説明

難燃性樹脂組成物

【課題】高度の難燃性を有し、かつ、成形性加工性、リフロー耐熱性および耐薬品性に優れた成形体を与える難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A)に対し、特定の窒素含有化合物(トリアリル・イソシアヌレートなど)、および特定のリン含有化合物(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10ホスファフェナントレン−10−オキシドなど)の反応生成物からなる難燃剤であって、トルエンに不溶であり、かつ、そのリン原子の含量が、5.0〜10.0重量%である難燃剤(B)、ガラス繊維(C)およびガラス繊維以外の無機化合物(D)を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高度の難燃性を有し、かつ、成形性加工性、リフロー耐熱性、耐薬品性、および剛性に優れた成形体を与える難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの合成樹脂材料がOA機器や家電製品のハウジングや部品、コネクター、自動車部品、建築材料、家庭用品、繊維製品等に用いられている。しかしながら、合成樹脂材料は、易燃性であるため、特に家電、電気およびOA関連部品では、火災に対する安全性を確保するために、難燃性が要求される例が多く、このため、種々の難燃剤の配合が検討されている。
【0003】
樹脂を難燃化する方法としては、臭素化ポリスチレンなどに代表されるハロゲン系難燃剤と、三酸化アンチモンなどに代表されるアンチモン系難燃助剤を併用添加する方法が従来公知であるが、燃焼時に有毒なガスを発生する疑いが持たれ、またハロゲン系難燃剤含有の樹脂組成物に対する規制が厳しくなりつつあり、非ハロゲン難燃剤の開発が活発化している。
【0004】
ハロゲン系難燃剤を用いずに樹脂組成物を難燃化する方法としては、金属水酸化物を用いる方法、リン化合物を用いる方法などがある。金属水酸化物を用いる方法では、多量に用いないと所望の難燃特性が得られ難く、また、多量に用いると、元来樹脂が持つ特性を低下させてしまうという問題があった。
【0005】
リン化合物を用いて樹脂を難燃化する方法としては、有機(縮合)リン酸エステル化合物を用いる方法、または赤燐を用いる方法が従来公知である。比較的低分子量の有機(縮合)リン酸エステルは揮発性、昇華性、耐熱性の点で不十分であり、また、樹脂組成物を高温下で長時間使用すると、難燃剤がブリードアウトする問題があった。赤燐は、樹脂組成物の乾燥中や成形中に有毒性のホスフィンガスを発生するという問題があった。
【0006】
さらに、300℃以上の加工温度を必要とする、高耐熱のナイロン樹脂においては、現状その加工温度に耐えうるリン系難燃剤はなく、唯一高耐熱と称されている、ジアルキルホスフィン酸の金属塩は、押出機や射出成形機のシリンダーやスクリューなどの金属部分を腐食させる問題があった。また、高耐熱ナイロン樹脂組成物は、コネクター用途等に利用される場合、リフロー耐熱性に優れる必要性があるが、未だ、十分なリフロー耐熱性を発現するに十分な非ハロゲン難燃剤は得られていない。
【0007】
特許文献1には、トリアリル・イソシアヌレートを重合させてプレポリマーを得るに際し、重合開始剤と共に、重合調節剤として6H−ジベンズ[c、e][1,2]オキサホスフォリン(式量:216.17)をトリアリル・イソシアヌレートに対し重量基準で1〜200%共存させることを特徴とする難燃性トリアリル・イソシアヌレートプレポリマーの製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には特定の構造を有するリン含有化合物および非晶性樹脂との組み合わせからなる組成物において、ブリードアウト性が改善されているが、高湿熱下におけるブリードアウト性、物性低下には更なる改善の余地があった。
【0009】
特許文献3には、特定の構造を有する窒素含有化合物とリン含有化合物の反応生成物からなる難燃剤とその組成物において、高度の難燃性を有し、かつ成型加工性、リフロー耐熱性および耐薬品性に優れることが開示されているが、さらな物性向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平02−182707号公報
【特許文献2】国際公開第07/040075号パンフレット
【特許文献3】国際公開第11/024806号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高度の難燃性を有し、かつ、成形加工性、リフロー耐熱性、耐薬品および剛性に優れた成形体を与える難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特許文献3の特定の構造を有する窒素含有化合物とリン含有化合物の反応生成物からなる難燃剤を用いながら、高度の難燃性を有し、かつ成型加工性、リフロー耐熱性および耐薬品性に優れる難燃剤につき鋭意検討を重ねた。また、同様に特許文献3の特定の構造を有する窒素含有化合物とリン含有化合物の反応生成物からなる難燃剤を用いながら、それ自体の難燃性のみならず、熱可塑性ポリマーに添加した際、難燃性を与えうる構造に設計し、その組成物からなる成形体のリフロー耐熱性および耐薬品性を低下させない熱可塑性樹脂につき鋭意検討を重ねた。
【0013】
その結果、融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂、特定構造の難燃剤、ガラス繊維およびガラス繊維以外の無機化合物からなる難燃性樹脂組成物が、高度の難燃性を有し、かつ成型加工性、リフロー耐熱性および耐薬品性に優れるだけでなく、驚くべき事に、難燃性を落とさずに剛性が向上する事を見出だした。
【0014】
即ち、本発明は、融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A)、下記構造式群(1)で表される窒素含有化合物、および下記構造式(2)で表されるリン含有化合物の反応生成物からなる難燃剤であって、トルエンに不溶であり、かつ、そのリン原子の含量が、5.0〜10.0重量%である難燃剤(B)、ガラス繊維(C)およびガラス繊維以外の無機化合物(D)からなる難燃性樹脂組成物に関する。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1、R2、R3の内、2種以上が不飽和結合含有基であり、それ以外は、水素原子、不飽和結合含有基以外の有機基である。)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R4、R5、R6は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、それぞれ同一でも、異なっていても良い。
【0019】
好ましい実施態様は、難燃剤(B)の重量平均分子量(Mw)が2,000〜10,000であることを特徴とする、前記記載の難燃性樹脂組成物に関する。
【0020】
より好ましい実施態様は、難燃剤(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1〜1.5であることを特徴とする前記記載の難燃性樹脂組成物に関する。
【0021】
より好ましい実施態様は、難燃剤(B)が下記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位群を有するポリマーからなることを特徴とする前記記載の熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
より好ましい実施態様は、難燃剤(B)成分中の架橋成分の割合が1重量%以上であることを特徴とする前記記載の難燃性樹脂組成物に関する。
【0026】
より好ましい実施態様は、難燃剤(B)が下記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位群を有し、かつ、下記構造式群(6)〜(7)でそれぞれ表される架橋構造を有するポリマーからなり、トルエンに不溶であり、クロロホルムに不溶である架橋成分の割合が1重量%以上であり、前記難燃剤のリン原子の含量が5.0〜10.0重量%であることを特徴とする前記記載の難燃性樹脂組成物に関する。
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
より好ましい実施態様は、融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A)がナイロン46、ナイロン4T、ナイロン6T、変性ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン10T、ナイロン11T、ナイロンXD6樹脂から選ばれる少なくとも一種である、前記記載の難燃性樹脂組成物に関する。
