説明

難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】安価で、耐寒性や耐摩耗性、耐温水性に優れる難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供すること。
【解決手段】1〜15重量%の範囲内でエチレン単位を含有するプロピレン系重合体と、天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムとを含有してなる難燃性樹脂組成物とする。水酸化マグネシウムは、組成物中のポリマー成分100重量部に対して、50〜200重量部であることが好ましい。さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していると良い。前記プロピレン系重合体は、−20℃でのシャルピー衝撃値が3〜8KJ/mであることが好ましい。そして、上記難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる絶縁電線およびこの絶縁電線を含むワイヤーハーネスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに用いられる絶縁電線の被覆材として好適な難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線の被覆材としては、一般に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物が広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、絶縁電線の被覆材として、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂が用いられている。オレフィン系樹脂は、単独では難燃性がないため、難燃剤として水酸化マグネシウム等の金属水和物が添加されている。例えば水酸化マグネシウムとしては、海水から合成されたものが良く用いられている。
【0005】
ところが、オレフィン系樹脂に十分な難燃性を確保するためには、水酸化マグネシウムを多量に添加する必要がある。そして、海水から合成した水酸化マグネシウムは高価なため、製造コストが増大するという問題があった。
【0006】
そこで、比較的安価な天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムを難燃剤として用いる試みもされている。
【0007】
例えば特許文献1には、プラスチックまたはゴムと、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕品を脂肪酸などで表面処理した難燃剤とからなる難燃性組成物が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平07−161230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムは、天然鉱物を粉砕して製造されるため、海水から合成された水酸化マグネシウムと異なり、粒子径が不揃いで尖った形状をしている。そのため、互いに凝集しやすくなり、材料の耐寒性や耐摩耗性、耐温水性が低下するという問題があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、安価で、耐寒性や耐摩耗性、耐温水性に優れる難燃性樹脂組成物ならびにこれを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、1〜15重量%の範囲内でエチレン単位を含有するプロピレン系重合体と、天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムとを含有してなることを要旨とするものである。
【0012】
この場合、組成物中のポリマー成分100重量部に対して、前記水酸化マグネシウムを50〜200重量部含有してなることが望ましい。
【0013】
そして、さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していても良い。
【0014】
このとき、前記プロピレン系重合体に対する前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が、30/70〜5/95の範囲内にあることが望ましい。
【0015】
そして、前記プロピレン系重合体は、−20℃でのシャルピー衝撃値が3〜8KJ/mであることが好ましい。
【0016】
一方、本発明に係る絶縁電線は、上記難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなることを要旨とするものである。
【0017】
そして、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含むことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、ポリマー成分中に、特定範囲内のエチレン単位と、プロピレン単位とを含有し、難燃剤として、水酸化マグネシウムを含有している。そのため、難燃性や耐寒性、耐摩耗性、耐温水性に優れる。そして、含有している水酸化マグネシウムは、天然鉱物を原料とするので、従来の合成水酸化マグネシウムを使用する場合に比べて安価になる。
【0019】
ここで、天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムは、鉱物を粉砕して製造されるため、表面に大きな凹凸を有する。そのため、材料の耐温水性、耐寒性および耐摩耗性を低下させやすいが、これらの特性が低下するのを抑止することができる。これは、ポリマー成分に添加される水酸化マグネシウム粒子が、プロピレン系重合体中に特定の割合で含有されるエチレン単位と親和性が良いので、混合時にポリマー成分中に高分散され、凝集しにくくなっているためと推測される。
【0020】
この場合、組成物中のポリマー成分100重量部に対して、前記水酸化マグネシウム50〜200重量部を含有させれば、十分な難燃性を確保することができる。
【0021】
そして、さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していれば、柔軟性に優れる。
【0022】
