合は、ベース樹脂としてのポリカーボネート系樹脂(A)が、50重量%以上の割合で含まれていればよく、例えば、前者/後者(重量比)=70/30〜90/10、好ましくは72/28〜87/13、さらに好ましくは75/25〜85/15(特に77/23〜83/17)程度である。本発明では、両樹脂成分がこのような割合で配合されているため、耐衝撃性と耐薬品性と成形性とを両立できる。すなわち、PBT系樹脂(B)の割合が多いと、エステル交換反応により結晶性が低下し、耐熱性及び耐薬品性が低下する。これに対して、本発明では、PBT系樹脂(B)の割合が少ないため、エステル交換反応を抑制しつつ、ポリカーボネート系樹脂(A)の難燃性を有効に発現させ、耐熱性と耐薬品性と耐衝撃性とを向上できる。
【0033】
(C)衝撃改良剤
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、薄肉成形体であっても高い衝撃性を付与するため、衝撃改良剤を含んでいる。衝撃改良剤としては、ゴム成分やエラストマーなどの軟質成分を有していればよく、天然ゴムや合成ゴムなどのゴム成分、各種の熱可塑性エラストマーなどであってもよい。本発明では、前記ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性などの点から、ゴム含有ビニル系重合体が好ましい。
【0034】
ゴム含有ビニル系重合体は、共重合(グラフト重合、ブロック重合など)などにより、ビニル系重合体で構成されたマトリックス中にゴム状重合体(ゴム成分)が粒子状に分散した重合体であってもよく、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくともビニル単量体を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得られるグラフト共重合体(ゴムグラフトビニル系重合体)である。
【0035】
ビニル単量体としては、例えば、芳香族ビニル系単量体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど)、シアン化ビニル系単量体(例えば、(メタ)アクリロニトリルなど)、アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸C1−4アルキルエステルなど)から選択された少なくとも一種などが例示できる。ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体(スチレン−ブタジエンブロック共重合体など)などのジエン系ゴムなどが例示できる。
【0036】
ゴム含有ビニル系重合体としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、メタクリル酸メチル変性HIPS(透明HIPS)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂(透明ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体(MBS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル変性AXS樹脂などのゴム含有スチレン系樹脂が挙げられる。ここで、AXS樹脂とは、ゴム成分X(アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)にアクリロニトリルAとスチレンSとがグラフト重合した樹脂を指し、具体的には、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン樹脂(AES樹脂)などである。これらのゴム含有ビニル系重合体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
これらのうち、アクリル系単量体及び/又はシアン化ビニル系単量体を構成単位として含有するゴムグラフトスチレン系樹脂(ゴム成分にアクリル系単量体及び/又はシアン化ビニル系単量体とスチレン系単量体とがグラフト重合した共重合体)、例えば、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、MBS樹脂、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂などが好ましく、ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性などの点から、MBS樹脂が特に好ましい。
【0038】
衝撃改良剤(C)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、例えば、3〜9重量部、好ましくは3.5〜8.5重量部、さらに好ましくは4〜8重量部程度である。
【0039】
(D)ハロゲン化ポリマー系難燃剤
ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)としては、慣用のハロゲン化ポリマー系難燃剤、例えば、ハロゲン化エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノキシ樹脂、ハロゲン化ポリカーボネート系樹脂、ハロゲン化スチレン系樹脂、ハロゲン化アクリル系樹脂、ハロゲン化ポリフェニレンエーテル系樹脂などが使用できる。
【0040】
これらのうち、ハロゲン化エポキシ樹脂が好ましく、ハロゲン化エポキシ樹脂としては、通常、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂が使用される。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などが例示できるが、通常、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が使用される。ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール骨格に1〜8個(例えば、2〜6個、好ましくは2〜4個)のハロゲン原子が置換したビスフェノール型エポキシ樹脂が例示できる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、好ましくは塩素又は臭素原子であって、通常、臭素原子である。好ましいハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ジブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などの臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。これらのハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂は、末端エポキシ基が封鎖剤(単官能性の活性水素含有化合物)で封鎖されていてもよい。封鎖剤としては、例えば、モノブロモフェノール、ジブロモフェノール、トリブロモフェノール、テトラブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、トリクロロフェノールなどのハロゲン原子をベンゼン環に1〜5個有するハロゲン化フェノール類(特にブロモフェノール類)が好ましく利用される。末端エポキシ基の封鎖率は0〜100%の範囲から選択できるが、樹脂組成物の機械的特性の点から、例えば、50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下であってもよく、未封鎖であってもよい。
【0042】
ハロゲン化ポリマー難燃剤(D)(特にハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂)の重量平均分子量は、例えば、3000〜50000、好ましくは3500〜40000、さらに好ましくは4000〜30000(特に5000〜20000)程度である。ハロゲン化ポリマー系難燃剤の分子量が大きすぎると、成形性が低下し、小さすぎると、耐衝撃性などの機械的特性が低下する。
【0043】
ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、例えば、10〜20重量部、好ましくは11〜18重量部、さらに好ましくは12〜16重量部(特に13〜15重量部)程度である。難燃剤の割合が少なすぎると、難燃性が低下し、多すぎると、耐衝撃性などの機械的特性が低下する。
【0044】
(E)アンチモン化合物
アンチモン化合物(E)は、前記ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)との相乗効果によって難燃性を高める難燃助剤として機能するとともに、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)とのエステル交換反応を促進する。アンチモン化合物(E)の種類は、特に制限されないが、例えば、酸化アンチモン(三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなど)や、アンチモン酸塩(アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸マグネシウムなどのアンチモン酸金属塩、アンチモン酸アンモニウムなど)などが使用できる。これらのアンチモン化合物のうち、三酸化アンチモンSb及び/又はxNaO・Sb・yHO(x=0〜1,y=0〜4)などの酸化アンチモンが好ましい。これらのアンチモン化合物(C)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
アンチモン化合物(E)の平均粒径は、例えば、0.01〜5μm、好ましくは0.05〜4μm、さらに好ましくは0.1〜3μm程度である。また、アンチモン化合物の表面を、エポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物などの表面処理剤で表面処理してもよいが、本発明では、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)とのエステル交換反応を適度に促進させるため、表面処理されていないアンチモン化合物が好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物はポリカーボネート系樹脂ベースであるため、アンチモン化合物(E)を高い割合で配合することにより、難燃性と耐衝撃性とを両立でき、同時にポリカーボネート系樹脂(A)とPBT系樹脂(B)とのエステル交換反応も適度に進行させ、機械的強度を向上できる。アンチモン化合物(E)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、例えば、2〜10重量部(例えば、5〜10重量部)、好ましくは3〜8重量部、さらに好ましくは5〜7重量部程度である。
【0047】
特に、本発明では、PBT系樹脂(B)に対して、比較的多量のアンチモン化合物(E)を配合することを特徴としている。すなわち、アンチモン化合物(E)の割合は、PBT系樹脂(B)100重量部に対して、例えば、10〜100重量部、好ましくは15〜80重量部、さらに好ましくは20〜60重量部(特に20〜50重量部)程度である。このような割合でアンチモン化合物(E)が配合されるため、PBT系樹脂(B)とポリカーボネート系樹脂(A)とを適度にエステル交換反応させ、PBT系樹脂の耐熱性及び耐薬品性を維持しつつ、樹脂組成物の機械的特性の向上に寄与していると推定される。
【0048】
さらに、アンチモン化合物(E)の割合は、ハロゲン系エポキシ樹脂(D)100重量部に対して、例えば、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜70重量部程度である。
【0049】
(F)エステル交換防止剤
本発明では、少量のエステル交換防止剤を配合することにより、前記アンチモン化合物(E)によるエステル交換反応を適度に制御できるため、樹脂組成物の難燃性と機械的特性の両立が可能となる。エステル交換防止剤としては、アンチモンなどによるエステル交換触媒的作用を抑制できれば、特に限定されないが、有機リン酸エステルを好ましく利用できる。
【0050】
