難燃性有機多孔質複合体およびその製造方法
【課題】 従来よりも難燃性を長期的に保持できるとともに、高い飛散防止性も備えた難燃性有機多孔質複合体を提供すること。
【解決手段】 難燃性有機多孔質複合体1は、繊維がほぐれた状態の木質材料2と、木質材料2中に含有される難燃性薬剤3とからなるものであることを、主たる構成とする。木質材料2としては特に、樹皮を好適に用いることができる。難燃性薬剤3としては特に、リン酸アンモニウム等のリン酸塩を好適に用いることができる。なお、バインダーは不要である。
【解決手段】 難燃性有機多孔質複合体1は、繊維がほぐれた状態の木質材料2と、木質材料2中に含有される難燃性薬剤3とからなるものであることを、主たる構成とする。木質材料2としては特に、樹皮を好適に用いることができる。難燃性薬剤3としては特に、リン酸アンモニウム等のリン酸塩を好適に用いることができる。なお、バインダーは不要である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性有機多孔質複合体およびその製造方法に係り、特に、樹皮に難燃性を付与して、煙草の投げ捨てなどでも火災を起こすことのない、屋外敷設用の防草用資材として用いることのできる、新規な難燃性有機多孔質複合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等に敷設して用いる防草用資材(マルチング材)については従来、さまざまな技術的提案がなされている。たとえば後掲特許文献1は、防草用資材に用いるバーク材の飛散防止、施工の容易化ならびに難燃性保持効果の長期化を目的として、バーク材を破砕し敷設して土壌表面を被覆し、敷き均しを行った後、上方からリン酸アンモニウム塩類水溶液、リン酸エステル類および樹脂水性エマルジョン(バインダー)を成分とする所定配合の難燃性樹脂液を散布し、固定化するという方法を開示している。
【0003】
また、特許文献2は、火災発生防止および降雨等による流失の少ないマルチング材の提供を目的として、木材樹皮(バーク)を粉砕したものに、繊維表面の付着水分が抜けた時に粘着力を発揮する植生糊として水性エマルジョンと、難燃剤としてリン酸液等とを混入して混合し、繊維表面のリグニン、カルシウム分と化合・固定化させるマルチング材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−261149号公報「難燃性処理を施した防草材及び防火・防草工法」
【特許文献2】特開平8−89097号公報「難燃性マルチング材」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、難燃性保持効果を目指しつつも各特許文献開示技術ではいずれも、難燃性薬剤はバーク材の表面に付着するに留まり、長期的な難燃性の保持は困難である。つまり、特許文献1開示技術では、難燃性薬剤はバーク材の上方から散布されるため、風によって難燃性薬剤が飛散したり、降雨によって洗い流されるため、難燃性はさほど保持されず、効果がすぐに低下する。また、難燃性薬剤が散布されたバーク材自体も、構造上、飛散しやすい。
【0006】
また特許文献2開示技術では、難燃性薬剤は敷設前にバーク材・バインダーと混合される構成だが、かかる構成であってもバーク材自体の風による飛散は発生しやすいし、また薬剤は内部が開放されていないバーク材の外表面に付着するのみであるため、降雨によって洗い流され、やはり効果はすぐに低下する。
【0007】
したがって本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を除き、従来よりも難燃性を長期的に保持できるとともに、高い飛散防止性も備えた難燃性有機多孔質複合体、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した結果、樹皮を解繊処理、加熱処理した後に難燃性薬剤を含浸させることによって上記課題が解決可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下のとおりである。
【0009】
(1) 繊維がほぐれた状態の木質材料と、該木質材料中に含有される難燃性薬剤とからなる、難燃性有機多孔質複合体。
(2) 前記木質材料は樹皮であることを特徴とする、(1)に記載の難燃性有機多孔質複合体。
(3) 前記難燃性薬剤は水溶性であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の難燃性有機多孔質複合体。
(4) 難燃性有機多孔質構造体形成用のバインダーが用いられていないことを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体。
【0010】
(5) (1)ないし(4)のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体が固形化処理されてなる難燃性有機多孔質構造体。
(6) 木質材料の繊維が絡み合っている状態であることを特徴とする、(5)に記載の難燃性有機多孔質構造体。
(7) 木質材料を解繊処理する解繊工程と、解繊した木質材料に難燃性薬剤を浸透させる含浸工程とを備えることにより、該難燃性薬剤が浸透した複合体を得る、難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【0011】
(8) 前記含浸工程の前に、前記解繊工程によって開放された前記木質材料の多孔質構造部を減圧状態とする減圧工程が設けられることを特徴とする、(7)に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
(9) 前記減圧工程は、前記解繊工程によって解繊した木質材料を加熱処理し、かつ前記含浸工程における浸透が充分になされる程度に該加熱処理による熱を保持する工程であることを特徴とする、(8)に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
(10) 前記減圧工程においては、前記木質材料の含水率が5重量%以下となる程度に前記加熱処理がなされることを特徴とする、(9)に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性有機多孔質複合体、およびその製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、単純な処理によって、従来よりも難燃性を長期的に保持することが可能となる。したがって、たとえば煙草の投げ捨て等がなされた場合であっても火災が発生しない防草用資材として、火災防止効果が持続し、信頼性の高い製品を提供することができる。
【0013】
