説明

難燃性不織布

【課題】優れた難燃性能と柔らかな風合、良好な伸びを両立させた不織布を提供する。
【解決手段】(1)繊維集合体を交絡一体化させた不織布において、該不織布の総重量に対し、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が3.0wt%以上混合させる。(2)ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維がアクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる共重合体に、該共重合体に対して6wt%以上50wt%未満の、粒径を2μm以下に揃えたSb化合物を含有させて溶解紡糸して得られた難燃繊維である。(3)不織布構造が表層/中間層/裏層の3層構造である。(4)ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が裏層又は/及び中間層に混合されている。(5)高分子弾性体が難燃性不織布に対し5〜20%含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性能と柔らかな風合を併せ持つ難燃性不織布および難燃性シート状構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不織布はインテリア、衣類、靴、鞄、乗物用内装材など様々な用途に利用されている。その中でも航空機や自動車、鉄道車両および船舶などのシート表皮材や内装材などの分野では各々の難燃性規格に適合する不織布が求められている。
不織布に難燃性を付与する方法として、特許文献1には難燃剤をバックコートする方法が開示されている。この方法では良好な難燃性は得られるものの布帛の風合が極めて粗硬で伸びが固定されてしまうため、シート等の複雑な形状への追随が出来なくなる。
【0003】
また、特許文献2では含浸するポリウレタン樹脂に難燃剤を混合する方法が開示されているが、この方法ではポリウレタン樹脂としての性能が低下して、特に厳しい耐光性能が要求される車両用途に耐えられるレベルまで向上させにくい。
特許文献3では、リン酸共重合ポリエステルからなる極細繊維不織布に水酸化アルミニウムを含有した高分子弾性体を充填させる方法が開示されている。一般的に共重合されたポリエステルは耐光性や耐摩耗強度においてレギュラーポリエステルより劣るため車両用途では大きなハンディとなる。
【0004】
更に、特許文献4ではリン含有量の多いホスファゼン化合物を液中吸じんさせる方法が開示されている。この方法の最大の難点は処理浴槽の汚染であり簡単な化学洗浄では除去できない、また、排水時の環境負荷が大きいなど工業生産が難しい技術である。上記のように、これまで提案されている不織布の難燃化の方法は良好な難燃性能と耐光性や耐磨耗強度あるいはシート形状に追従できる伸びや風合いといった物性との両立が不十分なものであった。
【0005】
【特許文献1】特公平3−80914号公報
【特許文献2】特開平7−18584号公報
【特許文献3】特開2002−115183号公報
【特許文献4】特開2002−105871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた難燃性能と、耐光性や耐磨耗強度あるいはシート形状に追従できる伸びや風合いといった物性とを両立させた難燃性不織布、および難燃性不織布から得られる難燃性シート状構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の従来技術の問題を解決するため、繊維集合体を交絡一体化させた多層構造不織布に、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を特定範囲で含有させることで、優れた難燃性能、耐磨耗強度、及びシート形状に追従できる伸びや風合いといった物性を両立させた難燃性不織布を見出し、本発明とした。即ち本発明は以下の通りである。
(1)繊維集合体を交絡一体化させた不織布において、該不織布の総重量に対し、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が3.0wt%以上混合されていることを特徴とする難燃性不織布。
(2)前記ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が、アクリロニトリル30〜70w
t%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる、共重合体を溶解紡糸して得られた難燃性繊維であり、該共重合体に対して、粒径を2μm以下に揃えたSb化合物を6〜50wt%含有していることを特徴とする上記(1)記載の難燃性不織布。
(3)前記不織布構造が、表層/中間層/裏層の3層構造であることを特徴とする上記(1)又は上記(2)記載の難燃性不織布。
