説明

難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスおよびケーブル

【課題】耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスおよびケーブルを提供すること。
【解決手段】ホモポリプロピレンを50〜70質量%、ポリエチレンを5〜15質量%及び熱可塑性架橋樹脂を5〜45質量%含むベース樹脂と、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有し、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが、ベース樹脂100質量部に対して70〜110質量部の割合で含まれている難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスおよびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル組成物は電気絶縁性が良く、優れた難燃性、機械特性を有していることから電線被覆、チューブ、テープ、包装材、建材等に広く使用されているが、近年では環境や人体への影響の懸念から、安定剤として鉛を使用しない非鉛ポリ塩化ビニル樹脂が主流となりつつある。
【0003】
上記非鉛ポリ塩化ビニル樹脂は、分子構造中に塩素原子を含有し、燃焼時に有毒、有害な塩素ガスを発生する。そのため、より安全性の高い、いわゆるエコマテリアルを使用した塩化ビニル電線代替品が検討されている。
【0004】
このようなエコマテリアルとして、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及びエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)などのエチレン系材料や、それらとポリプロピレン(PP)、エチレンプロピレンゴム(EPゴム)、スチレン系エラストマなどのポリオレフィンをブレンドした複合樹脂をベースに、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を多量に添加してなるものが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
特に、下記特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂50〜70質量部とポリエチレン5〜15質量部と熱可塑性架橋樹脂5〜45質量部の範囲で混合されるベース樹脂100質量部に、ステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物70〜110質量部を添加してなる難燃性樹脂組成物によって、優れた耐摩耗性、難燃性を得ることができ、さらに曲げによる白化現象を効果的に抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3358228号公報
【特許文献2】特開2007−176981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献2に記載の樹脂組成物は、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できるものの、絶縁電線の耐外傷性の点で未だ改良の余地があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスおよびケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、金属水酸化物とベース樹脂との界面に特定の物質を介在させ、この特定の物質と金属水酸化物との合計量が上記ベース樹脂に対して特定の割合で含まれるようにするとともに、上記ベース樹脂中に所定の割合で特定の樹脂が含まれるようにすることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち本発明は、ホモポリプロピレンを50〜70質量%、ポリエチレンを5〜15質量%、及び熱可塑性架橋樹脂を5〜45質量%含むベース樹脂と、金属水酸化物粒子と、前記金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有し、前記金属水酸化物粒子及び前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、前記ベース樹脂100質量部に対して70〜110質量部の割合で含まれていることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0011】
この難燃性樹脂組成物によれば、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる。
【0012】
上記効果のうち特に優れた耐外傷性が得られる理由についてはいまだ明らかではないが、本発明者は、以下のように推測している。即ちβ−カルボキシアクリル酸アルキルによって、熱可塑性架橋樹脂とβ−カルボキシアクリル酸アルキルとの間、及び金属水酸化物粒子とβ−カルボキシアクリル酸アルキルと間のイオン的な分子間相互作用が強まり、熱可塑性架橋樹脂と金属水酸化物粒子との結合が補強される。特に、熱可塑性架橋樹脂には分子骨格中に酸素原子が含有されているため、その熱可塑性架橋樹脂中の酸素原子と、β−カルボキシアクリル酸アルキルのカルボニル基とのイオン的な分子間相互作用が強くなり、熱可塑性架橋樹脂と金属水酸化物粒子との結合が十分に補強される。ここで、一般には絶縁電線の白化現象を抑制するものとして知られる熱可塑性架橋樹脂も、ベース樹脂中に所定の割合で含まれる場合には、熱可塑性架橋樹脂と金属水酸化物粒子との結合を十分に補強する作用を持つものと考えられる。その結果、ベース樹脂自体の硬度を高めなくても、絶縁電線の耐外傷性を向上させることができるのではないかと本発明者は推測している。