より好ましい実施態様は、前記記載の難燃性樹脂組成物であって、さらに(B)以外のリン系難燃剤(E)を含有することを特徴とする、難燃性樹脂組成物に関する。
より好ましい実施態様は、ガラス繊維以外の無機化合物(D)が難燃剤(B)架橋工程で添加されることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂用組成物は、高度の難燃性を有し、リフロー耐熱性に優れる。また、無機化合物による難燃性能を低下させずに機械物性が向上する。そのため、本発明の難燃性樹脂組成物は、耐熱環境下で使用される家電、電気・電子、OA部品等の成形材料として好適に使用でき、工業的に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例に係るリフロー耐熱性における温度プロファイルのである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A))
本発明に用いる融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A)としてはナイロン66、ナイロン46等の脂肪族ポリアミド樹脂、ナイロンXD6、ナイロン6T、変性ナイロン6Tやナイロン9T、ナイロン10T、ナイロン11T、ナイロン4T等の半芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0036】
脂肪族ポリアミド樹脂とは主鎖中に芳香環構造を有さない、実質的に直鎖状のポリアミドのことであり、融点240℃以上であること以外にそれらの種類や組み合わせは特に限定されないが、特に有用な脂肪族ポリアミド樹脂としては、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン66とナイロン6のコポリマー、ナイロン66とナイロン610のコポリマー、ナイロン66とナイロン612のコポリマーおよびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられ、好ましくは、ナイロン46樹脂である。
ナイロン46樹脂とは、テトラメチレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリテトラメチレンアジパミド、およびポリテトラメチレンアジパミド単位を主たる構成成分とする共重合ポリアミドなどを含む。さらに、他のポリアミドをポリアミド46の特性を損なわない範囲で混合成分として含んでもよい。共重合成分は特に制限がなく、公知のアミド形成成分を用いることができる。
共重合成分の代表例として、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノウンデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウリルラクタムなどのラクタム、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどのジアミンとアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロルテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸などのジカルボン酸などを挙げることができ、また混合成分として用いる他のポリアミドはこれらの成分からなるものが挙げられる。
【0037】
半芳香族ポリアミド樹脂とは、分子鎖中に芳香環を有しているポリアミド樹脂を指し、一般的にはジアミン、もしくはジカルボン酸などの原料の内、一方が芳香環を有し、他方が脂肪族であるものなどを指す。それらの種類や組み合わせは特に限定されないが、特に有用な半芳香族ポリアミド樹脂は、200℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としては、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリドデカミド/ポリヘキサメチレンテレフタラミドコポリマー(ナイロン12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド)コポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ナイロン4T)、およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
これらの中でも、本発明の難燃性組成物に係る効果である、300℃以上の加工温度に対する耐熱性、リフロー耐熱性の低下や機械的な強度低下の低減効果が必要とされており、また、これらの効果が十分に得られるので、ナイロン46、ナイロン4T、ナイロン9T、ナイロン10T、ナイロン11T、ナイロンXD6、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/66またはナイロン66/6I/6コポリマー、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0038】
(難燃剤(B))
本発明で使用される難燃剤(B)は、前記構造式群(1)で表される窒素含有化合物、および前記構造式(2)で表されるリン含有化合物の反応生成物からなる熱可塑性樹脂用の難燃剤である。
【0039】
このような本発明に用いる難燃剤は、その難燃性付与効果の観点から、そのリン原子の含量が5.0〜10.0重量%であることを要し、より好ましくは6.0〜9.5重量%、さらに好ましくは7.0〜9.0重量%である。
【0040】
例えば、窒素含有化合物である前記構造式群(1)としてトリアリル・イソシアヌレートを用い、リン含有化合物である前記構造式(2)として9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(DOPO)を用い、窒素含有化合物:リン含有化合物をモル比1:1で反応させた場合、理論的には、その生成物のリン原子含有量は6.7%、1:2の場合9.1%、1:2.5の場合9.8%となる。
【0041】
また、本発明に用いる難燃剤は、トルエンに不溶である。このことにより、前記耐薬品性がさらに向上したものとなる。また、テトラヒドロフラン(THF)に不溶であることが好ましい。このことにより、前記耐薬品性がよりさらに向上したものとなる。尚、本発明において、「トルエンに不溶」とは、後述する試験方法(<耐薬品性>)に従って行い、不溶部が初期添加量の80%以上となることを意味する。
【0042】
また、本発明に用いる難燃剤は、そのポリマー構造によっては、上述した本発明の効果を十分に奏するためには、その重量平均分子量(Mw)が2,000〜10,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜7,000である。
【0043】
さらに、本発明に用いる難燃剤は、上記重量平均分子量が特定の範囲にある場合、上述した本発明の効果につき更に高い効果を得る観点から、その重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1〜1.5であることが好ましく、より好ましくは1〜1.3である。
【0044】
本発明に用いる難燃剤は、難燃剤中の架橋成分、つまり、溶媒(クロロホルム)不溶成分の割合が1重量%以上あることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることがさらに好ましい。これにより、架橋成分の割合が特定範囲に満たない場合より、耐熱性が更に向上し、樹脂組成物のリフロー耐熱性が向上する。また、このような架橋成分を有する難燃剤は、それを有さない難燃剤に比べて、分子量がより大きく(巨大分子化している場合がある)、また、架橋させることで、見かけ上の耐加水分解性が向上しており、ブリードアウトしにくいものと考えられる。
【0045】
尚、本発明において「架橋成分」とは、反応生成物中における架橋構造を有する生成物であって、クロロホルムに不溶な成分をいう。また、架橋成分の割合は、後述の測定方法に従って求めるものとする。
【0046】
本発明に用いる難燃剤は、後述する製造方法により、種々の構造を有するポリマーからなるように構成し得る。当該ポリマーは、例えばトリアリル・イソシアヌレートあるいはその誘導体のアリル基がラジカル重合することで得られるものである。その具体例を以下に説明する。
【0047】
窒素含有化合物として後述する17−1のトリアリル・イソシアヌレート、17−2のトリアリル・シアヌレートを用い、かつ、前記リン含有化合物として9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(DOPO)を用いた場合には、当該トリアリル・イソシアヌレート、トリアリル・シアヌレート以外にモノマーとして、下記構造式群(8)に示されるモノマー相当物が生成しうると考えられる。
構造式群(8)
【0048】
【化11】

