説明

難燃性樹脂組成物

【課題】重金属を含有したり、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある原材料を使用することなく、従前の製品と同等以上の難燃性を付与できる難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも塩化ビニルと、エチレン、酢酸ビニル、アクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合することによって得られる塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)、亜鉛化合物(b)、金属水酸化物(c)を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内の床及びデッキ部のカーペットや、住宅、事務所等の床部のカーペットなどの繊維製品に裏打ち加工することにより、遮水性や強度とともに難燃性を付与できる難燃性樹脂組成物に関するものである。より詳しくは、重金属を含有したり、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある原材料を使用することなく、従前の製品と同等以上の難燃性を付与できる難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車数の増大や住宅の密集化に伴い、それらの火災に対する対策はきわめて重要である。特に自動車や住宅におけるカーペットなどの内装材についての難燃化の要望は大きく、難燃化技術が種々提案されている。一方、難燃性を有する原材料は何らかの有害性を有しているものが多く、密閉された空間で使用される自動車内装用途においては、有害成分を使用しないか、極力低減させることが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1には三酸化アンチモンを含有する難燃性組成物が開示されている。しかしながら、三酸化アンチモンは不純物として鉛やヒ素を少量ながら含有するため、使用が避けられるようになっている。また、樹脂成分として塩化ビニリデンを含有しているが、塩化ビニリデンは少量のホルムアルヒドを含有するため、この点においても使用が避けられるようになっている。
【特許文献1】特開平8-34893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、重金属を含有したり、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある原材料を使用することなく、従前の製品と同等以上の難燃性を付与できる難燃性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は少なくとも塩化ビニルと、エチレン、酢酸ビニル、アクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合することによって得られる塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)、亜鉛化合物(b)、金属水酸化物(c)を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の難燃性樹脂組成物は、重金属を含有したり、ホルムアルデヒドを放散するおそれがある原材料を使用することなく、従前の製品と同等以上の難燃性を有している。よって、密閉された空間で使用される自動車内装用カーペットなどの繊維材のバッキング用途に適する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の難燃性樹脂組成物はバインダー成分として、少なくとも塩化ビニルと、エチレン、酢酸ビニル、アクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合することによって得られる塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)を含有する。
アクリル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル系単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル単量体などを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。その他に、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンなどの芳香族ビニル系単量体、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどの飽和脂肪酸ビニル系単量体、アクロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、プロピレン、ブタジエンなどのオレフィン系単量体、モノブチルマレイン酸などのエチレン系ジカルボン酸のモノアルキルエステル、およびこれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩などのエチレン系カルボン酸塩類、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのエチレン系カルボン酸の酸アミド類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシメタクリレートなどのエチレン系カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのエチレン系カルボン酸とアミノ基を有するアルコールとのエステル類などを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0008】
塩化ビニル系樹脂エマルジョンとして、単量体として塩化ビニルのみを重合して得られるものや、塩化ビニリデンを用いたものは、本願発明には適さない。塩化ビニルのみを重合して得られる樹脂エマルジョンは、単体での難燃性には優れるものの、後述する添加剤との組み合わせによる組成物としての難燃性が十分ではない。また、塩化ビニリデンを用いたものも、同様に後述する添加剤との組み合わせによる組成物としての難燃性が十分ではなく、さらに少量ながらホルムアルデヒドを含有するため、この点からも好ましくない。
【0009】
亜鉛化合物(b)および金属水酸化物(c)は、本発明の難燃性樹脂組成物に難燃性を付与する目的で用いられる。
亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。亜鉛化合物の添加量は、前記塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)の固形分100重量部に対して、2〜50重量部とすることが好ましく、3〜30重量部配合する事がより好ましい。2重量部未満では樹脂組成物の遅燃効果が十分でなかったり、難燃性能がバラツキやすい。50重量部を超えると繊維材に加工する際の泡立ち性が低下するおそれがある。
【0010】
金属水酸化物(c)としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マンガン、水酸化鉄、水酸化銅などが挙げられる。中でも好ましいのは水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムである。なお、本発明においては、水酸化亜鉛は前記亜鉛化合物(b)とみなす。金属水酸化物の添加量は、前記塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)の固形分100重量部に対して、10〜500重量部とすることが好ましく20〜250重量部配合する事がより好ましい。10重量部未満では樹脂組成物の遅燃効果が十分でなかったり、難燃性能がバラツキやすい。500重量部を超えると繊維材に加工する際の泡立ち性が低下するおそれがある。
