説明

難燃性接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルム

【課題】ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができるハロゲンを含有しない接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供する。
【解決手段】(A)ハロゲンを含まない三官能エポキシ樹脂、(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂、(C)硬化剤、(D)ホスファゼン化合物、(E)熱可塑性樹脂を含有してなるハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができるハロゲンを含有しない難燃性接着剤組成物、並びにそれを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、特にパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機、ハードディスクドライブ等の通信用・民生用の電子機器の小型化、薄型化、軽量化、回路の高密度化が進み、これらの性能に対する要求が益々高度なものとなっている。このような要求に対して、フレキシブル印刷回路基板(以下、「FPC」と記載する。)は可撓性を有し、繰り返し屈曲に耐えるため、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であり、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能等を付与した複合部品として、その用途が拡大しつつある。
【0003】
FPCとは、FPC用基板に常法により回路を作製し、使用目的によってはこの回路を保護するような形でカバーレイフィルムを貼り合わせたものである。上述の通り、電子機器の小型化、薄型化、軽量化、回路の高密度化等に伴い、FPCを4層以上重ねた、多層FPCの需要が高まっている。この多層FPCは、接着シートを用いて、片面銅箔若しくは両面銅箔FPCを2枚以上積層することで、多層構造を得るものである。これらのFPCに要求される特性としては、接着の耐久性、半田耐熱性、屈曲性、耐折性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、難燃性等が挙げられる。
【0004】
FPCに使用される接着シートとは、離型基材の片面に半硬化状態の接着剤層を備えたものである。接着シートは、カバーレイフィルムを圧着して作製した複数のFPCを貼り合わせて多層FPCを製造する場合や、FPCと補強板とを貼り合わせる場合等の接着材料として使用される。更に、従来、カバーレイフィルムが用いられてきた銅配線の絶縁材料としての利用や、一対のFPCの銅配線面同士を貼り合わせる層間絶縁材としての利用も検討されている。接着シートに要求される特性としては、高いガラス転移温度、接着性、半田耐熱性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、難燃性、保存性、加工性、ハンドリング性等が挙げられる。
【0005】
FPCに使用されるカバーレイフィルムとは、電気絶縁性の基材フィルムの少なくとも片面に半硬化状態の接着剤を塗布してなり、通常、その接着剤塗布層には保護用の離型シートが貼り合わされている。離型シートは、使用に際して剥離され、露出した接着剤層を貼り付けて、FPCの回路保護や屈曲性の向上等を目的として使用されている。カバーレイフィルムに要求される特性としては、高いガラス転移温度、接着性、半田耐熱性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、難燃性、保存性、加工性、ハンドリング性等が挙げられる。
【0006】
近年では、電子機器の高機能化に伴い、FPCのおかれる環境が益々厳しくなってきている。特にFPCを高温下で繰り返し屈曲させて使用する機会や部品をワイヤーボンディングにより実装する機会等が増えてきており、これに伴って、FPCに使用される接着剤に対して、高いガラス転移温度や高い貯蔵弾性率、高温下での優れた屈曲性が必要になってきている。更に、環境問題を背景として、電子機器に実装される部品に対してハロゲン化合物の使用を禁止する傾向があり、従来、FPCを難燃化するために用いられてきた臭素化合物の使用が困難となってきている。
【0007】
そのため、FPC用基板に関しては、ガラス転移温度が高い接着剤を使用したものや、接着剤を使用しないで金属箔と耐熱性樹脂を貼り合せた二層構造の材料等が提案されており、また、接着剤に難燃剤として臭素化合物の代わりに燐系難燃剤を添加して、ハロゲンを使用しないで難燃化する手法が採られている。これに対して、接着シート及びカバーレイフィルムに関しては、加工性や保存性の観点から、ガラス転移温度が高い接着剤を使用し、かつ燐系難燃剤を使用してハロゲンを使用しないで難燃化したものが提案されている。
【0008】
その具体例としては、例えば、熱可塑性樹脂、燐含有フェノキシ樹脂、燐含有エポキシ樹脂及び硬化剤からなる接着剤組成物(特開2003−176470号公報:特許文献1)、エポキシ樹脂、硬化剤、フェノキシ樹脂、ゴム成分及び硬化促進剤からなる樹脂組成物(特開2003−286391号公報:特許文献2)、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂組成物(特開平11−279260号公報:特許文献3)、アクリルゴム、フェノキシ樹脂及び硬化剤からなる接着剤組成物(特開2004−136631号公報:特許文献4)、燐含有フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシル基含有ブタジエンゴム、硬化剤、硬化促進剤、金属水酸化物及び無機充填剤からなる接着剤組成物(特開2003−292927号公報:特許文献5)、エポキシ樹脂、多官能アラルキルフェノール、硬化促進剤、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム等のエラストマー、ホスファゼン化合物及び無機充填剤からなる接着剤組成物(特開2004−075748号公報:特許文献6)等が提案されている。
【0009】
しかしながら、いずれの接着剤組成物も、その硬化物が、ガラス転移温度が高く、加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性及び耐熱性が同時に優れ、かつハロゲンを含まずに難燃性に優れたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−176470号公報
