説明

難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線、フラットケーブル、成形品

【課題】機械的特性と難燃性を両立でき、さらに導体付の耐熱性等の厳しい耐熱要求特性を満たすことのできる難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた絶縁電線、フラットケーブル、成形品を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂、多官能性モノマー、有機リン系難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂は、炭素−炭素不飽和結合を有する樹脂又はカルボニル基を有する樹脂を熱可塑性樹脂全体に対して5質量%以上含有し、前記有機リン系難燃剤は、ホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物からなる群から選ばれる1種以上であり、前記有機リン系難燃剤の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜100質量部であり、前記多官能性モノマーの含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部である、難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン系の難燃性材料で構成され、優れた難燃性及び機械的特性を有する難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線、フラットケーブル及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や自動車の分野において使用される絶縁電線の絶縁被覆層やフラットケーブルの絶縁層には優れた機械的特性が要求される。例えば電子機器分野で幅広く用いられている米国UL規格では、ポリエチレンなどのプラスチックを絶縁体とする絶縁電線やフラットケーブルについて、初期の最大引張強さを10.4MPa以上とすることが要求されている。
【0003】
一方、絶縁電線、フラットケーブルには高度な難燃性が要求される用途がある。一般に自動車分野では水平難燃性試験及び傾斜燃焼試験、電子機器分野では米国UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)のような難燃性が規定されている。従来、難燃性及び機械的特性を満たす材料として、軟質ポリ塩化ビニル組成物、又は、ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂に臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を混合した難燃性樹脂組成物が使用されていた。しかしこのようなハロゲン元素を含む難燃性材料は焼却時にハロゲン化水素ガスなどの人体に有害な燃焼ガスを発生するため、環境面で好ましくない。
【0004】
このような事情から、ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系難燃剤を配合した材料が実用化されている(例えば特許文献1)。しかし、金属水酸化物系難燃剤ではUL規格の垂直燃焼試験VW−1に合格させるだけの難燃性を得るためには大量の金属水酸化物系難燃剤を添加する必要があり、その結果機械的特性が低下するため難燃性と機械的特性の両立を図ることが困難であった。
【0005】
難燃性を向上するため、金属水酸化物と赤リンを併用した材料も知られている。例えば特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂に金属水酸化物及び赤リンを配合したノンハロゲン難燃性樹脂組成物、およびこれを被覆材として用いた絶縁電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−145288号公報
【特許文献2】特開2003−160709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2では、赤リンを併用することで金属水酸化物の添加量を低減することができ、難燃性と機械的特性の両立が可能となる。しかし赤リンは燃焼時に有毒なホスフィンが発生するため環境面で好ましくない。また赤リンによって絶縁層が着色するという問題もある。
【0008】
リン系難燃剤としてリン酸エステル等の有機リン系難燃剤も知られているが、その難燃効果は十分ではなく、大量に添加しなければ満足できる難燃性が得られない。リン酸エステルはポリオレフィン系樹脂との相溶性が低いため、大量に添加すると樹脂組成物の表面にリン酸エステルが浮き出てくる、いわゆるブリードアウトが起こってしまう。
【0009】
SABICイノベーティブプラスチックジャパン合同会社(旧日本GEプラスチックス)より販売されている柔軟ノリルは、ベースポリマーとしてポリフェニレンエーテルとスチレン系樹脂あるいは熱可塑性スチレン系エラストマーの混和物を用い、有機リン系難燃剤(リン酸エステル)を混合している。ポリフェニレンエーテルはポリオレフィン系樹脂よりも難燃性が高いため有機リン系難燃剤の添加量を減らすことができ、一部のグレードでは電線被覆材料として用いられている。しかし柔軟ノリルは照射架橋ができないため、耐熱性や耐熱変形性が不十分である。
【0010】
本発明者らは、ベースポリマーとしてポリフェニレンエーテル、熱可塑性スチレン系エラストマー、オレフィン系樹脂を混合したものを用い、有機リン系難燃剤、窒素系難燃剤、及び多官能性モノマーを添加した難燃性樹脂組成物、及びこれを用いた絶縁電線を開発し、特願2008−100975として出願した。この絶縁電線は難燃性及び機械的特性を両立でき、さらに樹脂を架橋することで耐熱性、耐熱変形性に優れるものである。
