説明

難燃性樹脂組成物

【課題】燃焼時に一酸化炭素やハロゲンガスといった有害なガスの発生量が少なく、柔らかさを有し、またノンハロゲン材料でありながら0.6mm以下の薄い厚さにおいても高い難燃性(UL−94,V−1以上)を発揮する難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)EVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)と、PPE(ポリフェニレンエーテル)、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)から選ばれる少なくとも1種類以上のエンジニアリングプラスチックとからなり、前記EVAの割合が60〜98質量%、前記エンジニアリングプラスチックの割合が40〜2質量%である樹脂組成物: 100質量部、
(B)金属水酸化物: 30〜300質量部
を必須成分とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンを含まないため燃焼時に一酸化炭素やハロゲンガスといった有害なガスの発生量が少なく、柔らかさを有し、また、ノンハロゲン材料でありながら0.6mm以下の薄い厚さにおいても高い難燃性(UL−94,V−1以上)を発揮する難燃性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
優れた成型性、軽量性、高い電気絶縁性等の特徴から、熱可塑性樹脂がさまざまな用途に使用されている。しかし、熱可塑性樹脂は燃え易いため、火災の危険性のある用途に対して、難燃剤を配合した樹脂組成物が使われている。以前はハロゲン系難燃性樹脂組成物が、難燃効果が高いことから使用されてきたが、近年では一酸化炭素やハロゲンガスによる煙が問題となり、ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物が求められている。特に機器内電線においては、非常に高い難燃特性が求められている。
【0003】
ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物の処方として、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を用いたさまざまな技術が近年提案されている。金属水酸化物は毒性が低く、発煙量が少なく、腐食性が低いという長所を有し、燃焼時に結晶水を放出することにより難燃効果を発揮する。しかし、その難燃効果は強力ではなく、例えば、添加対象となるベース樹脂がポリオレフィンの場合、ポリオレフィン100質量部に対し、等量の水酸化マグネシウム100質量部を配合しても、酸素消費指数は30以下の数値しか示さず、UL−94,垂直難燃性試験では3mm厚であっても全焼するため不合格となる。
【0004】
金属水酸化物を用いた熱可塑性樹脂の難燃化技術としては、例えば、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理した金属水酸化物を熱可塑性樹脂に配合した難燃性樹脂組成物(特許文献1〜3参照)が知られている。しかし、熱可塑性樹脂中に表面処理を行った金属水酸化物を配合しただけでは、熱可塑性樹脂に十分な難燃性を付与することはできず、多量に金属水酸化物を配合する必要がある。
【0005】
更に、上記以外の難燃技術としては、金属水酸化物及びオルガノポリシロキサンを熱可塑性樹脂に配合した難燃性樹脂組成物(特許文献4〜7参照)が報告されている。しかし、金属水酸化物とオルガノポリシロキサンを併用すると難燃性は向上するが、各種難燃規制に対応できるようにするためには、難燃効果が未だ不十分である。
【0006】
また、最近では熱可塑性樹脂に金属水酸化物、オルガノポリシロキサン及び添加剤を配合したノンハロゲン系難燃性樹脂組成物(特許文献8,9参照)が報告されている。これらの難燃性樹脂組成物は酸素指数が48以上の値を示し、難燃性が向上していることが分かるが、UL−94,垂直難燃性試験規格に合格するには未だ難燃性が不足している。
【0007】
また、熱可塑性樹脂に金属水酸化物、高重合度オルガノポリシロキサン、不飽和官能基含有オルガノポリシロキサン及び有機過酸化物を配合したノンハロゲン系難燃性樹脂組成物(特許文献10参照)が報告されている。このノンハロゲン系難燃性樹脂組成物は柔らかい上、その難燃性は高く0.8mmの厚さでVW−1試験に合格し、UL−94に対しては1mmの厚さでV−0を達成しており、従来報告されているノンハロゲン系難燃性樹脂組成物よりも高い難燃性を有しているが、0.6mm以下の薄さになると難燃性が不十分であった。
【0008】
一方、エンジニアリングプラスチックの中でもPPE、m−PPEやPCは特に難燃性に優れているが、PPE、m−PPEやPC単独では1mm以下の厚さにおいてはUL−94試験に対し不合格となる。通常、PPE、m−PPEではリン酸エステルが併用され、PCにおいてはシリコーンレジンとチャー触媒が使われている。しかし、PPEやm−PPEは硬すぎるため電線等にした場合、曲げることが難しい。また、リン酸エステルはブリードが起こり、毒性が危惧されている。PCも硬すぎることが欠点であり、柔軟な物性を出すことができないため電線として成型することができない。また、PPE、m−PPEやPCは加工温度が250℃以上になる場合が主であり、金属水酸化物を配合すると金属水酸化物が分解し脱水するため配合組成物は脆くなる。このため、これまではPPE、m−PPEやPCに対して金属水酸化物が併用されることはなかった。
