説明

難燃性樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、成形品

【課題】有害物質発生の原因となるハロゲン化合物を全く含有しないで難燃性を確保しつつ、樹脂本来の特性を高く維持することができる難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】難燃性樹脂組成物に関する。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方からなる樹脂100質量部に対し、下記式(1)で示されるシクロホスファゼン化合物を0.1〜200質量部配合する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板を製造したり半導体素子を封止したりするのに用いられる難燃性樹脂組成物、また、この難燃性樹脂組成物を用いて製造することができるプリプレグ及び樹脂シート、さらに、プリント配線板等の成形品や半導体素子を封止して得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板等の成形品や半導体素子を封止して得られる成形品については、安全性を確保するため、難燃化が必要とされる。この難燃化は、ハロゲン化合物を含有する樹脂組成物を用いることによって達成することができるが、近年においては、これら樹脂組成物でなる成形品は焼却時に有害なダイオキシン類が発生する点が問題視されている。
【0003】
そこで、ハロゲン化合物を全く用いず、その代わり、窒素やリンを主体とする化合物を難燃剤として樹脂組成物に配合することによって、難燃化が図られている(例えば、特許文献1−3参照。)。
【特許文献1】特開平10−259292号公報
【特許文献2】特開平11−181429号公報
【特許文献3】特開2002−114981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1−3に記載された難燃剤を含有する樹脂組成物は相溶系であるため、成形後において、上記難燃剤で樹脂本来の特性が損なわれる場合がある。具体的には、上記難燃剤の使用により、樹脂のガラス転移温度(Tg)が低下し、成形品の耐熱性が損なわれる場合がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有害物質発生の原因となるハロゲン化合物を全く含有しないで難燃性を確保しつつ、樹脂本来の特性を高く維持することができる難燃性樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る難燃性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方からなる樹脂100質量部に対し、下記式(1)で示されるシクロホスファゼン化合物を0.1〜200質量部配合して成ることを特徴とするものである。
【0007】
【化1】

【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、無機充填剤を含有して成ることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、エポキシ樹脂、ラジカル重合性樹脂、ポリイミド樹脂、これらの変性樹脂の群からなる熱硬化性樹脂と、ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フェノキシ樹脂、これらの変性樹脂の群からなる熱可塑性樹脂との中から選ばれる樹脂を1種又は2種以上用いて成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4に係るプリプレグは、請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物をガラス基材又は有機繊維基材に含浸、乾燥させて成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5に係る樹脂シートは、請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を金属箔又はフィルムの表面に塗工、乾燥させて成ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項6に係る成形品は、請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に係る難燃性樹脂組成物によれば、有害物質発生の原因となるハロゲン化合物を全く含有することなく、所定のシクロホスファゼン化合物で難燃性を確保しつつ、樹脂本来の特性を高く維持することができるものである。
【0014】
請求項2の発明によれば、成形品の強度を向上させたり、難燃性をさらに向上させたりすることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、その他の樹脂を用いるよりもTgを高めて耐熱性を高く得ることができるものである。
【0016】
本発明の請求項4に係るプリプレグによれば、有害物質発生の原因となるハロゲン化合物を全く含有することなく、所定のシクロホスファゼン化合物で難燃性を確保しつつ、樹脂本来の特性を高く維持することができるものである。
【0017】
本発明の請求項5に係る樹脂シートによれば、有害物質発生の原因となるハロゲン化合物を全く含有することなく、所定のシクロホスファゼン化合物で難燃性を確保しつつ、樹脂本来の特性を高く維持することができるものである。
【0018】
