説明

難燃性樹脂組成物

【課題】耐酸性に優れた難燃化性樹脂組成物を提供すること、および合成樹脂類の難燃化処理技術において、混練時の白煙の発生、および成形品のシルバーストリーク防止を総合的に満足する技術を提供すること。
【解決手段】合成樹脂100重量部に対し、通称アルナイトと呼ばれる鉱物を含むアルミニウム塩水酸化物粒子難燃剤5〜150重量部と、水酸化マグネシウム粒子及び又は金属酸化物粒子の合計量5〜150重量部、及び以下の(A)、(B)および(C)から選ばれた少なくとも1種を難燃助剤として20重量部以下含有させる。
(A)リン化合物
(B)炭素粉末
(C)シリコーン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐酸性を有する難燃性樹脂組成物およびそれから形成された成形品に関する。詳しくはアルミニウム塩水酸化物粒子5〜150重量部と、水酸化マグネシウム粒子および又は金属酸化物粒子の5〜150重量部及び(A)リン化合物、(B)炭素粉末および(C)シリコーンから選ばれた少なくとも1種の難燃助剤を20重量部以下含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐酸性に優れたノンハロゲン難燃化技術として、特願2008−176742号においてアルミニウム塩水酸化物粒子粒子を使用した難燃化処理技術が提案された。しかし、該技術にはまだ改善すべき問題が残されていた。
すなわち、混練時にアルミニウム塩水酸化物粒子の付着水が樹脂組成物製造時の加熱により混練時白煙の発生、及び十分に注意して成形しないと射出成形などの成形方法においては成形品にシルバーストリークが発生する問題が残されていた。

【特許文献1】特願2008−176742号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
耐酸性に優れたノンハロゲン難燃化技術として従来水酸化アルミニウムを添加する方法があった。ところが、水酸化アルミニウムを添加する方法では、水酸化アルミニウムの構造水の熱分解にともなう水の放出により170℃以上、特に200℃以上の温度で混練や射出成形をおこなうと発泡を伴い危険であった。
【0004】
この問題を解決する技術として、特願2008−176742号においてはアルミニウム塩水酸化物粒子粒子を使用した難燃化処理技術が提案された。
この技術により、混練時や成形時に発泡を伴う危険はなくなった。しかし、該技術にはまだ改善すべき問題が残されていた。すなわち、混練時にアルミニウム塩水酸化物粒子の付着水が樹脂組成物製造時の加熱により混練時白煙の発生、及び十分に注意して成形しないと射出成形などの成形方法においては成形品にシルバーストリークが発生する問題が残されていた。本件発明の目的は特願2008−176742の長所は残しながら、合成樹脂類の難燃化処理技術において、混練時白煙の発生、及び射出成形などの成形方法におけるシルバーストリークをさらに防止する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、通称アルナイトと呼ばれる鉱物を含むアルミニウム塩水酸化物粒子の示す耐酸性に着目し、これを難燃化技術へ応用することができるかどうかを検討した。その結果、アルミニウム塩水酸化物粒子だけを難燃剤として合成樹脂に配合すると、合成樹脂の耐酸性は非常に優れるが、十分に注意して成形しないと加熱による混練時白煙の発生、及び射出成形などの成形方法における成形品にシルバーストリークが発生する問題が判明した。本発明者はさらに研究を重ね、アルミニウム塩水酸化物粒子5〜150重量部と水酸化マグネシウム粒子及び又は金属酸化物粒子の合計量5〜150重量部、及びリン化合物、炭素粉末およびシリコーンから選ばれた少なくとも1種を難燃助剤として20重量部以下含有させることにより、難燃性及びシルバーストリーク発生の抑制された合成樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の難燃剤組成物は、アルミニウム塩水酸化物粒子と、水酸化マグネシウム粒子および又は金属酸化物粒子、及び以下の(A)、(B)および(C)から選ばれた少なくとも1種の難燃助剤を20重量部以下含有する。
(A)リン化合物
(B)炭素粉末
(C)シリコーン
【0007】