このとき、前記プロピレン系重合体に対する前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が30/70〜5/95の範囲内にあれば、上記効果が高い。
【0023】
そして、前記プロピレン系重合体の−20℃でのシャルピー衝撃値が3〜8KJ/mであれば、耐寒性および柔軟性に非常に優れる。
【0024】
一方、本発明に係る絶縁電線およびこの絶縁電線を含むワイヤーハーネスによれば、上記難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆するので、絶縁被覆材の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、プロピレン系重合体と、難燃剤として水酸化マグネシウムとを含有するものからなる。
【0027】
プロピレン系重合体は、1〜15重量%の範囲内でエチレン単位を含有している。より好ましくは、3〜12重量%である。ここで、エチレン単位とは、エチレン単量体を単重合または共重合させたときにエチレン単量体から形成される単位をいう。
【0028】
プロピレン系重合体がエチレン単位を含有する形態としては、プロピレン系重合体の分子構造中にエチレン単位を含有する形態が好ましい。このような形態のプロピレン系重合体としては、例えば、エチレンとプロピレンとの共重合体や、エチレンとプロピレンと他のモノマーとの共重合体などを例示することができる。他のモノマーとしては、例えば、1−ブテンなどを例示することができる。他のモノマーは、1種または2種以上含んでいても良い。
【0029】
エチレンとプロピレンとの共重合体としては、エチレンとプロピレンとをブロック的に共重合させたブロックコポリマーや、ランダムに共重合させたランダムコポリマーなどがある。同様に、エチレンとプロピレンと他のモノマーとの共重合体においても、ブロックコポリマーやランダムコポリマーなどがある。これらにおいて、エチレン単位の含有率は、共重合体中のエチレン単位の含有量で表される。
【0030】
また、他の含有形態としては、プロピレンホモポリマーとエチレン重合体とを混合する形態がある。エチレン重合体は、エチレン単独の重合体でも良いし、他のモノマーとの共重合体でも良い。他のモノマーとしては、例えば、1−ペンテンなどを例示することができる。他のモノマーは、1種または2種以上含んでいても良い。エチレン重合体としては、例えば、エチレンゴムやエチレン−プロピレンゴム等を例示することができる。この場合、エチレン単位の含有率は、混合物中におけるエチレン単位の含有量で表される。
【0031】
プロピレン系重合体におけるエチレン単位の含有量は、例えばNMRなどにより測定することができる。この含有量を基に、含有率を算出する。例えばNMRでは、プロピレン系重合体におけるエチレン単位のピーク面積を測定することにより、エチレン単位の含有量が求まる。
【0032】
プロピレン系重合体は、メルトフローレイト(MFR)が0.1〜5g/10minの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.1〜3g/10minの範囲内である。MFRが0.1g/10min未満では、樹脂組成物の流動性が低下しやすく、5g/10minを超えると、機械的特性などが低下しやすいからである。なお、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K6758に準拠して測定される(温度230℃、荷重2.16Kg)。
【0033】
また、プロピレン系重合体は、−20℃でのシャルピー衝撃値が3〜8KJ/mであることが好ましい。より好ましくは、3〜6.5KJ/mである。シャルピー衝撃値が3KJ/m未満では、耐寒性が低下しやすく、8KJ/m以上では、絶縁電線の柔軟性が損なわれやすいからである。なお、シャルピー衝撃値は、ISO179に準拠して測定される。
【0034】
組成物中のポリマー成分には、さらに、熱可塑性エラストマーを含有していても良い。熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーや1,2−ポリブタジエンなどを例示することができる。
【0035】
スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレンと共重合させる成分としては、エチレンやプロピレン、ブタジエン、イソプレンなどを例示することができる。これらは単独で共重合させても良いし、複数組み合わせて共重合させても良い。
【0036】
具体的には、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)などを例示することができる。
【0037】
スチレンをハードセグメント、スチレンに挟まれたポリマーをソフトセグメントとして、ハードセグメントとソフトセグメントの割合は、ハードセグメント/ソフトセグメントが、重量比で10/90〜40/60の範囲内にあることが好ましい。
【0038】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーは、酸変性したものであっても良い。酸としては、例えば、マレイン酸およびその誘導体である無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルや、フマル酸およびその誘導体である無水フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステルなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0039】
スチレン系熱可塑性エラストマーに酸を導入する方法としては、グラフト法や直接(共重合)法などが挙げられる。また、酸変性量としては、スチレン系熱可塑性エラストマーに対して0.1〜10重量%、好ましくは、0.2〜5重量%である。酸変性量が0.1重量%未満であると、耐摩耗性が低下する傾向が見られ、また、10重量%を越えると、成形加工性が悪化する傾向が見られるからである。
【0040】
上記プロピレン系重合体に対する上記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量比は、30/70〜5/95の範囲内にあることが好ましい。柔軟性に優れるからである。
【0041】
そして、組成物中のポリマー成分には、さらに、ブタジエンゴムやイソプレンゴムなどのゴムを含有していても良い。これらのゴムは、酸変性したものであっても良い。例えば、コアシェル構造を有する変性ブタジエンゴムや、コアシェル構造を有する変性イソプレンゴムなどを例示することができる。
