説明

難燃性樹脂組成物およびそれを被覆した電線

【課題】自動車などにおいて、耐熱性が要求される部位に配策される電線の被覆材料に使用しうる、PVCを使用せずに耐熱寿命と難燃性の両立し、廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性のガスの発生がなく、PVC含有部材との共存性に優れた難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた電線を提供する。
【解決手段】酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満である、(a)エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくは(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンとの混合物100質量部に対して、(c)金属水和物50〜160質量部、(d)フェノール系酸化防止剤2〜10質量部、(e)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤10〜25質量部、(f)チオエーテル系酸化防止剤0〜10重量部を含有する難燃性樹脂組成物、及びこれを被覆した電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに使用される絶縁電線とその樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、燃焼時において多量の煙や有害ガスを発生せず、難燃性、耐寒性、耐熱性、機械的特性、成形加工性に優れた樹脂組成物と電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに使用される部材や電線には、難燃性、機械的特性など種々の特性が要求されており、その材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドが主として使用されていた。
【0003】
近年、このような材料を用いた製品を適切な処理をせずに廃棄した場合におこる種々の問題が指摘されている。
例えば、埋立廃棄した場合には、材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤が溶出するという問題がおこり、焼却廃棄した場合には、多量の腐食性ガスが発生するという問題がおこる。
【0004】
このため、有害な重金属や腐食性のハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料が提案され、一部においては実用化されている。提案、実用化されているノンハロゲン難燃材料は、金属水和物を高充填したポリオレフィン系樹脂を使用することが一般的であるが、これらの材料は、樹脂に難燃性を付与するために金属水和物を多量に添加する必要があり、そのベースポリマーとしては、金属水和物を配合しやすいエチレン系共重合体が主として用いられている。
しかし、このようなノンハロゲン難燃材料の機械的特性、耐熱性などは、現在使用されているPVCコンパウンドの特性と比較すると低いことが知られている。
【0005】
かかる問題を解決するため、エチレン系共重合体をベースポリマーとするノンハロゲン難燃材料を化学架橋や電子線架橋で架橋する方法や、機械特性や耐熱性に優れるポリプロピレンをベースポリマーに使用する方法が検討、実用化されている。しかし、このようなノンハロゲン難燃材料を、自動車などに使用する電線、特に、耐熱性が要求される部位に配策される電線の被覆材料に使用した場合は、耐熱寿命と難燃性の両立が難しいことが知られている。
【0006】
また、ノンハロゲン難燃材料を被覆した電線の問題点として、施工時に、PVCテープ、PVC電線、ゴム製品などの可塑剤、オイルを含有するような材料で成形された部材と触れた状態では、その耐熱寿命が低下する場合があることがわかってきている。
【0007】
これらの問題点に対しては、例えば、特許文献1には、UL1581に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test VW−1)に合格するような難燃性を有する電気・電子機器用として使用される絶縁電線が記載されている。しかし、この絶縁電線では、高い難燃性を得るために多量の金属水和物が配合されており、用途によっては、引張伸びが十分とはいえない場合があり、さらなる柔軟性を有する電線が求められていた。
また、特許文献2には、難燃剤として水酸化アルミニウムを含有するポリオレフィン系樹脂からなる被覆材で被覆された、PVC樹脂を含有する部材と接触しても寿命の低下の小さいノンハロゲン電線が記載されている。しかし、この電線では、PVC樹脂を含有する部材と接触して生じる熱劣化の低減は十分とはいえるものではなかった。
【特許文献1】特開2000−129064号公報
【特許文献2】特開2006−179452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、自動車などに使用される電線、特に、耐熱性が要求される部位に配策される電線の被覆材料に使用しうる、耐熱寿命と難燃性の両立を、PVCを使用せずに可能とし、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性のガスの発生がなく、PVC含有部材との共存性に優れた難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は以下の手段により解決された。すなわち、本発明は、
