説明

難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形物品

【課題】 機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品、例えば、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品を提供することを課題とする。
さらにくわしくは、本発明は、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品に要求される柔軟性を満足すると同時に、耐熱性を併せ持つ難燃性樹脂組成物とこれを用いた成形物品を提供することを課題とする。
【解決手段】 (a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜97質量%、(b)無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂30〜3質量%、(c)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリエチレン樹脂0〜27質量%を含有する熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、金属水和物120〜300質量部を含有する難燃性樹脂組成物であって、(a)成分中の共重合体成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量が前記熱可塑性樹脂成分(A)中20〜50質量%である難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品、例えば、シート、チューブ、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線・ケーブル・コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどには、難燃性や機械特性のほかに、柔軟性や耐熱性など種々の特性が要求されている。
またシートやチューブなどにも同様に、難燃性や機械特性のほかに、柔軟性や耐熱性などが要求されている。
【0003】
電気・電子機器の配線材に求められる難燃性、耐熱性、機械特性(例えば引張特性)などの規格は、UL、JISなどで要求水準に応じて定められている。特に、難燃性に関しては、さらに用途に応じてその試験方法が定められている。したがって実際は、少なくともこの試験に合格する難燃性を有すればよい。例えば、UL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験などがそれぞれ挙げられる。
【0004】
これまで、VW−1や傾斜試験に合格するような高度のノンハロゲン系難燃性樹脂組成物を得ようとすると、樹脂成分100質量部に対して、難燃剤である金属水和物を150〜200質量部配合する必要があった(例えば特許文献1参照)。このため、当該難燃性樹脂組成物を配線材の被覆材料として使用する場合には、引張特性や耐摩耗性などの機械特性が著しく低下するという問題があった。さらに特許文献1記載の難燃性樹脂組成物をケーブルシースとしてコア上に押出成形する際に、引き落とし加工ができないため、該樹脂組成物が内部のコアと融着し、ケーブルの端末加工を行うのが困難な場合があった。
これに対し、特定の樹脂に特定のアスペクト比とBET比表面積を有する水酸化マグネシウムを配合した樹脂組成物を用いることにより、難燃性とともに機械特性、特に耐摩耗性に優れた絶縁電線が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2の絶縁電線は、耐摩耗性については優れた特性を示すことが記載されている。しかし該絶縁電線は、低温や高温で巻きつけられたままの状態で問題なく使用できるような柔軟特性については、十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−135142号公報
【特許文献2】特開2005−68388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品、例えば、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品を提供することを課題とする。
さらにくわしくは、本発明は、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品に要求される柔軟性を満足すると同時に、耐熱性を併せ持つ難燃性樹脂組成物とこれを用いた成形物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
通常、十分な難燃性を得るためには、金属水和物などのフィラーを多量に配合する必要がある。このため、難燃性樹脂組成物は溶融混練時にトルク負荷は著しく高くなり、成形が困難になることが多い。また成形できたとしても該樹脂組成物とこれを用いた成形物品、例えば各種配線材は柔軟性が不十分となる。
そこで本発明者らは、機械特性を損なうことなく難燃性を満足する樹脂組成物を得るために、金属水和物の配合量を多くしても溶融混練時における成形機のスクリューにかかるトルク負荷を低くでき、柔軟性に優れた樹脂組成物について鋭意検討を行った。
本発明においては、特定の変性ポリプロピレン樹脂と金属水和物を使用し、エチレン系共重合体中の共重合体成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量を特定の範囲内にすることにより、溶融混練時における成形機のスクリューにかかるトルク負荷を低くできることを見出した。これにより、難燃性樹脂組成物を押出す際にスクリューを高回転させて、樹脂組成物の吐出量を上げることができ、引き落とし加工が可能となり、各種配線材や光ファイバコードを製造することができることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0008】
すなわち本発明は、
<1>(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜97質量%、(b)無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂30〜3質量%、(c)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリエチレン樹脂0〜27質量%を含有する熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、金属水和物120〜300質量部を含有する難燃性樹脂組成物であって、(a)成分中の共重合体構成成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量が前記熱可塑性樹脂成分(A)中20〜50質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物、
