説明

難燃性樹脂組成物及び難燃性樹脂成形品

【課題】 ハロゲン系難燃剤又はリン酸系難燃剤を用いることなく十分な難燃性を実現するとともに耐トラッキング性に優れた難燃性樹脂組成物及びそれを用いた難燃性樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】 ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種の樹脂と、金属水和物を含んでなる体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の難燃性粒子と、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種の難燃助剤と、を少なくとも含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物及びそれを用いた難燃性樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に難燃性粒子を混合した難燃性樹脂組成物及び難燃性樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置は、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置を備えることが一般的である。帯電装置の一種としてタングステンワイヤに5〜10kVの高電圧を印加してコロナイオンを発生(コロナ放電)させ、それにより電子写真感光体の表面を均一に帯電させるコロナ帯電器が知られている。
コロナ帯電器に用いられるタングステンワイヤ(高圧電線)を絶縁支持する支持部材として、高圧電線に当接する当接部と、前記当接部を支持する支持部とを有し、前記当接部を耐トラッキング性の高い絶縁性合成樹脂で構成し、前記支持部を難燃性の高い合成樹脂で構成した高圧電線の支持部材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の高圧電線の支持部材では絶縁部と難燃部とを分けるために構造が複雑になり支持部材の小型化が困難であるという問題があった。
【0004】
樹脂材料の難燃化のために樹脂に難燃剤を混合することが行われている。難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン酸系難燃剤、金属水和物等が用いられている。これらのなかでも、環境負荷低減、樹脂リサイクルの観点より金属水和物が好適である。
金属水和物は難燃性能がハロゲン系難燃剤、リン酸系難燃剤に比して劣るため、必要とされる難燃性発現には樹脂に多量に配合することが必要である。しかしながら、金属水和物を樹脂に多量に配合すると、樹脂の持つ力学性能などの低下、成形性の悪化などの問題点がある。
【0005】
金属水和物を樹脂中に混合する場合、マトリックス樹脂中での分散性を担保するため、また、金属水和物に含まれる活性基が引き合い金属水和物同士が凝集することによってマトリックス樹脂に影響を及ぼし樹脂特性が損なわれることを防ぐため、金属水和物の粒子表面に均一な被覆層を形成することが好ましい。粒子の表面処理方法は高級脂肪酸などによる処理、シリカ層形成などいくつか知られているものの、従来の反応条件では粒子が十分に分散しにくく、被覆反応速度が速いため、粒子が凝集状態で被覆反応をうけてしまい、その結果均一な被覆粒子を得ることができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−87016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、ハロゲン系難燃剤又はリン酸系難燃剤を用いることなく十分な難燃性を実現するとともに耐トラッキング性に優れた難燃性樹脂組成物及びそれを用いた難燃性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、
<1> ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種の樹脂と、金属水和物を含んでなる体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の難燃性粒子と、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種の難燃助剤と、を少なくとも含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0008】
<2> 前記金属水和物が、Mg、Ca、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiから選択される1種類の金属の水和物であることを特徴とする<1>に記載の難燃性樹脂組成物である。
【0009】
<3> 前記難燃性粒子の表面に、有機化合物またはポリシリコーンを含む被覆層が形成されていることを特徴とする<1>又は<2>に記載の難燃性樹脂組成物である。
【0010】
<4> ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種の樹脂と、金属水和物を含んでなる体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の難燃性粒子と、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種の難燃助剤と、を少なくとも含有する難燃性樹脂成形品であって、UL−94試験による難燃性がHB以上であり、30℃85%RHにおける耐コロナ放電性CTI PLCレベルが1以上であり、再成形したときの降伏応力が再成形前の降伏応力の60%以上であり、再成形したときの前記UL−94試験による難燃性が再成形前と同一であることを特徴とする難燃性樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤又はリン酸系難燃剤を用いることなく十分な難燃性を実現するとともに耐トラッキング性に優れた難燃性樹脂組成物及びそれを用いた難燃性樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物及びそれを用いた難燃性樹脂成形品について詳細に説明する。
