説明

難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形物品

【課題】 機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品を提供する。
【解決手段】 (a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及び(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜90質量%、(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン10〜40質量%、(a5)ポリプロピレン樹脂0〜20質量%からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、(B)金属水酸化物150〜320質量部、(C)オレフィン系ワックス0.1〜10質量部を含有する難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性、柔軟性および耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどの成形物品には、難燃性や機械特性のほかに、柔軟性や耐熱性など種々の特性が要求されている。またシートやチューブなどの成形物品にも同様に、難燃性や機械特性のほかに、柔軟性や耐熱性などが要求される。
電気・電子機器の配線材に求められる難燃性、耐熱性、機械特性(例えば引張特性)などの規格は、UL、JISなどで要求水準に応じて定められている。特に、難燃性に関しては、さらに用途に応じてその試験方法が定められている。したがって実際は、少なくともこの試験に合格する難燃性を有すればよい。例えば、UL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験などがそれぞれ挙げられる。
これまで、VW−1などの高度の難燃性に合格するために、エチレン−酢酸ビニル共重合体をはじめとするエチレン系共重合体100質量部に対して、難燃剤である特定の金属水酸化物を150〜300質量部配合したノンハロゲン難燃絶縁電線が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、特許文献1記載のノンハロゲン難燃絶縁電線は、VW−1の難燃性試験に合格するものの、配送時に電線同士が擦れたり、配線時に他の部品と擦れることにより、白化し傷が付きやすく、電気絶縁性を損なうおそれがある。
これに対し、脂肪酸アミドを添加した樹脂組成物を用いることにより、耐傷つき白化性に優れた難燃性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。そこで本発明者らは、特許文献2記載の難燃性樹脂組成物を用いて、絶縁電線を製造することを試みた。しかし、実施例に記載された樹脂組成物では、VW−1の難燃性や耐外傷性などの絶縁電線に必要とされる特性を同時に満たすことができないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−135142号公報
【特許文献2】特開2008−7723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決し、機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品、例えば、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品を提供することを課題とする。
さらにくわしくは、本発明は、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品に要求される高度の難燃性を満足すると同時に、これらに必要とされる耐外傷性を併せ持つ難燃性樹脂組成物とこれを用いた成形物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、樹脂成分としてエチレン共重合体とマレイン酸で変性されたポリエチレンを必須成分として含む熱可塑性樹脂成分に対して、特定のオレフィン系ワックスと金属水酸化物を含む難燃性樹脂組成物が、機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れ、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品に要求される高度の難燃性を満足すると同時に、これらに必要とされる耐外傷性を併せ持つことを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0006】
すなわち本発明は、
<1>(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及び(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜90質量%、(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン10〜40質量%、(a5)ポリプロピレン樹脂0〜20質量%からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、(B)金属水酸化物150〜320質量部、(C)オレフィン系ワックス0.1〜10質量部を含有する難燃性樹脂組成物、
<2>前記オレフィン系ワックス(C)の融点が110℃以下であることを特徴とする<1>に記載の難燃性樹脂組成物、
<3>前記オレフィン系ワックス(C)がエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする<1>または<2>に記載の難燃性樹脂組成物、
<4>導体、光ファイバ素線又は光ファイバ心線の外周に<1>〜<3>のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて成形された被覆層を有することを特徴とする成形物品、及び