(4)前記ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が、不織布構造の裏層及び/又は中間層に混合されていることを特徴とする上記(3)に記載の難燃性不織布。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性不織布が、高分子弾性体を5〜20wt%含有していることを特徴とする難燃性シート状構造物。
(6)前記高分子弾性体が、水分散系ポリウレタン樹脂であることを特徴とする上記(5)に記載の難燃性シート状構造物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により優れた難燃性とシートの表皮材や内装材に好適な柔軟な風合、良好な伸びを兼ね備えた不織布を提供することが出来る。これら特性から車両用途は勿論のこと家具用途にも好適である。更に、公共施設や映画館、劇場など不特定多数の人が集まる故に厳しい難燃性が要求される施設のシート表皮材や内装材などにも用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明は、繊維集合体を交絡一体化させた多層構造不織布に、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を特定範囲で含有させることで、優れた難燃性能と、耐磨耗強度及びシート形状に追従できる伸びや風合いといった物性とを、両立させた難燃性不織布である。
本発明の難燃性不織布において、不織布構造が、表層/中間層/裏層の3層構造であることが好ましい。
【0010】
なお、本発明において表層とは、難燃性不織布が使用される際に、表面となる側の層を言う。例えば、シート表皮材の場合は人体と接触する側の層である。
また、本発明における難燃性不織布とは、シート状構造物を含むものであり、ヌバック調やスエード調などの表面に立毛が形成された立毛調人工皮革に代表される難燃性シート状構造物が好ましい態様である。その表面品位を変化させることなく、高い難燃性能と柔軟な風合い、良好な伸びや耐磨耗強度などの実用上必要な物性を兼ね備えた難燃性シート状構造物のことである。
【0011】
本発明の不織布を構成する繊維としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維などが挙げられるが、シート表皮材や内装材への適用という点では耐光性や耐磨耗強度及び染色堅牢度の点でポリエステル系繊維を用いるのが好ましい。
ポリエステル系繊維としては、代表的にはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステル系繊維の単糸繊度は特に限定されないがシート表皮材や内装材として綺麗な表面感を発現させるために0.6dtex以下の極細繊維を用いることが好ましく、より好ましくは0.06〜0.4dtexである。
極細繊維としては、溶融紡糸法により直接紡糸されたものが使用出来るし、共重合ポリエステルとポリエステルの海島繊維等の複合糸から共重合ポリエステルを抽出して極細ポリエステルを取り出す方法も有効である。
【0012】
本発明の難燃性不織布中に、少量の温水可溶性単繊維(例えば水溶性ビニロン)を混合することは本発明の目的を阻害しない範囲で可能である。
本発明の不織布は、表層/中間層/裏層の3層構造を有することが好ましい。表層およ
び裏層に適用する繊維ウェブは、一般的にはカード、クロスレイヤー、ランダムウェッバー等の乾式法、或いは水中に各種繊維を分散させたスラリーを作成し、抄造法により繊維ウェブを製造する方法が知られているが、使用する繊維が単繊維状に均一に分散された繊維ウェブを得るには、抄造法が好ましい。カード、クロスレイヤー、ランダムウェッバー法では単繊維としての均一分散が難しく、均一分散性に限界がある。中間層としては不織布の強度、寸法安定性の点から織編物を使用するのが好ましい。
【0013】
本発明に用いるハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維は、アクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる、共重合体を、溶解紡糸して得られた難燃性繊維であり、該共重合体に対して、粒径を2μm以下に揃えたSb化合物を6〜50wt含有している。
本発明に用いる共重合体は、アクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる共重合体であり、具体例としては、アクリロニトリル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニル−臭化ビニルなどのハロゲン含有ビニル系単量体とアクリロニトリルとの共重合体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系単量体の1種以上とアクリロニトリルおよびこれらと共重合可能なビニル系単量体との共重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また前記共重合体を適宜混合して使用してもよい。なお、本明細書にいうアクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる共重合体には、いかなる形においても部分アセタール化ポリビニルアルコールが含有されることはない。
