説明

難燃性混紡糸

【課題】 限界酸素指数(LOI)の低下を抑えつつ紡績糸の強力を高めることができ、しかも、有毒ガス発生、環境汚染などの問題も生じない難燃性紡績糸を提供する。
【解決手段】 繊度1〜15dtexのアクリル繊維にヒドラジンを用いて架橋構造を導入して窒素含有率の増加を0.1〜10質量%とし、次いで前記架橋構造導入アクリル繊維を炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属含有化合物を用いて加水分解して得られる改質アクリル繊維と、セルロース繊維にカルボキシル基を導入し、アルカリ金属塩としてなる改質セルロース繊維とが混紡されてなる難燃性混紡糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れた、アクリル繊維とセルロース繊維との混紡糸に関する。
【背景技術】
【0002】
綿、麻、羊毛及び絹等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、並びに、アクリル繊維及びナイロン繊維等の合成繊維など有機繊維は、限界酸素指数(LOI)が低く燃えやすいため、その使用に際しては難燃化処理を施す必要がある。
【0003】
上記有機繊維を難燃化するには、例えば、有機系、ハロゲン系、燐系などの難燃剤を後加工により繊維や繊維製品に付着又は結合して難燃効果を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの難燃剤の使用は有毒ガス発生、環境汚染など問題がある。
【特許文献1】特開2000−17574号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0003]〜[0009])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討をしているうちに、有機繊維のうちアクリル繊維をヒドラジンで架橋した後、同繊維に残存するニトリル基を炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属含有化合物を用いて加水分解することにより、有毒ガス発生、環境汚染などの問題を生ずることなく、難燃性に優れた改質アクリル繊維が得られることを見出した。この難燃性については、改質処理後のアクリル繊維のNa+量、K+量等のアルカリ金属含有量が多い程、LOIが高くなることを見出した。
【0005】
しかし、この改質アクリル繊維の紡績糸は強力が弱いものであった。そこで、改質アクリル繊維と、綿等のセルロース繊維とを混紡して紡績糸の補強を試みたが、LOIが低くなる問題を生じた。
【0006】
この問題を解決するために更に検討を重ねているうちに、綿等のセルロース繊維にカルボキシル基を導入し、このカルボキシル基とアルカリ金属とが塩を形成して得られる改質セルロース繊維を補強繊維として、上記改質アクリル繊維と混紡することにより、LOIの低下を抑えつつ紡績糸の強力を高めることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した難燃性混紡糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0009】
〔1〕 繊度0.5〜15dtexのアクリル繊維にヒドラジンを用いて架橋構造を導入して窒素含有率の増加を0.1〜10質量%とし、次いで前記架橋構造導入アクリル繊維を加水分解して得られる改質アクリル繊維と、セルロース繊維にカルボキシル基を導入し、アルカリ金属塩としてなる改質セルロース繊維とが混紡されてなる難燃性混紡糸。
【0010】
〔2〕 改質セルロース繊維が、アルカリ金属を0.1質量%以上含む〔1〕に記載の難燃性混紡糸。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃性混紡糸は、綿等のセルロース繊維にカルボキシル基を導入し、アルカリ金属塩として得られる改質セルロース繊維を補強繊維として、アクリル繊維をヒドラジンで架橋した後、同繊維に残存するニトリル基を炭酸ナトリウム等のアルカリ金属含有化合物を用いて加水分解して得られる改質アクリル繊維と混紡してなるので、LOIの低下を抑えつつ紡績糸の強力を高めることができる。しかも、有毒ガス発生、環境汚染などの問題も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の難燃性混紡糸は、改質アクリル繊維と、改質セルロース繊維とが混紡されてなる。本発明の難燃性混紡糸のLOIは、改質アクリル繊維/改質セルロース繊維の混率によって変わる。例えば、改質アクリル繊維/改質セルロース繊維の混率が質量比で30/70、50/50、70/30の場合、それぞれ好ましいLOIは、24以上、27.5以上、30.5以上である。
【0014】
本発明難燃性混紡糸の改質アクリル繊維/改質セルロース繊維混率は、混紡糸のLOIと強力との兼合いから10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20が更に好ましい。