<5>前記被覆層が架橋されていないことを特徴とする<4>記載の成形物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、機械特性、柔軟性及び耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物と、それを用いた難燃性に優れた成形物品、例えば、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品を提供することができる。
さらにくわしくは、本発明は、配線材、光ファイバコード、及びその他の成形物品に要求される高度の難燃性を満足すると同時に、これらに必要とされる耐外傷性を併せ持つ難燃性樹脂組成物とこれを用いた成形物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂成分(A)、金属水酸化物(B)およびオレフィン系ワックス(C)を含有する。まず、本発明の難燃性樹脂組成物のうち、その熱可塑性樹脂成分(A)を構成する各成分について説明する。
【0009】
(A)熱可塑性樹脂成分
熱可塑性樹脂成分(A)は、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及び(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂、並びに(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂を含有する。
【0010】
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
本発明の熱可塑性樹脂成分(A)成分としては、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及び(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種が用いられる。これらのエチレン系共重合体は、金属水和物などのフィラーに対する受容性が高いため、フィラーを多量に配合しても機械的強度を維持する効果がある。また、これらのエチレン系共重合体は樹脂自体が難燃性を有する。
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及び(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂は、難燃性樹脂組成物中、60〜90質量%、好ましくは70〜85質量%である。この範囲内とすることにより、金属水酸化物を十分配合することができ、難燃性を確保することができると同時に柔軟性の低下を抑制することができる。これらのエチレン系共重合体の配合量が少なすぎると機械特性が著しく低下する。
【0011】
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル含有量が10〜90質量%のものを使用することが好ましい。(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル含有量の異なる樹脂を二種以上組み合わせてもよい。エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、例えば、エバフレックス(商品名、三井デュポンポリケミカル(株)製)、レバプレン(商品名、ランクセス社製)を挙げることができる。
【0012】
本明細書において、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、エチレン−アクリル酸共重合体と、エチレン−メタクリル酸共重合体の両者を含み、両者を含むものとして、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体として記載する。
(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、(メタ)アクリル酸含有量が10〜90質量%のものを使用することが好ましい。(a1)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、(メタ)アクリル酸含有量の異なる樹脂を二種以上組み合わせてもよい。エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体としては、例えば、ニュクレル(商品名、三井デュポンポリケミカル(株)製)などを挙げることができる。
【0013】
本明細書において、(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、エチレン−アクリル酸エステル共重合体と、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体の両者を含み、両者を含むものとして、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体として記載する。(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などを挙げることができる。エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エルバロイAC(商品名、三井デュポンポリケミカル(株)製)、LOTRYL(商品名、アルケマ社製)を挙げることができる。
これらのエチレン系共重合体のメルトフローレート(ASTM D−1238に準拠)は、流動性の面から0.1g/10分以上、強度保持の面から10g/10分以下が好ましい。
【0014】
