説明

難燃性樹脂組成物及びその成形体

【課題】シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の優れた機械的強度、電気特性、耐熱性、耐薬品性及び耐加水分解性等の特性を損なわず、難燃性及び耐トラッキング性に優れ、低ハロゲンという環境ニーズを満足する難燃性樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】(A)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体1質量部に対し、(B)ポリアリーレンスルフィド1〜10質量部、(C)水酸化マグネシウム4〜15質量部及び(D)ガラス繊維1〜20質量部を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物及びその成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及び成形体に関する。詳しくは、機械的強度、電気特性、耐熱性、耐薬品性及び耐加水分解性等に優れ、特に低ハロゲンという環境ニーズを満たす優れた難燃性及び耐トラッキング性を有し、コネクタ、ソケット、端子台、プラグ、スイッチ等の電気・電子部品に好適な難燃性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりの中で、電気・電子分野においてハロゲン系難燃剤を使用せず、あるいは半田に鉛を使用しない等の技術開発がなされており、それに伴い電気特性や耐熱性の良いエンジニアリングプラスチックにおいて環境対応化が求められている。
一方、主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(シンジオタクチックポリスチレン、SPS)は優れた耐薬品性、耐熱性、電気特性及び吸水寸法安定性を有しており、エンジニアリングプラスチックとして種々の工業部品に用いられている。
SPSを電気・電子部品として使用する場合、難燃化を行うことで火災に対する安全性を高める必要がある。しかし、SPSはその耐熱性の高さから使用できる難燃剤に制約が多く、SPSを難燃化するためにはハロゲン系難燃剤を使用せざるを得ないのが現状である。
【0003】
一般に、ハロゲン系難燃剤を使用せずに樹脂の難燃化を達成するためには、水酸化マグネシウム等の金属水和物やホスファゼン系化合物等が使用されるが、これらはハロゲン系難燃剤と比較して難燃化効果が低く、全ての樹脂に適用できるわけではない。例えば、オレフィン系、フェニレンエーテル系あるいはアミド系の樹脂について、ハロゲン系難燃剤を使用せず金属水和物やホスファゼン系化合物を使用し難燃性を付与する技術が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、これらの技術をスチレン系樹脂に適用しても効果的でないことは、スチレン系樹脂について検討がなされていないことからも明らかである。
また、シンジオタクチック構造を有するポリスチレンに関しては、ポリフェニレンエーテル(PPE)との相溶化という特徴を利用してハロゲン系難燃剤不使用で難燃性を付与する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、特許文献3のような技術では、SPSをPPEとアロイ化させると相溶化のために結晶化速度が極端に遅くなりSPSが本来有している耐熱性、耐薬品性等といった性能が失われてしまう。
そのため、SPSについて本来有している性能を生かしたまま難燃化する方法としてはハロゲン系難燃剤を使用せざるを得ないのが現状である(例えば、特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−170987号公報
【特許文献2】特開2006−16588号公報
【特許文献3】特開2004−107374号公報
【特許文献4】特開2005−132967号公報
【特許文献5】特開平11−124480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の優れた電気特性、耐熱性、耐薬品性及び耐加水分解性等の特性を維持し、特にハロゲン原子の含有量を一定値以下に制限しつつ難燃性が付与され、かつ耐トラッキング性が要求される電気・電子部品に好適な難燃性樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、(A)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体に(B)ポリアリーレンスルフィド、(C)水酸化マグネシウム及び(D)ガラス繊維を特定の割合で含有させた樹脂組成物により、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の難燃性樹脂組成物及びその成形体を提供する。
1.(A)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体1質量部に対し、(B)ポリアリーレンスルフィド1〜10質量部、(C)水酸化マグネシウム4〜15質量部及び(D)ガラス繊維1〜20質量部を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
2.樹脂組成物中にハロゲン系難燃剤を含まない上記1に記載の難燃性樹脂組成物。
3.(B)成分に対する(A)成分と(C)成分との合計量の比〔[(A)+(C)]/(B)〕が質量基準で1.8以上である上記1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