【0011】
絶縁電線に要求される耐熱性は様々であり、試験項目の一つとして導体付きの耐熱性がある。具体的には、絶縁層と導体(金属)とを接触させた状態で高温で長時間放置した後、絶縁層の柔軟性を評価する。上記の難燃性樹脂組成物を用いた絶縁電線では、試験条件が厳しくなると要求特性を満たせない場合があることがわかった。その理由は定かではないが、難燃性樹脂組成物中に含まれるリン酸エステルと金属とが相互作用して特性が低下すること、窒素系難燃剤を含むことで難燃性樹脂組成物の柔軟性が低下すること等がその原因と推測される。
【0012】
そこで本発明は、機械的特性と難燃性を両立でき、さらに導体付の耐熱性等の厳しい耐熱要求特性を満たすことのできる難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた絶縁電線、フラットケーブル、成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、熱可塑性樹脂、多官能性モノマー、有機リン系難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂は、炭素−炭素不飽和結合を有する樹脂又はカルボニル基を有する樹脂を熱可塑性樹脂全体に対して5質量%以上含有し、前記有機リン系難燃剤は、ホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物からなる群から選ばれる1種以上であり、前記有機リン系難燃剤の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜100質量部であり、前記多官能性モノマーの含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部である、難燃性樹脂組成物である。
【0014】
有機リン系難燃剤の中でも特に、ホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物からなる群から選ばれる1種以上を用いることで難燃性及び導体つきの耐熱性を向上することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂としては任意のものを選択できるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等の難燃性が低い樹脂のみであると難燃性が不十分となるため、難燃性の高い炭素―炭素不飽和結合を有する樹脂又はカルボニル基を有する樹脂を、熱可塑性樹脂全体の5質量%以上含有する必要がある。
【0016】
前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系樹脂、ナイロン、熱可塑性ポリアミドエラストマー、炭素−炭素不飽和結合を持つポリオレフィン系樹脂、カルボニル基を有するポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる1種以上を5質量%以上含有すると好ましい(請求項2)。これらの樹脂は比較的難燃性が高いため、難燃性樹脂組成物の難燃性を向上できる。
【0017】
前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂又はポリスチレン系樹脂5〜80質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー20〜95質量%、ポリオレフィン系樹脂0〜70質量%からなると好ましい(請求項3)。ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂は特に難燃性に優れている。スチレン系熱可塑性エラストマーは柔軟性、押出加工性に優れていると共にポリフェニレンエーテル系樹脂との相溶性が良いので、機械的特性を向上できる。ポリオレフィン系樹脂は柔軟性に優れており、機械的特性及び押出加工性を向上することができる。これらの樹脂をバランス良く混合することで、機械的特性と難燃性とを向上することができる。
【0018】
前記熱可塑性樹脂はカルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体を50〜100質量%含有し、該カルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体は、コモノマー含有量が9〜46質量%であると共にメルトフローレートが0.3〜25g/10分であると好ましい(請求項4)。カルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体は難燃性に優れており、単独で使用した場合でも特性のバランスを取ることができるため、樹脂組成物の混合が容易となる。なおメルトフローレート(MFR)はASTM D 1238に準拠して、190℃及び荷重2.16kgの条件で測定した値である。
【0019】
難燃剤として、さらに窒素系難燃剤を前記熱可塑性樹脂100質量部に対して3〜100質量部含有すると好ましい(請求項5)。上記の有機リン系難燃剤と窒素系難燃剤とを併用することでさらに難燃特性を向上することができる。窒素系難燃剤としてはメラミンシアヌレートが好ましく使用できる(請求項6)。
【0020】
前記有機リン系難燃剤として、さらにリン酸エステルを含有すると好ましい(請求項7)。ホスフィン酸金属塩等の難燃性に優れた有機リン系難燃剤とリン酸エステルとを併用することで、さらに難燃性樹脂組成物の難燃性が向上する。
