説明

難燃性樹脂組成物、樹脂被覆金属管及び絶縁電線

【課題】 本発明は、金属管の表面などに被覆して有用な難燃性樹脂組成物であって、耐外傷性の向上を図ったものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、熱可塑性架橋樹脂40〜60質量部と、エチレン−エチルアクリレート共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1つの樹脂60〜40質量部とからなるベース樹脂100質量部に対して、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾された難燃剤3〜50質量部を添加した難燃性樹脂組成物にあり、上記難燃剤添加により、優れた耐外傷性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の表面や絶縁電線の外周に被覆して有用な難燃性樹脂組成物、これを用いた樹脂被覆金属管及び絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス管などの金属管では、保護用の樹脂被覆として、塩化ビニル樹脂(PVC)やポリオレフィン樹脂が使用されている。
【0003】
ところが、PVCの場合には、樹脂中に含まれる塩素原子により、火災などの際に有毒ガスを排出するという問題があった。また、設備の廃棄による金属管の焼却処理時においても、有毒ガスが排出するという問題があった。さらに、PVCでは安定剤として鉛系のものを使用することが多いため、設備の廃棄に際して、埋め立て処理しても、地中に鉛が溶出して土壌汚染を招くなどの危険もあった。
【0004】
この点、ポリオレフィン樹脂の場合、樹脂中に塩素原子がないことから、火災や焼却処理時において、有毒ガスが発生する恐れはないとう利点があるものの、耐熱性や難燃性に問題があって、高温油などに晒されると、損傷し易いという欠点があった。
【0005】
そこで、本出願人は、ポリオレフィン樹脂、特に柔軟性の高い、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)やエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)に着目し、これらの樹脂をベース樹脂として、難燃剤の水酸化マグネシウムや炭酸カルシウムを適量添加する一方、ガス管などの高温耐油性(155℃の食用油に10秒間浸漬してシースに割れや裂けなどの欠陥が生じないという耐油性能)に対応するため、ベース樹脂100質量部に対して、比較的少量のシラングラフトマー(ポリエチレンやポリプロピレンをシラノール基でグラフト結合させたもの、3〜10質量部)や、熱可塑性架橋樹脂(アイオノマーやRC樹脂など、5〜20質量部)を添加したものを提案してある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−137462号公報
【0006】
さらに、本出願人は、EEAやEVA(40〜80質量部)に対して、より多くの熱可塑性架橋樹脂(20〜60質量部)を添加しても、良好な高温耐油性が得られることを提案してある(特許文献2)。この提案では、また、適度の可撓性(柔軟性)、優れた難燃性、耐外傷性や、被覆のシースを容易にかつ綺麗に切断できるシースカット性、切断したシースを簡単に引き抜きことができるシース引抜性においても、優れた結果が得られることが見い出されている。特に、耐外傷性については、樹脂被覆金属管、例えば、樹脂被覆されたガス管の場合、屋内にガス管を引き込む際、施設のコンクリートや木材などの建築部材に擦れることが多いため、被覆部分が損傷し易く、より強い(高い)耐外傷性が望まれていた。
【特許文献2】特開2006−335781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者がさらに研究を進めていると、金属管の樹脂被覆が外力を受けたとき、PVCの被覆に比較して、未だ傷付き易い傾向があることが分かった。
この原因としては、種々のことが考えられるが、ベース樹脂に添加された難燃剤とベース樹脂自体との密着性や均一な分散性が不十分なため、外力を受けたとき、両者の界面において、剥離が生じるのではないかと推論した。
この推論に立って、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾された難燃剤を添加したところ、より良好な耐外傷性が得られることを見出した。β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾することで、難燃剤のベース樹脂に対する親和性が高められ、分散性が向上する結果、外力を受けても、難燃剤とベース樹脂の界面において、剥離が生じ難くなるため、耐外傷性が向上するものと考えられる。結果として、PVCと同等の耐外傷性が得られた。勿論、他の特性、例えば、可撓性(柔軟性)、難燃性、シースカット性、シース引抜性などはそのまま維持されることも分かった。さらに、加工性にも優れ、また、絶縁電線材料として見たとき、電気特性(例えば、30℃における体積抵抗率が1×1013以上)に優れていことも分かった。