<難燃性樹脂組成物>
本発明の難燃性樹脂組成物は、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種の樹脂(マトリックス樹脂)と、金属水和物を含んでなる体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の難燃性粒子と、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種の難燃助剤と、を少なくとも含有することを特徴とする。
【0013】
前述のように、従来難燃剤として使用されている金属水和物などの難燃性粒子では、その他の有機系難燃化合物と比較して同等の難燃性を得るために多量にマトリックス樹脂中に配合させなければならず、これによりポリマー物性が著しく低下する。このため、ポリマー物性の低下を防ぐためには、難燃剤の低充填化が必要である。
なお、難燃性粒子とは、ポリプロピレン重合体樹脂100質量部中に難燃性粒子を5質量部含有させた時に、ISO5660−1に規定する最高発熱速度が難燃性粒子を含む前と比較して25%以上減少させることのできる粒子をいう。
【0014】
前記低充填化の方法の一つとして、難燃性粒子をさらにnmオーダーの粒径に微粒子化することにより、粒子の比表面積を増加させ、その結果、ポリマーとの接触面積を増加させることで、少量の添加でも従来のハロゲン系難燃剤に匹敵する難燃性能を発現させることができる。さらに、少量の添加でも難燃性能を得ることができるため、マトリックス樹脂の強度など有用な物性を損なうことがない。
【0015】
すなわち、前記難燃剤として使用される金属水和物を含んでなる難燃性粒子には、燃焼時に熱分解して水を放出することで燃焼時の熱量を低下させる効果と、燃焼時にポリマーから発する燃焼ガスを希釈する効果との二つの効果がある。そして、通常その効果は多量に充填しないと十分な難燃性が出現しないことが知られているが、これらの現象は、あくまで従来のμmオーダーの粒径の金属水和物における現象である。
【0016】
本発明者等は、難燃剤の粒径をnmオーダーにすることで熱量を低下させる効果と燃焼時にポリマーから発する燃焼ガスを希釈する効果とをより緻密に、かつ効果的に働かせることができることを見出した。
【0017】
一方、ポリマーへの難燃剤添加による樹脂難燃化においては、難燃剤を一つではなくいくつか併用して用いる場合がほとんどあり、その場合に樹脂に対する配合量の多いものが主たる難燃剤であり、その主たる難燃剤の難燃効果をさらに高めるため少量添加されるものとして難燃助剤がある。
【0018】
本発明に用いられる難燃助剤は、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種である。難燃助剤は主に膨張して熱や樹脂成形品に対して層(チャー)を形成することによって固層方式で難燃効果をもたらすとされており、難燃剤と組合せてチャー形成化合物としてさらなる相乗効果を得るために使用されるものである。
なお、本発明に用いられる難燃助剤には、リン酸系難燃助剤及びハロゲン系難燃助剤は含まれない。
【0019】
難燃助剤として利用されるチャー形成化合物には、燃焼時にポリマー表面を覆い酸素を遮断する効果と、ポリマーから発せられる可燃物を遮断する二つの効果とを持つ。このチャー形成化合物の難燃効果は、前記金属水和物の持つ難燃効果と異なるものである。
【0020】
本発明においては、これら金属水和物とチャー形成化合物(難燃助剤)との異なる二つの効果を組合せることにより、さらなる難燃効果の向上が見出された。
具体的には、ナノサイズの金属水和物とチャー形成化合物とを併用した場合には、前記金属水和物をナノサイズにした優位性とチャー形成化合物の持つ元々の効果とを組合せることで、従来のマイクロサイズ金属水和物とチャー形成化合物との組合せ効果より、さらに難燃性の向上が可能であることがわかった。これは、金属水和物がナノサイズであるがために、ポリマー中におけるチャー形成化合物との距離が非常に近くなるためであると考えられる。
【0021】
さらに本発明においては、難燃剤として金属水和物を含んでなるnmオーダーの体積平均粒子径の難燃性粒子とチャーを形成し得る難燃助剤とを使用することで、前記のような両者の複合効果により、燃焼時に有害なガスが発生せず、かつリサイクル時の環境付加の小さな難燃性樹脂組成物を得ることができることも明らかとなった。
【0022】
また、難燃性粒子のみにより難燃性を実現しようとすると、難燃性実現のために必要な難燃性粒子の配合量が多くなり、耐トラッキング性(耐コロナ放電性)は向上するが、機械的特性が著しく劣ることがある。しかし、本発明では難燃助剤を併用することにより、難燃性粒子の含有量を減らしても同等の難燃性を達成することができるばかりか、耐コロナ放電性及び機械的特性も向上させることができる。
【0023】
本発明の難燃性樹脂組成物中に含まれる樹脂(以下、適宜マトリックス樹脂と称することがある。)はポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種である。耐コロナ放電性CTI PLCレベルが1以上の樹脂はいくつか存在するが、コスト面及び汎用性の面からポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンの中から選択されることが望ましい。
【0024】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物の構成等について説明する。
−難燃性粒子−
金属水和物を含んでなる本発明の難燃性粒子の体積平均粒子径は、1〜500nmの範囲である。また、難燃性粒子の体積平均粒子径は1〜200nmの範囲であることが好ましく、5〜200nmの範囲であることがより好ましく、10〜200nmの範囲(特に10〜100nm)であることがさらに好ましい。
【0025】