(1)酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満である、(a)エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくは(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンとの混合物100質量部に対して、(c)金属水和物50〜160質量部、(d)フェノール系酸化防止剤2〜10質量部、(e)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤10〜25質量部、(f)チオエーテル系酸化防止剤0〜10質量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物、
(2)前記(c)金属水和物が、シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする(1)記載の難燃性樹脂組成物、
(3)前記(c)金属水和物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、または水酸化アルミニムおよび水酸化マグネシウムの混合物であることを特徴とする(1)または(2)項記載の難燃性樹脂組成物、及び、
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載された難燃性樹脂組成物で導体を被覆し架橋処理したことを特徴とする電線
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の難燃性樹脂組成物およびそれを被覆した電線は、耐熱寿命、難燃性、他部材特にPVCとの共存性(例えば、PVCとの接触下での熱劣化防止性)、端末加工性に優れ、かつ、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や多量の煙、腐食性ガスの発生といった問題がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明において導体を被覆し、絶縁体を形成するのに用いられる難燃性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
(a)エチレン・酢酸ビニル共重合体又は(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンとの混合物
本発明において、(a)エチレン・酢酸ビニル共重合体又は(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンとの混合物は、その構成成分としての酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満である必要がある。
酢酸ビニル含有量が10質量%未満の場合は、電線の規格であるJIS C3005やJASO D608で規定される燃焼試験に不合格となる可能性がある。
逆に、酢酸ビニル含有量が40質量%以上の場合は、上記規格で規定される引張強度、耐摩耗性などの機械特性が不十分となる可能性がある。
本発明においては、酢酸ビニル含有量の高いエチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンを混合することで、混合物の酢酸ビニル含有量を40質量%未満とすることも可能である。
【0013】
ポリオレフィンと混合した組成物は、導体を被覆し、絶縁体を形成する際、成形装置である押出機のホッパー内やスクリュー供給部で組成物のペレットがブロッキングすることを防止する効果が高い。
また、組成物を導体に被覆した後の送線、巻取ラインで絶縁被覆層が潰れたり、損傷したりすることを緩和、防止する効果も高い。
【0014】
混合するポリオレフィンとしては、例えば、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン単独重合体(H−PP)、エチレン−プロピレンブロック共重合体(B−PP)、エチレン−プロピレンランダム共重合体(R−PP)や、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したものなどがあげられる。
【0015】
不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が用いられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などがある。
ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等をパーオキサイド存在下に溶融、混練することにより、おこなうことができる。
本発明において、混合するポリオレフィンとしては、エチレン・酢酸ビニル共重合体との相溶性の点から、変性ポリオレフィンおよび/または変性ポリオレフィンとポリオレフィンの混合物が好ましい。
【0016】
エチレン・酢酸ビニル共重合体やポリオレフィンのメルトフローレイト(MFR)は、0.1〜10g/10分(エチレン・酢酸ビニル共重合体、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン: 荷重2.16kg、温度190℃、ポリプロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体: 荷重2.16kg、温度230℃)が好ましい。
メルトフローレイトが0.1g/10分未満のエチレン・酢酸ビニル共重合体やポリオレフィンを使用した場合は、組成物や絶縁電線の成形装置である混練機器や押出機の負荷が増大する場合がある。
一方、メルトフローレイトが10g/10分以上のエチレン・酢酸ビニル共重合体やポリオレフィンを使用した場合は、絶縁電線の成形装置である押出機の負荷が低減するが、組成物を作製する混練機器での樹脂成分同士の分散(エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィン)、樹脂成分(エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリオレフィン)と後述するその他の構成成分(金属水和物、フェノール系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤)の分散が低下する場合がある。
