説明

難燃性樹脂組成物

【課題】 ハロゲン原子やリン原子を含有せずに、極めて高い難燃化効果を発現することが可能な難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
芳香環含有樹脂(A)100重量部に対して、平均組成式(1)
Si(OH)(4−m−n−p)/2(1)
(式中、Rは炭素数が1〜4の一価の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数が6〜24の一価の芳香族炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ複数個ある場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。m,n,pは、0≦m<2.9、0<n≦2.9、0.01≦p≦0.1を満たす数を表す。)で表されるシラノール基を必須置換基とする芳香環含有シリコーン化合物(B)0.1〜20重量部および、pHが8.0以上であり、SiO単位が30重量%以上を占め、平均粒子径が1nm〜100μmである金属ケイ酸塩化合物(C)0.1〜20重量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤としてハロゲン原子やリン原子を含有せず、高度に難燃化された難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性樹脂組成物は、火災に対する安全性を確保するため、電気電子分野、建材分野等、種々の分野に利用されている。これら樹脂組成物は、一般に塩素系や臭素系等のハロゲン系化合物を難燃剤として用いていたが、近年のヨーロッパを中心とした環境問題に関する関心の高まりから、リン系難燃剤をはじめとしてハロゲンを含まない難燃剤の使用が種々検討されている。
【0003】
しかしながら、リン系難燃剤であるリン酸エステル系化合物等を用いて難燃化した場合、一般的に配合量が多く、押出・成形加工時に臭気が発生したり、機械的特性や熱的特性が低下する等の問題があるため、添加量の低減が望まれている。
【0004】
一方、ハロゲンやリン系化合物を用いずに難燃化した樹脂組成物としては、シリコーン系難燃剤を添加する技術が報告されている。例えば、RSiO1.5単位とRSiO1.0単位を構成成分とするシリコーン化合物(例えば特許文献1、2参照)や、フェニル基、アルキル基、アルコキシ基を有し、分子量が10000以下であるシリコーン化合物(例えば特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、これらのシリコーン化合物は、ポリカーボネート樹脂単体には有効であるが、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのアロイには殆ど効果が無く、汎用的な合成樹脂に使用できるものではなかった。
【0005】
シリコーン化合物を用いた、ポリカーボネート樹脂と他の樹脂とのアロイにも有用な難燃性を付与する技術として、SiO単位を構成成分とする特定構造のシリコーン樹脂や、特定溶融特性条件を有するシリコーン樹脂が開示されている(例えば特許文献4、5、6参照)が、経済性の観点から、難燃剤として使用するシリコーン樹脂のさらなる低減が望まれている。
【特許文献1】特開平10−139964号公報
【特許文献2】特開平11−140294号公報
【特許文献3】特開平11−222559号公報
【特許文献4】特開平2001−311081号公報
【特許文献5】特開平2001−316671号公報
【特許文献6】特開平2001−323269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、ハロゲン系やリン系難燃剤などを用いずに、高度に難燃化された難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、特定の無機化合物を組み合わせることにより、少量のシリコーン化合物の添加でも相乗的に優れた難燃性を有することを見いだし、さらに鋭意検討した結果、シリコーン化合物がシラノール基を置換基として特定の量を有する場合、さらに少量のシリコーン化合物の添加でも相乗的に優れた難燃性を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、芳香環含有樹脂(A)100重量部に対して、平均組成式(1)
Si(OH)(4−m−n−p)/2(1)
(式中、Rは炭素数が1〜4の一価の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数が6〜24の一価の芳香族炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ複数個ある場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。m,n,pは、0≦m<2.9、0<n≦2.9、0.01≦p≦0.1を満たす数を表す。)で表されるシラノール基を必須置換基とする芳香環含有シリコーン化合物(B)0.1〜20重量部および、pHが8.0以上であり、SiO単位が30重量%以上を占め、平均粒子径が1nm〜100μmである金属ケイ酸塩化合物(C)0.1〜20重量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性樹脂組成物は、塩素、臭素、リン、窒素、等を含む難燃剤を用いなくても非常に優れた難燃性を示し、樹脂が本来有する特徴を損なうことも殆どなく、かつ、安価な原料を用いて比較的容易に合成することが可能である。