説明

難燃性樹脂組成物

【課題】難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるリン含有化合物を、リン元素量が1.40〜4.00重量%となるように含有し、240℃以上の融点を有する難燃性樹脂組成物。


(上記式中、nは4以上の整数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、特に熱可塑性の難燃性ポリエステル系樹脂組成物に関するものである。より詳しくは、本発明は、製造時および燃焼時における環境負荷を軽減でき、ポリエステル系樹脂が本来持っている耐熱性などの諸物性の低下を抑え、ポリエステルフィルムを安定生産することができる難燃性ポリエステル系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に様々な機能を付与するため、難燃剤や顔料などの添加剤を熱可塑性樹脂と共に溶融混錬後、フレーク状またはビーズ状に造粒し、得られた樹脂組成物を適当な熱可塑性樹脂で希釈して使用するのが、一般的である。該樹脂組成物は、ハンドリングのしやすさや作業性、安全性の面から、成形現場で広く利用されており、さらに近年では、低コスト化などの観点から、より添加剤を高濃度化した樹脂組成物が市場から求められている。
【0003】
しかし、熱可塑性樹脂の融点よりも低融点である有機系添加剤(以下、低融点有機系添加剤という)は、加温による溶融混錬した際、熱可塑性樹脂との間で粘度の差が大きく、均一混練するのが難しかった。さらに低融点有機系添加剤を高濃度化すると、粘度が極端に低下し、ストランド化が難しく、またその表面に添加した低融点有機系添加剤がブリードアウトするという問題が発生する。
【0004】
特許文献1では、低融点有機系添加剤として、帯電防止剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤など種々の有機系添加剤を添加した樹脂組成物を得る技術が紹介されている。しかし、低融点かつ樹脂との相溶性に乏しい、難燃成分を添加したケースは紹介されていない。
【0005】
近年、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)をはじめとする熱可塑性ポリエステル系樹脂は、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、ガスバリヤー性、耐薬品性等を有するため、磁気記録材料などといった電気・電子分野、表示材料などといった機械構成部品分野、窓貼り材料などといった自動車分野などの用途の樹脂組成物に広く使用されているが、これらの用途において、発熱由来の火災予防の観点から難燃性および耐熱を要する構造材としての有用な機械物性、耐熱性の要求が強まっている。 例えば、近年のパーソナルコンピューターや携帯電話の小型化ならびに高効率化に伴う発熱増大に伴い、それらの装置のバッテリーに用いられるラベル用ポリエステルフィルムもそれに該当する。一般的に、難燃性の指標として、米国アンダーライターズラボラトリーズ(UNDERWRITERS LABORATORIES)社の規格UL94の認定が使用される場合が多い。
【0006】
樹脂組成物に難燃性を付与することのできる難燃剤としては、有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物等のハロゲン系難燃剤が、難燃効果が高いことで知られている。しかし、ハロゲン系難燃剤を添加した樹脂は、加工時や燃焼時に有毒ガスが発生し、またその廃棄物が環境に悪影響を与えることが問題視されている。特に、臭素含有の難燃性化合物においては、成形・加工時に臭化水素ガスが発生することや、燃焼時にダイオキシン類似ガスが発生することが指摘されている。そのため、近年非ハロゲン系難燃剤を用いることが強く要望されている。
【0007】
代表的な非ハロゲン系難燃剤として、また、その他難燃性化合物として、水酸化マグネシウムやホウ素化合物に代表される無機系難燃剤、メラミン化合物に代表される窒素系難燃剤、赤リンに代表される無機リン系難燃剤、リン酸エステルやホスホン酸化合物およびホスフィン酸化合物などの有機リン系難燃剤が知られている。これらのうち、無機化合物、無機リン化合物等の難燃剤は、ハロゲン系難燃剤のような毒性はないものの、樹脂との相溶性に乏しく、分散不良が起こり、その樹脂の透明性の低下や、十分な難燃効果を発現させるために多量に添加するとその樹脂の機械的物性を著しく損なうことがある。この観点から、有機リン系難燃剤が注目されている。
【0008】
有機リン系難燃剤の中にも、ジカルボン酸とジオールの重合時に難燃成分を含有させることで、ポリエステル成分に難燃成分が共重合させた、難燃性共重合ポリエステル樹脂がある。難燃性共重合ポリエステル樹脂は融点が低下するため、フィルム化した際の機械的物性および耐熱性、混錬機のフィーダー根元付近における凝着性が悪化するといった欠点がある。また、より高い難燃性の発現のため、フィルム中のリン化合物の共重合量を増やせばそれだけ機械的物性および耐熱性、混錬機のフィーダー根元付近における凝着性は悪くなり、拮抗した両者の両立は難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−102633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、製造時および燃焼時における環境負荷を軽減することができ、ポリエステル系樹脂が本来持っている耐熱性などの諸物性の低下を抑え、ポリエステルフィルムを安定生産することができる難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を採用することによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、下記式(1)で表されるリン含有化合物を、リン元素量が1.40〜4.00重量%となるようにポリエステル中に含有し、240℃以上の融点を有することを特徴とする難燃性樹脂組成物に存する。
【0013】
【化1】