【0009】
【特許文献1】特許第2825500号公報
【特許文献2】特許第3019225号公報
【特許文献3】特許第3072746号公報
【特許文献4】特公平7−119324号公報
【特許文献5】特許第3051211号公報
【特許文献6】特許第3063759号公報
【特許文献7】特開平4−226551号公報
【特許文献8】特開2004−250676号公報
【特許文献9】特開2003−128939号公報
【特許文献10】特開2004−250676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ハロゲンを含まないため燃焼時に一酸化炭素やハロゲンガスといった有害なガスの発生量が少なく、柔らかさを有し、またノンハロゲン材料でありながら0.6mm以下の薄い厚さにおいても高い難燃性(UL−94,V−1以上)を発揮する難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、(A)EVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)と、PPE(ポリフェニレンエーテル)、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)から選ばれる少なくとも1種類以上のエンジニアリングプラスチックとからなり、前記EVAの割合が60〜98質量%、前記エンジニアリングプラスチックの割合が40〜2質量%である樹脂組成物:100質量部と、(B)金属水酸化物:30〜300質量部とを必須成分とする難燃性樹脂組成物は、0.6mm以下の薄い厚さにおいても高い難燃性が発揮されると共に、また柔軟性が維持されているため、電線等に使用することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記難燃性樹脂組成物を提供する。
[1](A)EVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)と、PPE(ポリフェニレンエーテル)、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)から選ばれる少なくとも1種類以上のエンジニアリングプラスチックとからなり、前記EVAの割合が60〜98質量%、前記エンジニアリングプラスチックの割合が40〜2質量%である樹脂組成物: 100質量部、
(B)金属水酸化物: 30〜300質量部
を必須成分とする難燃性樹脂組成物。
[2]前記(A)中のEVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)が酢酸ビニルを10〜50質量%含有してなることを特徴とする[1]記載の難燃性樹脂組成物。
[3]更に、
(C)EVA以外のポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂: 1〜38質量部
を含有してなる[1]又は[2]記載の難燃性樹脂組成物。
[4]更に、
(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン: 1〜30質量部
を含有してなる[1]〜[3]のいずれか1つに記載の難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基、水酸基から選ばれる同一又は異種の置換基、nは100〜30,000の整数である。)
[5]更に、
(E)有機過酸化物: 0.001〜10質量部
を含有してなる[1]〜[4]のいずれか1つに記載の難燃性樹脂組成物。
[6]電線又はケーブルの被覆用である[1]〜[5]のいずれか1つに記載の難燃性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハロゲンを含まないため燃焼時に一酸化炭素やハロゲンガスといった有害なガスの発生量が少なく、柔らかさを有し、またノンハロゲン材料でありながら0.6mm以下の薄い厚さにおいても高い難燃性(UL−94,V−1以上)を発揮する難燃性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてさら詳しく説明する。
まず、本発明で使用される成分(A)について述べる。
本発明で使用される成分(A)の原料となるEVAは、エチレンと酢酸ビニルを重合することにより得られるもので、高圧ラジカル重合品、中圧溶液重合品、エマルジョン重合品のいずれも使用することができる。EVAは水酸化マグネシウムと併用した場合、他の樹脂と比較して最も難燃性の相乗効果が認められる。また、酢酸ビニル基の存在によりSP値が向上するため、PPE、m−PPEやPCとの相溶性が良くなるという長所を有している。酢酸ビニル含有量は高い程難燃性が高くなるが、酢酸ビニル含有量が50質量%を超えると耐熱性が劣り、粘りがあることから、酢酸ビニル含有量としては10〜50質量%が好ましく、特に30〜50質量%がより好ましい。
【0015】
EVAは成分(A):100質量部中、60〜98質量部(成分(A)全体の60〜98質量%)で配合されることが好ましい。60質量部(成分(A)全体の60質量%)未満の場合では硬くなりすぎたり、組成物の相溶性が悪くなり引張強度や伸びが悪くなる場合がある。一方、98質量部(成分(A)全体の98質量%)を超える場合では難燃性が十分でない場合がある。
【0016】
本発明で使用される成分(A)のもう一つの主要な原料となる樹脂は、PPE、m−PPE又はPCである。