【特許文献2】特開2003−286391号公報
【特許文献3】特開平11−279260号公報
【特許文献4】特開2004−136631号公報
【特許文献5】特開2003−292927号公報
【特許文献6】特開2004−075748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができるハロゲンを含有しない難燃性接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結果、(A)後述する一般式(1)で示されるハロゲンを含まない三官能エポキシ樹脂:20〜80質量部、(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂:(A)成分と合わせて100質量部となる量、(C)硬化剤:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜50質量部、(D)ホスファゼン化合物:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して5〜120質量部、(E)熱可塑性樹脂:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜80質量部を含有してなるハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物が、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることから、それを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムに有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記難燃性接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供する。
請求項1:
(A)下記一般式(1)で示されるハロゲンを含まない三官能エポキシ樹脂:20〜80質量部、
【化1】

【化2】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一でも異なってもよく、mは0又は1を表す。Xは式(2),(3),(4)のいずれか一つを表し、式(2),(3),(4)中、R2は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。)
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂:(A)成分と合わせて100質量部となる量、
(C)硬化剤:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜50質量部、
(D)ホスファゼン化合物:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して5〜120質量部、
(E)熱可塑性樹脂:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜80質量部
を含有してなるハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物。
請求項2:
フェノキシ樹脂が分子鎖両末端にエポキシ基を有するものである請求項1に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項3:
熱可塑性樹脂が常温下でゴム弾性を有さないものである請求項1又は2に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項4:
接着剤組成物中のリン含有率が1.8〜6.0質量%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項5:
硬化後のガラス転移温度が100℃以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項6:
硬化後の85℃における貯蔵弾性率が1GPa以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項7:
片面銅箔若しくは両面銅箔フレキシブル印刷回路基板相互の接着用である請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項8:
カバーレイフイルム作製用である請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
請求項9:
離型基材層と、該離型基材層上に設けられた請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有する接着シート。
請求項10:
電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム。
請求項11:
電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項10に記載のカバーレイフィルム。
請求項12:
接着剤層上に設けられた離型基材層を更に有する請求項9、10又は11に記載の接着シート又はカバーレイフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができるハロゲンを含有しない接着剤組成物、並びにそれを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は片面フレキシブル印刷配線用基板の長手方向に形成された回路の平面図、(B)は(A)図のA部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
<難燃性接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、熱硬化性であり、例えば、接着シート、カバーレイフィルムの製造等に用いられる。また、本発明の接着剤組成物は、上記(A)〜(E)成分を含有してなるものであり、必要に応じて、溶剤等の任意成分を含有していてもよく、該組成物が溶剤を含む場合には、溶剤は有機樹脂成分に含めない。
以下、上記の(A)〜(E)成分について、詳しく説明する。
尚、本発明における各成分の重量平均分子量は、いずれも溶剤としてテトラヒドロフランを用いたGPCによるポリスチレン換算値である。
【0017】
〔(A)成分〕