また本発明によれば、構造体の飛散を有効に防止することができる。したがって、たとえば防草用資材として屋外への敷設状態が敷設時のままで安定的に維持されるため、安心して使用継続することができ、維持管理コストも低減することができる。
【0014】
また本発明によれば、植生糊(バインダー)を用いることなく、しかも乾燥状態のままの処理で充分な飛散抵抗性を確保することができるため、難燃性付与における処理工程の単純さも相俟って、低コストで高い性能を実現することができる。したがって、優れた防草用資材を提供することができる。なお、天然材料を利用できることによる景観性やイメージの良さはいうまでもないが、本発明による難燃性保持効果の高さは、これら景観性等の保持効果の長期化ももたらすものである。
【0015】
また、樹皮の利用は従来、冬期間における燃料利用用途が主であったが、本発明による樹皮を用いた難燃性有機多孔質構造体・防草用資材は、その有用性の高さから、相当程度の商業的成功が予測できるため、木材加工業者にとっては、夏期における新たな収益源として期待することができる。
【0016】
なおまた、樹皮等木質材料を用いる本発明は、未利用植物バイオマスを有効利用することと、これ以外にはバインダーなどの炭素材料を使用しないことから、CO2削減効果も得ることができる。そして本発明は、木材を全量利用する方法でもあるため、木材加工業のコスト改善に結びつき、我が国林業振興の一助ともなる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の難燃性有機多孔質複合体の基本的構成を示す概念図である。
【図2】本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の構成を示すフロー図である。
【図3】本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の別の構成を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る難燃性有機多孔質構造体の製造方法例を示すフロー図である。
【図5】図4の難燃性有機多孔質構造体の原料に解繊処理を施した状態を示す顕微鏡写真である。
【図6A】実施例において、従来技術(難燃処理品)の難燃性試験結果を示す写真である。
【図6B】実施例において、従来技術(未処理)の難燃性試験結果を示す写真である。
【図7A】実施例1および比較例1の難燃性試験結果を示す写真である。
【図7B】実施例1の要部拡大写真である。
【図7C】比較例1の要部拡大写真である。
【図8A】実施例において、水洗処理の方法を示す写真である。
【図9A】実施例2の難燃性試験結果を示す写真である。
【図10A】実施例3の難燃性試験結果を示す写真である。
【図10B】実施例3の要部拡大写真である。
【図11A】実施例5の難燃性試験結果を示す写真である。
【図11B】実施例5の要部拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。
図1は、本発明の難燃性有機多孔質複合体の基本的構成を示す概念図である。図示するように本難燃性有機多孔質複合体1は、繊維がほぐれた状態の木質材料2と、木質材料2中に含有される難燃性薬剤3とからなるものであることを、主たる構成とする。木質材料2としては特に、樹皮を好適に用いることができる。しかしながら、樹皮以外の木質材料を用いてもよい。たとえば、木製ペレット、木製チップ、チップダスト、木製パーティクルなどでもよい。
【0019】
また、難燃性薬剤3としては特に、水溶性の薬剤を用いるものとすることができる。それにより、アルコール系の薬剤に比べて、コストを低減できる。
特に、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩を好適に用いることができる。しかしながら、リン酸塩以外の難燃性薬剤を、単独で、あるいはリン酸塩も含めた適宜の組合せによる混合物として用いてもよい。たとえば、臭素化合物、アンチモン化合物、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)、硫酸塩(硫酸アンモニウム、硫酸カリウムなど)、ホウ酸などホウ素系の化合物など、従来公知のものを適宜用いることができる。
【0020】
本発明の難燃性有機多孔質複合体1においては、特に、これを用いて防草資材等の難燃性有機多孔質構造体を形成する際に機能せしめるためのバインダーを添加したり、担持したり、混合しておく必要はない。つまり本難燃性有機多孔質複合体1は、何らのバインダーを用いることなく構成することができる。これは、追って述べるように、繊維がほぐれた状態の木質材料2からなる本複合体1を敷設する際に、転圧処理など上方から適宜の方法にて圧力をかけるだけで繊維同士の絡み合いが生じ、一定の固形化がなされて、構造体を形成できるからである。もちろん適宜のバインダーを用いてもよく、この場合も本願発明の範囲内である。なお、本願において「固形化」とは、供用可能な状態の防草資材において形成されている程度の状態をいう。
【0021】
本発明の難燃性有機多孔質複合体1はかかる構成であるため、防草資材等の難燃性有機多孔質構造体を形成するにあたり、バインダーを用いることなく、しかも乾燥状態のままの処理で充分な飛散抵抗性を確保することができ、追って述べる難燃性付与における処理工程の単純さも相俟って、低コストで高い性能を実現することができる。さらに、形成される構造体の飛散を有効に防止できるため、たとえば防草用資材としての敷設状態が安定的に維持され、維持管理コスト低減にもつながる。
【0022】
また、難燃性有機多孔質複合体1は、木質材料2の繊維がほぐれた状態であって内部の多孔質構造部が開放されている構造である。したがって、難燃性薬剤3も木質材料2の表面部のみならず内部までも浸透した状態で存在するため、従来技術よりも難燃性を長期的に保持することが可能となる。たとえば防草用資材としては、火災防止効果が持続し、信頼性を高めることができ、景観性等の保持効果の長期化も得られる。
【0023】
図2は、本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の構成を示すフロー図である。図示するように本法は、木質材料10を解繊処理する解繊工程P1と、解繊した木質材料15に難燃性薬剤20を浸透させる含浸工程P3とを備えることを、基本的な構成とする。
【0024】
かかる構成により、解繊工程P1において木質材料10が解繊処理されて、解繊した木質材料15が得られ、含浸工程P3において解繊した木質材料15に難燃性薬剤20が浸透せしめられ、最終的に、木質材料10に難燃性薬剤20が浸透した難燃性有機多孔質複合体30が得られる。
