説明

難燃性樹脂組成物

【課題】非ハロゲン系かつ非リン系の難燃性付与成分を用いて難燃化された、樹脂組成物を提供する。
【解決手段】1または複数の樹脂成分と、難燃性を付与する1または複数の難燃性付与成分とを含む樹脂組成物において、少なくとも1つの難燃性付与成分を、固体の形態で樹脂組成物に分散可能であり、かつ樹脂成分の燃焼時にガスを大量に瞬時に発生して、樹脂成分に着火した炎を吹き消すように作用する成分(例えば、アジ化ナトリウムまたは硝酸セルロース)とすることによって、種々の樹脂の難燃性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に負荷を与えない物質で難燃化された樹脂組成物、特に家電およびOA機器等に用いるのに適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂は、テレビをはじめとする家庭電化製品の筐体等の一部または全部を構成するために多く用いられている。代表的な合成樹脂として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ABS、耐衝撃性を向上させたハイインパクトポリスチレン(HIPS)等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、一般的に難燃性が低いため、筐体を構成する際には、難燃剤および必要に応じて難燃助剤を加えて、樹脂組成物とすることにより、難燃化することが一般的に行われている。
【0003】
難燃剤としては、比較的少量の添加量で高い難燃効果を発揮し、かつ価格の安いハロゲン系難燃剤が、多く使われている。特に、臭素系難燃剤は、ポリスチレンの難燃化に適していることもあり、大量に使用されている。
【0004】
また、難燃剤に加えて、樹脂の物性を向上または維持させるために、各種添加剤が樹脂に混練される。添加剤は、例えば、難燃助剤、離型剤、滑剤、強化剤、可塑剤、流動改質剤、導電剤、帯電防止剤、硬化剤、酸化防止剤、着色剤、安定剤、および酸化防止剤等である。
【特許文献1】特開2001−240751号公報
【特許文献2】特開昭55−118988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難燃剤を樹脂に混練し、均一に分散させることは、難燃剤が液体である場合には、比較的容易に実施できる。しかしながら、難燃剤が固体(粉末)である場合には、難燃剤の分散の均一性は、液体である場合と比較して劣る傾向にある。
【0006】
また、分散性は、粉体の粒径によっても影響を受ける。例えば、粉体の粒径が1μmより大きい場合は、粉体において粒子と粒子は、ある程度離れているが、粒径が1μm以下の場合、粒子が凝集しやすく、その結果、粒径が数十μm以上の凝集体になることがある。凝集体の凝集力は強く、樹脂混練時の応力だけでは、再度、解きほぐすことは困難である。よって、このような凝集体が生じると、粒径がナノサイズとなるように微粉砕を行っても、大きな粒径の粒子しか得られないことになる。即ち、そのような凝集体と樹脂とを混練しても、粒子一つ一つが綺麗に樹脂中に分散するわけではなく、粒子レベルでの混練は不十分であるといえる。
【0007】
さらに、代表的な難燃剤である臭素系難燃剤は、その環境負荷が問題視されており、最終製品の製造者は、それを使用した材料の使用を避ける傾向にある。そこで、ハロゲン系難燃剤に代って、リン系難燃剤がしばしば使われる。しかし、リン系難燃剤についても、人体に対する影響を研究する動きがある。そのため、現在、非ハロゲンかつ非リン系難燃剤の開発が望まれている。具体的には、シリコーン系難燃剤および金属水酸化物系難燃剤等が上市されている。しかし、これらの難燃剤はいずれも、樹脂に高い配合比で混合する必要があり、そのことが樹脂としての物性低下およびコスト高を招くことがある。さらにまた、有効な難燃剤は樹脂ごとに決まっており、あらゆる樹脂に使用可能な難燃剤はほとんどない。
【0008】
