説明

難燃性合成繊維とその製造方法、難燃繊維複合体及び繊維製品

【課題】従来の難燃性合成繊維では解決が困難であった課題、すなわち、アンチモン化合物を添加したハロゲン含有繊維からのアンチモン化合物の脱離を効率よく抑えることができる難燃性合成繊維とその製造方法、難燃繊維複合体及び繊維製品を提供する。
【解決手段】アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量〜30/100量の四酸化アンチモンを含む難燃性合成繊維。また、このような難燃性合成繊維を得ることを特徴とする難燃性合成繊維の製造方法、さらには、難燃繊維複合体及び繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四酸化アンチモンを含む難燃性合成繊維とその製造方法、難燃繊維複合体及び繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣食住の安全性確保や環境意識に関する要求が強まり、衣服や寝具、その他インテリアに使用される素材においては防炎が求められ、且つ人体への安全に対し問題を及ぼす可能性のある有害物質の溶出を規制する動きが高まってきている。防炎に関しては、高い難燃性を示す繊維製品として、従来からアンチモン化合物を添加したハロゲン含有繊維を用いた複合体あるいは繊維製品が幾つか提案されている。例えば、特許文献1には、アンチモン化合物添加ハロゲン繊維を85〜15質量%と、ウール及びセルロースから選ばれる少なくとも一つの繊維を85〜15質量%とからなるクッションなどのカバー材料が提案されている。また、特許文献2には難燃剤であるアンチモン化合物を添加したハロゲン含有繊維と、ポリエステル系繊維とからなる頭髪用繊維が提案されている。ところが、特許文献1〜2のように、単にアンチモン化合物をハロゲン含有繊維の中に添加しただけでは、染色時にアンチモンの溶出などの脱離問題が生じるおそれがあるだけでなく、胃液や汗における有害物質の溶出を想定した、EN71part3やオコテックス規格等の試験において、規定値以上のアンチモン濃度になるケースがある。これを解決する方法として、特許文献3〜5が提案されている。特許文献3では、ハロゲン含有繊維の中に水酸化マグネシウムを添加することで、アンチモンの添加量を下げるか又は無添加とすることを提案している。特許文献4では、ハロゲン含有繊維の中にガラス成分を添加することで、アンチモンの添加量を下げるか又は無添加とすることを提案している。特許文献5では、アンチモン化合物を添加したハロゲン含有繊維に、アンチモン化合物の脱離防止剤としてタンニン類、メルカプト基含有カルボン酸、多価カルボン酸、多価ヒドロキシカルボン酸から選ばれる少なくとも一つの化合物を含む処理溶液で接触処理させることで、アンチモンの溶出を防ぐことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−001842号公報
【特許文献2】特開2002−227019号公報
【特許文献3】特開2005−314817号公報
【特許文献4】特開2005−314816号公報
【特許文献5】WO2009/093562
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献3〜4の提案は、難燃性に改善の余地があり、加えてハロゲン含有繊維を紡糸する際の紡糸浴の中に水酸化マグネシウムやガラス成分を添加するので、紡糸が困難になることがあり、いまだ充分に改善されていない。また、特許文献5の提案は、脱離防止剤としてタンニン類を用いる為には、タンニン類を結合させる為に、木綿等のセルロース系繊維との混綿が必要となり、また、メルカプト基含有カルボン酸、多価カルボン酸、多価ヒドロキシカルボン酸の使用に関しては、接触処理時にアンチモンが溶出する他、これらの処理によってコスト高となる為、実用化には課題が残されている。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決する為、アンチモン化合物を添加したハロゲン含有繊維からのアンチモン化合物の脱離を効率よく抑えることができる難燃性合成繊維とその製造方法、難燃繊維複合体及び繊維製品を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の難燃性合成繊維は、アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量〜30/100量の四酸化アンチモンを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の難燃性合成繊維の製造方法は、アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量〜30/100量の四酸化アンチモンを含む難燃性合成繊維を得ることを特徴とする。
【0008】
本発明の難燃繊維複合体は、前記の難燃性合成繊維を10質量%以上と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記難燃性合成繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維90質量%以下を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の繊維製品は、前記の難燃性合成繊維を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い難燃性を具備させつつ、精錬・漂白、染色時のアンチモンの脱離、あるいは胃液、汗液、あるいはそれらを想定した人工液に晒してもアンチモンの脱離が抑えられる、高度な難燃性とアンチモン脱離抑制性能を有する難燃性合成繊維、難燃繊維複合体及び繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、アクリロニトリルとハロゲン含有ビニリデン及び/又はハロゲン含有ビニル単量体を含有する合成繊維に四酸化アンチモンを含有させることで、高度な難燃性とアンチモン脱離抑制性能を獲得できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の重合体は、アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる。前記アクリロニトリル含有量が30〜70質量部であると、繊維化するのに必要な耐熱性が得られ、かつ難燃化もできる。特に好ましいアクリロニトリル含有量の下限としては40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上であり、上限としては60質量部以下、更に好ましくは57質量部以下である。前記好ましい範囲であれば、繊維の耐熱性がより高くなる。特に好ましいハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体の下限としては40質量部以上、更に好ましくは43質量部以上であり、上限としては60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。特に好ましい共重合可能なビニル単量体の下限としては0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、上限としては7質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0013】
前記ハロゲン含有ビニリデン単量体としては、たとえば、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、臭化ビニリデンなどがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。
【0014】
前記ハロゲン含有ビニル単量体としては、たとえば、塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニルなどがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。
【0015】
このようなアクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体の具体例としては、たとえば、アクリロニトリル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニリデン系単量体とアクリロニトリルとの共重合体や、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニリデン系単量体の1種以上とアクリロニトリル及びこれらと共重合可能なビニリデン系単量体との共重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。また、前記単独重合体や共重合体を適宜混合して使用してもよい。
【0016】
前記それらと共重合可能なビニル単量体としては、たとえばアクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸及びその塩、メタリルスルホン酸及びその塩、スチレンスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸及びその塩などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。また、そのうち少なくとも1種がスルホン酸基含有ビニル単量体の場合には、染色性が向上するため好ましい。
【0017】
前記アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体の具体例としては、例えば下記の例が挙げられる;
(1)アクリロニトリル51質量部、塩化ビニリデン48質量部、スチレンスルホン酸ソーダ1質量部からなる共重合体、
(2)アクリロニトリル57質量部、塩化ビニリデン41質量部、アリルスルホン酸ナトリウム2質量部からなる共重合体、
(3)アクリロニトリル60質量部、塩化ビニリデン30質量部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム10質量部からなる共重合体、
(4)アクリロニトリル55質量部、塩化ビニリデン43質量部、メタリルスルホン酸ナトリウム2質量部からなる共重合体、
(5)アクリロニトリル56質量部、塩化ビニリデン42質量部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ2質量部からなる共重合体。
【0018】
前記共重合体は、既知の重合方法で得る事ができる。例えば、重合方式としては塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が、重合形態としては連続式、回分式、半回分式等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。この中でも工業的視点から、重合方式としては乳化重合と溶液重合が、重合形態としては連続式、半回分式が好ましい。
【0019】
前記四酸化アンチモンの平均粒子径としては、4μm以下であることが好ましく、3μm以下がより好ましい。四酸化アンチモンの平均粒子径が4μm以下であると、ハロゲン含有重合体に四酸化アンチモンを添加してなる繊維の製造工程上におけるノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上、繊維中での四酸化アンチモン粒子の分散性などの点から好ましい。繊維中での四酸化アンチモン粒子の分散性が良くなると、繊維からのアンチモンの脱離が抑制されることが予想される為好ましい。四酸化アンチモンの平均粒子径における下限は、特に限定されないが、ハンドリング性の点から0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。更に前記四酸化アンチモンは、ブロッキング性改善のために粒子表面に化学的修飾を施しても、水中や有機溶媒中に分散状態で使用しても支障ない。ここで平均粒子径とは、メジアン径のことを意味する。メジアン径の測定方法としては、光散乱法を用いることができる。