本発明に用いるアルミニウム塩水酸化物粒子は耐酸性を確保するために必須であるが単独では樹脂に難燃性を付与する効果はきわめて低いこと、及びアルミニウム塩水酸化物粒子の高濃度使用は上記の白煙及びシルバーストリーク発生の問題があるため、樹脂への難燃性付与効果が高く、白煙及びシルバーストリーク発生の問題がない水酸化マグネシウム粒子を併用するか、及び又は金属酸化物を併用する。金属酸化物が添加された場合、樹脂組成物を混練・成形する加熱工程でアルミニウム塩水酸化物粒子から放出された水分を吸湿するだけでなく、水分を吸湿した結果金属水酸化物となり難燃剤としても機能する。かかる水分の吸湿は白煙及びシルバーストリーク発生を防止する。
また、上記(A)、(B)および(C)成分は一般に金属水酸化物系難燃剤に対する難燃助剤として用いられているが、これら難燃助剤のみで樹脂に難燃性を付与することは困難である。
【0008】
本発明者らは、アルミニウム塩水酸化物粒子と、水酸化マグネシウム粒子および又は金属酸化物と、さらに20重量部以下上記(A)、(B)および(C)成分から選ばれる少なくとも1種を組み合わせて用いることにより、樹脂に対する難燃性を発現させるのみでなく向上させることもできた。
【0009】
本発明に用いるアルミニウム塩水酸化物粒子は下記式化1で表わされる。
【化1】

(ただし、式中MはNa、K、NH、HおよびCa2+なる群から選ばれた少なくとも1種の陽イオン、M′はZn2+、Ni2+、Sn4+、Zr4+およびTi4+からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属陽イオン、Aは少なくとも1種の有機酸アニオン、Bは少なくとも1種の無機酸アニオンを表わし、式中a、b、m、n、x、yおよびzは、0.7≦a≦1.35、2.7≦b≦3.3、0≦m≦5、4≦n≦7、0≦x≦0.6、1.7≦y≦2.4、0≦z≦0.5とする)
アルミニウム塩水酸化物粒子を本発明に使用するための他の制約条件はないが、好適に使用するためには平均二次粒子径が0.5〜2μm、BET法比表面積が1〜20m/gであり、WO2005/085168およびWO2006/109847に示された単分散に近いものが好ましい。
本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子は、平均二次粒子径0.1〜5μm、好ましくは0.4〜2.0μm、BET法比表面積は1〜30m/g好ましくは1〜10m/gである。本発明で使用する金属酸化物粒子は、平均二次粒子径0.1〜10μm、好ましくは0.5〜3μm、BET法比表面積は1〜200m/g好ましくは10〜60m/gである。金属酸化物粒子は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ニッケル、チタン等の元素から構成された酸化物が例示されるがそれらは固溶体であってもよい。酸化マグネシウムは水分を吸湿する効果、及び水分を吸湿した結果水酸化マグネシウムとなり難燃性発現効果も高いので好ましい。
【0010】
上式化1において、Aで表わされる有機酸アニオンは、シュウ酸イオン、クエン酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、グリセリン酸イオン、没食子酸イオンおよび乳酸イオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
上式化1において、Bで表わされる無機酸アニオンは、SO2−、PO3−、NO、SiO2−、SiO4−、HSiから選ばれる少なくとも1種であることが好ましいが、粒子径均一という意味でSO2−が最も好ましい。
【0012】
上式化1中のa、b、m、n、x、yおよびzは、0.7≦a≦1.35、2.7≦b≦3.3、0≦m≦5、4≦n≦7、0≦x≦0.6、1.7≦y≦2.4、0≦z≦0.5であることが好ましいが、最も好ましい範囲は3.6≦a+b≦4.4、0≦m≦2、0≦x≦0.3、7.5≦y+n≦8.5である。
【0013】
本発明で用いるアルミニウム塩水酸化物粒子は、再公表特許公報明細書WO2005/085168の第13ページ23行目から第13ページ25行目に記載された方法および実施例を見れば容易に合成することができる。
特に上式化1においてz=0の場合、すなわち有機酸イオンを含有しないアルミニウム塩水酸化物粒子についてはWO2006/109847の段落0016〜0020および段落0045〜0059に記載された方法および実施例を見れば容易に合成することができる。
【0014】