有機リン酸エステルとしては、例えば、モノ乃至トリアルキルホスフェート(例えば、メチルホスフェート、ブチルホスフェート、ヘキシルホスフェート、ラウリルホスフェート、ステアリルホスフェートなどのモノ乃至トリC1−24アルキルホスフェート)、モノ乃至トリアリールホスフェート(例えば、フェニルホスフェート、クレジルホスフェート、キシリルホスフェートなど)などが例示できる。これらの有機リン酸エステルは、対応する亜リン酸エステル(ホスホン酸エステル)であってもよい。これらの有機リン酸エステルは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機リン酸エステルのうち、モノ又はジアルキルホスフェート(特に、モノ及び/又はジステアリルホスフェートなどのモノ及び/又はジC10−22アルキルホスフェート)及びこのアルキルホスフェートに対応するホスホン酸エステルが好ましい。
【0051】
エステル交換防止剤(F)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、1重量部以下(例えば、0〜0.5重量部)であり、例えば、0.01〜0.5重量部、好ましくは0.03〜0.3重量部、さらに好ましくは0.05〜0.2重量部程度である。
【0052】
特に、本発明では、アンチモン化合物(E)に対して、少量(特に2重量部以下)のエステル交換防止剤(F)を配合すると、エステル交換反応を適度に制御でき、樹脂組成物の難燃性と機械的特性との両立できる。交換防止剤(F)(特に有機リン酸エステル)の割合は、アンチモン化合物(E)100重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜2重量部、さらに好ましくは0.5〜1.8重量部(特に0.8〜1.5重量部)程度である。
【0053】
(G)フッ素樹脂
フッ素樹脂(G)としては、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリトリフルオロエチレン(PTrFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの単独重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パ−フルオロプロピルビニルエーテル共重合体などが例示できる。
【0054】
これらのフッ素樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのフッ素樹脂のうち、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのテトラフルオロエチレン単独重合体又はテトラフルオロエチレンを主要な構成単位とする共重合体が好ましい。
【0055】
フッ素樹脂(G)のフッ素含量は、例えば、50〜80重量%、好ましくは60〜79重量%、さらに好ましくは70〜78重量%程度であってもよい。フッ素樹脂の分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において、100万〜1000万、好ましくは200万〜700万程度であってもよい。フッ素樹脂は、平均一次粒子径が0.05〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmであってもよい。
【0056】
フッ素樹脂(G)は、固体形状(粒子状など)のほか、水性分散液(水にフッ素樹脂粒子が分散した分散液など)の形態で使用可能であり、樹脂中での分散性に優れる点から、水性分散液の形態で使用するのが好ましい。
【0057】
フッ素樹脂(G)(水性分散液の形態で使用する場合は、固形分)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、例えば、0.01〜1重量部、好ましくは0.05〜0.8重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部程度である。
【0058】
(他の添加剤)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、成形性を向上させる目的などから、さらに滑剤を配合してもよい。滑剤としては、例えば、長鎖脂肪酸又はその誘導体[飽和又は不飽和脂肪酸(カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、べヘン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸などのC10−34飽和脂肪酸など)及びこれらの脂肪酸エステルや脂肪酸アミドなど]、ポリオキシアルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなどの単独又は共重合体)、シリコーン系化合物、(ポリオルガノシロキサン又はその変性体)、ワックス類(天然パラフィン、合成パラフィン、マイクロワックス、ポリオレフィン系ワックスなど)などが挙げられる。滑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの滑剤のうち、高級アルコールの長鎖脂肪酸エステル(特に、ステアリン酸ステアリルエステルなどのC12−24飽和脂肪酸のC12−24脂肪族アルコールエスエル)が好ましい。
【0059】
滑剤の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、例えば、0.01〜10重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.5〜3重量部程度である。
【0060】
本発明のポリカーボネート系組成物には、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)を含有させてもよい。
【0061】
安定剤としては、いずれも慣用の安定剤を利用できる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキノン系酸化防止剤、キノリン系酸化防止剤などが例示できる。紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤などが例示できる。熱安定剤としては、エスファイト系熱安定剤、イオウ系熱安定剤、ヒドロキシアミン系熱安定剤などが例示できる。
【0062】
