説明

難燃性樹脂組成物、その製造方法、及び成形品

【課題】優れた難燃性、力学特性、成形性を具備する、金属水酸化物の粒子とセルロース系樹脂を含む難燃性樹脂組成物、その製造方法、及び成形品を提供する。
【解決手段】セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と、難燃剤を含み、前記難燃剤は、難燃剤全体の40重量%〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60重量%〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性樹脂組成物、その製造方法、及び成形品に関し、特に、セルロース系樹脂を含む難燃性樹脂組成物、その製造方法、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形原料や押出成形原料等の溶融成形する原料として、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリスチレン樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の石油系樹脂が広く使用されている。
【0003】
石油系樹脂で製造された生活必需品や工業製品の廃棄物は、一部はリサイクルされるものの、多くが焼却や埋め立て等によって処分される。そのため地球環境問題(温暖化、石油枯渇等)への対応から、セルロース系樹脂がバイオマス樹脂として注目されている。
【0004】
セルロース系樹脂は、電気電子機器部品、筐体用材料等、様々の用途で使用されることが期待される。セルロース系樹脂を含む樹脂組成物がテレビやパソコン等のOA機器の外装材に用いられる場合、セルロース系樹脂を含む樹脂組成物には難燃性、力学特性、成形性が求められる。
【0005】
一般に、高分子材料である樹脂に難燃性を付与する方法として、高分子材料に難燃剤を添加することが行なわれている。難燃剤の代表的なものとして、ハロゲン系、リン系、無機粒子系がある。しかしハロゲン系難燃剤については、燃焼時のハロゲンガス、黒煙の発生、焼却時のダイオキシンの発生等、環境面での問題が多い。またリン系難燃剤については、ホスフィンガスの発生等、環境面での問題があり、さらに価格の高さ、原材料であるリン鉱石の供給懸念等の問題がある。
【0006】
これに対し、無機粒子系難燃剤の代表である金属水酸化物、例えば、水酸化マグネシウム粒子については、無害であり、環境面での問題が少ない。さらには安価、原料資源豊富といった特徴もあり、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤それぞれの問題を解決できる。
【0007】
特許文献1は、水酸化マグネシウム粒子からなる難燃剤について、水酸化マグネシウムに遷移金属化合物を100〜1000ppm含有させることにより、難燃性が高く、一酸化炭素発生量、発煙量の少ない水酸化マグネシウム粒子を開示する。
【0008】
特許文献2は、プロピレン−エチレンブロックコポリマー及びエチレン・酢酸ビニルコポリマー、並びに、水酸化マグネシウムで代表される金属水酸化物を含有する難燃性耐摩耗性樹脂組成物であって、さらにアミノ基を有するシランカップリング剤を含有することを開示する。
【0009】
特許文献3は、熱可塑性樹脂、ハロゲン系難燃剤、難燃助剤、シリコーン、水酸化マグネシウムよりなる難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、水酸化マグネシウムが粒径0.2μm〜6μmを有することを開示する。
【0010】
特許文献4は、有機化合物金属塩及び分散剤を溶解させた水溶液中に、マグネシウムの水和物からなり粒径1〜500nmの難燃性粒子の分散液を作製する工程と、該分散液に酸性水溶液を滴下して前記難燃性粒子表面に有機化合物を析出させて被覆層を形成する工程とを含む表面被覆難燃性粒子の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−119508号公報
【特許文献2】特開2000−086858号公報
【特許文献3】特開平10−204298号公報
【特許文献4】特開2006−232980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、セルロース系樹脂を成形品の材料として使用する場合、セルロース系樹脂には難燃性、力学特性、成形性が求められる。しかしながら、難燃性を付与するために水酸化マグネシウムを多量に添加すると、セルロース系樹脂の本質的な特性が低下するという問題がある。
【0013】
特許文献1の水酸化マグネシウム粒子は粒子径が0.5μm〜5μmであるため難燃化の効果が低い。また、セルロース系樹脂を含む樹脂組成物に求められる難燃性、力学特性、成形性について考慮されていない。
【0014】
特許文献2の水酸化マグネシウムはその粒径について開示していない。また、セルロース系樹脂を含む樹脂組成物に求められる難燃性、力学特性、成形性について考慮されていない。
【0015】
特許文献3の水酸化マグネシウム粒子は粒子径が0.2μm〜6μmであるため難燃化の効果が低い。特許文献3の難燃性熱可塑性樹脂は、環境・安全性に問題のあるハロゲン系難燃剤を含んでいる。
【0016】
特許文献4は、樹脂に関する規定がなく、高度な難燃化効果は期待できない。また、表面被覆材料に関する規定が具体的でなく、高度な難燃化効果は期待できない。
【0017】