メルトフローレイトのさらに好ましい範囲は、0.5〜5g/10分(エチレン・酢酸ビニル共重合体、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン: 荷重2.16kg、温度190℃、ポリプロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体: 荷重2.16kg、温度230℃)である。
【0017】
(c)金属水和物
本発明において、難燃剤として用いられる(c)金属水和物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物があげられる。
これらの金属水和物は、単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
また、本発明においては、シランカップリング剤で表面処理した金属水和物を用いることで、良好な引張特性を有する絶縁電線を得ることが可能になる。
また、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤を併用、またはさらにチオエーテル系酸化防止剤を含有することによりPVC接触による熱劣化することなく金属水和物を使用した耐熱性の良好な難燃性を有する絶縁電線を得ることが可能となる。
【0018】
表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、通常使用されるものを特に制限なく用いることができるが、アミノ基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基などの有機官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、難燃性、引張特性の点から、ビニル基および/またはエポキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましい。
このようなものとしては、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどがあげられる。
【0019】
シランカップリング剤で表面処理された金属水和物としては、あらかじめシランカップリング剤で表面処理された金属水和物を使用してもよいし、未処理もしくは表面処理済みの金属水和物とともにシランカップリング剤を配合し、表面処理を行ってもよい。
このときのシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.1〜2.0質量%が好ましい量である。
【0020】
金属水和物の配合量は、単独もしくは混合物中における酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満である(a)エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくは(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンの混合物100質量部に対して、50〜160質量部であり、好ましくは、70〜120質量部である。
金属水和物の配合量が(a)または(b)100質量部に対して、50質量部より少ないと、電線の規格であるJIS C3005やJASO D608で規定される燃焼試験に不合格となる可能性がある。
一方、金属水和物の配合量が(a)または(b)100質量部に対して、160質量部を超えると前記JASO D608で規定される引張伸びが不十分となったり、樹脂組成物が硬質化し、電線の柔軟性が低下する可能性がある。
【0021】
また、これらの金属水和物の種類については、耐熱性の点では、水酸化マグネシウムが好ましいく、他部材との共存性の点では、水酸化アルミニウムが好ましい。
このようなものとしては、例えば、水酸化マグネシウムでは、「キスマ5」「キスマ5A」「キスマ5B」「キスマ5J」「キスマ5L」「キスマ5P」(協和化学工業)、「マグニフィンH−7」「マグニフィンH−10」(アルベマールコーポレーション)、「マグシーズN−1」「マグシーズN−3」(神島化学工業)、水酸化アルミニウムとしては、「ハイジライトH42M」「ハイジライトH43M」「ハイジライトH42STV」(昭和電工)、「B1403」「B1403T」(日本軽金属)などがある。
【0022】
(d)フェノール系酸化防止剤、(e)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、(f)チオエーテル系酸化防止剤
自動車などに使用される電線、特に、耐熱性が要求される部位に配策される電線の被覆材料は、電子線架橋法や化学架橋法などによって架橋することで、その耐熱性を向上させている。
自動車では、JASO D608 に記載される耐熱架橋PE電線(120℃×10000時間後、引張伸び100%)、電気・電子機器では、UL125℃耐熱電線(158℃×168時間後、引張強度残率70%以上、引張伸び残率65%以上)、UL150℃耐熱電線(180℃×168時間後、引張強度残率70%以上、引張伸び残率65%以上)などの高い耐熱寿命や、厳しい加熱老化試験規格に合格させるためには、架橋するだけでなく、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤などのラジカル連鎖禁止剤を高配合したり、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの過酸化物分解剤を併用したりすることによる相乗効果で、その耐熱性を向上させる方法がとられている。
【0023】
