説明

難燃性樹脂組成物、これを用いた絶縁電線、シース及びケーブル

【課題】優れた機械的特性及び難燃性を両立させながら絶縁層やシースのシームにおける割れの発生を十分に抑制できる難燃性樹脂組成物等を提供すること。
【解決手段】チューブラー法で製造されると共に、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.5(g/10min)以下であるアクリレート系ポリマーを50質量%以上含むベース樹脂と、ベース樹脂100質量部に対して5〜150質量部の割合で配合される金属水酸化物と、ベース樹脂100質量部に対して1〜20質量部の割合で配合されるシリコーン系化合物と、を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、これを用いた絶縁電線、シース及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル組成物は電気絶縁性が良く、優れた難燃性、機械特性を有していることから電線被覆、チューブ、テープ、包装材、建材等に広く使用されているが、近年では環境や人体への影響の懸念から、安定剤として鉛を使用しない非鉛ポリ塩化ビニル樹脂が主流となりつつある。
【0003】
上記非鉛ポリ塩化ビニル樹脂は、分子構造中に塩素原子を含有し、燃焼時に有毒、有害な塩素ガスを発生する。そのため、より安全性の高い、いわゆるエコマテリアルを使用した塩化ビニル電線代替品が検討されている。
【0004】
このようなエコマテリアルとして、ポリオレフィン樹脂をベースに、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物粒子からなる難燃剤、および、ガム状シリコーンオイルなどのシリコーン系化合物からなる難燃助剤を添加してなるものが知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3193017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、絶縁電線は、難燃性組成物を押出機で溶融してクロスヘッドから押し出し、クロスヘッドを通過する導体上に被覆して絶縁層を形成することにより製造される。ここで、クロスヘッドには、押出機の吐出口に連通する円筒状空間が形成されており、難燃性樹脂組成物は押出機の吐出口から円筒状空間に注入されると、円筒状空間全体に行き渡る。このとき、樹脂組成物は吐出口から離れた位置で合流しチューブ状の押出物が形成され、このチューブ状の押出物が導体を被覆する。
【0007】
ここで、チューブ状の押出物を形成するにあたり、樹脂組成物が合流する部分には通常、継ぎ目(シーム)は発生しない。
【0008】
しかし、本発明者らは、難燃性樹脂組成物中におけるベース樹脂に対してシリコーン系化合物を配合し、その配合割合が多くなると、得られる絶縁層にシームが発生してこのシームに割れが生じることがあることを見出した。このようにシームに割れが生じると、絶縁電線として使用できなくなるため、絶縁電線の製造歩留まりが低下してしまう。従って、絶縁電線の絶縁層においては、このようなシームにおける割れの発生を抑制することが望まれる。このようなシームにおける割れの発生の抑制は、絶縁電線のシースに上記難燃性樹脂組成物を使用した場合にも同様に望まれるものである。
【0009】
また難燃性樹脂組成物には一般に、優れた機械的特性及び難燃性を両立した絶縁電線を製造できることも要求される。しかしながら、上記特許文献1に記載の難燃性樹脂組成物には、難燃性の点で未だ改良の余地があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた機械的特性及び難燃性を両立させながら絶縁層やシースのシームにおける割れの発生を十分に抑制できる難燃性樹脂組成物、これを用いた絶縁電線、シース及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ベース樹脂中にチューブラー法で製造されたアクリレート系ポリマーを配合させ、そのアクリレート系ポリマーのMFR(メルトフローレート)を特定の範囲にするとともに、ベース樹脂に対するシリコーン系化合物の配合割合を特定の範囲とすることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち本発明は、チューブラー法により製造されると共に、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.5(g/10min)以下であるアクリレート系ポリマーを50質量%以上含むベース樹脂と、前記ベース樹脂100質量部に対して5〜150質量部の割合で配合される金属水酸化物粒子と、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜20質量部の割合で配合されるシリコーン系化合物と、を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0013】
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた機械的特性及び難燃性を両立させながら絶縁層やシースのシームにおける割れの発生を十分に抑制できる。
【0014】
なお、本発明者らは、本発明の難燃性樹脂組成物において、より優れた難燃性が得られる理由については以下のように推察している。
【0015】