【0017】
PPEは2,6キシレノールを銅(II)のアミン錯体存在下、酸素と反応させ酸化カップリング重合により合成される。原料の2,6キシレノールはフェノールとメタノールを原料として合成されている。PPEは耐熱性が高く、寸法安定性に優れ、線膨張係数が小さい、比重が小さい、誘電正接が小さい、難燃性であるといった長所を有しているがガラス転移点が210℃と高いため成型加工が難しい。
【0018】
PPEとポリスチレンと相溶化することが発見され、PPEと汎用ポリスチレン(GPPS)又はハイインパクトポリスチレン(HIPS=耐衝撃性ポリスチレン)とのポリマーアロイ化したm−PPEは耐熱性は低下するが成型加工が容易になる。更に、その後PPEとポリアミド(PA)とのポリマーアロイも開発されている。一般に、前者のPPEとGPPS又はHIPSとのポリマーアロイ化したm−PPEに汎用性があり使用し易い。その際、GPPSやHIPSの割合を少なくするほど、m−PPEの流動性は低下しガラス転移点は高くなる。
【0019】
本発明においてはEVA樹脂がベースとなるため、得られる樹脂の流動性は十分にあり、成型加工に問題は生じない。このため本発明の難燃性樹脂組成物としては、上記PPEとm−PPEのいずれも使用することができるが、難燃性を高くする観点から、PPEを使用することが好ましく、m−PPEを使用する場合は、PPE量が多いほど好ましく、m−PPE中のPPE比率は50質量%以上、更に70質量%以上が好ましい。
【0020】
PCの製造法には様々な方法があるが、工業的には次に挙げる3種の製造法で造られている。(1)エステル交換法(溶融法)−ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを高温で溶融し、減圧下生成してくるフェノールを除去しながらエステル交換させて合成する。(2)ホスゲン法(溶剤法)−塩化メチレン存在下、ビスフェノールAのカセイソーダ水溶液あるいは懸濁水溶液にホスゲンを作用させて合成する。(3)ピリジン法−ビスフェノールAにピリジン、塩化メチレン存在下ホスゲンを反応させて合成する。最近ではビスフェノールA以外のジヒドロキシ化合物を原料としたPCや加工性を高めるため分岐を導入したPCも検討されている。PCは耐熱性、難燃性、耐衝撃性、透明性に優れており、電気機器の筐体、自動車のヘッドランプ、ヘルメット、CD等に使用されている。
【0021】
上記PPE、m−PPE、PCから選ばれる少なくとも1種類以上のエンジニアリングプラスチックは、成分(A):100質量部中、40〜2質量部(成分(A)全体の40〜2質量%)で配合されることが好ましく、より好ましくは30〜3質量部(成分(A)全体の30〜3質量%)、更に好ましくは20〜5質量部(成分(A)全体の20〜5質量%)である。40質量部(成分(A)全体の40質量%)を超える場合、加工温度が高くなり、硬くなりすぎることがある。また、EVAとの相溶性も悪くなるため好ましくない。2質量部(成分(A)全体の2質量%)未満では難燃性が不十分なことがある。
【0022】
次に本発明で使用される成分(B)について述べる。
成分(B)の金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムを使用することができる。また、金属水酸化物は、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤で表面処理されたものも使用することができる。特に、シランカップリング剤で表面処理された金属水酸化物を、成分(B)全体に対し10〜100質量%配合すると架橋が進み、難燃性が更に向上するため好ましい。
【0023】
成分(B)の配合量は、成分(A):100質量部に対し30〜300質量部が好ましく、より好ましくは80〜250質量部、更に好ましくは100〜230質量部である。金属水酸化物量が30質量部未満の場合、難燃性が不十分になることがあり、また300質量部を超えると硬くなりすぎ、伸びが不足する場合がある。
【0024】
次に本発明で使用される成分(C)について述べる。
成分(C)として、難燃性樹脂の引張強度や伸びを向上させるために、EVA以外のポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂を配合することが有効である。
【0025】
ここで、EVA以外のポリオレフィン樹脂としては、エチレンとメタクリル酸との共重合体(EMMA)、エチレンとエチルアクリレートとの共重合体(EEA)、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、αオレフィンコポリマー、ポリブテン−1、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン重合体、変性ポリオレフィン等を使用することができる。
【0026】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、架橋タイプと非架橋タイプを使用することができる。これらのタイプのいずれもハードセグメントとしてポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂が用いられ、ソフトセグメントとしてEPDMやNBRなどのエチレンαオレフィン系共重合体ゴムが用いられる。架橋タイプはゴム成分を化学的に架橋したもので、押出機中など混練状態において架橋反応させたもので非架橋タイプに比べて耐熱性やゴム弾性に優れている。これに対し非架橋タイプは単純ブレンドタイプと重合工程で樹脂とゴムを製造するリアクタータイプがあり性能面は架橋タイプに劣るが低価格である。