リン系難燃剤を使用しない難燃性樹脂組成物として、COを難燃剤として包含した中空体と樹脂とを含む樹脂組成物が既に提案されている(特許文献1)。この組成物においては、不燃性のガスが燃焼中に放出されることにより、難燃性が確保されると考えられる。しかしながら、この組成物にはCOそのものが封じ込められているため、樹脂の燃焼中に放出されるCOの量が少なく十分な難燃効果が得られにくい。また、COを増やそうとすると、樹脂中にボイドが多数存在するのと同じこととなり、樹脂物性が低下することは明らかである。
【0009】
このように、ガスを利用して難燃性を十分に確保する方法は、確立されていない。しかし、ガスを難燃剤として利用することができれば、樹脂の種類を問わず、略同じ難燃性を付与できると考えられる。よって、本発明は、ガスの作用を利用して難燃性が確保される樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、樹脂に着火した炎を短い時間で吹き消す消火メカニズムを実現する方法を見出し、本発明を案出するに至った。具体的には、本発明者らは、樹脂中において極めて小さな体積を有しながら、燃焼時に急激に体積の増加するガス発生剤を通常の混練方法で配合することにより、物性劣化の少ない難燃性樹脂組成物が得られることを見出した。さらに、本発明者らは、燃焼時にのみ確実にガスを発生させる構成として、ガスを急激に発生する材料の表面を耐熱性皮膜でコーティングする構成を提案する。
【0011】
即ち、本発明は、1または複数の樹脂成分と、難燃性を付与する1または複数の難燃性付与成分を含み、難燃性付与成分の少なくとも1つの成分が、固体の形態で樹脂組成物に分散しており、樹脂成分の燃焼時にガスを発生して、樹脂成分に着火した炎を吹き消す成分(以下、この成分を、「吹き消し成分」と呼ぶ)である、樹脂組成物を提供する。
【0012】
本明細書において、「樹脂」という用語は、樹脂組成物中の重合体を指すために用いられ、「樹脂組成物」は樹脂を少なくとも含む組成物を指す。プラスチックとは、必須成分として重合体を含む物質をいう。本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と難燃性付与成分とを含むから、プラスチックと呼べるものである。
【0013】
「難燃性」とは、点火源を取り除いた後は燃焼を継続しない又は残燼を生じない性質をいう。ここで、難燃性を付与する「難燃性付与成分」とは、それを添加することにより、樹脂を難燃化する成分である難燃成分(この成分は、「難燃剤」とも称することができる)、およびそれのみを添加したときには、樹脂を難燃化することができないが、難燃成分とともに添加されると難燃成分の難燃性向上効果をより高くする役割をする難燃助剤等を指し、樹脂の難燃性向上に寄与する成分を総称している。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と混合するときに固体であり、燃焼時にガスを大量に発生する成分を、難燃性付与成分として使用することを特徴とする。そのような成分は、燃焼時に多量のガスを放出して、炎を吹き消す役割をする。
【0015】
吹き消し成分は、樹脂成分の燃焼時に、標準状態にて当該成分の体積の5倍以上の体積のガスを発生するものであることが好ましい。そのような吹き消し成分は、少ない添加量で高い難燃効果を発揮する。
【0016】
吹き消し成分はまた、好ましくは、樹脂組成物の混練温度および成形温度のいずれか高い方の温度以下の温度では変化しない。そのような吹き消し成分は、樹脂組成物の製造および成形中、ならびに通常の使用中、安定なものである。よって、これを含む樹脂組成物は、良好に成形することができ、それで作成した最終製品の品質も良好である。
【0017】
吹き消し成分はまた、その表面の一部または全部が耐熱性皮膜で覆われた形態で樹脂組成物に含まれてよい。その場合、樹脂成分の耐熱性皮膜が樹脂組成物の混練温度および成形温度のいずれか高い方の温度よりも高く、かつ吹き消し成分がガスを発生する温度以下の温度で、溶解、分解、昇華または開裂する特性を有する。耐熱性皮膜で覆われることにより、吹き消し成分の安定性が向上し、よって、樹脂組成物の成形性および品質が向上することとなる。
【0018】