上記文献に記載された方法で合成されるアルミニウム塩水酸化物粒子の形状は、上記式化1における金属陽イオンM、M′および有機酸アニオンAの種類により変化する。その形状は、球状、碁石状(円盤状)、立方体状、六角板状、円板状および米粒状等を呈することが知られているが、本発明の効果は該形状にかかわらず発現する。
【0015】
本発明に用いる難燃剤において、(A)成分であるリン化合物としては、赤リン、リン酸エステル、縮合リン酸エステルおよびポリリン酸塩を用いることができる。
【0016】
本発明に用いる難燃助剤において、(B)成分である炭素粉末としては、カーボンブラック、黒鉛および活性炭を用いることができる。
【0017】
本発明に用いる難燃助剤において、(C)成分のシリコーンとしては、オルガノポリシロキサンを主成分とする化合物、すなわちシリコーン樹脂、シリコーングリース、シリコーンゴムおよびシリコーン油を用いることができる。
【0018】
本発明に用いる合成樹脂としては、通常、成形品として使用されるものであればよく、その例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリブテン、ポリ・4−メチルペンテン−1等の如きC2〜C8のオレフィン(α−オレフィン)の重合体もしくは共重合体、これらオレフィンとジエンとの共重合体類、エチレン−エチルアクリレート共重合体、TPO樹脂、エチレン酢ビコポリマー樹脂、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂等のビニル系樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、AAS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂等のポリスチレン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアセタール、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン11等のポリアミド系樹脂、メタクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が例示できる。
さらに、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂およびEPDM、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR、NIR、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムを例示することができる。
【0019】
難燃性、白煙発生防止、及びシルバーストリーク発生防止の面から判断すると、本発明の難燃性樹脂組成物において、合成樹脂100重量部に対するアルミニウム塩水酸化物粒子の配合量は、5〜150重量部の範囲であればよく、5〜100重量部であればより好ましく、5〜50重量部であれば最も好ましい。水酸化マグネシウム及び又は金属酸化物の合計配合量も5〜150重量部の範囲であればよいが、5〜100重量部であればより好ましく、5〜50重量部であれば最も好ましい。金属酸化物は主目的が白煙発生及びシルバーストリーク発生防止であり50重量部以下が好ましい。水酸化マグネシウム及び又は金属酸化物の合計配合量は150重量部を超えると耐酸性が低下する恐れがある。
【0020】
同様な面から、本発明の難燃性樹脂組成物において、合成樹脂100重量部に対する上記難燃助剤(A)、(B)および(C)の配合量の合計は、20重量部以下、好ましくは0.5〜20重量部である。アルミニウム塩水酸化物粒子及び水酸化マグネシウムの合計配合量が100重量部以上になると上記難燃助剤は必ずしも用いる必要はない。難燃助剤を20重量部を超えて配合しても難燃性や機械的強度が特に向上するわけでもなくまた非経済的である。
【0021】
本発明の難燃剤はそのまま樹脂に配合することができるが、表面処理剤で処理して使用することができる。かかる表面処理剤としては、例えば高級脂肪酸類、カップリング剤、(シラン系、チタネート系、アルミニウム系)およびアルコールリン酸エステル類からなる群から選ばれた少なくとも1種が上げられる。これら表面処理は難燃剤に対し10重量%以下、好ましくは5重量%以下の表面処理剤を用いて行われる。
【0022】
