説明

難燃性付与剤及び難燃性樹脂組成物

【課題】難燃性を付与でき、かつ従来の難燃剤の難燃効果を高めつつ、樹脂の特性変化や反応性の変化を抑制した難燃性付与剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】多孔質材料の細孔容量に対して5〜100容積%の難燃剤を細孔に充填する難燃性付与剤。多孔質材料の細孔内に、初めに細孔容量全体の5〜99容積%の難燃剤を充填し、次いで難燃剤固定用樹脂を前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%充填する難燃性付与剤。難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内に細孔容量全体の10〜100容積%充填する難燃性付与剤。難燃性付与剤20〜700質量部を樹脂100質量部中に分散させる難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性付与剤及び難燃性付与剤を樹脂中に分散させた難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の難燃性は、難燃剤を樹脂中に加えて付与する方法が用いられている。この方法としては、難燃剤を樹脂中に均一に溶解する方法や相分離を用いる方法、難燃剤の粒子を樹脂中へ分散させる方法等がある。しかし、これらの方法では、樹脂に難燃性を付与することは可能であるが、樹脂本来の強度やガラス転移温度等を維持することができず、強度やガラス転移温度等の物性は樹脂と難燃剤との中間、あるいはそれ以下になることが知られている。また、配合する難燃剤の種類によっては、樹脂の反応速度の低下や上昇をまねき、反応制御が難しくなる等の問題があった。
【0003】
例えば、リン系難燃剤として実用に供せられる化合物は、赤リン、リン酸塩、リン酸エステル等であり、これらは燃焼時にホスフィンガスを放出したり、加水分解により積層板、プリント配線板の耐熱性や耐薬品性を低下させたり、耐水性が低かったり、ブリードしやすい等の問題があった。耐熱性や難燃性や耐水性やブリード性が低下するといった問題を改良するために、リン酸エステルとは異なる構造を有し、分子内にエポキシ樹脂と容易に反応し得るフェノール性水酸基を有する有機リン化合物とエポキシ樹脂との反応化合物を添加した熱硬化性難燃樹脂組成物が提案された(例えば特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0004】
特許文献1及び特許文献2に示されるフェノール性水酸基を有する有機リン化合物とエポキシ樹脂との反応化合物は、エポキシ樹脂および有機リン化合物が共に多官能性であり、それゆえに、反応化合物には架橋構造が生じやすく、反応度を制御することが非常に困難であった。また、エポキシ樹脂と有機リン化合物との反応によりエポキシ基が消費されるため、反応化合物のエポキシ当量が非常に大きくなり硬化性が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−11662号公報
【特許文献2】特開2000−80251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、難燃性を付与でき、かつ従来の難燃剤の難燃効果を高め、かつ樹脂の特性変化や反応性の変化を抑制した難燃性付与剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、多孔質材料の細孔内に難燃剤を充填し、固定化し、多孔質材料の細孔外部の樹脂と難燃剤との接触面積を限定することにより、上記の目的を達成することができる難燃性付与剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、以下の1〜13の発明が提供される。
1.多孔質材料の細孔内に、細孔容量全体の30〜100容積%の難燃剤を充填することを特徴とする難燃性付与剤。
2.多孔質材料の細孔内に、初めに細孔容量全体の30〜95容積%の難燃剤を充填し、次いで難燃剤固定用樹脂を前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%充填することを特徴とする難燃性付与剤。
3.難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内に細孔容量全体の30〜100容積%充填することを特徴とする難燃性付与剤。
4.難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物中の難燃剤の割合が、10〜90容積%であることを特徴とする項3に記載の難燃性付与剤。
5.難燃剤が20℃で固体であることを特徴とする項1から4のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
6.多孔質材料の細孔容量が吸油量に換算して10〜700ml/100gであることを特徴とする項1から5のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
7.多孔質材料の平均粒径が0.1〜100μmであることを特徴とする項1から6のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
8.多孔質材料の平均細孔径が0.5〜1000nmであることを特徴とする項1から7のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