このような難燃性樹脂組成物は、工業的に非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の(A)成分である芳香環含有樹脂は、分子内に少なくとも1個以上の芳香環を有する合成樹脂を示す。芳香環含有樹脂のなかでも、芳香族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、N−芳香族置換マレイミド系樹脂及び芳香族ポリイミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。上記芳香環含有樹脂のうち、芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ビニル系樹脂より選択される少なくとも1種を用いるのがより好ましく、ポリフェニレンエーテル系樹脂と芳香族ビニル系樹脂のアロイが更に好ましい。
【0012】
これらの樹脂は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用してアロイとしてもよい。アロイとする場合の樹脂の組合せには特に限定はないが、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂とABS樹脂のアロイ、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレンまたはハイインパクトポリスチレン(HIPS)などの組み合わせが挙げられる。アロイにする場合の、好ましい組成としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂/ABS樹脂=40〜100/60〜0(重量%)、ポリフェニレンエーテル系樹脂/ポリスチレンまたはハイインパクトポリスチレン=30〜100/70〜0(重量%)である。
【0013】
本発明の(B)成分である芳香環含有シリコーン化合物は、平均組成式(1)
Si(OH)(4−m−n−p)/2(1)
(式中、Rは炭素数が1〜4の一価の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数が6〜24の一価の芳香族炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ複数個ある場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。m,n,pは、0≦m<2.9、0<n≦2.9、0.01≦p≦0.1を満たす数を表す。)で表されるシラノール基を必須置換基とするシリコーン化合物である。
【0014】
平均組成式(1)で表される芳香環含有シリコーン化合物(B)は、ケイ素原子上に結合した有機基として分子内に少なくとも1個以上の芳香環を有することを必須とし、残りの有機基は脂肪族炭化水素基、または、シラノール基である。
【0015】
の炭素数1〜4の一価の脂肪族炭化水素基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基等が例示される。これらの中で難燃化効果に優れるため好ましいのは、メチル基及びエチル基であり、より好ましいのはメチル基である。当該芳香環含有シリコーン化合物(B)に、複数のRに該当する部分が存在する場合、それらは全て同一であってもよいし、異なる基が混在していてもよい。また、脂肪族炭化水素基の炭素数が5以上になると、芳香環含有シリコーン化合物自体の難燃性が低下するため、難燃化効果が低くなる。
【0016】
の炭素数6〜24の一価の芳香族炭化水素基としては特に限定されず、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の置換基を有していてもよいアリール基等が例示される。これらの中で難燃化効果に優れるため好ましいのは、芳香環上に置換基を有しない芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。当該芳香環含有シリコーン化合物(B)には複数のRに該当する部分が存在するが、これらは全て同一であってもよいし、異なる基が混在していてもよい。
【0017】
上記平均組成式(1)において、ケイ素原子上の炭素数1〜4の一価の脂肪族炭化水素基Rと炭素数6〜24の一価の芳香族炭化水素基Rを合わせた全炭化水素基とSi原子数とのモル比m+nは、1.1≦m+n≦1.7が好ましく、より好ましくは1.15≦m+n≦1.65、さらに好ましくは1.18≦m+n≦1.6である。m+nの値が1.1〜1.7の範囲にあることにより、樹脂との親和性や難燃性がより向上する。
【0018】
また、炭素数1〜4の一価の脂肪族炭化水素基Rと炭素数6〜24の一価の芳香族炭化水素基Rとのモル比n/mは、樹脂との親和性や難燃性の点から、0.4≦n/m≦2.5が好ましい。さらに、1.1≦m+n≦1.7かつ0.4≦n/m≦2.5を満たすことが好ましい。
【0019】
また、本発明に記載のシリコーン化合物は、官能基としてシラノール基を含有することを特徴としている。シラノール基は、燃焼時に樹脂の熱分解を促進すると同時に、シラノール基自身が架橋してチャーを形成することにより、着火後、瞬時に不燃層を形成することが可能となる。上記平均組成式(1)において、シラノール基含有量を規定するpは、0.01≦p≦0.1であることが好ましく、より好ましくは0.02≦p≦0.08である。シラノール基含有量が多すぎると、樹脂の分解のみが促進されてしまい、難燃性は悪化する。シラノール含有量が少なすぎると、本願の効果が得られにくくなる。なお、各元素、各炭化水素基及びシラノール基の割合は、水素、炭素及びケイ素のNMRを用いて算出することができる。