【0013】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成される絶縁電線である。また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理してなる絶縁電線であってもよい。
【0014】
これらの絶縁電線は、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる。
【0015】
さらに本発明は、上述した絶縁電線を少なくとも1本有すること、を特徴とするワイヤーハーネスである。
【0016】
自動車や電子機器などの内部空間においてワイヤーハーネスを引き回す場合、自動車や電子機器の内部空間は狭いため、ワイヤーハーネスは自動車や電子機器の内壁と接触しやすい。本発明のワイヤーハーネスは、上述した絶縁電線を少なくとも1本有しており、上述した絶縁電線は、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる。このため、本発明のワイヤーハーネスによれば、自動車や電子機器内での引回し作業に際して、ワイヤーハーネスが自動車や電子機器の内壁に接触することを気にせずに作業を行うことができ、ワイヤーハーネスの引回し作業を効率よく行うことができる。
【0017】
また本発明は、内部導体及び前記内部導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースとを備え、前記絶縁層及び前記シースの少なくとも一方が上述した難燃性樹脂組成物で構成され、又は上述した難燃性樹脂組成物を架橋処理してなるものであることを特徴とするケーブルである。
【0018】
上記難燃性樹脂組成物において、前記ベース樹脂がプロピレン−αオレフィン共重合体を10質量%以下の割合でさらに含むことが好ましい。この場合、ベース樹脂中のプロピレン−αオレフィン共重合体の含有率が10質量%を超える場合に比べて柔軟性をより向上させることができる。
【0019】
上記難燃性樹脂組成物において、前記β−カルボキシアクリル酸アルキルとしては、例えばβ−カルボキシアクリル酸エチルが用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスおよびケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の絶縁電線の一実施形態を示す部分側面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0023】
[絶縁電線]
図1は、本発明に係る絶縁電線の一実施形態を示す部分側面図であり、(自動車用)絶縁電線を示すものである。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。そして、絶縁電線3は、内部導体1と、内部導体1を被覆する絶縁層2とを有している。
【0024】
ここで、絶縁層2は難燃性樹脂組成物で構成されており、この難燃性樹脂組成物は、ホモポリプロピレンを50〜70質量%、ポリエチレンを5〜15質量%、及び熱可塑性架橋樹脂を5〜45質量%含むベース樹脂と、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有するものである。そして、この難燃性樹脂組成物においては、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが、ベース樹脂100質量部に対して70〜110質量部の割合で含まれている。
【0025】
上記絶縁電線3によれば、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる。
【0026】
このような効果が得られる理由として、本発明者は、難燃性樹脂組成物において、上述したように熱可塑性架橋樹脂と金属水酸化物粒子との結合がβ−カルボキシアクリル酸アルキルによって強められたためではないかと推測している。
【0027】
[絶縁電線の製造方法]
次に、上述した絶縁電線3の製造方法について説明する。
【0028】
(導体)
まず導体1を準備する。導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、導体1は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0029】
(難燃性樹脂組成物)
一方、上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、ホモポリプロピレンを50〜70質量%、ポリエチレンを5〜15質量%、及び熱可塑性架橋樹脂を5〜45質量%含むベース樹脂と、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有するものである。
【0030】
(ホモポリプロピレン)
ホモポリプロピレンは、絶縁電線3に耐摩耗性を付与するためのものである。ベース樹脂中のホモポリプロピレンの含有率は50〜70質量%である。50質量%未満では、耐摩耗性が低下し、70質量%を超えると、絶縁電線3の曲げによる白化現象が生じてしまう。