【0025】
木質材料10としては上述のとおり、樹皮を好適に用いることができるが、解繊工程P1においてこれに解繊処理を施すことで、樹皮内部の空隙(多孔質構造部)が開放された木質材料15となるため、含浸工程P3において難燃性薬剤20が浸透しやすくなる。なお、樹皮以外の木質材料においても、作用は同様である。
【0026】
図3は、本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の別の構成を示すフロー図である。図示するように本法は、図2に示したフロー中の含浸工程P3の前に、解繊工程P1によって開放された木質材料15の多孔質構造部を減圧状態とするための減圧工程P2が設けられた構成である。
【0027】
かかる構成により、解繊工程P1において木質材料10が解繊処理されて解繊した木質材料15が得られた後、減圧工程P2における減圧処理によって、木質材料15の多孔質構造部が減圧状態とされ、内部が減圧状態の木質材料18となる。ついで含浸工程P3において、内部が減圧状態の木質材料18の空隙内に難燃性薬剤20が容易に浸透せしめられ、最終的に、木質材料10に難燃性薬剤20が浸透した難燃性有機多孔質複合体40が得られる。
【0028】
減圧工程P2の具体的な構成は適宜であるが、たとえば、解繊工程P1によって解繊した木質材料15を加熱処理し、かつ含浸工程P3における浸透が充分になされる程度に加熱処理による熱を保持する工程とすることで、充分な効果を得ることができる。かかる工程とすれば、これに要する処理は実際上適宜の方法による加熱処理だけであり、簡便な方法によって、減圧工程P2を構成することができる。
【0029】
減圧工程P2においては特に、木質材料10の含水率が5重量%以下となる程度に加熱処理をすることによって、その後の含浸工程P3における難燃性薬剤20の良好な浸透を得ることができる。
【0030】
図4は、本発明に係る難燃性有機多孔質構造体の製造方法例を示すフロー図である。また、図5は、図4の難燃性有機多孔質構造体の原料に解繊処理を施した状態を示す顕微鏡写真である。図示するように、原料の木質材料である樹皮100を解繊工程P10において解繊処理して内部の多孔質構造部を開放し(解繊した木質材料150)、ついでこれに、加熱乾燥工程P20において、好ましくは含水率を5重量%以下とし得る程度の加熱乾燥処理を施すことによって、内部の多孔質構造部が減圧状態の木質材料180とする。
【0031】
そして、樹皮が熱を保持している間に含浸工程P30に供する。すなわち、減圧状態の樹皮180をリン酸アンモニウム等の難燃性薬剤200に浸して、撹拌混合する。このとき、空隙(多孔質構造部)は加熱で減圧状態となっているため、難燃性薬剤200は容易に空隙内に浸透し、難燃性薬剤200が均一性高く分布した難燃性有機多孔質複合体250となる。
【0032】
その後の乾燥工程P40を経て、防草資材として用いる場合にも敷設作業性が良好な難燃性有機多孔質複合体製品300を得ることができる。この製品は解繊処理がなされているため、繊維同士が絡み合う効果(絡み合い効果)によって、飛散防止性(飛散抵抗性)が向上する。つまり、バインダー・植生糊等を加えなくても、本製品・難燃性有機多孔質構造体300を敷設基盤上に敷設して、その上でローラーによる転圧処理等を行う(敷設工程P50)だけで、ほどかれた樹皮の繊維同士が絡み合った状態で固定化され、飛散抵抗性の高い難燃性有機多孔質構造体500を得ることができる。さらに難燃性薬剤は、解繊処理された樹皮の内部にまで浸透して担持されるため、難燃性効果(火災防止効果)は長期的に保持される。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
<実施例 バークを用いた難燃性有機多孔質複合体の難燃性試験>
<1 材料と試験方法>
難燃性有機多孔質複合体の原料には、下記のバークを用いた。
樹種:スギ
生産地:岩手県北地域
【0034】
また、バークは解繊処理してウッドウール(解繊樹皮)とした。解繊処理は、ハンマーによる打壊式の粉砕機(ヤマモト機械製作所製)を用いて行った。
【0035】
ウッドウールの難燃性薬剤処理は、次のようにして行った。
ウッドウール33gを、恒温器で、まず2時間50℃強制乾燥した。その後、1時間80℃強制乾燥した。その結果、ウッドウールの含水率は3%(重量%。以下も同じ。)となった。2段階での強制乾燥処理終了後、ウッドウールが熱を保持している間に、ウッドウールと水溶性難燃性薬剤を混合し、撹拌した。水溶性難燃性薬剤としては、リン酸アンモニウム溶液100gを用いた。その後、恒温器の温度設定を切った状態として、庫内温度が室温程度となるまで放置した。この間、恒温器内部の温度変化は、80℃ → 25℃であった。
【0036】
<2 実施例1、比較例1>
難燃性処理済みのウッドウール(以下、単に「処理済みウッドウール」ともいう。)について、その難燃性を評価するために、次のようにして着火試験を行った。
処理済みウッドウール(実施例1)と、難燃性処理を行わない同量のウッドウール(比較例1)とを、それぞれを金属製バットに敷き詰め、微風状態の屋外で、火のついた標準サイズの紙巻き煙草を各ウッドウールの上に載せた。煙草は約10分間燃焼させ、各ウッドウールの焼損状態を観察した。
【0037】
なお、実施例1および比較例1とは別に、解繊処理を行わない従来技術について、難燃性処理を行ったものと行わないものとについても、着火試験を行ったので、まずその結果を示す。
図6A、6Bはこれら従来技術の難燃性試験結果を示す写真であり、前者は難燃処理品(解繊処理なし)の難燃性試験結果、後者は未処理品の難燃性試験結果を、それぞれ示す。なお、前者図6Aに示すのは、難燃処理直後の試験結果である。図示するように、難燃性処理を行ったものでは、煙草からの延焼はさほど大きくなかったものの、若干の延焼は避けられなかった。しかし、後述する水洗処理を1回行っただけで難燃性の効果はほとんど消失してしまったため、その後の試験は中止した。つまり、本発明においてなされるような解繊処理が施されない従来技術のままの製品では、充分に長期的な難燃性保持効果を得られないことを再確認できた。
【0038】
図7Aは、実施例1(右)、および比較例1(左)の難燃性試験結果を示す写真である。また、図7Bは実施例1の要部拡大写真、図7Cは比較例1の要部拡大写真である。これらに図示するように、比較例1においてはウッドウールは、煙草から着火して、延焼した。一方、実施例1の処理済みウッドウールは、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0039】
<3 水洗処理>
防草資材が使用される降水のある野外環境を模すために、各ウッドウールに水を散水した後の難燃性について、試験した。試験方法は次のとおりである。