即ち、まずシリコーン系化合物を難燃助剤として使用する場合の難燃性を発現するメカニズムは次の通りであると考えられている。即ち、燃焼試験において難燃性樹脂組成物に着火させると火種部分が炭化して炭化物(チャー)からなる殻が形成される。このような殻が形成されると、殻の内部に溶融している樹脂に対して酸素が供給されにくくなるため、樹脂が燃焼しにくくなり、消火される。従来は、着火を確認してもなお火炎を当て続けることで、殻の内部で溶融されている樹脂が急激に発泡すると、殻が内側から押し上げられて亀裂が生じ、そこから酸素が供給されて難燃性が損なわれることがあった。本発明の難燃性樹脂組成物によれば、アクリレート系ポリマーのMFRを上記のように低い値とすることで、燃焼試験時における溶融樹脂の発泡の速度が低下して、殻に亀裂が発生しにくくなり、これにより、優れた難燃性が得られているのではないかと推察している。
【0016】
また本発明者らは、シームにおいて割れの発生が抑制される理由については以下のように推察している。
【0017】
即ち、ベース樹脂に対するシリコーン系化合物の配合量が多くなると、難燃性樹脂組成物を押出成形して得られるチューブ状の押出物のシームにおいてシリコーン系化合物が偏在する傾向があることが本発明者らの研究により明らかとなった。このことから、シームの部分が脆くなり、割れが生じやすくなったものと考えられる。そこで、ベース樹脂に対するシリコーン系化合物の配合量を少なくしたところ、シリコーン系化合物の偏在が認められなかったことから、シームの部分の脆さが解消され、これにより、割れの発生が抑制されたものと本発明者らは推察している。
【0018】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを備えており、前記絶縁層が、上記難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とする絶縁電線である。上記絶縁層は、上記難燃性樹脂組成物を架橋処理してなるものであってもよい。
【0019】
また本発明は、上記難燃性樹脂組成物を備えることを特徴とするシースであってもよい。
【0020】
さらに本発明は、導体及び前記導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースとを備え、前記絶縁層及び前記シースの少なくとも一方が上記難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とするケーブルであってもよい。ここで、絶縁層及びシースの少なくとも一方が上記難燃性樹脂組成物を架橋処理してなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた機械的特性及び難燃性を両立させながら絶縁層やシースのシームにおける割れの発生を十分に抑制できる難燃性樹脂組成物、これを用いた絶縁電線、シース及びケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のケーブルの一実施形態を示す部分側面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1を用いて詳細に説明する。
【0024】
[ケーブル]
図1は、本発明に係るケーブルの一実施形態を示す部分側面図であり、屋内配線用平形ケーブルを示すものである。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図1に示すように、平形ケーブル10は、2本の絶縁電線4と、2本の絶縁電線4を被覆するシース3とを備えている。そして、絶縁電線4は、内部導体1と、内部導体1を被覆する絶縁層2とを有している。
【0025】
ここで、この難燃性樹脂組成物は、チューブラー法により製造されると共に、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.5(g/10min)以下であるアクリレート系ポリマーを50質量%以上含むベース樹脂と、ベース樹脂100質量部に対して5〜150質量部の割合で配合される金属水酸化物粒子と、ベース樹脂100質量部に対して1〜20質量部の割合で配合されるシリコーン系化合物と、を含有している。
【0026】
[ケーブルの製造方法]
次に、上述した平形ケーブル10の製造方法について説明する。
【0027】
(導体)
まず内部導体1を準備する。内部導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、内部導体1は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0028】
(難燃性樹脂組成物)
一方、上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、チューブラー法により製造されると共に、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.5(g/10min)以下であるアクリレート系ポリマーを50質量%以上含むベース樹脂と、ベース樹脂100質量部に対して5〜150質量部の割合で配合される金属水酸化物粒子と、ベース樹脂100質量部に対して1〜20質量部の割合で配合されるシリコーン系化合物とを含有する。
【0029】
(ベース樹脂)
ベース樹脂は、上述したように、チューブラー法により製造されると共に、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.5(g/10min)以下であるアクリレート系ポリマーを50質量%以上含むものであれば、上記アクリレート系ポリマーと他のポリマーとの混合物であってもよく、上記アクリレート系ポリマーのみで構成されてもよい。なお、アクリレート系ポリマーのMFRが0.5(g/10min)より大きくなると、難燃性が顕著に低下する。またアクリレート系ポリマーのMFRが0.5(g/10min)以下であっても、ベース樹脂中のアクリレート系ポリマーの含有率が50質量%未満になると、難燃性が顕著に低下する。