4.樹脂組成物中の塩素及び塩素化合物の含有量が塩素原子換算で1000ppm以下である上記1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
5.上記1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
6.上記5に記載の成形体を含む電気・電子部品。
7.上記5に記載の成形体を含む電気配線器具。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体の優れた電気特性、耐熱性、耐薬品性及び耐加水分解性等の特性を損なわず、特にハロゲン系難燃剤を使用せずに成形体の厚さ0.8mmで優れた難燃性を有するため、樹脂組成物中のハロゲン原子量が一定量以下に制限されて低ハロゲンの環境ニーズを満たし、かつ電気・電子部品等に要求される耐トラッキング性を十分満足し、また電気・電子部品の接合に用いられる融解温度が比較的高い鉛フリー半田等の使用に十分耐え得る耐熱性を有する環境対応型の難燃性樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】樹脂組成物中の(A)成分及び(C)成分の含有量と難燃性評価との関係を示したグラフである。
【図2】質量比〔[(A)+(C)]/(B)〕と耐トラッキング性(CTI)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[樹脂組成物]
本発明の難燃性樹脂組成物は、(A)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体、(B)ポリアリーレンスルフィド、(C)水酸化マグネシウム及び(D)ガラス繊維を必須成分とするものであり、これら各成分を特定の割合で含有することにより得られる。(A)〜(D)成分及びその含有割合について説明する。
【0011】
((A)スチレン系重合体)
本発明における(A)スチレン系重合体は、主としてシンジオタクチック構造を有するものであり、特にその規則的な分子構造から結晶化するものにあってはアタクチック構造を有するものに比べて、耐熱性及び耐薬品性等に優れる特性を有するものである。
ここで、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明に言う主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体とは、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体を指称する(以下、SPSと略称することがある。)。
【0012】
例えば、上記ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(t−ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等が挙げられる。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。これらのうち特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
これらのSPSは一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
上記のようなSPSは、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報)。
【0014】
また、(A)成分の300℃におけるメルトフローレート〔MFR、荷重11.8Nで測定した値〕が2〜45g/10分の範囲にあることが好ましく、6〜25g/10分の範囲にあることがより好ましい。(A)成分のMFRがこの範囲にあれば、本発明において求められる機械的強度を充分に満足することができる。
本発明の樹脂組成物中における(A)成分の含有量は、2.5質量%以上であることが好ましい。2.5質量%以上とすることで、樹脂組成物を絶縁性に優れるものとすることができ、例えば、JIS C−2318法に準拠した絶縁破壊試験において、絶縁破壊電圧が20kV/mmを達成する効果を発揮し得る。
【0015】
((B)ポリアリーレンスルフィド)
本発明における(B)ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略称することがある。)は、難燃性や種々の機械的強度に優れることを特徴とするものである。
本発明で用いられるPASは、繰り返し単位が下記一般式(1)で示されるポリマーであることが好ましい。式(1)中、Arはアリーレン基、Sは硫黄を示す。
−(Ar−S)− ・・・(1)
繰り返し単位の(Ar−S)を1モル(基本モル)と定義した場合、本発明で用いられるPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。
【0016】
アリーレン基としては、p−フェニレン、m−フェニレン、o−フェニレン、アルキル置換フェニレン(好ましくは、炭素原子数1〜6のアルキル基)、フェニル置換フェニレン、ハロゲン置換フェニレン、アミノ置換フェニレン、アミド置換フェニレン、p,p’−ジフェニレンスルフォン、p,p’−ビフェニレン、p,p’−ビフェニレンエーテル、p,p’−ビフェニレンカルボニル及びナフタレン等の少なくとも一つのベンゼン環を含む二価の芳香族残基を挙げることができる。これらのアリーレン基からなるPASとしては、同一の繰り返し単位からなるホモポリマー、2種以上の異なるアリーレン基からなるコポリマー及びこれらの混合物を挙げることができる。上記のPASの中でも、p−フェニレンスルフィドを繰り返し単位の主構成要素とするポリフェニレンスルフィドが加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィド等を使用することができる。