【0020】
四酸化アンチモンの製造方法は特に規定はないが、一般的な四酸化アンチモンの作製方法である、三酸化アンチモンを焼成させて四酸化アンチモンを製造する場合、製造後に四酸化アンチモン粒子内に三酸化アンチモンが残留する場合があるが、この場合、三酸化アンチモンの残留量は限りなく0質量部であることがハロゲン含有繊維からのアンチモンの脱離を抑制する上で好ましいと考えられる。
【0021】
前記四酸化アンチモン化合物の添加量は、アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量以上、好ましくは4/100量以上、更に好ましくは7/100量以上であり、上限としては、30/100量以下、好ましくは20/100量以下、更に好ましくは15/100量以下、更により好ましくは10/100量以下である。
【0022】
本発明の難燃性合成繊維は、アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量〜30/100量の四酸化アンチモンを含ませ、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式法等の公知の製造方法で製造される。例えば湿式紡糸法では、上記重合体をN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、ロダン塩水溶液、ジメチルスルホキシド、硝酸水溶液等の溶媒に溶解後、ノズルを通じて凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで水洗、乾燥、延伸、熱処理し、必要であれば捲縮を付与し切断することで製品を得る。前記溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトンが好ましく、さらにはN,N−ジメチルホルムアミド、アセトンが工業的にハンドリングできることから好ましい。
【0023】
本発明の難燃性合成繊維は、短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能である。例えば他の天然繊維、再生繊維、又は合成繊維と複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊度は、使用される複合体、繊維製品の用途に使用される他の天然繊維、再生繊維、半合成繊維又は合成繊維により適宜選択されるが合わせて、1〜30dtexが好ましく、1〜10dtexがさらに好ましく、1〜3dtexがさらに好ましい。またカット長は、複合体、繊維製品の用途により適宜選択される。例えば、ショートカットファイバー(繊維長0.1〜5mm)や短繊維(繊維長38〜128mm)、或いは全くカットされていない長繊維(フィラメント)が挙げられる。この中でも繊維長38〜76mm程度の短繊維が好ましい。但し、他の繊維と組み合わせるときは、他の繊維の繊度と同等でも良く、細くても太くても良い。
【0024】
本発明の難燃性合成繊維は、高い難燃性を具備させつつ、精錬・漂白、染色時のアンチモンの脱離、あるいは胃液、汗液、あるいはそれらを想定した人工液に晒してもアンチモンの脱離が抑えられる。特に、繊維の全加工段階における原料、半製品、最終製品に適用される試験・認証システムであるオコテックス規格100に基づくISO105−E4(テスト溶液II)に定める人工汗液への重金属の溶出試験において、アンチモンの試験結果が規制値(30mg/kg)未満となる。また、玩具の安全性を定めた規制であるEN71part3に基づく胃液を想定した酸性液への重金属の溶出試験において、アンチモンの試験結果が規制値(45mg/kg)未満となる。
【0025】
本発明の難燃性合成繊維は、単独使用はもちろん可能であり、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、前記難燃性合成繊維以外の他の合成繊維等と組み合わせて使用することも可能である。他の繊維との組み合わせを「難燃繊維複合体」という。難燃繊維複合体は、本発明の難燃性合成繊維を10質量%以上含むことが好ましい。難燃性合成繊維の含有量の下限値は好ましくは30質量%以上であり、上限値は好ましくは70重量%以下である。複合体としては、混綿、混紡、混繊、引き揃え糸、合糸、芯鞘等の複合糸、交織、交編、積層等があり、具体的形態としては、不織布、織物、編み物、レース網、組み物などがある。
【0026】
織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。平織、朱子織、紋織が、商品としての風合いや強度等に優れる。
【0027】
編み物としては、丸編、緯編、経編、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。天竺編、リブ編が、商品としての風合いに優れる。
【0028】
本発明においては、難燃繊維複合体は、前記の難燃性合成繊維を10質量%以上と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記難燃性合成繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維90質量%以下を含む。天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記難燃性合成繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維の含有量の下限値は好ましくは30質量%以上であり、上限値は好ましくは70質量%以下である。
【0029】
天然繊維としては、木綿、カポック繊維、麻、大麻繊維、ラミー繊維、ジュート繊維、マニラ麻繊維、ケナフ繊維、羊毛繊維、モヘア繊維、カシミヤ繊維、ラクダ繊維、アルパカ繊維、アンゴラ繊維、絹繊維等がある。
【0030】