【0031】
ベース樹脂中のポリエチレンの含有率は5〜15質量%である。ポリエチレンの含有率が5質量%未満では、絶縁電線3の曲げによる白化現象が抑制されるものの、柔軟性が低下してしまう。ポリエチレンの含有率が15質量%を超えると、耐摩耗性が低下する。
【0032】
(熱可塑性架橋樹脂)
熱可塑性架橋樹脂(以下、「RC樹脂」と呼ぶ)とは、(b1)エチレンとラジカル重合性酸無水物を必須構成要素とするエチレン系共重合体、(b2)分子内に水酸基を2つ以上有する多価アルコール化合物を含有するものを言う。
【0033】
RC樹脂において、(b1)エチレン系共重合体中に含まれる酸無水物基は、(b2)多価アルコール化合物中に含まれる水酸基と反応しモノエステルを形成する。この反応により架橋構造が樹脂組成物中に導入される。酸無水物基を含む(b1)エチレン系共重合体と(b2)多価アルコール化合物の2成分を含むRC樹脂は、200℃以上の高温では架橋構造が解離し、冷却時に再び架橋構造を形成する、いわゆる熱可塑性架橋樹脂としての性質を示す。また、(b3)反応促進剤を添加することにより、この架橋反応速度あるいは架橋解離反応速度を速めることができる。このように、RC樹脂は、その融点以上200℃以下の温度領域である高温では架橋構造が解離して溶融弾性を示し、冷却時には再び架橋構造を形成して耐熱性を示すようになる。
【0034】
RC樹脂中の(b1)エチレン系共重合体は、少なくともエチレンとラジカル重合性酸無水物とを必須構成要素とする共重合体であり、必要に応じて他のラジカル重合性コモノマー(以下、「第3モノマー」と呼ぶ)を共重合させてもよい。ここで用いられるラジカル重合性酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水エンディック酸、1−ブテン−3,4−ジカルボン酸無水物などを挙げることができる。これらは、2種以上同時に併用しても差し支えない。これらのうち、反応性、経済性の点で無水マレイン酸が好ましい。
【0035】
(b1)エチレン系共重合体において、ラジカル重合性酸無水物に由来する単位は、0.1〜20質量%の範囲であり、好ましくは0.3〜5.0質量%の範囲である。該ラジカル重合性酸無水物に由来する単位が、0.1質量%未満では、耐熱クリープ特性に必要な十分な架橋密度は得られなくなる。また、20質量%を超えると、架橋点間密度が上がりすぎ、可逆的な架橋の解離がスムーズに行われなくなる。
【0036】
(b1)エチレン系共重合体としては、必要に応じて第3モノマーを共重合させたものを用いることができる。第3モノマーを共重合させることにより、融点、柔軟性や被着物である導体1との相性をコントロールすることができ、目的に合った樹脂組成物をデザインすることが可能となる。このような前記ラジカル重合性酸無水物と併用することができる第3モノマーとしては、エチレン系不飽和エステル化合物、エチレン系不飽和アミド化合物、エチレン系不飽和カルボン酸化合物、エチレン系不飽和エーテル化合物、エチレン系不飽和炭化水素化合物等を挙げることができる。
【0037】
上記(b2)多価アルコール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールエタンや分子内に2以上の水酸基を有するエチレン−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体などの1種以上が用いられる。(b2)多価アルコール化合物の使用量は、(b1)エチレン系共重合体中の酸無水物基に対する、(b2)多価アルコール化合物由来の水酸基のモル比が、0.01〜10の範囲である。このモル比が0.01未満では、目的とする耐熱性を得ることができない。また、該モル比が10を超えると、加熱時の架橋構造の解離が十分でなく、非可逆的架橋の比率が高くなり、成形が困難となり好ましくない。
【0038】
上記(b3)反応促進剤としては、カルボン酸の金属塩又はカルボキシル基を有する重合体の金属塩などが用いられる。カルボン酸の金属塩としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、コハク酸、安息香酸、テレフタル酸などのカルボン酸と、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムなどとの金属塩が挙げられる。
【0039】
また、カルボキシル基を有する重合体の金属塩としては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の一部又は全部のカルボキシル基と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムなどとの金属塩、もしくはエチレンとエチレン−(メタ)アクリル酸金属塩との共重合体が挙げられる。これ以外の(b3)反応促進剤としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロポレートなどが挙げられる。
【0040】
(b3)反応促進剤の使用量は、種類によって異なるため、一概に規定することは難しいが、一般に(b1)エチレン系共重合体100質量部に対して通常、0.001質量部以上、20質量部以下の範囲、好ましくは、0.01質量部以上、15質量部以下の範囲である。
【0041】