【0027】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントがポリスチレンでソフトセグメントがポリブタジエンであるSBS(スチレン−イソプレン−スチレンブロックポリマー)、ハードセグメントがポリスチレンでソフトセグメントが水素添加したポリブタジエンであるSEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマー)、ハードセグメントがポリスチレンでソフトセグメントが水素添加したポリイソプレンであるSEPS(スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロックコポリマー)、ランダムタイプのSBRを水素添加したHSBR(水素添加型スチレンブタジエンゴム)等を使用することができる。中でもSEBS、HSBRやSEPSがEVAとの相溶性が優れているため好ましい。
【0028】
スチレン系樹脂としては、汎用ポリスチレン(GPPS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS=耐衝撃性ポリスチレン)、ABS樹脂、AS樹脂を使用することができる。GPPSは強度があり、成型時の熱安定性、流動性に優れるが耐衝撃性が低い。耐衝撃性を改善したものがHIPSであり、ポリスチレンのマトリクス相にゴム粒子が分散する海島構造をとっている。工業規模における重合法には塊状重合法、塊状−懸濁重合法が代表的であり、GPPSの塊状重合プロセスにゴム溶解工程を付け加えればHIPSの生産が可能となる。
【0029】
ABS樹脂はアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3成分を主成分とし、単なるランダム共重合体ではなくAS樹脂のマトリクス中にポリブタジエン粒子が分散した2層構造をとっている。アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3成分の比率により物性は大きな違いがあるが、機械的強度、成型品外観、着色性、成型加工性に優れている。
【0030】
AS樹脂はアクリロニトリルとスチレンのラジカル重合による共重合樹脂である。重合方法としては連続塊状重合と懸濁重合の2つが主流である。GPPSの成型性と透明性を保持し剛性と耐薬品性を改良した樹脂で性能と価格の面でアクリル樹脂とGPPSの中間に位置する。
【0031】
EVA以外のポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂の配合量としては、成分(A):100質量部に対し1〜38質量部が好ましく、より好ましくは2〜20質量部、最も好ましくは2〜10質量部である。38質量部を超えると、難燃性が不足することがある。
【0032】
次に本発明で使用される成分(D)について述べる。
成分(D)のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表されるものである。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基、水酸基から選ばれる同一又は異種の置換基、nは100〜30,000の整数である。)
【0033】
Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基を挙げることができる。
【0034】
nの値が100未満では加工性が悪くなったり、ブリードする場合がある。nの値が30,000を超えるとオルガノポリシロキサンが高粘度になりすぎて撹拌が困難になる。なお、分岐構造はn数の5%未満であれば含まれていても構わない。また、成分(D)は2種類以上のものを併用しても構わない。
【0035】
成分(D)の配合量は、成分(A):100質量部に対し1〜30質量部が好ましく、2〜20質量部が更に好ましい。成分(D)の配合量が1質量部未満の場合、難燃効果が十分でない場合があり、また30質量部を超える場合は引張強度が低下する場合がある。
【0036】
次に本発明で使用される成分(E)について述べる。
成分(E)の有機過酸化物は架橋により組成物を強固にし、引張強度と難燃性を高めることができる。成分(E)としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ジクミルパーオキサイド、t−ブチル−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3,t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
このような有機過酸化物の種類は通常加工時の温度に従い、10時間半減期温度を考慮して選定される。加工温度は樹脂の種類により変わるが、本発明の組成物の場合は、170〜250℃が好ましく、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が好ましい。有機過酸化物の配合量は成分(A):100質量部に対し0.001〜10質量部、特に0.01〜5質量部が好ましい。
【0038】