本発明では、難燃剤表面をケイ素化合物、ホウ素化合物およびアルミニウム化合物の群から選ばれた少なくとも1種により耐酸性被覆し、必要に応じて付加的に前記高級脂肪酸類、チタネートカップリング剤、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、アルコールリン酸エステル類の群から選ばれた少なくとも1種以上の表面処理剤で表面処理して用いることにより、さらに高い耐酸性の樹脂組成物を得ることができる。
これらの表面処理剤はアルミニウム塩水酸化物粒子および水酸化マグネシウム粒子それぞれに対し2重量%以下で被覆される。同様に金属酸化物に対しても該表面処理がなされてもよい。
【0023】
本発明に用いるアルミニウム塩水酸化物粒子は、樹脂に配合する前に100〜320℃であらかじめ乾燥しておき、樹脂との混練時にはホッパドライヤーを用いると混練時の白煙防止やシルバーストリーク防止の面でさらに効果的である。
予備乾燥しないと混練時の白煙防止やシルバーストリーク防止効果が低い。
【0024】
本発明の難燃性樹脂組成物において、合成樹脂類への難燃剤の配合、充填、成形の方法には特別の制約はなく、これらを均一に混合し、充填、成形できる手段であればいずれの手段をも採用できる。例えば上記各成分および他の添加剤を予め混合した後、オープンロール、単軸または二軸混練押出機、バンバリーミキサー等によって溶融混練すればよい。得られた樹脂組成物の成形方法にも特別の特約はなく、例えば射出成形、押出成形、プレス成形等の成形方法が例示される。
特に、シルバーストリーク防止の面から、上記混練押出機および成形機はベント式であることが好ましい。
【0025】
前記した本発明の難燃性樹脂組成物は、320℃以下の温度で成形することにより、目的が達成された優れた特性を有する難燃性樹脂成形品が得られる。
【0026】
本発明の難燃性樹脂組成物には、通常添加される各種の添加剤、補強剤、充填剤、ポリマーアロイ相溶化剤等を本発明の目的を害しない範囲で加えることができる。
【0027】
前記ポリマーアロイ相溶化剤の具体例としては、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン樹脂、無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブタジエン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性EPR、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、カルボキシル変性ポリエチレン、エポキシ変性ポリスチレン/PMMA等が例示される。
【0028】
すなわち、本発明は
1.合成樹脂100重量部に対し下記式化1で表されるアルミニウム塩水酸化物粒子難燃剤5〜200重量部と、水酸化マグネシウム粒子5〜150重量部及び金属酸化物粒子5〜150重量部、および下記(A)、(B)および(C)から選ばれた少なくとも1種を難燃助剤として20重量部以下含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物、
(A)リン化合物
(B)炭素粉末
(C)シリコーン
【化2】

(ただし、式中MはNa、K、NH、HおよびCa2+なる群から選ばれた少なくとも1種の陽イオン、M′はZn2+、Ni2+、Sn4+、Zr4+およびTi4+からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属陽イオン、Aは少なくとも1種の有機酸アニオン、Bは少なくとも1種の無機酸アニオンを表わし、式中a、b、m、n、x、yおよびzは、0.7≦a≦1.35、2.7≦b≦3.3、0≦m≦5、4≦n≦7、0≦x≦0.6、1.7≦y≦2.4、0≦z≦0.5とする)
2.上記難燃助剤が合成樹脂100重量部に対し、0.5〜20重量部配合された前項1記載の難燃性樹脂組成物、
3.上記リン化合物が、赤リン、リン酸エステル、縮合リン酸エステルおよびポリリン酸塩なる群から選ばれた少なくとも1種である前項1記載の難燃性樹脂組成物、
4.上記炭素粉末が、カーボンブラック、活性炭および黒鉛なる群から選ばれた少なくとも1種である前項1記載の難燃性樹脂組成物、
5.上記シリコーンが、シリコーン樹脂、シリコーン油、シリコーングリースおよびシリコーンゴムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である前項1記載の難燃性樹脂組成物、
6.上記アルミニウム塩水酸化物粒子は、高級脂肪酸類、チタネートカプリング剤、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤およびアルコールリン酸エステル類からなる群から選ばれた少なくとも1種の表面処理剤で処理されている前項1記載の難燃性樹脂組成物、