(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂成分(A)中、(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂を必須成分として含有する。マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。本発明において成分(a4)とは、これらの樹脂をマレイン酸で変性した樹脂のことである。
ポリエチレン樹脂の変性は、例えば、ポリエチレン樹脂とマレイン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより、マレイン酸をポリエチレン樹脂にグラフトして製造することができる。マレイン酸による変性量はポリエチレン樹脂100質量部に対し、通常0.1〜7質量%程度である。
【0015】
(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂を加えることにより、難燃性樹脂組成物の伸びを大きくすると共に機械強度を上げることができ、さらには耐外傷性を向上させることができる。この機構については定かではないが、マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂が、グラフトされたカルボキシル基で後述の金属水酸化物とイオン的に結合し、金属水酸化物が樹脂成分から剥離することが少ないためと考えられる。カルボン酸変性ポリエチレンのなかでも、マレイン酸変性ポリエチレンを用いることにより、優れた耐外傷性のものを得ることができる。その機構は定かではないが、変性されたマレイン酸の極性が高く、金属水酸化物との結合力が優れるためと考えられる。
(a4)成分の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)中10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%である。(a4)成分の配合量が多くなりすぎると伸びや柔軟性が著しく低下したり、押出負荷が著しく高くなり、成形性に問題が発生する。(a4)成分の配合量が少なすぎると、耐外傷性が低下する。
【0016】
(a5)ポリプロピレン樹脂
本発明の熱可塑性樹脂成分(A)におけるポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体のほか、ランダムポリプロピレンやブロックポリプロピレンなどのエチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。ここでいうランダムポリプロピレンとしては、エチレン成分含量が5質量%以下、ブロックポリプロピレンはエチレン成分含量が15質量%以下程度のものをいう。本発明においてポリプロピレン樹脂は変性されているものを用いてもよい。変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。
ポリプロピレン樹脂の変性は、例えば、ポリプロピレン樹脂と不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量はポリプロピレン樹脂100質量部に対し、通常0.1〜7質量%程度である。
【0017】
本発明において、(a5)成分の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)中、0〜20質量%、好ましくは5〜18質量%である。耐加熱変形性の面から(a5)成分を配合することが好ましい。この量が多すぎると伸びや柔軟性、低温性が著しく低下したり、押出負荷が著しく高くなり、成形性に問題が生じる。
【0018】
(B)金属水酸化物
本発明において用いることのできる金属水酸化物の種類は特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物があげられ、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく、水酸化マグネシウムがさらに好ましい。
また、上記金属水酸化物は未処理でも表面処理されていてもよい。本発明で用いることができる水酸化アルミニウムとしては、表面未処理のもの(「ハイジライトH42M」(商品名、昭和電工製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「ハイジライトH42S」(商品名、昭和電工社製)など)などがあげられる。また、本発明で用いることができる水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(「キスマ5」(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(「キスマ5A」(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたもの(「キスマ5J」(商品名、協和化学社製)など)、ビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理されたもの(「キスマ5L」(商品名、協和化学社製)など)がある。本発明においては、シランカップリング剤による表面処理がさらに好ましい。
垂直難燃性(VW−1)に合格するためには、金属水酸化物の配合量は熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、150〜320質量部、好ましくは180〜300質量部である。金属水酸化物の配合量が多すぎると力学的強度、電気的特性、耐熱性が著しく低下したり、外観が悪くなる。金属水酸化物の配合量が少なすぎると、所望の難燃性を維持させることができない。金属水酸化物の配合量が少なすぎると耐外傷性はよくなるが、シート形状の試験片を用いた難燃性の一般的な試験方法である酸素指数が高くなっても、実際に電線のような成形物品とした場合に、垂直難燃性(VW−1)のような厳しく高度の難燃性を満足させることが困難であることを見出した。本発明の難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形物品は、垂直難燃性(VW−1)を確保しつつ、機械特性や耐外傷性を満足し、押出し成形することができるという優れた効果を奏するものである。