着火試験終了後の処理済ウッドウールに水を散水した。これを2日間自然乾燥した。ついで、恒温器で1時間80℃強制乾燥し、その後、室内に放置し、気乾状態とした。
なお図8Aは、水洗処理の方法を示す写真である。
【0040】
<4 実施例2>
実施例1の着火試験後、1回目の水洗処理を行って、これを実施例2とした。実施例1から5日後に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。
図9Aは、実施例2の難燃性試験結果を示す写真である。図示するように、実施例1と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0041】
<5 実施例3>
実施例2の着火試験後、2回目の水洗処理を行って、これを実施例3とした。実施例1から12日後(実施例2から7日後)に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。
図10Aは、実施例3の難燃性試験結果を示す写真、また、図10Bはその要部拡大写真である。これらに図示するように、実施例1、2と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0042】
<6 実施例4>
実施例3の着火試験後、3回目の水洗処理を行って、これを実施例4とした。実施例1から48日後(実施例3から36日後)に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。実施例1、2および3と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった(図示せず)。
【0043】
<7 実施例5>
実施例4の着火試験後、4回目の水洗処理を行って、これを実施例5とした。実施例1から117日後(実施例4から69日後)に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。
図11Aは、実施例5の難燃性試験結果を示す写真、また、図11Bはその要部拡大写真である。これらに図示するように、実施例1〜4と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0044】
<8 まとめ>
以上の試験の結果、本発明の難燃性有機多孔質複合体(処理済みウッドウール)は、水洗処理を4回行ってもその難燃性を低下させることなく、初期状態で保持できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の難燃性有機多孔質複合体およびその製造方法によれば、単純な処理によって従来よりも難燃性を長期的に保持できるため、火災防止効果が持続し、信頼性の高い防草用資材等を提供できる。また、構造体の飛散を有効に防止できるため、防草用資材を敷設時のままで安定的に維持でき、維持管理コストも低減できる。また、天然材料を利用できることによる景観性やイメージの良さも長期的に保持できる。
【0046】
本発明による防草資材には、大きく2つの利用分野がある。まず、土木防草用である。道路維持部門では、除草はコスト高であり、かつ危険作業であるという問題があった。しかし本発明による防草資材を用いることで、特に除草困難箇所や景観重視箇所においてメリットが大きく、利用性が高い。
【0047】
次に、園芸用の防草資材である。公共施設、事業所においても、また一般家庭においても、設備・構造物の素材としては天然素材への関心・需要が高まる傾向である。本発明による防草資材は、上述のとおり天然素材を用いて、かつその景観性やイメージを長期的に保持できるため、従来製品との差別化が可能である。
【0048】
なおまた本発明によれば、CO2削減効果も得られるとともに、木材加工業者の夏期における新たな収益源を提供でき、木材の全量利用を可能として、木材加工業のコスト改善に結びつき、我が国林業振興にも資する。したがって、産業上利用価値の高い発明である。
【符号の説明】
【0049】
1、30、40…難燃性有機多孔質複合体
15…解繊した木質材料
18…内部が減圧状態の木質材料
2、10…木質材料
3、20…難燃性薬剤
P1…解繊工程
P2…減圧工程
P3…含浸工程
【0050】
100…木質材料
150…解繊した木質材料
180…内部が減圧状態の木質材料
200…難燃性薬剤
250…均一化された難燃性有機多孔質複合体
300…難燃性有機多孔質複合体(製品)
500…難燃性有機多孔質構造体
P10…解繊工程
P20…加熱乾燥工程
P30…含浸工程
P40…乾燥工程
P50…敷設工程
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性有機多孔質複合体およびその製造方法に係り、特に、樹皮に難燃性を付与して、煙草の投げ捨てなどでも火災を起こすことのない、屋外敷設用の防草用資材として用いることのできる、新規な難燃性有機多孔質複合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等に敷設して用いる防草用資材(マルチング材)については従来、さまざまな技術的提案がなされている。たとえば後掲特許文献1は、防草用資材に用いるバーク材の飛散防止、施工の容易化ならびに難燃性保持効果の長期化を目的として、バーク材を破砕し敷設して土壌表面を被覆し、敷き均しを行った後、上方からリン酸アンモニウム塩類水溶液、リン酸エステル類および樹脂水性エマルジョン(バインダー)を成分とする所定配合の難燃性樹脂液を散布し、固定化するという方法を開示している。
【0003】
また、特許文献2は、火災発生防止および降雨等による流失の少ないマルチング材の提供を目的として、木材樹皮(バーク)を粉砕したものに、繊維表面の付着水分が抜けた時に粘着力を発揮する植生糊として水性エマルジョンと、難燃剤としてリン酸液等とを混入して混合し、繊維表面のリグニン、カルシウム分と化合・固定化させるマルチング材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−261149号公報「難燃性処理を施した防草材及び防火・防草工法」
【特許文献2】特開平8−89097号公報「難燃性マルチング材」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、難燃性保持効果を目指しつつも各特許文献開示技術ではいずれも、難燃性薬剤はバーク材の表面に付着するに留まり、長期的な難燃性の保持は困難である。つまり、特許文献1開示技術では、難燃性薬剤はバーク材の上方から散布されるため、風によって難燃性薬剤が飛散したり、降雨によって洗い流されるため、難燃性はさほど保持されず、効果がすぐに低下する。また、難燃性薬剤が散布されたバーク材自体も、構造上、飛散しやすい。