【0020】
また、当該芳香環含有シリコーン化合物(B)は、芳香族基含有オルガノシロキサン化合物からなり、Q単位(SiO)、T単位(RSiO1.5)、D単位(RSiO)及びM単位(RSiO0.5)という4種類の構成単位のうち、上記平均組成式(1)を満たすように、任意の組合せで構成されるものである。式中、Rは、特に限定されないが、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を表す。
【0021】
さらに、当該芳香環含有シリコーン化合物(B)は、耐熱性や難燃性の観点から、骨格中にT単位及び/又はQ単位を、より具体的にはRSiO3/2単位(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜24の芳香族炭化水素基を表し、当該単位が複数個ある場合は、Rは同一であっても異なっていてもよい)及び/又はSiO単位を、当該単位由来のSi原子が全Si原子中の10%以上(つまり10モル%以上)となるように含有するものが好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。
【0022】
における炭素数1〜4のアルキル基としては、上記Rの炭素数1〜4の一価の脂肪族炭化水素基で例示したものと同様のものが挙げられる。また、炭素数6〜24の芳香族炭化水素基としては、上記Rの炭素数6〜24の一価の芳香族炭化水素基で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0023】
このような芳香環含有シリコーン化合物(B)は、既知のシリコーン合成法により容易に合成することができる。すなわち、RSiXで表される一官能性ケイ素化合物、RSiXで表される二官能性ケイ素化合物、RSiXで表される三官能性ケイ素化合物、四ハロゲン化ケイ素、テトラアルコキシシラン、及びそれらの縮合物である有機ケイ素化合物や、水ガラス、金属ケイ酸塩等の無機ケイ素化合物のなかから必要に応じて選択した少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種のケイ素化合物を、縮合反応させることにより合成できる。なお、式中、Rは、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を表す。Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基等の、縮合してシロキサン結合を形成しうる基を表す。
【0024】
反応条件は、用いる基質や目的化合物の組成及び分子量によって異なる。当該縮合反応は、一般的に、必要により水、酸及び/又は有機溶媒の存在下で、必要により加熱しながら、ケイ素化合物を混合することにより行うことができる。各ケイ素化合物の使用割合は、得られる芳香環含有シリコーン化合物が上記m、nの条件を満たすよう、各単位の含量、芳香族炭化水素基と脂肪族炭化水素基の比率を考慮して、適宜設定すればよい。
【0025】
一般に、上記縮合反応により芳香環含有シリコーン化合物を合成した場合、末端構造としてSi原子上に縮合残基としてXが残留する場合がある。Xが残留すると、その種類によっては、樹脂に添加した場合に樹脂の熱安定性が低下したり、難燃性が劣るため好ましくない。それを防ぐためには、重合後に過剰のRSiXで表される一官能性ケイ素化合物を反応させて処理することにより、Xを封鎖することができる。一方、このRSiXで表される一官能性ケイ素化合物の量を調整することにより、残留させるXの量を調整することが出来る。Xは既知の方法で加水分解することにより、シラノール基へと容易に誘導可能である。このような方法を用いることにより、目的とするシリコーン化合物中のシラノール基量の調整は容易に達成できる。
【0026】
さらに、上記芳香環含有シリコーン化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、1000〜200000が好ましく、1500〜1500000がより好ましく、2000〜100000がさらに好ましい。一般に、従来技術で挙げたシリコーン系化合物においては分子量と難燃性について議論されているが、本発明においては、分子量の大小に関係なく、分子内のシロキサン結合の任意の比率によりシリコーンの耐熱性が制御できるので、上記数平均分子量の範囲内においては、分子量が難燃性に致命的に影響を及ぼすものではない。数平均分子量が1000より小さい場合には芳香環含有シリコーン化合物の耐熱性が低くなったり、難燃性も不十分となり易い傾向がある。また、数平均分子量が200000より大きい場合は、樹脂中での分散性や加工成形性が低下する傾向がある。なお、クロロホルムを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の数平均分子量を求めることができる。
【0027】
芳香環含有シリコーン化合物(B)の添加量は、芳香環含有樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部であり、物性の発現及び経済的な面から、0.3〜15重量部が好ましく、0.5〜10重量部がより好ましい。添加量が0.1重量部未満では難燃性が不十分である場合があり、20重量部を超えると物性面での問題は特にないが、より経済性が求められる。