<2>(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜97質量%、(b)無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂30〜3質量%、(c)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリエチレン樹脂0〜10質量%を含有する熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、金属水和物120〜300質量部を含有する難燃性樹脂組成物であって、(a)成分中の共重合体構成成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量が前記熱可塑性樹脂成分(A)中20〜50質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物、
<3>前記金属水和物のBET比表面積が4.0〜9.0m/gであることを特徴とする<1>又は<2>記載の難燃性樹脂組成物、
<4>前記金属水和物のBET比表面積が4.0〜6.0m/gであることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物、及び
<5>導体、光ファイバ素線または光ファイバ心線の外側に<1>〜<4>のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて成形された被覆層を有することを特徴とする成形物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品、例えば、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂成分(A)と金属水和物(B)を含有する。まず、本発明の難燃性樹脂組成物のうち、その熱可塑性樹脂成分(A)を構成する各成分について説明する。
【0011】
(A)熱可塑性樹脂成分
熱可塑性樹脂成分(A)は、(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂、(b)無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂を含有し、さらに(c)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂を含有していてもよい。
【0012】
(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
本発明の(a)成分としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えばエチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体など)から選ばれた少なくとも1種が用いられる。これらのエチレン系共重合体は、金属水和物などのフィラーに対する受容性が高いため、フィラーを多量に配合しても機械的強度を維持する効果がある。また、これらのエチレン系共重合体は樹脂自体が難燃性を有する。
これらの共重合体の含有量は熱可塑性樹脂成分(A)中60〜97質量%であり、好ましくは70〜90質量%である。この共重合体含有量が少なすぎると、難燃性樹脂組成物の機械的強度が著しく低下する。
難燃性を向上させるためには、さらに、(a)成分中の共重合体成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量が前記熱可塑性樹脂成分(A)中20〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜45質量%である。(a)成分中の共重合体構成成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量をこの範囲内とすることにより、後述の金属水和物を高充填しても押出成形時に引き落とし加工することが可能な、柔軟性に優れた難燃性樹脂組成物を得ることができる。
これらの共重合成分の含有量が多すぎると、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点が上昇し、低温特性が著しく低下する。
この共重合体のメルトフローレート(ASTM D−1238に準拠)は流動性の面から0.1g/10分以上、強度保持の面から10g/10分以下が好ましい。
【0013】
(b)無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂
本発明の樹脂成分(A)における無水マレイン酸で変性されるポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体のほか、ランダムポリプロピレンやブロックポリプロピレンなどのエチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。ここで言うランダムポリプロピレンはエチレン成分含量が5質量%以下、ブロックポリプロピレンはエチレン成分含量が15質量%以下程度のものをいう。本発明において成分(b)とは、これらの樹脂を無水マレイン酸で変性した樹脂のことである。
ポリプロピレン樹脂の変性は、例えば、ポリプロピレン樹脂と無水マレイン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量はポリプロピレン樹脂100質量部に対し、通常0.1〜7質量%程度である。
本発明において無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂は金属水和物とイオン的に結合する。この反応により金属水和物との界面近傍の強度が非常に高く、しかも結晶性の高いポリプロピレンで形成されることから、樹脂組成物として非常に強度が高く、しかも耐油性の高いノンハロゲン樹脂組成物を得ることができる。特に大量に含まれている難燃剤(金属水和物)の界面付近に結晶性の高いしかも強度の大きいポリプロピレン樹脂が存在するため、耐外傷性のみならず、難燃性も向上する。
本発明において、(b)成分の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)中、30〜3質量%、好ましくは25〜10質量%である。この量が少なすぎると、機械的強度や耐外傷性に問題が生じたり、これが多すぎると伸びや柔軟性、低温性が著しく低下したり、押出負荷が著しく高くなり、成形性に問題が生じる。
【0014】
(c)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリエチレン樹脂
不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されるポリエチレン樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。本発明において成分(c)とは、これらの樹脂を不飽和カルボン酸やその誘導体(以下、これらを併せて不飽和カルボン酸等という)で変性した樹脂のことである。変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。