【0021】
請求項8に記載の発明は、上記のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物からなる被覆層を有する絶縁電線である。請求項9に記載の発明は、絶縁被覆層内に複数本の導体を間隔をおいて並列に配置したフラットケーブルであって、上記絶縁被覆層が上記のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物からなるフラットケーブルである。また請求項10に記載の発明は、上記のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を射出成形した成形品である。
【0022】
請求項11に記載の発明は、垂直燃焼試験(VW−1)に合格する、請求項8に記載の絶縁電線である。また請求項12に記載の発明は、垂直燃焼試験(VW−1)に合格する、請求項9に記載のフラットケーブルである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、機械的特性と難燃性を両立でき、特に耐熱性に優れる難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた絶縁電線、フラットケーブル、成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(リン系難燃剤)
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する各種材料について説明する。有機リン系難燃剤としては、ホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物からなる群から選ばれる1種以上を必須成分とする。このなかでも特にホスフィン酸金属塩が難燃性に優れており好ましい。
【0025】
ホスフィン酸金属塩は、下記式(I)で表される化合物である。なお、上記式中R1、R2は、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数12以下のアリール基であり、Mは、カルシウム、アルミニウム又は亜鉛であり、M=アルミニウムの場合はm=3、それ以外の場合はm=2である。
【0026】
【化1】

【0027】
ホスフィン酸金属塩としては、クラリアント(株)製のEXOLIT OP1230、EXOLIT OP1240、EXOLIT OP930、EXOLIT OP935等の有機ホスフィン酸のアルミニウム塩、またはEXOLIT OP1312等の有機ホスフィン酸のアルミニウム塩とポリリン酸メラミンのブレンド物を使用できる。
【0028】
リン酸メラミン化合物としては、チバスペシャルティ(株)製のMELAPUR200等のポリリン酸メラミン、またはポリリン酸メラミン酸、リン酸メラミン、オルソリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン等を使用できる。
【0029】
リン酸アンモニウム化合物としては、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、ポリリン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸カルバミン酸等を使用できる。
【0030】
シクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物としては、大塚化学(株)製のSPR−100、SA−100、SR−100、SRS−100、SPB−100L等を使用できる。
【0031】
上記の有機リン系難燃剤は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。
【0032】
さらに、上記の有機リン系難燃剤と併用してリン酸エステルを使用すると、難燃性をさらに向上できる。リン酸エステルとしては、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレシジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、クレジルフェニルフォスフェート、クレジル2,6−キシレニルフォスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルフォスフェート、1,3フェニレンビス(ジフェニルフォスフェート)、1,3フェニレンビス(ジ2,6キシレニルフォスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルフォスフェート)、レゾルシノールビスジフェニルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、ジエチレンエチルエステルフォスフェート、ジヒドロキシプロピレンブチルエステルフォスフェート、エチレンジナトリウムエステルフォスフェート、t−ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(t−ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリスイソブチルホスフェート、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチル−プロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチルブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジエチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、アルキルリン酸エステル等を使用することができる。
