説明

難燃性付与剤、難燃性物品及びその製造方法

【課題】有機材料に難燃性を付与するための難燃性付与剤、難燃性物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】難燃性付与剤は、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、


(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
テトラアルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合してなる。前記パーフルオロアルカンジスルホン酸はパーフルオロプロパン−1,3−ジスルホン酸であり、前記テトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであることが好ましい。難燃性物品は有機材料を含む基材と、上記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、アルコキシシラン及び二酸化ケイ素を含む組成物をアルカリを用いて縮合させることにより前記基材の表面に形成された皮膜と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性付与剤、難燃性物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム、樹脂、布帛、木材、紙等の有機高分子材料は、金属やガラス等に比べて軽くて加工が容易であるため、日用品から各種工業製品に到るまで幅広い分野で用いられている。しかし、これらの材料は一般に燃えやすいという欠点がある。このため、有機高分子材料に難燃性を付与する方法が数多く提案されている。
【0003】
有機高分子材料に難燃性を付与する方法として、樹脂やゴム等の成形材料に難燃剤を添加する方法が一般的である。難燃剤としては、臭素化フェニルエーテル、塩素化パラフィン等のハロゲン化合物や、芳香族リン酸エステル等のリン化合物が広く知られている。また近年では例えば特許文献1に記載されているように、有機スルホン酸塩、ポリオルガノシロキサン等のケイ素化合物等も難燃剤として使用可能であることが報告されている(例えば、特許文献1)。これらの難燃剤が混合された樹脂やゴムを成形することで、難燃性物品が得られる。
【0004】
特許文献1に開示されているものを含め、これらの難燃剤は成形材料と混合して用いられるため、添加された難燃剤が得られる物品の物性に影響を及ぼすという問題がある。また、既に成形された物品や、木材等にはこの方法を適用することはできない。物品の表面に塗布して皮膜を形成する、又は物品の表面を改質することで該物品に難燃性を付与できる難燃剤があれば、従来の難燃剤よりもさらに幅広い分野に応用できると期待される。
【0005】
特許文献2には、シリカナノ粒子、スルホン酸基を有するフルオロアルカン及びアルコキシシランの混合物を脱水縮合させて得られるナノコンポジット粒子が開示されている。特許文献2には、ガラス基材の表面をこの粒子で被覆することにより、ガラス表面に撥水・撥油・防汚性を付与できる旨が記載されている。しかし、特許文献2はこの組成物を有機材料に塗布することやその効果については言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−202746号公報
【特許文献2】特開2010−209280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは特許文献2に開示されている組成物をゾル状態で有機材料の表面に塗布することにより有機材料に難燃性を付与できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、難燃性付与剤、難燃性物品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る難燃性付与剤は、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化1】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合してなる。前記パーフルオロアルカンジスルホン酸はパーフルオロプロパン−1,3−ジスルホン酸であることが好ましく、前記アルコキシシランはテトラエトキシシランであることが好ましい。
【0009】
本発明の第2の観点に係る難燃性物品は、有機材料を含む基材と、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化2】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン及び二酸化ケイ素を含む組成物をアルカリを用いて縮合させることにより前記基材の表面に形成された皮膜と、を備える。前記有機材料は紙、布帛、木材、樹脂又はゴムであってもよい。
【0010】
本発明の第3の観点に係る難燃性物品の製造方法は、有機材料を含む基材の表面に、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化3】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合してなるゾル状組成物を付着させた後乾燥させる工程を含む。前記有機材料は紙、布帛、木材、樹脂又はゴムであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機材料に難燃性を付与するための難燃性付与剤、難燃性物品及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る難燃性付与剤、難燃性物品及びその製造方法の実施形態について説明する。なお、本明細書において「難燃性物品」とは、例えば常温常圧の大気中で該物品に裸火を近づけても引火しない物品、又は一度引火しても焼失する前に自己消火する物品、として定義される。このような物品は例えば酸素指数によって定義することもできる。一方、本明細書において「難燃性付与」とはこのような難燃性物品を得ることに限定されない。例えば酸素指数をある一定値以上にする場合のみならず、単に酸素指数を難燃性付与前よりも高くすることも含まれる。
【0013】
(難燃性付与剤)
本発明の実施形態に係る難燃性付与剤は、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化4】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合してなる。
【0014】
本実施形態において、Rは炭素数2〜8のフッ素化アルキレン基であることが好ましい。アルキレン基は水素原子が全てフッ素原子により置換されていることがより好ましく、中でもテトラフルオロエチレン基、ヘキサフルオロプロピレン基等が好ましい。
【0015】
本発明において用いられるアルコキシシランは、例えば一般式
Si(OR4−n
で表される。上記式中、Rはアルキル基を表し、Rは水素原子または1価の有機基を表し、nは2〜4の整数である。
【0016】
