説明

難燃性樹脂組成物、及び、耐熱被覆電線

【課題】ノンハロゲン樹脂でありながら、炭酸ガスと水分とによる機械的強度の低下及び白化が発生せず、そして、高い耐熱性を備え、かつ、高温環境下であっても変色が生じない難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ベース樹脂としてポリオレフィン、難燃剤として金属水酸化物、及び、充填剤として粒状の炭酸カルシウムから構成される難燃性樹脂組成物において、前記粒状の炭酸カルシウムが、キレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されている難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼時にハロゲン化水素等の有害ガスが発生せず、機械的強度、耐炭酸ガス白化性、変色耐性、及び、耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物、及び、そのような難燃性樹脂組成物により構成された被覆層を備えた耐熱被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線被覆層を形成する樹脂としては柔軟性、絶縁性、耐水性、難燃性等に優れた塩化ビニル樹脂が用いられてきたが、燃焼時にハロゲン化水素等の有害ガスが発生するという問題を有していたために、これら有害ガスの恐れのない代替材料が求められている。
【0003】
ここで、このようなものとして、オレフィン系樹脂に主として難燃剤として水酸化マグネシウム、及び、充填剤として炭酸カルシウムを配合したノンハロゲン系樹脂が用いられるようになったが、このようなノンハロゲン系樹脂では、いくつかの解決すべき問題点を有することが判ってきた。
【0004】
そのうちの一つが、空気中の炭酸ガスによって生じる問題である。
【0005】
上記のようなノンハロゲン系樹脂の成形物に雨水や水蒸気由来の結露水などの水分に接触したときに、これらに溶解している炭酸ガスにより、内部の水酸化マグネシウムが炭酸化することにより機械的強度の低下と白化とが生じることが判り、特開2005−213480号公報(特許文献1)では、配合する炭酸カルシウムと水酸化カルシウムとに対して脂肪酸、脂肪酸金属塩、及び、脂肪酸エステル等の表面処理剤により表面処理を行うことにより、上記問題を解決する技術を提案している。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に係る技術では、耐熱性が低く、かつ、変色が生じやすいなどの問題があることが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−213480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、ノンハロゲン樹脂でありながら、炭酸ガスと水分とによる機械的強度の低下及び白化が発生せず、そして、高い耐熱性を備え、かつ、高温環境下であっても変色が生じない難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の難燃性樹脂組成物は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、
ベース樹脂としてポリオレフィン、難燃剤として金属水酸化物、及び、充填剤として粒状の炭酸カルシウムから構成される難燃性樹脂組成物において、前記粒状の炭酸カルシウムが、キレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0010】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物において、前記ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物において、前記粒状の炭酸カルシウムの平均粒径が40μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、請求項4に記載の通り、請求項1ないし請
求項3に記載の難燃性樹脂組成物、前記キレート剤が多価アルコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4に記載の難燃性樹脂組成物において、前記脂肪酸金属塩が、ステアリン酸亜鉛、及び、ステアリン酸カルシウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項5に記載の難燃性樹脂組成物において、前記金属水酸化物が天然鉱石由来の水酸化マグネシウムであり、かつ、該金属水酸化物がキレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の耐熱被覆電線は請求項7に記載の通り、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物により被覆層が構成されていることを特徴とする耐熱被覆電線である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、ノンハロゲン樹脂でありながら、炭酸ガスと水分とによる機械的強度の低下及び白化が発生せず、そして、高い耐熱性を備え、かつ、高温環境下で変色が生じない。
【0017】
すなわち、キレート剤がキレート錯体を形成することによって炭酸カルシウムと脂肪酸金属塩とが強固に結合されるために、従来の表面処理方法に比べて、表面処理効率の優れた表面処理を行うことができる。
【0018】
この方法により表面処理された炭酸カルシウムを充填剤として用いることによって、従来の方法で処理された炭酸カルシウムを用いた場合よりもベース樹脂との混練性が良好で、機械的特性も保持することができるとともに、樹脂組成物中の有機物の割合を低くすることができるので難燃性が向上し、難燃剤である金属水酸化物の添加量を従来技術に係る組成物よりも削減することが可能となり、低コスト化が可能となる。また、従来技術で問題となっていた熱履歴による変色が抑制され、かつ耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物とすることができ、上記のような特徴を備えた高い難燃性と優れた耐熱性とを備えた耐熱性樹脂組成物とすることができる。