(A)成分であるエポキシ樹脂は、下記一般式(1)で示され、その分子内にハロゲン原子を含まないものであり、1分子中に3個のエポキシ基を有するトリスフェノールトリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。
【化3】

【化4】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一でも異なってもよく、mは0又は1を表す。Xは式(2),(3),(4)のいずれか一つを表し、式(2),(3),(4)中、R2は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。)
このようなエポキシ樹脂は、通常、重量平均分子量が10,000未満が好ましく、
また、分子骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。また、重量平均分子量の下限値は特に限定されないが、通常、500以上が好ましい。
【0018】
そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−([2,3−エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパン等が挙げられる。
【0019】
(A)成分のエポキシ樹脂は、接着剤組成物の硬化物のガラス転移温度、貯蔵弾性率、屈曲性及び半田耐熱性の向上に効果があり、更に可撓性にも優れている。特に、(A)成分のエポキシ樹脂は硬化物のガラス転移温度の向上に効果が高く、(A)成分のエポキシ樹脂を接着剤組成物中に20〜80質量部、より好ましくは30〜80質量部、特に好ましくは40〜80質量部配合することにより、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等の一般的な二官能エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の一般的な多官能エポキシ樹脂を同様に配合した場合と比較しても、(A)成分のエポキシ樹脂を配合した接着剤組成物の硬化物は極めて高いガラス転移温度を示す。
尚、(A)成分のエポキシ樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0020】
〔(B)成分〕
(B)成分であるフェノキシ樹脂は、重量平均分子量が10,000〜100,000であり、かつガラス転移温度が70℃以上のものである。
このようなフェノキシ樹脂は、更に、分子鎖両末端にエポキシ基を有することが好ましく、分子鎖両末端にエポキシ基を有しない場合には、硬化物の耐溶剤性、半田耐熱性、特に吸湿時の半田耐熱性が低下することがある。
【0021】
重量平均分子量は、好ましくは20,000〜100,000であり、より好ましくは30,000〜80,000である。この分子量が10,000未満である場合には、硬化物は耐熱性、柔軟性に劣ることがあり、100,000を超える場合には、硬化物は安定性に劣ることがあり、後述の有機溶剤を用いる場合には、特に、本成分の溶剤への溶解性が低下することがある。
【0022】
ガラス転移温度は、好ましくは70〜200℃、より好ましくは90〜160℃である。ガラス転移点が70℃未満である場合には、硬化物のガラス転移温度及び貯蔵弾性率が低くなることがあり、更に高温条件下での屈曲性が低下することがある。200℃を超える場合には、該硬化物の剥離強度が劣ることがある。
【0023】
(B)成分のフェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂とビスフェノールS型フェノキシ樹脂との共重合フェノキシ樹脂等が挙げられ、これらのうち、好ましくは、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂が挙げられ、特に好ましくは、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合フェノキシ樹脂が挙げられる。
【0024】
(B)成分のフェノキシ樹脂の配合量は、接着剤組成物の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A)成分の20〜80質量部と合わせて100質量部となる量である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、加工性がより良好なものとなる。
尚、(B)成分のフェノキシ樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0025】
〔(C)成分〕
(C)成分である硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる公知のものでよい。かかる硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤;イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤;レゾール型、ノボラック型等のフェノール樹脂;無水フタル酸、無水ピロメリト酸、無水トリメリト酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のオルガノホスフィン;ジシアンジアミド;三フッ化ホウ素アミン錯塩、硼弗化錫、硼弗化亜鉛等の硼弗化物;オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等のオクチル酸塩等が挙げられ、これらのうち、好ましくは、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール化合物、硼弗化物、ジシアンジアミド、オクチル酸塩が挙げられ、特に好ましくは、芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール化合物、硼弗化物が挙げられる。
【0026】
(C)成分の硬化剤の配合量は、(A)成分のエポキシ当量及び接着剤組成物の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、通常0.1〜50質量部であり、好ましくは0.5〜40質量部、より好ましくは1〜30質量部である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、半田耐熱性、耐溶剤性、ガラス転移温度、電気絶縁性がより良好なものとなる。
尚、(C)成分の硬化剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0027】
〔(D)成分〕