難燃性粒子の体積平均粒子径が1nmより小さいと、難燃性保持能が低下してしまう。また、500nmより大きいと、市販の体積平均粒子径が1μmの難燃性粒子と同等の特性となり、難燃性を得るために多量に添加することが必要となってしまう。
【0026】
また、体積平均粒子径が前記範囲の難燃性粒子は、樹脂中に均一に分散する。さらに、難燃性粒子の体積平均粒子径がナノメーターサイズであると、微細な複合体を形成できることと相まって、透明性の高い難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
前記金属水和物としては、例えば、Mg、Ca、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiから選択される1種類の金属の水和物を用いることができる。これらの金属の水和物は微粒子化が容易であり、また水和物として安定であるだけでなく、加熱による吸熱性、脱水反応性に優れるため優れた難燃効果を発揮する。上記金属水和物の中では、Mg、Al、Caの水和物が特に好ましい。
【0028】
金属の水和物としては、難燃成分を保持するものであれば特に制限されないが、具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化ニッケルなどの金属水和物;アルミン酸カルシウム、2水和石膏、ホウ酸亜鉛及びメタホウ酸バリウムの水和物などからなるもの;等が例示される。さらに、これらの複合化水和物も好適に使用される。これらの中では、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及び水酸化カルシウムが好ましい。
【0029】
また、前記金属水和物としては、Ca、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiから選択される少なくとも1種とMgとを含む金属(複合金属)の水和物を用いることもできる。このようにMg金属を必須としてこれに各種金属を複合化させた場合、難燃効果の向上を図ることができる。例えば、MgとNiやFeとを複合化させると、燃焼時に気化した樹脂成分に由来する炭化水素中の水素を引き抜く作用を生じ、樹脂組成物の難燃化効果、低発煙化効果を高めることができる。また、MgとAlとを複合化させると、燃焼時の水放出温度を調整して難燃効果を向上させることができる。
【0030】
Ca、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiから選択される少なくとも1種とMgとを含む金属の水和物が用いられる場合、該金属の水和物は、下記一般式(1)で示される。
MgMx・(OH)y ・・・ 一般式(1)
上式において、MはCa、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiから選択される少なくとも1種の金属を表し、xは0.1〜10の実数、yは2〜32の整数を表す。
【0031】
MgMxとしては、MgAlx、MgCax、MgZnx、MgFex、Mg(Al・Ca)xが好ましく用いられる。
【0032】
マトリックス樹脂中での分散性を向上させるために、難燃性粒子の表面に被覆層を形成することが好ましい(以下、この難燃性粒子を「表面被覆難燃性粒子」という場合がある)。被覆層を形成すると、難燃成分を金属水和物粒子中に安定に保持できるとともに、マトリックス樹脂との親和性を大きく向上させることができる。また、前記被覆層は有機化合物またはポリシリコーンを含むことが好ましい。
難燃性粒子の表面を被覆することで、表面活性の高いナノサイズ粒子でもマトリックス樹脂中での分散性を高くすることができ、マトリックス樹脂へ配合したときに均一な分散状態とすることができる。その結果、本発明に係る表面被覆難燃性粒子を配合した難燃性樹脂組成物は、未被覆の難燃性粒子を用いた場合に比べより高い難燃性能を発現することができる。また、ナノサイズの粒子が樹脂中で均一に分散する結果、難燃性樹脂組成物は透明となり、これより作製される成形品は、表面の成形ムラなどの欠陥が見えにくくなり、良好な外観の成形品が得られる。
【0033】
前記有機化合物としては、特に制限されないが、前記難燃性粒子と結合可能な有機基を有するものであることが好ましい。このような有機基を難燃性粒子に結合させることにより、難燃性粒子表面に薄層の有機層を均一に形成することができる。
【0034】
前記有機化合物としては、前記有機基の末端に難燃性粒子と結合を形成するための結合性基を有したものが好ましい。
上記結合性基としては、例えば、ヒドロキシル基、リン酸基、ホスホニウム塩基、アミノ基、硫酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、親水性複素環基、多糖基(ソルビトール、ソルビット、ソルビタン、ショ糖エステル、ソルビタンエステル残基など)、ポリエーテル基(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン基などのアルキレンの炭素数が2〜4のポリオキシアルキレン基など)、加水分解性基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ基などの炭素数が1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子(臭素、塩素原子など)などが挙げられる。
【0035】
なお、結合性基がアニオン性基(硫酸基、スルホン酸基、カルボキシル基など)の場合、種々の塩基と塩を形成していてもよい。該塩基としては、無機塩基(例えば、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、アンモニアなど)、有機塩基(例えば、アミン類など)が挙げられる。また、結合性基がカチオン性基(例えば、アミノ基)の場合には、酸、例えば無機酸(塩酸、硫酸など)、有機酸(酢酸など)と塩を形成してもよい。さらに、上記カチオン性基は、アニオン性基(特に、カルボキシル基、硫酸基)と塩を形成してもよい。また、結合性基として、カチオン性基及びアニオン性基の両方を有していてもよい。