【0006】
また特許文献2開示技術では、難燃性薬剤は敷設前にバーク材・バインダーと混合される構成だが、かかる構成であってもバーク材自体の風による飛散は発生しやすいし、また薬剤は内部が開放されていないバーク材の外表面に付着するのみであるため、降雨によって洗い流され、やはり効果はすぐに低下する。
【0007】
したがって本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を除き、従来よりも難燃性を長期的に保持できるとともに、高い飛散防止性も備えた難燃性有機多孔質複合体、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した結果、樹皮を解繊処理、加熱処理した後に難燃性薬剤を含浸させることによって上記課題が解決可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下のとおりである。
【0009】
(1) 繊維がほぐれた状態の木質材料と、該木質材料中に含有される難燃性薬剤とからなる、難燃性有機多孔質複合体。
(2) 前記木質材料は樹皮であることを特徴とする、(1)に記載の難燃性有機多孔質複合体。
(3) 前記難燃性薬剤は水溶性であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の難燃性有機多孔質複合体。
(4) 難燃性有機多孔質構造体形成用のバインダーが用いられていないことを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体。
【0010】
(5) (1)ないし(4)のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体が固形化処理されてなる難燃性有機多孔質構造体。
(6) 木質材料の繊維が絡み合っている状態であることを特徴とする、(5)に記載の難燃性有機多孔質構造体。
(7) 木質材料を解繊処理する解繊工程と、解繊した木質材料に難燃性薬剤を浸透させる含浸工程とを備えることにより、該難燃性薬剤が浸透した複合体を得る、難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【0011】
(8) 前記含浸工程の前に、前記解繊工程によって開放された前記木質材料の多孔質構造部を減圧状態とする減圧工程が設けられることを特徴とする、(7)に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
(9) 前記減圧工程は、前記解繊工程によって解繊した木質材料を加熱処理し、かつ前記含浸工程における浸透が充分になされる程度に該加熱処理による熱を保持する工程であることを特徴とする、(8)に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
(10) 前記減圧工程においては、前記木質材料の含水率が5重量%以下となる程度に前記加熱処理がなされることを特徴とする、(9)に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性有機多孔質複合体、およびその製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、単純な処理によって、従来よりも難燃性を長期的に保持することが可能となる。したがって、たとえば煙草の投げ捨て等がなされた場合であっても火災が発生しない防草用資材として、火災防止効果が持続し、信頼性の高い製品を提供することができる。
【0013】
また本発明によれば、構造体の飛散を有効に防止することができる。したがって、たとえば防草用資材として屋外への敷設状態が敷設時のままで安定的に維持されるため、安心して使用継続することができ、維持管理コストも低減することができる。
【0014】
また本発明によれば、植生糊(バインダー)を用いることなく、しかも乾燥状態のままの処理で充分な飛散抵抗性を確保することができるため、難燃性付与における処理工程の単純さも相俟って、低コストで高い性能を実現することができる。したがって、優れた防草用資材を提供することができる。なお、天然材料を利用できることによる景観性やイメージの良さはいうまでもないが、本発明による難燃性保持効果の高さは、これら景観性等の保持効果の長期化ももたらすものである。
【0015】
また、樹皮の利用は従来、冬期間における燃料利用用途が主であったが、本発明による樹皮を用いた難燃性有機多孔質構造体・防草用資材は、その有用性の高さから、相当程度の商業的成功が予測できるため、木材加工業者にとっては、夏期における新たな収益源として期待することができる。
【0016】
なおまた、樹皮等木質材料を用いる本発明は、未利用植物バイオマスを有効利用することと、これ以外にはバインダーなどの炭素材料を使用しないことから、CO2削減効果も得ることができる。そして本発明は、木材を全量利用する方法でもあるため、木材加工業のコスト改善に結びつき、我が国林業振興の一助ともなる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の難燃性有機多孔質複合体の基本的構成を示す概念図である。
【図2】本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の構成を示すフロー図である。
【図3】本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の別の構成を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る難燃性有機多孔質構造体の製造方法例を示すフロー図である。
【図5】図4の難燃性有機多孔質構造体の原料に解繊処理を施した状態を示す顕微鏡写真である。
【図6A】実施例において、従来技術(難燃処理品)の難燃性試験結果を示す写真である。
【図6B】実施例において、従来技術(未処理)の難燃性試験結果を示す写真である。
【図7A】実施例1および比較例1の難燃性試験結果を示す写真である。
【図7B】実施例1の要部拡大写真である。
【図7C】比較例1の要部拡大写真である。
【図8A】実施例において、水洗処理の方法を示す写真である。
【図9A】実施例2の難燃性試験結果を示す写真である。
【図10A】実施例3の難燃性試験結果を示す写真である。
【図10B】実施例3の要部拡大写真である。
【図11A】実施例5の難燃性試験結果を示す写真である。
【図11B】実施例5の要部拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。