【0049】
また、DOPOのトリアリル・イソシアヌレート、トリアリル・シアヌレートへの付加の形式によっては、下記構造式群(9)の異性体が生成している場合も想定される。
構造式群(9)
【0050】
【化12】

【0051】
本発明に用いる難燃剤の第1の例としては、例えば、上記のモノマーおよび同相当物並びにそれらのモノマー異性体の1種以上が重合して生成され、上記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位(ユニットともいう。以下同じ。)群から選択される少なくとも1種を有するポリマーからなる難燃剤が挙げられる。ポリマー構造としては、例えば、上記ユニットがランダムに結合してポリマー(コポリマー、ランダムコポリマー)を形成している下記化学式(10)で示されるものである。
【0052】
化学式(10)
【0053】
【化13】

【0054】
また、上記化学式(10)では、全てhead−to−tailで記載しているが、下記構造式群(11)で示すように、アリル化合物の通常の重合反応と同じく、head−to−headが混在し得る。
【0055】
構造式群(11)
【0056】
【化14】

【0057】
尚、構造式群(11)中、Y1とY2は、化学式(10)中の対応する任意の残基である。
【0058】
また、上記のポリマー構造を有する難燃剤は、そのリン原子の含量が5.0〜10.0重量%であり、その重量平均分子量(Mw)が2,000〜10,000である。そのため、例えば化学式(10)で示されるポリマー構造の場合、化学式(10)中のp、q、rは、後述する移動連鎖反応を考慮しない場合、下記のようになる。即ち、各ユニットの分子量をそれぞれMp、Mq、Mrとすると、概ね次の式により定められる。
【0059】
2000≦p×Mp+q×Mq+r×Mr≦10000
(q+2r)×(リンの原子量)/(p×Mp+q×Mq+r×Mr)≧0.05
例えば、化学式(10)で示されるポリマーの場合は、概ね次の式により定められる。
【0060】
p+1.87q+2.73r≧8.02
p+1.87q+2.73r≦40.11
(q+2r)/(p+q+r)≧0.62
上記のポリマー(難燃剤)の分子量の観点からは、各ユニットのみからなる場合では、概ね、pは8〜41、qは4〜22、rは2〜15となり得る。但し、当該ユニットを任意に含むポリマーは各ユニットの何れかが含まれない場合があるため、その場合を考慮すると、pは0〜41、qは0〜22、rは0〜15となり得る。もっとも、リン原子の含量を考慮すれば、qとrの何れもが同時に0となることはない。
【0061】
また、リン原子の含量の観点からは、第1の繰返し単位のモル比をP(P=p/(p+q+r))、第2の繰返し単位のモル比をQ(Q=q/(p+q+r))、第3の繰返し単位のモル比をR(R=r/(p+q+r))とした場合に、Q+2Rが0.62以上、より好ましくは0.82以上、更に好ましくは1.12以上、より更に好ましくは1.46以上、最も好ましくは1.96以上になるようにp、q、rが定められる。
【0062】
また、上記構造式群(1)で表される窒素含有化合物と構造式(2)で表されるリン含有化合物とを後述するようにして反応させた場合、アリル基などの不飽和結合含有基がラジカル重合することが考えられ、その末端は通常のラジカル重合と同様になる場合があると考えられる。ラジカル重合の場合、一般に、開始末端は、重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)など)の残基、連鎖移動剤(DOPOなど)の残基、連鎖移動物(たとえば連鎖移動した溶剤分子など)の残基であり、停止末端は、不均化(ラジカル末端から水素が引き抜かれ、再び二重結合になる)、再結合(他のラジカルと結合して停止)、水素引き抜き(他のポリマー、連鎖移動剤(DOPOなど)、溶剤分子などから水素を引き抜き)であると考えられる。
【0063】
特に連鎖移動剤について説明すると、通常の連鎖移動剤としては、イオウ系のものがよく用いられているが、それはチオラジカルが比較的安定で、なおかつ再度モノマーと反応して重合反応させる活性を持っているためである。本発明では、構造式(2)で表わされるリン含有化合物のP−H結合が、水素が引き抜かれてラジカルになりやすく、連鎖移動性能を有すると考えられる。
【0064】
上記の移動連鎖反応を考慮すると、化学式(10)中のp、q、rは、下記のようになる。即ち、各ユニットの分子量をそれぞれMp、Mq、Mrとし、DOPO残基の分子量をMzすると、概ね次の式により定められる。下記式は、開始末端はDOPO残基、停止末端はH(DOPOから引き抜かれたと想定)とした場合の関係式である。
【0065】
2000≦p×Mp+q×Mq+r×Mr+Mz≦10000
(q+2r+1)×(リンの原子量)/(p×Mp+q×Mq+r×Mr+Mz)≧0.05
例えば、化学式(10)で示されるポリマーについて、両末端を考慮した場合は、概ね次の式により定められる。
【0066】
p+1.87q+2.73r≧7.16
p+1.87q+2.73r≦39.25
(q+2r)/(p+q+r)≧0.42
上記のポリマー(難燃剤)の分子量の観点からは、各ユニットのみからなる場合では、概ね、pは7〜40、qは4〜22、rは3〜15となりうる。但し、当該ポリマーは各ユニットの何れかが含まれない場合があるため、その場合を考慮すると、pは0〜40、qは0〜22、rは0〜15となり得る。もっとも、リン原子の含量を考慮すれば、qとrの何れもが同時に0となることはない。
【0067】
また、リン原子の含量の観点からは、前記と同様に、Q+2Rが0.42以上、より好ましくは0.61以上、更に好ましくは0.86以上、より更に好ましくは1.18以上、最も好ましくは1.62以上になるようにp、q、rが定められる。
【0068】
上記関係式において用いた化学式(10)は、18−1のトリアリル・イソシアヌレートとDOPOを用いた場合の例であるが、18−2のトリアリル・シアヌレートとDOPOを用いた場合や、18−1のトリアリル・イソシアヌレートと18−2のトリアリル・シアヌレートの両者を用いた場合もあてはまる。
【0069】
本発明では、p、q、rについて、上記の移動連鎖反応を考慮しない場合の関係式と考慮した場合の関係式のうちの何れかの関係が成り立つ場合が考えられる。
【0070】
本発明に係る難燃剤を構成するポリマーのより具体的な例としては、例えば、下記構造式(13)で示されるポリマーが想定される。上記構造式群(5)で示される第3の繰返し単位群のうちの1種よりなるポリマー(化学式(10)において、p=q=0、r=nである。)である。
構造式(12)
【0071】
【化15】

【0072】
上記構造式(12)のほか、下式構造式群(13)で示される異性体を含む場合も想定される。
構造式群(13)
【0073】
【化16】

【0074】
上記構造式(12)および構造式群(13)で示されるリン・窒素含有化合物は、前記構造式(2)で表されるリン含有化合物2個が結合した前記構造式群(1)で表される窒素含有化合物が直鎖状に高分子化したものである。
【0075】
本発明に用いる難燃剤は、例えば、このようなリン・窒素含有化合物として、前記窒素含有化合物に2個の前記リン含有化合物が付加したリン・窒素含有ユニットが、直鎖状に3〜14個重合した構造を有していると想定され、この場合このようなリン・窒素含有化合物は、リン原子の含有量が9.1重量%、窒素原子の含有量が6.2重量%で、高リン含有量かつ窒素を含有するため非常に高い難燃性を示すと共に、熱可塑性樹脂に添加された状態では、樹脂マトリクス中に島状に分散するので、優れた成形加工性を示すと共に、その成形体は、耐ブリードアウト性や耐薬品性に優れるものになると考えられる。
【0076】
第2の例としては、上記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位群を有するポリマーからなり、さらに上記構造式群(6)〜(7)で示される架橋構造を有する架橋成分を特定割合の含むものである。本例は、例えば、上記化学式(10)で示される複数のポリマー同士が、それらに含まれるアリル基の2重結合の部分で結合して架橋構造を有するものである。
【0077】
本例では、上記ポリマーからなる難燃剤のリン原子の含量が5.0〜10.0重量%である。そのため、ポリマーに含まれる構造式群(3)で表わされる第1の繰返し単位と構造式群(6)で表わされる架橋構造を有する成分との合計のモル比をP’、構造式群(4)で表わされる第2の繰返し単位と構造式群(7)で表わされる架橋構造を有する成分との合計のモル比をQ’、構造式群(5)で表わされる第3の繰返し単位のモル比をR’とすると、Q’+2R’が0.62以上、より好ましくは0.82以上、更に好ましくは1.12以上、より更に好ましくは1.46以上、最も好ましくは1.96以上である。尚、P’+Q’+R’=1である。
【0078】
また、他の架橋構造を有するものの例としては、上記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位群を有するポリマーからなり、さらに下記構造式群(15)で示される架橋構造を有する架橋成分を含むものが挙げられる。本例は、例えば上記化学式(10)で示される複数のポリマー同士が、架橋剤としてのトリアリル・イソシアヌレートまたはその他の架橋剤を介して結合したものである。
構造式群(14)
【0079】
【化17】