吹き消し成分は、好ましくは、アジ化系物、テトラゾール類、硝酸金属塩、硝酸アンモニウム、硝酸セルロース、ピクリン酸、トリニトロフェノール、トリニトロトルエン、およびニトログリセリンから選択される、1または複数の化合物である。これらの化合物は多量のガスを瞬間的に生成するので、好ましく使用される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の樹脂組成物は、それが製造および成形されている間、ならびにそれが普通に使用されている間は、固体の状態で存在し、燃焼時に大量のガスを放出して燃焼を阻止する吹き消し成分を難燃性付与成分として含むことを特徴とする。この特徴により、本発明の樹脂組成物は、ハロゲン系およびリン系難燃剤を含むことなく、難燃性を呈するものとなる。よって、本発明の樹脂組成物は環境に優しいものとして提供され得る。また、吹き消し成分は、樹脂において固体の形態で分散しているため、少量配合されるだけで、高い難燃性を発揮する。さらに、吹き消し成分を、樹脂組成物の混練および成形中に変化しない物質から選択して形成し、あるいは皮膜で被覆された形態とすることによって、従来の混練機をそのまま用いて、効率的に樹脂組成物を製造できる。
【0020】
また、本発明は、特定の樹脂成分に限定されることなく、極めて広い範囲の樹脂に適用可能である。さらに、本発明の樹脂組成物は、吹き消し成分の配合比が数wt%程度であっても、高い難燃性を示す。よって、本発明によれば、従来の難燃剤を使用する場合と比較して、より低いコストで難燃性樹脂組成物を得ることができる。また、難燃性付与成分である吹き消し成分の配合比が少ないと、樹脂物性が損なわれる度合いを小さくすることができ、したがって、物性向上のための添加剤を使用しなくてすむ等の効果が得られる。さらにまた、難燃性付与成分である吹き消し成分の配合比が小さいと、この樹脂組成物の樹脂成分を、同等の品質を有する樹脂成分として回収するマテリアルリサイクルがより容易となる。よって、本発明の樹脂組成物は、リサイクルが容易であり、廃棄物質を減らすという点においても、環境問題を解決する一助となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の樹脂組成物は、1または複数の樹脂を樹脂成分として含み、さらに、燃焼時にガスを発生する、少なくとも1つの吹き消し成分を含む。まず、樹脂成分について説明する。
【0022】
本発明でいう樹脂には、原料(例えば石油原料)から初めて作られたいわゆるバージン樹脂のみならず、製造工程で発生した、不要樹脂、端材、または市場から回収された廃電気製品から回収された再生樹脂も含まれる。
【0023】
樹脂成分は特に限定されず、いわゆる汎用樹脂から、エンジニアプラスチックに至るまでの幅広い範囲に含まれる、あらゆる樹脂を後述する吹き消し成分で有効に難燃化することができる。したがって、樹脂成分は、熱可塑性であってよく、あるいは熱硬化性であってよい。
【0024】
特に、樹脂成分が、スチレン系樹脂、生分解性樹脂(石油由来のものと植物由来のものを含む)、または植物由来の樹脂ではあるが成分解性を有しない樹脂であると、本発明による効果を有効に得ることができる。スチレン系樹脂は、家庭用電化製品の分野で多く使用されていること、ならびに生分解性樹脂および植物由来樹脂は、環境に優しい樹脂として、家庭用電化製品の分野を含む種々の分野において使用が望まれていることによる。本明細書においては、生分解性樹脂(石油由来のものと植物由来のものを含む)と、植物由来の樹脂ではあるが成分解性を有しない樹脂とを総称するために、便宜的に「環境樹脂」という用語を使用する。
【0025】
スチレン系樹脂は、スチレンまたはスチレン変性体をモノマー成分とする重合体(共重合体を含む)である。スチレン系樹脂には、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン/イソプレン共重合体(SIR)、および水素添加スチレン/ブタジエン共重合体(HSBR)等が含まれる。
【0026】
環境樹脂のうち、生分解樹脂には、変性ポリエチレンテレフタレート(例えば、コポリマー)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS:1,4ブタンジオールとコハク酸の共重合樹脂)、及び微生物が生成するポリヒドロキシ酪酸(PHB)が含まれる。植物由来の樹脂には、例えば、ポリ乳酸(PLA)、乳酸共重合体、およびポリブチレンサクシネート(PBS)が含まれる。