本発明の請求項6に係る成形品によれば、有害物質発生の原因となるハロゲン化合物を全く含有することなく、所定のシクロホスファゼン化合物で難燃性を確保しつつ、樹脂本来の特性を高く維持することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方からなる樹脂100質量部に対し、下記式(1)で示されるシクロホスファゼン化合物(以下適宜「式(1)のシクロホスファゼン化合物」という。)を0.1〜200質量部配合することによって、製造することができる。本発明においては、式(1)のシクロホスファゼン化合物を難燃剤として用いるものであるが、この式(1)のシクロホスファゼン化合物としては、上述した特許文献3(特開2002−114981号公報)に記載されている方法で合成したものを用いることができる。樹脂100質量部に対し、式(1)のシクロホスファゼン化合物が0.1質量部より少ないと、難燃性を十分に確保することができず、逆に200質量部より多いと、樹脂量が相対的に不足して成形加工できなくなるものである。なお、式(1)のシクロホスファゼン化合物による効果を損なわない限り、水酸化アルミニウムや二酸化ケイ素(SiO)等を難燃剤として併用してもよい。
【0021】
【化2】

【0022】
シアノフェノキシ基とは、下記式(2)で示される官能基をいい、フェノキシ基とは、下記式(3)で示される官能基をいう。式(1)のシクロホスファゼン化合物におけるシアノフェノキシ基の割合が、2%より少なくても、逆に98%より多くても、高い難燃性とガラス転移温度(Tg)を両立させることができないものである。
【0023】
【化3】

【0024】
ここで、式(1)のシクロホスファゼン化合物の具体例を挙げると下記のとおりである。
【0025】
【化4】

【0026】
シアノフェノキシ基の割合は、式(1)のシクロホスファゼン化合物を合成する際に仕込んだシアノフェノール及びフェノールのモル数を下記式に代入することによって算出することができる。
【0027】
シアノフェノキシ基の割合(%)=(シアノフェノールのモル数)/(シアノフェノールのモル数+フェノールのモル数)×100
ちなみに、下記式(8)で示されるシクロホスファゼン化合物においては、フェノキシ基が存在せず、P原子に結合しているのはN原子を除きシアノフェノキシ基のみであるため、シアノフェノキシ基の割合は100%となる。よって、既述のとおり、難燃性を十分に確保することができないものである。
【0028】
【化5】

【0029】
熱硬化性樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、多官能エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールA(Bis−A)型エポキシ樹脂、トリアリルイソシアヌレート樹脂(TAIC)、ビスマレイミド樹脂等を用いることができる。Tgを高めて耐熱性をより高く得るには、エポキシ樹脂、ラジカル重合性樹脂、ポリイミド樹脂、これらの変性樹脂の群の中から1種又は2種以上を選んで用いるのが好ましい。エポキシ樹脂の具体例としては、トリフェニルメタン型等の多官能エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールA(Bis−A)型エポキシ樹脂等を挙げることができ、ラジカル重合性樹脂の具体例としては、上記エポキシ樹脂のメタクリレート化物やアクリレート化物、アクリル酸エステル、トリアリルイソシアヌレート樹脂(TAIC)等を挙げることができ、ポリイミド樹脂の具体例としては、ビスマレイミド樹脂等を挙げることができる。
【0030】
熱可塑性樹脂としては、例えば、OH変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、フェノキシ樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリイミド樹脂、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(SPS)等を用いることができる。Tgを高めて耐熱性をより高く得るには、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、フェノキシ樹脂、これらの変性樹脂の群の中から1種又は2種以上を選んで用いるのが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)の変性樹脂の具体例としては、OH変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)等を挙げることができる。
【0031】
本発明に係る難燃性樹脂組成物には、硬化剤・触媒を配合するようにしてもよい。硬化剤・触媒としては、例えば、ジシアンジアミド(DICY)、フェノールノボラック、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、トリフェニルホスフィン等を用いることができる。
【0032】
本発明に係る難燃性樹脂組成物には、成形品の強度の向上や難燃性のさらなる向上のため、無機充填剤が含有されていてもよい。無機充填剤としては、例えば、チタニア(TiO)や炭酸カルシウム(CaCO)等を用いることができる。このような無機充填剤は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方からなる樹脂100質量部に対し、0.1〜200質量部配合することができる。本発明に係る難燃性樹脂組成物には、無機充填剤のほか、末端カルボキシル基変性の液状ポリブタジエンゴムである宇部興産(株)製「CTBN」、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のカップリング剤、カルナバワックス等の離型剤等が含有されていてもよい。