この理由は以下のとおりである。すなわち、難燃剤による高度な難燃化効果は、難燃剤が樹脂中で凝集せずに分散していることで発現するため、粒子表面と樹脂との相性、親和性が重要な観点となる。しかし特許文献4は樹脂、粒子表面いずれについても材料に関する規定がなく、粒子表面と樹脂との相性、親和性の観点がないため、高度な難燃化効果は期待できない。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、優れた難燃性、力学特性、成形性を具備する、金属水酸化物の粒子とセルロース系樹脂を含む難燃性樹脂組成物、その製造方法、及び成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂に難燃剤として配合される金属水酸化物の粒子について鋭意研究をした。その結果、異なる粒子径を持ち、異なるシランカップリング処理された2種類の金属水酸化物の粒子が特定の重量配分で構成された難燃剤を、セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂に添加することで、難燃性、力学特性、成形性を満たす難燃性樹脂組成物を得られることを見出し、本発明に至った。
【0020】
本発明の一態様によると、難燃性樹脂組成物であって、セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と、難燃剤を含み、前記難燃剤は、難燃剤全体の40重量%〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60重量%〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成されることを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様では、難燃剤が、エポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾され、粒径100nm〜1000nmを有する第1の金属水酸化物の粒子を難燃剤全体の40重量%〜60重量%含み、アミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾され、粒径10nm〜50nmを有する第2の金属水酸化物の粒子を難燃剤全体の60重量%〜40重量%含む。その結果、セルロース系樹脂を含む難燃性樹脂組成物は優れた難燃性、力学特性、成形性を具備する。
【0022】
本発明の他の態様によると、好ましくは、前記難燃剤が難燃性樹脂組成物全体の5重量%〜30重量%の範囲で含まれる。
【0023】
本発明の他の態様によると、好ましくは、前記セルロース系樹脂が熱可塑性樹脂全体の50重量%以上含まれる。
【0024】
本発明の他の態様によると、好ましくは、前記第1の金属水酸化物及び前記第2の金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの何れかである。
【0025】
本発明の他の態様によると、好ましくは、前記第1の金属水酸化物の粒子が難燃剤全体の40重量%〜60重量%の範囲で存在し、粒径100nm〜500nmを有し、前記第2の金属水酸化物の粒子が難燃剤全体の60重量%〜40重量%の範囲で存在し、粒径10nm〜30nmを有する。
【0026】
本発明の他の態様によると、難燃性樹脂組成物の製造方法であって、セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と難燃剤を溶融混練する工程を少なくとも備え、前記難燃剤は、難燃剤全体の40重量%〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60重量%〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成される。
【0027】
本発明の他の態様によると、難燃性樹脂組成物の製造方法であって、セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と難燃剤の一部とを溶融混練する工程と、前記混練物に難燃剤の残り全てを添加する工程を備え、前記難燃剤は、難燃剤全体の40〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成される。
【0028】
本発明の他の態様によると、好ましくは、前記難燃剤が難燃性樹脂組成物全体の5重量%〜30重量%の範囲で配合される。
【0029】
本発明の他の態様によると、好ましくは、前記第1の金属水酸化物及び前記第2の金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの何れかである。
【0030】
本発明の他の態様によると、成形品は上記の何れかの難燃性樹脂組成物を溶融成形することにより作製される。
【0031】
なお、本発明では、粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子を樹脂との結合力の弱いアミノ系のシランカップリング剤により表面修飾したことで、難燃性樹脂組成物の溶融時に難燃性樹脂組成物が粘度上昇することを抑制することができるので、成形品の成形性が悪化してしまうのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の金属水酸化物の粒子とセルロース系樹脂を含有する難燃性樹脂組成物は、優れた難燃性、力学特性、成形性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱することなく、多くの手法により変更を行なうことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0034】