(D)成分であるホスファゼン化合物は、分子中にリン原子と窒素原子とを含有するために、難燃性を付与する成分として作用する。このようなホスファゼン化合物は、ハロゲン原子を含有せず、分子中にホスファゼン構造を持つ化合物であれば、特に限定されない。ここで、ホスファゼン構造とは、下記式:
【化5】

(式中、Rは一価の有機基又はアミノ基等である。)
で表される構造を意味する。
【0028】
このようなホスファゼン化合物としては、耐熱性、耐湿性、難燃性及び耐薬品性の点から、例えば、シクロホスファゼンオリゴマーが好ましい。このシクロホスファゼンオリゴマーは、下記一般式(5)
【化6】

(式中、Yは同一又は異種のハロゲン原子を含まない一価の有機基又はアミノ基であり、nは3〜10の整数である。)
で示されるものであり、その融点は、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは90〜150℃であり、特に好ましくは100〜150℃である。
式中、nは好ましくは3〜9、より好ましくは3〜6の整数であり、Yで表されるハロゲン原子を含まない有機基又はアミノ基としては、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリル基等が挙げられる。
【0029】
(D)成分のホスファゼン化合物の配合量は、接着剤組成物の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、通常5〜120質量部であり、好ましくは20〜100質量部、より好ましくは30〜80質量部である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の難燃性、接着性、半田耐熱性、電気絶縁性がより良好なものとなる。
尚、(D)成分のホスファゼン化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0030】
〔(E)成分〕
(E)成分である熱可塑性樹脂は、常温下(25℃)でゴム弾性を有しない高分子量の熱可塑性樹脂である。
具体的には、分子内にエステル基、ウレタン基、エーテル基、アミド基の骨格をもつ高分子量の熱可塑性樹脂であり、ポリエステルウレタン、ポリエーテルエステルアミドなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、温度18〜29℃において、もとの長さの3倍に伸ばすと切れ、又はもとの長さの2倍に伸ばした後、5分以内にもとの長さの1.5倍以下に戻らない、即ちゴム弾性を有しないものである。このようなゴム弾性を有しない高分子量の熱可塑性樹脂を用いることで、得られる接着剤組成物は、ガラス転移温度を下げることなく、加工性に優れたものとなる。
【0031】
(E)成分である熱可塑性樹脂は、分子中にカルボキシル基、アミノ基、水酸基等の反応性の官能基を含有していてもよい。これらの反応性の官能基を含有していると、得られる接着剤組成物をカバーレイフィルムに適応した場合には、熱プレス処理して積層一体化する際に接着剤組成物が適度な流れ性を発現するため、有効である。更に、(E)成分である熱可塑性樹脂は、リン原子、硫黄原子、窒素原子等を含有していてもよい。これらの原子を含有していると難燃性や接着性等の向上に効果がある。
【0032】
(E)成分である熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、商品名で、「バイロン」シリーズ(東洋紡製、カルボキシルキ含有ポリエステル樹脂)、「TPAE」シリーズ(富士化成製、ポリエーテルエステルアミド)等が挙げられる。
【0033】
(E)成分の熱可塑性樹脂の配合量は、接着剤組成物の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、通常0.1〜80質量部であり、好ましくは0.5〜60質量部、より好ましくは1〜40質量部である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物のガラス転移温度、加工性、接着性、半田耐熱性がより良好なものとなる。
尚、(E)成分の熱可塑性樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0034】
〔その他の任意成分〕
上記(A)〜(E)成分以外にも、必要に応じて、本発明の接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルムの特性を低下させない範囲で、溶剤、難燃剤、カップリング剤、酸化防止剤、イオン吸着剤、無機充填剤等の任意成分を添加しても良い。
【0035】
特に、本発明の接着剤組成物に用いられる溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル2−ピロリドン、ジオキソラン等が挙げられ、好ましくは、MEK、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノンが挙げられる。
尚、これらの溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用しても良い。
【0036】
ここで、熱硬化性接着剤溶液の固形成分濃度は20〜50質量%であればよく、より好ましくは25〜40質量%である。固形分濃度が20質量%未満では接着剤の塗工時に厚みムラが生じる可能性が高く、50質量%を超えると接着剤の粘度が高いために塗工性が悪くなるという問題が生じる。
【0037】
また、本発明の接着剤組成物には、無機充填剤を添加することが望ましい。無機充填剤は、硬化物の難燃性の補助、剥離状態の安定性(接着剤の凝集剥離)の向上、耐吸湿性の安定化等を目的として配合される成分である。
【0038】
このような無機充填剤は、従来、カバーレイフィルム又は接着シートに使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化モリブデン等の金属酸化物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物等が挙げられ、好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、及びホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物が挙げられ、より好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びホウ酸亜鉛が挙げられる。また、これらの無機充填剤の樹脂マトリックスへの密着性や耐水性を向上させ、硬化物の耐熱性、耐吸湿性等を向上させるために、該無機充填剤の表面が、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等により疎水化処理されていることが好ましい。