【0033】
そして、既述の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方からなる樹脂100質量部に対し、式(1)のシクロホスファゼン化合物を0.1〜200質量部配合し、必要に応じて無機充填剤等を配合することによって、本発明に係る難燃性樹脂組成物を製造することができる。
【0034】
本発明に係るプリプレグは、次のようにして製造することができる。まず、上記の難燃性樹脂組成物をジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン等の溶剤に溶解させることによってワニスを調製する。次に、このようにして得たワニスをガラス基材又はアラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリル繊維等の有機繊維基材に含浸させた後、これを半硬化のBステージ状態になるまで乾燥させることによって、本発明に係るプリプレグを製造することができる。このようにして得たプリプレグは、プリント配線板の材料として用いることができる。
【0035】
本発明に係る樹脂シートは、次のようにして製造することができる。すなわち、上記と同様にして得たワニスを金属箔又はフィルムの表面に塗工した後、これを半硬化のBステージ状態になるまで乾燥させることによって製造することができる。このようにして得た樹脂シートも、プリント配線板の材料として用いることができる。本発明に係る樹脂シートは、ワニスを金属箔に塗工する場合には金属箔付き樹脂シートとして得られるものであり、また、ワニスをフィルムに塗工する場合にはフィルム付き樹脂シートとして得られるものである。ここで、上記の金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等を用いることができ、また、上記のフィルムとしては、例えば、フッ素樹脂フィルム、PETフィルム等を用いることができる。
【0036】
本発明に係る成形品は、上記の難燃性樹脂組成物を成形して得ることができる。例えば、上記の難燃性樹脂組成物を封止材料として用い、これにより半導体素子を封止成形することによって、成形品として半導体装置を得ることができる。
【0037】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は相溶系ではなく非相溶系であるため、成形後において、式(1)のシクロホスファゼン化合物で樹脂本来の特性が損なわれるようなことがない。具体的には、式(1)のシクロホスファゼン化合物の使用により、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のTgの低下を防止することができ、これら難燃性樹脂組成物で成形された成形品の耐熱性を高く得ることができるものである。また、上記成形品にはハロゲン化合物が全く含有されていないので、焼却されてもダイオキシン類等の有害物質の発生はあり得ず、無害化を図ることができるものである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0039】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂として、OH変性PPE−1、OH変性PPE−2、フェノキシ樹脂(InChem製「PKFE」)、PES(住友化学工業(株)製「ポリエーテルサルホン 5003P」)、PPE(日本G.E.プラスチック(株)製「640−111」)、ポリイミド樹脂(日本G.E.プラスチック(株)製「ウルテム」)、SPS(出光石油化学(株)製「33EX003」)を用いた。
【0040】
ここで、上記のOH変性PPE−1は、次のようにして調製した。すなわち、高分子PPEである日本G.E.プラスチック(株)製「640−111」(数平均分子量Mn=20000)を100質量部、過酸化ベンゾイルを5質量部、ビスフェノールAを6質量部、トルエン100質量部に添加し、これを90℃で60分間撹拌して再分配反応させることによって、OH変性PPE−1溶液を得た。この溶液中のOH変性PPE−1の分子量分布をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)(カラム構成:東ソー(株)製「SuperHM−M」(1本)+「SuperHM−H」(1本))で測定したところ、OH変性PPE−1の数平均分子量が2300であることを確認した。
【0041】
上記のOH変性PPE−2は、ビスフェノールAを3質量部添加するようにした以外は、OH変性PPE−1と同様にして調製した。また、OH変性PPE−1と同様にしてOH変性PPE−2の分子量分布を測定したところ、OH変性PPE−2の数平均分子量が4000であることを確認した。
【0042】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂として、変性PPE、多官能エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「EPPN501H」)、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂(住友化学工業(株)製「EOCN195XL4」)、Bis−Aメタクリレート樹脂、TAIC(日本化成(株)製)、ビスマレイミド樹脂(大和化成工業(株)製「BMI−S」)を用いた。