【0014】
(上記式中、nは4以上の整数である)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造時および燃焼時に環境に悪影響を及ぼす恐れのあるハロゲン系難燃剤を用いずに、ポリエステル系樹脂が本来持っている耐熱性や凝着性の低下を抑え、ポリエステルフィルムを安定生産することができる難燃性ポリエステル系樹脂組成物を提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂組成物に用いるポリエステル系樹脂としては、特に限定されるものではなく、芳香族ジカルボン酸またはそのエステルとグリコールとを主たる出発原料として得られるポリエステルを主とするものであり、繰り返し構造単位の60%以上がエチレンテレフタレート単位またはエチレン−2,6−ナフタレート単位を有するポリエステルを指す。そして、上記の範囲を逸脱しない条件であれば、他の第三成分を含有していてもよい。例えば、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂と相溶性のある樹脂の混合が挙げられる。
【0017】
芳香族ジカルボン酸成分の例としては、テレフタル酸およびテレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、例えばイソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシエトキシ安息香酸等)等を用いることができる。特に、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルを用いることが好ましい。
グリコール成分の例としては、エチレングリコール以外に、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の一種または二種以上を用いることができる。特に、エチレングリコールを用いることが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物中のリン含有量(P)[重量%]は後述するICPで求められる。リン元素量(P)は、1.40〜4.00重量%の範囲であり、1.80〜3.70重量%の範囲が好ましく、2.00〜3.50重量%がさらに好ましい。リン元素量(P)が1.40重量%未満では、十分な難燃性を示すのに多大な添加量を要し、より高コストとなるため、好ましくない。一方、リン元素量(P)が4.00重量%より多いと、含有される難燃剤自体はオリゴマーであるため、ペレット表面にべたつきが起こりやすく、凝着性が高くなり好ましくない。
【0019】
本発明の樹脂組成物の融点Tmは、後述するDSC測定より求めることができ、本発明においては240℃以上である。好ましくは245℃以上、さらに好ましくは248℃以上である。融点Tmが240℃未満であると、樹脂組成物よりなるポリエステルフィルムが高熱環境化にさらされた際の物性が低下する。Tmの上限は特にないが、265℃が現実的な値である。
【0020】
本発明の難燃性樹脂組成物に用いるリン系難燃剤として、下記化学式(1)で示されるリン含有化合物を使用する。
【0021】
【化2】