図1は、本発明の難燃性有機多孔質複合体の基本的構成を示す概念図である。図示するように本難燃性有機多孔質複合体1は、繊維がほぐれた状態の木質材料2と、木質材料2中に含有される難燃性薬剤3とからなるものであることを、主たる構成とする。木質材料2としては特に、樹皮を好適に用いることができる。しかしながら、樹皮以外の木質材料を用いてもよい。たとえば、木製ペレット、木製チップ、チップダスト、木製パーティクルなどでもよい。
【0019】
また、難燃性薬剤3としては特に、水溶性の薬剤を用いるものとすることができる。それにより、アルコール系の薬剤に比べて、コストを低減できる。
特に、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩を好適に用いることができる。しかしながら、リン酸塩以外の難燃性薬剤を、単独で、あるいはリン酸塩も含めた適宜の組合せによる混合物として用いてもよい。たとえば、臭素化合物、アンチモン化合物、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)、硫酸塩(硫酸アンモニウム、硫酸カリウムなど)、ホウ酸などホウ素系の化合物など、従来公知のものを適宜用いることができる。
【0020】
本発明の難燃性有機多孔質複合体1においては、特に、これを用いて防草資材等の難燃性有機多孔質構造体を形成する際に機能せしめるためのバインダーを添加したり、担持したり、混合しておく必要はない。つまり本難燃性有機多孔質複合体1は、何らのバインダーを用いることなく構成することができる。これは、追って述べるように、繊維がほぐれた状態の木質材料2からなる本複合体1を敷設する際に、転圧処理など上方から適宜の方法にて圧力をかけるだけで繊維同士の絡み合いが生じ、一定の固形化がなされて、構造体を形成できるからである。もちろん適宜のバインダーを用いてもよく、この場合も本願発明の範囲内である。なお、本願において「固形化」とは、供用可能な状態の防草資材において形成されている程度の状態をいう。
【0021】
本発明の難燃性有機多孔質複合体1はかかる構成であるため、防草資材等の難燃性有機多孔質構造体を形成するにあたり、バインダーを用いることなく、しかも乾燥状態のままの処理で充分な飛散抵抗性を確保することができ、追って述べる難燃性付与における処理工程の単純さも相俟って、低コストで高い性能を実現することができる。さらに、形成される構造体の飛散を有効に防止できるため、たとえば防草用資材としての敷設状態が安定的に維持され、維持管理コスト低減にもつながる。
【0022】
また、難燃性有機多孔質複合体1は、木質材料2の繊維がほぐれた状態であって内部の多孔質構造部が開放されている構造である。したがって、難燃性薬剤3も木質材料2の表面部のみならず内部までも浸透した状態で存在するため、従来技術よりも難燃性を長期的に保持することが可能となる。たとえば防草用資材としては、火災防止効果が持続し、信頼性を高めることができ、景観性等の保持効果の長期化も得られる。
【0023】
図2は、本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の構成を示すフロー図である。図示するように本法は、木質材料10を解繊処理する解繊工程P1と、解繊した木質材料15に難燃性薬剤20を浸透させる含浸工程P3とを備えることを、基本的な構成とする。
【0024】
かかる構成により、解繊工程P1において木質材料10が解繊処理されて、解繊した木質材料15が得られ、含浸工程P3において解繊した木質材料15に難燃性薬剤20が浸透せしめられ、最終的に、木質材料10に難燃性薬剤20が浸透した難燃性有機多孔質複合体30が得られる。
【0025】
木質材料10としては上述のとおり、樹皮を好適に用いることができるが、解繊工程P1においてこれに解繊処理を施すことで、樹皮内部の空隙(多孔質構造部)が開放された木質材料15となるため、含浸工程P3において難燃性薬剤20が浸透しやすくなる。なお、樹皮以外の木質材料においても、作用は同様である。
【0026】
図3は、本発明難燃性有機多孔質複合体の製造方法の別の構成を示すフロー図である。図示するように本法は、図2に示したフロー中の含浸工程P3の前に、解繊工程P1によって開放された木質材料15の多孔質構造部を減圧状態とするための減圧工程P2が設けられた構成である。
【0027】
かかる構成により、解繊工程P1において木質材料10が解繊処理されて解繊した木質材料15が得られた後、減圧工程P2における減圧処理によって、木質材料15の多孔質構造部が減圧状態とされ、内部が減圧状態の木質材料18となる。ついで含浸工程P3において、内部が減圧状態の木質材料18の空隙内に難燃性薬剤20が容易に浸透せしめられ、最終的に、木質材料10に難燃性薬剤20が浸透した難燃性有機多孔質複合体40が得られる。
【0028】
減圧工程P2の具体的な構成は適宜であるが、たとえば、解繊工程P1によって解繊した木質材料15を加熱処理し、かつ含浸工程P3における浸透が充分になされる程度に加熱処理による熱を保持する工程とすることで、充分な効果を得ることができる。かかる工程とすれば、これに要する処理は実際上適宜の方法による加熱処理だけであり、簡便な方法によって、減圧工程P2を構成することができる。
【0029】
減圧工程P2においては特に、木質材料10の含水率が5重量%以下となる程度に加熱処理をすることによって、その後の含浸工程P3における難燃性薬剤20の良好な浸透を得ることができる。
【0030】
図4は、本発明に係る難燃性有機多孔質構造体の製造方法例を示すフロー図である。また、図5は、図4の難燃性有機多孔質構造体の原料に解繊処理を施した状態を示す顕微鏡写真である。図示するように、原料の木質材料である樹皮100を解繊工程P10において解繊処理して内部の多孔質構造部を開放し(解繊した木質材料150)、ついでこれに、加熱乾燥工程P20において、好ましくは含水率を5重量%以下とし得る程度の加熱乾燥処理を施すことによって、内部の多孔質構造部が減圧状態の木質材料180とする。
【0031】
そして、樹皮が熱を保持している間に含浸工程P30に供する。すなわち、減圧状態の樹皮180をリン酸アンモニウム等の難燃性薬剤200に浸して、撹拌混合する。このとき、空隙(多孔質構造部)は加熱で減圧状態となっているため、難燃性薬剤200は容易に空隙内に浸透し、難燃性薬剤200が均一性高く分布した難燃性有機多孔質複合体250となる。
【0032】
