説明

難燃性共重合ポリエステルおよびそれからなる二軸配向フィルム

【課題】フィルムなどにしたときに優れた難燃性および寸法安定性を有し、特にフレキシブルプリント基板などのフレキシブルエレクトロニクスデバイスの基材フィルム用として好適な難燃性共重合ポリエステルを提供すること。
【解決手段】下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコール成分とからなり、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合が、全ジカルボン酸成分を基準として5〜80モル%の範囲にあり、さらに有機リン化合物が、共重合ポリエステル中のリン元素の含有量として0.3〜1.5重量%となる割合で共重合されている難燃性共重合ポリエステル。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[式(I)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表し、式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および有機リン化合物が共重合された難燃性共重合ポリエステルおよびそれを用いた二軸配向フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートに代表される芳香族ポリエステルは優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えばフレキシブルプリント回路、有機ELディスプレイなどのフレキシブルエレクトロニクスデバイスのベースフィルムとして使用されている。しかしながら、近年のフレキシブルエレクトロニクスデバイスなどでの機械的特性や寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる機械的特性の向上や、温度膨張係数と湿度膨張係数の低減が求められている。
【0003】
一方、特許文献1〜4には6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分とアルキレングリコールとからなるポリエステルが提案され、結晶性で、融点が294℃のポリエチレン−6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートが具体的に記載されている。確かにこれらのポリエステルによれば、耐熱性、機械的強度に優れ、しかも寸法安定性にも優れたフィルムを提供することができる。しかしながら、近年フレキシブルエレクトロニクスデバイスの用途では高い難燃性も要求されているため、上記共重合ポリエステルではさらなる改善を必要とする場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平6−145323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フィルムなどにしたときに優れた難燃性および寸法安定性を有し、特にフレキシブルプリント基板などのフレキシブルエレクトロニクスデバイスの基材フィルム用として好適な難燃性共重合ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、所定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合させた共重合ポリエステルに、さらに有機リン化合物を所定量共重合すれば、上記酸成分共重合による優れた寸法安定性や機械的特性を維持しながら、優れた難燃性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコール成分とからなり、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合が、全ジカルボン酸成分を基準として5〜80モル%の範囲にあり、さらに有機リン化合物が、共重合ポリエステル中のリン元素の含有量として0.3〜1.5重量%となる割合で共重合されていることを特徴とする難燃性共重合ポリエステルが提供される。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[式(I)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表し、式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]
また、上記の難燃性共重合ポリエステルからなる二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性共重合ポリエステルは、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートが有している温湿度膨張係数が小さいといった優れた特性を有しながら優れた難燃性を示すので、フレキシブルプリント基板の基材フィルムをはじめとして、各種フレキシブルエレクトロニクスデバイスの基材フィルム用として好適であり、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の共重合ポリエステルは、酸成分が前述の式(I)と式(II)からなり、グリコール成分が炭素数2〜4のアルキレングリコールからなるものであって、さらに後述する有機リン化合物が共重合されたものである。
【0010】
前記式(I)で表される酸成分は、Rの部分が炭素数2〜10のアルキレン基で、Rの部分が2,6−ナフタレンジイル基であるものであり、具体的には6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(テトラメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などが挙げられる。これらの中でも本発明の効果の点からは、Rの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が好ましい。
【0011】
また前記式(II)で表される酸成分としては、例えばテレフタル酸成分、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、2,7−ナフタレンジカルボン酸成分などが挙げられる。これらの中でも、機械的特性などの点からテレフタル酸成分、2、6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましく、特に2、6−ナフタレンジカルボン酸成分が好ましい。
【0012】
また炭素数2〜4のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールが挙げられ、機械的特性などの点からグリコール成分の90モル%以上はエチレングリコール成分であることが好ましく、特に95〜100モル%がエチレングリコールであることが好ましい。
【0013】
ところで、本発明の特徴の一つは、共重合ポリエステルの全酸成分のモル数を基準として、5〜80モル%の範囲で上記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されていることである。6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合が下限未満では、湿度膨張係数の低減効果などが発現されがたい。一方、上限は成形性などの観点から80モル%以下が好ましく、さらに50モル%未満であることが好ましい。また、驚くべきことに、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分による湿度膨張係数の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、50モル%未満の部分ですでに特許文献3の実施例に記載されたフィルムと同等もしくはそれ以下の湿度膨張係数が達成されており、50モル%以上添加しても湿度膨張係数の観点からの効果は飽和状態になっているといえる。そのような観点から、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合量の上限は、45モル%以下、さらに40モル%以下、よりさらに35モル%以下、特に30モル%以下であり、他方下限は、5モル%以上、さらに7モル%以上、よりさらに10モル%以上、特に15モル%以上である。
【0014】
本発明においては、上記の成分からなる共重合ポリエステルに、さらに有機リン化合物が、共重合ポリエステル中のリン元素含有量として0.3〜1.5重量%となる割合で共重合されている必要があり、好ましいリン元素含有量は0.8〜1.3重量%、より好ましくは0.9〜1.2重量%である。この有機リン化合物の共重合量があまりに少ないと得られる共重合ポリエステルの難燃性が不充分なものになる。一方、有機リン化合物の共重合量が多すぎると得られる成形品の寸法安定性が不足するようになるだけでなく、機械的特性も低下するので好ましくない。
【0015】
ここで用いられる有機リン化合物は、前記の共重合ポリエステルに共重合しうるエステル形成性官能基を有するものであれば特に限定されないが、特に下記式(III)で表されるカルボキシホスフィン酸系有機リン化合物または下記式(IV)で表されるホスファフェナンスレン系有機リン化合物が、難燃性に優れた成形品が得られるので好ましい。
【0016】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0017】
【化2】