【0008】
本発明は、この点に鑑みてなされたもので、基本的には、ベース樹脂に対して、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾した難燃剤を添加することにより、優れた特性、特に耐外傷性の向上を図った難燃性樹脂組成物、これを被覆した樹脂被覆金属管及び絶縁絶縁電線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明は、熱可塑性架橋樹脂40〜60質量部と、エチレン−エチルアクリレート共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1つの樹脂60〜40質量部とからなるベース樹脂100質量部に対して、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾された難燃剤3〜50質量部を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物にある。
【0010】
請求項2記載の本発明は、前記請求項1記載の難燃剤が水酸化マグネシウムであることを特徴とする難燃性樹脂組成物にある。
【0011】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1又は2記載の樹脂組成物に表面滑性作用を有する滑剤0.1〜0.5質量部を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物にある。
【0012】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1、2又は3記載の難燃性樹脂組成物をガス管などの金属管外周に被覆したことを特徴とする樹脂被覆金属管にある。
【0013】
請求項5記載の本発明は、前記請求項4記載の金属管が可撓性金属管であることを特徴とする樹脂被覆金属管にある。
【0014】
請求項6記載の本発明は、前記請求項1、2又は3記載の難燃性樹脂組成物を被覆したことを特徴とする絶縁電線にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の難燃性樹脂組成物によると、熱可塑性架橋樹脂(40〜60質量部)と、柔軟性の高い樹脂であるEEAやEVA(60〜40質量部)を混合したベース樹脂材料(100質量部)に対して、ベース樹脂に対する親和性が高く、分散性の向上が期待できる、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾された難燃剤3〜50質量部を添加してあるため、適度の可撓性(柔軟性)、優れた難燃性、耐外傷性が得られる。特に耐外傷性の場合、顕著な改善効果が得られる。また、他の特性、例えば、優れたシースカット性、シース引抜性、加工性、電気特性なども得られる。
【0016】
本発明の樹脂被覆金属管や絶縁電線によると、上記難燃性樹脂組成物を被覆させた場合、外力を受けても、傷の付き難い丈夫な被覆層が得られる。勿論、上記他の特性、例えば、上記シースカット性、シース引抜性、加工性、電気特性なども維持される。
また、ノンハロゲンの難燃性により、燃焼時にハロゲン化水素などの腐食性ガスやダイオキシン類のガスが発生することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は通常のパイプ状の管からなる本発明に係る樹脂被覆金属管で、図中、1はステンレス鋼などからなる金属管、2はこの金属管1の外周に被覆された本発明の難燃性樹脂組成物からなる樹脂被覆層(シース)である。また、図2〜図3はコルゲート状の管からなる可撓性を有する本発明に係る樹脂被覆金属管で、図中、11はステンレス鋼などからなるコルゲート状の金属管、12はこの金属管11の外周に被覆された本発明の難燃性樹脂組成物からなる樹脂被覆層(シース)である。この可撓性の樹脂被覆金属管の場合には、図3に示すように、内面に金属管11の波形の方向とは直交する方向(周方向)に波形となっており、金属管11と樹脂被覆層12との間には波形の隙間が形成されている。
【0018】
図4〜図5は本発明に係る絶縁電線20A、20Bで、図中、21は中心の導体、22は導体外周の絶縁体、23、24は絶縁体22の外周、又は導体外周に被覆された本発明の難燃性樹脂組成物からなる樹脂被覆層(シース)である。図4の絶縁体22を有する絶縁電線では、必要により内部及び/又は外部の半導電層を施すこともできる。
【0019】