【0015】
本発明の難燃性混紡糸の製造に用いる改質アクリル繊維は、そのLOIが26以上が好ましく、28以上が更に好ましい。改質アクリル繊維は、そのNa+量、K+量等のアルカリ金属含有量が多い程、強力は弱くなるが、LOIは高くなる。そのため、上記改質アクリル繊維は、そのアルカリ金属含有量が0.1質量%以上が好ましく、1〜20質量%が更に好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0016】
本発明の難燃性混紡糸の製造に用いる改質アクリル繊維は、繊度0.5〜1.7dtex(0.4〜1.5デニール)、好ましくは0.6〜1.2dtex(0.5〜1.0デニール)のアクリル繊維にヒドラジンを用いて架橋構造を導入して窒素含有率の増加を0.1〜10質量%とし、次いで前記架橋構造導入アクリル繊維を炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属含有化合物を用いて加水分解して得られる。
【0017】
この改質アクリル繊維は、例えば特開2001−146678号公報に開示されている方法(下述のアクリル繊維改質方法)に沿って製造することができる。
【0018】
〔アクリル繊維改質方法〕
改質アクリル繊維の製造原料は、アクリル繊維、又は酸性基を有するコモノマー単位を5質量%以下含むアクリル系共重合体からなるアクリル繊維である。
【0019】
酸性基を有するコモノマーは、アクリロニトリルと共重合できる酸性基を有する通常使用されているビニルモノマーである。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基を有するモノマー又はその塩類、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマー又はその塩類が挙げられる。原料のアクリル繊維が、酸性基を有するコモノマー単位を1〜5質量%含有する場合は、後述する架橋及び加水分解の反応が促進されるので、好ましいものである。
【0020】
前記酸性基含有コモノマー単位の含有量が5質量%を超えると、酸性基含コモノマー単位の特性として、湿式紡糸時の凝固性低下、及びこれに伴う接着糸を生ずる。更に、共重合体の耐熱性が極端に低下するので好ましくない。
【0021】
アクリル繊維が酸性基含有コモノマー以外のコモノマー単位を含む場合は、コモノマー単位の総計が20質量%未満となるよう調整し、アクリロニトリル単量体単位を少なくとも80質量%以上含ませる事が好ましい。アクリロニトリル単量体単位の含量が80質量%未満の場合は、共重合体のニトリル基が減少するため、後述する架橋及び加水分解反応速度が小さくなるので好ましくない。
【0022】
被処理原料のアクリル繊維の強力は、2.2〜13cN/dtex[2.5〜15.0gf/d(デニール)]のものが使用できる。改質アクリル繊維の強力0.9cN/dtex(1gf/d)以上を得ようとすれば、原料のアクリル繊維の強力は2.6〜7.0cN/dtex(3.0〜8.0gf/d)が好ましい。
【0023】
本例においては、上記原料アクリル繊維中の主としてニトリル基を、ヒドラジン化合物を用いて架橋処理すると同時に、又は架橋処理後、炭酸ナトリウムを用いて加水分解するものである。
【0024】
最初に、ヒドラジン化合物を用いて架橋処理をした後、炭酸ナトリウムを用いて加水分解する方法について説明する。
【0025】
架橋処理は、上記酸性基を有するコモノマー単位を5質量%以下含むアクリル繊維にヒドラジン化合物を反応させることにより、架橋処理中アクリル繊維の窒素含有量の増加を0.1〜10質量%となるように架橋構造を導入させるものである。
【0026】
反応条件は、特に制限はないが、例えば酸性基含有コモノマー単位を5質量%以下含むアクリル繊維を、ヒドラジン濃度0.5〜5質量%の水溶液(浴比1:10)を用いて、温度98℃下で、0.5〜2時間の架橋処理を行うことが好ましい。
【0027】
ヒドラジン化合物としては、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、水加ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等が使用でき、特に制限はない。
【0028】
ここでヒドラジン濃度とは、前記ヒドラジン化合物中のヒドラジン成分の濃度をいう。
【0029】
次いで、上記架橋構造を導入したアクリル繊維中の主としてニトリル基を、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属含有化合物を用いて加水分解する。
【0030】
加水分解反応は、架橋アクリル繊維中のカルボキシル基量を0.6〜4mmol/gにコントロールする事が望ましい。
【0031】
炭酸ナトリウムを用いる加水分解反応は、水溶液、又は水と混和可能な溶媒との混合溶液中で行うことが好ましい。炭酸ナトリウム濃度は5〜30質量%が好ましい。反応温度は80〜100℃が好ましい。反応時間は2〜5時間が好ましい。
【0032】