【0080】
(式(14)中Xは、トリアリル・イソシアヌレート残基または架橋剤残基である。)
前記架橋剤としては、通常のラジカル重合において用いられる一般的な二官能性モノマーを用いることができる。例えば、ジビニルベンゼンの様な非メタクリレート系の多官能性ビニルモノマー、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートのような多官能性メタクリレートモノマーなどが挙げられる。またこれらの架橋剤を1種以上用いても良い。
【0081】
本例の難燃剤は、後述する架橋する工程を含む本発明の製造方法により得られるが、例えば、反応させるトリアリル・イソシアヌレートとDOPOの仕込みモル比(T/H)を1/2以上にして反応を進行させるか、1/2以下の場合でも未反応のアリル基同士の反応や架橋剤を導入することで、架橋構造を有するリン・窒素含有化合物が得られる。この場合、非架橋の難燃剤に比べ架橋構造を有する難燃剤は、熱的に安定化し、難燃剤自体の耐熱性はもとより、熱可塑性樹脂に添加された状態においても熱的安定性を有するため、鉛フリーSMT対応のコネクタ用途に使用されるナイロン46やナイロン9T、ナイロン6Tなどの樹脂に添加した場合でも、そのリフロー耐熱性を低下させにくくなる。また、このような架橋成分を有する難燃剤は、それを有さない難燃剤に比べて、分子量がより大きく(巨大分子化している場合がある)、また、架橋させることで、見かけ上の耐加水分解性が向上しており、ブリードアウトしにくいものと考えられる。
【0082】
ここで、リフローとは、基板上に塗布したクリーム半田の上に電子部品を装着した後、高温炉にて全体をはんだ融点以上に加熱し、はんだ付けする製造方法(工程)である。リフロー耐熱性とは、樹脂成形品の場合、リフロー工程中に成形品の溶融、変形、ブリスターの発生などがなく、その温度に耐えうる性質のことを言う。
【0083】
本発明に用いる難燃剤には、本発明の効果を十分に発現すれば、難燃剤中の主鎖構造が全て上記構造式(12)などとなる必要はなく、例えば、一部に窒素含有化合物1分子にリン含有化合物が3分子付加した下記構造式群(15)、(17)などを含んでも良い。
構造式群(15)
【0084】
【化18】

【0085】
構造式群(17)
【0086】
【化19】

【0087】
(窒素含有化合物)
前記窒素含有化合物は、上述の如く前記構造式群(1)で表される。前記構造式群(1)中の不飽和結合含有基としては、メタクリロイルオキシエチル基、ビニルフェニル基、ビニルベンジル基、ビニル基、アリル基などが挙げられる。また、これらの不飽和結合含有基を有する窒素含有化合物としては、トリス(メタクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリス(ビニルフェニル)イソシアヌレート、トリス(ビニルベンジル)イソシアヌレート、トリビニルイソシアヌレート、トリアリル・イソシアヌレート、トリアリル・シアヌレートなどが挙げられるが、反応物の高リン含有化の容易性、入手の容易性の観点から、好ましくは下記構造式群(19)で示される、19−1のトリアリル・イソシアヌレート、および19−2のトリアリル・シアヌレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくはトリアリル・イソシアヌレートである。
【0088】
構造式群(19)
【0089】
【化20】