ベース樹脂中の熱可塑性架橋樹脂の含有率は5〜45質量%である。ベース樹脂中の熱可塑性架橋樹脂の含有率が5質量%未満では、耐外傷性が低下するとともに絶縁電線3の曲げによる白化が生じてしまう。またベース樹脂中の熱可塑性架橋樹脂の含有率が45質量%を超えると、耐摩耗性が低下する。また熱可塑性架橋樹脂の含有率が少なくなるほど絶縁特性がより向上という理由からは、ベース樹脂中の熱可塑性架橋樹脂の含有率は5〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0042】
なお、ベース樹脂中のホモポリプロピレン、ポリエチレン及び熱可塑性架橋樹脂の合計含有率は100質量%であってもよい。
【0043】
(金属水酸化物粒子)
金属水酸化物粒子は金属水酸化物からなるものであり、金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどが例示できる。中でも、水酸化マグネシウムが好ましい。これは、β-カルボキシアクリル酸アルキルとのイオン的な分子間相互作用をより強めることができ、絶縁電線3の耐摩耗性や耐外傷性をより向上させることができるためである。
【0044】
(β−カルボキシアクリル酸アルキル)
β−カルボキシアクリル酸アルキルとしては、β−カルボキシアクリル酸メチル、β−カルボキシアクリル酸エチル、β−カルボキシアクリル酸プロピルなどが例示できる。中でも、β−カルボキシアクリル酸エチルが最も好ましい。
【0045】
金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルからなる粒子は、上述したように、ベース樹脂100質量部に対して70〜110質量部の割合で含まれている。金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルがベース樹脂100質量部に対して70質量部未満の割合で含まれていると、絶縁電線3の難燃性が顕著に低下してしまう。また金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルがベース樹脂100質量部に対して110質量部を超える割合で含まれていると、耐摩耗性及び耐外傷性が顕著に低下するとともに、曲げによる白化現象を十分に抑制することができなくなる。
【0046】
金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸エチルは、ベース樹脂100質量部に対して70〜100質量部の割合で含まれることが、耐外傷性をより向上させることから好ましい。
【0047】
金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させる方法としては、例えば金属水酸化物粒子をβ−カルボキシアクリル酸アルキルで表面処理する方法が挙げられる。金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させたものは、具体的には、金属水酸化物粒子にβ−カルボキシアクリル酸アルキルを添加して混合し、混合物を得た後、この混合物を40〜75℃にて10〜40分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサ、アトマイザなどにより粉砕することによって得ることができる。
【0048】
ここで、金属水酸化物粒子に対するβ−カルボキシアクリル酸アルキルの付着量は、特に制限されるものではないが、金属水酸化物100質量部に対して0.05〜5質量部であることが耐外傷性をより向上させるという理由から好ましく、0.1〜3質量部であるとさらに好ましい。
【0049】
(プロピレン−αオレフィン共重合体)
ベース樹脂は、プロピレン−αオレフィン共重合体をさらに含んでいてもよい。プロピレン−αオレフィン共重合体は、プロピレンと、コモノマーであるαオレフィンとを共重合させたものであり、αオレフィンとしては、例えば2〜4個の炭素原子を有するα−オレフィンが用いられる。このようなαオレフィンとしては、具体的にはエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどが挙げられる。
【0050】
プロピレン−αオレフィン共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよい。但し、ランダム共重合体の方がフィラー受容性の点で好ましい。ベース樹脂中のプロピレン−αオレフィン共重合体の含有率は0質量%より大きく10質量%以下であることが好ましい。この場合、ベース樹脂中のプロピレン−αオレフィン共重合体の含有率が10質量%を超える場合に比べて柔軟性をより向上させることができる。
【0051】
上記難燃性樹脂組成物は、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線劣化防止剤、帯電防止剤、加工助剤、着色剤、滑剤、架橋助剤、無機充填剤などの充填剤を含んでもよい。
【0052】
上記難燃性樹脂組成物は、例えば上記ベース樹脂及び、金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させたもの等を混練することにより得ることができる。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ミキシングロール等の混練機で行うことができる。
【0053】
次に、上記難燃性樹脂組成物で導体1を被覆し、導体1上に絶縁層2を形成する。難燃性樹脂組成物の被覆は、例えば難燃性樹脂組成物を押出成形によりチューブ状に押し出して導体1の表面に密着させたり、上記難燃性樹脂組成物を収容したダイスに導体1を通したりすることによって行うことができる。