炭酸ナトリウムによる加水分解の反応速度は、コモノマーの種類には殆ど影響されない。なお、架橋度が増大すると、加水分解速度も促進される。即ち、架橋が充分に行われれば、結果として炭酸ナトリウムの使用量の減少及び処理時間の短縮ができる。
【0033】
従来、加水分解反応はアルカリ金属水酸化物を使用して行っている。しかし、アルカリ金属水酸化物を使用すると、反応が過酷になり、繊維の強力が低下する。そのため、炭酸ナトリウムを使用することが好ましい。これにより反応を緩慢にし、改質アクリル繊維の強力を0.9cN/dtex(1gf/d)以上にすることができる。
【0034】
前述した改質アクリル繊維の好ましいアルカリ金属含有量にするには、例えば加水分解の反応溶液が炭酸ナトリウム溶液の場合、溶液中の炭酸ナトリウム濃度を前述範囲で適宜調節することにより達成できる。惹いては改質アクリル繊維のLOIを前述範囲に調節することができる。
【0035】
また、改質アクリル繊維を適宜酸又はアルカリ水溶液で処理することにより、所望のアルカリ金属含有量とすることができる。
【0036】
以下、アクリル繊維の架橋処理と、加水分解とを同時に行う方法に付、説明する。
【0037】
この方法においては、ヒドラジンと、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属含有化合物の溶液とを用いて、アクリル繊維の架橋処理と加水分解とを同時に行うものである。処理条件は、ヒドラジン濃度0.5〜5質量%、炭酸ナトリウム濃度は5〜30質量%が好ましい。反応温度は80〜100℃が好ましい。反応時間は2〜5時間が好ましい。
【0038】
酸性コモノマー単位を5質量%以下含有するアクリル繊維は、酸性コモノマー単位を含まないアクリル繊維に比較して、架橋反応が促進される。例えば、ヒドラジン濃度2質量%(浴比1:10)、炭酸ナトリウム10質量%、98℃の処理において、1時間以内で改質アクリル繊維が得られる。従って、この場合は従来と同等な架橋度の架橋アクリル繊維を得るのに、ヒドラジンの使用量、及び処理時間を減少させることができる。
【0039】
炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属含有化合物による加水分解反応でカルボキシル基量が、0.6〜4mmol/gとなるようにコントロ−ルすることにより、アルカリ金属含有量、LOIが前述範囲で、繊度が1.1〜2.2dtex(1〜2デニール)の改質アクリル繊維を製造することができる。
【0040】
上記製造方法で製造した本発明の難燃性混紡糸製造用原綿として用いる改質アクリル繊維は、加工性に優れており、他素材とミックスした紡績糸を生産することも容易で、強度、風合いを改善するのに有効である。
【0041】
改質アクリル繊維と混紡する他の繊維は、改質セルロース繊維である。この改質セルロース繊維のLOIは22.5以上が好ましく、23.5以上が更に好ましい。Na+量、K+量等のアルカリ金属含有量は0.1質量%以上が好ましく、0.2〜10質量%が更に好ましく、0.5〜3質量%が特に好ましい。
【0042】
この改質セルロース繊維は、綿等のセルロース繊維にカルボキシル基を導入し、アルカリ金属塩として得るものである。その具体的製造方法としては、例えば(a)特開平6−184941号公報、(b)特開平7−258967号公報に開示されている方法を用いることができる。以下、セルロース繊維改質方法(a)、(b)について詳細に説明する。
【0043】
〔セルロース繊維改質方法(a)〕
改質方法(a)に係る改質セルロース繊維の製造用原料としては、木綿や麻等の各種のセルロース含有繊維を挙げることができる。
【0044】
この原料セルロース繊維にカルボキシル基を導入するために、酸化剤と還元剤とからなるレドックス系開始剤、例えば過酸化水素と二価鉄塩を含有する水溶液中で、セルロース繊維に対してアクリル酸又はメタクリル酸[以下、(メタ)アクリル酸と略記する]をグラフト共重合させる。二価鉄塩としては、水中において二価鉄イオンを放出し得るものであれば任意のものが用いられる。
【0045】
この二価鉄塩としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、硝酸第一鉄等を挙げることができる。この二価鉄塩に過酸化水素を組合わせることにより、レドックス系触媒が構成される。これにより、(メタ)アクリル酸のグラフト共重合反応が促進される。
【0046】
レドックス系触媒水溶液中の過酸化水素濃度は、0.01〜0.1mol/l、好ましくは0.02〜0.05mol/lである。また、鉄塩濃度は、0.7〜5.0mmol/l、好ましくは0.2〜2.5mmol/lである。
【0047】
この水溶液中には、必要に応じ、酸を添加することができる。この酸の添加により、(メタ)アクリル酸の反応率(グラフト化率)を向上させることができる。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、燐酸、蟻酸等が挙げられる。水溶液中の酸濃度は、2〜4mmol/l、好ましくは2.5〜3.5mmol/lである。