しかしながら、上記の方法は、ポリオレフィンにハロゲン系難燃剤を配合した組成物の架橋体を被覆した電線では、効果があるものの、金属水和物を高充填したポリオレフィン系樹脂(ポリオレフィン、エチレン系共重合体)では、その効果が低減し、特に、JASO D608に記載される120℃×10000時間の耐熱寿命や、ハイブリット自動車等の高電圧・高電流化や高密度化の進行により、今後、要求される可能性があるさらに高い耐熱寿命(例えば、150℃×10000時間)を有する電線の提供は難しい状況である。
【0024】
本発明における(d)フェノール系酸化防止剤、(e)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、(f)チオエーテル系酸化防止剤は、単独もしくは混合物中における酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満であるエチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはエチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンの混合物と金属水和物からなる組成物の架橋体に120℃×10000時間、150℃×10000時間の高い耐熱寿命を付与するために配合される。特にPVC樹脂を含有する電線と混在する際に生じやすいPVC接触による熱劣化をすることなく、耐熱性を付与することができる。
【0025】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール−ビス(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5,−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどがあり、これらの中でも、組成物、電線に高い耐熱性を付与する点から、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル基もしくは3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル基を2個以上有するものが好ましく、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0026】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、4−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、5−メルカプトメチルベンゾイミダゾールやこれらの亜鉛塩などがある。
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)などがあり、これらの中でも、組成物、絶縁電線に高い耐熱性を付与する点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0027】
自動車などに使用される耐熱電線においては、その生産性の点から、導体を被覆する組成物を電子線架橋法によって架橋することが一般的であり、電子線照射時にパーオキシラジカルやハイドロパーオキサイドが大量に発生することから、組成物に添加されている酸化防止剤を大量に消費してしまうという問題がおこる。
このため、本発明の組成物に添加される酸化防止剤の量は、一般の非架橋組成物に添加される酸化防止剤の10倍以上となる。
【0028】
本発明におけるフェノール系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤の配合量は、単独もしくは混合物中における酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満であるエチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはエチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンの混合物100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤は、2〜10質量部、好ましくは4〜8質量部、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、10〜25質量部、好ましくは10〜20質量部である。
フェノール系酸化防止剤の配合量が2質量部より少ないと、架橋後の組成物やそれを被覆した電線において、耐熱性向上の効果がみられず、10質量部をこえると、耐熱性向上の効果が飽和したり、架橋阻害により、引張特性が低下したりする場合がある。
【0029】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤と組み合わせることにより、架橋後の組成物やそれを被覆した電線の耐熱性を、さらに、向上させることができるが、その融点が300℃付近であることから、配合量が多い場合は、組成物中で分散不良を起こし、引張特性を低下させる場合がある。
このため、前述したように、樹脂成分であるエチレン・酢酸ビニル共重合体やポリオレフィンのメルトフローレイト(MFR)を好ましくは0.1〜10g/10分、より好ましくは0.5〜5g/10分とすることで、組成物や絶縁電線の成形装置である混練機器や押出機の負荷が増大しない範囲で、樹脂の溶融粘度を増加させ、混練性を向上させることが有効である。
しかし、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の配合量が10質量部より少ないと、架橋後の組成物やそれを被覆した電線において、120℃×10000時間、150℃×10000時間の高い耐熱寿命を得ることが困難であり、25質量部をこえると、引張特性の低下がみられる場合がある。
【0030】