【0033】
有機リン系難燃剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜100質量部とする。5質量部よりも少ない場合は難燃性が不十分であり、100質量部を越えると機械的特性が低下する。有機リン系難燃剤は、表面をメラミン、メラミンシアヌレート、脂肪酸、シランカップリング剤で処理して使用しても良い。また予め表面処理するのではなく、熱可塑性樹脂と混合する際に表面処理剤を添加するインテグラルブレンドを行っても良い。
【0034】
熱可塑性樹脂としては任意の樹脂を使用できるが、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系樹脂、ナイロン、熱可塑性ポリアミドエラストマー、炭素−炭素不飽和結合を持つポリオレフィン系樹脂、カルボニル基を有するポリオレフィン系樹脂等の炭素−炭素不飽和結合を有する樹脂、カルボニル基を有する樹脂を熱可塑性樹脂全体に対して5質量%以上含有する必要がある。
【0035】
ポリフェニレンエーテルは、メタノールとフェノールを原料として合成される2,6−キシレノールを酸化重合させて得られるエンジニアリングプラスチックである。またポリフェニレンエーテルの成形加工性を向上させるため、ポリフェニレンエーテルにポリスチレンポリスチレン、HIPS、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの水素添加物を溶融ブレンドした材料が変性ポリフェニレンエーテル樹脂として各種市販されている。本発明に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、上記のポリフェニレンエーテル樹脂単体、及びポリスチレン、HIPS、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの水素添加物を溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂のいずれも使用することができる。また無水マレイン酸等のカルボン酸を導入したものを適宜ブレンドして使用することもできる。
【0036】
ポリスチレン系樹脂はスチレンを重合したポリスチレンやゴムを分散させたHIPSなどを挙げることができ、無水マレイン酸やエポキシ基、オキサゾリンを導入したものを適宜ブレンドして使用することもできる。
【0037】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンブロックとゴム成分ブロックのブロック共重合体である。本発明に言うスチレン系熱可塑性エラストマーとは、スチレン・エチレンブチレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレンブチレン共重合体、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・エチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・イソプレン・スチレン共重合体等が挙げられ、これらの水素添加ポリマーや、部分水素添加ポリマー、さらには、これらを無水マレイン変性品あるいはエポキシ変性品等の化学変性ポリマーを例示でき、スチレンブタジエンゴムとしては、スチレン含量が30〜60質量%のスチレンとブタジエンの共重合体やこの水素添加ポリマー、部分水素添加ポリマー等が例示でき、これらの無水マレイン変性品あるいはエポキシ変性品を例示でき、これらを単独で用いるほかに、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(ホモポリマー、ブロックポリマー、ランダムポリマー)、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、リアクター型ポリプロピレン系熱顔性エラストマー、動的架橋型ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン(高密度ポリエチレ、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、長低密度ポリエチレン)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−プロピレンゴム、エチレンアクリルゴム、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−アクリル酸共重合体の分子間をナトリウムや亜鉛などの金属イオンで分子間結合したアイオノマー樹脂等を使用できる。またこれらの樹脂を無水マレイン酸等で変性したものや、エポキシ基、アミノ基、イミド基を有するものも使用できる。
【0039】
オレフィン系樹脂の中でも、コモノマー含有量が9〜46質量%であると共にメルトフローレートが0.3〜25g/10分である、カルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体は特に難燃性に優れており、燃焼時間を短縮することができる。コモノマー含有量が多くなるほど難燃性が向上するが、コモノマー含有量が多くなると樹脂の価格が高くなるため難燃性、コストのバランスを考慮するとコモノマー含有量は9〜46質量%が好ましい。