【0027】
上記例示した樹脂は単独で用いてもよく、あるいは例示した樹脂から複数の樹脂を選択してブレンドして使用してよく、あるいはまたは例示した1または複数の樹脂と他の樹脂とをブレンドして使用してよい。樹脂成分の分子量も特に限定されず、例えば、3,000〜1,000,000程度であることが望ましい。
【0028】
次に、難燃性を付与する難燃性付与成分について説明する。本発明の樹脂組成物においては、燃焼時にガスを発生して、ガスにより消炎するように作用する、少なくとも1つの吹き消し成分が難燃性付与成分として含まれる。
【0029】
吹き消し成分の種類は、燃焼時にガスを大量にかつ瞬時に(例えば、樹脂組成物に炎が着火した時点を燃焼開始とすると、燃焼開始から1秒以内に)発生して、樹脂組成物に着火した炎を吹き消すように作用し得る限りにおいて、特に限定されない。ガスは、吹き消し成分の燃焼、分解および昇華等により生じ、他の化学的または物理的変化により生じてよい。
【0030】
吹き消し成分は、窒素ガス、二酸化炭素ガス、酸化窒素ガス(例えば、一酸化二窒素ガス)、おより希ガスから選択される少なくとも1種のガスを発生するものであることが好ましい。これらのガスは、それ自体燃焼しにくく、不活性であるので、炎を吹き消すために吹き付けるガスとして好ましいことによる。
【0031】
好ましくは、吹き消し成分は、樹脂成分の燃焼時に、標準状態にて当該成分の体積の5倍以上の体積のガスを発生し、より好ましくは100倍以上の体積のガスを発生する。ガスの発生量が少ないと、十分な吹き消し効果を得られないことによる。
【0032】
吹き消し成分はまた、樹脂組成物の混練温度および成形温度のいずれか高い方の温度以下の温度では、変化を生じないことが好ましい。樹脂組成物の混練中または成形中に吹き消し成分が、化学的または物理的に変化し、例えば、ガスを発生すると、得られる樹脂組成物の品質が良好でない、あるいは成形が実施できない等の不都合が生じる。
【0033】
さらに、吹き消し成分は、好ましくは、約430℃に達したときにガスを発生する。殆どの樹脂成分は、通常、その燃焼温度が450〜550℃であるため、430℃程度でガスを発生する吹き消し成分は、いずれの樹脂成分が含まれる場合でも、燃焼開始直後に大量のガスを発生して、良好な難燃効果を示す。ここで、「燃焼温度」とは、燃焼時の樹脂成分の表面温度をいい、通常、樹脂成分の分解温度+70℃程度である。燃焼時の樹脂成分の表面温度は、例えば、熱電対を用いて測定することができる。
【0034】
吹き消し成分は、具体的には、
アジ化ナトリウムのようなアジ化物、
テトラゾール類、および硝酸ストロンチウム等の金属硝酸塩を成分とする非アジ化系ガス発生剤、
その他の爆発性を有する物質、例えば、硝酸アンモニウム、硝酸セルロース、ピクリン酸、トリニトロフェノール、トリニトロトルエン、およびニトログリセリン等
から、1または複数選択される。
【0035】
これらの化合物は、必要に応じて、着火剤と組み合わせて使用してよい。着火剤は、吹き消し成分の迅速な反応を促すために添加され、加熱温度に対する反応がシャープである(即ち、所定温度以上に加熱されると速やかに反応する)ことが好ましい。着火剤として、例えば、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、および過塩素酸ナトリウム等の過塩素酸塩、ならびにTi/KNO、およびB/KNO等の硝酸カリウムを含む着火剤を挙げることができる。
【0036】
吹き消し成分の混合割合は、吹き消し成分の種類、樹脂成分の種類、樹脂組成物に必要とされる難燃性の度合い、および吹き消し成分の添加による樹脂組成物の物性の変化量に応じて決定される。具体的には、例えば、樹脂組成物中、吹き消し成分は0.1wt%〜50wt%程度を占めることが好ましい。吹き消し成分の割合が0.1wt%未満であると、顕著な難燃性向上効果を得られにくく、50wt%を越えると、吹き消し成分の混合に起因する望ましくない影響(例えば、流動性の低下による成形性不良等)が顕著となる。吹き消し成分は、1〜10wt%程度含まれるように混合してよく、その場合でも、良好な難燃性を達成できる。