【0043】
ここで、上記の変性PPEは、次のようにして調製した。まず、PPEである日本G.E.プラスチック(株)製「ノリルPX9701」(数平均分子量Mn=14000)を36質量部、フェノール種である2,6−キシレノールを0.77質量部、開始剤であるt−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(日本油脂(株)製「パーブチルI」)を1.06質量部、ナフテン酸コバルトを0.0015質量部配合し、これに溶剤であるトルエンを90質量部加えて80℃で1時間混合し、分散・溶解させて反応させることによって、PPE溶液を得た。この溶液中のPPEの分子量分布をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)(カラム構成:東ソー(株)製「SuperHM−M」(1本)+「SuperHM−H」(1本))で測定したところ、PPEの数平均分子量が約3500であることを確認した。そして、上記のPPE溶液を70℃で減圧乾燥し、溶剤であるトルエンを1質量%以下になるまで除去した。次に、上記のようにして低分子量化したPPEの分子中に炭素−炭素の不飽和基であるアリル基(CH=CH−CH−)を導入した。具体的には、上記のPPEを350gはかり取り、これをテトラヒドロフラン7リットルに溶解させ、さらにn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.5モル/リットル)390mlを加えて窒素雰囲気下40℃で1時間撹拌して反応させた。この反応物にアリルブロマイド30mlを加え、40℃のままさらに30分間撹拌した。これに水3リットルとメタノール3リットルの混合溶液を加えてポリマーを析出させた。そして、濾過とメタノール洗浄を5回繰り返した後、50℃で24時間真空乾燥させることによって、アリル基を含有するPPEである変性PPEを得た。
【0044】
Bis−Aメタクリレート樹脂は、次のようにして調製した。すなわち、エポキシ樹脂である東都化成(株)製「YD−128」(エポキシ当量190)136g、トリフェニルホスフィン0.4g、ハイドロキノン0.06g、メタクリル酸0.21gを四ツ口フラスコに投入した後、酸価が10.0以下になるまで120℃で反応させ、次にスチレン90gとアクリル酸12gを投入することによって、ラジカル重合性樹脂であるBis−Aメタクリレート樹脂を得た。
【0045】
(難燃剤)
難燃剤として、シアノフェノキシ基を含有する非相溶型ホスファゼン1〜5、相溶型ホスファゼン(大塚化学(株)製「SPB100」)、水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素(SiO)を用いた。
【0046】
なお、シアノフェノキシ基を含有する非相溶型ホスファゼン1〜5(それぞれ下記[表1]中の合成例1〜5に対応)は次のようにして合成した。すなわち、撹拌装置、加熱装置、温度計及び脱水装置を備えた容量2リットルの四ツ口フラスコに、4−シアノフェノール1.76モル、フェノール0.88モル、水酸化ナトリウム2.64モル及びトルエン1000mlを添加した。次に、この混合物を加熱還流し、系から水を除き、シアノフェノール及びフェノールのナトリウム塩のトルエン溶液を調製した。そして、このシアノフェノール及びフェノールのナトリウム塩のトルエン溶液に、1モルのジクロロホスファゼンオリゴマー1(3量体が95%以上であるもの)を含む20%クロルベンゼン溶液580gを撹拌しながら内温30℃以下で滴下した。この混合溶液を12時間還流した後、反応混合物に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加し2回洗浄した。次に有機層を希硫酸で中和した後、水洗を2回行い有機層を濾過し、濃縮、真空乾燥(真空乾燥条件:80℃、5mmHg、12時間)することによって、シアノフェノキシ基を含有する非相溶型ホスファゼン1(合成例1)を得た。このものは元素分析により「N=P(OCCN)1.34(OC0.66」であることを確認した。
【0047】
また、シアノフェノキシ基を含有する非相溶型ホスファゼン2(合成例2)については、ジクロロホスファゼンオリゴマー1の代わりに、ジクロロホスファゼンオリゴマー2(3量体が85%以上、かつ、3量体及び4量体の合計量が95%以上であるもの)を用いるようにした以外は、合成例1の場合と同様にして合成した。
【0048】
また、シアノフェノキシ基を含有する非相溶型ホスファゼン3〜5(合成例3〜5)については、それぞれ下記[表1]に示すように、4−シアノフェノール及びフェノールのモル数を変更した以外は、合成例1の場合と同様にして合成した。
【0049】
【表1】

【0050】
(硬化剤・触媒)
硬化剤・触媒として、ジシアンジアミド(DICY)、フェノールノボラック(明和化成(株)製「H−4」)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)(住友化学工業(株)製)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)(四国化成工業(株)製)、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)(日本油脂(株)製「パークミルH−80」)、α,α’ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂(株)製「パーブチルP」)、トリフェニルホスフィン(和光純薬工業(株)製試薬)を用いた。
【0051】
(その他の成分)