再生繊維としては、再生セルロース繊維(レーヨン、ポリノジック、旭化成社製商品名“キュプラ”、レンチング社製商品名“テンセル”、同“レンチングモダール”)、再生コラーゲン繊維、再生タンパク繊維等がある。
【0031】
半合成繊維としては、アセテート及びトリアセテートのような酢酸セルロース繊維、プロミックス繊維などがある。
【0032】
前記難燃性合成繊維以外の合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維(旭化成せんい社製商品名“サラン”)、ポリクラール繊維、ポリエチレン繊維(東洋紡社製商品名“ダイニーマ”)、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、アラミド繊維(デュポン社製商品名“ケブラー”、同“ノーメックス”、帝人社製商品名“テクノーラ”、同“トワロン”、同“コーネックス”)、ベンゾエート繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維(東洋紡社製商品名“プロコン”)、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリベンズアゾール繊維、ポリイミド繊維(東洋紡社製商品名“P84”)、ポリアミドイミド繊維(ケルメル社製商品名“ケルメル”)等がある。
【0033】
さらに、再生繊維として、特殊再生セルロース繊維(水ガラスを含有するレーヨン繊維:サテリ社製商品名“ヴィジル”、ダイワボウ社製商品名“FRコロナ”)、難燃剤を塗布した後加工難燃セルロース繊維、素材難燃レーヨン繊維(レンチング社製商品名“レンチングFR”)がある。前記難燃性合成繊維以外の合成繊維として、難燃ポリエステル(東洋紡社製商品名“ハイム”、トレビラ社製商品名“トレビラCS”)、ポリエチレンナフタレート繊維(帝人社製商品名“テオネックス”)、メラミン繊維(バソフィルファイバー社製商品名“バソフィル”)、アクリレート繊維(東洋紡社製商品名“モイスケア”)、ポリベンズオキサイド繊維(東洋紡社製商品名“ザイロン”)がある。その他、酸化アクリル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、活性炭素繊維等がある。
【0034】
本発明の難燃繊維複合体はセルロース系繊維を好適に含むことができる。本発明に用いるセルロース系繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維又は前記難燃性合成繊維以外の合成繊維のいずれに属するセルロース系繊維であってもよい。このうち、木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、及び酢酸セルロース繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種のセルロース系繊維が好ましく、木綿、レーヨンが吸湿性、着心地の点から特に好ましい。セルロース系繊維が難燃繊維複合体に30〜70質量%含有されていることが好ましく、40質量%以上であることが更に好ましい。
【0035】
本発明の難燃性合成繊維には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤、難燃剤といったその他添加剤を含有させても良い。
【0036】
本発明の繊維製品としては、一例として次のものがある;
(1)衣類及び日用品材料
衣服(上着、下着、セーター、ベスト、ズボンなどを含む)、手袋、靴下、マフラー、帽子、寝具、枕、クッション、ぬいぐるみ等、
(2)特殊服
防護服、消防服、作業服、防寒服等、
(3)インテリア材料
椅子張り、カーテン、壁紙、カーペット等。
【実施例】
【0037】
以下、実施により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例中で「%」は「質量%」を意味する。
【0038】
(製造例1〜5):ハロゲン含有繊維の製造例
アクリロニトリル51%、塩化ビニリデン48%及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1%よりなる共重合体をアセトンに樹脂濃度が30%になるように溶解させ、得られた樹脂溶液の樹脂に対して質量でそれぞれ2/100量、4/100量、7/100量、10/100量又は1/100量の四酸化アンチモン(山中産業株式会社製 ATE−S)を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、30%アセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗したのち120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂(株)製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0039】
(製造例6、7):ハロゲン含有繊維の製造例
アクリロニトリル51%、塩化ビニリデン48%及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1%よりなる共重合体をアセトンに樹脂濃度が30%になるように溶解させ、得られた樹脂溶液の樹脂に対して質量でそれぞれ4/100量又は10/100量の三酸化アンチモン(山中産業株式会社製 MSF)を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、30%アセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗したのち120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂(株)製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0040】
(製造例8):ハロゲン含有繊維の製造例