【0028】
(C)成分として用いる、SiO単位が30重量%以上を占める金属ケイ酸塩化合物としては特に限定されず、K、Na、Li、Ca、Mn、Fe、Ni、Mg、Fe、Al、Ti、Zn、Zrのうちから選ばれる一種以上金属元素を含有するものである。具体的な物質としては珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、珪藻土、スメクタイト等が挙げられる。なかでも、マイカ、タルク、カオリン又はスメクタイトが、得られる樹脂組成物の難燃性や機械的強度にも優れるため好ましく、特にタルクが好ましい。尚、タルクとは、含水ケイ酸マグネシウム(組成式:MgSi10(OH)) のことである。
【0029】
金属ケイ酸塩化合物(C)は、平均粒子径が1nm〜100μmの微粒子である。平均粒子径が100μmを超えると得られる成形品の外観が損なわれたり、樹脂組成物の衝撃強度が低下する傾向が見られる。好ましくは1nm〜70μmであり、より好ましくは10nm〜50μm、さらには0.5〜30μmが好ましい。なお、本発明でいう平均粒子径とはマイクロトラックレーザー回折法により測定できる。また、ここでいう粒子とは、球状の物に限らず針状、板状等のものであってもよい。
【0030】
金属ケイ酸塩化合物(C)の形状については特に限定されないが、代表的なものとして、粉体状、粒状、針状、板状等が挙げられる。この無機化合物は天然物であってもよいし、合成されたものであってもよい。天然物の場合、産地等には特に限定はなく、適宜選択することができる。
【0031】
本発明の金属ケイ酸塩化合物(C)は、pHが8.0以上を示すものである。金属ケイ酸塩化合物のpHが8.0以上であるということは、ケイ酸アニオンと金属カチオンとから構成されるイオン結合的性質を有していることであり、金属ケイ酸塩自身は熱的に安定であるものも、シリコーン化合物が共存する場合にはそのイオン結合性により高温条件でシリコーン化合物と化学的相互作用し難燃性に相乗的に効果を及ぼす。なお、本発明でいうpHは、JIS−K−5101 B法に基づき、デジタルpH計にて測定する事ができる。
【0032】
このような金属ケイ酸塩化合物(C)は、樹脂との接着性を高めるため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、エポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤は、樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。その他にもポリオキシエチレンシラン等を用いることができる。表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0033】
これら金属ケイ酸塩化合物(C)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における金属ケイ酸塩化合物(C)の使用量は、芳香環含有樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部である。0.1重量部未満であると、得られる樹脂組成物の難燃性が不十分であり、20重量部を超えると、得られる成形品の難燃性や耐衝撃性が低下するうえ、溶融混練時の樹脂との混練が困難となる傾向がある。好ましくは0.3〜15重量部であり、より好ましくは0.5〜10重量部である。
【0035】
本発明の難燃性樹脂組成物においては、さらにフッ素系樹脂(D)を添加することができる。フッ素系樹脂(D)とは、フッ素原子を有する樹脂である。具体的には、ポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等を挙げることができる。また、該フッ素系樹脂の製造に用いる単量体と共重合可能な単量体とを併用し、重合して得られた共重合体を用いてもよい。共重合可能な単量体としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0036】
フッ素系樹脂(D)のうち、好ましくはフッ素化ポリオレフィン樹脂であり、より好ましくは、平均粒径が700μm以下のフッ素化ポリオレフィン樹脂である。ここでいう平均粒径とは、フッ素化ポリオレフィン樹脂の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の平均粒径をいう。
【0037】
さらに、フッ素化ポリオレフィン樹脂のうち、密度と嵩密度の比(密度/嵩密度)が6.0以下のフッ素化ポリオレフィン樹脂が好ましい。ここでいう密度と嵩密度とは、JIS−K6891に記載されている方法にて測定したものである。
【0038】
フッ素系樹脂(D)は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて使用する場合には、組合せは特に限定されない。例えば、種類の異なるもの等が任意に用いられる。
【0039】
フッ素系樹脂(D)を使用する場合、その使用量は、芳香環含有樹脂(A)100重量部に対して、0.005〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜0.75重量部、さらに好ましくは0.02〜0.6重量部である。使用量が0.005未満では、(D)成分による難燃性向上効果が十分でない傾向があり、1重量部を超えると本発明の難燃性樹脂組成物の成形流動性、成形体表面外観性が低下する傾向がある。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物には、さらに成形流動性を高めたり、難燃性をより向上させるために、本発明の特性(難燃性等)を損なわない範囲で、本発明の難燃剤としての(B)成分以外のシリコーン等を添加することができる。