ポリエチレン樹脂の変性は、例えば、ポリエチレン樹脂と不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量はポリエチレン樹脂100質量部に対し、通常0.1〜7質量%程度である。
この不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性したポリエチレン樹脂を加えることにより、難燃性樹脂組成物の伸びを大きくすると共に機械強度を上げることができる。
(c)成分の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)中0〜27質量%、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは3〜10質量%である。機械強度の点から、(c)成分を配合することが好ましい。(c)成分の配合量が多くなりすぎると伸びや柔軟性が著しく低下したり、押出負荷が著しく高くなり、成形性に問題が発生する。
【0015】
(B)金属水和物
本発明において用いることのできる金属水和物の種類は特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物があげられ、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく、水酸化マグネシウムがさらに好ましい。
【0016】
また、上記金属水和物は未処理でも表面処理されていてもよい。本発明で用いることができる水酸化アルミニウムとしては、表面未処理のもの(「ハイジライトH42M」(商品名、昭和電工製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「ハイジライトH42S」(商品名、昭和電工社製)など)などがあげられる。また、本発明で用いることができる水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(「キスマ5」(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「キスマ5A」(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたもの(「キスマ5J」(商品名、協和化学社製)など)、ビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理されたもの(「キスマ5L」(商品名、協和化学社製)など)がある。本発明においては、シランカップリング剤による表面処理がさらに好ましい。
【0017】
垂直難燃性を維持させる場合、金属水和物の配合量は熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、120〜300質量部、好ましくは180〜280質量部である。金属水和物の配合量が多すぎると力学的強度、電気的特性、耐熱性が著しく低下したり、外観が悪くなる。金属水和物の配合量が少なすぎると、所望の難燃性を維持させることができない。
また、金属水和物のBET比表面積は4〜9m/gのものが好ましく、特に4〜6m/gのものが押出成形性と分散性のバランスがよく好ましい。金属水和物は溶融混練時に本発明の熱可塑性樹脂成分、特に無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂や、場合により配合される不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリエチレン樹脂とイオン的に結合して、溶融粘度が増加する。そこで特定のBET比表面積を有する金属水和物を含有する難燃性樹脂組成物とすることで、金属水和物を高充填しても、溶融粘度を大きく増加させることなく、さらに押出成形性を向上させることができる。同時に本発明の難燃性樹脂組成物は柔軟性に優れた成形品を提供することができる。
なお本発明における金属水和物のBET比表面積は、JIS Z 8830により、金属水和物の乾燥粉末試料を液体窒素吸着法で測定された値をいうものとする。
【0018】
本発明の難燃性の熱可塑性樹脂組成物には、電線、ケーブル、コード、チューブ、電線部品、シート等において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0019】
酸化防止剤としては、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0020】
金属不活性剤としては、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2'−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどが挙げられる。
特に、シリコーンゴム、シリコーンオイルなどのシリコーン化合物は、難燃性を付与、向上させるだけでなく、電線やコードにおいては、絶縁体(前記熱可塑性樹脂組成物を含んでなる被覆層)と導体の密着力を制御する効果があり、ケーブルにおいては、滑性を付与することで、外傷を低減させる効果がある。このような本発明で用いられるシリコーン化合物の具体例としては、「SFR−100」(商品名、GE社製)、「CF−9150」(商品名、東レ・ダウシリコーン社製)などの市販品が挙げられる。
添加する場合、シリコーン化合物は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部配合される。0.5質量部より少ないと難燃性や滑性に対して実質的に効果がなく、5質量部を越えると電線、コード、ケーブルの外観が低下したり、押出成形速度が低下し量産性が悪くなる場合がある。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で前記添加物や他の樹脂を導入することができるが、少なくとも前記熱可塑性樹脂成分(A)を主樹脂成分とする。ここで、主樹脂成分とするとは、本発明の熱可塑性樹脂組成物の樹脂成分中、通常70質量%以上、好ましくは85質量%以上が好ましい。
【0021】
以下、本発明の難燃性の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を説明する。
成分(a)及び(b)、必要に応じて(c)からなる熱可塑性樹脂成分(A)に、金属水和物(B)、さらに必要に応じて他の樹脂や添加物を加え、加熱混練する。混練温度は、好ましくは160〜240℃であり、混練温度や混練時間等の混練条件は、樹脂成分(a)及び(b)、必要に応じて(c)が溶融する温度で適宜設定できる。混練方法としては、ゴム、プラスチックなどで通常用いられる方法であれば満足に使用でき、装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどが用いられる。この工程により、各成分が均一に分散された難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0022】