必要に応じ用いる前記共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸、そのエステル、メタクリル酸、そのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、その塩、メタクリルスルホン酸、その塩、スチレンスルホン酸、その塩などがあげられ、それらの1種または2種以上の混合物が用いられうる。
なお、前記アクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる共重合体において、ハロゲン含有ビニル系単量体量が30%未満では、繊維を難燃化することが困難となり、また70%をこえると、製造された繊維の物性(強度、伸度、耐熱性など)、染色性、風合などの性能が充分でなくなり、いずれも好ましくない。
【0015】
本発明に用いる粒径を2μm以下に揃えたSb化合物は難燃剤として用いられるものであり、その具体例としては酸化アンチモン(Sb、Sb、Sbなど)、アンチモン酸、オキシ塩化アンチモンなどの無機アンチモン化合物があげられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上、組合せて用いてもよい。粒径を2μm以下に揃えることは、ノズル詰りや糸切れなどの紡糸上のトラブル防止、繊維の強度向上などの点から好ましい。
アクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる共重合体に対するSb化合物の割合は6〜50wt%である。
6wt%未満では難燃性不織布として必要な難燃性をうるために、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の難燃性不織布中における混合率を高める必要があり、 50wt%をこえると、繊維製造時のノズル詰まりや繊維物性(強度、伸度など)の低下がおこり、高度に難燃強化した繊維の製造面や品質面などで問題が生じ、好ましくない。
特に、難燃繊維に強い強度などや良好な編織性などが求められる場合には、Sb化合物
の割合は8〜40wt%が好ましく、10〜30wt%がさらに好ましい。
【0016】
本発明の難燃性不織布は、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を表層、中間層、裏層のいずれの層へも混合させて良いが、表面となる表層へ混合する場合は難燃性シート構造物としてシート表皮材や内装材へ適用した場合、表面品位の変化や悪化を招き好ましくない。表面品位の変化や悪化を招かない点では、裏層又は中間層のいずれか、もしくは裏層と中間層の両方にハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を混合させることが好ましい。その混合量は難燃性不織布の総重量に対して3.0wt%以上が必要であり、好ましくは3.0〜60wt%の範囲であり、特に好ましくは、5.0〜50%の範囲である。
【0017】
ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を裏層のみに混合させる場合は、難燃性不織布の総重量に対して3.0wt%以上、より好ましくは7.5〜60wt%のハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が存在するように裏層用スラリーにハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を混合させて抄造法により繊維ウェブを作成する。
その際、本発明で開示のハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維以外の繊維、例えばポリエステルやポリアミド等の合成繊維、綿等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、無機系やリン系などの他の難燃性繊維を一緒に混合分散させてスラリーを作成し抄造法により繊維ウェブを作成しても何ら問題はない。ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維以外の繊維は目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0018】