【0039】
無機充填剤の配合量は、(A)〜(E)成分の合計100質量部に対して、通常、0〜15質量部、特に1〜15質量部となる量であり、より好ましくは1〜10質量部となる量である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、耐熱接着性、ハンダ耐熱性、耐吸湿性がより良好なものとなる。特に、配合量が15質量部を超えると硬化物のガラス転移温度、屈曲性、接着性が低下することがある。
尚、無機物充填剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0040】
以上の各成分を混合する場合には、その順序は特に限定されないが、添加される成分の溶解性や得られる接着剤溶液の粘度を適宜考慮して決められる。混合には、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いることができる。
【0041】
〔難燃性接着剤組成物中のリン含有率〕
本発明では、リン元素の全接着剤組成物中有機基樹脂成分に対する含有率が、1.8〜6.0質量%であることが必要であり、より好ましくは2.0〜5.0質量%であり、特に好ましくは2.0〜3.5質量%である。この割合が1.8重量%未満であると、得られる接着剤組成物の難燃性を満足することが難しく、6.0重量%を超えると、接着剤組成物における(D)成分のホスファゼン化合物等の割合が大きくなり、接着剤組成物の接着性、半田耐熱性、屈曲性、耐溶剤性、電気絶縁性(マイグレーション性)等が低下する。
【0042】
〔難燃性接着剤組成物の硬化後のガラス転移温度及び貯蔵弾性率〕
本発明の接着剤組成物(接着剤組成物溶液の場合も含む)は、該組成物を、40〜200℃、好ましくは80〜180℃、より好ましくは120〜180℃で加熱処理することにより、硬化させることができる。
こうして得られる接着剤組成物の硬化物のガラス転移温度及び貯蔵弾性率は、公知の動的粘弾性測定法により、測定することができる。
【0043】
硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度は、100℃以上が好ましく、100〜180℃がより好ましく、120〜160℃が特に好ましい。ガラス転移温度がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性、半田耐熱性がより良好なものとなる。尚、ガラス転移温度を上記範囲にするには、(A)成分のエポキシ樹脂を接着剤組成物中に20〜80質量部配合する等の方法が挙げられる。
【0044】
また、硬化後の85℃での貯蔵弾性率は、1.0GPa以上が好ましく、1.2〜5.0GPaがより好ましく、1.5〜4.0GPaが特に好ましい。85℃での貯蔵弾性率がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性(特に85℃付近の高温下での屈曲性)、半田耐熱性がより良好なものとなり、ハードディスクドライブ等、高温下で繰り返し屈曲させて使用されるFPCのカバーレイフィルム用の接着剤組成物として、好適に使用することができる。尚、貯蔵弾性率を上記範囲にするには、(A)成分のエポキシ樹脂を接着剤組成物中に20〜80質量部配合する等の方法が挙げられる。
【0045】
更に、硬化後の25℃での貯蔵弾性率は、2.0GPa以上が好ましく、2.5〜6.0GPaがより好ましく、3.0〜5.0GPaが特に好ましい。25℃での貯蔵弾性率がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性(特に25℃付近の常温下での屈曲性)、半田耐熱性がより良好なものとなり、携帯電話等、常温下で繰り返し屈曲させて使用されるFPCのカバーレイフィルム用の接着剤組成物として、好適に使用することができる。尚、貯蔵弾性率を上記範囲にするには、(A)成分のエポキシ樹脂を接着剤組成物中に20〜80質量部配合する等の方法が挙げられる。
【0046】
<接着シート>
〔構成〕
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シートは、離型基材と、該離型基材上に設けられた該接着層とを有するものである。具体的には、例えば、離型基材と接着剤層とを有する2層構造、若しくは接着剤層と、該接着剤層の両面に設けられた離型基材とを有する3層構造等が挙げられる。FPC製造時の加工方法等に応じて、2層構造及び3層構造のいずれかを、適宜、選択すればよい。この接着シートは、特に片面銅箔若しくは両面銅箔フレキシブル印刷回路基板相互の接着に好適に用いられる。
【0047】
この接着剤層の厚さとしては、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、10〜50μmが好ましく、より好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0048】
離型基材は、必要に応じて、接着剤層の形態を損なうことなく該接着剤層から剥離できるフィルム状材料であれば特に限定されない。このような離型基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、シリコーン離型基材付きPEフィルム、シリコーン離型基材付きPPフィルム等の離型フィルム;PE樹脂コート紙、PP樹脂コート紙、TPX樹脂コート紙等の離型紙が挙げられる。離型基材の厚さは、必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、離型基材が離型フィルムである場合、該基材の厚さは13〜75μmであることが好ましく、離型基材が離型紙である場合、該基材の厚さは50〜200μmであることが好ましい。
【0049】
〔製造方法〕
次に、本発明の接着シートの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤組成物溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて離型基材片面に塗布する。この接着剤組成物溶液を塗布した離型基材をインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物溶液中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とし、2層構造の接着シートとする。更に、この接着シートの接着剤組成物の塗布面に別の離型基材を、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、3層構造の接着シートとする。離型基材は使用に際して剥離される。