9.多孔質材料が多孔質シリカであることを特徴とする項1から8のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
10.難燃剤または難燃剤固定用樹脂が熱硬化性であることを特徴とする項1から9のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
11.難燃剤が、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤のうちのいずれか一種以上であることを特徴とする項1から10のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
12.項1から11のいずれか一に記載の難燃性付与剤20〜700質量部を樹脂100質量部中に分散させることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
13.熱硬化性を有することを特徴とする項12に記載の難燃性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性付与剤及びそれを用いた難燃性樹脂組成物は、樹脂に難燃性を付与でき、かつ従来の難燃剤の難燃効果を高めつつ、樹脂の特性変化や反応性の変化を抑制する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において用いる多孔質材料は、細孔を有していれば任意の物でよく、特に材質を限定するものではない。多孔質材料として、例えば球状ポーラスシリカ粉末、多孔質シリカ粉末、細孔シリカゲル、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、活性炭等を挙げることができ、特に多孔質シリカ粉末が好ましい。また、多孔質材料は、その形状も特に限定するものではなく、球状、鱗片状、不定形等を挙げることができ、特に球状のものは、樹脂の流動性への阻害が小さいことから好ましい。また、多孔質材料の平均粒径は0.1〜100μm、好ましくは0.3〜20μm、更に好ましくは0.5〜10μmである。
【0011】
多孔質材料の細孔容量はJIS K 510.01あまに油法の吸油量に換算して10〜700ml/100g、好ましくは50〜600ml/100g、更に好ましくは100〜500ml/100gである。吸油量が10ml/100g以上であれば、難燃性の発現効果が良好であり、他方、700ml/100g以下であれば、多孔質材料の強度が十分である。平均細孔径は0.5〜1000nm、好ましくは1〜100nm、更に好ましくは3〜50nmである。平均細孔径が0.5nm以上であれば、難燃剤の充填が容易であり、他方、1000nm以下であれば、樹脂との接触面積が大きくなく、難燃剤の流出量が増大しない。多孔質材料の材質、形状、平均細孔径、吸油量、平均粒径は同一でもよいし、2種類以上異なってもよい。
【0012】
多孔質材料の細孔内に難燃剤を充填して難燃性付与剤を得る場合には、多孔質材料の細孔内に充填する難燃剤の量は、細孔容量全体の30〜100容積%、好ましくは50〜100容積%、更に好ましくは70〜100容積%である。細孔内への難燃剤の充填割合が細孔容量全体の30容積%以上で、難燃性が十分に発揮される。
【0013】
多孔質材料の細孔内に、初めに難燃剤を充填し、次いで難燃剤固定用樹脂を充填して難燃性付与剤を得る場合には、多孔質材料の細孔内に充填する難燃剤の量は、細孔容量全体の30〜95容積%、好ましくは40〜90容積%、更に好ましくは60〜80容積%である。次いで難燃剤固定用樹脂を前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%、好ましくは50〜90容積%、更に好ましくは60〜80容積%充填する。充填する難燃剤固定用樹脂の量が未充填容積の30容積%以上で、難燃剤の隔離効果が十分である。このことは、溶剤や樹脂に可溶性の難燃剤では、難燃性付与剤の周囲に溶解できる溶剤が存在すれば、難燃剤が溶け出す。難燃剤を溶剤等から分離できれば、難燃剤が溶け出さないことを意味する。
【0014】
難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内部に充填して難燃性付与剤を得る場合には、まず難燃剤固定用樹脂を作製し、溶解させ、その中に難燃剤を溶解させて混合物を作製する。その後、難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔容量全体の30〜100容積%、好ましくは40〜90容積%、更に好ましくは50〜80容積%充填する。また、混合物中の難燃剤の割合は、10〜90容積%、好ましくは30〜80容積%、更に好ましくは50〜70容積%である。混合物中、難燃剤が10容積%以上で、難燃効果が発現し、他方、90容積%以下で、難燃剤固定用樹脂による難燃剤の固定効果が発現する。
【0015】
本発明において、難燃剤や難燃剤固定用樹脂を細孔内部に充填するには、これらの材料を液体にすることが必要である。材料を液体状態にすれば、多孔質材料の細孔径が小さいため、液体材料は毛管現象で細孔内部に充填される。従って、多孔質材料の細孔容量より液体材料の容量が小さい場合には、液体材料は、多孔質材料の細孔空間内に全て吸い込まれることになる。このため、細孔内部への液体材料の充填量は、難燃剤及び難燃剤固定用樹脂の配合量に依存し、充填量の調節は、それらの配合量を調節することによって行う。ただし、液体材料を細孔内部に完全充填するためには、材料を充填する前に減圧して細孔内部から空気を抜く必要がある。これは、細孔内部に空気があると最終的に材料を細孔内部に完全充填するのが難しくなるからである。常圧では、多孔質材料の細孔容量の70〜80位の空間容積までしか充填はできない。