【0042】
難燃剤としての水酸化マグネシウムは、天然鉱物を原料とするものが良い。いわゆる、天然ブルーサイト鉱石由来のもので、水酸化マグネシウムを主成分とする天然ブルーサイト鉱石を湿式または乾式粉砕するなどして製造されるものである。天然鉱物を粉砕して製造されるので、合成品の水酸化マグネシウムと比較して製造コストは安くなる。
【0043】
水酸化マグネシウムは、組成物中のポリマー成分100重量部に対して、50〜200重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、50〜100重量部の範囲内である。50重量部未満では、難燃性が低下しやすく、200重量部を超えると、十分な機械的特性が得られにくいからである。
【0044】
水酸化マグネシウムは、粉砕処理によって微粒子にする。その粒径は、0.5〜20μmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜10μm、さらに好ましくは、0.5〜5μmである。粒径が0.5μm未満では、二次的な凝集が発生しやすく電線特性が悪化しやすい傾向があり、20μmを超えると、電線の外観が悪くなりやすいからである。
【0045】
粉砕処理により得られる水酸化マグネシウムは、表面に大きな凹凸を有する。そのため、水酸化マグネシウムを組成物中に単純に高充填しただけでは、材料の耐温水性、耐寒性および耐摩耗性を低下させやすい。しかしながら、本発明に係る難燃性樹脂組成物は、特定割合でエチレンを含有しているので、これらの特性が低下するのを抑止することができる。これは、ポリマー成分に添加される水酸化マグネシウム粒子が、プロピレン系重合体中に特定の割合で含有されるエチレン単位と親和性が良いので、混合時にポリマー成分中に高分散され、凝集しにくくなっているためと考える。
【0046】
また、上記水酸化マグネシウムは、表面に大きな凹凸を有することから、樹脂との密着性が低下しやすい。そのため、表面処理をしても良い。表面処理剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0047】
表面処理剤は、水酸化マグネシウム100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3重量部の範囲内である。0.1重量部未満では、電線特性の向上効果が低下しやすく、10重量部を超えると、過剰に添加されたものが不純物として残存しやすくなり、電線の物性を低下させやすいからである。
【0048】
なお、表面処理された水酸化マグネシウムを用いる場合、予め表面処理剤により表面処理された水酸化マグネシウムを組成物中に配合しても良いし、未処理状態の水酸化マグネシウムを表面処理剤とともに組成物中に配合して表面処理を行っても良く、特に限定されるものではない。
【0049】
また、本発明に係る難燃性樹脂組成物中には、必要に応じて、当該組成物の物性を損なわない範囲で他の添加剤が配合されていても良い。例えば、電線被覆材などに用いられる一般的な充填剤や、顔料、酸化防止剤、老化防止剤などが配合されていても良く、特に限定されるものではない。
【0050】
上述した本発明に係る難燃性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、プロピレン系重合体を含むポリマー成分と、水酸化マグネシウムと、必要に応じて、上記任意の高分子成分や他の添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0051】
次に、本発明に係る絶縁電線およびワイヤーハーネスについて説明する。
【0052】
本発明に係る絶縁電線は、上述する難燃性樹脂組成物を絶縁被覆材の材料として用いたものである。絶縁電線の構成としては、導体の外周に直接、絶縁被覆材が被覆されていても良いし、導体とこの絶縁被覆材との間に、他の中間部材、例えば、シールド導体や他の絶縁体などが介在されていても良い。
【0053】
導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、絶縁被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0054】
上記絶縁電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて溶融混練した本発明に係る難燃性樹脂組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。
【0055】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含んでなるものである。上記絶縁電線のみで構成される電線束であっても良いし、他の樹脂組成物が被覆された絶縁電線、例えば、塩化ビニル系の絶縁電線やハロゲン元素を含有しない他の絶縁電線などを含んで構成される電線束であっても良い。電線束は、例えばワイヤーハーネス保護材により被覆されていると良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0056】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂組成物が好ましい。樹脂組成物には、難燃剤を適宜添加すると良い。
【0057】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0059】
(供試材料および製造元など)
本実施例において使用した供試材料を製造元、商品名、物性値などとともに示す。なお、一部のものについては実験室で試作したものを使用した。
【0060】
(A)ポリプロピレン系重合体
(a1)エチレン−プロピレン共重合体(試作品)[エチレン単位含有率5%、シャルピー衝撃値=5.1KJ/m
(a2)エチレン−プロピレン共重合体(試作品)[エチレン単位含有率8%、シャルピー衝撃値=6.4KJ/m
(a3)ポリプロピレン[プライムポリマー(株)製、商品名「E−105GM」、エチレン単位含有率0%]
(a4)エチレン−プロピレン共重合体(試作品)[エチレン単位含有率17%、シャルピー衝撃値=8.3KJ/m
【0061】
(B)スチレン系熱可塑性エラストマー
(b1)スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)[クラレ(株)製、商品名「セプトン4044」]2%酸変性