本発明で用いる熱可塑性架橋樹脂は、イオン結合などを利用して疑似的に架橋されるポリマーである。この疑似的な架橋により、150℃程度の温度においても、自己形状保持機能を有することができる。即ち、高い耐熱性が得られる。
【0020】
このような熱可塑性架橋樹脂としては、アイオノマーやエチレン系特殊コポリマー(日本ポリエチレン社製が提案しているもの)などが挙げられる。その具体的なものとしては、例えば「レクスパールES030Y」(商品名、日本ポリエチレン社製)などが挙げられる。この熱可塑性架橋樹脂は、得られる難燃性樹脂組成物に耐熱性などを付与するものである。
【0021】
本発明で用いるEEAとしては、エチルアクリレート含有量が5〜30質量%で、メルトフローレイト(MFR、温度190℃、荷重2.2Kg、時間10分)が0.1〜5.0のものの使用が好ましい。例えば、A1150(商品名、日本ポリオレフィン社製)を挙げることができる。また、EVAとしては、酢酸ビニル含有量が5〜40質量%で、メルトフローレイト(MFR、温度190℃、荷重2.2Kg、時間10分)が0.1〜5.0のものの使用が好ましい。例えば、EV460(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)を挙げることができる。
【0022】
これらのEEAとEVAは、それぞれ独立して用いてもよく、また、混合して用いてもよい。混合するときには、特にその混合比は限定されず、任意である。これらは、得られる難燃性樹脂組成物に柔軟性を付与するものである。
【0023】
上記熱可塑性架橋樹脂とは、エチレンとラジカル重合性酸無水物を必須構成要素とするエチレン系共重合体(a)と、分子内に水酸基を2以上有する多価アルコール化合物(b)と、反応促進剤(c)を含み、エチレン系共重合体(a)中におけるラジカル重合性酸無水物に由来する単位の割合が0.1〜20質量%であり、エチレン系共重合体(a)中の酸無水基に対する多価アルコール化合物(b)由来の水酸基のモル比が0.1〜10の範囲であり、かつ、反応促進剤(c)がエチレン系共重合体(a)100質量部に対して0.001〜20質量部の範囲である樹脂組成物を指す。
【0024】
上記エチレン系共重合体(a)におけるラジカル重合性酸無水物としては、無水マレイン酸、無水タイコン酸、無水シトラコン酸などが1種以上用いられる。また、これ以外に第3モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、フマル酸メチル、フマル酸エチルなどのフマル酸エステルなどを共重合してもよい。
【0025】
上記多価アルコール化合物(b)としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールエタンや分子内に2以上の水酸基を有するエチレン−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体などの1種以上が用いられる。
【0026】
上記反応促進剤(c)としては、カルボン酸の金属塩又はカルボキシル基を有する重合体の金属塩などが用いられる。カルボン酸の金属塩としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、コハク酸、安息香酸、テレフタル酸などのカルボン酸と、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムなどとの金属塩が挙げられる。
【0027】
また、カルボキシル基を有する重合体の金属塩としては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の一部又は全部のカルボキシル基と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムなどとの金属塩、もしくはエチレンとエチレン−(メタ)アクリル酸金属塩との共重合体が挙げられる。これ以外の反応促進剤(c)としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロポレートなどが挙げられる。
【0028】
この熱可塑性架橋樹脂と、EEA、EVAとの配合であるが、先ず、熱可塑性架橋樹脂に対して、EEAとEVAはそれぞれ単独配合でも併用でもよく、これら両者の総配合部数を100質量部とする。つまり、熱可塑性架橋樹脂40〜60質量部に対して、EEA、又はEVAから選ばれる少なくとも1つの樹脂を60〜40質量部とする。
【0029】
その理由は、以下の如くである。EEAやEVAは柔軟性に富む樹脂材料であるため、その割合が多いほど、大きな可撓性が得られる一方、その軟化温度が低いことから、ベース樹脂全体の軟化温度も低下し、耐熱性が低下する要因となる。これに対して、熱可塑性架橋樹脂は、その架橋構造により、その割合が多いほど、ベース樹脂全体の軟化温度が上がり、耐耐外傷性、耐熱性の向上が期待できる。
【0030】