【0048】
この水溶液中には、従来公知の金属封鎖剤、例えば、燐酸系封鎖剤、ホスホン酸封鎖剤、EDTA、NTA等を添加することができる。セルロース繊維(乾燥質量)に対する水溶液の質量比(浴比)は、5〜50、好ましくは5〜20である。反応温度は、40〜100℃、好ましくは40〜80℃である。反応時間は、60〜240分、好ましくは90〜180分である。
【0049】
改質方法(a)に係る改質セルロース繊維の製造において用いる(メタ)アクリル酸の使用割合は、セルロース繊維100質量部(乾燥質量)に対して、10〜100質量部、好ましくは10〜60質量部である。
【0050】
(メタ)アクリル酸の使用割合が10質量部より少ないと、カルボキシル基の導入割合が少なすぎるために、改質効果が充分ではなくなる。一方、(メタ)アクリル酸の使用割合が多いほどセルロース繊維への導入割合は増加するが、100質量部より多くても効果の格別の向上は得られず、経済的に不利である。
【0051】
改質方法(a)に係る改質セルロース繊維において、(メタ)アクリル酸のグラフト化率[セルロース繊維に対する(メタ)アクリル酸の反応質量比]は、5〜30質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0052】
このグラフト化率が前記範囲を超えると、グラフト共重合反応に長時間を要し、経済的に不利である。一方、前記範囲より少ないと、充分な改質効果を得ることができない。グラフト化率は、繊維に対する(メタ)アクリル酸の使用割合及び反応条件で調節することができる。
【0053】
〔セルロース繊維改質方法(b)〕
改質方法(b)に係る改質セルロース繊維は、予めポリカルボン酸類により改質されたセルロース繊維を水溶性塩の存在下に加熱処理してなるものである。
【0054】
改質方法(b)に係るセルロース繊維としては、木綿、麻、レーヨン及びこれらの繊維を含む混紡繊維等が挙げられる。
【0055】
ポリカルボン酸類により改質されたセルロース繊維(以下「カルボキシル基導入セルロース繊維」という。)とは、セルロース繊維上にポリカルボン酸類が架橋してなるセルロース繊維をいう。
【0056】
カルボキシル基導入セルロース繊維は、例えば、米国特許第3,526,048号明細書、特表平3−503072号公報、特開平5−247843号公報、特開平5−247850号公報に記載された方法により処理して得られる繊維材料である。
【0057】
具体的には、セルロース繊維に対し、ポリカルボン酸類並びに必要に応じてアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び低級アミン塩よりなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の塩を含有する処理液を含浸させ、これを加熱することにより調製される。
【0058】
ポリカルボン酸類としては、各種の直鎖状脂肪族ポリカルボン酸、分岐状脂肪族ポリカルボン酸、脂環族脂肪族ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸等が挙げられ、水酸基、ハロゲン基、カルボニル基、炭素−炭素二重結合を有していても差支えない。
【0059】
このようなポリカルボン酸類としては、具体的には、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の直鎖脂肪族ポリカルボン酸、これらポリカルボン酸の分岐脂肪酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和二塩基酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ナジック酸等の脂環族二塩基酸、トリカルバリル酸、アコニチン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸等の三塩基酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸とマレイン酸のエン付加物等の四塩基酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシ脂肪酸、o−、m−又はp−フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸等が例示される。
【0060】
これらのポリカルボン酸のうち、トリカルバリル酸、アコニチン酸、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸等の水溶性のカルボン酸は作業性が良好であることから好ましく、特に水溶性で四塩基酸のブタンテトラカルボン酸を使用したセルロース繊維が最も好ましい。
【0061】