また、中間層にのみハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を混合させる場合は、例えば、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維で織編物を作成して中間層へ適用する。その際、他の繊維を混合紡績して紡績糸とした後、この紡績糸を使って織編物を作成しても何ら問題はないが、中間層として適用する織編物の作成方法を限定するものではなく、重要な点は中間層として適用する織編物に混合するハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の重量が難燃性不織布の総重量に対して3.0wt%以上、より好ましくは7.5〜60wt%となるように織編物を作成することである。ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維と混合紡績させる他の繊維としては一般的な合成繊維や天然繊維、再生繊維、などが用いられるが特に限定されるものではない。
ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を、裏層と中間層の両方へ混合する場合は、裏層と中間層の両方へ混合したハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の合計重量が難燃性不織布の総重量に対して3.0wt%以上、より好ましくは7.5〜60wt%になるように混合する。
【0019】
このようにして得られた、表層用と裏層用の繊維ウェブと、中間層の織編物を、表層/中間層/裏層の構造になるように積層し、交絡一体化させる。
交絡一体化の方法としてはニードルパンチ、水流交絡処理等がよく知られているが、中間層の織編物の組織を破壊することのない水流交絡処理が好ましい。
本発明による難燃性不織布を難燃性シート状構造物として適用する場合は、柔軟で且つ弾力性のある風合、及び耐久性や寸法安定性等の物性を向上させる目的で、前記の方法で得られた難燃性不織布に高分子弾性体を含有することが好ましい。
【0020】
高分子弾性体としてはポリウレタン樹脂、各種合成ゴム、天然ゴム等が挙げられるが、柔軟で且つ弾力性のある風合、及び耐久性や寸法安定性等の物性を得るためにはポリウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂としてはポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系などがあり、更には、溶剤系、水分散系が使用される。いずれの樹脂を使用しても差し支えないが、環境負荷の低減という点から水分散系のポリウレタン樹脂の使用が好ましい。柔軟な風合いと耐久性を両立するには、ポリウレタン樹脂の含有量は難燃性不織布重量に対して5〜20%、より好ましく7〜15%である。又、必要に応じて酸化防止剤等の安定剤を添加することは何ら支障がない。
【0021】
このようにして得られた難燃性シート状構造物はそのまま製品として使用できるが、起毛処理と染色処理を行ってスエード調やヌバック調の人工皮革として使用しても何ら支障は無い。人工皮革とする際に用いられる染色機は、起毛感の向上や柔軟な風合いを出すためには液流染色機が適している。染色に用いられる染料として分散染料を用いるが、染色堅牢度を満たす染料であれば特に限定するものではなく、目的とする色に応じて適宜選択すればよい。染色方法については染色加工業者によく知られた通常のポリエステル繊維を染色する方法で実施することが出来、何ら制限を受けるものではない。このようにして染色された人工皮革は化学的還元剤の存在下で還元洗浄される。使用される還元剤としてはハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素、硫化ソーダ、ハイドロサルファイトカルシウムなどがあるが、これら各種還元剤は使用した染料によって適宜選択すればよく、単独または組み合わせて使用することも出来る。また、必要に応じて酸、アルカリ、界面活性剤を併用することが出来る。
このようにして得られた難燃性不織布や難燃性シート状構造物は難燃性、耐光性、染色堅牢度に優れ、また、柔軟な風合や耐磨耗強度、良好な伸びを兼ね備えておりシート表皮材や内装材用途として十分適用するものである。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、それらは本発明の範囲を限定するものではない。実施例および比較例中の測定値は以下の方法で測定した。
(1)燃焼性測定:連邦自動車安全基準 FMVSS No.302
この測定では、下記基準にて等級判定を行った。
5級:燃焼部分が燃焼速度測定領域に達しない
4級:燃焼長が51mm未満で、かつ燃焼時間が60秒未満
3級:平均燃焼速度が50mm/分以下でサンプル全焼
2級:平均燃焼速度が51〜70mm/分でサンプル全焼
1級:平均燃焼速度が71mm/分以上でサンプル全焼
(2)ドロップ性:前記(1)項の燃焼性測定において、測定終了までの溶融ポリマー落下の個数をカウントした
(3)剛軟度:JIS L 1096(A法:45°カンチレバー法)
(4)伸び率:JIS L 1096(A法:カットストリップ法)
この測定ではサンプルの荷重が12.12Nの時の伸び率A(%)とサンプル切断時の伸び率B(%)を測定した
【0023】
[実施例1〜4]
ハロゲン及びSb含有モダアクリル製造用の共重合体として、アクリロニトリル51.0wt、塩化ビニリデン48.0wt%、およびp−スチレンスルホン酸ソーダ1.0wt%よりなる、共重合体を樹脂濃度で30.0wt%になるようにアセトンに溶解した。