【0037】
吹き消し成分とともに着火剤を分散せせる場合、着火剤は、吹き消し成分の重量の0.01〜0.5倍程度となるように、樹脂組成物中に存在させることが好ましい。着火剤の量が少ないと、樹脂成分の燃焼時に吹き消し成分からガスを発生させることができない場合があり、着火剤の量が多すぎると、樹脂の物性および成形性が低下することがある。
【0038】
また、吹き消し成分からガスが発生する温度をより的確に制御するために、吹き消し成分の表面の少なくとも一部、好ましくは全部を、耐熱性皮膜で被覆してよい。耐熱性皮膜は、耐熱性皮膜が樹脂組成物の混練温度および成形温度のいずれか高い方の温度よりも高く、かつ吹き消し成分がガスを発生する温度以下の温度で、溶解、分解、昇華または開裂する特性を有するように構成される。即ち、耐熱性皮膜は、樹脂成分の燃焼時に、吹き消し成分から発生するガスが樹脂組成物の外に放出されることを妨げないように構成される。吹き消し成分が、上述のように約430℃でガスを発生する場合には、耐熱性皮膜は、それよりも低い温度(例えば、約400℃〜約420℃)で、溶解等することが好ましい。
【0039】
着火剤を吹き消し成分と組み合わせて使用する場合には、着火剤にも耐熱性被膜を形成することが好ましい。それにより、着火剤が機能する温度を制御でき、したがって、吹き消し剤が難燃成分として機能する温度を制御できることとなる。
【0040】
耐熱性皮膜の材料としては、例えば、有機ワックス、パラフィン、高融点オイル、たんぱく質、および澱粉類がある。あるいは、耐熱性皮膜は、樹脂成分より融点の高い熱可塑性樹脂を用いて形成してもよい。ここに挙げた材料以外の材料であっても、前述の条件を満たすように構成される限りにおいて、任意の材料を使用してよい。吹き消し成分の表面に耐熱性皮膜を被覆する方法としては、公知のマイクロカプセル製造方法を用いることができる。具体的には、吹き消し成分の物性と皮膜材料との組み合わせに応じて、スプレードライ法、コートマイザー法、静電合体法、または真空蒸着法等を用いることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、吹き消し成分に加えて、他の難燃性付与成分を含んでよい。他の難燃性付与成分は、いわゆる難燃剤および難燃助剤等である。さらに、本発明の樹脂組成物は、各種物性を向上させるための添加剤、例えば、滑剤、強化剤、可塑剤、流動改質剤、導電材、離型剤、帯電防止剤、硬化剤、酸化防止剤、着色剤、顔料、染料、安定剤、および酸化防止剤等から選択される、1または複数の添加剤を含んでよい。
【0042】
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法を説明する。本発明の樹脂組成物は、前記樹脂成分、前記吹き消し成分、および必要に応じて混合される他の成分を混練機で混練することにより、吹き消し成分および当該他の成分を樹脂中に分散させることにより製造できる。混練機は、樹脂に、粉体の形態の吹き消し成分および他の成分を、1次粒子の大きさで分散および混練できるものであれば、任意のものを使用できる。混練機は、例えば、単軸混練機または2軸混練機であってよく、あるいは2本ロールミルまたは3本ロールミル等であってよい。あるいは、混練は、押出機のスクリュー部においても実施することができ、その場合、押出機(または押出混練機)が混練機として機能することとなる。
【0043】
本発明の樹脂組成物の製造方法を、さらに図1に示すフローチャートを参照して説明する。図1において、破線で囲んだものは、必要に応じて加えられる成分、または必要に応じて実施される工程等であることを示す。ここでは、混練は二軸混練機を用いて行なう。まず、樹脂成分となる樹脂ペレットを、混練機に投入し、樹脂が溶融し始める中間位置から、吹き消し成分および必要に応じて着火剤を投入する。その後、混練機から押し出された樹脂ストランドを水冷し、ペレット状にカッティングする。次に、このペレットを、再度、混練機に投入し、最終製品において必要とされる性能を樹脂組成物に付加するために必要な成分、例えば、着色剤、離型剤、滑剤、および安定剤等の添加剤を投入して混練し、ペレット化する。これらの添加剤は、吹き消し成分、着火剤、および他の成分の組み合わせが相互に反応しない場合には、最初に樹脂ペレットが溶融した段階で、全ての成分を一度に投入し、一工程で混練を実施することも可能である。そのため、図1においては、2つ目の混練機を破線で囲んで表示している。