その他の成分として、CTBN(宇部興産(株)製「ハイカーCTBN 1300×13」)、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、カルナバワックス、チタニア、炭酸カルシウムを用いた。
【0052】
(ワニス)
実施例1〜5、13〜19、比較例1〜4、9〜11については、下記[表2][表4][表5][表6][表7][表8]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が50質量%になるようにトルエンで希釈することによって、含浸用ワニスを得た。
【0053】
実施例6、比較例5については、下記[表2][表6]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が50質量%になるようにDMF/MEK/メトキシプロパノール=23/12/15(質量比)の混合溶剤で希釈することによって、含浸用ワニスを得た。
【0054】
実施例7については、下記[表2]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が50質量%になるようにMEKで希釈することによって、含浸用ワニスを得た。
【0055】
実施例8、9、比較例6については、下記[表3][表7]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が70質量%になるようにスチレンモノマーで希釈することによって、含浸用ワニスを得た。
【0056】
実施例10、比較例7については、下記[表3][表7]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が50質量%になるようにDMFで希釈することによって、含浸用ワニスを得た。
【0057】
実施例11、12、比較例8については、下記[表3][表7]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が50wt%になるようにDMF/MEK/メトキシプロパノール=23/12/15(質量比)の混合溶剤で希釈することによって、塗工用ワニスを得た。
【0058】
実施例20、比較例12については、下記[表5][表8]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、固形分が40質量%になるようにDMF/シクロヘキサノン/MEK=20/80/25(質量比)の混合溶剤で希釈することによって、含浸用ワニスを得た。
【0059】
なお、上記の含浸用及び塗工用ワニスは、特殊機化工業(株)製「ホモディスパー」を用いて約1000rpmで約90分間混合した。また、上記の固形分とは、溶剤以外の成分を意味する。
【0060】
(評価サンプル)
実施例1〜7、9、10、13〜20、比較例1、2、4、5、7、9〜12については、評価サンプルとして積層板(CCL)を製造した。具体的には、まずガラスクロス(単重107g/m、厚さ0.1mm)に上記の含浸用ワニスを含浸・乾燥させることによって、プリプレグ(樹脂量40質量%)を製造した。そして、このプリプレグを8枚重ね、さらにこの表裏に厚さ18μmの銅箔を重ね、これを温度200℃、圧力3MPa、時間120分間の硬化条件で加熱・加圧して積層成形することによって、両面銅張積層板(CCL)を製造した。なお、比較例3については、評価サンプルを製造することができなかった。
【0061】
実施例8、比較例6については、評価サンプルとしてコンポジット積層板(CEM3)を製造した。具体的には、まず平織ガラス布(厚さ200μm、大きさ300mm×300mm)及びガラスペーパー(単重51g/m、密度0.14g/cm、大きさ300mm×300mm)に上記の含浸用ワニスを含浸させることによって、平織ガラス布含浸品及びガラスペーパー含浸品を得た。次にガラスペーパー含浸品を2枚重ね、この両側に平織ガラス布含浸品を1枚ずつ重ねてサンドイッチ構造となるように積層し、さらにこの両側に厚さ18μmの銅箔を1枚ずつ重ねることによって、積層物を得た。そして、この積層物を金属プレートの間に挟み、温度110℃、時間30分間の硬化条件で積層成形した後、温度180℃、時間30分間の条件でアフターキュアーすることによって、厚さ1.6mmのコンポジット銅張積層板を製造した。
【0062】
実施例11、比較例8については、評価サンプルとして銅箔付き樹脂シート(RCC)を製造した。具体的には、まず室温下でコンマコーターにより上記の塗工用ワニスを厚さ0.018mmの銅箔(古河サーキットフォイル(株)製「GT」)の粗化面に塗工した。そして、これを非接触タイプの加熱ユニットにより約160℃で加熱して、ワニス中の溶剤を除去すると共に半硬化のBステージ状態になるまで乾燥させることによって、樹脂層の厚さが80μmの銅箔付き樹脂シート(RCC)を製造した。
【0063】
実施例12については、評価サンプルとしてフィルム付き樹脂シートを製造した。具体的には、コンマコーターを使用して、膜厚が約60μmとなるように上記の塗工用ワニスを厚さ40μmのPETフィルムの表面に塗工し、これを搬送速度20cm/分で搬送しながら、温度100℃で加熱して半硬化のBステージ状態になるまで乾燥させ、さらに塗工面を保護するため厚さ20μmのポリエチレンフィルムをカバーフィルムとして用い、このフィルムで上記塗工面を被覆することによって、フィルム付き樹脂シート(樹脂層の厚さ30μm)を製造した。
【0064】