その後の乾燥工程P40を経て、防草資材として用いる場合にも敷設作業性が良好な難燃性有機多孔質複合体製品300を得ることができる。この製品は解繊処理がなされているため、繊維同士が絡み合う効果(絡み合い効果)によって、飛散防止性(飛散抵抗性)が向上する。つまり、バインダー・植生糊等を加えなくても、本製品・難燃性有機多孔質構造体300を敷設基盤上に敷設して、その上でローラーによる転圧処理等を行う(敷設工程P50)だけで、ほどかれた樹皮の繊維同士が絡み合った状態で固定化され、飛散抵抗性の高い難燃性有機多孔質構造体500を得ることができる。さらに難燃性薬剤は、解繊処理された樹皮の内部にまで浸透して担持されるため、難燃性効果(火災防止効果)は長期的に保持される。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
<実施例 バークを用いた難燃性有機多孔質複合体の難燃性試験>
<1 材料と試験方法>
難燃性有機多孔質複合体の原料には、下記のバークを用いた。
樹種:スギ
生産地:岩手県北地域
【0034】
また、バークは解繊処理してウッドウール(解繊樹皮)とした。解繊処理は、ハンマーによる打壊式の粉砕機(ヤマモト機械製作所製)を用いて行った。
【0035】
ウッドウールの難燃性薬剤処理は、次のようにして行った。
ウッドウール33gを、恒温器で、まず2時間50℃強制乾燥した。その後、1時間80℃強制乾燥した。その結果、ウッドウールの含水率は3%(重量%。以下も同じ。)となった。2段階での強制乾燥処理終了後、ウッドウールが熱を保持している間に、ウッドウールと水溶性難燃性薬剤を混合し、撹拌した。水溶性難燃性薬剤としては、リン酸アンモニウム溶液100gを用いた。その後、恒温器の温度設定を切った状態として、庫内温度が室温程度となるまで放置した。この間、恒温器内部の温度変化は、80℃ → 25℃であった。
【0036】
<2 実施例1、比較例1>
難燃性処理済みのウッドウール(以下、単に「処理済みウッドウール」ともいう。)について、その難燃性を評価するために、次のようにして着火試験を行った。
処理済みウッドウール(実施例1)と、難燃性処理を行わない同量のウッドウール(比較例1)とを、それぞれを金属製バットに敷き詰め、微風状態の屋外で、火のついた標準サイズの紙巻き煙草を各ウッドウールの上に載せた。煙草は約10分間燃焼させ、各ウッドウールの焼損状態を観察した。
【0037】
なお、実施例1および比較例1とは別に、解繊処理を行わない従来技術について、難燃性処理を行ったものと行わないものとについても、着火試験を行ったので、まずその結果を示す。
図6A、6Bはこれら従来技術の難燃性試験結果を示す写真であり、前者は難燃処理品(解繊処理なし)の難燃性試験結果、後者は未処理品の難燃性試験結果を、それぞれ示す。なお、前者図6Aに示すのは、難燃処理直後の試験結果である。図示するように、難燃性処理を行ったものでは、煙草からの延焼はさほど大きくなかったものの、若干の延焼は避けられなかった。しかし、後述する水洗処理を1回行っただけで難燃性の効果はほとんど消失してしまったため、その後の試験は中止した。つまり、本発明においてなされるような解繊処理が施されない従来技術のままの製品では、充分に長期的な難燃性保持効果を得られないことを再確認できた。
【0038】
図7Aは、実施例1(右)、および比較例1(左)の難燃性試験結果を示す写真である。また、図7Bは実施例1の要部拡大写真、図7Cは比較例1の要部拡大写真である。これらに図示するように、比較例1においてはウッドウールは、煙草から着火して、延焼した。一方、実施例1の処理済みウッドウールは、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0039】
<3 水洗処理>
防草資材が使用される降水のある野外環境を模すために、各ウッドウールに水を散水した後の難燃性について、試験した。試験方法は次のとおりである。
着火試験終了後の処理済ウッドウールに水を散水した。これを2日間自然乾燥した。ついで、恒温器で1時間80℃強制乾燥し、その後、室内に放置し、気乾状態とした。
なお図8Aは、水洗処理の方法を示す写真である。
【0040】
<4 実施例2>
実施例1の着火試験後、1回目の水洗処理を行って、これを実施例2とした。実施例1から5日後に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。
図9Aは、実施例2の難燃性試験結果を示す写真である。図示するように、実施例1と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0041】
<5 実施例3>
実施例2の着火試験後、2回目の水洗処理を行って、これを実施例3とした。実施例1から12日後(実施例2から7日後)に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。
図10Aは、実施例3の難燃性試験結果を示す写真、また、図10Bはその要部拡大写真である。これらに図示するように、実施例1、2と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0042】
<6 実施例4>
実施例3の着火試験後、3回目の水洗処理を行って、これを実施例4とした。実施例1から48日後(実施例3から36日後)に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。実施例1、2および3と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった(図示せず)。
【0043】
<7 実施例5>
実施例4の着火試験後、4回目の水洗処理を行って、これを実施例5とした。実施例1から117日後(実施例4から69日後)に、同様の手法で着火試験を行った。屋外で実施し、無風状態であった。
図11Aは、実施例5の難燃性試験結果を示す写真、また、図11Bはその要部拡大写真である。これらに図示するように、実施例1〜4と同様、煙草との接触部が焦げたのみで、延焼は発生しなかった。
【0044】
<8 まとめ>
以上の試験の結果、本発明の難燃性有機多孔質複合体(処理済みウッドウール)は、水洗処理を4回行ってもその難燃性を低下させることなく、初期状態で保持できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の難燃性有機多孔質複合体およびその製造方法によれば、単純な処理によって従来よりも難燃性を長期的に保持できるため、火災防止効果が持続し、信頼性の高い防草用資材等を提供できる。また、構造体の飛散を有効に防止できるため、防草用資材を敷設時のままで安定的に維持でき、維持管理コストも低減できる。また、天然材料を利用できることによる景観性やイメージの良さも長期的に保持できる。
【0046】