本発明の難燃性樹脂組成物は混練後成型したものを電子線照射により架橋させることによっても得ることができる。この場合、電子線の照射線量は3〜600Mradであることが好ましく、更に好ましくは5〜400Mrad、より好ましくは10〜300Mradである。3Mradより低い場合は、架橋が不十分になることがある。逆に600Mradを超える場合には、架橋が行きすぎ硬くなりすぎることがある。また、加速電圧は、通常70〜300keVの照射条件が好ましい。
【0039】
本発明の難燃性樹脂組成物には、その特性を阻害しない範囲で、その目的に応じて添加剤を配合することができる。添加剤としては、カルボン酸無水物基含有ポリオレフィン樹脂、シランカップリング剤、ウエッター、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、光安定剤、相溶化剤、他種のノンハロゲン系難燃剤、滑剤、充填剤、接着助剤、防錆剤を挙げることができる。
【0040】
本発明において使用可能なシランカップリング剤としては、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。
【0041】
本発明において使用可能なウエッターとしては、粘度が10,000mm2/s以下の各種シリコーンオイルを挙げることができる。具体例としては、ジメチルシリコーンオイル、ビニルシリコーンオイル、フェニルシリコーンオイル、水酸基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル等を挙げることができる。
【0042】
本発明において使用可能な酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチル−メチルフェノール)、4,4−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2,5,7,8−テトラメチル−2(4,8,12−トリメチルデシル)クロマン−2−オール、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、テトラキス(メチレン)−3−(ドデシルチオプロピオネート)メタン等を挙げることができる。
【0043】
本発明において使用可能な安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の各種金属せっけん系安定剤、ラウレート系、マレート系やメルカプト系各種有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の各種鉛系安定剤、エポキシ化植物油等のエポキシ化合物、アルキルアリルホスファイト、トリアルキルホスファイト等のホスファイト化合物、ジベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸等のβ−ジケトン化合物、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等のポリオール、ハイドロタルサイト類やゼオライト類を挙げることができる。
【0044】
本発明において使用可能な光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。
【0045】
本発明において使用可能な、他のノンハロゲン系難燃剤としては、メラミンシアヌレート、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、各種リン系難燃剤、膨脹性黒鉛、シアヌール酸メラミン、スルファミン酸グアニジン、光酸化チタン等を挙げることができる。また、充填剤としては、ケイ酸、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラック、カオリンクレー、焼成クレー、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、バライト等を挙げることができる。
【0046】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法にはさまざまな形態があるが、一般的には、予め各成分(各原料)を上記配合にて秤量し、<1>各成分(原料)を加熱溶融し混練し成型するか、又は<2>各成分(各原料)のうち樹脂成分(原料)を先に加熱溶融した後、金属水酸化物成分を添加し混練し成型する方法が好ましい。電子線照射を行う場合は成型後行う。なお、加熱溶融する際の加熱温度は、150℃以上240℃以下が好ましく、特に170℃以上220℃以下が好ましい。150℃未満ではPPE又はm−PPEが十分に溶融できない場合があり、240℃を超えると金属水酸化物が分解し始め、脱水が起こる場合がある。
【0047】
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性を要する電線又はケーブルの被覆用として特に優れている。例えば、本発明の難燃性樹脂組成物を電線又はケーブルの周囲に被覆することによって容易に難燃性を有する電線又はケーブルとすることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、表1〜4の成分の数字は質量部を示す。
【0049】
[実施例、比較例]
表1〜4に示した各種原料をラボプラストミルR250ミキサー(東洋精機社製)に入れ、230℃、30rpm、3分の条件で混合後、ペレットとして押出した後、230℃、10秒、1mm厚及び0.5mm厚にプレス成型することにより、難燃試験用シートを作製した。
なお、実施例20については、上記方法により作製した1mm厚、及び0.5mm厚のプレス成型シートに加速電圧1,000keV、照射量15Mradで電子線照射を行った。