7.上記合成樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂またはABS樹脂である前項1記載の難燃性樹脂組成物、
8.上記水酸化マグネシウム粒子はBET法比表面積が1〜30m/g、平均2次粒子径が0.1〜5μmである前項1記載の難燃性樹脂組成物、
9.上記金属酸化物粒子は酸化マグネシウムである前項1記載の難燃性樹脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、耐酸性に優れ、混練時白煙の発生、及び成形品にシルバーストリークの発生が抑制された難燃化性樹脂組成物を提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。各例中のBET法による比表面積、平均2次粒子径、混練時白煙の発生、及び成形品のシルバーストリークの測定方法を以下に説明する。
【0031】
(1)成分分析の方法
Na:原子吸光
Ca、Al、Ni、ZnおよびSn:キレート分析
NH、Ti:比色法
SO、Zr:重量法
、H、H:酸化還元法
O:120℃ 1時間乾燥後の重量減で測定
ステアリン酸:エーテル抽出
(2)BET法による比表面積;湯浅アイオニクス(株)の12検体全自動表面測定装置マルチソーブ−12で測定した。
(3)平均2次粒子径および粒度分布シャープ度
装置:マイクロトラックMT3300(Leed&Nortrup Instruments Company社製
方法:試料粉末700mgを0.2wt%ヘキサメタリン酸ソーダ水溶液70mLに加えて、超音波(NISSEI社製、MODEL US−300、電流300μA)で3分間分散処理した後、スターラーで攪拌しながらその分散液の2〜4mLを採って、250mLの脱気水を収容した上記粒度分布計の試料室に加え、分析計を作動させて3分間その懸濁液を循環した後、粒度分布を測定する。合計2回の測定を行い、それぞれの測定について得られたmvを試料の平均粒子径とする。
粒子径均一性および単分散性の評価方法としては、横軸に粒子径、縦軸に累積度数をとり、全粒子個数に対し、粒子径の小さいものから累積度数が25%になる粒子径をD25、75%になる粒子径をD75とし、これらの比の値D75/D25すなわち粒度分布シャープ度によって粒度分布の拡がりを表わす。
(4)耐酸性試験:以下に示すアルミニウムまたはマグネシウムの溶出試験を耐酸性試験として評価した。厚さ1/8インチのUL94垂直試験用のテストピース1本を長さ半分に切断し、200mLの3.6N硫酸溶液中に浸漬し、50℃で7日間放置して評価した。その水溶液のアルミニウムまたはマグネシウムの含有量をICPにより分析して評価した。水溶液のアルミニウムまたはマグネシウムの含有量が少ないほどテストピースからのアルミニウムまたはマグネシウムの溶出量が少ないので耐酸性がすぐれていることになる。
(5)難燃性;UL94垂直試験、UL94HB法により測定した。
(6)降伏点引張強さ;JIS K 7113により測定した。ただしポリプロピレンは50mm/分、ABSとナイロン6は5mm/分の試験速度で測定した。
(7)混練時白煙の発生;ベント付き2軸混練押出機を用い混練ゾーン、及びベントゾーンでの白煙を目視で観察した。白煙なしは○、白煙有りは×で表記した。
(8)成形品表面のシルバーストリーク;ベント付射出形成機を用いて厚さ2.1mm、直径50mmの円盤を230℃で射出成形した。この円盤に発生したシルバーストリークの程度を目視により下記の1〜4級にランク付けした。3級以上が外観上問題のないシルバーストリークの発生の程度であり、特に2級以上であることが望ましい。
1級:全くシルバーストリークなし
2級:かすかにゲート付近にシルバーストリークあり
3級:少しシルバーストリークあり
4級:全面に著しいシルバーストリークあり
【0032】
難燃剤の合成
(合成例1)
(1)アルミニウム塩水酸化物粒子の合成
160moLの硫酸アルミニウムおよび0.2moLの硫酸ナトリウムを700Lのイオン交換水に溶解させ、これにシュウ酸(H)0.1moLを加え1mの反応槽で攪拌した。さらに攪拌しながら前記混合溶液に水酸化ナトリウム633moLを添加して170℃で3時間水熱処理をおこなった。冷却した反応液をろ過・水洗したのち120℃で24時間乾燥処理および粉砕した結果、SEM写真図1に示す円盤状(碁石状)のアルミニウム塩水酸化物粒子(以下難燃剤Cと記す)をえた。