実施例21、比較例13については、まず下記[表5][表8]に示す配合量(質量部)で各成分を配合することによって、封止材として使用可能な難燃性樹脂組成物を製造し、次にこの組成物を175℃で90秒間加熱して硬化させ、さらに175℃で6時間アフターキュアーすることによって、評価サンプル(試験片)を製造した。
【0065】
実施例22、比較例14については、下記[表5][表8]に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、この配合物を85〜95℃の加熱ロールで溶融混練することによって、成形材料を製造した。そして、この成形材料を射出成形することによって、評価サンプル(試験片)を製造した。
【0066】
(難燃性(FR性))
実施例1〜10、13〜22、比較例1、2、4〜7、9〜14については、評価サンプル(CCL、CEM3、試験片)から長さ125mm、幅13mmのテストピースを切り出し、このテストピースについて燃焼挙動のテストをUnderwriters Laboratoriesの「Test for Flammability of Plastic Materials - UL 94」に従って行った。
【0067】
実施例11、比較例8については、まず、松下電工(株)製の銅張積層板「R1566」(基板厚さ0.8mm、銅箔厚さ18μm)から銅箔をエッチングで除去してコア材を製造し、このコア材の両面に評価サンプルであるRCCを樹脂の側で重ね、プレスした後、硬化させた。次にこの硬化物からエッチングで外側の銅箔を除去した後、長さ125mm、幅13mmのテストピースを切り出し、このテストピースについて燃焼挙動のテストをUnderwriters Laboratoriesの「Test for Flammability of Plastic Materials - UL 94」に従って行った。
【0068】
実施例12については、まず、松下電工(株)製の銅張積層板「R1566」(基板厚さ0.8mm、銅箔厚さ18μm)から銅箔をエッチングで除去してコア材を製造し、このコア材の両面に評価サンプルであるフィルムを重ね、(株)名機製作所製の真空ラミネーターを用いてラミネートして貼り付けた後、硬化させた。次にこの硬化物から長さ125mm、幅13mmのテストピースを切り出し、このテストピースについて燃焼挙動のテストをUnderwriters Laboratoriesの「Test for Flammability of Plastic Materials - UL 94」に従って行った。
【0069】
(ガラス転移温度(Tg))
実施例1〜10、13〜22、比較例1、2、4〜7、9〜14の評価サンプルについては、セイコーインスツルメンツ(株)製の粘弾性スペクトロメータ「DMS100」を用いて、ガラス転移温度(Tg)を測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして測定を行い、昇温速度5℃/minの条件で室温から280℃まで昇温した際にtanδが極大を示す温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0070】
実施例11、12、比較例8の評価サンプルについては、セイコーインスツルメンツ(株)製の粘弾性スペクトロメータ「DMS200」を用いて、ガラス転移温度(Tg)を測定した。このとき、引っ張りモジュールで周波数を10Hzとして測定を行い、昇温速度5℃/minの条件で室温から280℃まで昇温した際にtanδが極大を示す温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0071】
難燃性(FR性)試験の結果及びガラス転移温度(Tg)の測定結果を下記[表2]〜[表8]に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
【表7】

【0078】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のいずれか一方又は両方からなる樹脂100質量部に対し、下記式(1)で示されるシクロホスファゼン化合物を0.1〜200質量部配合して成ることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
無機充填剤を含有して成ることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂、ラジカル重合性樹脂、ポリイミド樹脂、これらの変性樹脂の群からなる熱硬化性樹脂と、ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フェノキシ樹脂、これらの変性樹脂の群からなる熱可塑性樹脂との中から選ばれる樹脂を1種又は2種以上用いて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物をガラス基材又は有機繊維基材に含浸、乾燥させて成ることを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を金属箔又はフィルムの表面に塗工、乾燥させて成ることを特徴とする樹脂シート。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形して成ることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2006−63157(P2006−63157A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245780(P2004−245780)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】