(式中、Rは1価のエステル形成性官能基、Aは2価または3価の有機残基を表し、nは1〜2の整数を表わす。)
【0018】
式(III)で表わされる有機リン化合物としては、例えばカルボキシメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシルホスフィン酸、(カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)エチルホスフィン酸、およびこれらの低級アルコール(炭素数1〜4)エステル、エチレングリコールエステルなど挙げられる。これらの中でも、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)メチルホスフィン酸およびこれらの低級アルコールエステルもしくはエチレングリコールエステルが好ましい。
【0019】
また、式(IV)で表わされる有機リン化合物としては、例えば下記式(a)〜(c)で表わされる有機リン化合物およびこれらのこれらの低級アルコールエステルもしくはエチレングリコールエステルなどがあげられる。
【0020】
【化3】

【0021】
なお、上記の有機リン化合物は、二種以上を併用してもよい。
上記の成分からなる本発明の共重合ポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3dl/gの範囲が好ましく、さらには0.4〜1.5dl/g、特に0.5〜1.2dl/gの範囲が好ましい。
【0022】
さらにDSCで測定した融点が、200〜260℃の範囲、さらに210〜255℃の範囲、特に220〜253℃の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融押し出しして成形する際に、流動性を高めるにはより高温にすることが必要となって熱劣化しやすくなり、他方溶融温度を低くすると流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなる。一方、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、共重合ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。なお、通常他の成分を共重合して融点を下げると、同時に機械的特性なども低下しやすいが、本発明の共重合ポリエステルは製膜性が向上するためか、機械的特性なども優れたものとすることができる。
【0023】
また、本発明における共重合ポリエステルは、DSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)が、90〜125℃の範囲、さらには95〜123℃の範囲、特に100〜120℃の範囲にあることが、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。なお、このような融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
【0024】
ところで、本発明の共重合ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、得られる共重合ポリエステルにそれ自体公知の他の共重合成分を、例えば全ジカルボン酸成分に対して10モル%以下、特に5モル%以下の範囲でさらに共重合していてもよい。
【0025】
さらに、本発明の共重合ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してもよく、そのようなポリエステル組成物にすることは得られる成形品にさらなる特性を付与できることから好ましい。なお、他の熱可塑性ポリマーとしては、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、液晶性樹脂、さらには6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の共重合量が外れる他のポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【0026】
以上に説明した本発明の難燃性共重合ポリエステルは、従来公知のポリエステル製造方法にしたがって製造することができる。以下、アルキレングリコールがエチレングリコールの場合を例として好ましい方法を説明するが、他のアルキレングリコールでも同様の方法で製造することができる。すなわち、前記式(I)で表される6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはその低級アルキルエステルと、前記式(II)で表される、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸やテレフタル酸もしくはそれらの低級アルキルエステルと、エチレングリコールとをエステル交換反応もしくはエステル化反応させて、まずポリエステル前駆体を製造し、ついで、得られたポリエステル前駆体を重縮合反応触媒の存在下で重縮合し、さらに必要に応じて固相重合することにより製造することができる。
【0027】
前記有機リン化合物は、ポリエステル製造時の任意の時期に添加されるが、より好ましい添加時期はエステル化反応あるいはエステル交換反応によりポリエステル前駆体を製造する第1段階の反応の終了後から、得られた前駆体を重縮合反応させる第2段階の開始までの間であり、一度に添加しても複数回に分けて添加してもよい。
【0028】
上記ポリエステル前駆体を製造する工程では、エチレングリコールを全酸成分のモル数に対して、1.1〜6倍モル、さらに2〜5倍モル、特に3〜5倍モル用いることが生産性の点から好ましい。
【0029】
また、ポリエステル前駆体を製造する際の反応温度としては、エチレングリコールの沸点以上で行なうことが好ましく、特に190〜250℃の範囲で行なうことが好ましい。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールが生成しやすい。また、反応を常圧下で行なうこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で行なってもよい。
【0030】
このポリエステル前駆体を製造する工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などがあげられる。
【0031】
つぎに、重縮合温度は、得られる共重合ポリエステルの融点以上でかつ230〜280℃以下、より好ましくは融点より5℃以上高い温度から融点より30℃高い温度の範囲である。重縮合反応では通常50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。50Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合ポリエステルを得ることが困難になる。