【0019】
また、請求項2に係る難燃性樹脂組成物によれば、可塑剤の揮発がなく、燃焼時にハロゲン化水素等の優雅ガスが発生しない。
【0020】
また、請求項3に係る難燃性樹脂組成物によれば、炭酸カルシウムの分散性が良好で機械的特性の低下が防止されている。
【0021】
また、請求項4及び請求項5に係る難燃性樹脂組成物によれば、上記特性が最適化される。
【0022】
また、請求項6に係る難燃性樹脂組成物によれば、成形物中での金属水酸化物の分散性が良好で機械的特性の低下が防止されており、かつ、高い難燃性が得られる。
【0023】
本発明の耐熱被覆電線は上記難燃性樹脂組成物によって被覆層が構成されているために、いわゆる、ノンハロ電線でありながら、その被覆層において炭酸ガスと水分とによる機械的強度の低下及び白化が発生せず、そして、高い耐熱性を備え、かつ、高温環境下で変色が生じないので、特に自動車、屋内、トンネル内配線等の分野に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は実施例で作製した本発明に係る電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において、ベース樹脂としてポリオレフィンを配合する。ここでポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる1種以上であると、可塑剤を必要としないために、その揮発による障害の発生を未然に防止するとともに、燃焼時にハロゲン化水素等の有害ガスの発生がないので好ましい。
【0026】
上記ベース樹脂に添加する充填剤としてはキレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されている粒状の炭酸カルシウムを用いることが必要である。
【0027】
表面処理を行う粒状の炭酸カルシウムの平均粒径としては40μm以下であることが好ましい。すなわち、40μm以下の炭酸カルシウムを用いることにより成形物内部での良好な分散性が得られ、機械的特性及び難燃性が向上する。なお、炭酸カルシウムの平均粒径の下限として1μm以上であることが良好な分散性を得るために好ましい。
【0028】
この様な粒状の炭酸カルシウムに対して、キレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理を行う。
【0029】
キレート剤として多価アルコールから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。これらの複数の水酸基を有するキレート剤を用いることにより後述する脂肪酸金属塩と炭酸カルシウムとを教護に結びつけることができるからである。このような多価アルコールとしてはジペンタエリスリトール、モノペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0030】
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸亜鉛、及び、ステアリン酸カルシウムから選ばれる1種以上を用いることが、高い効果を得るために好ましい。このうちステアリン酸亜鉛を用いると樹脂との相溶性が良いので高い分散性が得られるのでより好ましい。
【0031】
キレート剤と脂肪酸金属塩とによる炭酸カルシウムの表面処理は次のように行う。すなわち、炭酸カルシウム100重量部に対してキレート剤を0.5重量部以上5重量部以下、及び、脂肪酸金属塩を1重量部以上10重量部を用いて、40℃程度で30分間以上攪拌することで表面処理を行うことができる。
【0032】
ここでキレート剤の配合量が上記範囲未満であると表面処理が不十分となって本発明の効果が十分には得られにくくなり、上記範囲を超えてキレート剤を配合しても配合量の増加に見合う効果の向上は得られず、むしろ機械的性能が低下することがある。また、脂肪酸金属塩の配合量が上記範囲未満であると表面処理が不十分となって本発明の効果が十分には得られにくくなりやすく、また、上記範囲を超えて脂肪酸金属塩を配合しても配合量の増加に見合う効果の向上は得られず、むしろ機械的性能が低下することがある。
【0033】
上記表面処理工程において、表面処理剤の分散剤としてパラフィンオイル等を併用することができ、このとき、表面処理剤の分散性をさらに向上させることができる。パラフィンオイルを用いる場合、炭酸カルシウム100重量部に対して5重量部以上30重量部以下となるように配合する。この範囲未満であると添加による十分な効果が得られにくく、上記範囲を超えて配合しても配合量の増加に見合う効果の向上は得られず、むしろ機械的性能が低下することがある。
【0034】
難燃剤としては金属水酸化物を用いることが、高い安全性が得られるので必要である。ここでこの様な金属水酸化物として水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、このうち、水酸化マグネシウムであると押出成形性が良好であるので好ましい。
【0035】
ここで水酸化マグネシウムが天然鉱石由来の水酸化マグネシウムである、すなわち、天然の水酸化マグネシウム鉱石を破砕して得られたものをそのまま用いた場合分散性が低いために、上記炭酸カルシウムと同様にしてキレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されているものを用いることが好ましい。
【0036】
ここで、ベース樹脂としてのポリオレフィン100重量部に対して、上記で表面処理された炭酸カルシウム30重量部以上150重量部以下、及び、金属水酸化物30重量部以上150重量部以下をボールミル、ニーダー等で均一になるまで混練して本発明の難燃性樹脂組成物を得る。
【0037】
本発明の難燃性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、難燃助剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤等を配合しても良く、通常は上記混練時に同時に添加する。