【0054】
以上のようにして絶縁電線3が得られる。
【0055】
なお、こうして得られた絶縁電線3は、上述したように、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れる。このため、絶縁電線3は、ワイヤーハーネスを構成する少なくとも1本の絶縁電線として特に有用である。
【0056】
即ち、自動車や電子機器などの内部空間においてワイヤーハーネスを引き回す場合、自動車や電子機器の内部空間は狭いため、ワイヤーハーネスは自動車や電子機器の内壁と接触しやすい。その点、絶縁電線3は、特に耐外傷性に優れるため、自動車や電子機器内での引回し作業に際して、絶縁電線3を有するワイヤーハーネスが自動車や電子機器の内壁に接触することを気にせずに作業を行うことができ、ワイヤーハーネスの引回し作業を効率よく行うことができる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、難燃性樹脂組成物に対しては、耐外傷性を向上させるために、さらに電子線照射による架橋処理が行われてもよい。また上記実施形態では、上記難燃性樹脂組成物が、絶縁電線3の絶縁層2に適用されているが、上記難燃性樹脂組成物は、絶縁電線3とこれを覆うシースとを備えるケーブルのシースに適用することもできる。また上記難燃性樹脂組成物は、上記ケーブルにおけるシースと絶縁電線3の絶縁層2の双方に同時に適用することも可能である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1〜6及び比較例1〜12)
ホモポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、プロピレン−αオレフィン共重合体、熱可塑性架橋樹脂、β−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理した水酸化マグネシウム(以下、「水酸化マグネシウム(表面処理)」と呼ぶ)又は表面処理していない水酸化マグネシウム(以下、「水酸化マグネシウム(表面未処理)」と呼ぶ)を表1〜3に示す配合量で配合し、バンバリーミキサによって140℃にて15分間混練し、難燃性樹脂組成物を得た。なお、表1〜3において、配合量の単位は「質量部」である。
【0060】
上記PP、PE、プロピレン−αオレフィン共重合体、熱可塑性架橋樹脂、水酸化マグネシウム(表面処理)及び水酸化マグネシウム(表面未処理)としてはそれぞれ以下のものを用いた。
(1)PP
E−111G(商品名、三井化学株式会社製)
(2)PE(LDPE)
C150(商品名、宇部興産株式会社製)
(3)プロピレン−αオレフィン共重合体
タフマーXM−7070(商品名、三井化学株式会社製)
(4)熱可塑性架橋樹脂
レクスパールES030Y(商品名、日本ポリエチレン社製)
(5)表面処理した水酸化マグネシウム(表面処理)
水酸化マグネシウム(a)に対してβ−カルボキシアクリル酸エチル(b)を表面処理したもので、β−カルボキシアクリル酸エチル(b)の含有率が3質量%であるもの
(a)水酸化マグネシウム
マグニフィンH10(商品名、アルベマール社製)
(b)β−カルボキシアクリル酸エチル
C−800(商品名、ルーブリゾール社製)
(6)キスマ5L(商品名、協和化学社製)
【0061】
なお、表面処理水酸化マグネシウムは次のようにして得た。即ち、まず水酸化マグネシウム粒子97質量部に対しβ−カルボキシアクリル酸エチル3質量部を添加して撹拌しながら混合し混合物を得た。次に、この混合物を60℃にて50分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサーにより粉砕した。こうして、β−カルボキシアクリル酸エチルで表面処理された水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0062】
その後、押出機にて上記の難燃性樹脂組成物をチューブ状に押し出し、導体(素線数19本/素線径0.12mm)上に、厚さ0.25mmとなるように難燃性樹脂組成物を被覆した。こうして外径1.04mmの絶縁電線を得た。
【表1】

【表2】

【表3】

【0063】
上記のようにして得られた実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線について、引張破断強度及び引張破断伸び、並びに、難燃性、耐摩耗性、曲げによる白化特性及び耐外傷性の評価を以下のようにして行った。
【0064】
(引張破断強度)
実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線について、引張速度200mm/min、標線間距離20mmの試験条件で引張破断強度を測定した。そして、引張破断強度が10MPa以上である絶縁電線を合格とし、10MPa未満である絶縁電線を不合格とした。
【0065】
(引張破断伸び)
実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線について、引張速度200mm/min、標線間距離20mmの試験条件で引張破断伸びを測定した。そして、引張破断伸びが150%以上である絶縁電線を合格とし、150%未満である絶縁電線を不合格とした。
【0066】
(難燃性)