本実施形態においては4つのアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランが好ましく用いられる。この中では、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが特に好ましい。これらのアルコキシシランは、一種類のみを用いても、また複数の種類を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本実施形態において、アルコキシシランはパーフルオロアルカンジスルホン酸に対して例えば10〜5000質量%の割合で添加される。添加量は好ましくは10〜1000質量%であり、より好ましくは30〜500質量%である。
【0018】
本実施形態において、二酸化ケイ素としてはシリカ粒子が好ましく用いられる。シリカ粒子の粒径は用途により選択されるが、例えば平均粒径が5〜200nmのシリカ粒子が好ましく用いられる。用いられるシリカの製法等は特に制限されず、沈降法シリカ、ヒュームドシリカ共に好適に用いることができる。
【0019】
本実施形態において、二酸化ケイ素はパーフルオロアルカンジスルホン酸に対して例えば20〜10,000質量%の割合で添加される。二酸化ケイ素の添加量は好ましくは20〜20000質量%であり、より好ましくは60〜1000質量%である。
【0020】
アルカリは、アルコキシシランを加水分解し、縮合させてポリシロキサンを形成させるために添加される。アルカリの種類はアルコキシシランの加水分解を行うことができるものであれば特に制限されないが、本実施形態において、アルカリとしては水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が例示される。これらの中では、水酸化アンモニウムが好ましく用いられる。なお、実際の製造においてはアンモニア水溶液を用いることができる。
【0021】
本実施形態において、アルカリはパーフルオロアルカンジスルホン酸に対して例えば5〜4000質量%の割合で添加される。アルカリの添加量は好ましくは5〜700質量%であり、より好ましくは20〜350質量%である。
【0022】
本実施形態に係る難燃性付与剤は、上に例示されたパーフルオロアルカンジスルホン酸、アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合することにより得られる。混合時の温度は適宜選択されるが、好ましくは常温〜50℃であり、より好ましくは30〜50℃である。反応時間も特に制限されないが、例えば12時間以内の時間とすることができる。
【0023】
本実施形態に係る難燃性付与剤は、さらにアルコールを含んでいてもよい。アルコールはテトラアルコキシシラン及びパーフルオロアルカンジスルホン酸を溶解可能であり、かつ反応を妨げないものであれば特に限定されない。しかし、後ほど有機材料の表面に塗布し乾燥させることを考慮すると、常温又は50℃以下の比較的低い温度で揮発するものが好ましい。本実施形態において、アルコールはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等が好ましい。この中では、メタノール、エタノール、2−プロパノールが特に好ましい。
【0024】
(難燃性物品及びその製造方法)
本発明に係る難燃性物品は、有機材料を含む基材の表面に、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化5】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン及び二酸化ケイ素を含む組成物をアルカリを用いて縮合させてなる皮膜を有する。基材に含まれる有機材料としては、例えば紙、布帛、木材、樹脂又はゴムが例示される。
【0025】
皮膜の形成方法は特に限定されないが、例えば上記のパーフルオロアルカンジスルホン酸、アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合したゾル状組成物を基材の表面に塗布または噴霧し、基材表面において縮合反応を完結させ、これを乾燥させて形成することができる。組成物はさらに、アルコールを含んでいてもよい。ゾル状組成物を基材に付着させ、基材表面において縮合反応を完結させることで、物品の表面にポリシロキサンやパーフルオロアルカンジスルホン酸を含んでなる分子ネットワーク構造が均一に形成され、処理対象物品により高い難燃性を付与することができる。
【0026】
先にも述べた通り、ハロゲン系の難燃剤は広く知られているが、そのほとんどは臭素系化合物または塩素系化合物であり、フッ素系化合物は知られていない。臭素−炭素間又は塩素−炭素間の結合は比較的不安定であり、熱エネルギーにより容易に切断されてラジカルを発生する。このラジカルがラジカル連鎖反応の一種である燃焼反応を停止又は遅延させるため、臭素系又は塩素系化合物は難燃剤としての効果を発揮する。一方、フッ素−炭素間の結合は非常に安定であり、熱エネルギーが与えられても容易には切断されない。このため、フッ素系化合物は難燃剤としての効果は低いものと従来考えられてきた。これに対し、本発明では処理対象物品の表面にポリシロキサンやパーフルオロアルカンジスルホン酸を含んでなる分子ネットワーク構造を形成することにより、従来のハロゲン系難燃剤とは異なるメカニズムで物品に高い難燃性を付与しているものと考えられる。
【0027】
なお、上記の塗布は、基材をゾル状組成物中に浸漬し、引き上げて乾燥させることにより行ってもよい。特に、上記の組成物が基材に対して浸透性を有する場合、基材を一定時間浸漬した後引き上げることで基材の内部に組成物が浸透し、処理対象物品により高い難燃性を付与することができる。
【0028】
上記組成物を縮合させてなる皮膜は難燃性物品の最外層に配置されていればよく、必ずしも基材の表面に直接形成されなくともよい。例えば、基材の表面にハードコート層、プライマー層等の中間層を形成し、さらにその上に皮膜を形成してもよい。特に、基材が液体浸透性を有しない場合や、組成物と基材表面との親和性が低い場合、双方に親和性が高い中間層をあらかじめ形成しておくことによってより被覆性を高め、処理対象物品により高い難燃性を付与することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、下記の実施例においては特に断りのない限り、%は質量%を表す。
【0030】
(1)難燃性付与剤の調製(実施例1〜13)
メタノール20mlを入れた50mlのサンプル瓶に、それぞれ表1に示す添加量でパーフルオロ−1,3−プロパンジスルホン酸(PFPS)、テトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製)、メタノールシリカゾル(70%メタノール、日産化学工業製)を入れた。15分間攪拌混合した後、室温(25℃)下で28%アンモニア水(関東化学製)0.5mlを撹拌下添加した。この反応液を室温(25℃)にて5時間攪拌し、ゾル状の難燃性付与剤を得た。
【0031】
(2)含シリカ表面処理組成物の調製(比較例1)
表1に示す通り、実施例1〜13において用いたPFPSを除いた他は実施例と同様にして、ゾル状の含シリカ表面処理組成物を調製した。
【0032】
【表1】