【0041】
本発明の(B)成分以外のシリコーンとは、本発明の(B)成分を除く広義のポリオルガノシロキサンのことをさし、具体的には、ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサン等の(ポリ)ジオルガノシロキサン化合物;メチルシルセスキオキサン、フェニルシルセスキオキサン等の(ポリ)オルガノシルセスキオキサン化合物;トリメチルシルヘミオキサン、トリフェニルシルヘミオキサン等の(ポリ)トリオルガノシルヘミオキサン化合物;これらを重合して得られる共重合体;ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン等が挙げられる。ポリオルガノシロキサンである場合には、分子末端がエポキシ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基、エーテル基等により置換された変性シリコーンも有用である。シリコーンの形状には特に制限はなく、オイル状、ガム状、ワニス状、粉体状、ペレット状等、任意のものが利用可能である。
【0042】
さらに本発明の難燃性樹脂組成物は、本発明の特性(難燃性等)を損なわない範囲で強化充填剤を組み合わせることにより、強化材料としてもよい。すなわち、強化充填剤を添加することで、さらに耐熱性や機械的強度等の向上を図ることができる。このような強化充填剤としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等の繊維状充填剤;ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0043】
また本発明の難燃性樹脂組成物をより高性能な物にするため、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤、リン系安定剤等の熱安定剤等を、単独又は2種類以上併せて使用することが好ましい。さらに必要に応じて、通常良く知られた、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等の添加剤を、単独又は2種類以上併せて使用することができる。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されないが、上記(A)、(B)、(C)成分、さらに必要に応じて(D)成分や各種添加剤等を混合し、例えば、2軸押出機、1軸押出機、加熱ロールニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより、当該難燃性樹脂組成物を製造することができる。
【0045】
本発明で製造された難燃性樹脂組成物の成形加工法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形等が適用できる。
【0046】
本発明の難燃性樹脂組成物の用途としては、特に限定されないが、例えば、パソコン・プリンター・FAX・DVD等の情報通信機器のハウジング及び機構部品(シャーシ等)、TV等の家電製品のハウジング及び内部部品、自動車の内外装部品(インストゥルメンタルパネル、ホイールキャップ等)、自動販売機内部部品、給排水機器、医療機器等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下では特にことわりがない限り、「部」は重量部を、「%」は重量%を意味する。
【0048】
また、数平均分子量は、クロロホルムを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。カラム(いずれもShodex製)は、GPC K−G(ガードカラム)、GPC K−804(排除限界400,000)、K−802.5(排除限界20,000)をこの順に直列につないだものを用いた。
【0049】
(製造例1):シリコーン化合物(B1)の製造
ジクロロジフェニルシラン(187g)、ジクロロジメチルシラン(30g)、多摩化学工業社製Mシリケート51(Sin−1(OCH2n+2で平均してn=4)(115g)を2Lフラスコに計りとり、メチルイソブチルケトン(MIBK)(480g)を加えた後、10℃以下で水(130g)を滴下した。その後、反応混合物を80℃に加熱して3時間反応させた。次いで、室温に戻した後、クロロトリメチルシラン(80g)、次いで水(18g)を滴下した後、60℃で3時間反応させた。得られた反応混合物は中性になるまで水洗し、分離した有機相について、減圧下で溶媒を留去することにより、目的のシリコーン化合物(B1)(数平均分子量2700)を得た。NMR分析から、平均組成式(1)で表される構成比率がm=0.76、n=0.60、p=0.020であり、従って、m+n=1.36、n/m=0.79と算出できた。また、NMR分析から、全Si原子中のうちSiO単位が占める割合は、40.8モル%と算出できた。
【0050】
(製造例2):シリコーン化合物(B2)の製造