【0017】
コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダム又はブロックコポリマー等を挙げることができる。これらのPASは、本発明の樹脂組成物の耐熱性の点から結晶性ポリマーであることが好ましい。
【0018】
また、PASは一般にその製造法により実質上直鎖状の分子構造のものと、分岐や架橋構造を有する構造のものを製造できることが知られており、本発明においてはその何れのタイプのものについても使用することができるが、直鎖状の分子構造のものが好ましい。
PASの製造法は、例えば極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法により製造することができる。分岐構造又は架橋構造を導入するためには、1分子当たり3〜6個のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を併用することで製造することができる。
極性溶媒としては、芳香族有機アミド溶媒が反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得やすいので好ましく用いられる。
なお、PAS中に含まれる塩素原子含有量が4500ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1500ppm以下である。
該数値以下であれば、樹脂組成物中の塩素及び塩素化合物の含有量を塩素原子換算で1000ppm以下とすることに有効である。ただし、PAS以外には塩素を含有する成分を含まないものとする。
【0019】
(B)成分の含有量は、(A)成分1質量部に対し1〜10質量部である。1質量部未満では、本発明が目的とする難燃性を付与することができず、例えば米国アンダーライターラボラトリー社が定めるUL規格94に準ずる垂直燃焼性試験において、樹脂組成物を成形した厚さ0.8mmの試験片では、V−0を達成することができない。10質量部超では、(A)成分が有する電気特性を維持することができないため好ましくない。好ましい(B)成分の含有量は、(A)成分1質量部に対し1.2〜8質量部であり、より好ましくは1.3〜7質量部である。
また、本発明の樹脂組成物中における(B)成分の含有量は、22質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。22質量%以上であれば、引っ張り強度や耐熱剛性等の機械的強度及び耐熱性において優れた樹脂組成物とすることができる。
【0020】
((C)水酸化マグネシウム)
本発明の樹脂組成物において、(C)水酸化マグネシウムを含有することにより、樹脂組成物中に分散し(C)成分の分解吸熱および脱水により燃焼を抑え難燃性を付与することができる。
本発明において(C)成分は、Mg(OH)2が80質量%以上含まれる高純度の水酸化マグネシウムであることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0021】
(C)成分としては,ブルーサイト(brucite)のような天然鉱物、公知の製法、例えば、マグネシウムイオンを含む水溶液にアルカリを加えてpHを上げることによりMg(OH)2を沈殿させる製法、海水を脱炭酸処理してMg(OH)2を得る製法、酸化マグネシウムを水中で水和反応させてMg(OH)2を生成させる方法等により得たMg(OH)2を使用することができる。
【0022】
(C)成分の形状は、粒子状、フレーク状及び繊維状のいずれであってもよい。
また、分散性が低下することにより発生する耐トラッキング性及び機械的強度の低下を防ぐために、形状が粒子状又はフレーク状の場合、平均粒子径は通常0.1〜10μm程度であり、好ましくは0.3〜5μm、より好ましくは0.5〜1μmである。繊維状の場合、平均繊維径は通常0.1〜5μm程度であり、好ましくは0.1〜3μmであり、含有前の平均繊維長は通常100μm以下、好ましくは80μm以下である。
(C)成分の比表面積(BET法)は、通常15m2/g以下であり、好ましくは10m2/g以下である。
【0023】
(C)成分の分散性をより向上させる目的及び機械的強度の低下を抑える目的で、(A)スチレン系重合体等との親和性を向上させるために表面処理剤により表面処理した水酸化マグネシウムを使用することが好ましい。
表面処理剤としては、トリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エトキシ)シラン、N−メチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、トリアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾリル)プロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン及びN,N−ビス(トリメチルシリル)ウレア等のシラン系カップリング剤、ステアリン酸、オレイン酸、モンタン酸及びステアリルアルコール等の長鎖脂肪酸や長鎖脂肪属アルコール等が挙げられる。
【0024】
(C)成分の含有量は、(A)成分1質量部に対し4〜15質量部である。(A)成分1質量部に対する(C)成分の含有量が4質量部未満では、例えば米国アンダーライターラボラトリー社が定めるUL規格94に準ずる垂直燃焼性試験において、樹脂組成物を成形した厚さ0.8mmの試験片でV−0を達成することができず、本発明が目的とする難燃性を付与することができない(後述の図1参照)。また、15質量部超では、樹脂組成物の成形性が悪化するため好ましくない。好ましい(C)成分の含有量は、(A)成分1質量部に対し4.5〜10質量部であり、より好ましくは4.5〜8質量部である。