【0036】
このように、好ましい結合性基には、イオン性基(アニオン性基、カチオン性基)、加水分解性基が含まれ、難燃性粒子と形成される結合は、イオン結合であっても共有結合であってもよい。
【0037】
前記有機化合物の有機基としては、界面活性剤の疎水性基等として作用する基(例えば、高級脂肪酸残基、高級アルコール残基、アルキル−アリール基など)やポリアミノ酸残基等が挙げられる。
上記高級脂肪酸残基としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、カプリル酸、カプリン酸、ダチュリン酸、ステアリン酸、モンタン酸、メリシン酸などの炭素数8〜30の飽和脂肪酸(好ましくは炭素数10〜28の飽和脂肪酸、さらに好ましくは12〜26の飽和脂肪酸);エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、リンデル酸、マッコウ酸、オレイン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸などの炭素数が12〜30の不飽和脂肪酸(好ましくは炭素数が14〜28の不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数が14〜26の不飽和脂肪酸)などの残基が挙げられる。
【0038】
また、前記高級アルコール残基としては、例えば、オクチル、ノニル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル(セチル)、オクタデシルなどの炭素数が8〜24の高級脂肪アルコール残基、好ましくは炭素数が10〜22の高級アルコール残基、さらに好ましくは炭素数が12〜20の高級アルコール残基などが挙げられる。
【0039】
また、前記アルキル−アリール基としては、例えば、ヘキシルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ドデシルフェニル、イソプロピルフェニル、ブチルフェニル、アミルフェニル、テトラデシルフェニルなどのアルキル−アリール基(好ましくは炭素数が1〜20のアルキル−炭素数が6〜18のアリール基、さらに好ましくは炭素数が6〜18のアルキル−炭素数が6〜12のアリール基、特に炭素数が6〜16のアルキル−フェニル基)などが挙げられる。
【0040】
これらの疎水性基には、種々の置換基(例えば、炭素数が1〜4のアルキル基など)が置換していてもよい。
【0041】
また、前記ポリシリコーンとしては、シロキサン結合を有するものであれば特に限定されないが、下記一般式(2)で示されるような環状オルガノシロキサン化合物の重合体を用いることが好ましい。
【0042】
【化1】

【0043】
上記式中、nは3〜8の整数を表す。nの数が小さいほど沸点が低く、揮発して難燃性粒子に吸着する量が多くなり、nが7を超えると揮発しにくくなり被覆処理が不充分となるため好ましくない。また特にn=4、5又は6であるとその立体的な性質から重合しやすく最も適している。
【0044】
本発明においては、前記一般式(2)で示される環状オルガノシロキサン化合物(a)、(b)のうちのいずれか、または2種を組み合わせて用いることができる。重合体の重合度(繰り返し単位数)は10〜1000の範囲であることが好ましく10〜100の範囲がより好ましい。また、被覆層としては、上記重合体と前記有機化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0045】
被覆層として、上記のような低表面エネルギーのポリシリコーンを用いることにより、表面被覆難燃性粒子をマトリックス樹脂と混合した場合に樹脂の可塑化が起こりにくくなる。
また、難燃性樹脂組成物としたときに、燃焼時に表面のポリシリコーン層が熱バリア層を形成するが、粒子表面にポリシリコーンの被覆層を形成することで、金属水和物粒子より放出される水分が熱バリア層を発泡させるため、熱バリア層の断熱性を高め難燃効果を向上させることができる。
【0046】
本発明に係る表面被覆難燃性粒子における有機化合物による表面被覆量は、金属水和物に対して1〜200質量%の範囲であることが好ましく、20〜100質量%の範囲であることがより好ましく、30〜80質量%の範囲であることがさらに好ましい。被覆量が1質量%に満たないと、マトリックス樹脂中で凝集物が生成し、分散が不均一になってしまう場合がある。また、200質量%を超えると、マトリックス樹脂に分散したとき樹脂が可塑化してしまう場合がある。
【0047】
また、表面被覆難燃性粒子におけるポリシリコーンによる表面被覆量は、金属水和物に対して20〜200質量%の範囲であることが好ましく、20〜80質量%の範囲であることがより好ましい。被覆量が20質量%に満たないと、マトリックス樹脂中で凝集物が生成し、分散が不均一になってしまう場合がある。また、200質量%を超えると、マトリックス樹脂に分散したとき樹脂が可塑化してしまう場合がある。
なお、被覆層の均一性は、表面被覆難燃性粒子を透過型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0048】
なお、本発明における表面被覆した難燃性粒子の場合も、体積平均粒子径(表面被覆難燃性粒子が非球状の場合にはその外接円の平均径)の好ましい範囲は前記と同様である。
【0049】
また、本発明における難燃性粒子の分散度は、0.1〜3.0の範囲が好ましく、0.1〜1.0の範囲がさらに好ましく、0.1〜0.8の範囲が特に好ましい。
分散度が小さいことは、難燃性粒子の粒度分布が狭いこと、すなわち粒子の大きさがより均一であることを示しており、分散度が前記範囲にあると樹脂に分散した場合の難燃性、機械的特性も均一となる。
【0050】
なお、前記体積平均粒子径、分散度は、レーザードップラーヘテロダイン型粒度分布計(UPA日機装株式会社製、MICROTRAC−UPA150)により測定した(以下同様である)。具体的には、測定された粒度分布を基にして、体積について小粒径側から累積分布を引いて、累積50%となる粒径を体積平均粒子径とした。また、質量について粒度分布を引いて、小粒径側から累積90%となる粒径をD90、累積10%となる粒径をD10としたとき、分散度は下記式で定義される。この測定法については、以下同様である。