【0019】
(C)オレフィン系ワックス
本発明の難燃性樹脂組成物は、必須成分として、融点が110℃以下のオレフィン系ワックスを含有する。ここで融点は、示差走査熱量計により測定したものをいう。融点が110℃以下のオレフィン系ワックスを用いることにより、マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂を上記のとおり、配合することができ、耐外傷性に優れた難燃性樹脂組成物を得ることができる。
融点が110℃以下のオレフィン系ワックスを用いないで、マレイン酸で変性されたポリエチレン樹脂を配合した場合には、樹脂混合物の粘度が高くなることにより、押出負荷が高くなりすぎて、押出機中で溶融混練して、成形物品を得ることができない。これは、(a4)成分のマレイン酸変性ポリエチレン樹脂が金属水酸化物のみならず、上記(a1)〜(a3)成分からなる群から選ばれた少なくとも1種のエチレン成分以外のモノマー成分(例えば、(a1)成分であれば、酢酸ビニル成分)中の極性基と結合して、溶融粘度を向上させるためと思われる。
【0020】
オレフィン系ワックスとしては、高分子量ポリオレフィンの熱分解によって得られるワックス、オレフィンの単独重合または他のオレフィンとの共重合によって得られるワックスなどがあり、適宜選択して使用することができる。(a4)成分のマレイン酸変性ポリエチレン樹脂と、(a1)〜(a3)成分からなる群から選ばれた少なくとも1種との相溶性の点から、融点が110℃以下のオレフィン系ワックスとして、エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックスが好ましい。融点が110℃以下でエチレン−酢酸ビニル共重合体のオレフィン系ワックスを用いることにより、上記(a1)〜(a3)成分からなる群から選ばれた少なくとも1種に、(a4)成分を溶融混練することができ、本発明の難燃性樹脂組成物を得ることができ、特に耐外傷性に優れた難燃性樹脂組成物を得ることができる。オレフィン系ワックスの配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0021】
本発明の難燃性樹脂組成物には、各種成形物品、例えば、電線、ケーブル、コード、チューブ、電線部品、シート等において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0022】
酸化防止剤としては、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0023】
金属不活性剤としては、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2'−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
【0024】
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどが挙げられる。
【0025】
特に、シリコーンゴム、シリコーンオイルなどのシリコーン化合物は、難燃性を付与、向上させるだけでなく、電線やコードにおいては、絶縁体(前記熱可塑性樹脂組成物を含んでなる被覆層)と導体の密着力を制御する効果があり、ケーブルにおいては、滑性を付与することで、外傷を低減させる効果がある。このような本発明で用いられるシリコーン化合物の具体例としては、「SFR−100」(商品名、GE社製)、「CF−9150」(商品名、東レ・ダウシリコーン社製)などの市販品が挙げられる。添加する場合、シリコーン化合物は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部配合される。シリコーン化合物の配合量が少なすぎると難燃性や滑性に対して実質的に効果がなく、シリコーン化合物の配合量が多すぎると電線、コード、ケーブルなどの成形物品の外観が低下したり、押出成形速度が低下し量産性が悪くなる場合がある。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
【0026】
本発明の難燃性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で前記添加物や他の樹脂を導入することができる。
以下、本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法を説明する。
(a1)、(a2)及び(a3)成分から選ばれた少なくとも1種の樹脂、並びに(a4)成分、必要に応じて(a5)からなる熱可塑性樹脂成分(A)に、金属水和物(B)、オレフィン系ワックス(C)、さらに必要に応じて他の樹脂や添加物を加え、加熱混練する。混練温度は、好ましくは160〜240℃であり、混練温度や混練時間等の混練条件は、上記の樹脂成分が溶融する温度で適宜設定できる。混練方法としては、ゴム、プラスチックなどで通常用いられる方法であれば満足に使用でき、装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどが用いられる。この工程により、各成分が均一に分散された難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
次に、本発明の成形部品について説明する。
導体の外周に上記の本発明の難燃性樹脂組成物を用いた被覆層を形成することにより、絶縁電線やケーブルを製造することができる。本発明の難燃性樹脂組成物は電気・電子機器の内部および外部配線に使用される配線材や光ファイバ心線、光ファイバコードなどに用いられることが好ましい。