チオエーテル系酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤と併用することによる相乗効果で、組成物の耐熱性を向上させることができる。
チオエーテル系酸化防止剤は、液体のものや、30〜70℃程度の低融点のものが多く、組成物中における分散性などが向上する反面、多量に配合した場合には、組成物の表面に容易に析出し、絶縁電線の外観を損なわせたり、導体−絶縁体間の密着力を著しく低下させたりするという問題がある。
本発明におけるチオエーテル系酸化防止剤の配合量は、単独もしくは混合物中における酢酸ビニル含有量が10質量%以上40重量%未満であるエチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはエチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンの混合物100質量部に対して、0〜10質量部、好ましくは1〜5質量部である。
チオエーテル系酸化防止剤を組成物に配合することで、より高い耐熱性を付与できるが、その配合量が10質量部をこえると、ブリードするため、絶縁電線では、導体−絶縁体間の引抜力が低下したり、周囲温度の変化により表面でブルーミングする現象がみられるため、好ましくない。
【0031】
本発明の組成物には、電線やケーブルなどにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、分散剤、顔料などを本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ適宜配合することができる。
【0032】
本発明の電線(絶縁電線)は、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練装置で溶融混練した上記(a)〜(f)の成分を含む組成物を、通常の電線製造用押出成形機を用いて導体周囲に押出被覆し、その後、その被覆層を架橋することにより製造することができる。
架橋の方法は特に制限はなく、化学架橋法でも電子線架橋法でも行うことができるが、生産性の点から電子線照射による架橋法が好ましい。
本発明の絶縁電線の製造において電子線照射で架橋する場合、電子線の線量は50〜250kGyが好ましく、効率よく架橋をおこなうために、組成物にメタクリレート系化合物、アリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
【0033】
本発明の絶縁電線の導体径や導体の材質などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。
絶縁体(被覆層)の厚さも特に制限はなく、通常のものと同様でよい。
また、上記の組成物で形成した絶縁体と導体の間に中間層を設けるなど、被覆層が多層構造のものであってもよい。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
表1および表2に示す割合にて、各成分をバンバリーミキサーで混練りし、さらにロールでシート状に成型した後、加熱したプレス設備にて厚さ1mmのシートに成型した。
次に成型したシートに照射量120kGyの電子線照射を行った。
また、各成分をバンバリーミキサーで混練りした組成物を導体径5.0mmの裸軟銅線(構成: 7本/22本/素線径0.32mm)に絶縁厚さ1.0mm、外径を7.0mmに押出後、照射量120kGyにて電子線照射を行った。得られたシートおよび電線について以下の試験を実施した。
なお、表1および表2の各成分として以下を使用した。
(1)エチレン・酢酸ビニル共重合体
エバフレックスV527−4 (商品名 三井・デュポンポリケミカル社製)
酢酸ビニル含有量 17質量%
MFR 0.8g/10分
(2)エチレン・酢酸ビニル共重合体
V220 (商品名 宇部丸善ポリエチレン社製)
酢酸ビニル含有量 20質量%
MFR 2.0g/10分
(3)エチレン・酢酸ビニル共重合体
エバフレックスEV40LX (商品名 三井・デュポンポリケミカル社製)
酢酸ビニル含有量 41質量%
MFR 2.0g/10分
(4)変性ポリエチレン
アドテックスL6100M (商品名 日本ポリオレフィン社製)
MFR 1.0g/10分
(5)低密度ポリエチレン
UBEC130 (商品名 宇部丸善ポリエチレン社製)
MFR 0.28g/10分
(6)シランカップリング剤処理水酸化アルミニウム
ハイジライトH42STV (商品名 昭和電工社製)
ビニルシラン処理水酸化アルミニウム
(7)シランカップリング剤処理水酸化マグネシウム
キスマ5L (商品名 協和化学社製)
ビニルシラン処理水酸化マグネシウム
(8)水酸化アルミニウム
ハイジライトH42M (商品名 昭和電工社製)
(9)シランカップリング剤
KBE502 (商品名 信越シリコーン社製)
3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン
(10)フェノール系酸化防止剤
イルガノックス1010 (商品名 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(11)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤
ノクラックMBZ (商品名 大内振興化学社製)
2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩
(12)チオエーテル系酸化防止剤
アデカスタブAO−412S (商品名 旭電化社製)
ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)
(13)架橋助剤
オグモントT−200 (商品名 新中村化学工業社製)
トリメチロールプロパントリメタクリレート
(14)滑剤
シナカレッドZS−101 (商品名 品川化工社製)
ステアリン酸亜鉛
【0036】
引張特性