アクリロニトリル51%、塩化ビニリデン48%及びp−スチレンスルホン酸ソーダ1%よりなる共重合体をアセトンに樹脂濃度が30%になるように溶解させ、得られた樹脂溶液の樹脂に対して質量で10/100量の五酸化アンチモン(日産化学株式会社製 サンポックNA−1030)を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数2000ホールのノズルを用い、30%アセトン水溶液中へ押し出し、延伸しつつ水洗したのち120℃で乾燥し、さらに150℃で3倍に延伸し、180℃で30秒間、過飽和水蒸気中熱処理を行ない、繊度2dtexのハロゲン含有繊維を得た。得られたハロゲン含有繊維に紡績用仕上げ油剤(竹本油脂(株)製)を塗布し、クリンプを付け、長さ38mmにカットした。
【0041】
(実験例1):オコテックス試験の評価方法
オコテックス試験は、オコテックス規格100に基づき、オコテックス国際共同体である財団法人日本染色検査協会(東京都葛飾区立石4−2−8)に、ISO105−E04(テスト溶液II)に規定の人工汗液におけるアンチモンの溶出量の測定を依頼した。オコテックス試験の評価は、オコテックス試験におけるアンチモンの試験結果がオコテックス規格100に定められる規定値(30mg/kg)未満の場合合格とし、30mg/kg以上であった場合、不合格として評価した。
【0042】
(実験例2):EN71part3試験の評価方法
EN71part3試験方法は、EN71−3(1995)に基づき、財団法人化学技術戦略推進機構高分子試験・評価センター(大阪府東大阪市高井田中1−5−3)に測定を依頼した。即ち、まず、本発明の難燃性合成繊維を約6mmにカット、約3gに計量した後、0.07mol/Lの塩酸水溶液内(37±2℃、試料量(g):塩酸水溶液量(g)=1:50)で1分間攪拌する。その後、2mol/Lの塩酸水溶液を用いてpHを1〜1.5に調整し、37±2℃で1時間攪拌し、更に同条件下1時間放置した。次に、ろ紙(45μmのメンブレンフィルター)を用いてろ過した後、このろ液をICP−AESで測定し、その測定値と抽出に用いた繊維の量から以下の式(式1)よりアンチモンの試験結果を得た。
試験結果=測定値−測定値×60/100 (式1)
【0043】
(実験例3):難燃性評価用試験体の作製方法
ハロゲン含有繊維(A)の製造例1〜8で作製したハロゲン含有繊維と木綿を55:45の割合で混綿し、MDPA(ウスター社製 MDPA3)でスライバーを作成した。次に、このスライバーを用いてクイックスピンシステム(ウスター社製 クイックスピンシステム)により、20/1番手のオープンエンド糸を作製した。最後に、このオープンエンド糸を1口編機(16ゲージ)により、ニット布帛を作製した。これを難燃性評価用試験体とした。
【0044】
(実験例4):難燃性評価方法
実施例における布帛の難燃性評価は、難燃性評価用試験体の作製方法で作製した布帛を使用し、燃焼試験方法はEN ISO15025:2000(ProcedureA)に基づいて実施した。難燃性評価基準としては、 ISO/FDIS11612:2008(E)に基づいて評価した。
【0045】
EN ISO15025:2000(ProcedureA)燃焼試験方法は、規定のホルダーにセットした評価用生地に対して直角に17±1mm離れた場所から25±2mmの炎を10秒間着炎する方法からなる。ISO/FDIS11612:2008(E)難燃性評価基準は、EN ISO15025:2000燃焼試験方法(ProcedureA)において、評価用生地が炎を上げるもしくは溶融した場合、平均残炎時間が2秒を超えた場合、平均残燼時間が2秒を超えた場合、試料の上端あるいは側端まで燃えた場合、の内いずれか一つでも条件をパスしない場合は不合格となり、全て条件をパスした場合は合格となる。実施例における布帛の難燃性合否判定としては、上記燃焼試験方法EN ISO15025:2000(ProcedureA)の試験方法に対してISO/FDIS11612:2008(E)難燃性評価基準を満足した場合合格(○)、そうでない場合不合格(×)とした。
【0046】
(実施例1〜4)
製造例1〜4で作製したハロゲン含有繊維を木綿と混綿し、難燃性評価用試験体の作製方法に基づき作製したニット布帛を、難燃性評価方法に従って難燃性評価を実施した。また、実施例3及び実施例4に関しては、オコテックス試験の評価方法に基づき、人工汗液中におけるアンチモンの脱離性評価を実施した。更に実施例4に関しては、EN71part3試験の評価方法に基づき、pH=1〜1.5におけるアンチモンの脱離性評価を実施した。
【0047】
(比較例1)
製造例5で作製したハロゲン含有繊維を木綿と混綿し、難燃性評価用試験体の作製方法に基づき作製したニット布帛を、難燃性評価方法に従って難燃性評価を実施した。
【0048】
(比較例2、3)
製造例6〜7で作製したハロゲン含有繊維を木綿と混綿し、難燃性評価用試験体の作製方法に基づき作製したニット布帛を、難燃性評価方法に従って難燃性評価を実施した。また、オコテックス試験の評価方法に基づき、人工汗液中におけるアンチモンの脱離性評価を実施した。更にEN71part3試験の評価方法に基づき、pH=1〜1.5におけるアンチモンの脱離性評価を実施した。
【0049】
(比較例4)
製造例8で作製したハロゲン含有繊維を木綿と混綿し、難燃性評価用試験体の作製方法に基づき作製したニット布帛を、難燃性評価方法に従って難燃性評価を実施した。また、オコテックス試験の評価方法に基づき、人工汗液中におけるアンチモンの脱離性評価を実施した。更にEN71part3試験の評価方法に基づき、pH=1〜1.5におけるアンチモンの脱離性評価を実施した。
【0050】
表1に実施例1〜4、及び比較例1〜4のオコテックス試験評価結果、EN71part3試験結果及び難燃性評価結果をまとめて示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜4では、何れの場合においても難燃性は良好であった。また、実施例3〜4においてはアンチモンの脱離が抑制され、オコテックス試験の評価方法に基づく人工汗液中におけるアンチモンの脱離性評価で合格であった。更に実施例4においてはEN71part3試験の評価方法に基づくpH=1〜1.5におけるアンチモンの脱離性評価で合格であった。