【0016】
本発明で多孔質材料に充填する難燃剤は、任意の物でよく、樹脂への難燃剤の溶解を抑制するために20℃で固体である物が好ましく、また、細孔内に流入する点から、流動時の粘度が1000Pa・s以下(10000ポイズ以下)である物がさらに好ましい。
【0017】
難燃剤としては、臭素化エチレン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモビスフェノールS、臭素化エポキシ樹脂モノマー、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、ポリブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、TBBAポリカーボネート、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤、縮合リン酸エステル、モノマー型リン酸エステル、反応性リン系難燃剤、ハロゲン化縮合リン酸エステル等のリン系難燃剤、メラミン、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン等の窒素系難燃剤、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、臭素化エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、軟化点を有し加熱することで流動性を有する難燃剤、加圧することで流動性を有する難燃剤、溶剤等の室温で液状の難燃剤等を挙げることができる。しかし、本発明において用いる難燃剤は、特に限定するものではない。また、充填する難燃剤は1種類でも、又は2種類以上を用いてもよい。
【0018】
本発明で多孔質材料に充填する難燃剤固定用樹脂は、難燃性付与剤を配合する樹脂及び溶剤に溶解しなければ任意の物でよく、20℃で固体である物が好ましく、流動時の粘度が1000Pa・s以下(10000ポイズ以下)である物が好ましく、硬化性があるとより好ましい。
【0019】
難燃剤固定用樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑性樹脂、モノマーあるいは半硬化状態のエポキシ樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、モノマーあるいは半硬化状態のエポキシアクリレート等の感光性樹脂等を挙げることができる。しかし、本発明において用いる難燃剤固定用樹脂は、特に限定するものではない。また、充填する有機物固定樹脂は1種類でも、又は2種類以上を用いてもよい。
【0020】
本発明で多孔質材料の細孔内に難燃剤を充填する方法は特に限定するものではない。例えば、液状の難燃剤と多孔質材料とを撹拌して細孔内に充填する方法、加圧下で液状の難燃剤と多孔質材料とを撹拌して細孔内に充填する方法、減圧してから液状の難燃剤に多孔質材料を投入し撹拌して細孔内に充填する方法、予め多孔質材料と難燃剤とを混合しておき加熱により難燃剤を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔質材料と難燃剤とを混合しておき減圧してから加熱により難燃剤を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔質材料と難燃剤を混合しておき加圧、加熱により難燃剤を溶解して細孔内に充填する方法、難燃剤を溶剤等で溶解して多孔質材料と撹拌し細孔内に充填する方法、難燃剤を溶剤等で溶解して多孔質材料と撹拌し細孔内に充填した後、加熱により溶剤を除去する方法、難燃剤を溶剤等で溶解して多孔質材料と撹拌し細孔内に充填した後、減圧加熱により溶剤を除去する方法等を挙げることができる。
【0021】
難燃剤の充填が終了した多孔質材料は、難燃性付与剤として使用する前に多孔質材料外部に残る難燃剤を除去するために、溶剤等で洗浄してもよい。また、難燃剤を充填する前に難燃剤の充填性を高めるために、カップリン剤等で多孔質材料の細孔表面を処理してもよい。難燃剤を充填した難燃性付与剤は、分散性を高めるためにカップリン剤等で表面処理してもよく、粉砕等の処理を行って粒径を小さくしてもよい。
【0022】
難燃剤の充填が終了した多孔質材料の未充填細孔内に、次いで難燃剤固定用樹脂を充填する場合、難燃剤固定用樹脂を充填する方法も本質的に難燃剤を充填する方法と変わりがない。難燃剤を含浸した多孔質材料を容器から取り出し,加熱して難燃剤固定用樹脂の硬化を行い,難燃性付与剤を作成する。難燃剤固定用樹脂を充填した難燃性付与剤は、分散性を高めるためにカップリン剤等で表面処理してもよい。
【0023】
難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内に充填する方法は、あらかじめ難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を用いる他は,本質的に難燃剤を充填する方法と変わりがない。
【0024】