【0090】
(リン含有化合物)
前記リン含有化合物は、上述の如く前記構造式(2)で表される。このような化合物の具体例としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(DOPO)、8−メチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、2,6,8−トリ−t−ブチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよび6,8−ジシクロヘキシル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等が挙げられるが、高リン含有量、入手の容易性の観点から、好ましくはDOPOである。
【0091】
本発明で使用される難燃剤の含有量としては、熱可塑性樹脂100重量部に対して、下限値としては、0.1重量部が好ましく、1重量部がより好ましく、3重量部がさらに好ましい。難燃助剤の下限値が0.1重量部未満では、十分な難燃性能が得られない可能性がある。難燃助剤の上限値としては、75重量部が好ましく、70重量部がより好ましく、65重量部がさらに好ましい。難燃剤の含有量の添加量が75重量部を超えると、本来マトリクスが有する特性を損なう恐れがある。
【0092】
(ガラス繊維(C))
本発明で使用されるガラス繊維としては、通常一般的に使用されている公知のガラス繊維を用いることができるが、作業性の観点から、集束剤にて処理されたチョップドストランドガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0093】
本発明で使用されるガラス繊維は、樹脂とガラス繊維との密着性を高めるため、ガラス繊維の表面をカップリング剤で処理したものが好ましく、バインダーを用いたものであってもよい。前記カップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物好ましく使用され、また、バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が好ましく使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
本発明における無機化合物の含有量は、樹脂100重量部に対して、下限値としては、5重量部が好ましく、10重量部がより好ましく、15重量部がさらに好ましい。無機化合物含有量の下限値が5重量部未満では、耐熱性や剛性の改善効果が十分でない場合がある。無機化合物含有量の上限値としては、120重量部が好ましく、100重量部がより好ましく、80重量部が更に好ましい。無機化合物含有量が120重量部を超えると、流動性が下がり、薄肉成形性が損なわれたり、成形品の表面性が低下したりする場合がある。
【0095】
(ガラス繊維以外の無機化合物(D))
本発明で使用されるガラス繊維以外の無機化合物(C)は、繊維状および/または粒状、酸性および/またはアルカリ性のガラス繊維以外の無機化合物であれば、特に限定されず、二種類以上を併用添加しても良い。
【0096】
本発明で使用されるガラス繊維以外の無機化合物(C)の具体例としては、例えば、金属繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー(カオリン)、炭酸カルシウム、硫酸バリュウム、窒化ホウ素、窒素化アルミニウム、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、無水ホウ酸亜鉛、無水ホウ酸、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛などが挙げられる。その中でも好ましくは、マイカ、タルク、クレー(カオリン)、炭酸カルシウム、硫酸バリュウム、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、無水ホウ酸亜鉛、無水ホウ酸、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛などが挙げられる。
【0097】
本発明におけるガラス繊維以外の無機化合物の含有量は、樹脂100重量部に対して、下限値としては、5重量部が好ましく、10重量部がより好ましく、15重量部がさらに好ましい。ガラス繊維以外の無機化合物含有量の下限値が5重量部未満では、耐熱性や剛性の改善効果が十分でない場合がある。ガラス繊維以外の無機化合物含有量の上限値としては、120重量部が好ましく、100重量部がより好ましく、80重量部が更に好ましい。ガラス繊維以外の無機化合物含有量が120重量部を超えると、流動性が下がり、薄肉成形性が損なわれたり、成形品の表面性が低下したりする場合がある。
【0098】
本発明で使用されるガラス繊維以外の無機化合物(D)は、難燃剤(B)の架橋工程中に添加されることが好ましい。難燃剤(B)の架橋工程中に添加する場合の含有量としては、難燃剤100重量部に対して、上限値としては、120重量部が好ましく、100重量部がより好ましく、80重量部が更に好ましい。ガラス繊維以外の無機化合物含有量が120重量部を超えると、架橋反応が進行しない恐れがあり、難燃剤の耐熱性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0099】
本発明の難燃性樹脂組成物において、難燃剤(B)、難燃剤(B)の架橋工程中にガラス繊維以外の無機化合物(D)を添加した難燃剤、ガラス繊維以外の無機化合物(D)の内2種類以上を併用しても良い。
【0100】
(B以外のリン系難燃剤(E))
本発明の樹脂組成物は、難燃剤(B)とともに、他種リン系難燃剤(E)を併用しても良い。本発明に係るリン系難燃剤(E)としては、赤燐系難燃剤や(ポリ)リン酸アンモニウム、(ポリ)リン酸メラミンなどのリン酸塩化合物、リン酸エステル類(モノマー型、縮合型)、およびホスファゼン化合物、ホスフィン酸金属塩類などが挙げられる。
赤燐系難燃剤としては、一般の赤燐の他に、その表面をあらかじめ水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンより選ばれる金属水酸化物の皮膜で表面を被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンより選ばれる金属水酸化物の皮膜の上に熱硬化性樹脂の皮膜で二重に被覆処理されたものなどが挙げられる。
【0101】
リン酸塩化合物としては、ピロリン酸ジメラミン、(ポリ)リン酸アンモニウム、(ポリ)リン酸メラミン、(ポリ)リン酸メレム、(ポリ)リン酸メラム、(ポリ)リン酸メロン及びこれらの混合ポリ塩などが挙げられる。
【0102】