上記アルカリ金属塩としては、例えばアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩等のモノカルボン酸塩、燐酸塩、硼酸塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニアの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩等のモノカルボン酸塩、燐酸塩、硼酸塩、4級アンモニウム塩ヒドロキシド等が挙げられる。低級アミン塩としては、2級アミン類、3級アミン類等の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩等のモノカルボン酸塩、燐酸塩、硼酸塩等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、硼酸ナトリウム、メタ硼酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、メタ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、亜燐酸ナトリウム、次亜燐酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が例示される。更に、上記のナトリウムに代えて、カリウム、アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の揮発性の低級アミンの塩も使用でき、これらの塩は単独で或は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0062】
加熱による架橋処理は、通常100〜250℃、好ましくは120〜200℃の条件下で10秒〜1時間で行われる。これより穏やかな条件で加熱架橋されたセルロース繊維では、ポリカルボン酸類の架橋が不足であるし、厳しすぎる条件で繊維の劣化を引き起こし、強度低下や繊維黄変を引き起こしたセルロース繊維の使用は好ましくない。
【0063】
当該セルロース繊維とエステル架橋しているポリカルボン酸類の量としては、その種類によって適宜選択し得るが、通常、セルロース繊維に対して0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。これより少ないと強度発現が不充分であるし、多く使用しても使用した量に対応する効果が得られず、経済的でない。
【0064】
改質方法(b)に係る改質セルロース繊維の製造においては、引き続く水溶性塩処理に先立ち、加熱によって架橋されたセルロース繊維を水や湯によって洗浄し、未反応のポリカルボン酸類やアルカリ金属塩等を取り除く。これにより、最終製品の黄変防止や風合いのよい製品を得ることができる。
【0065】
改質方法(b)に係る改質セルロース繊維の製造において、水溶性塩処理は、改質繊維原材料に水溶性塩の溶液を含浸させ、これを加熱することによりなされる。
【0066】
当該水溶性塩処理は、改質繊維原材料に水溶性塩処理液を含浸させる工程と加熱工程とを一連の処理として行ってもよいし、改質繊維原材料に水溶性塩処理液を含浸してなるセルロース繊維を予め調製し、これを別途加熱することにより行ってもよい。
【0067】
改質方法(b)に係る改質セルロース繊維の製造において用いられる水溶性塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、硼酸ナトリウム、メタ硼酸ナトリウム、水素化硼素ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、メタ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、亜燐酸ナトリウム、次亜燐酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。またこれら各化合物のナトリウムの代りに、カリウム、アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の揮発性の低級アミン等が置き換えられた塩も使用できる。改質方法(b)に係る改質セルロース繊維の製造においては、斯かる水溶性塩は単独で或は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0068】
上記水溶性塩の中で、特にその効果と安全性に優れている点で燐酸ナトリウムが推奨される。また、得られる製品の白度を問題とする場合は、過炭酸ナトリウム、水素化硼素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜燐酸ナトリウム、次亜燐酸ナトリウム等の酸化還元性能を有する塩を使用するのが望ましい。
【0069】
これら水溶性塩の含浸量としては、改質繊維原材料に対して通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%程度である。これより少ないと所定の添加効果が得られ難くなるし、この範囲より多くしても範囲内以上の効果が得られず、経済的でないばかりでなく、製品の風合いを損ねる傾向がある。
【0070】
処理液中の水溶性塩濃度は、処理液の絞り率と必要とする担持量より算出した濃度に設定すればよい。
【0071】