【0030】
アクリレート系ポリマーのMFRは好ましくは0.4(g/10min)以下であり、より好ましくは0.35(g/10min)以下である。但し、MFRは低すぎると押出加工性が低下するという理由から、0.2(g/10min)以上であることが好ましく、0.25(g/10min)以上であることがより好ましい。
【0031】
アクリレート系ポリマーの製造方法には、オートクレーブ法、チューブラー法等があるが、製法によって得られるポリマーの分岐構造や分子量分布、官能基分布が異なることが知られている。それによって同組成のポリマーであっても物性は大きく異なる場合がある。具体的には、オートクレーブ法で作製したアクリレート系ポリマーを用いて製造された絶縁電線は、不十分な難燃性を示すのに対し、チューブラー法で作製したアクリレート系ポリマーを用いて製造された絶縁電線は、優れた難燃性を持つことができる。そこで、本発明では、アクリレート系ポリマーとして、チューブラー法を用いて製造されたものが用いられる。
【0032】
アクリレート系ポリマーとしては、オレフィンとアクリレートとの共重合体などを用いることができる。アクリレート系ポリマーとして、オレフィンとアクリレートとの共重合体が用いられる場合、オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられ、アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどが挙げられる。さらに具体的に述べると、アクリレート系ポリマーとして、例えばエチレン−エチルアクリレート(以下、「EEA」と呼ぶ)、エチレン−メチルアクリレート(EMA)、エチレン−メチルメタクリレート(EMMA)、エチレン−ブチルアクリレート(EBA)などが用いられる。これらアクリレート系ポリマーは単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0033】
ベース樹脂がアクリレート系ポリマーと他のポリマーとの混合物である場合、他のポリマーとしては、例えばエチレン−酢酸ビニル(以下、「EVA」と呼ぶ)、エチレンプロピレンゴム(以下、「EPR」と呼ぶ)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、エチレンプロピレン系共重合体等のオレフィン系エラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、部分水添スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(部分水添SEBS)、スチレン・(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー、及びこれらの酸変性物等が挙げられる。
【0034】
ベース樹脂中のアクリレート系ポリマーの含有率は、好ましくは60〜100質量%であり、より好ましくは60〜80質量%である。
【0035】
なお、アクリレート系ポリマーのMFRは、所望のMFRを有する各種市販品を購入する他、例えばアクリレート系ポリマーとジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物を溶融混合した後、有機過酸化物の臨界温度以上の加熱処理によってラジカルを発生させ、微架橋処理を施すことによって調整することができる。
【0036】
(金属水酸化物粒子)
金属水酸化物粒子は金属水酸化物で構成されている。金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどが例示できる。中でも、水酸化マグネシウムが好ましい。これは、内部導体1を被覆する際の押出加工性や難燃性を向上させることができるためである。
【0037】
金属水酸化物粒子は、ベース樹脂100質量部に対して5〜150質量部の割合で含まれており、30〜100質量部の割合で含まれていることが好ましく、30〜80質量部の割合で含まれていることがより好ましい。金属水酸化物粒子の割合が150質量部を超えると機械的特性が低下し、金属水酸化物粒子の割合が5質量部未満であると、難燃性が低下する。またリサイクル性の点からは、金属水酸化物の添加量を50質量部以下程度とすることが好ましい。金属水酸化物の添加量を50質量部以下程度とすることで、樹脂組成物の比重が1.15以下程度となり、架橋ポリエチレン(比重0.9)、ポリ塩化ビニル(比重1.4程度)、従来のエコマテリアル(比重1.4程度)と比重分別することが可能となる。
【0038】
(シリコーン系化合物)
シリコーン系化合物は、難燃助剤として機能するものであり、ポリオルガノシロキサン(シリコーンパウダー、シリコーンガム、シリコーンレジン)などが挙げられる。ここで、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし側鎖に有機基を有するものであり、有機基としては、例えばメチル基、ビニル基、エチル基、プロピル基、フェニル基などが挙げられる。具体的にはポリオルガノシロキサンとしては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン、メチルオクチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0039】
シリコーン系化合物は、上述したようにベース樹脂100質量部に対して1〜20質量部の割合で含まれている。シリコーン系化合物が1質量部未満の割合で含まれていると、難燃性が低下する。一方、シリコーン系化合物が20質量部を超える割合で含まれていると、絶縁層2のシームにおいて割れが発生してしまい、絶縁電線4の製造歩留まりが大きく低下する。シリコーン系化合物は、ベース樹脂100質量部に対して1〜10質量部の割合で含まれていることが好ましく、2〜8質量部の割合で含まれていることがより好ましい。