【0053】
比較例1では、難燃剤である四酸化アンチモンの添加量が1質量部と少なく、難燃性が不十分であり不合格となった。また、比較例2〜4では、何れの場合においても難燃性は良好であったが、オコテックス試験の評価方法に基づく人工汗液中におけるアンチモンの脱離性評価で不合格となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量〜30/100量の四酸化アンチモンを含む難燃性合成繊維。
【請求項2】
前記重合体に対し、質量で4/100量〜20/100量の前記四酸化アンチモンを含む請求項1に記載の難燃性合成繊維。
【請求項3】
前記重合体に対し、質量で4/100量〜15/100量の前記四酸化アンチモンを含む請求項2に記載の難燃性合成繊維。
【請求項4】
前記ハロゲン含有ビニリデン単量体が、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、及び、臭化ビニリデンからなる群から選ばれる1以上のハロゲン含有ビニリデン単量体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項5】
前記ハロゲン含有ビニル単量体が、塩化ビニル、フッ化ビニル、及び、臭化ビニルからなる群から選ばれる1以上のハロゲン含有ビニル単量体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項6】
前記共重合可能なビニル単量体が、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸及びその塩、メタリルスルホン酸及びその塩、スチレンスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸及びその塩からなる群から選ばれる1以上のビニル単量体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項7】
前記共重合可能なビニル単量体が、スルホン酸基含有ビニル単量体を含むビニル単量体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項8】
前記四酸化アンチモンの平均粒子径が、4μm以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項9】
前記四酸化アンチモンの平均粒子径が、3μm以下である請求項8に記載の難燃性合成繊維。
【請求項10】
繊度が1〜30dtexである請求項1〜9のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項11】
オコテックス規格100に基づく人工汗液へのアンチモンの溶出試験において、試験結果が30mg/kg未満であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項12】
EN71part3に基づくアンチモンの溶出試験において、試験結果が45mg/kg未満であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維を10質量%以上と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記難燃性合成繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を含むことを特徴とする難燃繊維複合体。
【請求項14】
前記難燃性合成繊維を30〜70質量%含むことを特徴とする請求項13記載の難燃繊維複合体。
【請求項15】
前記天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記難燃性合成繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を30〜70質量%含むことを特徴とする請求項13又は14記載の難燃繊維複合体。
【請求項16】
前記天然繊維、再生繊維、半合成繊維及び前記難燃性合成繊維以外の合成繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維としてセルロース系繊維を含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の難燃繊維複合体。
【請求項17】
前記セルロース系繊維が木綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、及び酢酸セルロース繊維よりなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維である請求項16記載の難燃繊維複合体。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の難燃性合成繊維を含む繊維製品。
【請求項19】
アクリロニトリル30〜70質量部、ハロゲン含有ビニリデン単量体及び/又はハロゲン含有ビニル単量体30〜70質量部、及びこれらと共重合可能で単量体総量を100質量部とするビニル単量体0〜10質量部を重合して得られる重合体に対し、質量で2/100量〜30/100量の四酸化アンチモンを含む難燃性合成繊維を得ることを特徴とする難燃性合成繊維の製造方法。
【請求項20】
オコテックス規格100に基づく人工汗液へのアンチモンの溶出試験において、試験結果が30mg/kg未満であることを特徴とする請求項19記載の難燃性合成繊維の製造方法。


【公開番号】特開2011−256496(P2011−256496A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133177(P2010−133177)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】