【0044】
前述したように、混練機は押出機であってよく、その場合、通常の押出成形用のL/Dが大きいものを用いてよい。あるいは、スクリュー構成を工夫して、価格が通常のものの数分の1以下である、L/Dが10程度の混練専用のニーダーを混練機として使用してよい。それにより、装置の価格が大幅に低下し、低コストで樹脂組成物を製造することが可能となる。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、上記のように樹脂成分と吹き消し成分とを混練して得た後、成形されて、製品化される。例えば、電化製品の外装体をプラスチックの成形により製造する場合には、樹脂を溶解し、所定の形状を有する金型に射出成形する方法や、樹脂を溶解し、上型と下型とを用いて圧力を加える圧縮成形法が採用される。本発明の樹脂組成物の成形は、常套的に用いられているプラスチック用成形機を用いて実施できる。即ち、本発明の樹脂組成物は、従来のプラスチック成形品用の生産設備を大きく変更することなく、常套の方法に従って成形することができる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
図1に示す手順に従って、難燃性樹脂組成物を製造した。本実施例においては、樹脂成分としてハイインパクトポリスチレン(平均分子量は約40000、以下「HIPS」と呼ぶ)のペレットを用意した。このペレットを、2軸混練機に入れて溶融させた。混練機として、50φ混練機である、(株)栗本鉄工所製のS2KRCを用いた。
【0047】
吹き消し成分として、アジ化ナトリウムの粉体を用意し、着火剤として、Ti/KNO(45/55[wt.%])の粉体を用意した。これら粉体は、いずれも平均粒径は5μmであった。これらの粉体をそれぞれ、樹脂組成物全体の5wt%の量で、2軸混練機の中間位置から、溶融したHIPSに投入し、混練した。混練は、加熱温度180℃、吐出量10kg/hの条件で連続的に実施した。樹脂組成物は混練機からストランド状に吐出させて、水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット状にカットした。得られた樹脂組成物は、HIPSを90wt%、粉体(アジ化ナトリウムとTi/KNO(45/55[wt.%])を合わせて10wt%、含むものとなった。
【0048】
この樹脂の各種物性を測定したところ、シャルピー衝撃強度は18KJ/mであり、曲げ弾性率は2100kg/cmであり、デュポン衝撃値は110kgf・cmであり、ビカット軟化点は90℃であり、物理的物性は、全て初期の樹脂と同等レベルであることを確認した。HIPSの分子量も38500であり、初期値からほとんど変化していなかった。
【0049】
次に、このペレット状の樹脂組成物を、押出成形により成形し、UL−94垂直燃焼試験用の試験片を作製した。これら5本の試験片でUL−94垂直燃焼試験を行った結果を表1に示す。この樹脂組成物は、試験の結果、V0と判定され、高い難燃性を有するものであった。
【0050】
(実施例2)
本実施例においては、樹脂成分としてポリ乳酸(三井化学(株)製 H−100J 平均分子量は約20000、以下「PLA」と呼ぶ)のペレットを用意した。このペレットを、2軸混練機に入れて溶融させた。混練機として、50φ混練機である、(株)栗本鉄工所製のS2KRCを用いた。
【0051】