本発明の難燃性付与剤を樹脂中に配合する場合、樹脂100質量部に対し難燃性付与剤を20〜700質量部、好ましくは50〜600質量部、更に好ましくは80〜500質量部を用いるのが好ましい。難燃性付与剤の配合量が20質量部以上で、難燃効果が発現し、700質量部以下で、難燃性樹脂組成物の取扱いが容易である。また、難燃性付与剤の分散性を向上するために、ニーダー、ボールミル、ビーズミル、3本ロール、ナノマイザー等既知の混練方法を用いて分散させてもよく、難燃性付与剤を樹脂組成物の状態で粉砕し粒径を小さくしてもよい。
【0025】
本発明で難燃性付与剤を分散させる樹脂は任意の物でよい。このような樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可性塑樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂等を挙げることができる。しかし、本発明において用いる樹脂は、特に限定するものではない。また、分散させる難燃性付与剤は1種類でも、又は2種類以上を用いてもよい。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)多孔質材料として、多孔質シリカ(吸油量150ml/100g、平均粒径1.1μm、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボールE−2C(商品名))を、充填する難燃剤としてリン化合物(融点250℃、三光株式会社製HCA−HQ(商品名):10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)を用いた。多孔質シリカ(E−2C)200質量部、リン化合物(HCA−HQ)315質量部を、温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がったことを確認した後に、内部温度が260℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌してリン化合物を多孔質シリカの細孔内に、細孔容量に対して比重1.4で計算して75容積%充填した。
(2)リン化合物を充填した後に、充填した多孔質シリカを洗浄するために、200質量部のメチルエチルケトンに多孔質シリカを投入して、15分間撹拌した。その後、開口径0.45μmのフィルターを用いて吸引ろ過を行い、多孔質シリカを分離した。(2)の工程を再度繰り返して多孔質シリカの洗浄を行った。その後、50℃で10時間乾燥を行い、難燃性付与剤を作製した。
(3)メタノール10質量部、ジフェニルジメトキシシラン40質量部、ジメチルジメトキシシラン20質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら蒸留水6質量部、酢酸0.5質量部を溶液に添加し、50℃で4時間加熱して加水分解し、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後に、トリメトキシメチルシラン8質量部を滴下して室温で2時間撹拌してシリコーン重合体を得た。
(4)(2)で作製した難燃性付与剤50質量部、メチルエチルケトン50質量部、(3)で作製したシリコーン重合体0.3質量部をビーカーに取り、1時間撹拌混合した。その後、下記の材料を加えて2時間撹拌し、リン含有率3質量%の難燃性評価用ワニスを作製した。このワニスを18μmの銅箔上に塗工し、100℃−15分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・ビフェニル系エポキシ樹脂、NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):26.5質量部
・アクリルゴム15質量%メチルエチルケトン溶液、HTR−860 P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名):204質量部
・熱硬化剤トリアジン含有フェノールノボラック樹脂、LA3018−50P(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名):20質量部
・硬化促進剤としてのイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2E4MZ):0.3質量部
・溶剤メチルエチルケトン:30質量部
(5)次に、180℃―120分間の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、難燃性評価用フィルムを作製した。
【0027】
(実施例2)
(1)難燃剤固定用樹脂を製造するのに、液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製エピコート815)、液状フェノール(明和化成製、MEH−8000H)、イミダゾール(四国化成工業株式会社製2E4MZ)を用いた。液状エポキシ樹脂(エピコート815)50質量部、液状フェノール(MEH−8000H)37.9質量部、イミダゾール(2E4MZ)0.5質量部をビーカーに取り、25℃で1時間撹拌混合した。