(b2)スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)[クラレ(株)製、商品名「セプトン4055」]
(b3)スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)[クラレ(株)製、商品名「セプトン1020」]
(b4)スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)[クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「クレイトンFG1901X」]
(b5)スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)[旭化成(株)製、商品名「タフテックH1041」]2%酸変性
(b6)スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)[クラレ(株)製、商品名「セプトン2002」]2%酸変性
なお、(b1)、(b5)、(b6)は、購入した商品を実験室で酸変性したものである。これらの酸変性品は、無水マレイン酸がグラフト付加されたものである。
【0062】
(C)難燃剤
(c1)水酸化マグネシウム[ファイマテック(株)製、商品名「ジュンマグ」]
なお、水酸化マグネシウムは、天然鉱物の粉砕品であり、シランカップリング剤を水酸化マグネシウム100重量部に対して1重量部添加して表面処理したものとした。
【0063】
(D)老化防止剤
(d1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
【0064】
(組成物および絶縁電線の作製)
初めに、二軸混練機を用いて、後述の表に示す各成分を混合温度250℃にて混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して本実施例に係る組成物と比較例に係る組成物を得た。次いで、得られた各組成物を、50mm押出機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm)の外周に0.25mm厚で押出被覆し、本実施例に係る絶縁電線および比較例に係る絶縁電線を作製した。
【0065】
(試験方法)
以上のように作製した各絶縁電線について、難燃性試験、耐寒性試験、耐摩耗性試験、耐温水性試験、および引張伸び試験を行った。以下に各試験方法および評価方法について説明する。
【0066】
(難燃性試験)
JASO D611−94に準拠して行った。すなわち、先ず、実施例および比較例に係る絶縁電線を300mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、各試験片を鉄製試験箱に入れて水平に支持し、口径10mmのブンゼンバーナーを用いて還元炎の先端を試験片中央部の下側から30秒以内で燃焼するまで当て、炎を静かに取り去った後の残炎時間を測定した。この残炎時間が15秒以内のものを合格とし、15秒を超えるものを不合格とした。
【0067】
(耐寒性試験)
JIS C3005に準拠して行ない、−20℃以下で試験片が全て割れない場合を合格とした。
【0068】
(耐摩耗性試験)
ISO6722に準拠して行ない、試験回数4回の最小値が300回以上を合格とした。
【0069】
(耐温水性試験)
ISO6722に準拠して行ない、35日後に導体の露出がなく、耐電圧試験で絶縁破壊が起きないことを合格とした。
【0070】
(引張伸び試験)
JASO D611に準拠して行ない、200mm/minでの伸び率が300%以上を合格とした。
【0071】
表1に、組成物の配合および評価結果を示す。なお、表1に示すエチレン単位含有率は、ポリプロピレン系重合体におけるエチレン単位量を重量%で表したものである。
【0072】
【表1】

【0073】
比較例に係る絶縁電線は、難燃性、耐寒性、耐摩耗性、耐温水性、引張り伸び強度の評価項目のうち、何れかに難点があることが分かる。
【0074】
具体的には、比較例1では、エチレン単位を含有していないポリプロピレン系重合体を用いているため、耐寒性に劣っている。また、引張り伸び強度にも劣っている。比較例2〜5では、エチレン単位の含有率が15重量%よりも高いポリプロピレン系重合体を用いているため、耐摩耗性に劣っている。比較例4では、耐摩耗性の他、耐温水性にも劣っている。また、比較例5では、耐摩耗性の他、難燃性にも劣っている。
【0075】
これらに対して、実施例に係る絶縁電線は、難燃性、耐寒性、耐摩耗性、耐温水性、引張り伸び強度ともに、優れていることが確認できた。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、例えば、車両部品、電気・電子機器部品などに用いられる絶縁電線の被覆材に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜15重量%の範囲内でエチレン単位を含有するプロピレン系重合体と、天然鉱物を原料とする水酸化マグネシウムとを含有してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
組成物中のポリマー成分100重量部に対して、前記水酸化マグネシウムを50〜200重量部含有してなることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記プロピレン系重合体に対する前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量比が、30/70〜5/95の範囲内にあることを特徴とする請求項3に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記プロピレン系重合体は、−20℃でのシャルピー衝撃値が3〜8KJ/mであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を導体の外周に被覆してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2008−144066(P2008−144066A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334055(P2006−334055)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】