本実施の形態は、難燃性樹脂組成物であって、セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と、難燃剤を含み、前記難燃剤は、難燃剤全体の40重量%〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60重量%〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成されることを特徴とする。
【0035】
<熱可塑性樹脂>
(1)セルロース系樹脂
セルロース系樹脂は、セルロースに含まれるヒドロキシ基を他の官能基に変換した、セルロース誘導体からなる樹脂で定義される。セルロース系樹脂として、例えば、ジアセチルセルロース(DAC)やトリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を好ましく使用できる。
【0036】
(2)その他の樹脂
上述のセルロース系樹脂に加えて、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリオレフィン等の石油系樹脂を使用することができる。これらの石油系樹脂を使用する理由は、使用用途に応じて求められる力学特性、成形性を付与するためである。
【0037】
セルロース系樹脂は、好ましくは、熱可塑性樹脂全体の50重量%以上を占めることである。熱可塑性樹脂全体に対するセルロース系樹脂の比率を上げることで、熱可塑性樹脂全体として環境負荷を低減することができる。
【0038】
<難燃剤>
本実施の形態で使用される難燃剤は、異なる粒径を有し、異なるシランカップリング処理がなされた、少なくとも、2種類の金属水酸化物の粒子を含んでいる。
【0039】
第1の金属水酸化物の粒子は100nm〜1000nmの粒径を有し、その粒子表面がエポキシ系のシランカップリング剤によって修飾される。第2の金属水酸化物の粒子は10nm〜50nmの粒径を有し、その粒子表面がアミノ系のシランカップリング剤によって修飾される。
【0040】
そして、好ましくは、第1の金属水酸化物の粒子は100nm〜500nmの粒径を有し、その粒子表面がエポキシ系のシランカップリング剤によって修飾される。第2の金属水酸化物の粒子は10nm〜30nmの粒径を有し、その粒子表面がアミノ系のシランカップリング剤によって修飾される。
【0041】
なおここで示す粒径とは、日機装株式会社のMICROTRAC UPA(動的光散乱法)で測定された、体積平均粒径である。
【0042】
シランカップリング剤は、一般式R−Si(OR′)と表される。R′はメチル基またはエチル基等である。(OR′)を加水分解、脱水縮合させることにより、シランカップリング剤は水酸化マグネシウム粒子の表面と化学結合する。
【0043】
エポキシ系のシランカップリング剤は、一般式中のRで示される官能基として、エポキシ基を有する。エポキシ系のシランカップリング剤として、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を、好ましく使用できる。エポキシ基とセルロース系樹脂が化学結合を形成する。
【0044】
アミノ系のシランカップリング剤は、一般式中のRで示される官能基として、アミノ基を有する。アミノ系のシランカップリング剤として、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を、好ましく使用できる。アミノ基とセルロース系樹脂が化学結合を形成する。
【0045】
エポキシ系のシランカップリング剤は、アミノ系のシランカップリング剤に比較して、セルロース系樹脂との結合力が強い。
【0046】
本実施の形態では、粒径の大きい第1の金属水酸化物の粒子がエポキシ系のシランカップリング剤で表面処理され、粒径の小さい第2の金属水酸化物の粒子がアミノ系のシランカップリング剤で表面処理される。
【0047】
第1の金属水酸化物の粒子が難燃剤全体の40重量%〜60重量%の範囲を占め、第2の金属水酸化物の粒子が難燃剤全体の60重量%〜40重量%の範囲を占める。
【0048】
これは樹脂の難燃性の向上とともに、力学特性と成形性のバランスを取るためである。粒径の小さい粒子は難燃化効果が高いものの、樹脂中で凝集しやすい。樹脂中で凝集してしまうと難燃性は向上せず、強度の低下を引き起こす。このため粒径の小さい粒子と大きい粒子をそれぞれ使用することとし、このうち粒径の大きい粒子については、セルロース系樹脂と共有結合を形成するエポキシ系シランカップリング剤で表面処理することにより、樹脂中での凝集を防ぐ。
【0049】
一方、粒径の小さい粒子についてもセルロース系樹脂と共有結合を形成するエポキシ系シランカップリング剤で表面処理してしまうと、溶融時の粘度が上昇して成形性が悪化してしまう。本発明では、粒径の小さい粒子を親和性はあるが共有結合は形成しない結合力の弱いアミノ系シランカップリング剤により表面修飾したことで、難燃性樹脂組成物の溶融時に難燃性樹脂組成物が粘度上昇することを抑制することができるので、成形品の成形性が悪化してしまうのを抑制することができる。
【0050】
金属水酸化物の粒子の製造方法として、以下の方法を採用することができる。例えば、金属塩の水溶液と水酸化物塩の水溶液を混合し、金属水酸化物粒子を析出する。金属水酸化物粒子を水熱反応で結晶化し、その後、シランカップリング剤で表面処理する。