次に、本発明の成形部品について説明する。
導体の外側に上記の本発明の難燃性樹脂組成物を用いた被覆層を形成することにより、絶縁電線やケーブルを製造することができる。本発明の難燃性樹脂組成物は電気・電子機器の内部および外部配線に使用される配線材や光ファイバ心線、光ファイバコードなどに用いられることが好ましい。
本発明の成形物品、例えば配線材は、好ましくは押出成形により、導体の外側に少なくとも1層の被覆層として、難燃性樹脂組成物を用いて製造することができる。被覆層は多層構造であってもよい。例えば、導体に絶縁層を形成した後に、本発明の難燃性樹脂組成物を用いた被覆層を形成して、配線材とすることができる。絶縁層と難燃性樹脂組成物を用いた被覆層との間に、他の樹脂組成物を用いた層で中間層などを形成して、配線材を得ることができる。導体としては、軟銅の単線若しくは撚線などのものを用いることができる。導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。
本発明の成形物品は、光ファイバ素線や光ファイバ心線上に本発明の難燃性樹脂組成物層を用いた層を形成して製造してもよい。
本発明の配線材等の成形部品は、本発明の難燃性樹脂組成物を、押出成形機を用いて、導体周囲や絶縁電線周囲に押出被覆することができる。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の成形部品である電線、例えば絶縁電線においては、導体の周りに形成される絶縁層(本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが0.15mm〜5mmが好ましい。
【0023】
本発明の成形部品においては、難燃性樹脂組成物を押出成形してそのまま被覆層を形成しても良いが、耐熱性を向上させることを目的として、押出成形後の被覆層を架橋させることも可能である。
架橋を行う場合の方法として、従来の電子線照射架橋法や化学架橋法が採用できる。
電子線架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に常法により電子線を照射することにより架橋をおこなう。電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、被覆層を構成する難燃性樹脂組成物に、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
化学架橋法の場合は、難燃性樹脂組成物に有機パーオキサイドを架橋剤として配合し、押出成形して被覆層とした後に加熱処理により架橋をおこなう。
【0024】
本発明の成形物品としては、光ファイバ素線の周囲に本発明の難燃性樹脂組成物を用いた被覆層が押出被覆されて形成された光ファイバ心線を挙げることができる。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、光ファイバ等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の成形物品としては、抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた光ファイバ心線の周囲に本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した光ファイバコードを挙げることができる。このときの押出成形機の温度は、上記の光ファイバ心線の場合と同様、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の光ファイバコードに用いられる光ファイバ心線は、用途によってはさらに周囲に被覆層を設けないものがそのまま使用される。被覆層の厚さ、光ファイバ心線に縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバコードの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
【0025】
本発明の成形物品としては、上記の絶縁電線、光ファイバコード、光ファイバ心線等にさらにシース(保護被覆)で被覆してもよい。上記の成形物品の被覆層に本発明の難燃性樹脂組成物を用いた層が形成されていれば、シースには本発明の難燃性樹脂組成物を使用しなくてもよい。使用する場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を用いた層がシースの少なくとも1層であればよい。シースは、多層構造であってもよく、本発明の難燃性樹脂組成物以外の樹脂組成物で形成された層を有していてもよい。
【0026】
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[実施例1〜14および比較例1〜14]
表1及び2に実施例1〜14、表3及び4に比較例1〜14の樹脂組成物の各成分の含有量(表中の数字は、断りのない限り質量部である)を示す。表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各樹脂組成物を製造した。
【0028】
表中に示す各成分材料は以下の通りである。
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体
・商品名:エバフレックス EV170 三井デュポンポリケミカル社製
・商品名:レバプレン 700HV ランクセス社製
(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
・商品名:エバフレックスEEA A714 三井デュポンポリケミカル社製
・商品名:ベイマックDP デュポン社製
(b)無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン
・商品名:アドマー QE060 三井化学社製
(c)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリエチレン
・商品名:アドテックス DU8300 日本ポリエチレン社製
(その他)
アクリル酸で変性されたポリプロピレン
・商品名:ポリボンドP1002 ケムチュラ社製
変性されてないポリプロピレン
・商品名:ノバテックPPBC3A 日本ポリプロ社製
【0029】
(B)金属水和物
市販品の水酸化マグネシウムA〜E、及び水酸化アルミニウムを入手し、JIS Z 8830により、これらの水酸化マグネシウムの乾燥粉末試料について、液体窒素吸着法でBET比表面積を測定した。この値を以下に示す。
・シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムA
BET比表面積 3.0(m/g)
・シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムB
BET比表面積 5.0(m/g)
・シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムC
BET比表面積 9.0(m/g)
・シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムD
BET比表面積 15.0(m/g)
・表面処理されていない水酸化マグネシウムE
BET比表面積 5.0(m/g)
・シランカップリング剤で表面処理された水酸化アルミニウムS
(商品名:ハイジライト H42STV 昭和電工社製)
BET比表面積 5.0(m/g)
【0030】
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、予め溶融混練した各樹脂組成物を、難燃絶縁電線(導体径0.4mm、肉厚0.3mm)を綿糸介在とともに撚り合わせたコアの上に、外径6.2mmとなるように押出被覆して、ケーブルを製造した。
製造したケーブルに対して、下記の評価を行った。得られた実施例1〜16の評価結果を表1および2に、比較例1〜16の評価結果を表3および4に示す。
(1)押出性
ケーブルを製造した際の押出性について評価した。引き落とし加工性が特に優れているものを◎、良好なものを○、引き落とし加工可能なものを△、×が引き落とし加工不可である。このうち、◎、○及び△を合格とし、×を不合格とした。
(2)機械特性
UL1581に準拠し、上記のケーブルよりコアを抜き取り、管状片を作成し引張試験を行った。標線間25mm、引張速度500mm/分で試験を行った。伸び150%以上、引張り強さ10MPa以上を合格とし、その値未満のものを不合格とした。
(3)難燃性(垂直難燃性試験)
各ケーブルについて、UL1581の Vertical Flame Test を行った。同様に5個のサンプルを用いて評価を行った。残炎時間が60秒以内が合格である。全数合格した場合を「合格」、それ以外を「不合格」とした。
(4)巻付加熱後のクラック
各ケーブルを自己2倍径のマンドレルに6ターン巻き付けた状態で、100℃×1時間加熱し、加熱後常温にて冷却した後、ケーブル表層にクラックが発生しているかどうか目視で観察した。同様に3個のサンプルを用いて評価を行った。試験したサンプルのうち、クラックが1つも確認されなかった場合を合格、それ以外を不合格とした。
(5)低温巻付後のクラック
各ケーブルを−10℃×4時間冷却し、冷却後−10℃において自己2倍径のマンドレルに6ターン巻き付けた際に、ケーブル表層にクラックが発生しているかどうか目視で観察した。同様に3個のサンプルを用いて評価を行った。試験したサンプルのうち、クラックが1つも確認されなかった場合を合格、それ以外を不合格とした。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
表1〜4の結果から、本発明の実施例1〜16は、優れた機械特性(引張強さ、伸び)及び難燃性を示し、巻付後のクラックも発生せず柔軟性を有することが明らかとなった。
これに対し、共重合体樹脂の含有量が少ない比較例1及び2は、難燃性に劣り、伸びも不合格であった。無水マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量が少ない比較例3及び4は、引張強さが不合格であった。逆に無水マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量が多い比較例5は、引張強さが不合格であった。変性ポリエチレンの含有量が多い比較例6は、引き落とし加工ができないため配線材として製造することができなかった。金属水和物の含有量が少なすぎる比較例7は、難燃性が不合格であった。逆に金属水和物が多すぎる比較例8では伸びが不合格で、高温および低温の巻付にてクラックが生じた。また、金属水和物の含有量多い比較例9および10では押出加工することができなかった。共重合成分が多すぎる比較例11及び12では、低温巻付でクラックが発生し、低温での柔軟性に問題があることがわかった。これに対し、共重合成分の含有量が少ない比較例13及び14は難燃性が不合格であった。アクリル酸で変性されたポリプロピレンを用いた比較例15や、変性されていないポリプロピレンを用いた比較例16では、いずれも引張強さが不合格で、高温および低温の巻付でクラックが生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜97質量%、(b)無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂30〜3質量%、(c)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリエチレン樹脂0〜27質量%を含有する熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、金属水和物120〜300質量部を含有する難燃性樹脂組成物であって、(a)成分中の共重合体構成成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量が前記熱可塑性樹脂成分(A)中20〜50質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(a)エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜97質量%、(b)無水マレイン酸で変性されたポリプロピレン樹脂30〜3質量%、(c)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリエチレン樹脂0〜10質量%を含有する熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、金属水和物120〜300質量部を含有する難燃性樹脂組成物であって、(a)成分中の共重合体構成成分である酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの含有量が前記熱可塑性樹脂成分(A)中20〜50質量%であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属水和物のBET比表面積が4.0〜9.0m/gであることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属水和物のBET比表面積が4.0〜6.0m/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
導体、光ファイバ素線または光ファイバ心線の外側に請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて成形された被覆層を有することを特徴とする成形物品。

【公開番号】特開2011−219662(P2011−219662A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91786(P2010−91786)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】