水溶性塩処理液には上記水溶性塩のほかに、例えば、ポリエチレンエマルジョン、ジメチルシリコーンエマルジョン、繊維用変性シリコーン等の公知の繊維柔軟剤を添加することにより、風合いの改善や持続性を付与することができる。斯かる柔軟剤は当該水溶性塩浴に添加してもよいし、加工材料であるポリカルボン酸類で架橋されたセルロース繊維の製造段階で添加されていてもよい。
【0072】
繊維用変性シリコーンとしては、分子中に少なくとも1つの脂肪族性水酸基、エポキシ基、アミノ基を含有したジメチルポリシロキサンを基本骨格とした化合物が挙げられ、一般にはアミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンと称され、販売されている化合物である。アミノ変性シリコーンは、種類、配合によっては処理布が着色することがあり、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。これらのシリコーンは原体或はエマルジョン溶液として入手でき、そのままで使用可能である。
【0073】
これらの繊維柔軟剤の使用量は、加工するセルロース繊維に対して、通常0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0074】
水溶性塩処理液を構成する溶媒としては、有機溶媒も使用できるが、安全、価格を考慮すれば水を溶媒にするのが好ましい。
【0075】
改質方法(b)に係る改質セルロース繊維の製造においては、以上のようにして調製された処理液に改質繊維原材料を浸漬して、水溶性塩を含浸させる。
【0076】
改質繊維原材料に対する水溶性塩処理液の含浸方法としては、浸漬法、パッド法、スプレー法、コーティング法等の公知の方法を例示できる。水溶性塩処理液の繊維に対する浸透速度は充分に速く、浸漬時間、浴温度に特に制限はない。通常、浸漬時間0.5〜300秒、浴温は10〜40℃で行われる。改質方法(b)に係る改質セルロース繊維の製造においては、水溶性塩処理液中に更に浸透剤を配合しておいてもよい。
【0077】
含浸の後、必要ならば絞りを行った後、乾燥を行う。絞りは加工する製品によって異なり、夫々に適当な絞り方法、絞り率が採用できる。通常、絞り率は30〜200%で行うのが好ましい。また乾燥温度は40〜150℃、時間は温度に応じて選定すればよい。
【0078】
その他、モノクロル酢酸とセルロースとを反応させた後、アルカリ金属塩とする方法、アクリルアミドをセルロースにグラフト重合させた後、アミド基を加水分解させた後アルカリ金属塩とする方法等が適宜採用できる。
【0079】
以上の方法で製造された改質アクリル繊維と、改質セルロース繊維とは、例えば特開平5−9827号公報に開示されている方法(下述の混紡)に沿って混紡することができる。
【0080】
〔混紡〕
2種以上多種類の原料繊維を混ぜ合わせて行う紡績(混紡)方法としては(1)混紡式、(2)梳毛式、(3)紡毛式、(4)麻紡式、(5)絹紡式等がある。本発明の改質アクリル繊維と改質セルロース繊維とを混紡する場合も、これらの方式から、混紡する繊維の素材や繊維長により適宜選択して製造することができる。
【0081】
製造は一般に以下の4工程からなる。
(1)開繊工程:輸送等のために圧縮された繊維をある程度ほぐし製条し易い状態とする。通常、混打綿機を用いる。
(2)製条工程:スライバ(棒紐状の無限に長い繊維集合体)を作る。フラットカード機を用いる。
(3)前紡工程:スライバを適当な繊維配列・太さに整える。数組のトップボトムローラの組合せた装置でスライバを延伸し繊維配列を整える。
(4)精紡工程:最終的に所要の太さにし巻取る。
【0082】
本発明では、必要により、混紡した繊維の巻き方を変えたり、より方を変えたり、或は、樹脂加工等の加工を加えることもできる。
【0083】
本発明の難燃性混紡糸は、難燃性を要求される諸分野の繊維製品には何れも用いることができる。例えば、毛布、シーツ、布団地、カーテン、カーペット、マット等の寝装・インテリア用品や外衣・内衣等の衣料用品及び不織布・充填用品等の資材用繊維品等が好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各実施例及び比較例におけるアクリル繊維、セルロース繊維及び紡績糸の諸物性についての評価方法は、以下の方法により実施した。
【0085】
Na+量:フレ−ム原子吸光[日立(株)製:商品名Z−2000]により測定した。
【0086】
LOI:窒素と酸素の組成比を自由に変更可能な直径100mmのガラス管内に、測定試験サンプルを配置し、燃焼が生じ始める酸素濃度をLOI(限界酸素指数)とした。
【0087】
単繊維強力:JIS L-1015に規定された方法により測定した。
【0088】
紡績糸強力:紡績糸をつかみ間隔100mmとし、引っ張り速度30mm/minで引っ張ったときの破断強力を紡績糸強力(MPa)とした。
【0089】
作製例1
アクリロニトリル90質量%、アクリル酸メチル9質量%、イタコン酸1質量%の共重合体よりなる、アクリル繊維で1.5dtex(1.3デニール)、結節伸度6.3%のものを原料アクリル繊維として用いた。この原料アクリル繊維のNa+量、LOIを測定した。その結果を表1に示す。