得られた樹脂溶液の樹脂重量に対して、25wt%の三酸化アンチモンを添加して紡糸原液を調製した。
前記三酸化アンチモンは、2μm以下に揃えられた粒子径を有し、樹脂溶液に均一に分散するように事前に調整して用いた。
【0024】
次に、得られた紡糸原液を、ノズル孔径0.08mmのノズルから50wt%アセトン水溶液中へ押出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで3倍に熱延伸後、さらに145℃で5分間熱処理を行なって、単繊維繊度2.2dtex、強度3.3g/dtex、伸度40%のハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を製造し、長さ5mmに切断してハロゲン及びSb含有モダアクリル短繊維を得た。
次いで、直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtexの極細ポリエステル繊維を製造し、長さ5mmに切断して極細ポリエステル短繊維を得た。
該極細ポリエステル短繊維を使用し、抄造法により目付110g/mの表層用繊維ウェブを得た。
【0025】
次に該極細ポリエステル短繊維と、ハロゲン及びSb含有モダアクリル短繊維を使い、該極細ポリエステル短繊維と該ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の混合比率が、重量比で25:75(実施例1)、75:25(実施例2)、80:20(実施例3)、90:10(実施例4)になるように混合使用し、抄造法により目付90g/mの裏層用繊維ウェブを得た。
これらの表層用と裏層用繊維ウェブの中間に、中間層として165dtex/48fのポリエステル繊維からなるガーゼ状の織物を封入し、三層構造の繊維集合体とした。
【0026】
次いで高速水流の噴射により交絡一体化して難燃性不織布を得た。高速水流には孔径0.15mmの直進流噴射ノズルを用いて、表層から4.0MPa、裏層から3.0MPaの圧力で噴射処理し、ピンテンターで乾燥後、目付300g/ m、厚さ1.00mmの難燃性不織布を製造した。難燃性不織布総重量に対するハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の比率は、表1に示した通り、それぞれ22.5wt%、7.5wt%、6.0wt%、3.0wt%であった。
【0027】
この難燃性不織布の表層を、#400のエメリペーパーを用い、ペーパー速度1000m/分でバフィングした。これに、ポリウレタン含浸液としてポリエーテル系水系ポリウレタンエマルジョン(日華化学社製「エバファノールAP−12」)が9wt%、感熱剤として硫酸ナトリウム(NaSo)が3wt%となるように調合した含浸液を、前記不織布シートに含浸後ピックアップ率120%になるようにマングルで絞り付着率を合わせた。その後ピンテンター乾燥機で130℃、3分間で加熱乾燥し難燃性シート状構造物とした。
【0028】
この難燃性シート状構造物を1300リットルの浴で、浴比1:16になるように設定したサーキュラー染色機を用いて130℃、20分の染色を実施した。その後、二酸化チオ尿素、苛性ソーダを各3g/リットルで、80℃、15分間の還元洗浄を行い、酸中和、水洗、乾燥を実施して仕上げて立毛調人工皮革を得た。
染色後の立毛調人工皮革について、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表1に示した。
【0029】
[比較例1〜2]
実施例1において、裏層の極細ポリエステル短繊維とハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の混合比率が重量比で95:10(比較例1)、100:0(比較例2)になるようにした他は、実施例1と同様に作成された立毛調人工皮革について、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表2に示した。尚、三層積層構造の不織布総重量に対するハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の比率は、それぞれ1.5wt%と0.0wt%であった。
【0030】
[実施例5]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtexの極細ポリエステル繊維を製造し、長さ5mmに切断した極細ポリエステル短繊維を使用し、抄造法により表層用及び裏層用繊維ウェブとして、それぞれ目付110g/m、の90g/mの繊維ウェブを作成し、これらの表層用繊維ウェブと裏層用繊維ウェブの中間に中間層として実施例1記載のハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維100wt%の紡績糸でガーゼ状の織物を作成して封入し、三層構造の繊維集合体を作成した。
【0031】