実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線について、ISO6722の45度傾斜燃焼試験を行った。そして、着火後、70秒以内に消火し、長さ500mmのうち上部50mmが残っている絶縁電線を合格とし、そうでない絶縁電線を不合格とした。
【0067】
(耐摩耗性)
耐摩耗性の評価は、スクレープ試験(ISO6722)に基づいて以下の手順で行った。即ち、φ0.45mmのニードルを、荷重7Nで実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線の表面に押し当てながら、その絶縁電線の表面上を往復摩耗させた。そのときニードルが絶縁電線内の導体に接触するまでの往復回数を測定した。そして、絶縁電線をニードルに対して移動させた後、その長手方向を中心軸として90°回転させ、そのときニードルに対向する個所でも上記と同様に往復回数を測定した。この操作を12回繰り返して行い、その平均値を求めた。そして、この測定した往復回数の平均値が100回以上である絶縁電線を合格とし、100回未満である絶縁電線を不合格とした。
【0068】
(曲げ白化特性)
曲げによる白化特性は、実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線を、R=3mmのマンドレルに5ターン(5周)巻き付け、目視により屈曲部分を観察することにより行った。そして、白化現象が見られなかった絶縁電線を合格とし、白化現象が見られた絶縁電線を不合格とした。
【0069】
(耐外傷性)
実施例1〜6及び比較例1〜12の絶縁電線について、速度100mm/minにて、先端径が0.3mmのダイアモンド圧子による引掻き試験を行った。そして、このダイアモンド圧子による傷付き開始荷重が1000gf以上であれば合格とし、1000gf未満であれば不合格とした。
【0070】
上記引張破断強度、引張破断伸び、難燃性、耐摩耗性、曲げ白化特性及び耐外傷性の評価結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3において、合格である場合には「○」と表示し、不合格である場合には「×」と表示した。
【0071】
表1〜3に示す結果より、実施例1〜6の絶縁電線は、比較例1〜12の絶縁電線と比較して、難燃性、耐摩耗性、曲げ白化特性に優れるとともに、耐外傷性にも優れることが分かった。
【0072】
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、耐摩耗性及び難燃性に優れ、曲げによる白化現象を効果的に抑制できると共に、耐外傷性にも優れることが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1…内部導体、2…絶縁層、3…絶縁電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモポリプロピレンを50〜70質量%、ポリエチレンを5〜15質量%、及び熱可塑性架橋樹脂を5〜45質量%含むベース樹脂と、
金属水酸化物粒子と、
前記金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルとを含有し、
前記金属水酸化物粒子及び前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、前記ベース樹脂100質量部に対して70〜110質量部の割合で含まれていること、
を特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ベース樹脂がプロピレン−αオレフィン共重合体を10質量%以下の割合でさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記β−カルボキシアクリル酸アルキルが、β−カルボキシアクリル酸エチルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
を備えており、
前記絶縁層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
を備えており、
前記絶縁層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を電子線照射により架橋処理してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の絶縁電線を少なくとも1本有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項7】
内部導体及び前記内部導体を被覆する絶縁層を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線を被覆するシースとを備え、
前記絶縁層及び前記シースの少なくとも一方が請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物で構成され、又は請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を架橋処理してなるものであることを特徴とするケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67154(P2012−67154A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211258(P2010−211258)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】