分散度=log(D90/D10
【0051】
前記表面被覆した難燃性粒子の製造方法は、上記構成、特性を満足させることができる方法であれば特に制限されないが、例えば、有機化合物金属塩及び分散剤を溶解させた水溶液中に金属水和物粒子を分散させ、その表面に有機化合物層を形成する方法、金属水和物粒子表面に有機シロキサン化合物の気化物を作用させ、ポリシリコーン化合物層を形成する方法、さらにアルキル酸金属塩を有機溶媒に展開して逆ミセルを形成し、金属イオンを金属酸化物として表面被覆粒子を形成する方法などが挙げられる。これらの方法は、特願2005−49009号公報、特願2005−49010号公報、特願2005−49011号公報に詳しい。
【0052】
本発明の難燃性樹脂組成物における前記難燃性粒子の配合量は、後述するマトリックス樹脂100質量部に対して0.1〜100質量部の範囲であることが好ましく、1〜80質量部の範囲であることがより好ましい。
【0053】
−難燃助剤−
本発明に用いられる難燃助剤は、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種である。
ホウ酸系難燃助剤の具体例としては、例えば、ホウ酸亜鉛水和物、メタホウ酸バリウム、ほう砂などのホウ酸を含有する化合物が挙げられる。
アンモン系難燃助剤としては、例えば、硫酸アンモニウム等のアンモニア化合物が挙げられる。
無機系難燃助剤としては、例えば、フェロセンなどの酸化鉄系燃焼触媒、酸化チタンなどのチタンを含有する化合物、スルファミン酸グアニジンなどのグアニジン系化合物、さらに、ジルコニウム系化合物、モリブデン系化合物、錫系化合物、炭酸カリウムなどの炭酸塩化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化金属及びその変性物が挙げられる。
窒素系難燃助剤としては、例えば、トリアジン環を有するシアヌレート化合物が挙げられる。
【0054】
有機系難燃助剤としては、例えば、無水クロレンド酸、無水フタル酸、ビスフェノールAを含有する化合物、グリシジルエーテルなどのグリシジル化合物、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、変性カルバミド、シリコーンオイル、オルガノシロキサン等のシリコーン化合物が挙げられる。
コロイド系難燃助剤としては、例えば、従来から使用されている難燃性を持つ水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの金属水和物、アルミン酸化カルシウム、2水和石膏、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、カオリンクレーなどの水和物、硝酸ナトリウムなどの硝酸化合物、モリブデン化合物、ジルコニウム化合物、アンチモン化合物、ドーソナイト、プロゴパイトなどの難燃性化合物のコロイドが挙げられる。
【0055】
以上の各種難燃助剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記難燃助剤は、比較的少ない量で優れた難燃効果が得られる点、リサイクル時における熱履歴などで劣化しない点などの理由から、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも1種が好ましく、ホウ酸系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤がさらに好ましい。
【0056】
本発明の難燃性樹脂組成物における難燃助剤の配合量は、マトリックス樹脂100質量部に対して0.1〜80質量部の範囲であることが好ましく、1〜50質量部の範囲であることがより好ましい。
【0057】
−樹脂−
本発明の難燃性樹脂組成物に用いられる樹脂(マトリックス樹脂)は、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種である。ポリプロピレンを用いる場合、難燃性粒子の多量充填による耐衝撃性の低下を補うためにシンジオタックとアタクチックのポリプロピレンの双方をブレンドして用いてもよい。
本発明の難燃性樹脂組成物に用いられるマトリックス樹脂としては、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートが好ましく、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0058】
本発明の難燃性樹脂組成物には、通常配合される安定剤などを配合させることができる。これらは特に限定されるものではないが、例えば、橋掛け剤、橋掛け促進剤、橋掛け促進助剤、活性剤、橋掛け抑制剤、老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、補強剤、強化剤、発砲剤、発泡助剤、安定剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、変性剤、着色剤、カップリング剤、防腐剤、防カビ剤、改質剤、接着剤、付香剤、重合触媒、重合開始剤、重合禁止剤、重合抑制剤、重合調整剤、結晶核剤、相溶化剤、分散剤、消泡剤などが挙げられる。
これらは、単独もしくは2つ以上で複合して使用することができる。
【0059】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、前記難燃性粒子、難燃助剤だけでなく、さらに粒子径の大きい難燃剤と併用することによって、ポリマーマトリックス中において大きな粒子同志の隙間を小さな難燃性粒子が埋める石垣のような効果により、隙間なくマトリックス樹脂中に難燃性物質を行き渡らせることができる。これにより、難燃性はさらに向上する。
【0060】
前記難燃剤としては、体積平均粒子径が0.5〜50μmの範囲であるものが好ましく、0.5〜30μmの範囲であるものがより好ましい。体積平均粒子径が0.5μmに満たないと、粒子が小さすぎて前記石垣のような構造を採ることができない場合がある。50μmより大きいと、ポリマーの機械的特性を低下させる原因となる場合がある。