(2)アルミニウム塩水酸化物粒子の表面処理
えられた難燃剤2kgをイオン交換水20Lに懸濁させスラリーとした。
上記アルミニウム塩水酸化物粒子のスラリーに60gのステアリン酸ナトリウムを加え、80℃で1時間攪拌し、ろ過・水洗したのち120℃で10時間乾燥処理および粉砕した結果、ステアリン酸ナトリウムで表面処理(含有量2重量%および3重量%)された難燃剤AおよびBをえた。
【0033】
以下、再公表特許公報明細書WO2005/085168の第13ページ23行目から第13ページ25行目および実施例1−A〜2−C、もしくはWO2006/109847の実施例1−A〜2−Dに記載された方法にもとづいて難燃剤D〜Kを合成した。ただし、難燃剤Fは、難燃剤Aを飽和水酸化カルシウム水溶液に添加して60℃で1時間攪拌しながらNaイオンをCaイオンに置換して作製した。
また、難燃剤Iは、硫酸ニッケルのかわりに硫酸スズを使用することにより難燃剤Dと同様に合成した。
各難燃剤の特性を表1に示す。
【0034】
(樹脂組成物製造例1)
射出成形用耐衝撃グレードポリプロピレン100重量部に、酸化防止剤1(商標名:IRGANOX1010/チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)0.5重量部、酸化防止剤2(DLTDP;商品名:DLTP/吉富製薬製)0.5重量部および上記合成例1で調製した、ステアリン酸ナトリウムで表面処理された難燃剤100重量部を添加してベント付きの2軸押出機を用いて200℃で混錬してコンパウンドペレットを作製した。
難燃剤としては、実施例1で調製した難燃剤A〜Kを用い、水酸化マグネシウム粒子は表−1−2に示すX,Y及びZを用いた。
金属酸化物粒子は表−1−3に示すV及びWを用いた。
製造例によっては赤リン(商標名:ノーバエクセルF5/燐化学工業(株)製)、カーボンブラック(オイルファーネス法FEF)およびシリコーン樹脂パウダー(商標名:Dow Corning 4−7081/東レダウコーニング製)から選択した1種以上の難燃助剤を追加した。
得られたコンパウンドペレットを120℃で5時間熱風乾燥後、ベント付の射出成形機を用いて230℃で射出成形しテストピースを作製した。テストピースのシルバーストリーク、白煙、降伏点引張強さ、破断時伸び、耐酸性、難燃性の程度を表2および3に示す。
【0035】
(樹脂組成物製造例2)
ポリプロピレンのかわりに射出成形グレードABS樹脂を用いたこと、混練温度を230℃に変更したこと、およびコンパウンドペレットの乾燥条件を70℃ 16時間の真空乾燥に変更したこと以外は樹脂組成物製造例1と同様にしてテストピースを作製した。各試験をおこなった結果を表4に示す。
【0036】
(樹脂組成物製造例3)
ポリプロピレンのかわりに射出成形グレードナイロン6を用いたこと、混練温度を230℃に変更したこと、およびコンパウンドペレットの乾燥条件を70℃ 16時間の真空乾燥に変更したこと以外は樹脂組成物製造例1と同様にしてテストピースを作製した。ただし、酸化防止剤として酸化防止剤3(商標名:IRGANOX1098/チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)を用いた。各試験をおこなった結果を表4に示す。
【0037】
(耐酸性試験)
上記各樹脂組成物製造例で製造したテストピースにおいて、前記した方法による耐硫酸性の結果は表2及び表−3に示されている。
表2及び表3からわかるように、本発明の樹脂組成物で作製した成形品は水酸化マグネシウム粒子のみを多量に配合した従来の樹脂組成物で作製した成形品に比べ耐酸性に優れている。
【0038】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表2〜4に示された各試験結果によれば、
比較例1からわかるようにアルミニウム塩水酸化物粒子のみを難燃剤として使用した場合、実用的難燃効果がなく難燃性樹脂組成物としての態様をなさないだけでなく、さらに混練時白煙発生の問題及び成形品にシルバーストリークの発生の問題もある。
比較例2からわかるように難燃助剤の赤燐及びカーボンブラックのみを使用した場合、実用的難燃効果がなく難燃性樹脂組成物としての態様をなさない。
比較例3からわかるように水酸化マグネシウム粒子のみを難燃剤として使用した場合、実用的難燃効果はあるものの、耐酸性及び破断時伸びが非常に低い。