本発明の成形物品、例えば配線材は、好ましくは押出成形により、導体の外周に少なくとも1層の被覆層として、難燃性樹脂組成物を用いて製造することができる。被覆層は多層構造であってもよい。例えば、導体に絶縁層を形成した後に、本発明の難燃性樹脂組成物を用いた被覆層を形成して、配線材とすることができる。絶縁層と難燃性樹脂組成物を用いた被覆層との間に、他の樹脂組成物を用いた層で中間層などを形成して、配線材を得ることができる。導体としては、軟銅の単線若しくは撚線などのものを用いることができる。導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることができる。
【0028】
本発明の成形物品は、光ファイバ素線や光ファイバ心線上に本発明の難燃性樹脂組成物層を用いた層を形成して製造することができる。
本発明の配線材等の成形部品は、本発明の難燃性樹脂組成物を、押出成形機を用いて、導体や絶縁電線の外周に押出被覆して製造することができる。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるがシリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の成形部品の1つである電線、例えば絶縁電線においては、導体の外周に形成される絶縁層(本発明の難燃性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが0.15mm〜5mmが好ましい。
【0029】
本発明の成形部品においては、難燃性樹脂組成物を押出成形して被覆層を形成することができる。導体、光ファイバ素線又は光ファイバ心線の外周に本発明の難燃性樹脂組成物を用いて被覆層を成形した物品を得ることができる。その被覆層が架橋されていなくても、機械特性、柔軟性及び耐外傷性に優れたものを得ることができる。耐熱性を向上させることを目的として、押出成形後の被覆層を架橋させることができる。
架橋を行う場合の方法として、従来の電子線照射架橋法や化学架橋法が採用できる。電子線架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に常法により電子線を照射することにより架橋をおこなう。電子線の線量は1〜30Mradが好ましく、効率よく架橋を行うために、被覆層を構成する難燃性樹脂組成物に、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合することができる。
化学架橋法の場合は、難燃性樹脂組成物に有機パーオキサイドを架橋剤として配合し、押出成形して被覆層とした後に加熱処理により架橋を行うことができる。
【0030】
本発明の成形物品としては、光ファイバ素線の外周に本発明の難燃性樹脂組成物を用いた被覆層が押出被覆されて形成された光ファイバ心線を挙げることができる。被覆層を押出被覆する際、押出成形機の温度は、樹脂の種類、光ファイバ等の引取り速度の諸条件にもよるが、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の成形物品としては、抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた光ファイバ心線の周囲に本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆した光ファイバコードを挙げることができる。このときの押出成形機の温度は、上記の光ファイバ心線の場合と同様、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
【0031】
本発明の光ファイバコードに用いられる光ファイバ心線は、用途によってはさらに周囲に被覆層を設けないものがそのまま使用される。被覆層の厚さ、光ファイバ心線に縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバコードの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
本発明の成形物品としては、上記の絶縁電線、光ファイバコード、光ファイバ心線等にさらにシース(保護被覆)で被覆してもよい。上記の成形物品の被覆層に本発明の難燃性樹脂組成物を用いた層が形成されていれば、シースには本発明の難燃性樹脂組成物を使用しなくてもよい。使用する場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を用いた層がシースの少なくとも1層であればよい。シースは、多層構造であってもよく、本発明の難燃性樹脂組成物以外の樹脂組成物で形成された層を有していてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1〜13および比較例1〜11]
表1に実施例1〜13、表2に比較例1〜11の難燃性樹脂組成物の各成分の含有量(表中の数字は、断りのない限り質量部である)を示す。表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各難燃性樹脂組成物を製造した。
【0033】
表中に示す各成分材料は以下の通りである。
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体
・商品名:エバフレックス EV170(酢酸ビニル含有量33%) 三井デュポンポリケミカル社製
・商品名:レバプレン 700HV(酢酸ビニル含有量70%) ランクセス社製
(a2)エチレン−アクリル酸共重合体
・商品名:ニュクレル N1207C(アクリル酸含有量12%) 三井デュポンポリケミカル社製
(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体
・商品名:エルバロイ AC1125((メタ)アクリル酸エステル含有量25%) 三井デュポンポリケミカル社製
・商品名:ベイマック DP デュポン社製
(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン
・商品名:アドテックス DU8300 日本ポリエチレン社製
(a5)ポリプロピレン樹脂
(a5−1)変性されていないポリプロピレン樹脂