【0061】
前記難燃剤としては、特に制限されないが、金属水和物、無機水和物、窒素含有化合物、及び珪素含有無機充填剤から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記金属水和物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウムのうちから選択されるいずれかであることが好ましい。また、前記無機水和物としては、アルミン酸化カルシウム、2水和石膏、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、モリブデン化合物、及びカオリンクレーのうちから選択されるいずれかであることが好ましい。また、前記窒素含有化合物は硝酸ナトリウムであることが好ましい。さらに、前記珪素含有無機充填剤は、ジルコニウム化合物、アンチモン化合物、ドーソナイト、プロゴパイト、及びスメクタイト等から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0062】
上記難燃剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記難燃剤としては、前記難燃性粒子に含まれる金属水和物を構成する化合物と同一であっても、異なってもよい。
【0063】
前記難燃剤の含有量は、前記難燃性粒子100質量部に対し、0.1〜200質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜50質量部の範囲であることがより好ましい。含有量が0.1質量部に満たないと、含有量が少なすぎ前記石垣のような構造を採ることができない場合がある。200質量部を超えると、難燃剤の量が多くなりすぎポリマーの機械的特性が低下する場合がある。
【0064】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、前記難燃性粒子、難燃助剤だけでなく、有機化処理したスメクタイト類を併用することによって、マトリックス樹脂中において大きなアスペクト比のスメクタイト類粒子同志の隙間を小さな難燃性粒子が埋める点と線のような効果により、隙間なくマトリックス樹脂中に難燃性物質を行き渡らせることができる。これにより、難燃性はさらに向上する。
【0065】
前記有機化処理したスメクタイト類が樹脂中に分散した際にその樹脂は透明になり、本発明の難燃性粒子が可視光波長以下の大きさであり、かつ、樹脂に配合する際にも均一に分散するため、その併用配合樹脂は透明性に優れる。
【0066】
本発明の難燃性樹脂組成物は、以上述べた難燃性粒子、難燃助剤、マトリックス樹脂及び必要に応じて難燃剤、安定剤などを混合し、これを混練機で混練することにより得ることができる。
上記混練機としては、特に制限されないが、3本ロールや2本ロールを用い、せん断応力と位置交換の繰り返しによって、難燃性粒子を分散させる方法、及びニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、1軸押出機、2軸押出機を用い、分散機壁面の衝突力やせん断力によって分散させる方法が、高い分散性を得る観点から好ましく用いられる。
【0067】
混練温度は用いるマトリックス樹脂、難燃性粒子などの添加量等によって異なるが、50〜450℃の範囲が好ましく、60〜380℃の範囲がより好ましい。
【0068】
本発明に係る難燃性粒子の表面に、有機化合物またはポリシリコーンを含む被覆層が形成されていると、前記ニーダー、2軸押出機及びロールなどの機械的混合のみならず、マトリックス樹脂が溶解する、もしくは膨潤する溶液中においても樹脂と均一分散させることができる。
【0069】
また、重合による樹脂製造の過程において、重合溶媒とともに本発明に係る難燃性粒子を混合することも可能である。このように樹脂への分散において大きな自由度を持つため、ペレット、繊維、フィルム、シート、構造物など、幅広い形状の加工品への適用が可能となる。
【0070】
重合による樹脂製造の際に用いられる有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、メタノール、エチルホルムアミド、ニトロメタン、エタノール、アクリル酸、アセトニトリル、アニリン、シクロヘキサノール、n−ブタノール、メチルアミン、n−アミルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ベンゼン、酢酸エチル、トルエン、ジエチルケトン、四塩化炭素、ベンゾニトリル、シクロヘキサン、イソブチルクロリド、ジエチルアミン、メチルシクロヘキサン、酢酸イソアミル、n−オクタン、n−ヘプタン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、メチルイソプロピルケトン、酢酸ブチル、メチルプロピルケトン、エチルベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、トリクロロエチレン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、ピリジン、n−ヘキサノール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、エチレングリコール、グリセロールホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
これらは単独もしくは2つ以上で複合して使用することができる。
【0071】
また、その際の混合温度は0〜200℃の範囲、好ましくは室温から150℃の範囲、特に好ましくは10〜100℃の範囲であり、場合によっては、圧力をかけてもよいし、かけなくてもよい。
【0072】