【0038】
このように得られた本発明の難燃性樹脂組成物は一般的な難燃性樹脂組成物と同様に、例えば芯線の周囲に押出し成形機によって押出し成形されて難燃被覆電線の被覆層形成に利用することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の難燃性樹脂組成物の実施例について具体的に説明する。
【0040】
表1に示した原料を用い、表2及び表3に示す配合重量比となるようにして、まず、難燃剤と充填剤との表面処理を行った。
【0041】
具体的には難燃剤、充填剤、脂肪酸金属塩、及び、キレート剤を混合し、温度40℃で30分間攪拌して、難燃剤と充填剤との表面処理を行った。
【0042】
この様に表面処理を行った充填剤を酸化防止剤とともに表2及び表3に示したベース樹脂に配合してニーダーによって、均一となるまで混練し、押出し成形によってペレット化された難燃樹脂組成物(実施例組成物1〜20、比較例組成物1〜6)計26種を作製し、さらにこれらを樹脂組成物をそれぞれ用いて、銅芯線(単線、断面面積1.6mm2)の周囲に直径3.2mmとなるように押出成形して、次いでシース層を押出成形して、26種類の被覆電線を得た。
【0043】
得られた電線のモデル断面図を図1に示す。この電線は屋内配線用電線(EM−EEF)であり、図中符号1は芯線、符号2は絶縁体、符号3はシース層を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
<加熱後引張強度残率>
加熱後引張強度残率は被覆電線において、重要な評価項目であり、この値が低いと高温時の被覆破れや亀裂が発生する。
【0048】
上記の樹脂組成物、それぞれについて、JIS C3005「4.17加熱」の記載に準拠して、180℃にてプレスして樹脂シートをそれぞれ得、ダンベル形状の試験片を90℃のギア式老化試験器(ギアオーブン)内で96時間の熱履歴を与え、その後、引張強度を測定し、その平均値(試験片数n:3)を求めた(加熱後の平均値)。この加熱後の平均値と熱履歴を与えなかった試験片の引張強度の平均値(加熱前の平均値)とから、加熱後引張強度残率(残率)を次式(1)から求めた。
【0049】
[数1]
残率(%)=加熱後の平均値/加熱前の平均値*100 ……(1)
【0050】
ここで、上記加熱後引張強度残率の評価において90℃、96時間の熱履歴は被覆電線におけるJIS規格において要求される規格であり、加熱後引張強度残率が80%以上であると充分な値とされる。
【0051】
<酸素指数>
酸素指数(限界酸素指数(LOI))は、難燃被覆電線において、難燃性を示す重要なパラメータであり、この値が21以上であると充分な難燃性を有する。測定は、上記の樹脂組成物それぞれについて、JIS K7201の記載に準拠して行った。
【0052】
<標準試験室内での変色の発生の有無(変色発生の有無)>
標準試験室(気温23℃、RH50%)において上記被覆電線を168時間放置後、被覆層表面に変色が発生したかどうかを目視で調べた。
【0053】
これは、電線敷設後の変色不良が発生しないことを確認するための重要な検査項目である。
【0054】
目視で白化が生じていないときを充分であるとして「○」、それ以外の場合を不充分として「×」として評価した。
【0055】
<熱履歴による変色の発生の有無>
難燃被覆電線を配置したときに、熱履歴を受けると、変色が発生と同時に被覆の劣化が生じるので、変色は劣化の目安として用いられる。ここで、熱履歴による変色の発生の有無を調べた。
【0056】
上記で得られた各被覆電線を150℃のギア式老化試験器内にセットし、継続的に目視で観察を行い、変色が観察されるまでの日数を調べた。25日間以下で変色が観察された場合を不充分であるとして「×」、26日間〜30日間に変色が観察された場合を充分であるとして「○」、31日間以降に変色が観察された場合を充分であるとして「◎」と、それぞれ評価した。
【0057】
これら評価の結果を表2及び表3に併せて記載した。
【0058】
表2及び表3により、本発明に係る耐熱性被覆電線は、耐熱性、及び、難燃性が高く、変色の発生が抑制された優れた耐熱被覆電線であることが判る。
【符号の説明】
【0059】
1 芯線
2 絶縁体(電線被覆層)
3 シース層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂としてポリオレフィン、難燃剤として金属水酸化物、及び、充填剤として粒状の炭酸カルシウムから構成される難燃性樹脂組成物において、
前記粒状の炭酸カルシウムが、キレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記粒状の炭酸カルシウムの粒径が40μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記キレート剤が多価アルコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸金属塩が、ステアリン酸亜鉛、及び、ステアリン酸カルシウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属水酸化物が天然鉱石由来のものであり、かつ、該金属水酸化物がキレート剤と脂肪酸金属塩とによって表面処理されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物により被覆層が構成されていることを特徴とする耐熱被覆電線。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53268(P2013−53268A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193911(P2011−193911)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(501418498)矢崎エナジーシステム株式会社 (79)
【Fターム(参考)】