【0051】
金属水酸化物粒子を析出する場合、例えば、特許4339163号に記載されたマイクロデバイスを用いて混合・析出することができる。
【0052】
ここで、本発明では、金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの何れかであることが好ましい。なお、金属水酸化物は、樹脂が燃焼しても燃焼しないこと、樹脂の燃焼温度付近では分解して吸熱すること、そして分解して熱容量の大きな水分子を放出することにより、樹脂の燃焼を阻害する。以下に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの熱分解温度と吸熱量を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
金属水酸化物粒子は、樹脂が燃焼してもそれ自体は燃焼しないこと、樹脂の燃焼温度付近で分解して吸熱すること、そして分解して熱容量の大きな水分子を放出することにより、樹脂の燃焼を阻害する。
【0055】
理想的な難燃剤の熱分解温度は、樹脂成形時の加工温度と樹脂燃焼時の分解温度の間である。なお、樹脂の成形時の温度は概ね200〜300℃程度であり、樹脂の燃焼時の温度は350〜550℃である。したがって、金属水酸化物粒子のうち吸熱量はやや小さいが、水酸化マグネシウムが難燃剤として理想的である。
【0056】
なお、ここで、上述した難燃剤は難燃性樹脂組成物全体の5重量%〜30重量%の範囲で配合されることが好ましい。
【0057】
また、本実施の形態の難燃性樹脂組成物に、上述した熱可塑性樹脂、及び難燃剤に加えて、各種の添加剤を必要に応じ添加することができる。例えば、添加剤としては、着色剤、可塑剤、酸化防止剤等を添加することができる。
【0058】
<難燃性樹脂組成物の製造方法>
上述したセルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と難燃剤を、例えば、二軸混練押出機で溶融混練することにより、製造することができる。また、上述したセルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂を二軸混練押出機で溶融混練し、その後上述の難燃剤を添加することができる。さらに、上述したセルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と上述の難燃剤を二軸混練押出機で溶融混練し、その後更に上述の難燃剤を添加することもできる。
【0059】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0060】
表2は実施例1〜12と比較例1〜10の処方を示す。表2の処方に基づき水酸化マグネシウム粒子A、水酸化マグネシウム粒子Bを準備した。エポキシ系のシランカップリング剤としてKBM−403(信越化学工業)を、アミノ系のシランカップリング剤としてKBE−903(信越化学工業)を使用した。ビニル系のシランカップリング剤としてKBE−1003(信越化学工業)を使用した。エポキシ系のシランカップリング剤を水酸化マグネシウム粒子Aの重量に対し1重量%添加し、アミノ系のシランカップリング剤を水酸化マグネシウム粒子Bの重量に対し1重量%添加した。
【0061】
熱可塑性樹脂として、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とポリカーボネート(PC)のペレットを準備した。CAPとPCの重量比を1:1とした。
【0062】
表2にしたがい、水酸化マグネシウム粒子A、水酸化マグネシウム粒子B、熱可塑性樹脂を、混練機を用いて230℃で5分間混練した。次いで230℃、0.2MPaで射出成形して、燃焼試験、力学試験用の試験片を得た。
【0063】
【表2】

【0064】
次に、このように作製した試験片に対して、以下の試験を行なった。
【0065】
(1)燃焼試験
UL燃焼試験法のUL94 V−0、V−1、V−2規格に基づいて試験を行った。
【0066】
(2)力学試験
下記JIS規格に基づいて試験を行った。
曲げ弾性率:JIS K7171
試験機:株式会社島津製作所 AUTOGRAPH AGS
曲げ最大強度:JIS K7171
試験機:株式会社島津製作所 AUTOGRAPH AGS
シャルピー衝撃強度:JIS K7111
試験機:株式会社東洋精機製作所 IMPACT TESTER
(3)成形性
シャルピー衝撃強度試験用の試験片の作製において、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの形状に成形できるかどうかで評価した。成形できたものを○、成形できなかったものを×で表3に記載した。
【0067】
表3は、実施例1〜12と比較例1〜10について、燃焼試験、力学試験、成形性の結果を示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3によれば、実施例1〜12の難燃性樹脂組成物の難燃剤は、エポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの水酸化マグネシウム粒子Aを難燃剤全体の40重量%〜60重量%含み、アミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの水酸化マグネシウム粒子Bを難燃剤全体の60重量%〜40重量%含む。その結果、燃焼試験、力学試験、成形性の各試験について良好な結果が得られた。
【0070】