【0040】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネートとポリエチレングリコール等の短鎖ジオールの縮合重合体により構成されるポリウレタンをハードセグメントとし、2官能性ポリオール等からなるソフトセグメントがブロック共重合されたポリマーである。ソフトセグメントの2官能性ポリオールの種類により、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などを用いたポリエーテル系やアジペートタイプ、カプロラクトンタイプ、ポリカーボネートタイプ等を使用できる。これらのうち、硬度がJIS Aで95以下であるものを選択することが好ましい。
【0041】
熱可塑性ポリアミドエラストマーとしては、6−ナイロン、6,6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン等の結晶性ハードセグメントとポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリオキシメチレングリコールから構成される非晶性ソフトセグメントをブロック共重合したものが使用できる。
【0042】
多官能性モノマーとしては、モノアクリレート系、ジアクリレート系、トリアクリレート系、モノメタクリレート系、ジメタクリレート系、トリメタクリレート系、トリアリルイソシアヌレート系、トリアリルシアヌレート系などの、分子内に複数の炭素−炭素二重結合を持つモノマーが使用できる。多官能性モノマーの含有量は熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部とする。1質量部未満では架橋効果が得られず、耐熱変形性や耐熱性が低下する。一方20質量部を越えると未反応のモノマーが残存することから難燃性が悪くなる。
【0043】
難燃性、耐熱変形性、機械的特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、滑剤、加工安定助剤、着色剤、発泡剤、補強剤、充填剤、顆粒剤、金属不活性剤、シランカップリング剤等を添加してもよい。水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物、又はメラミン、メラミンシアヌレートなどの窒素系難燃剤等を添加しても良い。
【0044】
特にメラミン、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤を併用すると難燃性が更に向上し、好ましい。窒素系難燃剤の含有量は熱可塑性樹脂100質量部に対して3〜100質量部とする。3質量部より少ないと難燃性向上効果が少ない。また100質量部を超えると機械的特性が低下する。ホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物からなる群から選ばれる有機リン系難燃剤は可塑化効果があるため、窒素系難燃剤を併用した場合でも柔軟性が低下しない。
【0045】
以上の成分を所定量ずつ混合し、単軸押出型混合機、オープンロールミキサー、加圧型ニーダー、バンバリーミキサー、二軸混合機等、既知の混合機を用いて混合して難燃性樹脂組成物を得ることができる。このなかでも二軸混合機は混練性、生産性の点で好ましい。
【0046】
絶縁電線は、上記の難燃性樹脂組成物からなる被覆層を有するものであり、導体上に被覆層が直接又は他の層を介して形成される。絶縁被覆層の形成には溶融押出機など既知の押出成形機を用いることができる。また絶縁層に電離放射線を照射して架橋することが好ましい。
【0047】
導体としては、導電性に優れる銅線、アルミ線などが使用できる。導体の径は使用用途に応じて適宜選択できるが、狭いスペースへの配線を可能とするためには2mm以下とすることが好ましい。また取り扱いの容易さを考慮すると0.1mm以上とすることが好ましい。導体は単線であっても良いし、複数の素線を撚り線したものでも良い。
【0048】
被覆層の厚みは、導体径に応じて適宜選択することができる。絶縁性、難燃性を考慮すると、厚みを0.1mm〜2mmとすることが好ましい。被覆層の厚みは薄い方が柔軟性に優れるが、薄くしすぎると難燃性を確保できない。本発明の絶縁電線は、絶縁層全体の厚みを薄くしてもVW−1難燃性試験に合格する難燃性を確保できる点で優れている。
【0049】
被覆層が電離放射線の照射により架橋されていると、機械的強度が向上する点で好ましい。電離放射線源としては、加速電子線やガンマ線、X線、α線、紫外線等が例示でき、線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度など工業的利用の観点から加速電子線が最も好ましく利用できる。
【0050】
フラットケーブルは、上記の難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆層内に複数の導体を間隔をおいて並列に配置したものである。導体としては、銅、錫メッキ軟銅、ニッケルメッキ軟銅等の導電性金属を使用することができる。導体は平角形状が好ましく、その厚みは使用する電流量に対応するが、フラットケーブルの柔軟性を考慮すると15μm〜200μmが好ましい。
【0051】
フラットケーブルは、難燃性樹脂組成物を、並列配置した導体に押出成型することによって形成しても良いし、あらかじめ難燃性樹脂組成物のフィルムを成形し、2枚のフィルムで並列配置した導体を挟持した後、フィルム同士を熱圧着して作成しても良い。また、この難燃性樹脂組成物からなる絶縁層の外側にポリエステル、ポリイミド等の高分子フィルムを被覆しても良い。絶縁電線と同様に、絶縁被覆層が電離放射線の照射により架橋されていると好ましい。
【0052】
成形品は、上記の難燃性樹脂組成物を射出成形して得られる。絶縁電線、フラットケーブルと同様に、射出成形した成形品に電離放射線を照射して架橋させると耐熱性が向上して好ましい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお表中「部」とあるのは断りのない限り「質量部」を意味する。