(2)多孔質材料として、多孔質シリカ(吸油量150ml/100g、平均粒径1.1μm、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボールE−2C(商品名))を、充填する難燃剤として縮合リン酸エステル(融点95℃、大八化学工業株式会社製PX−200(商品名))を用いた。多孔質シリカ(E−2C)200質量部、縮合リン酸エステル(PX−200)207質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認した後に、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して縮合リン酸エステルを多孔質シリカの細孔内に、細孔容量に対して60容積%充填した。
(3)充填した後に、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、(1)で用意した難燃剤固定用樹脂72質量部を4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認した後に、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して難燃剤固定用樹脂を多孔質シリカの細孔内に前記細孔容量の未充填容積の50容積%充填した。
(4)充填した後に、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、難燃剤を含浸した多孔質シリカを取り出し、180℃で2時間加熱して難燃剤固定用樹脂の硬化を行い、難燃性付与剤を作製した。
(5)メタノール10質量部、ジフェニルジメトキシシラン40質量部、ジメチルジメトキシシラン20質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら蒸留水6質量部、酢酸0.5質量部を溶液に添加し、50℃で4時間加熱して加水分解、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後に、トリメトキシメチルシラン8質量部を滴下して室温で2時間撹拌してシリコーン重合体を得た。
(6)(4)で作製した難燃性付与剤50質量部、メチルエチルケトン50質量部、(5)で作製したシリコーン重合体0.3質量部をビーカーに取り、1時間撹拌混合した。その後、下記の材料を加えて2時間撹拌し、リン含有率2質量%の難燃性評価用ワニスを作製した。このワニスを18μmの銅箔上に塗工し、100℃−15分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・ビフェニル系エポキシ樹脂、NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):26.5質量部
・アクリルゴム15質量%メチルエチルケトン溶液、HTR−860 P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名):204質量部
・熱硬化剤トリアジン含有フェノールノボラック樹脂、LA3018−50P(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名):20質量部
・イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2E4MZ):0.3質量部
・溶剤メチルエチルケトン:30質量部
(7)次に、180℃―120分間の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、難燃性評価用フィルムを作製した。
【0028】
(実施例3)
難燃性付与剤の配合量を96質量部、シリコーン重合体0.9質量部とした以外は、実施例2と同様にしてリン含有率3質量%の難燃性評価用フィルムを作製した。
【0029】
(実施例4)
多孔質シリカを富士シリシア化学株式会社製多孔質シリカ(吸油量330ml/100g、平均粒径2.6μm、SYLYSIA310P(商品名))とし、配合量を100質量部とした。また縮合リン酸エステルの配合量は230質量部(細孔容量の61容積%充填)、難燃剤固定用樹脂は80質量部(細孔容量の残存容積の51%充填)、難燃性付与剤は74質量部とし、シリコーン重合体0.5質量部とした以外は、実施例2と同様にしてリン含有率3質量%の難燃性評価用フィルムを作製した。
【0030】
(実施例5)
難燃性付与剤の配合量を135質量部、シリコーン重合体1.1質量部とした以外は、実施例2と同様にしてリン含有率4質量%の難燃性評価用フィルムを作製した。
【0031】
(実施例6)
(1)実施例2で用いた液状エポキシ樹脂(エピコート815)41質量部、液状フェノール(MEH−8000H)31質量部、縮合リン酸エステル(PX−200)207質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、120℃で1時間撹拌して溶解し、混合した。その後50℃まで冷却し、イミダゾール(2E4MZ)0.4質量部を配合して30分間撹拌混合して難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した。
(2)実施例1で用いた多孔質シリカ(E−2C)200質量部を加え、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認した後に、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した樹脂を多孔質シリカの細孔内に、細孔容量に対して83容積%充填した。
(3)充填した後に、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、難燃剤を含浸した多孔質シリカを取り出し、180℃で2時間加熱して難燃剤固定用樹脂の硬化を行い、難燃性付与剤を作製した。