一方、比較例1について、粒径の小さい水酸化マグネシウム粒子Aの量が少なかった。その結果、難燃効果が低かった。
【0071】
比較例2について、粒径の小さい水酸化マグネシウム粒子Aの量が多かった。その結果、流動性が低く成形性が悪かった。
【0072】
比較例3について、粒径の小さい水酸化マグネシウム粒子Aの量が少なかった。その結果、難燃効果が低かった。
【0073】
比較例4について、粒径の小さい水酸化マグネシウム粒子Aの量が多かった。その結果、流動性が低く成形性が悪かった。
【0074】
比較例5について、水酸化マグネシウム粒子Aは粒径が5nmであった。その結果、流動性が低く成形性が悪かった。
【0075】
比較例6について、水酸化マグネシウム粒子Aは粒径が75nmであった。その結果、難燃効果が低かった。
【0076】
比較例7について、水酸化マグネシウム粒子Bは粒径が50nmであった。その結果、流動性が低く成形性が悪かった。
【0077】
比較例8について、水酸化マグネシウム粒子Bは粒径が1500nmであった。その結果、脆くなりシャルピー衝撃強度が低かった。
【0078】
比較例9について、水酸化マグネシウム粒子Bはビニル系のシランカップリング剤で表面処理されていた。従って、熱可塑性樹脂との親和性がなく凝集した。その結果、脆くなりシャルピー衝撃強度が低かった。
【0079】
比較例10について、水酸化マグネシウム粒子Aはビニル系のシランカップリング剤で表面処理されていた。従って、熱可塑性樹脂との親和性がなく凝集した。その結果、難燃効果が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と、難燃剤を含み、
前記難燃剤は、難燃剤全体の40重量%〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60重量%〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成されることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の難燃性樹脂組成物であって、前記難燃剤が難燃性樹脂組成物全体の5重量%〜30重量%の範囲で含まれる難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物であって、前記セルロース系樹脂が熱可塑性樹脂全体の50重量%以上含まれる難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1に記載の難燃性樹脂組成物であって、前記第1の金属水酸化物の粒子が難燃剤全体の40重量%〜60重量%の範囲で存在し、粒径100nm〜500nmを有し、
前記第2の金属水酸化物の粒子が難燃剤全体の60重量%〜40重量%の範囲で存在し、粒径10nm〜30nmを有する難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1に記載の難燃性樹脂組成物であって、前記第1の金属水酸化物及び前記第2の金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの何れかである難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と難燃剤を溶融混練する工程を少なくとも備え、
前記難燃剤は、難燃剤全体の40重量%〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60重量%〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成されることを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
セルロース系樹脂を含む熱可塑性樹脂と難燃剤の一部とを溶融混練する工程と、
前記混練物に難燃剤の残り全てを添加する工程を備え、
前記難燃剤は、難燃剤全体の40〜60重量%がエポキシ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径100nm〜1000nmの第1の金属水酸化物の粒子で構成され、難燃剤全体の60〜40重量%がアミノ系のシランカップリング剤によって粒子表面が修飾された粒径10nm〜50nmの第2の金属水酸化物の粒子で構成されることを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の難燃性樹脂組成物の製造方法であって、前記難燃剤が難燃性樹脂組成物全体の5重量%〜30重量%の範囲で配合される難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか1に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法であって、前記第1の金属水酸化物及び前記第2の金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムの何れかである難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか1に記載の難燃性樹脂組成物を溶融成形により成形した成形品。

【公開番号】特開2012−207105(P2012−207105A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73115(P2011−73115)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】