【0054】
はじめに以下の実施例で行った測定評価の方法について説明する。
(機械的特性)
絶縁電線、フラットケーブルの被覆層について、引張試験(引張速度=500mm/分、標線間距離=20mm)を行い、引張強度(MPa)と引張破断伸び(%)を各3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。引張強さが10.4MPa以上かつ引張破断伸び150%を合格レベルとした。
【0055】
(耐熱性)
絶縁電線、フラットケーブルを158℃に設定したギアオーブン内で168時間(7日間)放置した後、機械的特性評価と同様に引張試験を行い、加熱処理前の引張強度、破断伸びとの比較を行った。加熱処理前の引張強度、破断伸びに対する残率75%以上を合格レベルとした。
【0056】
(難燃性)
UL規格1581、1080項に記載のVW−1垂直燃焼試験を5点の試料で行った。各試料に15秒着火を5回繰り返した場合に、60秒以内に消化し、下部に強いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼せず、かつ試料の上部取り付けたクラフト紙が燃えたり焦げたりしないものを合格とした。5点の試料中1点でも合格レベルにならなかった場合には不合格とした。また一部の試料については燃焼時間(着火終了から消火までの時間)を測定した。
【0057】
(耐加熱変形性)
JIS C3005に準じて行った。絶縁電線又はフラットケーブルを140℃に設定した恒温槽に入れて1時間予熱した。その後、絶縁電線又はフラットケーブルに直径9.5mmの治具を押し当てて500gの荷重を載せた。荷重をかけた状態で140℃の恒温槽内で1時間放置した後の絶縁層の厚みを測定し、変形前の厚みに対する残率を算出した。残率50%以上であれば合格レベルである。
【0058】
(導体付き耐熱性)
絶縁電線の場合は外径と同径の金属棒に巻き付けたサンプルを、フラットケーブルの場合はZ曲げ(2カ所を180度に折り曲げ)したサンプルを158℃に設定したギアオーブン内で168時間(7日間)放置した後、絶縁層の外観を観察した、クラックや割れなどが発生したものを不合格、外観上特に変化がないものを合格とした。
【0059】
(実施例1〜19、比較例1〜10)
表1〜表3に示す割合で各材料を配合し、さらにベースポリマー100部に対してオレイン酸アミド0.5部、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]3質量部を加えてダイス温度280℃に設定した二軸混合機で混練した。得られた混練物のストランドをペレタイザーでペレット状にした後、溶融押出機(45mmΦ、L/D比=24、圧縮比2.5、フルフライトタイプ)を使用して導体(0.16mmΦの錫メッキ軟銅線を17本撚りしたもの)上に肉厚が0.4mmになるように押出被覆し、加速電圧2MeVの電子線を250kGy照射して絶縁電線を作成した。なお実施例8及び実施例9では、導体は0.16mmΦの錫メッキ軟銅線を7本撚りしたものを使用し、被覆厚み(肉厚)を0.27mmとした。作成した絶縁電線について、機械的特性、耐熱性、難燃性、加熱変形性、導体付き耐熱性を評価した。なお機械的特性及び耐熱性は、作成した絶縁電線から導体を取り除いて被覆層のみとしたものを使用して評価した。
【0060】
(実施例20〜22、比較例11〜18)
表4、表5に示す難燃性樹脂組成物を使用し、導体(厚み0.15mm×幅1.2mmの平角導体)を0.8mm間隔(ピッチ2.0mm)で8本並列に配置した導体の両面に、被覆厚が0.2mmとなるように押出被覆した後、加速電圧2MeVの電子線を250kGy照射してフラットケーブルを作成し、一連の評価を行った。
【0061】
(実施例23〜25、比較例19〜21)
表6、表7に示す難燃性樹脂組成物をTダイ押出法で二軸延伸ポリエステルフィルム(厚み12μm)上に、厚みが30μmとなるように押出して、ポリエステルフィルム貼り合わせテープを作成した。導体(厚み0.05mm×幅0.1mmの平角導体)を0.2mm間隔(ピッチ0.3mm)で27本並列に配置した導体の両面にポリエステルフィルム貼り合わせテープを2枚、ポリエステルフィルムが外面となるように配置し、熱ラミネータを用いて貼り合わせてフラットケーブルを作成した後、一連の評価を行った。なお機械的特性及び耐熱性は、ポリエステルフィルムと貼り合わせない難燃性樹脂組成物単独のフィルムを作製して評価した。
【0062】
表8に示す難燃性樹脂組成物を(住友重機製SE18D/最大型締力176N)を用いて射出成形し、厚み0.5mmのJIS−3号ダンベル成形品を作製した後、一連の評価を行った。なお「銅箔巻き耐熱性」はJIS−3号ダンベルの中央の平行部分に銅箔を3回巻き付け158℃に設定したギアオーブン中で168時間(7日間)老化させた後、銅箔を取り除き、銅箔を巻いていた部分で180度曲げを行い、クラックや割れが発生するものを不合格とした。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
(*1)旭化成ケミカルズ(株)製ザイロンWH100
(*2)旭化成ケミカルズ(株)製ザイロンX9102
(*3)PSジャパン(株)製HH102
(*4)スチレン−エチレンブチレン−スチレン共重合体:旭化成ケミカルズ(株)製タフテックH1041(スチレン量30wt%)
(*5)スチレン・エチレン・ブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー:JSR株式会社製ダイナロン4600P(スチレン量20wt%)