【0025】
また、(B)成分に対する(A)成分と(C)成分との合計量の比〔[(A)+(C)]/(B)〕が質量基準で1.8以上であることが好ましい。該比が1.8以上であれば、例えばIEC規格Publ.112第二版に準拠した比較トラッキング試験において、比較トラッキング指数(CTI)が600V以上のクラス0を達成する効果が発揮され、本発明が目的とする耐トラッキング性に優れるものとすることができる(後述の図2参照)。
【0026】
((D)ガラス繊維)
本発明の樹脂組成物において、(D)ガラス繊維を含有することにより、樹脂組成物の引っ張り強度や耐熱剛性等の機械的強度及び耐熱性を向上させることができる。
本発明において、(D)成分の形態は、特に制限はなく、例えば、連続的に巻き取ったロービング、長さ10〜500μm程度に粉砕したミルドファイバー、長さ1〜10mmに切りそろえたチョップドストランド等の各種のものが挙げられ、またこれらを併用することもできる。
【0027】
(D)成分の断面の形状は一般的な真円状や異形断面形状のものを使用しても良い。(D)成分の平均繊維径は、通常1〜25μm程度であることが好ましい。平均繊維径が該範囲であれば、成形加工性や成形品の外観が損なわれずに樹脂組成物の機械的強度及び耐熱性の向上を図ることができる。
さらに、(D)成分は、(A)スチレン系重合体等との親和性を向上させるために、アミノシラン系、エポキシシラン系、ビニルシラン系、メタクリルシラン系等のシラン系カップリング剤等の表面処理剤により表面処理されたものであってもよい。表面処理は通常の公知の方法によればよく、特に制限はない。例えば、サイジング処理法、乾式混合法、スプレー法、インテグラルブレンド法及びドライコンセントレート法等適宜な方法にて行うことができる。
【0028】
(D)成分の含有量は、(A)成分1質量部に対し1〜20質量部である。1質量部未満では、本発明が目的とする樹脂組成物の機械的強度及び耐熱性を満足することができない。20質量部超では、樹脂組成物の成形性が悪化するため好ましくない。好ましい(D)成分の含有量は、(A)成分1質量部に対し1.5〜15質量部であり、より好ましくは1.5〜12質量部である。
【0029】
(任意成分)
〈フマル酸変性ポリフェニレンエーテル〉
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(D)成分の他に、各成分の相溶性や界面のぬれを向上させるために変性ポリフェニレンエーテルを含有させることができる。
ポリフェニレンエーテルの変性に用いられる変性剤としては、同一分子内にエチレン性二重結合と極性基とを有する化合物が使用でき、特にフマル酸が好ましく用いられる。
【0030】
変性ポリフェニレンエーテルは、例えば溶媒や他樹脂の存在下、ポリフェニレンエーテルと変性剤とを反応させることにより製造することができる。変性の方法については特に制限はなく、公知の方法、例えばロールミル、バンバリミキサー、押出機等を用いて150〜350℃の範囲の温度において溶融混練し反応させる方法等を用いることができる。さらに、これらの反応を容易にするために、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル及び2,3−ジフェニル−2,3−ジメチルブタン等のラジカル発生剤を存在させることが有効である。好ましい方法としては、ラジカル発生剤の存在下に溶融混練する方法である。
【0031】
特に、本発明においてフマル酸変性ポリフェニレンエーテルが好ましく用いられ、その含有量は、樹脂組成物中において5質量%以下であることが好ましい。5質量%以下であれば、(A)成分の結晶化を阻害しない。
【0032】
〈添加剤〉
また、本発明の樹脂組成物には、成形性、耐衝撃性、外観改善、耐候性改善及び剛性改善等の目的で、添加剤成分を必要により含有させることもできる。
例えば、フェノール系、リン系、イオウ系酸化防止剤、帯電防止剤、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤(耐候剤)、離型剤、可塑剤、抗菌剤及び着色剤(染料、顔料)等が挙げることができる。
任意成分の含有量は、本発明の目的が損なわれない範囲であれば特に制限はない。
【0033】
[成形体]
本発明の樹脂組成物の調製方法については特に制限はなく公知の方法により調製することができる。例えば、上記各成分を常温で混合した後、溶融混練等の方法でブレンドする等その方法は特に制限はされない。これらの混合・混練方法の中でも二軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられ、(A)成分の融点以上、350℃未満での混練が好ましい。混練温度が(A)成分の融点以上であれば、(A)成分が溶融し、均一に分散することができる。また、350℃未満であれば、(A)成分及び(B)成分が熱分解するおそれがない。
【0034】
本発明の樹脂組成物を用いた成形方法についても特に制限はなく、射出成形、押出成形等公知の方法により成形体とすることができる。射出成形の成形温度は上記混練温度と同様に(A)成分の融点以上、350℃未満であることが好ましい。また金型温度としては、130〜200℃が好ましく130℃以上であれば(A)成分及び(B)成分が十分結晶化し該成分の特徴が十分発揮される。また、200℃以下であれば、離型時の剛性が低下することがないため、エジェクター割れや変形が発生するおそれがない。
【0035】