次いで高速水流の噴射により交絡一体化させて難燃性不織布を得た。高速水流には孔径
0.15mmの直進流噴射ノズルを用いて、表層から4.0MPa、裏層から3.0MPaの圧力で噴射処理し、ピンテンターで乾燥後、目付330g/ m、厚さ1.06mmの難燃性不織布を製造した。難燃性不織布総重量に対するハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の比率は39.4wt%であった。
このシート状物の表層を#400のエメリペーパーを用い、ペーパー速度1000m/分でバフィングした。これに、ポリウレタン含浸液としてポリエーテル系水系ポリウレタンエマルジョン(日華化学社製「エバファノールAP−12」)が9wt%、感熱剤として硫酸ナトリウム(NaSo)が3wt%となるように調合した含浸液を、前記難燃性不織布に含浸後ピックアップ率120%になるようにマングルで絞り付着率を合わせた。その後ピンテンター乾燥機で130℃、3分間で加熱乾燥し難燃性シート状構造物とした。
【0032】
この難燃性シート状構造物を1300リットルの浴で浴比1:16になるように設定したサーキュラー染色機を用いて130℃、20分の染色を実施した。その後、二酸化チオ尿素、苛性ソーダを各3g/リットルで80℃、15分間の還元洗浄を行い、酸中和、水洗、乾燥を実施して仕上げて立毛調人工皮革とした。
染色後の立毛調人工皮革について、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表1に示した。
【0033】
[実施例6]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtexの極細ポリエステル繊維を製造し、長さ5mmに切断した極細ポリエステル短繊維を使用し、抄造法により表層用及び裏層用繊維ウェブとして、それぞれ目付110g/m、の90g/mの繊維ウェブを作成し、これらの表層用繊維ウェブと裏層用繊維ウェブの中間に中間層として実施例1記載のハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維55wt%と綿45wt%とを混合紡績した紡績糸でガーゼ状の織物を作成して封入し、三層構造の繊維集合体を作成した。
【0034】
次いで高速水流の噴射により交絡一体化させて難燃性不織布を得た。高速水流には孔径0.15mmの直進流噴射ノズルを用いて、表層から4.0MPa、裏層から3.0MPaの圧力で噴射処理し、ピンテンターで乾燥後、目付330g/ m、厚さ1.06mmの難燃性不織布を製造した。難燃性不織布総重量に対するハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の比率は21.7wt%であった。
このシート状物の表層を#400のエメリペーパーを用い、ペーパー速度1000m/分でバフィングした。これに、ポリウレタン含浸液としてポリエーテル系水系ポリウレタンエマルジョン(日華化学社製「エバファノールAP−12」)が9wt%、感熱剤として硫酸ナトリウム(NaSo)が3wt%となるように調合した含浸液を、前記難燃性不織布に含浸後ピックアップ率120%になるようにマングルで絞り付着率を合わせた。その後ピンテンター乾燥機で130℃、3分間で加熱乾燥し難燃性シート状構造物とした。
【0035】
この難燃性シート状構造物を1300リットルの浴で浴比1:16になるように設定したサーキュラー染色機を用いて130℃、20分の染色を実施した。その後、二酸化チオ尿素、苛性ソーダを各3g/リットルで80℃、15分間の還元洗浄を行い、酸中和、水洗、乾燥を実施して仕上げて立毛調人工皮革とした。
染色後の立毛調人工皮革について、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表1に示した。
【0036】
[実施例7]
実施例6において、中間層のハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が三層構造の難燃性不織布総重量の7.5wt%となるようにした他は、実施例6と同様に作成された立毛
調人工皮革について、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表1に示した。
【0037】
[実施例8]
表層用繊維ウェブとして、実施例1記載の表層用ウェブを使用、また実施例1記載の極細ポリエステル短繊維とハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の混合比率が重量比で25:75の裏層用繊維ウェブを使用、中間層として実施例5記載のガーゼ状の織物を使用し、表層用繊維ウェブと裏層用繊維ウェブの中間に該中間層を封入し、三層構造の繊維集合体を作成した他は、実施例1と同様に作成された立毛調人工皮革について、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表2に示した。尚、三層積層構造の難燃性不織布総重量に対するハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維の比率は、59.8wt%であった。