(*6)エチレン−エチルアクリレート:日本ポリエチレン(株)製レクスパールA1150(15%EA)
(*7)超低密度ポリエチレン:ダウケミカル日本(株)製エンゲージ8150(MFR=0.5@190℃*2.16kg、密度=0.868g/cm
(*8)ホスフィン酸金属塩:クラリアント(株)製ExolitOP930
(*9)ポリリン酸メラミン:チバスペシャルティ製Melapur200
(*10)ポリホスファゼン:大塚化学(株)製SPS−100
(*11)縮合リン酸エステル:大八化学工業(株)製PX−200(リン9.0%)
(*12)トリメチロールプロパントリメタクリレート:新中村化学工業(株)製NKエステルTMPT
(*13)ランダム共重合熱可塑性ポリエステルエラストマー:EMSケミー製GriltexD 1652E GF(融点85℃)
(*14)熱可塑性ポリウレタンエラストマー:レザミンPL201(エーテル系)
(*15)熱可塑性ポリアミドエラストマー:アルケマ製Pebax2533(融点134℃)
(*16)エチレン−メチルアクリレート:Dupont製エルバロイAC1125(25%MA、MFR=0.5@190℃*2.16kg、コモノマー含有量25質量%)
(*17)超低密度ポリエチレン:ダウケミカル日本製エンゲージ8150(MFR=0.5@190℃*2.16kg、密度=0.868g/cm
(*18)ホスフィン酸金属塩:クラリアント(株)社製Exolit OP935(OP930の微粒タイプ)
(*19)ポリホスファゼン:大塚化学製SPB−100L
(*20)超低密度ポリエチレン:ダウケミカル日本(株)製エンゲージ8411(MFR=18@190℃×2.16kg、密度0.880g・cm
(*21)三光(株)製環状有機リン系難燃剤HCA−HQ−HS
(*22)チバスペシャルティ(株)製Melapur MC15
(*23)縮合リン酸エステル:大八化学工業(株)製PX−110(リン7.8%)
(*24)日産化学(株)製MC6000
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】

【0072】
実施例1〜19の絶縁電線、実施例20〜25のフラットケーブル、実施例26〜28の射出成形品は、機械的特性、難燃性、耐熱性、加熱変形性、及び導体付き耐熱性の全ての項目において要求特性を満たしていた。
特に、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンエーテル、スチレン系熱可塑性エラストマー、カルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体(ポリオレフィン系樹脂)を使用した実施例1は燃焼時間が20秒と短く、特に難燃性が優れていた。またカルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体を50質量部以上含有する実施例1、10、14〜18はいずれも燃焼時間が30秒以内であり難燃性に優れていた。特に実施例17の配合は1種類の樹脂のみで特性のバランスを取ることが可能であった。混合する樹脂の種類が多い場合は樹脂同士の相溶性を高めるために混合時に剪断応力をかける必要があり混合のコストが上がるが、1種類の樹脂を使用する場合には混合が容易でありコストが下がるという利点がある。
【0073】
比較例1の絶縁電線及び同じ樹脂組成物を用いた比較例11のフラットケーブルは、有機リン系難燃剤(ホスフィン酸金属塩)の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して105質量部と多かったため、耐熱性、加熱変形性、導体付き耐熱性に劣る結果となった。比較例2、3、4、9、10の絶縁電線及び比較例12、13、14のフラットケーブルは、逆に有機リン系難燃剤の含有量が少なく、難燃性が不合格であった。
【0074】
比較例5の絶縁電線及び比較例15のフラットケーブルは、難燃性はクリアしていたが、導体付き耐熱性で割れが発生し不合格となった。比較例6の絶縁電線及び比較例16のフラットケーブルは、熱可塑性樹脂中の炭素−炭素不飽和結合を有する樹脂又はカルボニル基を有する樹脂の含有量が5質量%未満と少なく、難燃性が不合格であった。
【0075】
比較例7の絶縁電線及び比較例17のフラットケーブルは、多官能性モノマーの含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して22質量部と、20質量部よりも多いため伸びが低く、また難燃性も不合格であった。比較例8の絶縁電線及び比較例18のフラットケーブルは多官能性モノマーを含有していないため、耐熱性、導体付き耐熱性、加熱変形性に劣る結果となった。比較例10の絶縁電線及び比較例19、20のフラットケーブルは、難燃性の高い有機リン系難燃剤であるホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物を含んでおらず、リン酸エステルのみを含有しているため、導体付き耐熱性が不合格であった。比較例21は導体付き耐熱性は合格レベルであったが、飽和ポリマーの量が多いため難燃性が不合格であった。
【0076】
(実施例29〜35)
表9に示す割合で各材料を配合し、さらにベースポリマー100部に対してオレイン酸アミド0.5部、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]3質量部を加えてダイス温度280℃に設定した二軸混合機で混練した。得られた混練物のストランドをペレタイザーでペレット状にした後、溶融押出機(45mmΦ、L/D比=24、圧縮比2.5、フルフライトタイプ)を使用して導体(0.16mmΦの錫メッキ軟銅線を17本撚りしたもの)上に肉厚が0.4mmになるように押出被覆し、加速電圧2MeVの電子線を照射して絶縁電線を作成した。作成した絶縁電線について、機械的特性、耐熱性、難燃性、加熱変形性、導体付き耐熱性を評価した。なお機械的特性及び耐熱性は、作成した絶縁電線から導体を取り除いて被覆層のみとしたものを使用して評価した。