【0033】
(3)含フッ素表面処理組成物の調製(比較例2〜4)
フッ素系材料として下記化学式で表される含フッ素オリゴマー(以下、VMオリゴマーと呼称する)を用い、含フッ素表面処理組成物を調製した。
【化6】

(上記式中、xは2又は3である。)
メタノール5mlを入れた50mlのサンプル瓶にそれぞれ表2に示す添加量でVMオリゴマーを入れ、15分撹拌混合した。次いで、室温(25℃)下で25%アンモニア水1.0mlを撹拌下添加した。この反応液を室温(25℃)にて3時間攪拌し、含フッ素表面処理組成物を得た。
【0034】
【表2】

【0035】
(4)基材(濾紙)の処理
上記実施例1〜13及び比較例1〜4において調製した反応液に、1cm×1cmの濾紙小片(灰分含有率0.01%、厚さ0.22mm、粒子保持能20〜25μ)を1時間浸漬した。これを引き上げ、乾燥させることにより、難燃性評価用サンプル1〜13及び比較サンプルA〜Dを得た。
【0036】
(5)着火試験
上記難燃性評価用サンプル1〜13及び比較サンプルA〜Dについて、着火試験を行った。着火試験は、ライターの火をサンプルに接触させ、サンプルが着火するかどうかを観察することにより行った。結果、サンプルA〜D(比較例1〜4)については、ライターの火を接触させると一気に燃えてしまったのに対し、サンプル1〜3(実施例1〜3)は少し着火するも燃焼は継続せず、自己消火した。さらに、サンプル4〜13(実施例4〜13)は着火しなかった。本発明に係る難燃性付与剤を用いれば有機材料に難燃性を付与できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化1】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合してなる難燃性付与剤。
【請求項2】
前記パーフルオロアルカンジスルホン酸はパーフルオロプロパン−1,3−ジスルホン酸であり、前記アルコキシシランはテトラエトキシシランである、請求項1の難燃性付与剤。
【請求項3】
有機材料を含む基材と、
下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化2】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン及び二酸化ケイ素を含む組成物をアルカリを用いて縮合させることにより前記基材の表面に形成された皮膜と、を備える難燃性物品。
【請求項4】
前記有機材料は紙、布帛、木材、樹脂又はゴムである、請求項3の難燃性物品。
【請求項5】
有機材料を含む基材の表面に、下記一般式で表されるパーフルオロアルカンジスルホン酸、
【化3】

(上記式中、Rは炭素数2〜8の分岐していてもよいフッ素化アルキレン基を表す。)
アルコキシシラン、二酸化ケイ素及びアルカリを混合してなるゾル状組成物を付着させた後乾燥させる工程を含む、難燃性物品の製造方法。
【請求項6】
前記有機材料は紙、布帛、木材、樹脂又はゴムである、請求項5の難燃性物品の製造方法。

【公開番号】特開2012−180416(P2012−180416A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42968(P2011−42968)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】