【0040】
シリコーン系化合物は、金属水酸化物粒子の表面に予め付着させておいてもよい。この場合、難燃性樹脂組成物中に含まれる各金属水酸化物粒子の全体がシリコーン系化合物で被覆されていることが好ましい。
【0041】
金属水酸化物粒子の表面にシリコーン系化合物を付着させる方法としては、例えば金属水酸化物粒子にシリコーン系化合物を添加して混合し、混合物を得た後、この混合物を40〜75℃にて10〜40分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサ、アトマイザなどにより粉砕することによって得ることができる。
【0042】
上記難燃性樹脂組成物は、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、滑剤、カーボンブラック、架橋剤、架橋助剤などの充填剤を必要に応じて含んでもよい。
【0043】
上記難燃性樹脂組成物は必要に応じて上記ベース樹脂、金属水酸化物粒子の表面にシリコーン系化合物を予め付着させたもの等を混練することにより得ることができる。なお、シリコーン系化合物は、金属水酸化物粒子の表面にあらかじめ付着させず、混練時に添加されてもよい。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ミキシングロール等の混練機で行うことができる。
【0044】
次に、上記難燃性樹脂組成物で内部導体1を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練し、押出機の吐出口から、クロスヘッド中に形成された円筒状空間に注入し、円筒状空間内にチューブ状の押出物を形成する。そして、このチューブ状押出物を、クロスヘッドを通過する内部導体1上に連続的に被覆する。こうして絶縁電線4が得られる。
【0045】
(シース)
最後に、上記のようにして得られた絶縁電線4を2本用意し、これら絶縁電線4を、前記難燃性樹脂組成物を用いて作製したシース3で被覆する。シース3は、絶縁層を物理的又は化学的な損傷から保護するものである。
【0046】
以上のようにして平形ケーブル10が得られる。
【0047】
上述した平形ケーブル10の製造方法によれば、優れた機械的特性及び難燃性を両立させながら絶縁層2やシース3のシームにおける割れの発生を十分に抑制できる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では平形ケーブル10が2本の絶縁電線4を有しているが、平形ケーブル10は、絶縁電線4を1本のみ有していてもよく、3本以上有していてもよい。
【0049】
また上記実施形態では、絶縁電線4の絶縁層2、シース4が上記の難燃樹脂組成物で構成されているが、絶縁層2が通常の絶縁樹脂で構成され、シース3のみが、絶縁層2を構成する難燃性樹脂組成物で構成されてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜12及び比較例1〜15)
EVA、EPR、EEA1、EEA2、EEA3、EEA4、水酸化マグネシウム(以下、「水酸化マグネシウム」を「水酸化Mg」と呼ぶ)1、水酸化Mg2、水酸化Mg3及び水酸化Mg4を、表1及び表2に示す配合比で配合し、バンバリーミキサによって160℃にて15分間混練し、難燃性樹脂組成物を得た。なお、表1及び表2において、上記各配合成分の配合量の単位は質量部である。また水酸化Mg1、水酸化Mg2、水酸化Mg3及び水酸化Mg4の配合量は、表面処理されていない水酸化Mgとこの水酸化Mgを表面処理しているポリオルガノシロキサンとの合計量を示しており、括弧内には、表面処理されていない水酸化Mgの配合量と、この水酸化Mgを表面処理しているポリオルガノシロキサンの配合量を、(表面処理されていない水酸化Mgの配合量)/(ポリオルガノシロキサンの配合量)という形で示してある。ポリオルガノシロキサンの配合量は、表1及び表2に記載された水酸化Mg1〜4の配合量に、下記の表面処理率を乗じることによって算出したものである。
【0052】
上記EVA、EPR、EEA1、EEA2、EEA3、EEA4、水酸化Mg1、水酸化Mg2、水酸化Mg3及び水酸化Mg4としては具体的には以下の(1)〜(10)のものを用いた。
(1)EVA
EV460(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)
(2)EPR
EPT#3045(商品名、三井化学社製)
(3)EEA1
A−710(商品名、MFR:0.5g/10min、三井デュポンポリケミカル社製、オートクレーブ法)
(4)EEA2
エルバロイ2116AC低MFR品(商品名、MFR:0.3g/10min、デュポン社製、チューブラー法)
(5)EEA3
エルバロイ2116AC(商品名、MFR:0.9g/10min、デュポン社製、チューブラー法)
(6)EEA4
ZE708(商品名、MFR:0.5g/10min、宇部丸善ポリエチレン社製、チューブラー法)
(7)水酸化Mg1
ポリオルガノシロキサンで約6%表面処理した水酸化Mg(表面処理率6%、信越化学工業社製)
(8)水酸化Mg2
ポリオルガノシロキサンで約10%表面処理した水酸化Mg(表面処理率10%、信越化学工業社製)
(9)水酸化Mg3
ポリオルガノシロキサンで約3%表面処理した水酸化Mg(表面処理率3%、信越化学工業社製)
(10)水酸化Mg4
ポリオルガノシロキサンで約20%表面処理した水酸化Mg(表面処理率20%、信越化学工業社製)
【0053】