以上、本発明の難燃性樹脂組成物及びその製法について簡単に説明した。本発明の難燃性樹脂組成物は、従来の難燃剤を微粒子化することにより、粒子の比表面積を増加させ、ポリマー(マトリックス樹脂)との接触面積を増加させると共に、チャー形成化合物である難燃助剤を併用することにより、少量の配合で高い難燃性能が発現されることを特徴としている。
また、本発明における難燃性粒子は、表面に被覆層(有機化合物、ポリシリコーン)を有することで、樹脂中にさらに均一に分散させることができ、その難燃効果は向上する。
【0073】
しかも、本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性粒子の少量添加で高難燃性であるため、機械的特性に優れるだけでなく、従来のハロゲン系やリン酸系の難燃剤に比べて環境負荷が小さく、金属水和物が熱履歴で劣化することがないためリサイクル性も高い。さらには、用いられる難燃性粒子が可視光波長以下の大きさであり、かつ、マトリックス樹脂に配合する際にも均一に分散するため、難燃性樹脂組成物は透明性に優れる。
【0074】
<難燃性樹脂成形品>
本発明の難燃性樹脂成形品は、本発明の難燃性樹脂組成物を少なくとも含有し、UL−94試験による難燃性がHB以上であり、30℃85%RHにおける耐コロナ放電性CTI PLCレベルが1以上であり、再成形したときの降伏応力が再成形前の降伏応力の60%以上であり、再成形したときの前記UL−94試験による難燃性が再成形前と同一であることを特徴とするものである。
なお、本発明において再成形したときの降伏応力及び再成形したときのUL−94試験による難燃性とは、本発明の難燃性樹脂組成物を含有する難燃性樹脂成形品を小型二軸破砕機CSS(富士テック株式会社)により破砕し、さらに押出成形機(東芝機械社製、TEM−SS)によりフィード160℃、ヘッド200℃、スクリュー回転60rpmの条件で押出成形し、次いで射出成形機(日本製鋼社製、J55AD)によりノズル温度200℃、金型温度40℃の条件で射出成形を行う条件で再成形を5回繰り返した後に測定される降伏応力及びUL−94試験による難燃性をいう。
本発明の難燃性樹脂成形品は、本発明の難燃性樹脂組成物を成形機により成形することにより得ることができる。
上記成形機としては、プレス成形機、インジェクション成形機、モールド成形機、ブロー成形機、押出成形機、及び紡糸成形機のうちから選択される1以上の成形機を用いることができる。したがって、これらの1つにより成形を行ってもよいし、1つの成形機により成形を行った後、他の成形機により続けて成形を行ってもよい。
【0075】
コロナ帯電器に用いられるタングステンワイヤ(高圧電線)を絶縁支持する支持部材として本発明の難燃性樹脂成形品を用いることが好ましい。リン系難燃剤を配合した樹脂は、特に高温高湿下の耐コロナ放電性に劣るが、リン系難燃剤を用いない本発明の難燃性樹脂成形品は難燃性及び耐トラッキング性に優れるため、絶縁部と難燃部とを分ける必要がなく支持部材の小型化を図ることができる。
【0076】
本発明の難燃性樹脂成形品のUL−94試験による難燃性はV−2以上が好ましく、V−1以上がさらに好ましい。また、本発明の難燃性樹脂成形品の30℃85%RHにおける耐コロナ放電性CTI PLCレベルは1以上が好ましく、0以上がさらに好ましい。さらに、本発明の難燃性樹脂成形品を再成形したときの降伏応力は、再成形前の降伏応力の60%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
<樹脂>
樹脂(マトリックス樹脂)1として、ポリプロピレン(ノバテックBC3L、日本ポリプロ社製)を、樹脂2としてポリブチレンテレフタレート(トレコン1401X04、東レ社製)を、樹脂3としてポリエチレン(NUC−8008、日本ユニカー社製)を用いた。
<難燃性粒子>
(難燃性粒子1)
表面融合のための処理装置としてメカノフュージョンシステム(AMS−Lab、ホソカワミクロン社製)を用い、1Lの容器に難燃性粒子として体積平均粒子径が80nmの水酸化マグネシウム粒子(宇部マテリアル社製、マグネシア500H)300部と、ステアリン酸90部とを投入し、インナーピースクリアランスを5mm、回転数を2600rpmとした。得られた難燃性粒子1の体積平均粒子径は80nm、分散度は0.5であった。また、難燃性粒子1を精秤して表面被覆量を算出したところ30質量%であり、透過型電子顕微鏡による観察でも均一に被覆されていることが確認された。
【0078】
(難燃性粒子2)
難燃性粒子として体積平均粒子径が10nmの水酸化マグネシウム粒子(100H、宇部マテリアル社製)100部と、環状オルガノシロキサン化合物としてオクタメチルシクロテトラシロキサン200部とを、それぞれ別のガラス容器に秤量した。これらを容器ごと、減圧・密閉できるデシケーター中に設置した。次いで、真空ポンプにてデシケーター内圧を80mmHgまで減圧した後密閉した。その後、デシケーター容器ごと60℃環境下にて12時間放置し処理を行った。処理後、ガラス容器より表面処理の施された難燃性粒子2を取り出した。
得られた難燃性粒子2の体積平均粒子径は10nm、分散度は0.3であった。また、難燃性粒子2を精秤して表面被覆量を算出したところ70質量%であり、透過型電子顕微鏡による観察でも均一に被覆されていることが確認された。
【0079】
(難燃性粒子3)
難燃性粒子として体積平均粒子径が200nmの水酸化マグネシウム粒子(MGZ−3、宇部マテリアル社製)100部と、環状オルガノシロキサン化合物としてオクタメチルシクロテトラシロキサン200部とを、それぞれ別のガラス容器に秤量した。これらを容器ごと、減圧・密閉できるデシケーター中に設置した。次いで、真空ポンプにてデシケーター内圧を80mmHgまで減圧した後密閉した。その後、デシケーター容器ごと60℃環境下にて12時間放置し処理を行った。処理後、ガラス容器より表面処理の施された難燃性粒子3を取り出した。
得られた難燃性粒子3の体積平均粒子径は200nm、分散度は0.8であった。また、難燃性粒子3を精秤して表面被覆量を算出したところ11質量%であり、透過型電子顕微鏡による観察でも均一に被覆されていることが確認された。
【0080】
(難燃性粒子4)
難燃性粒子4として、体積平均粒子径が800nmの水酸化マグネシウム(キスマ5A、協和化学製)を用いた。