この観点から、熱可塑性架橋樹脂が40質量部未満で、EEA又は/及びEVAが60質量部を超える場合には、ベース樹脂全体の柔軟性が大き過ぎると共に、軟化温度も低く過ぎて、所望の耐熱性、特に高温耐油性が得られなくなるからである。
一方、熱可塑性架橋樹脂が60質量部を超え、EEA又は/及びEVAが40質量部未満の場合には、ベース樹脂全体の軟化温度が高くなるものの、加工性が低下するからである。
【0031】
つまり、上記配合範囲内にあると、特性のバランスがよく、耐熱性、特に良好な高温耐油性と共に適度の可撓性が得られる。さらに、後述するように、耐外傷性、被覆のシースを容易にかつ綺麗に切断できるシースカット性、通常の外気温(20℃程度)や低温(−5℃程度)にあっても、切断したシースを簡単に引き抜きことができるシース引抜性においても、良好な結果が得られる。
【0032】
このベース樹脂を難燃化するため、難燃効果が高く、ノンハロゲンの難燃剤である、金属水酸化物、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを添加する。
好ましくは、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾(表面処理)された水酸化マグネシウムの使用が望ましい。この表面修飾により、難燃剤のベース樹脂に対する親和性が高められ、分散性の向上が図られる。この結果、外力を受けても、難燃剤とベース樹脂の界面において、剥離が生じ難くなるため、耐外傷性が向上するものと考えられる。また、親和性が高められることにより、引張り強度の向上も得られる。
同じ表面修飾であっても、下記の表面処理剤による場合には、PVCに比べて傷付き易く、見劣りするという点に対して、β−カルボキシアクリル酸アルキルでは、PVCと同等レベルの耐外傷性が得られた。勿論、この表面修飾剤によって、他の特性、例えば、難燃性、シースカット性、シース引抜性なども良好に維持できた。
【0033】
難燃剤の表面処理にあたっては、例えばポリオルガノシロキサン、エポキシシラン、ビニルシラン、アミノシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤や、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸、さらには、イソプロピルイソステアロイルチタネートなどのチタンカップリング剤なども使用されているが、これらのものでは、PVCと同等レベルの耐外傷性は得られなかった。
【0034】
上記表面修飾剤のβ−カルボキシアクリル酸アルキルにおいて、具体的なアルキルとしては、エチル基のものが好ましい。このβ−カルボキシアクリル酸エチルとしては、SOLPLUS−C800(商品名:ルーブリゾール社製)を挙げることができる。
【0035】
表面修飾剤の難燃剤に対する添加量としては、難燃剤100質量部に対して1〜5質量%とするのが望ましい。1質量%未満では、難燃剤のベース樹脂に対する親和性が改善されず、分散性の向上が期待できない。一方、5質量%を超えると、β−カルボキシアクリル酸エチルである表面修飾剤自体が凝集し、この凝集体が架橋して異物となり、所望の親和性や分散性の向上は得られない。
【0036】
表面修飾剤の添加方法としては、次の方法などを挙げることができる。
〔湿式処理〕
(1)エチルやメチルアルコール、又は酢酸ブチル中に分散させた難燃剤の水酸化マグネシウム中に、β−カルボキシアクリル酸エチルを添加し、ヘンシェルミキサーなどを用いて攪拌処理を行う。その後60℃〜80℃にて乾燥せ、粉砕する。
(2)難燃剤に対して、β−カルボキシアクリル酸エチルを水中で修飾する。この場合分散剤として、例えば極性の高いポリエステル系分散剤(商品名SOLPLUS27000:ループリゾール社製)などを水100に対して、1〜10質量%添加したものを用いる。これらの添加されたものを、ヘンシェルミキサーなどを用いて攪拌処理を行い、その後60℃〜80℃にて乾燥させ、粉砕する。
〔乾式処理〕
(1)β−カルボキシアクリル酸エチルを原液のまま、スプレーなどにより難燃剤に直接吹き付け、粉砕処理する。
(2)ニーダーやバンバリーなどのバッチ式混練機で各材料を混練する際、β−カルボキシアクリル酸エチルを原液の液状添加として、各材料と共に混練する。
【0037】
表面修飾された水酸化マグネシウムの難燃剤の場合、ベース樹脂100質量部に対する添加量は、3〜50質量部とする。その理由は、3質量部未満では、樹脂組成物の十分な難燃性が得られず、逆に50質量部を超えるようになると、樹脂組成物の機械的特性が低下するようになる。下限の3質量部は、従来の非表面修飾の水酸化マグネシウムに比較して、極めて少ない値である。その分特性への悪影響を抑えることができる。単なる非表面修飾の水酸化マグネシウムで、同等の難燃性を得るには、下限値として20質量部以上の添加が必要があった。また、難燃剤の添加量がこの範囲の場合、樹脂組成物の比重を1.02〜1.18の範囲とすることができる。この範囲の比重とすれば、塩化ビニル樹脂組成物やポリエチレン樹脂組成物との比重分別が可能となる。