ジクロロジフェニルシラン(190g)、ジクロロジメチルシラン(32g)、多摩化学工業社製Mシリケート51(Sin−1(OCH2n+2で平均してn=4)(116g)を2Lフラスコに計りとり、メチルイソブチルケトン(MIBK)(480g)を加えた後、10℃以下で水(132g)を滴下した。その後、反応混合物を80℃に加熱して3時間反応させた。次いで、室温に戻した後、クロロトリメチルシラン(50g)、次いで水(17g)を滴下した後、60℃で3時間反応させた。得られた反応混合物は中性になるまで水洗し、分離した有機相について、減圧下で溶媒を留去することにより、目的のシリコーン化合物(B2)(数平均分子量2670)を得た。NMR分析から、平均組成式(1)で表される構成比率がm=0.70、n=0.60、p=0.044であり、従って、m+n=1.30、n/m=0.86と算出できた。また、NMR分析から、全Si原子中のうちSiO単位が占める割合は、41.8モル%と算出できた。
【0051】
(製造例3):シリコーン化合物(B3)の製造
ジクロロジフェニルシラン(190g)、ジクロロジメチルシラン(31g)、多摩化学工業社製Mシリケート51(Sin−1(OCH2n+2で平均してn=4)(117g)を2Lフラスコに計りとり、メチルイソブチルケトン(MIBK)(480g)を加えた後、10℃以下で水(132g)を滴下した。その後、反応混合物を80℃に加熱して3時間反応させた。次いで、室温に戻した後、クロロトリメチルシラン(37g)、次いで水(15g)を滴下した後、60℃で3時間反応させた。得られた反応混合物は中性になるまで水洗し、分離した有機相について、減圧下で溶媒を留去することにより、目的のシリコーン化合物(B3)(数平均分子量2740)を得た。NMR分析から、平均組成式(1)で表される構成比率がm=0.62、n=0.61、p=0.073であり、従って、m+n=1.23、n/m=0.98と算出できた。また、NMR分析から、全Si原子中のうちSiO単位が占める割合は、43.2モル%と算出できた。
(参考製造例1):オルガノシロキサン化合物(B4)の製造
ジクロロジフェニルシラン(468g)、ジクロロジメチルシラン(80g)、多摩化学工業社製Mシリケート51(Sin−1(OCH2n+2で平均してn=4)(291g)を5Lフラスコに計りとり、メチルイソブチルケトン(MIBK)(1200g)を加えた後、10℃以下で水(336g)を滴下した。その後、反応混合物を80℃に加熱して3時間反応させた。次いで、室温に戻した後、クロロトリメチルシラン(268g)、次いで水(44g)を滴下した後、60℃で3時間反応させた。得られた反応混合物は中性になるまで水洗し、分離した有機相について、減圧下で溶媒を留去することにより、目的のシリコーン化合物(B4)(数平均分子量2700)を得た。NMR分析から、平均組成式(1)で表される構成比率がm=0.82、n=0.60、p=0であり、従って、m+n=1.42、n/m=0.73と算出できた。また、NMR分析から、全Si原子中のうちSiO単位が占める割合は、39.9モル%と算出できた。
(参考製造例2):オルガノシロキサン化合物(B5)の製造
ジクロロジフェニルシラン(468g)、ジクロロジメチルシラン(80g)、多摩化学工業社製Mシリケート51(Sin−1(OCH2n+2で平均してn=4)(291g)を5Lフラスコに計りとり、メチルイソブチルケトン(MIBK)(1200g)を加えた後、10℃以下で水(336g)を滴下した。その後、反応混合物を80℃に加熱して3時間反応させた。得られた反応混合物は中性になるまで水洗し、分離した有機相について、減圧下で溶媒を留去することにより、目的のシリコーン化合物(B5)(数平均分子量2920)を得た。NMR分析から、平均組成式(1)で表される構成比率がm=0.20、n=0.60、p=0.25であり、従って、m+n=0.80、n/m=3.0と算出できた。また、NMR分析から、全Si原子中のうちSiO単位が占める割合は、49.9モル%と算出できた。
【0052】
実施例、比較例で用いた原料を以下にまとめて示す。
PPE:対数粘度が0.50のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、PX100F)
PS:ポリスチレン樹脂(PSジャパン(株)製、GPPS HF77)
HIPS:ブタジエン・スチレン共重合体(PSジャパン(株)製、HIPS HT60)
PC:粘度平均分子量が22000のビスフェノールA型ポリカーボネート(出光興産(株)製、タフロンA2200)
ABS:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(日本エイアンドエル(株)製、ABS GA−501)
PTFE:フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、ポリフロンFA−500))
(C1):金属ケイ酸塩化合物(タルク(日本タルク(株)製 SG−200、pH=9.3、SiO単位含有量=60wt%、平均粒子径=3.2μm))
(実施例1)
樹脂組成物の調製
ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)80重量部、ポリスチレン樹脂(PS)20重量部、製造例1で製造した樹脂添加用難燃剤としてのシリコーン化合物(B1)3重量部、平均粒子径が3.2μmである金属ケイ酸塩化合物(C1)3重量部、フッ素樹脂(PTFE)0.5重量部、並びに、リン系安定剤及びフェノール系酸化防止剤としてそれぞれアデカスタブHP−10及びAO−60(いずれも旭電化製)各0.2重量部を、予めドライブレンドした後、シリンダー温度を300℃、スクリュ回転数100rpmに設定したベント付き二軸押出機(33mmφ、L/D=28、(株)日本製鋼所製、製品名TEX30HSS)のホッパーに供給し、溶融押出することにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0053】