【0022】
上記化学式(1)で表される有機リン化合物は、分子中にリン原子を含有し、繰り返し単位nの下限値は4であり、好ましくは8、さらに好ましくは12である。繰り返し単位nが4未満であると、フィルム製膜時の有機リン化合物の揮発およびポリエステル樹脂の結晶化の阻害により、機械的強度の低下に繋がる。さらには有機リン化合物のブリードアウトにより、べたつき成分がポリエステルペレット表面に生じ、凝着性の観点から好ましくない。一方、繰り返し単位nの上限値は特にないが、過度に分子量を高めることにより、当該化合物(1)の樹脂内での分散性が阻害されると考えられる。なお、当該化合物(1)の合成法(製造例)に関しては、後述する。
【0023】
本発明の樹脂組成物には、その特性に影響しない範囲で、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、着色剤、架橋剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、顔料等を添加剤として添加してもよい。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、前記ポリエステル系樹脂およびリン含有化合物各成分を高速ミキサーやタンブラー等でプレミキシングされた後、溶融混練、造粒する。溶融混練工程において、単軸混錬機や二軸混錬機、バンバリーミキサー、ニーダー、高速回転インテンシブミキサーなどをいずれの手法を用いてもよいが、ポリエステル系樹脂の加水分解を懸念し、ベント付き二軸混錬機が好ましい。また、造粒工程において、ホットカットやシートあるいはストランドのコールドカットが用いられ、該樹脂組成物はフレーク状またはビーズ状をしている。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明で用いた物性測定法を以下に示す。
【0026】
〔1〕リン元素量(P)
ICP:Varian Tech.社製ICP−AESを用いて、硝酸による酸分解法により、該樹脂組成物中のリン元素量(P)[重量%]を求めた。
【0027】
〔2〕融点Tm[℃]
樹脂組成物を、NETZSCH社製DSC 204Fを用いて、10℃/分の昇温速度で得られた結晶融解による吸熱ピ−ク温度を融点Tm[℃]とした。
【0028】
〔3〕凝着性の評価
ステンレス製のバット上に樹脂組成物のペレットを約30粒ほど置き、エスペック社製高温恒温槽(型式GPHH202)内で設定温度110℃下、保持時間10分保持する。熱処理後の組成物のステンレスバットへの凝着性、および熱処理後の組成物同士の凝着性を、下記5段階で判定評価した。評価値が2以下のポリエステルペレットは、フィルム製膜時にフィーダー下で凝着しやすいため、使用上好ましくない。
【0029】
・熱処理後の組成物のステンレスバットへの凝着性
5:ステンレス製のバットを軽く振って、組成物のバット上の移動を観察できる
4:ステンレス製のバットを強く振って、組成物のバット上の移動を観察できる
3:ステンレス製のバットを強く振っても、組成物のバット上の移動を観察できないが、バットと組成物の界面にスパチュラを1回軽く刺し込む所作をすると、組成物のバットからの分離を観察できる
2:バットと組成物の界面にスパチュラを1回軽く刺し込む所作をしても、組成物のバットからの分離を観察できないが、バットと組成物の界面にスパチュラを2回以上刺し込む所作をすると、組成物のバットからの分離を観察できる
1:バットと組成物の界面にスパチュラを2回以上刺し込む所作をしても、組成物のバットからの分離を観察できない
【0030】
・熱処理後の組成物同士の凝着性
5:ステンレス製のバットを軽く振って、組成物同士の分離を観察できる
4:ステンレス製のバットを強く振って、組成物同士の分離を観察できる
3:ステンレス製のバットを強く振っても、組成物同士の分離を観察できないが、組成物と組成物の目視で確認できる界面にスパチュラを一回刺し込む込む所作をすると、組成物同士の分離を観察できる
2:組成物と組成物の目視で確認できる界面にスパチュラを一回刺し込む込む所作をしても、組成物同士の分離を観察できないが、組成物と組成物の目視で確認できる界面にスパチュラを2回以上刺し込む込む所作をすると、組成物同士の分離を観察できる
1:組成物と組成物の目視で確認できる界面にスパチュラを2回以上刺し込む込む所作をしても、組成物同士の分離を観察できない
【0031】
〔4〕極限粘度[dl/g]
粉砕したポリエステル系樹脂0.5gを、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒中に溶解し、毛細管粘度計を用いて、1.0(g/dl)の濃度の溶液の流下時間、および、溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用いて、極限粘度を算出した。その際、Huggins定数を0.33と仮定した。
【0032】
以下の実施例および比較例で用いたリン含有化合物、ならびにポリエステル原料の製造方法は以下のとおりである。なお、例中の%は特にことわらない限り重量%を表すものとする。
≪難燃剤A1:リン含有化合物(化学式(1))≫
攪拌機、温度計、ガス吹き込み口、および蒸留口を備えた内容積3Lのガラス製フラスコに9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド(下記化学式(2))7.8molとエチレングリコール25.97molを加え、成分を溶解させるため、内容物の温度が100℃になるまでフラスコを加熱した。次いで、攪拌しながらイタコン酸7.96molを添加し、蒸留口から減圧器を介して、フラスコを30Torrの真空状態で加熱し、内容物を沸騰させた。この時点で、蒸留口の留出速度を調製することで、生成した水を除去した。さらに、内容物の沸騰状態を維持したまま、フラスコ内の温度を上昇させ、それに対応させて、減圧度も低下させていった。その内訳として、内容物の温度が185℃になるまでに4時間を要し、この時点での減圧度は430Torrであった。さらに、加熱を続け、最終的に内容物の温度が200℃になるまで加熱していった。この点を確認後、反応機に窒素ガスを吹き込んでフラスコを常圧に戻した。反応混合物は下記化学式(3)のエチレングリコール溶液である。また、減圧下、エチレングリコールを除去することにより、固形状の下記化学式(3)の化合物を精製できる。
【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
続いて、このフラスコ内に、三酸化アンチモン(Sb)0.33gおよび酢酸亜鉛二水和物[(AcO)Zn・2HO]0.29gを含んだエチレングリコール130gを添加し、フラスコ内を200℃に保持し、減圧度を徐々に高めていき、1Torr以下の真空状態とした。さらに、内容物の温度を220℃まで上昇させ、エチレングリコールの留出が極端に減少した点を反応終点とした。この点を確認後、内容物を窒素ガスで加圧しながら、SUS製容器内で固化させることで、端黄色の透明なガラス状固体である、化学式(1)で表される難燃剤A1を得た。
【0036】
上記操作を繰り返すことにより、後述する実施例および比較例で添加する、化学式(1)で表される難燃剤A1の必要量を確保した。
【0037】
化学式(1)で表される難燃剤A1に関して、生成物のGPC分析から重量平均分子量(Mw)は6,800であった。なお、当該分析において、下記化学式(4)で示される化合物の酸無水物または化合物(4)とエチレングリコールとの環状エステルであると推定される、低分子量領域におけるピークも観測された。従って、化学式(1)で表される難燃剤A1のnの平均値は18.1に相当していたと言える。また、ICP測定により、リン含有量(P)[重量%]は8.31重量%であることが分かった。
【0038】
【化5】