【0032】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応やエステル交換反応の触媒として併用してもよい。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル化反応やエステル交換反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので好ましい。
【0033】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、難燃性共重合ポリエステルの繰り返し単位に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【0034】
次に、本発明の難燃性共重合ポリエステルを用いて、二軸配向フィルムを製造する方法について説明する。まず、該共重合ポリエステルのチップを乾燥後、融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。なお、使用する共重合ポリエステル樹脂は、1種類に限られず、例えば前述の式(I)の割合が多いポリマーと、前述の式(II)の多いポリマーとを作り、前述の式(I)と(II)の割合が目的の範囲となるように溶融混練してもよく、そのような方法を採用することで、前述の式(I)と(II)の割合を任意に且つ簡便に変更することができる。この場合、一方のポリエステルとして式(I)の芳香族ジカルボン酸成分を含有しないものを用いてもよい。
【0035】
押出されたシート状物は、回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを二軸延伸することで二軸配向フィルムとすることができる。なお、二軸延伸を進行させやすくする観点から、冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましく、20〜60℃の低温で行なうことが好ましい。このような低温で行なうことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行なうことができる。
【0036】
二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜8倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒熱固定処理するのが好ましい。なお、熱固定の時間はさらに1〜15秒が好ましい。
【0037】
なお、通常であれば、延伸倍率を上げると製膜安定性が損なわれるが、本発明の共重合ポリエステル樹脂組成物は延伸性が高いので、そのような問題は無く、特に延伸倍率をより高くできることから、厚みが10μm以下、特に8μm以下の薄いフィルムでも安定して製膜することができる。フィルム厚みの下限は特に制限されないが、通常1μm程度、好ましくは3μmである。
【0038】
一方、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも同様に延伸でき、上記逐次二軸延伸で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
また、二軸配向フィルムの表面に塗布層を設けてもよく、その場合、前記した未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述と同様の方法で二軸延伸および熱処理を行なえばよい。
【0039】
さらに、本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの製膜方向(MD方向)および幅方向(TD方向)のヤング率が、好ましくは4.5GPa以上、より好ましくは5GPa以上であることが、高温加工時の伸びを抑制する点から好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例をあげて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0041】
(1)固有粘度
P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解し、温度35℃で測定して求めた。
【0042】
(2)難燃性
ポリマーを175℃で4時間乾燥後、成型温度300℃、プレス圧力30MPa、成型時間1分間の条件でメルトプレスして未延伸シートを得た。この未延伸シートを150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ3.5倍に同時二軸延伸し、次いで210℃で15秒間熱固定処理を行い、厚さが75μmのフィルムとなし、UL94VTM試験(プラスチック薄手材料の垂直燃焼試験:vertical burn test for thin plastic films)に準拠して実施した。
【0043】
(3)ポリエステル中のリン元素濃度
ポリエステルを溶融成型して理学電機製蛍光X線分析装置(ZSX100e)にて分析した。
【0044】
(4)ガラス転移点および融点
DSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0045】
[実施例1]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸30kg(74.6モル)と、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル7.8kg(32.0モル)およびエチレングリコール25kgとを攪拌機、精留塔、冷却管を備えた圧力容器に仕込み、150℃まで昇温した。その時点でトリメリット酸チタンをチタン元素として2.3g相当量加え、反応装置全体を窒素にて0.25MPaに加圧して、圧力容器内温を240℃へと昇温した。圧力は常に0.25MPaにコントロールさせ、精留塔の塔頂温度は200℃になると全還流とし、200℃以下では還流比1にて反応を続けた。反応の進行に従い容器内は徐々に透明になり最終的に内温を250℃まで昇温し、液が透明であることを確認して反応終了とした。
【0046】
続いて圧力を常圧に戻し下記式で表される2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸(大八化学(株)製略称CEPPA)を3.78kg加え内温を255℃まで再度昇温し、余分のエチレングリコールを留出させたのち、重合触媒として三酸化アンチモンを6.2g加えた後、平均目開き30μmの金網フィルターを通過させて反応液を重縮合容器に移した。
【0047】
その後反応容器内温を徐々に昇温しながら、ゆっくりと容器内を減圧し、290℃、50Paで所定の攪拌電力に到達するまで重縮合反応を続け、共重合ポリエステルを製造した。共重合ポリエステル樹脂の難燃性の評価結果を表1に示す。
【0048】
【化4】