尚、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態で、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【0050】
<カバーレイフィルム>
〔構成〕
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有するカバーレイフィルムは、電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた該接着剤層とを有するものである。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルムと、接着剤層と、該接着剤層上に設けられた離型基材とを有する3層構造が挙げられる。この接着剤層の厚さとしては、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、10〜50μmが好ましく、より好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0051】
電気絶縁性フィルムとしては、例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維やアラミド繊維、ポリエステル繊維等をベースにして、これにマトリックスとなるエポキシ樹脂や、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂を含浸して、フィルム状又はシート状にして銅箔と貼り合わせたもの等が挙げられ、耐熱性、寸法安定性、機械特性(弾性率、伸び等)等の点から、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0052】
この電気絶縁性フィルムの厚さとしては、使用目的により任意の厚さを選択してよいが、5〜75μmが好ましく、より好ましくは10〜50μm、特に好ましくは12.5〜25μmである。また、接着剤層との密着性向上、フィルム表面の洗浄、寸法安定性の向上等のために、このフィルムの片面又は両面に、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。
尚、離型基材は、前記接着シートの項で説明した通りである。
【0053】
〔製造方法〕
次に、本発明のカバーレイフィルムの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤組成物溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて電気絶縁性フィルム片面に塗布する。この接着剤組成物溶液を塗布したフィルムをインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物溶液中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とする。次いで、このフィルムの接着剤組成物の塗布面と離型基材とを、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、カバーレイフィルムとする。離型基材は使用に際して剥離される。
【0054】
このようにして得られる本発明の接着シート及びカバーレイフィルムは、常法に従い、FPCを作製するのに用いることができる。FPCの作製過程において、半硬化状態の接着剤組成物層は、接着シート及びカバーレイフィルムの一方又は両方を貼り合せるたびに完全に硬化させてもよいし、最終的なFPCの構成を組み上げてから完全に硬化させてもよい。本発明の接着シート及びカバーレイフィルム中の半硬化状態の接着剤組成物層は、例えば、1〜5MPaの加圧下、140℃〜180℃で40〜120分加熱することにより完全に硬化させることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた(A)〜(E)成分、及びその他成分には以下のものを用いた。
<難燃性接着剤組成物の成分>
【0056】
(A)上記式(1)で示されるハロゲンを含まない三官能エポキシ樹脂
・[a−1]下記式(6)に示す2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−([2,3−エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパン(重量平均分子量:約600、一分子中のエポキシ基:3個)
【化7】

【0057】
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂
・[b−1]ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(重量平均分子量:約53,000、ガラス転移温度:約95℃、分子鎖両末端にエポキシ基を有する)
・[b−2]ビスフェノールA型とビスフェノールF型の共重合フェノキシ樹脂(共重合比率:ビスフェノールA型/ビスフェノールF型=50/50(重量比)、重量平均分子量:約60,000、ガラス転移温度:約80℃、分子鎖両末端にエポキシ基を有する)
【0058】
(C)硬化剤
・[c−1]4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
・[c−2]4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
・[c−3]1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール
・[c−4]ホウフッ化錫45質量%水溶液
【0059】
(D)ホスファゼン化合物
・[d−1]下記式(7)に示すシクロホスファゼン化合物(n=3〜6の混合物、燐含有率:約13%)
【化8】

・[d−2]下記式(8)に示すシクロホスファゼン化合物(n=3〜6の混合物、燐含有率:約12%)
【化9】

【0060】
(E)熱可塑性樹脂
・[e−1]バイロンUR3575(商品名)(東洋紡製、カルボキシル基含有リン含有ウレタン変性ポリエステル樹脂、燐含有率:約2.5%)
・[e−2]TPAE−826−5A(商品名)(富士化成製、アミノ基含有ポリエーテルエステルアミド樹脂)
【0061】
その他成分
・[f−1]ビスフェノールA型エポキシ樹脂(重量平均分子量:約300、一分子中のエポキシ基:2個)
・[f−2]下記式(9)に示すグリシジルアミン型エポキシ樹脂(重量平均分子量:約500、一分子中のエポキシ基:4個)