リン酸エステル類としてはホスフェート(リン酸)類、ホスファイト類(亜リン酸)、ホスホネート(ホスホン酸)類、ホスフィネート(ホスフィン酸)類などが挙げられ、具体的には、トリフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ビフェニルビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−A(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)、ビフェニルビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)、ペンタエリスリトールジフェニルホスフェート、ペンタエリスリトールジ−2,6−キシリルホスフェート、2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2.2.2]オクタン−4−メタノール−1−オキシドなどが挙げられる。
【0103】
ホスファゼン化合物としては、フェノキシホスファゼン、トリルオキシホスファゼン、キシリルオキシホスファゼン、フェノキシトリルオキシホスファゼン、フェノキシキシリルホスファゼンなどの環状及び/又は鎖状のホスファゼン化合物、それらの架橋ホスファゼン化合物(例えば、ビスフェノール類残基で架橋されたフェノキシホスファゼンなどが挙げられる。
【0104】
ホスフィン酸金属塩としては、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸などのジアルキルホスフィン酸のMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、K等の金属1種以上からなる金属塩、および、エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)などのアルカンビスホスフィン酸の前記金属塩が挙げられ、 入手の容易性から、亜鉛塩、アルミニウム塩、チタン塩、ジルコニウム塩、鉄塩からなる群から選ばれるいずれか1種以上が好ましく、入手性の点でアルミニウム塩がより好ましい。
以上の中でも、その耐熱性、取り扱い性の観点から、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)、ビフェニルビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)などの縮合型リン酸エステル、およびジエチルホスフィン酸金属塩が好ましい。
【0105】
本発明に使用されるリン系難燃剤(E)の含有量としては前記記載の難燃剤(B)との合計含有量として、熱可塑性樹脂100重量部に対して、下限値としては、0.1重量部が好ましく、1重量部がより好ましく、3重量部がさらに好ましい。難燃助剤の下限値が0.1重量部未満では、十分な難燃性能が得られない可能性がある。難燃助剤の上限値としては、75重量部が好ましく、70重量部がより好ましく、65重量部がさらに好ましい。難燃剤の含有量の添加量が75重量部を超えると、本来マトリクスが有する特性を損なう恐れがある。
【0106】
(その他の添加剤)
有機繊維状強化剤(炭素繊維、アラミド繊維等)、滴下防止剤(ポリテトラフルオロエチレン等)、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系、チオエーテル系、銅化合物およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(有機結晶核剤、タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)を添加することができる。
【0107】
(製造方法)
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、熱可塑性ぽアミド樹脂と難燃剤、ガラス繊維およびガラス繊維以外の無機化合物とを、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法をあげることができる。混練機の例としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。熱可塑性樹脂と難燃剤、および難燃助剤は、上記の混練機に一括投入して溶融混練しても良いし、あるいは予め溶融状態にした熱可塑性樹脂に難燃剤、および/または、層状化合物を添加して溶融混練しても良い。
【実施例】
【0108】
次に、具体例をあげて本発明の組成物を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0109】
以下に、実施例および比較例において使用した樹脂および原料類を示す。
【0110】
[熱可塑性樹脂(A1)]
本発明に係る熱可塑性樹脂(A1)として、半芳香族ポリアミド樹脂である変性ナイロン6T樹脂(製品名:アモデル A−4002C ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製)を用いた。
【0111】
[難燃剤(B1)]
本発明に係る難燃剤として、後述する製造例2にて合成した難燃剤(B1)を用いた。
【0112】
[難燃剤(B2)]
本発明に係る難燃剤として、後述する製造例3にて合成した難燃剤(B2)を用いた。
[難燃剤(B3)]
本発明に係る難燃剤として、後述する製造例4にて合成した難燃剤(B3)を用いた。
【0113】
[ガラス繊維(C)]
本発明に係るガラス繊維(C)として、ガラス繊維(製品名:CS 3G−225S 日東紡社製)を用いた。
【0114】
[ガラス繊維以外の無機化合物(D1)]
本発明に係るガラス繊維以外の無機化合物(D1)として、マイカ(製品名:A―21S 山口雲母製)を用いた。
【0115】
[ガラス繊維以外の無機化合物(D2)]
本発明に係るガラス繊維以外の無機化合物(D2)として、炭酸カルシウム(製品名:スーパー#2000 丸尾カルシウム製)を用いた。
[ガラス繊維以外の無機化合物(D3)]
本発明に係るガラス繊維以外の無機化合物(D3)として、ハイドロタルサイト(製品名:DHT−4C 協和化学工業製)を用いた。
[ガラス繊維以外の無機化合物(D4)]
本発明に係るガラス繊維以外の無機化合物(D4)として、カオリン(製品名:ASP−200 林化成製)を用いた。
【0116】
[リン系難燃剤(E1)]
本発明に係るリン系難燃剤(E1)として、縮合リン酸エステル(製品名:PX−200、大八化学工業株式会社製)を用いた。
【0117】
本製造例での評価方法は、以下の通りである。
【0118】
<ガラス転移温度(Tg)>
得られた難燃剤のTgは、DSCを用いて求めた。DSC測定は、セイコーインスツル株式会社製のDSC−220Cを用い、昇温速度10℃/min、窒素気流下で行った。
【0119】
<リン含有量>
得られた難燃剤のリン含有量は、高周波プラズマ発光分光分析(ICP−AES)よりもとめた。ICP−AESは、前処理として、US EPA METHOD 3052に準拠し、マイルストーン社製のETHOSを用いてマイクロウエーブ分解を行い、島津製作所製のICPS−8100を用いて行った。