(4)メタノール10質量部、ジフェニルジメトキシシラン40質量部、ジメチルジメトキシシラン20質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら蒸留水6質量部、酢酸0.5質量部を溶液に添加し、50℃で4時間加熱して加水分解、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後に、トリメトキシメチルシラン8質量部を滴下して室温で2時間撹拌してシリコーン重合体を得た。
(5)(3)で作製した難燃性付与剤50質量部、メチルエチルケトン50質量部、(4)で作製したシリコーン重合体0.3質量部をビーカーに取り、1時間撹拌混合した。その後、下記の材料を加えて2時間撹拌し、リン含有率2質量%の難燃性評価用ワニスを作製した。このワニスを18μmの銅箔上に塗工し、100℃−15分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・ビフェニル系エポキシ樹脂、NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):26.5質量部
・アクリルゴム15質量%メチルエチルケトン溶液、HTR−860 P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名):204質量部
・熱硬化剤トリアジン含有フェノールノボラック樹脂、LA3018−50P(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名):20質量部
・イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2E4MZ):0.3質量部
・溶剤メチルエチルケトン:30質量部
(5)次に、180℃―120分間の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、難燃性評価用フィルムを作製した。
【0032】
(比較例1)
(1)実施例2の難燃性付与剤と同質量と計算される無孔質シリカ、リン酸エステル、液状エポキシ樹脂、液状フェノール、硬化促進剤を下記の組成で配合し、リン含有率2質量%の難燃性評価用ワニスを作製した。このワニスを18μmの銅箔上に塗工し、100℃−10分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・縮合リン酸エステル、PX−200(大八化学工業株式会社製、商品名):216質量部
・無孔質シリカ、SO−25R、平均粒径0.5μm(株式会社アドマテックス製、商品名):209質量部
・液状エポキシ樹脂、エピコート815(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名):43.2質量部
・液状フェノール、MEH−8000H(明和化成株式会社製、商品名):32.2質量部
・イミダゾール、2E4MZ(四国化成工業株式会社、商品名:0.4質量部
・ビフェニル系エポキシ樹脂、NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):265質量部
・アクリルゴム15質量%メチルエチルケトン溶液、HTR−860 P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名):2040質量部
・熱硬化剤トリアジン含有フェノールノボラック樹脂、LA3018−50P(日立化成工業株式会社製、商品名):200質量部
・イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2E4MZ):3質量部
・溶剤メチルエチルケトン:300質量部
(2)次に、180℃―120分間の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、難燃性評価用フィルムを作製した。
【0033】
(比較例2)
縮合リン酸エステルを414質量部、無孔質シリカを400質量部、液状エポキシ樹脂を81.5質量部、液状フェノールを61.8質量部、イミダゾールを0.8質量部とした以外は、比較例1と同様にしてリン含有率3質量%の難燃性評価用フィルムを作製した。
【0034】
(比較例3)
縮合リン酸エステルを414質量部、無孔質シリカを180質量部とした以外は、比較例1と同様にしてリン含有率3質量%の難燃性評価用フィルムを作製した。
【0035】
(比較例4)
縮合リン酸エステルを756質量部、無孔質シリカを329質量部、液状エポキシ樹脂を149質量部、液状フェノールを113質量部、イミダゾールを1.5質量部とした以外は比較例1と同様にしてリン含有率4質量%の難燃性評価用フィルムを作製した。
【0036】
(比較例5)
比較例1において、縮合リン酸エステルを除いた以外は比較例1と同様にして行った。
【0037】
本実施例及び比較例では、難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを細孔中に充填した後での容積%の確認方法は、TG−DTAを用いた。すなわち、充填した難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを1000℃まで昇温して燃焼して、分解残渣を多孔質材料の質量、分解成分を難燃剤等として、比重から計算した。また、2段階充填では、途中段階と最終段階との2回燃焼して、分解残渣測定をして確認した。