吹き消し成分として、硝酸セルロースの粉体を用意し、着火剤として、B/KNO(22/78[wt.%])の粉体を用意した。これら粉体は、いずれも平均粒径は5μmであった。硝酸セルロースおよびB/KNOの表面には、スプレードライ法を用いて、高融点パラフィンの膜を形成した。このマイクロカプセル化した硝酸セルロース粉体とB/KNO(22/78[wt.%])をそれぞれ、樹脂組成物全体の5wt%の量で、2軸混練機の中間位置から、溶融したPLAに投入し、混練した。混練は、加熱温度175℃、吐出量10kg/hの条件で実施した。樹脂組成物は混練機からストランド状に吐出させて、水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット状にカットした。得られた樹脂組成物は、PLAを90wt%、粉体(硝酸ナトリウムとB/KNO(22/78[wt.%]))を合わせて10wt%、含むものとなった。
【0052】
この樹脂の各種物性を測定したところ、アイゾット衝撃強度は28J/mであり、曲げ弾性率は3700MPaであり、ビカット軟化点は59℃であり、物理的物性は、全て初期の樹脂と同等レベルであることを確認した。PLAの分子量も19500であり、初期値からほとんど変化していなかった。
【0053】
次に、このペレット状の樹脂組成物を、押出成形により、UL−94垂直燃焼試験用の試験片を作製した。これら5本の試験片でUL−94垂直燃焼試験を行った結果を表1に示す。この樹脂組成物は、試験の結果、V0と判定され、高い難燃性を有するものであった。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の樹脂組成物は、非ハロゲン系かつ非リン系難燃性付与成分を使用して、従来の難燃剤を使用した場合と同等の難燃性を有するように構成されたものであり、環境負荷が小さく、かつ工業的な実用性が高いことを特徴とする。したがって、この樹脂組成物は、種々の物品を構成するのに適し、特に電化製品等の外装体を構成する材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の樹脂組成物の製造方法を示すフロー図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の樹脂成分と、難燃性を付与する1または複数の難燃性付与成分を含み、少なくとも1つの難燃性付与成分が、固体の形態で樹脂組成物に分散しており、樹脂成分の燃焼時にガスを発生して、樹脂成分に着火した炎を吹き消す成分(以下、この成分を、「吹き消し成分」と呼ぶ)である、樹脂組成物。
【請求項2】
吹き消し成分が、樹脂成分の燃焼時に、標準状態にて当該成分の体積の5倍以上の体積のガスを発生する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
吹き消し成分が、窒素ガス、二酸化炭素ガス、酸化窒素ガス、および希ガスから選択される、少なくとも1種類のガスを発生する、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
吹き消し成分が、樹脂組成物の混練温度および成形温度のいずれか高い方の温度以下の温度では変化しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
吹き消し成分が、約430℃に達したときにガスを発生する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
吹き消し成分の表面の一部または全部が耐熱性皮膜で覆われ、耐熱性皮膜が樹脂組成物の混練温度および成形温度のいずれか高い方の温度よりも高く、かつ吹き消し成分がガスを発生する温度以下の温度で、溶解、分解、昇華または開裂する特性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
吹き消し成分が、アジ化物、テトラゾール類、硝酸金属塩、硝酸アンモニウム、硝酸セルロース、ピクリン酸、トリニトロフェノール、トリニトロトルエン、およびニトログリセリンから選択される、1または複数の化合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−326897(P2007−326897A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157119(P2006−157119)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】