次いで、この難燃性樹脂組成物をバンバリーミキサによって160℃にて15分間混練した。その後、この難燃性樹脂組成物を、単軸押出機(L/D=20、スクリュー形状:フルフライトスクリュー、マース精機社製)に投入し、その押出機の吐出口からクロスヘッド中の円筒状空間に難燃性樹脂組成物を注入し、円筒状空間からチューブ状の押出物を押し出し、導体(素線数7本/素線径0.6mm)上に、厚さ0.8mmとなるように被覆した。こうして外径3.4mmの絶縁電線を得た。

【表1】


【表2】

【0054】
上記のようにして得られた実施例1〜12及び比較例1〜15の絶縁電線について、以下のようにして機械的特性及び難燃性の評価を行うとともに、以下のようにして絶縁層のシームにおける割れの発生の有無の評価を行った。
【0055】
(機械的特性)
機械的特性の評価は、実施例1〜12及び比較例1〜15の絶縁電線について、JIS規格C3005により引張試験を行った。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2においては、引張強度が10MPa以上のものは合格として「○」で表示し、10MPa未満のものは不合格として「×」と表示した。なお、引張試験において、引張速度は200mm/min、標線間距離は20mmとした。
【0056】
(難燃性)
実施例1〜12及び比較例1〜15の絶縁電線について、JIS K3005の60度傾斜燃焼試験を行い、難燃性を評価した。このとき、接炎時間を15秒としたときの難燃性をそれぞれ評価した。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2においては、各実施例及び比較例ごとに、10本の絶縁電線を用意して難燃性試験を行い、60秒以内に9〜10本消火した絶縁電線については合格として「○」と表示し、4〜8本消火した絶縁電線については不合格1として「△」と表示し、0〜3本消火した絶縁電線については不合格2として「×」と表示することとした。
【0057】
(シームにおける割れの発生の有無)
実施例1〜12及び比較例1〜15の絶縁電線について、シームを光学顕微鏡で観察し、シームにおける割れの発生の有無を調べた。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2において、シームに割れのある絶縁電線については合格として「○」と表示し、シームに割れのない絶縁電線については不合格として「×」と表示した。なお、実施例1〜12及び比較例1〜15の絶縁電線について、EPMAによる元素分析を行ったところ、シームにおける割れの発生が認められた比較例3の絶縁電線においては、シロキサン由来の元素、即ちSiがシームに偏在していたのに対し、シームにおける割れが発生が認められなかった実施例1〜12、比較例1、2及び比較例4〜15の絶縁電線においては、Siの偏在は認められなかった。
【0058】
表1及び表2に示す結果より、実施例1〜12の絶縁電線は、比較例1〜15の絶縁電線と比較して、優れた機械的特性及び難燃性を両立させるとともに、絶縁層のシームにおける割れの発生を十分に抑制できることが分かった。
【0059】
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた機械的特性及び難燃性を両立させながら絶縁層やシースのシームにおける割れの発生を十分に抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1…内部導体、2…絶縁層、3…シース、4…絶縁電線、10…平形ケーブル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブラー法で製造されると共に、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.5(g/10min)以下であるアクリレート系ポリマーを50質量%以上含むベース樹脂と、
前記ベース樹脂100質量部に対して5〜150質量部の割合で配合される金属水酸化物粒子と、
前記ベース樹脂100質量部に対して1〜20質量部の割合で配合されるシリコーン系化合物と、
を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
を備えており、
前記絶縁層が、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物で構成されること、
を特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
を備えており、
前記絶縁層が、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物を架橋処理してなること、
を特徴とする絶縁電線。
【請求項4】
請求項1に記載の難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とするシース。
【請求項5】
内部導体及び前記内部導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線を被覆するシースとを備え、
前記絶縁層及び前記シースの少なくとも一方が請求項1に記載の難燃性樹脂組成物で構成され、又は請求項1に記載の難燃性樹脂組成物を架橋処理してなるものであることを特徴とするケーブル。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−32368(P2011−32368A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180031(P2009−180031)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】