・商品名:ノバテックPP BC8A 日本ポリプロ社製
(a5−2)アクリル酸で変性されたポリプロピレン
・商品名:ポリボンド P1002 ケムチュラ社製
(その他)
アクリル酸で変性されたポリエチレン
・商品名: ポリボンド P1009 ケムチュラ社製
【0034】
(B)金属水和物
シラン表面処理水酸化マグネシウム
・商品名:キスマ 5L 協和化学工業社製
(C)オレフィン系ワックス
以下のワックスの融点は、示差走査熱量計により測定した。
ポリエチレンワックス
・商品名:AC6 ハネウェル社製
融点:106℃
・商品名:ハイワックス 400P 三井化学社製
融点:126℃
エチレン−酢酸ビニル共重合体ワックス
・商品名:AC400 ハネウェル社製
融点:92℃
【0035】
(その他)
上記のオレフィン系ワックスに代えて、以下のオレイン酸アミド、シリコーンレジンパウダーを用いた難燃性樹脂組成物を製造した。
オレイン酸アミド
オレイン酸アミドの融点は、示差走査熱量計により測定した。
・商品名:アーモスリップ CP ライオン社製
融点:74℃
シリコーンレジンパウダー
シリコーンレジンパウダーの融点は、示差走査熱量計により測定した。
・商品名:KMP−590 信越シリコーン社製
融点:400℃以上
【0036】
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、予め溶融混練した各樹脂組成物を、錫メッキ軟銅撚り線導体(素線径0.16mm、本数7本)の上に、外径1.32mmとなるように押出被覆して、絶縁電線を製造した。
製造した絶縁電線に対して、下記の評価を行った。得られた実施例1〜13の評価結果を表1に、比較例1〜11の評価結果を表2に示す。
【0037】
(1)押出性
絶縁電線を製造した際の押出負荷について評価した。所定の電線製造速度においてスクリューにかかる負荷電流の最大値を計測した。このうち、60A以下の場合を合格とし、60Aを越える場合を不合格とした。
【0038】
(2)機械特性
UL1581に準拠し、上記の絶縁電線より導体を抜き取り、管状片を作成し引張試験を行った。標線間25mm、引張速度500mm/分で試験を行った。伸び150%以上、引張り強さ10MPa以上を合格とし、その値未満のものを不合格とした。
【0039】
(3)難燃性(垂直難燃性試験)
各電線について、UL1581の Vertical Flame Test を行った。同様に5個のサンプルを用いて評価を行った。残炎時間が60秒以内が合格である。全数合格した場合を「合格」、それ以外を「不合格」とした。
【0040】
(4)耐外傷性
0.25φのステンレス製エッジに7Nの荷重を加え、各電線の長手方向にエッジを往復させた際に、電線表面が白化するまでの回数を計測した。10回以下を×、20回以下を○、20回を越えるものを◎とした。◎は耐外傷性に特にきわだって優れているが、○でも耐外傷性に優れている。このため、◎と○を合格とした。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1の結果から、本発明の実施例1〜13は、優れた機械特性、難燃性および耐外傷性を示すことが明らかとなった。また、押出負荷も低く高い生産性を有することが明らかとなった。
これに対し、マレイン酸変性ポリエチレンの含有量の少なすぎる比較例1および2は耐外傷性に劣っていた。逆にマレイン酸変性ポリエチレンの含有量の多すぎる比較例3は押出負荷が高く、伸びが不合格であった。ポリプロピレン樹脂の多すぎる比較例4は押出負荷が高かった。金属水和物の含有量が少なすぎる比較例5は、垂直難燃性が不合格であった。逆に金属水和物が多すぎる比較例6では伸びが不合格で、押出負荷が高く生産性に劣っていた。オレフィン系ワックスを含まない比較例7は押出負荷が高く、耐外傷性にも劣っていた。逆にオレフィン系ワックスの多すぎる比較例8は引張強さが不合格で、難燃性にも不合格であった。アクリル酸変性ポリエチレンを用いた比較例9は耐外傷性が劣っていた。オレフィン系ワックスに代えて、オレイン酸アミドを用いた比較例10は引張強さと難燃性が不合格であった。また、オレフィン系ワックスに代えて、シリコーンレジンパウダーを用いた比較例11は耐外傷性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体及び(a3)エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた少なくとも1種の樹脂60〜90質量%、(a4)マレイン酸で変性されたポリエチレン10〜40質量%、(a5)ポリプロピレン樹脂0〜20質量%からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対し、(B)金属水酸化物150〜320質量部、(C)オレフィン系ワックス0.1〜10質量部を含有する難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記オレフィン系ワックス(C)の融点が110℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記オレフィン系ワックス(C)がエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
導体、光ファイバ素線又は光ファイバ心線の外周に請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて成形された被覆層を有することを特徴とする成形物品。
【請求項5】
前記被覆層が架橋されていないことを特徴とする請求項4記載の成形物品。

【公開番号】特開2012−224693(P2012−224693A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91688(P2011−91688)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】