【化10】

・[f−3]下記式(10)に示すクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(n=5〜7の混合物、重量平均分子量:約1,700、一分子中のエポキシ基:7〜9個)
【化11】

・[f−4]ニポール1072B(商品名)(日本ゼオン製、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、ガラス転移温度:0℃以下)
【0062】
<使用材料>
・カプトン100H(商品名)(東レデュポン製、ポリイミドフィルム、厚さ:25μm)
・アピカルNPI(商品名)(カネカ製、ポリイミドフィルム、厚さ:12.5μm)
・Y7TF(商品名)(リンテック製、離型紙、厚さ:約130μm)
・PET38X(商品名)(リンテック製、離型フィルム、厚さ:約38μm)
・HTE(商品名)(三井金属製、電解銅箔、厚さ:18μm及び35μm)
・RAS22S47(商品名)(信越化学工業製、片面三層フレキシブル印刷配線用基板、カプトン50H/接着剤層の厚さ:13μm/圧延銅箔18μm)
・KN16SR18A(商品名)(信越化学工業製、片面二層フレキシブル印刷配線用基板、アピカルNPI/圧延銅箔18μm)
【0063】
<実施例1〜5、比較例1〜8>
表1,2に示す配合比(質量部)で、接着剤組成物の各成分を混合し、混合物を調製した。この混合物を、MEK/トルエンの混合溶剤(MEK:トルエン=80:20(質量比))に溶解させ、均一になるようにボールミルを用いて十分に攪拌し、固形成分の合計濃度が38質量%の接着剤組成物溶液を調製した。
【0064】
次に、この接着剤組成物溶液を、離型フィルム(商品名:PET38X)上に、乾燥後の接着剤層の厚さが25μmとなるようにリバースロールコーターを用いて塗布した。その後、140℃、10分の加熱乾燥条件でMEK及びトルエンを除去することにより、該接着剤組成物を半硬化状態とした。この半硬化状態の接着剤組成物の付いたフィルムの接着剤面に、離型紙(商品名:Y7TF)を温度70℃、線圧2kg/cmの条件でロールラミネーターを用いて圧着し、接着剤シートを作製した。
【0065】
また、離型フィルムをポリイミドフィルム(商品名:カプトン100H、厚さ:25μm)に変更した以外は、接着シートの作製と同様の工程により、カバーレイフィルムを作製した。
【0066】
これらの接着シート及びカバーレイフィルムについて、下記の評価・測定方法に従って、物性の評価・測定を行った。その結果を表1,2に示す。尚、接着シート及びカバーレイフィルムの離型基材は剥離してからサンプルの作製に用いた。
<評価・測定方法>
【0067】
(評価用サンプルの構成)
以下のサンプル1〜3を、160℃、5.0MPa、60分のプレス加工条件で加熱圧着し、剥離強度、半田耐熱性、ガラス転移温度及び貯蔵弾性率の評価用サンプルとして用いた。
・サンプル1:接着シートの両面を2枚のRAS22S47のフィルム面で被覆したもの
・サンプル2:カバーレイフィルムの接着剤層とHTE箔(35μm)の光沢面とを接着したもの
・サンプル3:接着シートの両面を2枚のHTE箔(35μm)の光沢面で被覆したもの
【0068】
(物性評価・測定方法)
1.剥離強度(JIS C6471に準ずる)
・剥離強度A:サンプル1を10mm幅にカットして試験片1を作製し、該試験片1について、25℃の条件下でRAS22S47を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
・剥離強度B:サンプル2を10mm幅にカットして試験片2を作製し、該試験片2について、25℃の条件下でHTE箔を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
【0069】
2.半田耐熱性(JIS C6471に準ずる)
・常態半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片3を作製し、該試験片3を80℃で10分間乾燥した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、該試験片3の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度を測定した。
・吸湿半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片4を作製し、該試験片4を40℃、90%RHで1時間静置した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、常態半田耐熱性の項と同様にして最高温度を測定した。
【0070】
3.ガラス転移点温度(Tg)及び85℃における貯蔵弾性率
サンプル3を150℃で4時間加熱処理した後、HTE箔を塩化第二鉄水溶液で除去して接着シートを作製し、この接着シートをカットして試験片5(10mm×50mm)を作製した。試験片5を用いて、粘弾性測定装置(商品名:RSAIII、レオメトリック社製)により、昇温条件を5℃/分に設定して、接着剤のTg及び貯蔵弾性率を測定した。尚、Tgはtanδのピーク(極大値)とし、貯蔵弾性率は85℃における値とした。
【0071】
4.耐マイグレーション性
HTE箔(18μm)の処理面とカバーレイフィルムの接着剤組成物層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:60分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。そのプレスサンプルの銅箔をエッチング処理し、一対の櫛型電極からなる、100μmピッチ(ライン幅/スペース幅=50μm/50μm)の櫛型回路を作製した。この櫛型回路が作製された面に対し、別のカバーレイフィルムの接着剤組成物層をプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:60分)にて貼り合わせ、耐マイグレーション性測定用サンプルを作製した。
温度85℃、相対湿度85%の条件下で、この測定用サンプルの2つの櫛型電極の各々の端部にマイグレーションテスター(IMV社製、商品名:MIG−87)を用いて50Vの直流電圧を印加して、耐マイグレーション性を評価した。電圧印加後、1,000時間以内に導体間で短絡(抵抗値の低下)が発生した場合、若しくは1,000時間経過後デンドライトの成長が認められた場合を「不良」と評価し×で示し、1,000時間経過後も抵抗値を維持し、かつデンドライトを生じなかった場合を「良」と評価し○で示した。
【0072】
5.測定温度85℃の条件下での屈曲性