【0050】
(難燃性試験)
上記で作製した1mm厚及び0.5mm厚のプレス成型シートを用いて、UL規格のUL−94「垂直難燃性試験」に準拠して、その難燃性を評価し合否を判定し、結果を表1〜4に記載した。
【0051】
表1〜4に記載した各原料の出所及び商品名等を下記に示す。
(1) EVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)−1 エバフレックス40LX(三井デュポンポリケミカル社製 商品名)
(2) EVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)−2 エバフレックスEV460(三井デュポンポリケミカル社製 商品名)
(3) EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)(PES220 日本ユニカー社製 商品名)
(4) LDPE(低密度ポリエチレン) ミラソン50(三井化学社製 商品名)
(5) スチレン系熱可塑性エラストマー L605(旭化成社製 商品名)
(6) オレフィン系熱可塑性エラストマー タフマー(三井化学社製 商品名)
(7) PP(ポリプロピレン) IDEMISTU−PP(出光興産社製 商品名)
(8) 変性PPE ノリル731(日本GEプラスチック社製 商品名)
(9) PPEパウダー ザイロンTYPE S201A(旭化成社製 商品名)
(10)PC(ポリカーボネート) タフロン(出光興産社製 商品名)
(11)無水マレイン酸変性ポリオレフィン ナックセーフGA002(日本ユニカー社製 商品名)
(12)水酸化マグネシウム−1 キスマ5L(協和化学社製 商品名)
(13)水酸化マグネシウム−2 キスマ5A(協和化学社製 商品名)
(14)高重合度ジメチルポリシロキサン 25℃における粘度22,000,000mm2/s(10%キシレン中に溶解させた粘度からの計算値)(信越化学社製 商品名)
(15)白金触媒 CAT−PL−1(信越化学社製 白金単体含有量2% 商品名)
(16)有機過酸化物 パークミルD40(日本油脂社製 商品名)
(17)有機過酸化物 ノフマーBC−90(2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン)(日本油脂社製 商品名)
(18)酸化防止剤 イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ社製 商品名)
(19)メラミンシアヌレート Stabiace MC−5S(堺化学社製 商品名)
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
表1〜4から、実施例1〜20が比較例1〜18に対して難燃性に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)EVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)と、PPE(ポリフェニレンエーテル)、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)から選ばれる少なくとも1種類以上のエンジニアリングプラスチックとからなり、前記EVAの割合が60〜98質量%、前記エンジニアリングプラスチックの割合が40〜2質量%である樹脂組成物: 100質量部、
(B)金属水酸化物: 30〜300質量部
を必須成分とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)中のEVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)が酢酸ビニルを10〜50質量%含有してなることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
更に、
(C)EVA以外のポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂: 1〜38質量部
を含有してなる請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、
(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン: 1〜30質量部
を含有してなる請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6の一価炭化水素基、水酸基から選ばれる同一又は異種の置換基、nは100〜30,000の整数である。)
【請求項5】
更に、
(E)有機過酸化物: 0.001〜10質量部
を含有してなる請求項1〜4のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
電線又はケーブルの被覆用である請求項1〜5のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−120680(P2009−120680A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294842(P2007−294842)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(594042527)株式会社長野三洋化成 (6)
【Fターム(参考)】