【0011】
本発明の難燃性樹脂組成物には前記必須配合成分の他、本発明の優れた効果を妨げない使用範囲において、さらに各種添加剤を配合できる。例えば、ホウ素系化合物、ジルコニウム系化合物などの難燃剤、ブロックイソシアネートの水溶液又は水分散液などの架橋剤が挙げられる。
また、無機充填剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、発泡剤、整泡剤、消泡剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤などが使用できる。
【0012】
以上のようにして得られた本発明の難燃性樹脂組成物の固形分、pH及び粘度は、いずれも特に限定されるものではないが、該組成物の沈降安定性等の観点より、一般に固形分は35〜70重量%、好ましくは40〜60重量%程度、pHは5〜10、好ましくは6〜10、粘度(BM型粘度計、20℃、12rpm)は1000〜15000mPa・s、好ましくは1000〜10000mPa・sである。
【0013】
本発明の難燃性樹脂組成物をカーペット生地などの繊維材のバッキング層として用いることにより、難燃性に優れたカーペットを得ることができる。カーペット生地としては、火災時有害ガスの発生のないもの、防縮加工剤などの処理剤としてホルムアルデヒドを生じることのない処理剤を使用したものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、羊毛などの天然繊維又はそれらの混紡が挙げられる。また、本発明の難燃性樹脂組成物をバッキング層としたニードルパンチカーペットに対して、さらに成形性、遮水性を向上させるためにポリエチレンなどの熱可塑性樹脂による溶融押し出しラミネートバッキングが施されている場合でも、有効な難燃性を発現する。
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物のバッキング層としての塗布量は、固形分で25〜300g/m、好ましくは30〜250g/mである。塗布量が25g/m未満では、風合いが柔らかくなったり難燃性が不十分となるおそれがあり、300g/mを超える場合は粉落ちが生じたり、経済的にも好ましくない。
また、このような加工を行なう際、比較的少ない塗布量で均一に塗布するため、樹脂を発泡させた状態で塗布するフロス加工が行なわれるが、本発明の難燃性樹脂組成物は泡立ち性が良好なため、フロス加工にも適する。
【0015】
以下、本発明について実施例、参考例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
塩化ビニル−アクリル樹脂エマルジョン(日信化学工業社製、固形分40%、商品名 ビニブラン900)を固形分で100重量部、酸化亜鉛(JIS K−1410 1種)10重量部、水酸化アルミニウム(日本軽金属社製、商品名 B−303)150重量部、分散剤としてトリポリ燐酸ソーダ(三井化学ファイン社製)1重量部、泡立て剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(テイカ社製、商品名 テイカパワーBN−2060)4重量部、増粘剤としてキタンサンガム(三晶社製、商品名 KELZAN)1.5重量部を混合し、さらに水を加えて固形分を40%に調整することにより、実施例1の難燃性樹脂組成物を得た。
【0017】
実施例2〜11、比較例1〜7、参考例1
実施例1で用いた材料の他、塩化ビニル−エチレン−酢酸ビニル樹脂エマルジョンであるスミカフレックスS−850HQ(住化ケムテックス社製、固形分50%、商品名)およびスミカフレックスS−830(住化ケムテックス社製、固形分50%、商品名)、塩化ビニル樹脂粉末(ヴイテック社製、商品名 モンサントP−440)、酢酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム(協和化学工業社製)、炭酸カルシウム(三共精粉社製、商品名 炭酸カルシウム1級)を用いて、表1、表2記載の配合にて同様に各難燃性樹脂組成物を得た。なお、各樹脂エマルジョンについては固形分を基準とした表記である。
【0018】
難燃性
ポリエステル製のニードルパンチカーペット(目付220g/m)に各難燃性樹脂組成物を発泡させて固形分として50g/m塗布し、160℃雰囲気下で10分間乾燥した。これを350mm×200mmに裁断し、20℃、65%RH雰囲気中で24時間放置したものを試料とした。
自動車内装分野向け難燃規格であるFMVSS−302に従い、作成した試料について水平法により燃焼試験を行なった。試験は4点行い、平均燃焼速度および標準偏差(σ)を評価した。
【0019】
貯蔵安定性試験
各難燃性樹脂水性組成物をガラス瓶に入れて40℃雰囲気下で1ヶ月間保存した後粘度を測定し、保存前の初期粘度と比較して以下のように評価した。
○: 初期粘度から50%未満の増粘
△: 初期粘度から50%以上、100%未満の範囲で増粘
×: 初期粘度から100%以上の増粘
【0020】
フロス加工性試験
各難燃性樹脂水性組成物150gを1Lポリビーカーに量り取り、ハンドミキサー(松下電工社製、形式 MK−H3)の目盛りを3にセットして組成物を120秒間攪拌し、さらに目盛りを1に切り替えて5秒間攪拌した。すぐに、予め重量を測定しておいた最大容量145mlのPPカップにすりきりながら移し、145mlあたりの組成物の重量を測定することによって発泡比重を測定し、以下のように評価した。
○: 発泡比重が0.35未満
△: 発泡比重が0.35以上、0.70未満
×: 発泡比重が0.70以上
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1、2から明らかなように、実施例の各難燃性樹脂組成物は貯蔵安定性やフロス加工性に優れている。一方、比較例の各難燃性樹脂水性組成物はフロス加工性が劣ったり、難燃性が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも塩化ビニルと、エチレン、酢酸ビニル、アクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合することによって得られる塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)、亜鉛化合物(b)、金属水酸化物(c)を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物(c)が、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂エマルジョン(a)の固形分100重量部に対して、亜鉛化合物(b)を2〜50重量部、金属水酸化物(c)を10〜500重量部含有することを特徴とする請求項1または2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
繊維材のバッキング用途に使用されることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維材が自動車内装用であることを特徴とする請求項4記載の難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−241171(P2012−241171A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115530(P2011−115530)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【出願人】(592230542)ガンツ化成株式会社 (38)
【Fターム(参考)】