【0038】
本発明では、これらの難燃剤の他に難燃助剤を添加することもできる。難燃助剤の添加により、難燃剤の添加量を低減させて、樹脂組成物の比重を下げると共に、機械的特性の低下を抑えることもできる。このような難燃助剤としては、例えば、シリコーンパウダー、シリコーンゴムなどのシリコーン化合物、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ポリリン酸アンモニウムなどのリン系化合物、硼酸亜鉛、ヒドロキシ錫亜鉛、錫酸亜鉛などの亜鉛化合物、メラミンシアヌレート、メラミン、メラムなどの窒素含有有機化合物、赤リン、カーボンブラック、N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド化合物などを挙げることができる。そして、添加量は、ベース樹脂100質量部に対して、10質量部程度を上限として添加すればよい。
【0039】
このようにして得られる本発明の難燃性樹脂組成物には、必要により、表面滑性作用を有する滑剤を添加するとよい。この滑剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス、EVAワックス、金属石鹸、パラフィン油などが挙げられる。そして、その添加量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.1〜0.5質量部程度とするとよい。
【0040】
さらに、本発明では、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤、帯電防止剤、防カビ剤、タルクなどの無機充填剤などの種々の添加剤を適宜必要に応じて添加することができる。
【0041】
このような配合からなる本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば、上記図1〜図3の金属管1、11に樹脂被覆層2、12として、また、図4〜図5の絶縁電線20A〜20Bの樹脂被覆層23、24として、周知の押出被覆法により押出被覆される。
これにより、本発明の金属管や絶縁電線が得られる。この樹脂被覆層2、12は、難燃性樹脂組成物からなるテープを作成し、これを金属管1、11に巻き付けて被覆してもよい。或いは、難燃性樹脂組成物からなるチューブを作成し、これを金属管1、11に被せ、加熱して被覆してもよい。絶縁電線の場合も、同様にして被覆してもよい。
このようにして得らる樹脂被覆層の表面硬度は、ショアD硬度(JIS−6760)で50以下、より好ましくは30〜50となるように調整するとよい。この範囲とすることで、耐外傷性と柔軟性との互いに相反する特性のバランスをとることができる。
なお、金属管には、曲り管や接続継手も含まれるものとする。さらに、その形状も、上記図1〜図3の場合に限定されるものではない。絶縁電線の場合も、上記図4〜図5の構造に限定されるものではない。
【0042】
〈実施例・比較例〉
表1〜表2に示した配合条件で、本発明の要件を満たす樹脂組成物による樹脂被覆金属管(実施例1〜8)と、本発明の要件を欠く樹脂組成物による樹脂被覆金属管(比較例1〜10)を、サンプルとして製造した。具体的には、図2に示すような、直径20mmのステンレス鋼(SUS304)のフレキシブル管を試作し、これに、上記要件からなる樹脂組成物の樹脂被覆層を保護層(シース)として、厚さ0.7mm±0.1mmで被覆した。この被覆は上記樹脂組成物をペレット化し、これを押出機に供給して行った。
なお、フレキシブル管の凹凸形状部分は、凸部の厚さ0.75mm、凹部の厚さ0.5mm、山の高さ0.25mmである。
【0043】
ここで、用いたEEAは、エチルアクリレート含有量が15質量%、メルトフローレイト(MFR)が0.5のA1150(商品名、日本ポリオレフィン社製)である。また、EVAは、酢酸ビニル含有量が20質量%、MFRが2.5のEV460(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)である。熱可塑性架橋樹脂は、レクスパールES030Y(商品名、日本ポリエチレン社製)である。
【0044】
難燃剤の水酸化マグネシウム−Aは、H10(商品名、アルベマール社製の水酸化マグネシウム)を、3質量%のβ−カルボキシアクリル酸エチルで表面修飾したSOLPLUS−C800(商品名:ルーブリゾール社製)である。水酸化マグネシウム−Bは、キスマ5A(商品名、協和化学社製の脂肪酸で表面修飾した水酸化マグネシウム)である。滑剤は、ダイアッミドL200(商品名、日本油脂社製のエルカ酸アミド)である。紫外線吸収剤は、チヌビン111FDL(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)である。老化防止剤は、イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)である。