本発明は、環境負荷が低減された樹脂組成物を提供することを目的とするものである。そのため、本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤を使用せずとも優れた難燃性を有し、かつ樹脂組成物中のハロゲン、とりわけ塩素及び塩素化合物の含有量(以下、塩素含有量と称することがある。)が塩素原子換算で1000ppm以下、好ましくは900ppm以下である環境対応型の樹脂組成物である。
組成物中の塩素含有量は、材料の組成により、(B)ポリアリーレンスルフィドを適宜選択することによって達成することができる。
【実施例】
【0036】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
各例で用いた各成分は次のとおりである。
(A)スチレン系重合体〔SPS、シンジオタクチックポリスチレン〕
・SPS−1:ホモシンジオタクチックポリスチレン〔ラセミペンタッドタクティシティ98%、MFR13g/10分(300℃、荷重11.8N)〕
・SPS−2:ホモシンジオタクチックポリスチレン〔ラセミペンタッドタクティシティ98%、MFR30g/10分(300℃、荷重11.8N)〕
(B)ポリアリーレンスルフィド〔PAS〕
・PPS−1:直鎖状ポリフェニレンサルファイド、溶融粘度 80 Pa・s、塩素量 1300ppm
・PPS−2:直鎖状ポリフェニレンサルファイド、溶融粘度 14 Pa・s、塩素量 4200ppm
【0037】
(C)水酸化マグネシウム〔Mg(OH)2
・マグニフィンH10IV:
〔Mg(OH)2をシラン系カップリング剤で表面処理したもの、平均粒子径0.65−0.95μm、純分99.8質量%、アルベマール日本株式会社製〕
(D)ガラス繊維〔GF〕
・JAFT591:
〔平均繊維径10μm、オーウェンスコーニングジャパン社製〕
(任意成分)
・FAPPE:フマル酸変性ポリフェニレンエーテル
〔商品名CX−1、出光興産株式会社製〕
【0038】
実施例及び比較例
(D)ガラス繊維以外の上記成分を表に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機を用いシリンダー温度320℃で、(D)成分をサイドフィードしながら溶融混練を行い、得られたストランドを水槽に通し冷却した後ペレット化し樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。
【0039】
(1)塩素含有量
ASTM D7359−08に準拠して測定した。
(2)引張強さ
ASTM D638に準拠して測定した。
(3)熱変形温度
ASTM D648に準拠して測定した。
(4)燃焼性
米国アンダーライターラボラトリー社が定めるUL94垂直難燃試験に従い、肉厚0.8mmの成形体について行い、V−0、V−1、V−2out(V−2に満たない難燃性)に分類して評価した。
(5)耐トラッキング性
IEC規格Publ.112第二版に準拠し、湿式比較トラッキング指数(CTI)を測定し、以下の基準により評価した。
クラス0:CTI 600V以上
クラス1:CTI 400V以上600V未満
クラス2:CTI 175V以上400V未満
クラス3:CTI 100V以上175V未満
(6)絶縁破壊電圧
ASTM D149法に準拠して測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
また、実施例及び比較例から、樹脂組成物中の(A)成分及び(C)成分の含有量と難燃性評価との関係を図1に示した。図1中の実線は、難燃性V−0とV−1以下の境界を表しており、傾きが4、すなわち(A)成分に対する(C)成分の質量比が4未満ではV−0を達成することができないことがわかる。
さらに、質量比〔[(A)+(C)]/(B)〕と耐トラッキング性(CTI)との関係を図2に示した。図2から、該質量比が1.8以上においてCTIが600V以上(クラス0)であることわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の樹脂組成物は、機械的強度、電気特性、耐熱性、耐薬品性及び耐加水分解性等に優れ、特にハロゲン系難燃剤を使用せずに優れた難燃性を有するため環境負荷が低く、耐トラッキング性に優れるため、鉛フリー半田、コネクタ、ソケット、端子台、プラグ、スイッチ等の電気配線器具として電気・電子部品に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体1質量部に対し、(B)ポリアリーレンスルフィド1〜10質量部、(C)水酸化マグネシウム4〜15質量部及び(D)ガラス繊維1〜20質量部を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物中にハロゲン系難燃剤を含まない請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分に対する(A)成分と(C)成分との合計量の比〔[(A)+(C)]/(B)〕が質量基準で1.8以上である請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂組成物中の塩素及び塩素化合物の含有量が塩素原子換算で1000ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体を含む電気・電子部品。
【請求項7】
請求項5に記載の成形体を含む電気配線器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−260963(P2010−260963A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112962(P2009−112962)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】