(4)一方、本件発明によるアルミニウム塩水酸化物粒子、及び水酸化マグネシウム粒子及び又は金属酸化物粒子、及び難燃助剤20重量部以下からなる難燃性樹脂組成物の実施例においては十分な耐酸性、難燃効果、機械的強度を維持しつつ、さらに混練時白煙発生の問題及び成形品にシルバーストリーク発生の問題もない。すなわち、耐酸性、難燃効果、機械的強度、混練時白煙発生、成形品シルバーストリークの問題がバランスよく解決されている。
【0043】
以上、本発明の難燃性樹脂組成物および成形品は、耐酸性、難燃性、機械的特性に優れ、混練時白煙の発生防止、およびシルバーストリーク発生防止をも同時に満足するものであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は実施例の合成例1の円盤状のアルミニウム塩水酸化物粒子(難燃剤C)を20000倍で撮影したSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂100重量部に対し下記式化1で表されるアルミニウム塩水酸化物粒子5〜150重量部と、水酸化マグネシウム粒子及び又は金属酸化物粒子の合計量5〜150重量部、及び下記(A)、(B)及び(C)から選ばれた少なくとも1種を難燃助剤として20重量部以下含有することを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
(A)リン化合物
(B)炭素粉末
(C)シリコーン
【化1】

(ただし、式中MはNa、K、NH、HおよびCa2+なる群から選ばれた少なくとも1種の陽イオン、M′はZn2+、Ni2+、Sn4+、Zr4+およびTi4+からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属陽イオン、Aは少なくとも1種の有機酸アニオン、Bは少なくとも1種の無機酸アニオンを表わし、式中a、b、m、n、x、yおよびzは、0.7≦a≦1.35、2.7≦b≦3.3、0≦m≦5、4≦n≦7、0≦x≦0.6、1.7≦y≦2.4、0≦z≦0.5とする)
【請求項2】
請求項1記載の難燃性樹脂組成物において、上記(A)、(B)および(C)から選ばれた少なくとも1種を難燃助剤として0.5〜20重量部含有することを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
上記リン化合物が、赤リン、リン酸エステル、縮合リン酸エステルおよびポリリン酸塩なる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
上記炭素粉末が、カーボンブラック、活性炭および黒鉛なる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
上記シリコーンがシリコーン樹脂、シリコーン油、シリコーングリースおよびシリコーンゴムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
上記アルミニウム塩水酸化物粒子は、高級脂肪酸類、チタネートカップリング剤、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤およびアルコールリン酸エステル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤で処理されている請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
上記合成樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂またはポリアミド系樹脂である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
上記水酸化マグネシウム粒子はBET法比表面積が1〜30m/g、平均2次粒子径が0.1〜5μmである請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
上記金属酸化物粒子は酸化マグネシウム粒子である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−47703(P2010−47703A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213904(P2008−213904)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】