KN16SR18Aの長手方向(MD:Machine Direction)に、図1に示す150μmピッチ(導体75μm、線間75μm)の回路が6往復するパターンを作製した。これにカバーレイフィルムを160℃、5.0MPa、60分の条件でプレス圧着し、更に、150℃で4時間加熱処理を行い、屈曲性測定用サンプルとした。このサンプルについて、高速屈曲試験機(商品名:SEK−31C4S、信越エンジニアリング製)を用いて、屈曲半径1.5mm、屈曲速度600rpm、ストローク30mm、及び、測定温度85℃の条件で、測定方向をカバーレイ内側として、電気抵抗が初期値から20%上昇した時点までの屈曲回数をカウントした。屈曲回数が500万回未満の場合を「不良」と評価し×で示し、屈曲回数が500万回以上の場合を「良」と評価し○で示した。
【0073】
6.難燃性
UL94VTM−0難燃性規格に準拠して、カバーレイフィルムの難燃性を測定した。UL94VTM−0規格を満足する難燃性を示した場合を「良」と評価し○で示し、該サンプルがUL94VTM−0規格を満足しなかった場合を「不良」と評価し×で示した。
【0074】
7.加工性
カバーレイフィルムを180度方向に折り曲げて開いて、接着剤層の折れ、欠けを目視により確認した。接着剤層に折れ及び欠けが認められなかった場合を加工性が良好と評価して○と示し、接着剤層に折れ又は欠けの少なくとも一方が認められた場合を加工性が不良と評価して×と示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
<評価結果>
実施例1〜5で調製した組成物は、本発明の要件を満足するものであって、ハロゲンフリーでありながら、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有していた。
一方、比較例1〜8で調製した組成物は、本発明の要件を満足しないものであって、ガラス転移温度、加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性の少なくとも一種の特性が、実施例で調製したものに比べて劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、ハロゲンフリーでありながら、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性、及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができる接着剤組成物、並びにそれを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムを得ることができるので、その工業的利用価値は高い。
【符号の説明】
【0079】
1 片面フレキシブル印刷配線用基板の長手方向に形成された回路
2 銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるハロゲンを含まない三官能エポキシ樹脂:20〜80質量部、
【化1】

【化2】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一でも異なってもよく、mは0又は1を表す。Xは式(2),(3),(4)のいずれか一つを表し、式(2),(3),(4)中、R2は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。)
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂:(A)成分と合わせて100質量部となる量、
(C)硬化剤:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜50質量部、
(D)ホスファゼン化合物:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して5〜120質量部、
(E)熱可塑性樹脂:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して0.1〜80質量部
を含有してなるハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物。
【請求項2】
フェノキシ樹脂が分子鎖両末端にエポキシ基を有するものである請求項1に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が常温下でゴム弾性を有さないものである請求項1又は2に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項4】
接着剤組成物中のリン含有率が1.8〜6.0質量%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項5】
硬化後のガラス転移温度が100℃以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項6】
硬化後の85℃における貯蔵弾性率が1GPa以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項7】
片面銅箔若しくは両面銅箔フレキシブル印刷回路基板相互の接着用である請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項8】
カバーレイフイルム作製用である請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項9】
離型基材層と、該離型基材層上に設けられた請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有する接着シート。
【請求項10】
電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム。
【請求項11】
電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項10に記載のカバーレイフィルム。
【請求項12】
接着剤層上に設けられた離型基材層を更に有する請求項9、10又は11に記載の接着シート又はカバーレイフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97195(P2012−97195A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246119(P2010−246119)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】