【0049】
[実施例2]
実施例1の2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸に代えて、下記式で表される2−カルボキシエチルメチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル(クラリアント社製:ホスホラン)を3.78kg用いたほかは実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0050】
【化5】

【0051】
[実施例3]
実施例1の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸に代えて、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジメチルエステル32.1kg(74.6モル)とし、さらに2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸に代えて、下記式で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン系の有機リン化合物(竹本油脂製パイオニンZB−101)を7.96kg用いたほかは実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0052】
【化6】

【0053】
[実施例4〜5]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルの割合変更し、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合割合およびリン元素含有量が表1に記載のとおりとなるように仕込み比を変更する以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
実施例1の2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸に代えて、リン酸トリメチルを14.9g加えた他は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の難燃性共重合ポリエステルは、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートが有している温湿度に対する寸法安定性が良好であるといった優れた特性を維持しつつ、優れた難燃性をも具備するので、各種フレキシブルエレクトロニクスデバイスの基材フィルム用として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)および(II)で表される芳香族ジカルボン酸成分と、炭素数2〜4のアルキレングリコール成分とからなり、下記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合が、全ジカルボン酸成分を基準として5〜80モル%の範囲にあり、さらに有機リン化合物が、共重合ポリエステル中のリン元素の含有量として0.3〜1.5重量%となる割合で共重合されていることを特徴とする難燃性共重合ポリエステル。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[式(I)中のRは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表し、式(II)中のRはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]
【請求項2】
有機リン化合物が、下記式(III)または(IV)で表されるリン化合物である請求項1に記載の難燃性共重合ポリエステル。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【化2】

(式中、Rは1価のエステル形成性官能基、Aは2価または3価の有機残基を表し、nは1〜2の整数を表わす。)
【請求項3】
請求項1または2記載の難燃性共重合ポリエステルからなる難燃性二軸配向フィルム。
【請求項4】
フレキシブルプリント基板の基材フィルムとして用いられる請求項3に記載の難燃性二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2010−37415(P2010−37415A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200692(P2008−200692)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】