得られたシートをJIS K6301で規定されたダンベル状4号形打抜型で、ダンベル形状に打ち抜き、標線20mm、引張速度200mm/minで測定を実施した。
JIS K6301では、引張強さ10.3MPa以上、伸び150%以上が要求される。
【0037】
耐熱性
得られたシートをJIS K6301で規定されたダンベル状4号形打抜型で、ダンベル形状に打ち抜き、180℃の恒温槽に30日間暴露したのち、標線20mm、引張速度 200mm/minで測定を実施した。
180℃×30日後の引張伸びが100%以上の場合、アレニウス・プロットによる外挿予測にて150℃×10000時間の耐熱寿命に相当することがわかっており、引張伸びが100%以上が要求される。
【0038】
耐熱性(PVCテープ共存性)
得られた電線を約600mmに切断し、全長に渡り耐熱PVCテープをテープ幅の1/3が重なるようにらせん状に巻回し、180℃の恒温槽に15日および30日暴露したのち、耐熱PVCテープを除去し電線と同外径(7.0φmm)のマンドレルに6ターン巻き付け絶縁体表面のクラック・割れの確認を実施した。クラック・割れが発生していないものが合格となり、180℃×15日で合格することが要求される。
【0039】
難燃性
得られた電線について、JIS C3005に規定されている難燃・水平試験を実施し、合格したものを○、不合格のものを×と表記した。
【0040】
電線特性(絶縁体密着力)
得られた電線を長さ約150mmに切断し、片側の端末部から長さ50mmの絶縁体を残して被覆を取り除いたものを試料とし、導体外径より大きく、かつ絶縁体外径より小さい孔を有する冶具に前記試料の導体部分のみを通し、冶具を固定した状態で導体を200mm/minで引抜き、導体が被覆から完全に分離するまでの力を測定し、この最大値を絶縁体密着力とした。
密着力が過大の場合、絶縁電線の端末に端子などを圧着するために被覆を除去する場合に絶縁体が引き抜けず、過小の場合には絶縁体が電線の長手方向に動いて導体が露出し、短絡を引き起こす可能性があることから、7N以上50N以下であることが要求される。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1の実施例1〜6に示したシートおよび絶縁電線は、いずれも機械特性、耐熱特性、難燃性、絶縁体引抜力が良好な結果となった。
【0044】
一方、表2の比較例1については、組成物の樹脂混合物中における酢酸ビニル含有量が8.5質量%となっており、酢酸ビニル含有量が過少であるため、金属水和物を上限の160質量部配合しても難燃性が不合格となっている。
比較例2については、組成物の樹脂の全量が酢酸ビニル含有量が41質量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体で構成されており、酢酸ビニル含有量が過多であるため、引張強度が低下し、10.3MPaを下回り不合格となっている。
比較例3については、金属水和物の配合量が過少のため、難燃性が不合格となっている。
比較例4については、金属水和物の配合量が過多のため、引張伸びが低下し、150%を下回り不合格となっている。
比較例5、6については、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤の添加量が過少のため、180℃×30日後の引張伸びが100%未満となっており、耐熱性が不足している。
比較例7、8については、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤の添加量が過多のため、比較例7については分散不良により引張伸びが低下し、150%を下回り不合格となっている。比較例8については、架橋阻害により引張強度が低下し、10.3MPaを下回り不合格となっている。
比較例9については、チオエーテル系酸化防止剤の添加量が過多のため、ブリードが発生し、導体−絶縁体間の密着力が過小となり、不合格となっている。
比較例10、11については、180℃×30日後の引張伸びが100%未満となっており、耐熱性が不足し、また、PVCテープとの触れた状態で、耐熱寿命の低下が早いものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル含有量が10質量%以上40質量%未満である、(a)エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくは(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体とポリオレフィンとの混合物100質量部に対して、(c)金属水和物50〜160質量部、(d)フェノール系酸化防止剤2〜10質量部、(e)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤10〜25質量部、(f)チオエーテル系酸化防止剤0〜10質量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(c)金属水和物が、シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)金属水和物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、または水酸化アルミニムおよび水酸化マグネシウムの混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された難燃性樹脂組成物で導体を被覆し、架橋処理したことを特徴とする電線。

【公開番号】特開2009−286903(P2009−286903A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141122(P2008−141122)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】