これらの安定剤のうち、少なくとも酸化防止剤を含むのが好ましく、フェノール系酸化防止剤(特に、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのC4−8アルカンテトラオールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、とイオウ系酸化防止剤(特に、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートなどのチオジC2−6アルカンカルボン酸ジC10−20アルキルエステル)との組合せが特に好ましい。フェノール系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤の割合(重量比)は、前者/後者=90/10〜10/90、好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60程度であってもよい。
【0063】
安定剤の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、例えば、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度である。
【0064】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、他の樹脂成分、他の慣用の難燃剤及び難燃助剤成分、他の添加剤[例えば、帯電防止剤、結晶核剤、可塑剤、潤滑剤、着色剤(染料、顔料など)など]を含有させてもよい。
【0065】
これらの任意成分の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、1重量部以下(例えば、0〜1重量部、好ましくは0〜0.1重量部、さらに好ましくは0〜0.01重量部程度)であってもよい。なお、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、結晶核剤を含んでいてもよいが、ポリカーボネート系樹脂(A)がベース樹脂であるため、結晶核剤(特に、タルク、マイカ、カオリンなどのポリブチレンテレフタレートの結晶核剤)は含まない場合であっても、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の結晶化度の低下の影響を小さくできる。
【0066】
(ポリカーボネート系樹脂組成物の特性)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)で構成されたマトリックス相と、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)で構成された分散相とで形成された海島型相分離構造を有している。分散相の形態は、特に限定されず、不定形状、球状、長球状(又は楕円体状)などであり、通常、略球状である。分散相の平均径は、例えば、10〜1000nm、好ましくは20〜500nm、さらに好ましくは50〜200nm程度であってもよい。
【0067】
本発明のポリカーボネート形樹脂組成物は、薄肉成形体の難燃性に優れ、試験片の厚み0.75mmで測定したとき、UL94燃焼性試験に準拠した難燃性がV−0であってもよい。また、耐衝撃性にも優れ、ISO179/1eAに準拠したシャルピー耐衝撃性は40kJ/cm以上(例えば、40〜70kJ/cm、好ましくは45〜70kJ/cm、さらに好ましくは50〜70kJ/cm程度)であってもよい。
【0068】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、流動性も高く、ISO1133に準拠したMFR(メルトフローレート)値(240℃、荷重5kgで10分間に流出する樹脂の重量)は、16g/10分以上の範囲から選択でき、例えば、16〜50g/10分(例えば、20〜50g/10分)、好ましくは18〜40g/10分、さらに好ましくは20〜40g/10分程度であり、例えば、各種特性とのバランスから、20〜30g/10分程度であってってもよい。本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、このような高流動性を示すため、薄肉成形性に優れている。特に、MFRが20g/10分以上の組成物は、小型化・薄型化が進んでいるFA機器の薄肉成形体に対して有効である。
【0069】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、耐薬品性にも優れ、1/4楕円法(臨界歪み試験法)に準拠した方法で、薬品(潤滑油)として、低膨潤油(ASTM NO.1)、中膨潤油(IRM902)、高膨潤油(IRM903)の3種類を利用した場合、臨界歪み値が0.7%以上(例えば、0.7〜1.2%、好ましくは1.0〜1.2%)程度であってもよい。
【0070】
[ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形品の製造方法]
本発明のポリカーボネート形樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)、衝撃改良剤(C)、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)、アンチモン化合物(E)、エステル交換防止剤(F)、必要により他の成分(フッ素樹脂、安定剤など)とを溶融混合することにより得られる。なお、各成分の混合順序は特に制限されず、樹脂成分に、樹脂成分以外の成分の全てを一度に混合してもよく、一部の成分を添加して混合した後、残る成分を(必要により複数回に分割して)混合してもよい。
【0071】
溶融混合は、慣用の方法、例えば、慣用の混練機(例えば、単軸又は二軸押出機、ニーダー、カレンダーロールなど)を用いて、各成分を混合することにより行う場合が多い。
【0072】
溶融混合における温度は200〜320℃、好ましくは220〜310℃、さらに好ましくは230〜300℃(例えば、240〜290℃)程度である。
【0073】
このようにして得られた樹脂組成物は射出成形に供して成形してもよい。射出成形の方法としては、一般に使用される熱可塑性樹脂の射出成形機を用いて成形する方法が利用できる。
【0074】
射出成形における溶融混合温度(シリンダー温度)は、200〜320℃(特に、230〜300℃)程度である。
【0075】
なお、各成分の混練は段階的に行ってもよく、例えば、前述の慣用の押出混練法やロール混練法を用いて、濃度の高いマスターバッチを調製し、ペレット化した後、射出成形において予備乾燥したポリカーボネート系樹脂(A)のペレットと混合して射出成形機に供給し、射出成形機の射出スクリューによって最終的な混練を行ってもよい。
【0076】