【0120】
<架橋成分割合>
得られた難燃剤を粉砕し、ソックスレー抽出器を用いて6時間、クロロホルム溶媒にて粉砕物より、可溶部分の抽出をおこなった。抽出残渣を100℃にて6時間乾燥後、重量を測定し、下記算出式より架橋成分割合を得た。
[架橋成分割合(%)]=[抽出残渣重量]×100/[初期仕込み難燃剤重量]
【0121】
<耐薬品性>
得られた難燃剤5mgをトルエン(50ml)またはトルエンおよびテトラヒドロフラン(THF)(50ml)へ分散させ、常温で3日間静置し、不溶部を濾過乾燥後、初期の重量との比較によって評価した。
○:不溶部が初期添加量の80%以上
×:不溶部が初期添加量の80%未満
本実施例での評価方法は、以下の通りである。
【0122】
<難燃性>
下記実施例にて得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、射出成形機(JS36SS型締め圧:35トン)を用い、シリンダー設定温度310℃〜320℃および金型温度140℃の条件にて射出成形を行い、127mm×12.7mm×厚み1/16インチの試験片を得た。UL94基準V試験に準拠し、得られた厚さ1/16インチのバー形状試験片を用いて燃焼性を評価した。
【0123】
<曲げ弾性率>
得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、射出成形機(型締め圧75トン)を用い、シリンダー設定温度310℃〜320℃および金型温度140℃の条件にて射出成形を行い、12.7×127×6.4mmのバー状試験片を作製した。得られた測定用試験片を用いASTM D−790に準拠し、23℃で曲げ弾性率を測定した。
【0124】
<リフロー耐熱性>
下記実施例にて得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、射出成形機(JS36SS型締め圧:35トン)を用い、シリンダー設定温度310℃〜320℃および金型温度140℃の条件にて射出成形を行い、127mm×6.3mm×厚み1/32インチの試験片を得た。試験片を125℃×24h乾燥後、IPC/JEDEC J−STD−020D.1におけるレベル2(85℃×60%RH×168時間)の吸湿処理を行った後、厚み0.8mmのアルミナ基板上に試験片を載置するとともに、この基板上に温度センサーを設置して、プロファイルを測定した。エアー/IRリフロー装置((株)大和製作所製NRY−535MB−7Z)を用いて、上記JEDEC規格に準拠した図1に示される温度プロファイルのリフロー試験を行い、下記評価を実施した。
○:吸湿試験片および絶乾試験片の両試験片において溶融、変形、ブリスターの発生がない。
△:吸湿試験片のみに、溶融、変形、ブリスターの何れかが発生した。
×:吸湿試験片および絶乾試験片両試験片において溶融、変形、ブリスターの何れかが発生した。
【0125】
(製造例1)
<重合工程>
還流管、窒素導入管、および攪拌機を有する縦型重合器に、リン含有化合物(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10ホスファフェナントレン−10−オキシド、製品名:HCA、三光株式会社製)、および窒素含有化合物(トリアリル・イソシアヌレート、製品名:TAICROS、エボニックデグサ社製)を配合モル比1:2にて投入し、さらに、ラジカル開始剤(2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、製品名:ノフマーBC、日油株式会社製)をリン含有化合物と窒素含有化合物の合計を100重量部とした際に0.1重量部投入した。窒素ガス気流下、50℃〜200℃まで徐々に昇温し、約12時間攪拌した。
【0126】
<架橋工程>
得られた難燃剤100重量部、およびラジカル開始剤(1,3−ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、製品名:パーブチルP、日油株式会社製)0.2重量部をドライブレンドすることで混合物を得た。前記混合物を、ベント式15mmφ同方向2軸押出機(株式会社テクノベル製、KZW15TWIN−45MG)を用いて、そのホッパー孔から供給し、シリンダー設定温度190〜220℃にて溶融混練した。得られた難燃剤(B1)は常温で無色ガラス状の固体(Tg:138℃)であり、トルエンおよびTHFに不溶であった。また、リン含有量は8.9%であり、架橋成分割合は68%であった。
【0127】
(製造例2)
製造例1の架橋工程にて、重合工程で得られた難燃剤95重量部、ガラス繊維以外の無機化合物(D1)5重量部、およびラジカル開始剤(1,3−ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、製品名:パーブチルP、日油株式会社製)0.2重量部を用いたこと以外は同様に溶融混練した。得られた難燃剤(B2)は常温で白色ガラス状の固体(Tg:139℃)であり、トルエンおよびTHFに不溶であった。また、リン含有量は8.7%であり、架橋成分割合は60%であった。
【0128】
(製造例3)
製造例2のガラス繊維以外の無機化合物(D1)をガラス繊維以外の無機化合物(D2)に変えた以外は、同様に溶融混練した。得られた難燃剤(B3)は常温で白色ガラス状の固体(Tg:138℃)であり、トルエンおよびTHFに不溶であった。また、リン含有量は8.6%であり、架橋成分割合は64%であった。
【0129】
(実施例1〜6)
表1に示す原料、及び配合組成(単位:重量部)で各原料をドライブレンドすることで各混合物を得た。前記混合物を、ベント式44mmφ同方向2軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)を用いて、そのホッパー孔から供給し、シリンダー設定温度290〜340℃にて溶融混練することでペレット化した。得られたペレットを前記条件にて射出成形して試験片を得て、前記記載の評価方法にて評価した。
【0130】
実施例1〜7における評価結果を、表1、表2に示す。
【0131】
(比較例1)
表1に示した配合組成(単位:重量部)に従い、実施例1〜6と同様に、ペレット化および射出成形を行い、試験片を得、同様の評価方法にて実験を行った。
比較例1における評価結果を、表1、表2に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A)、下記構造式群(1)で表される窒素含有化合物と下記構造式(2)で表されるリン含有化合物の反応生成物からなる難燃剤であって、トルエンに不溶であり、かつ、そのリン原子の含量が、5.0〜10.0重量%である難燃剤(B)、ガラス繊維(C)およびガラス繊維以外の無機化合物(D)からなる難燃性樹脂組成物。
【化21】