難燃性は、作製した樹脂フィルムをUL−94 VTM法に従って評価した。すなわち、サンプル端部に接炎して他端の方へサンプルが燃えた距離を定規で測定することによって求めた。サンプルは立てた状態で接炎するので、炎は接炎部から上方の他端の方に広がっていき、難燃効果が大きい程早く消える。従って、燃焼距離が短い程、難燃効果が大きいことになる。
また、樹脂フィルムから試験片を切出して動的粘弾性測定装置(株式会社UBM製E−4000)を用いて昇温;5℃/minの条件で貯蔵弾性率と損失弾性率の比の最大値からガラス転移温度(Tg)を測定した。
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
ガラス転移温度(Tg)は、難燃性付与剤を配合することにより多少低下する。しかし、従来のように難燃剤を単純に樹脂中に分散させる、もしくは樹脂と溶解する場合に比較してTgの低下を抑制することができる。これは、表1の結果から、リン含有率の同じ実施例と比較例とを比較すれば分かる。リン含有率が高い場合に、Tgを完全に維持できるわけではないが、Tgを大きく低下させない理由は、難燃剤が多孔質材料内に固定しているからである。難燃剤を多孔質シリカ内に固定することで、難燃剤の接触面積は、難燃剤を樹脂中に分散させた場合、溶解させた場合のいずれよりも接触面積は小さくなる。また、難燃剤の上部に難燃剤固定用樹脂を配置した場合に、溶剤への溶解性の高い材料も多孔質材料内によって固定されて、樹脂中への溶解量を抑えることでTgの低下を抑制する。このため、どちらの場合でも、難燃剤の周りの樹脂との難燃剤の接触量が少なくなって樹脂の反応性へのへの影響を抑えてTgの低下を抑制する。
【0040】
上述した通りに、表1より、本発明の難燃性付与剤を樹脂に配合することにより、樹脂組成物の物性への影響を抑えながら従来の難燃剤の効果を高めることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の難燃性付与剤及び難燃性樹脂樹脂組成物は、電子部品等に用いる樹脂の難燃性を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料の細孔内に、細孔容量全体の30〜100容積%の難燃剤を充填することを特徴とする難燃性付与剤。
【請求項2】
多孔質材料の細孔内に、初めに細孔容量全体の30〜95容積%の難燃剤を充填し、次いで難燃剤固定用樹脂を前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%充填することを特徴とする難燃性付与剤。
【請求項3】
難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内に細孔容量全体の30〜100容積%充填することを特徴とする難燃性付与剤。
【請求項4】
難燃剤と難燃剤固定用樹脂とを混合した混合物中の難燃剤の割合が、10〜90容積%であることを特徴とする請求項3に記載の難燃性付与剤。
【請求項5】
難燃剤が20℃で固体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項6】
多孔質材料の細孔容量が吸油量に換算して10〜700ml/100gであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項7】
多孔質材料の平均粒径が0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項8】
多孔質材料の平均細孔径が0.5〜1000nmであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項9】
多孔質材料が多孔質シリカであることを特徴とする請求項1から8のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項10】
難燃剤または難燃剤固定用樹脂が熱硬化性であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項11】
難燃剤が、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤のうちのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一に記載の難燃性付与剤。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一に記載の難燃性付与剤20〜700質量部を樹脂100質量部中に分散させることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項13】
熱硬化性を有することを特徴とする請求項12に記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−36398(P2012−36398A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217620(P2011−217620)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2005−338396(P2005−338396)の分割
【原出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】