【0081】
(難燃助剤)
難燃助剤1としてリン酸エステル(TPP、大八化学社製)を、難燃助剤2として赤リン(ヒシガードRP、日本化学工業社製)を、難燃助剤3としてフッ素系難燃助剤(ダイキンポリフロンA500、ダイキン化学工業社製)を、難燃助剤4として窒素系難燃助剤(アピノン101、三和ケミカル社製)を用いた。
【0082】
[実施例1A]
樹脂1を100部と難燃性粒子1を10部と難燃助剤3を5部とを混合した後、2軸押出機を用いて混練してストランドをホットカットすることで、難燃性樹脂組成物のチップを得た。得られたチップを加熱プレス(120℃×10分間)にて成形することによって、2mm厚のシート状成形体(難燃性樹脂成形品)を得た。
【0083】
<難燃性樹脂成形品の評価>
上記の如く作製した各シート状成形体について、下記の評価を行った。
(耐トラッキング性)
UL−746C−5の耐トラッキング試験(CTI)を常温(23℃25%RH)及び加湿下(30℃85%RH)で行った。CTIのPLC(performance level category)は、数値のレベルの低いものほど性能が良い。
【0084】
(難燃性)
難燃性試験(UL−94)としては、JIS Z 2391に従い垂直燃焼試験を行った。その試料厚みは、2mmにて試験を実施した。
【0085】
(機械的特性)
機械的特性(降伏応力)は、JIS K7161に準拠し、常温にて引張速度を50mm/minとして東洋精機社製ストログラフ V50Dを用いて測定した。
【0086】
(リサイクル性)
前記シート状成形体を小型二軸破砕機CSS(富士テック株式会社)により破砕し、さらに押出成形機(東芝機械社製、TEM−SS)によりフィード160℃、ヘッド200℃、スクリュー回転60rpmの条件で押出成形し、次いで射出成形機(日本製綱社製、J55AD)によりノズル温度200℃、金型温度40℃の条件で射出成形を行った。この再成形を5回繰り返した後の成形品について、前記難燃性試験、降伏応力試験を行い、再成形前の特性との比較を行った(降伏応力については再成形前に対する比率(物性回復力)として示した)。また、目視により、外観(透明性)変化についても確認した。
得られた結果を表1に示す。なお、表1中の単位は特に指定しない限り質量部を表す。
【0087】
[実施例2A乃至4A及び比較例1A乃至6A]
実施例1Aにおいて、樹脂、難燃性粒子及び難燃助剤の種類並びに配合量を表1に示すようにした以外は同様にして難燃性樹脂成形品を作製し、同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
[実施例1B乃至4B及び比較例1B乃至6B]
樹脂、難燃性粒子及び難燃助剤の種類並びに配合量を表2に示すようにした以外は実施例1Aと同様にして難燃性樹脂成形品を作製し、同様の評価を行った。
結果を表2に示す。なお、表2中の単位は特に指定しない限り質量部を表す。
【0090】
【表2】

【0091】
[実施例1C乃至4C及び比較例1C乃至6C]
樹脂、難燃性粒子及び難燃助剤の種類並びに配合量を表3に示すようにした以外は実施例1Aと同様にして難燃性樹脂成形品を作製し、同様の評価を行った。
結果を表3に示す。なお、表3中の単位は特に指定しない限り質量部を表す。
【0092】
【表3】

【0093】
表1乃至表3の結果から、体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の金属水和物を難燃性粒子として用いると、難燃性樹脂成形品への少量添加で難燃性を得ることができ、機械的特性にも優れることがわかる。また、全ての難燃性樹脂成形品で常温での耐トラッキング性は、PLC0と良好であるが、30℃85%RH下での試験ではリン酸系難燃剤を配合したものはPLC0を維持することができない。また、リン酸系難燃剤を配合したものはリサイクル性に劣り、物性回復力、難燃性及び外観を維持できない。さらに、表面処理した金属水和物を用いることにより、成形品の白化を防ぐことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種の樹脂と、
金属水和物を含んでなる体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の難燃性粒子と、
ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種の難燃助剤と、
を少なくとも含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属水和物が、Mg、Ca、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiから選択される1種類の金属の水和物であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃性粒子の表面に、有機化合物またはポリシリコーンを含む被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンから選択される少なくとも一種の樹脂と、金属水和物を含んでなる体積平均粒子径が1〜500nmの範囲の難燃性粒子と、ホウ酸系難燃助剤、アンモン系難燃助剤、無機系難燃助剤、窒素系難燃助剤、有機系難燃助剤及びコロイド系難燃助剤から選択される少なくとも一種の難燃助剤と、を少なくとも含有する難燃性樹脂成形品であって、
UL−94試験による難燃性がHB以上であり、30℃85%RHにおける耐コロナ放電性CTI PLCレベルが1以上であり、再成形したときの降伏応力が再成形前の降伏応力の60%以上であり、再成形したときの前記UL−94試験による難燃性が再成形前と同一であることを特徴とする難燃性樹脂成形品。

【公開番号】特開2006−265419(P2006−265419A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87349(P2005−87349)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】