(式中、R1、R2、R3の内、2種以上が不飽和結合含有基であり、それ以外は、水素原子、不飽和結合含有基以外の有機基である。)
【化22】

(式中、R4、R5、R6は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、それぞれ同一でも、異なっていても良い。
【請求項2】
難燃剤(B)の重量平均分子量(Mw)が2,000〜10,000であることを特徴とする、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
難燃剤(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1〜1.5であることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
難燃剤(B)が下記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位群を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化23】

【化24】

【化25】

【請求項5】
難燃剤(B)成分中の架橋成分の割合が1重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
難燃剤(B)が下記構造式群(3)〜(5)でそれぞれ表される第1〜第3の繰返し単位群を有し、かつ、下記構造式群(6)〜(7)でそれぞれ表される架橋構造を有するポリマーからなり、トルエンに不溶であり、クロロホルムに不溶である架橋成分の割合が1重量%以上であり、前記難燃剤のリン原子の含量が5.0〜10.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【化30】

【請求項7】
融点240℃以上の熱可塑性ポリアミド樹脂(A)がナイロン46、ナイロン4T、ナイロン6T、変性ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン10T、ナイロン11T、ナイロンXD6樹脂から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の難燃性樹脂組成物であって、さらに(B)以外のリン系難燃剤(E)を含有することを特徴とする、難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の難燃性樹脂組成物であって、ガラス繊維以外の無機化合物(D)が難燃剤(B)架橋工程で添加されることを特徴とする、難燃性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82824(P2013−82824A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224228(P2011−224228)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】