射出成形における射出圧力は、例えば、50〜200MPa程度であり、射出速度は、例えば、0.3〜3m/分程度であってもよい。金型温度は、例えば、10〜100℃、好ましくは20〜90℃、さらに好ましくは30〜80℃(特に、50〜80℃)程度であってもよい。
【0077】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、薄肉成形性に優れ、例えば、0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mm、さらに好ましくは0.3〜1mm(特に0.4〜0.8mm)程度の薄肉シート又は薄肉部を有する成形体の製造に適している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、難燃性、耐薬品性、耐衝撃性など特性に優れ、種々の用途、例えば、電気・電子機器、オフィスオートメーション(OA)機器、家電機器、モバイル機器、自動車部品、家庭用品、建築材料などの用途などに利用できる。特に、薄肉成形体の成形性及び機械的特性に優れ、耐薬品性も有する点から、油や薬品との接触機会が多い用途、例えば、工場のFA(ファクトリーオートメーション)機器の薄肉成形体、例えば、液晶タッチパネル枠、シーケンサ、コントローラー、LEDボード、センサ機器、保安・報知・防犯機器等として有用である。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた成分の内容、及び組成物の特性の評価方法を以下に示す。なお、各成分の分子量及び粘度は、前述の方法で測定された値である。
【0080】
(1)各成分の内容
(A)ポリカーボネート系樹脂
PC1:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS2000F」、粘度平均分子量22200
PC2:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS3000F」、粘度平均分子量20600
PC3:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、出光石油化学(株)製、商品名「タフロンFN2700」、粘度平均分子量27000。
【0081】
(B)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
PBT1:ポリブチレンテレフタレート、ウィンテックポリマー(株)製、商品名「ジュラネックス300FP」、固有粘度IV値0.7dl/g
PBT2:ポリブチレンテレフタレート、ウィンテックポリマー(株)製、商品名「ジュラネックス500FP」、固有粘度IV値0.87dl/g
PBT3:ポリブチレンテレフタレート、ウィンテックポリマー(株)製、商品名「ジュラネックス700FP」、固有粘度IV値1.14dl/g。
【0082】
(C)衝撃改良剤
ゴム含有ビニル重合体:メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、三菱レイヨン(株)製、商品名「メタブレン C223A」。
【0083】
(D)ハロゲン化ポリマー系難燃剤
難燃剤1:臭素化エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、商品名「プラサームEP100」、重量平均分子量10000
難燃剤2:トリブロモフェノール・2,2−ビス(ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン・2,2−ビス[ジブロモ−4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン重付加物、阪本薬品工業(株)製、商品名「SRT2040」、重量平均分子量4000
難燃剤3:臭素化エポキシ樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、商品名「プラサームEP16」、重量平均分子量1600
難燃剤4:トリブロモフェノール・2,2−ビス(ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン・2,2−ビス[ジブロモ−4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン重付加物、阪本薬品工業(株)製、商品名「SRT20000」、重量平均分子量30000
難燃剤5:臭素化フェノキシ樹脂、東都化成(株)製、商品名「エポトートYPB43C」、重量平均分子量60000以上。
【0084】
(E)アンチモン化合物
三酸化アンチモンSb:東湖産業(株)製、商品名「NT−3H」。
【0085】
(F)有機リン酸エステル化合物
リン酸エステル:リン酸ステアリルエステル、(株)ADEKA製、商品名「アデカスタブAX71」。
【0086】
(G)フッ素樹脂
ポリテトラフルオロエチレンPTFE(分散剤含有):テフロン(三井デュポンフロロケミカル(株)製、商品名「テフロン6J」)35重量部とポリグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製、商品名「リケマールAZ01」)65重量部との混合物。
【0087】
(他の添加剤)
滑剤:ステアリルステアレート、理研ビタミン(株)製、商品名「リケマールSL800」
安定剤1:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を主成分とする酸化防止剤、チバジャパン社製、商品名「イルガノックス1010」
安定剤2:ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートを主成分とする酸化防止剤、住友化学工業(株)製、商品名「スミライザーTPS」。
【0088】
(2)各特性の評価方法
[流動性(メルトマスフローレート)]
ISO1133に準拠した方法で、240℃、荷重5kgで10分間に流出する樹脂の重量の測定を行った。MI値が16以上であれば、薄肉成形において充分な流動性を示す。
【0089】
[耐衝撃性]
ISO179/1eAに準拠した方法で、シャルピー衝撃値(kJ/cm)を測定し、評価した。衝撃強度が40以上であれば、耐衝撃性に優れている。
【0090】
[耐熱性]
ISO75に準拠した方法で、高荷重(1.80MPa)の荷重たわみ温度HDT(℃)を測定した。
【0091】
[難燃性]