(実施例2〜15、比較例1〜15)
表1〜2記載の配合成分及び量を用い、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0054】
上記実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を用い、以下のようにして試験片を作成し、難燃性を評価した。
【0055】
試験片の作成
得られたペレットを120℃にて5時間乾燥させた後、35t射出成形機を用い、シリンダー温度295℃、金型温度80℃にて厚み1.6mmバー(幅12mm、長さ127mm)を作成して下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
評価方法
上記で得られた試験片を用い、UL−94規格に従い、難燃性をV試験で評価し、総燃焼時間を算出した。
当該評価結果を表1、表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

表1に示す通り、実施例では、いずれも非常に良好な難燃性を示し、短時間に自己消火した。これに対して、比較例1〜5、9〜13では、実施例で使用したシリコーン化合物及び金属ケイ酸塩化合物が無添加であったり、どちらか一方のみを添加しているため、難燃性が不十分であった。比較例7、15では、シリコーン化合物が有するシラノール基量が多すぎるため、樹脂を分解してしまい、難燃性が大幅に悪化している。比較例6、8、14では、比較的良好な難燃性が得られているが、シラノール基を全く有しないシリコーン化合物を用いているため、実施例と同等の難燃性を得るためには、シリコーン化合物の添加量を増やす必要がある。また、添加量が同じ場合は、実施例ほどの難燃性は得られていない。よって、上記結果から、本発明の組成物を形成することにより、極少量のシリコーン化合物にて難燃性に優れた樹脂組成物が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環含有樹脂(A)100重量部に対して、平均組成式(1)
Si(OH)(4−m−n−p)/2(1)
(式中、Rは炭素数が1〜4の一価の脂肪族炭化水素基を表し、Rは炭素数が6〜24の一価の芳香族炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ複数個ある場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。m,n,pは、0≦m<2.9、0<n≦2.9、0.01≦p≦0.1を満たす数を表す。)で表されるシラノール基を必須置換基とする芳香環含有シリコーン化合物(B)0.1〜20重量部および、pHが8.0以上であり、SiO単位が30重量%以上を占め、平均粒子径が1nm〜100μmである金属ケイ酸塩化合物(C)0.1〜20重量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
さらにフッ素樹脂(D)0.005〜1重量部含有する請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分の芳香環含有シリコーン化合物が、RSiO3/2単位(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜24の芳香族炭化水素基を表し、当該単位が複数個ある場合は、Rは同一であっても異なっていてもよい)及び/又はSiO単位を、当該単位由来のSi原子中の10%以上含有するシリコーン化合物である請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の芳香環含有シリコーン化合物が、前記平均組成式(1)において、mとnが、さらに1.1≦m+n≦1.7、及び、0.4≦n/m≦2.5を満たす数を示すシリコーン化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分の芳香環含有シリコーン化合物の数平均分子量が1000〜200000である請求項1〜4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分の金属ケイ酸塩化合物が、K、Na、Li、Ca、Mg、Mn、Fe、Ni、Al、Ti、Zn及びZrから選ばれる一種以上の金属元素を含有してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分の芳香環含有樹脂が、芳香族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、N−芳香族置換マレイミド系樹脂及び芳香族ポリイミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜7のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−74906(P2008−74906A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253330(P2006−253330)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】