【0077】
【表9】

【0078】
実施例29〜35の絶縁電線は、機械的特性、難燃性、耐熱性、加熱変形性、及び導体付き耐熱性の全ての項目において要求特性を満たしていた。また、有機リン系難燃剤と窒素系難燃剤とを併用した実施例33〜35は燃焼時間が30秒以下と短く、難燃性に優れていた。
【0079】
(実施例36〜38)
表10に示す難燃性樹脂組成物を使用し、導体(厚み0.15mm×幅1.2mmの平角導体)を0.8mm間隔(ピッチ2.0mm)で8本並列に配置した導体の両面に、被覆厚が0.2mmとなるように押出被覆した後、加速電圧2MeVの電子線を250kGy照射してフラットケーブルを作成し、一連の評価を行った。
【0080】
【表10】

【0081】
比較のため、有機リン系難燃剤のみを使用した実施例23の結果を表10に示す。有機リン系難燃剤と窒素系難燃剤とを併用した実施例32及び実施例33の難燃性樹脂組成物を用いた実施例37、38は燃焼時間が30秒以下と短く、難燃性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、燃焼時のハロゲン化水素ガスの発生の問題がなく、機械的強度(伸び、引張強度)耐加熱変形性、耐熱性に優れる難燃性樹脂組成物、絶縁電線、フラットケーブル及び成形品を得ることができ、電子機器、OA機器、オーディオ、ビデオ、DVD、ブルーレイ等の民生用電子機器類、車両、船舶等の内部配線や部品として使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、多官能性モノマー、有機リン系難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は、炭素−炭素不飽和結合を有する樹脂又はカルボニル基を有する樹脂を熱可塑性樹脂全体に対して5質量%以上含有し、
前記有機リン系難燃剤は、ホスフィン酸金属塩、リン酸メラミン化合物、リン酸アンモニウム化合物、及びシクロホスファゼンを開環重合して得られるポリホスファゼン化合物からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記有機リン系難燃剤の含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜100質量部であり、前記多官能性モノマーの含有量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部である、難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系樹脂、ナイロン、熱可塑性ポリアミドエラストマー、炭素−炭素不飽和結合を持つポリオレフィン系樹脂、カルボニル基を有するポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる1種以上を5質量%以上含有する、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂又はポリスチレン系樹脂5〜80質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー20〜95質量%、ポリオレフィン系樹脂0〜70質量%からなる、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂はカルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体を50〜100質量%含有し、該カルボニル基を有するエチレン−αオレフィン共重合体は、コモノマー含有量が9〜46質量%であると共にメルトフローレートが0.3〜25g/10分である、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、窒素系難燃剤を3〜100質量部含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記窒素系難燃剤がメラミンシアヌレートである、請求項5に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記有機リン系難燃剤としてさらにリン酸エステルを含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物からなる被覆層を有する絶縁電線。
【請求項9】
絶縁被覆層内に複数本の導体を間隔をおいて並列に配置したフラットケーブルであって、上記絶縁被覆層が請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物からなるフラットケーブル。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を射出成形した成形品。
【請求項11】
UL規格で規定される垂直燃焼試験(VW−1)に合格する、請求項8に記載の絶縁電線。
【請求項12】
UL規格で規定される垂直燃焼試験(VW−1)に合格する、請求項9に記載のフラットケーブル。

【公開番号】特開2011−99084(P2011−99084A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3479(P2010−3479)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】