米国アンダーライターラボラトリーズ発行のUL94に準拠した方法で、0.75mmの厚みのサンプルにつき燃焼試験を実施した。この燃焼試験では、試験片のゲート側より着火した。
【0092】
[耐薬品性]
1/4楕円法(臨界歪み試験法)に準拠した方法で、薬品(潤滑油)として、低膨潤油(ASTM NO.1)、中膨潤油(IRM902)、高膨潤油(IRM903)の3種類を利用して、臨界歪み値が0.7%以上を「○」と評価し、0.7%未満を「×」と評価した。
【0093】
[熱安定性]
示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下で、50℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温した後、300℃から50℃まで10℃/分の速度で降温し、50℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温した時に観測される吸熱ピークの温度Tm(℃)を求めた。第1回目の昇温時のピーク温度をTm1とし、第2回目の昇温時のピーク温度をTm2とする。
【0094】
実施例1〜10及び比較例1〜12
ポリカーボネート系樹脂(A)と、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)と、衝撃改良剤(C)と、ハロゲン系エポキシ樹脂(D)と、アンチモン化合物(E)と、他の添加剤とを表1及び表2に示す割合(重量部)で混合し、樹脂組成物を調製し、ドライブレンドした後、シリンダー温度260℃に設定した押出機で溶融混練し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を熱風循環式乾燥機を用いて120℃で3時間以上乾燥した後、射出成形機により、シリンダー温度250℃、金型温度60℃の成形条件で、サンプルの薄肉シートを製造した。各種特性を評価した結果を表1及び表2に示す。なお、実施例1で得られた樹脂組成物の電子顕微鏡写真を図1に示す。図1から明らかなように、ポリカーボネートで構成されたマトリックス相に、ポリブチレンテレフタレートで構成された平均50〜200nmの分散相が分散している。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
表から明らかなように、実施例のポリカーボネート系樹脂組成物を用いると、流動性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性、熱安定性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂としてのポリカーボネート系樹脂(A)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)、衝撃改良剤(C)、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)、アンチモン化合物(E)及びエステル交換防止剤(F)を含む樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)の粘度平均分子量が18000〜25000であり、
前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の固有粘度が0.6〜1.0であり、
前記ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)の重量平均分子量が3000〜50000であるとともに、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)との割合(重量比)が、前者/後者=70/30〜90/10であり、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、衝撃改良剤(C)3〜9重量部、ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)10〜20重量部、アンチモン化合物(E)2〜10重量部、エステル交換防止剤(F)0.01〜0.5重量部を含むポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
アンチモン化合物(E)の割合が、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して5〜10重量部であり、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)100重量部に対して10〜100重量部である請求項1記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
エステル交換防止剤(F)が有機リン酸エステルであり、エステル交換防止剤(F)の割合が、アンチモン化合物(E)100重量部に対して、0.3〜2重量部である請求項1又は2記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、ポリカーボネート系樹脂(A)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(B)の合計100重量部に対して、フッ素樹脂(G)を0.01〜1重量部含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
ハロゲン化ポリマー系難燃剤(D)が、臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、衝撃改良剤(C)がゴム含有ビニル系重合体である請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物で構成された薄肉成形体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物を用いて薄肉成形することにより、薄肉成形体の難燃性と耐衝撃性と耐薬品性とを改善する方法。

【公開番号】特開2011−132313(P2011−132313A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291209(P2009−291209)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】