【0038】
[比較例3]
直接紡糸法によって単繊維繊度0.17dtexの極細ポリエステル繊維を製造し、長さ5mmに切断した極細ポリエステル短繊維を使用し、抄造法により表層用及び裏層用繊維ウェブとして、それぞれ目付110g/m、90g/mの繊維ウェブを作成した。表層用及び裏層用繊維ウェブの中間に中間層として165dtex/48fのポリエステル繊維からなるガーゼ状の織物を封入し、三層積層構造の繊維集合体を製造した。
【0039】
次いで高速水流の噴射により交絡一体化して三層積層構造の不織布を得た。高速水流には孔径0.15mmの直進流噴射ノズルを用いて、表層から4.0MPa、裏層から3.0MPaの圧力で噴射処理し、ピンテンターで乾燥後、目付300g/ m、厚さ1.00mmの三層積層構造の不織布を製造した。
この不織布の表層を#400のエメリペーパーを用い、ペーパー速度1000m/分でバフィングした。これに、ポリウレタン含浸液としてポリエーテル系水系ポリウレタンエマルジョン(日華化学社製「エバファノールAP−12」)が9wt%、感熱剤として硫酸ナトリウム(NaSo)が3wt%となるように調合した含浸液を、前記不織布シートに含浸後ピックアップ率120%になるようにマングルで絞り付着率を合わせた。その後にピンテンター乾燥機で130℃、3分間で加熱乾燥し不織布シート状構造物とした。
【0040】
この不織布シート状構造物を1300リットルの浴で浴比1:16になるように設定したサーキュラー染色機を用いて130℃、20分の染色を実施した。その後、二酸化チオ尿素、苛性ソーダを各3g/リットルで80℃、15分間の還元洗浄を行い、酸中和、水洗、乾燥を実施して立毛調人工皮革を得た。この立毛調人工皮革の裏層表面にBr系難燃剤を40g/m塗布して難燃加工を施した後、燃焼性、ドロップ性、剛軟度、伸び率を評価してその結果を表2に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
これらの結果からハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維を不織布の総重量の3.0wt%以上混合させることで優れた難燃性とシートの表皮材や内装材に好適な柔軟な風合、良好な伸びを兼ね備えた不織布が得られることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により優れた難燃性とシートの表皮材や内装材に好適な柔軟な風合、良好な伸びを兼ね備えた不織布を提供することが出来る。これら特性から車両用途は勿論のこと家具用途にも好適である。更に、公共施設や映画館、劇場など不特定多数の人が集まる故に厳しい難燃性が要求される施設のシート表皮材や内装材などにも用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体を交絡一体化させた不織布において、該不織布の総重量に対し、ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が3.0wt%以上混合されていることを特徴とする難燃性不織布。
【請求項2】
前記ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が、アクリロニトリル30〜70wt%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30wt%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10wt%よりなる、共重合体を溶解紡糸して得られた難燃性繊維であり、該共重合体に対して、粒径を2μm以下に揃えたSb化合物を6〜50wt%含有していることを特徴とする請求項1記載の難燃性不織布。
【請求項3】
前記不織布構造が、表層/中間層/裏層の3層構造であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の難燃性不織布。
【請求項4】
前記ハロゲン及びSb含有モダアクリル繊維が、不織布構造の裏層及び/又は中間層に混合されていることを特徴とする請求項3に記載の難燃性不織布。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性不織布が、高分子弾性体を5〜20wt%含有していることを特徴とする難燃性シート状構造物。
【請求項6】
前記高分子弾性体が、水分散系ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の難燃性シート状構造物。

【公開番号】特開2009−299199(P2009−299199A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151432(P2008−151432)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】