本発明による防草資材には、大きく2つの利用分野がある。まず、土木防草用である。道路維持部門では、除草はコスト高であり、かつ危険作業であるという問題があった。しかし本発明による防草資材を用いることで、特に除草困難箇所や景観重視箇所においてメリットが大きく、利用性が高い。
【0047】
次に、園芸用の防草資材である。公共施設、事業所においても、また一般家庭においても、設備・構造物の素材としては天然素材への関心・需要が高まる傾向である。本発明による防草資材は、上述のとおり天然素材を用いて、かつその景観性やイメージを長期的に保持できるため、従来製品との差別化が可能である。
【0048】
なおまた本発明によれば、CO2削減効果も得られるとともに、木材加工業者の夏期における新たな収益源を提供でき、木材の全量利用を可能として、木材加工業のコスト改善に結びつき、我が国林業振興にも資する。したがって、産業上利用価値の高い発明である。
【符号の説明】
【0049】
1、30、40…難燃性有機多孔質複合体
15…解繊した木質材料
18…内部が減圧状態の木質材料
2、10…木質材料
3、20…難燃性薬剤
P1…解繊工程
P2…減圧工程
P3…含浸工程
【0050】
100…木質材料
150…解繊した木質材料
180…内部が減圧状態の木質材料
200…難燃性薬剤
250…均一化された難燃性有機多孔質複合体
300…難燃性有機多孔質複合体(製品)
500…難燃性有機多孔質構造体
P10…解繊工程
P20…加熱乾燥工程
P30…含浸工程
P40…乾燥工程
P50…敷設工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維がほぐれた状態の木質材料と、該木質材料中に含有される難燃性薬剤とからなる、難燃性有機多孔質複合体。
【請求項2】
前記木質材料は樹皮であることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性有機多孔質複合体。
【請求項3】
前記難燃性薬剤は水溶性であることを特徴とする、請求項1または2に記載の難燃性有機多孔質複合体。
【請求項4】
難燃性有機多孔質構造体形成用のバインダーが用いられていないことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体が固形化処理されてなる難燃性有機多孔質構造体。
【請求項6】
木質材料の繊維が絡み合っている状態であることを特徴とする、請求項5に記載の難燃性有機多孔質構造体。
【請求項7】
木質材料を解繊処理する解繊工程と、解繊した木質材料に難燃性薬剤を浸透させる含浸工程とを備えることにより、該難燃性薬剤が浸透した複合体を得る、難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項8】
前記含浸工程の前に、前記解繊工程によって開放された前記木質材料の多孔質構造部を減圧状態とする減圧工程が設けられることを特徴とする、請求項7に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項9】
前記減圧工程は、前記解繊工程によって解繊した木質材料を加熱処理し、かつ前記含浸工程における浸透が充分になされる程度に該加熱処理による熱を保持する工程であることを特徴とする、請求項8に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項10】
前記減圧工程においては、前記木質材料の含水率が5重量%以下となる程度に前記加熱処理がなされることを特徴とする、請求項9に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項1】
繊維がほぐれた状態の木質材料と、該木質材料中に含有される難燃性薬剤とからなる、難燃性有機多孔質複合体。
【請求項2】
前記木質材料は樹皮であることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性有機多孔質複合体。
【請求項3】
前記難燃性薬剤は水溶性であることを特徴とする、請求項1または2に記載の難燃性有機多孔質複合体。
【請求項4】
難燃性有機多孔質構造体形成用のバインダーが用いられていないことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の難燃性有機多孔質複合体が固形化処理されてなる難燃性有機多孔質構造体。
【請求項6】
木質材料の繊維が絡み合っている状態であることを特徴とする、請求項5に記載の難燃性有機多孔質構造体。
【請求項7】
木質材料を解繊処理する解繊工程と、解繊した木質材料に難燃性薬剤を浸透させる含浸工程とを備えることにより、該難燃性薬剤が浸透した複合体を得る、難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項8】
前記含浸工程の前に、前記解繊工程によって開放された前記木質材料の多孔質構造部を減圧状態とする減圧工程が設けられることを特徴とする、請求項7に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項9】
前記減圧工程は、前記解繊工程によって解繊した木質材料を加熱処理し、かつ前記含浸工程における浸透が充分になされる程度に該加熱処理による熱を保持する工程であることを特徴とする、請求項8に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【請求項10】
前記減圧工程においては、前記木質材料の含水率が5重量%以下となる程度に前記加熱処理がなされることを特徴とする、請求項9に記載の難燃性有機多孔質複合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図9A】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図9A】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【公開番号】特開2012−80801(P2012−80801A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228055(P2010−228055)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【出願人】(597054024)葛巻林業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【出願人】(597054024)葛巻林業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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