【0045】
そして、これらの各金属管について、以下の方法により、耐外傷性、難燃性を調べその結果を、同表1〜表2に併記した。なお、各表中の配合材料の数値は質量部数を示す。
【0046】
〈耐外傷性(狭所通管試験)〉
各金属管に対して、図6に示すような装置(狭所通管試験装置)を用いて引抜きを行った。この装置では、厚さ12mmで、内径36mmの穴を有するコンパネが3枚、450mmの間隔で設置され、これらの穴にサンプルの金属管を通して引き抜いた。このとき、2番目のコンパネの穴の高さは左右のコンパネの穴より上下方向に150mm高くしてある(偏心量200mm)。なお、金属管の長さは3m、引抜き速度は1m/secで、1サンプルに付き、3回の試験を行った。そして、この引抜きにより、シースに外傷、割れ、裂けがなければ合格(〇)とし、外傷、割れ、裂けがあれば不合格(×)とした。
【0047】
〈難燃性〉
各金属管を垂直に立て、これにバーナを45°の角度に傾けて、火炎を5秒間接炎した後、離して15秒以上燃え続けなければ合格(〇)とし、15秒を超えて燃え続ける場合を不合格(×)とした。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
上記表1から、本発明の条件を満たす樹脂組成物によるシースを設けた金属管(実施例1〜8)では、耐外傷性及び難燃性が良好(合格)であることが分かる。
【0051】
これに対して、表2から、本発明の要件を欠く樹脂組成物によるシースを設けた金属管(比較例1〜10)では、耐外傷性や難燃性の点で問題があることが分かる。
つまり、難燃剤の水酸化マグネシウム−の表面修飾剤が、脂肪酸の場合(比較例1〜8)、β−カルボキシアクリル酸エチルによる場合ほどの耐外傷性の改善が得られないことが分かる。また、β−カルボキシアクリル酸エチルによる表面修飾剤であっても、添加量が少なく(2質量部)、本発明の要件を欠く場合(比較例9)には、難燃性に問題があることが分かる。添加量が多く(52質量部)、本発明の要件を欠く場合(比較例10)には、良好な耐外傷性が得られないことが分かる。これは、表面修飾された難燃剤自体の凝集により、目的とするベース樹脂に対する親和性や分散性の向上が得られないからと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る樹脂被覆金属管の一例を示した縦断面図である。
【図2】本発明に係る樹脂被覆金属管の他の例を示した縦断側面図である。
【図3】図2のI−I線縦断面図である。
【図4】本発明に係る絶縁電線の一例を示した縦断面図である。
【図5】本発明に係る絶縁電線の他の例を示した縦断面図である。
【図6】耐外傷性を判定するための装置(狭所通管試験装置)の概略説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・金属管、2・・・樹脂被覆層、11・・・金属管、12・・・樹脂被覆層、20A、20B・・・絶縁電線、21・・・導体、22・・・絶縁体、23、24・・・樹脂被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性架橋樹脂40〜60質量部と、エチレン−エチルアクリレート共重合体、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1つの樹脂60〜40質量部とからなるベース樹脂100質量部に対して、β−カルボキシアクリル酸アルキルで表面修飾された難燃剤3〜50質量部を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記請求項1記載の難燃剤が水酸化マグネシウムであることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1又は2記載の樹脂組成物に表面滑性作用を有する滑剤0.1〜0.5質量部を添加したことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記請求項1、2又は3記載の難燃性樹脂組成物をガス管などの金属管外周に被覆したことを特徴とする樹脂被覆金属管
【請求項5】
前記請求項4記載の金属管が可撓性金属管であることを特徴とする樹脂被覆金属管。
【請求項6】
前記請求項1、2又は3記載の難燃性樹脂組成物を被覆したことを特徴とする絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−280831(P2010−280831A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135697(P2009−135697)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】