【0039】
≪難燃剤A2:リン含有化合物(化学式(3))≫
難燃剤A1製造途中に得られる、化学式(3)で表されるリン含有化合物、すなわち、化学式(1)のn=1の化合物を難燃剤A2とする。
【0040】
≪ポリエステルBの製造≫
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム4水塩を0.02部を反応器にとり、反応開始温度を150℃ とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.03部を添加した後、重縮合槽に移し、三酸化アンチモンを0.04部加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してポリエステル樹脂ペレット(プレポリマー)を製造した。前記ポリエステル樹脂ペレット(プレポリマー)を出発原料とし、真空下220℃にて固相重合を行って、ペレット状態のポリエステルBを得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.85であった。
【0041】
≪ポリエステルCの製造≫
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・4水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了した。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、重縮合槽に移し、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、4時間を経た時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してペレット状態のポリエステルCを製造した。得られたポリエステルの極限粘度は0.66であった。
【0042】
≪ポリエステルDの製造≫
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール54重量部と1,4−シクロヘキサンジメタノール25重量部とを出発物質とし、触媒としてテトラブチルチタネート0.0110重量ppm、リン酸81重量ppmを反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。1時間後、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.81に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断して、ペレット状態のポリエステルDを製造した。得られたポリエステルの極限粘度は0.81であった。
【0043】
≪ポリエステルEの製造≫
難燃剤A1の製造において、エステル交換終了後に、下記化学式(3)で示される難燃性化合物、10−[2,3−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)カルボニルプロピル]−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイドをポリマーに対し、リン元素量が3.00重量%にとなるよう添加すること以外はポリエステルBと同様の方法で、ペレット状態のリン化合物共重合型のポリエステルEを得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.67であった。ポリエステルEの概念図を化学式(5)に示す。
【0044】
【化6】

【0045】
≪ポリエステルFの製造≫
ポリエステルEの製造において、難燃性化合物添加量をポリマーに対するリン元素量を1.50重量%とする以外は、ポリエステルEと同様の方法でリン化合物共重合型のポリエステルFを得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.65であった。
【0046】
実施例1:
前記手法により製造した難燃剤A1 28重量%およびポリエステルB 72重量%を二軸混錬機により混練、押出して難燃性樹脂組成物のペレットを得た。評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例2〜5:
下記表1に示す原料配合比について、実施例1と同様の方法で難燃性樹脂組成物を得た。評価結果も表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例1〜6:
下記表2に示すように、組成物単体に対して評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
比較例7〜11:
表2に示す原料配合比について、実施例1と同様の方法で難燃性樹脂組成物を得た。評価結果も表2に示す。
【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば、フィルム用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるリン含有化合物を、リン元素量が1.40〜4.00重量%となるようにポリエステル中に含有し、240℃以上の融点を有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【化1】

(上記式中、nは4以上の整数である)

【公開番号】特開2012−251078(P2012−251078A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124972(P2011−124972)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】