【0090】
作製例2
作製例1で得た原料アクリル繊維を水加ヒドラジン5質量%、炭酸ナトリウム3.0質量%の混合溶液中で100℃×120minの架橋導入・加水分解処理を行った。間接冷却後、熱水処理(100℃×30min)を行った。これを遠心脱水し100℃×20min乾燥して改質アクリル繊維を得た。この改質アクリル繊維のNa+量、LOIを測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
作製例3
架橋導入・加水分解処理における混合溶液中の炭酸ナトリウム濃度を5.0質量%とした以外は作製例2と同様に処理して改質アクリル繊維を得た。この改質アクリル繊維のNa+量、LOIを測定した。その結果を表1に示す。
【0092】
作製例4
架橋導入・加水分解処理における混合溶液中の炭酸ナトリウム濃度を7.0質量%とした以外は作製例2と同様に処理して改質アクリル繊維を得た。この改質アクリル繊維のNa+量、LOIを測定した。その結果を表1に示す。
【0093】
作製例5
架橋導入・加水分解処理における混合溶液中の炭酸ナトリウム濃度を10質量%とした以外は作製例2と同様に処理して改質アクリル繊維を得た。この改質アクリル繊維のNa+量、LOIを測定した。その結果を表1に示す。
【0094】
作製例6
作製例4で得た改質アクリル繊維について、塩酸による中和を行い、これを遠心脱水し100℃×20min乾燥して脱Na+のアクリル繊維を得た。この脱Na+アクリル繊維のNa+量、LOIを測定した。その結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示すように、アクリル繊維のLOIは、Na+量が多いほど高くなることが解る。また、作製例5の改質アクリル繊維は高難燃性(LOI≒40)があるが、分子中のNa+をH+に置換すると難燃効果が無くなることが解る。
【0097】
作製例7
原料セルロース繊維として、1.7dtex(1.5デニール)、伸度7%の木綿を用いた。この原料セルロース繊維のNa+量は<0.01質量%、LOI値は21.9、単繊維強力は3cN/detex[3.5gf/d(デニール)]であった。
【0098】
この原料セルロース繊維10gを、過酸化水素(H22):0.3質量%(0.03mol/l)、硫酸第一鉄アンモニウム(FeSO4(NH4)2SO46H2O、モール塩):0.03質量%(0.11mmol/l)、メタクリル酸(MAA):1.3質量%(0.15mol/l)、キレストNTB[キレスト化学(株)製金属封鎖剤]:0.03質量%(0.001mol/l)、硫酸(50°Be′):0.06質量%(0.003mol/l)を含む水溶液150mlに浸漬し、80℃で2時間処理した。湯洗、水洗して、モノマー及びホモポリマーを除去して乾燥した。
【0099】
得られた改質セルロース繊維のグラフト化率は10.87%、Na+量は1.73質量%、LOI値は24.1であった。また、単繊維強力は2.9cN/dtex[3.32gf/d(デニール)]と、原料セルロース繊維からの低下は見られなかった。
【0100】
実施例1〜3及び比較例1〜4
作製例3で得た改質アクリル繊維と、原料セルロース繊維若しくは改質セルロース繊維とからなる表2に示す混合割合の混綿を、精紡機にリング精紡機を用いて紡績を行い、綿番手30/1のリング糸(混紡糸)を得た。これら混紡糸のLOI値を測定した。その結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示すように、同じアクリル繊維/セルロース繊維の混率で比較してみると、アクリル繊維/セルロース繊維の混率が質量比で30/70、50/50、70/30の何れの場合も、改質セルロース繊維を使用したものが、原料セルロース繊維を使用したものよりもLOI値が高いことが解る。
【0103】
比較例4は、補強繊維に原料セルロース繊維も改質セルロース繊維も用いず、改質アクリル繊維のみで紡績した糸である。この紡績糸は、LOI値は高いが、紡績糸強力は実施例1〜3及び比較例1〜3と比較して低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度0.5〜15dtexのアクリル繊維にヒドラジンを用いて架橋構造を導入して窒素含有率の増加を0.1〜10質量%とし、次いで前記架橋構造導入アクリル繊維を加水分解して得られる改質アクリル繊維と、セルロース繊維にカルボキシル基を導入し、アルカリ金属塩としてなる改質セルロース繊維とが混紡されてなる難燃性混紡糸。
【請求項2】
改質セルロース繊維が、アルカリ金属を0.1質量%以上含む請求項1に記載の難燃性混紡糸。

【公開番号】特開2007−23458(P2007−23458A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211267(P2005−211267)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】